「うーん、なんかすっきりしない天気だね。昼前までは日が出てたのに、急に雲が多くなってきちゃった」
「あれ、そうだっけー? 朝からこんな感じじゃなかった?」
アスとユウムナが今いるのは、都を囲む壁の外だ。と言っても、普段の狩りほど離れた場所ではない。目を凝らせば、平原を越えたあたりに家々から立ち上る煙が見える程度の距離だ。
しかし、急に立ち込めてきた雲のせいで、今は都の姿はぼんやりとしか確認できない。いや、あれは雲ではなく霞か霧なのだろうか。
「うーん、ナーダと渓谷に行った時はこんなんじゃなかったと思うけど……」
「えー、何それ何それ! 天気なんかどうでもいいから、そのお出かけの話聞かせてよー!」
「い、いや、そんなたいしたことじゃないよ? ちょっと元気がないみたいだから、気晴らしになったらいいなーと思って……」
「うんうん、どれで? どこ行ったの? 手は握った? ちゅーした?」
アスなりに普段とは違う景色に疑問を呈したつもりだったのに、ユウムナはまったく違うところに食いつく。緊張感なくおしゃべりする二人の様子に、黙ってついてきていた爪の戦士メクティコは露骨に舌打ちを漏らした。
「……あのな。気が長くて仕事熱心なお二人さんと違って、俺はこんなとこ長居したくねえんだよ。丁寧に探してるのは結構だが、もうちょいてきぱきウルを集めていただけませんかね?」
「うわ、感じ悪」
「あ? 俺が間違ってるっつーのか? だらだら話してえんだったらウル集めをさっさと終わらせて、帰ってからやりゃあいいだろうが」
「正論なのが余計に嫌な感じだよねー。メクティコちゃん、物には言い方ってのがあるんだよー?」
嫌味ったらしい言い方ではあるが、メクティコの言は正しい。すでに日が傾き始めているうえ、アスが言及したように天候だって良くないのだ。無駄話をしているうちに夜になってしまえば、死の風の瘴気が強まる。頑健な肉体を持つ戦士であっても、夜の死の風はなかなか耐え難い。うかつに触れればあっさりと気を失ってしまうほどだ。それがなくたって、都の外での活動は早く済ませるに越したことはない。
しかし、メクティコが言うように”てきぱき””さっさと”作業を進められない事情があるのも事実だった。
「ねえアスちゃん、なんか今日、少ないよねー?」
「え、魔物の数? うん、そうだね。楽で助かっちゃうよ」
「違う違う、ウルの話だよー。確かに魔物もいないけどさー」
ユウムナに言われて、アスは辺りを見回す。
「うーん、確かに。少ないのもそうだし、質もあんまり良くなさそうだよね」
魔物や侵略者を討伐するだけでなく、ウルの満ちる環境からそれを集めて持ち帰るのも戦士の責務だ。荒れた大地を芽吹かせるように、傷ついた祈り人に再び力を与える物質。詳しいことは分からなくても、ウルがもたらす恵みの重要さはアスもなんとなく理解している。
ただ最近では、どの地を訪れてもウルが薄くなっているような気がしていた。
「そういえばさ、ナーダと行った渓谷のウルもいまいちだったよ。なんか、すかすかな感じ」
「この辺りも、もう何度も来てるからねー。新しい場所を開拓するべきなのかなー? ねえメクティコちゃん」
「……はっ、くだらねえ」
とユウムナに水を向けられるが、メクティコは冷たく鼻を鳴らす。
「探したって都合よく見つかるもんじゃねえだろ、ウルは。反対に言ったら、豊富にあるときはどこにでも溢れてるもんだ。どこ探してもちびっとしかねえのは、この間の崩落の影響としか考えられねえ。だったら、しばらくはこの状態で我慢するしかねえだろ。どうせ自然に回復していくんだから、新しい場所を探しに行くなんて時間の無駄だ」
「へー、そんなこと考えたこともなかったー! メクティコちゃん、頭いいんだねー!」
意外にも丁寧なメクティコの説明に、ユウムナは素直に感心していた。
メクティコの冷静な考えは、好戦的で短絡的な戦士の中にあっては貴重といってもいい。ただ、意見がどうにも悲観的で皮肉気なのがアスには気になって、つい茶化してしまう。
「うわー、やだやだ、時間の無駄とかかっこつけちゃって。こういうのが案外、人に言えないようなえぐい趣味とか持ってるんだよね」
「あ、分かるー! 祈り人には自分のこと『お兄ちゃん♡』とか呼ばせてそう!」
さきほどまでは感心していたはずのユウムナも、あっという間に一緒になってメクティコをからかい始める。
もちろん軽い冗談のつもりだったのだが、メクティコは珍しく焦ったように、
「はぁ!? お、お前らが俺に意見を聞いてきたのになんだよその態度は! だ、だいたいあれは、キャキャやキマが勝手に呼び始めただけで……!」
「え、本当にお兄ちゃんって呼ばせてるの? すごい、仲いいんだね」
「な……っ!? お、お前ら、俺に鎌をかけたのか!?」
「かけたっていうかー、メクティコちゃんが勝手にかかってきたっていうかー……まあ、仲良しなのはいいことだよね!」
と、軽口を叩きながら、三人の戦士は探索を切り上げて都へと引き返す。
しかし、明るい雰囲気を取り戻したところで、今日の収穫がわずかなウルと集落一つの一回の食事にも満たないくらいの木の実しかないというのは、変わらない。ユバの都全体が慢性的な物資不足に陥っているのは、疑いようのない事実だった