「というわけで、今回もめぼしい戦果はなかったよ。魔物の駆除だけで終わりってことさね」
ヤアヤが残念そうに告げると、石造りの円卓を囲んだ面々は一斉に黙り込む。
「だから言ったじゃないか、魔物なんか狩っても得はないって」
と真っ先にため息をついたのは鉈の戦士のナタリだ。
その億劫そうな物言いに、すかさずヤアヤが食って掛かる。
「だったらほっとけって言うのかい!? それで奴らが都にまできたらどうするつもりなのさ!」
「いやいやいや、俺はそんなこと言ってないって……」
「じゃあどういうつもりなんだい!」
「ナタリ、お前の言い方が悪い。だがヤアヤも少しは落ち着け」
口論に発展しそうな二人を冷静な声がさえぎる。剣の者のケトは、七人の戦士たちのまとめ役だ。
まとめ役なんて、本来は不必要なんだけど。そもそも以前は、戦士を集めたこんな会議だってなかった。
絶対的な指導者、戦士の始祖であるユバがいなくなる前は。
魔物の襲撃と洞窟の崩落に巻き込まれてユバが消えてから、もうずいぶん経つ。
歴戦の戦士を失ったということよりも、都におけるすべての判断を下す者がいなくなったという点こそが、ユバの一族にとっての最も大きな打撃だった。
今までは食料の配分はもちろん、どの戦士がどの祈り人と契って子を為し、誰が生贄になるかまで、まさに生殺与奪の全てをユバ一人が決めていたのだから。
だから彼女を失った今になって、こんなかったるい会議なんかをすることになる。
失ったと言っても、死んだのだとは思えないけど。
もし本当に生きてるんだとしたら、今、何をしてるのだろうか。
「……ねえアスちゃん?」
「ん? ああ、そうだね。そう思うよ」
急に話を振られて適当に相槌を打つと、他の面々からの鋭い視線が飛んでくる。
あれ、今大事な話してたっけ?
慌ててケトに目で助けを求めると、呆れたように首を横に振られた。
「……なんにせよ、ユウムナにもアスにも怪我がないのが一番の戦果だ。薬草も惜しみなく使えるわけではないからな」
「だいじょーぶ、あの程度なら楽勝だよー!」
「そ、そうそう! なんとかなるって!」
と言ってはみるものの、やはり他の戦士たちの反応は鈍い。
暗い顔してたって仕方ないのになあ。もうちょっと楽しいことでも考えたらいいと思うんだけど。
とまたぼんやりと思考が宙に漂い始めた時、浮かない表情のケトがぽつりとつぶやいた。
「アス、お前は何を考えてるんだ」
「え? あ、今はちゃんと話聞いてるよ?」
「嘘をつけ。さっきからずっと上の空だろう」
「そ、そんなことないよ! ……あ、でも、ユバ様は今ごろ何してるのかなぁって思っちゃって」
「……そうだな、ユバ様がいれば、生贄だって悩むことはなかった」
力なく返ってきたケトの言葉で、アスはようやく気が付いた。今は誰を生贄にするか、っていう話だったのか。
それは文字通りに、生命を贄に捧げる儀式だ。ユバの一族が大いなる力を得てきたのは間違いなくこの習慣によるものだ。
始祖ユバがいなくなった今となっては、誰を生贄にするかも自分たちで決めなければならない。
しかし、祈り人の名前が挙がるたびに、こいつがいなくなると他の民が不安定になるから他の奴にしろ、いやそいつには特別な役目があるから駄目だなどとけちがつく。
かと言って、自分たち戦士の中から生贄を出そうにも、それができない事情もあるのだ。
結局、始祖ユバが去ってから今まで、生贄の儀式が行われたことは一度もない。
アスの不用意な、というか不注意な発言のせいで、一同はまた黙り込んでしまった。
やはり自分たちは、ユバがいなければ何も決められないのだろうか。
言葉にはしなくても、アスだけでなく他の戦士たちもそう思っていることが何となく伝わる。
その気まずい空気をどうにか挽回するためにアスが何か言おうと息を吸った瞬間に、鋭い舌打ちが聞こえた。
その音の主は、爪の戦士のメクティコだった。他の戦士から距離を置くように斜めに座った姿勢のまま、長い前髪の下から周囲をぐるりとにらみつける。
「うざってえなあ、いっつも同じことばっかりぐるぐる言いやがって。そもそも焦って決める必要はねえだろ。侵略者が来ねえんだからよ」
「今のところはそうだが……」
「あたしもメクティコに賛成だよ。とにかく、生贄は実施しない。するにしたって誰を選ぶか、あたしたちには決めようがないんだからな。皆、それでいいな?」
ケトの言葉を遮ってヤアヤがきっぱりと言うと、七人の戦士にはどこか安心したような雰囲気が広がった。
何か反論しかけていたケトも、ずっとあくびを噛み殺していたナタリと、ついに一言も発さなかった槌の戦士のチカオトルも頷いている。
ちらりと横を見ると、ユウムナはやり取りを聞いていないように矢じりの羽根を指でしごいている。
そしてすべての決定を先送りにし、何もかもがうやむやのまま、会議は解散になった。
つまりは、いつも通りの展開だった。