"菊の番犬"と呼ばれた部隊   作:キングコングマン

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菊花隊

 人と言うのは、"欲"の生き物だ。食欲、性欲、物欲。あらゆる欲を持っている。その欲が暴走した時、争いが生まれる。人間同士、欲に忠実であればある程、衝突は避けられない。

 

 「いやっ、嫌……!!」

 

 そしてここにも、欲に塗れた男達の犠牲になろうとしている人物が一人。薄気味悪い笑みを浮かべるその男達に対し、追い詰められている女性は顔を青く染めて、砕け腰で後退りをする。

 

 「心配すんなって。ちょいとお前のアイテム欄を拝見するだけさ。大人しくしときゃ何もしない」

 

 「まあ、それ以外でも用途はありそうだがな」

 

 こんな人気の無い林の中に追い込むとは、こういう事に慣れているのだろう。男の1人が懐から短刀を取り出す。それを見て「ひっ……!」と女性は短い悲鳴を上げた。

 

 

 ________ピィーーー!!!_______

 

 

 すると、何処からか笛のような甲高い音が鳴り響いた。

 

 「ちぃっ!!嗅ぎ付かれた!"番犬"だ!」

 

 男の1人が舌打ちして、心底鬱陶しそうにそう言う。

 

 「ど、どうする?捕まったら1ヶ月は柵から出れねーぞ?」

 

 もう一人の男は、その笛の音に怯える様な仕草を見せる。

 

 「……こんな上玉逃すなんて勿体ねえ。俺らで返り討ちにするぞ」

 

 「お、おい、正気か?」

 

 男達がもたもたとそんなやり取りをしていると、襲われていた女性とその男達の間に、複数の影が立ち塞がった。

 

 

 「菊花隊だ。通報があった為、事情を聞かせてもらう」

 

 

 一人、白軍服をモチーフとした衣装を着たメガネをかけた男が、淡々とそう言う。胸元には、銀の菊花紋章のバッジが飾ってあった。

 彼等は"菊花隊"。このアインクラッドの、警察機関の様な役割を果たしているギルドだ。

 

 「もう大丈夫ですよー。あれはもう逃げられませんからー」

 

 もう一人。同じく白軍服を着たウェーブのかかった長髪が特徴の女性が腰の抜けた女性に対して優しくそう言う。

 そしていつの間にか現れた同じ衣装の集団にあっという間に取り囲まれ、男達は身構える。

 

 「……今素直に投降すれば柵に入る期間は短くなるが、どうする?」

 

 菊花隊のリーダー格なのか、メガネの男が相変わらず淡々とそう言うと、襲っていた男の眉間に皺が寄る。

 

 「冗談じゃねぇ……お前ら、一人残らずやれ!」

 

 「「おらぁああ!!」」

 

 するとヤケクソ気味に、男達は菊花隊の面々に襲い掛かる。しかしそれを慣れた様に菊花隊は切り掛かる男達の攻撃を避け、それにカウンターを合わせる様に一閃、刀を抜いた。

 

 「うっ………!!」

 

 一瞬にして間を詰められ首元に刀を当てられ、身動きが取れなくなる男達。それで戦意を失ったのか、降参する様に短刀を放り投げ、両手を上げて降参する意志を見せた。

 

 「よろしい。まあ、手を出したからもう2ヶ月追加と言うところだろう。無駄骨だったな」

 

 メガネの男がそう言うと、菊花隊に後ろに手を回され手錠の様なものを掛けられる男達。

 

 「連れて行け」

 

 「「ハイ!!」」

 

 メガネの男がそう声をかけると、強引にその襲った男達は菊花隊によってどこかへと連れて行かれる。

 

 「……はぁー、このゲームが始まってから半年。こういう手合いは増える一方だな……」

 

 メガネの男が頭を抱えながらそう言うと、ウェーブの掛かった女性は苦笑いになる。

 

 「……皆、この世界に慣れて、HPが無くなれば死ぬと言うことを忘れてきているのでしょう」

 

 そう、このデスゲームが始まってから、もう半年も経過していた。

 

 

 

 2.

 

 ここはアインクラッド、第11層。タフトと呼ばれるレンガ造りの街並みが特徴的なこの街に、そのギルドのホームがある。

 特徴的な菊の紋章。その紋章の通り菊花隊と呼ばれるギルドは、もはや誰もが知るほどの名の知れたギルドになっていた。

 

 このアインクラッドに存在する、唯一の治安維持ギルド。

 

 それが菊花隊。このギルドは、他のギルドに比べて少々異質でもあった。

 

 「報告書、また増えたな」

 

 「こっちもですー。こんだけ多いと、スグルさんに申し訳無いですねー」

 

 先程の二人、メガネの男と、ウェーブの掛かった髪が特徴の女性が大量の紙の束を抱えながらそんな会話をする。

 ここはギルドのホームでもある建物内。そして二人が向かうのは、そのギルドのリーダーの部屋でもある司令室だ。

 部屋の入り口、扉の前まで来ると、メガネの男が2度ノックをした。

 

 「どうぞ」

 

 中から声が聞こえ、二人は室内に入って行く。中では部屋の中央に設置された机の上で、同じく菊花隊の衣装を着た男が書類を確認していた。

 

 

 「おう、お疲れさん。ご苦労だったな」

 

 

 一言、書類を確認しながら、そのギルドリーダー。四条優ことスグルは二人に対して労いの言葉をかける。

 

 「お疲れ様です。……事件の報告書の提出に来ました」

 

 「了解。受け取った。エインは仕事が早くて助かるな」

 

 メガネの男、スグルにエインと呼ばれた男は、きっちりとした動作で報告書を四条に渡した。

 

 「あらー、エインだけじゃなくて、私も報告書の提出ですよー。無視するなんて、スグルさんは酷いですねー」

 

 対してウェーブの髪が特徴的な女性は、のんびりとした口調で揶揄う様にそう言う。

 

 「こら!ミカ!隊長にそんな態度を取るんじゃ無い!」

 

 それを見て、慌ててエインがその女性をミカと呼び、注意をした。

 

 「ははっ、まあ良い。どっちも仕事で疲れただろう。今日はもう上がって良いぞ?」

 

 「「はい!」」

 

 軽く笑って四条がそう言うと、二人は一つ礼をして、部屋を退出する。

 

 「ふぅー……ここまで人数が増えると、こんなにも忙しくなるもんかね……」

 

 目の前に積み上げられた書類の束を見て、困った様にその様な独り言を呟くスグル。

 最初は神崎と二人で始めたギルド。それが今や、50人を超えるほどの大きな組織となっていた。

 

 

 ______コンコンッ______

 

 

 すると、もう一度扉のドアがノックされる。

 

 「どうぞ」

 

 先ほどと同じ様にスグルがそう言うと、扉を開けて入ってきたのは、彼と同じく菊花隊の衣装に身を包んだユーリーこと、神崎由里子だった。

 

 「お疲れ。状況は?」

 

 短く一言、スグルがそう聞く。

 

 「……ここ最近、犯罪者ギルドの勢力が拡大してるっす。レッドプレイヤーはほとんど見かけませんが、恫喝やアイテム狩りを行うオレンジ

プレイヤーは増えて来たっすね……」

 

 ユーリーは深刻そうな顔をして、スグルに対しその様な報告をする。

 

 「理由は分かるか?」

 

 「恐らく、この世界に長く居過ぎている事が原因っすね。HPが無くなれば死ぬって事は皆理解してるんすけど、この世界での生活が日常になって来て、モラルの部分が緩くなっているって感じっすね」

 

 続けてのユーリーの説明にスグルは書類仕事を一旦止め、難しそうに頷く。

 

 「……一度、何かしら対策を取る必要があるな……それで、茅場の方は?」

 

 そして、スグルは話題を茅場の方へと移す。

 

 「そっちは正直言ってからっきしっす。何人かの"サクラ"から色々プレイヤーの情報を集めてるっすけど、名前が出てくるどころか似たような顔の情報すらも入って来ないっす」

 

 ユーリーがお手上げだと言う風にそう言うと、スグルは一つため息をついて右手で自身のこめかみを抑えた。

 

 「進展無しか……もうこの世界に閉じ込められて半年が経つ。そろそろ一つや二つの情報でも出て来て良いはずなんだけどな……」

 

 「仕方ないっす。……現実の方がどうなってるか分からない以上、アタシ達がやれる事は限られているっすから」

 

 愚痴る様にスグルがそう言うと、ユーリーも深刻そうに返す。この菊花隊の基本方針は、アインクラッドの治安維持。それと、現実で事件が解決されるまで辛抱強く待つ。そしてこの事件の首謀者である、茅場晶彦の捜索。

 しかし半年。未だに足跡を掴めないと言うのは、スグルとユーリーにとっては歯痒いものだった。

 

 

 「………それと、これが本題なんすけど、一部のギルドから、"菊花隊は層の攻略に参加しないのか?"と言う、抗議の声が出てるっす」

 

 

 すると、心底鬱陶しそうな表情で、続けてユーリーがそう言う。対してスグルは考え込む様に腕を組み始めた。

 

 「……気持ちは分からんでもない。……菊花隊は組織として大きくなった。個々のレベルも他のギルドに比べて高い」

 

 「でもそれは、他の犯罪者プレイヤーを抑止する為のものであって……」

 

 「しかしそれだけでは納得しないのが人間だ。"俺達は命を賭けて攻略してるのに、なんでアイツらは圏内でぬくぬくしてるんだ"。大方、そんな感じだろう」

 

 ユーリーの反論に被せる様にスグルがそう言うと、なんとも言えない複雑な表情を見せる。

 組織が大きくなると言う事は、それ以上にヘイトを集めることもあると言う事だ。

 

 「………行くんすか?攻略の方に」

 

 「……仕方がない。このままダンマリを決め込めば、菊花隊の信頼問題に関わる。そうなる前に、手は打っておきたい」

 

 心配そうに尋ねるユーリーに対し、スグルは腹を決めた様にそう返す。

 このまま菊花隊の基本方針を貫いてしまうと、いずれは他のプレイヤーから反発が起こる。

 "他のプレイヤーよりレベルが高いのに、なぜ菊花隊の連中は攻略に参加しないのだろうか"と。

 プレイヤーからの信頼が落ちれば、治安維持活動を続けても意味は無い。そこは現実の警察と同じだ。

 ここで一度攻略に赴き菊花隊の誠実さを見せ、プレイヤーからの信頼を落とさないと言うのが、スグルの狙いだった。

 

 「………ユーリー、皆を集めてくれ。攻略に行くか否か、会議をする」

 

 「……了解っす」

 

 「……はぁ……本当、やる事が多過ぎてうんざりするよ」

 

 そしてスグルは悪態を吐く様にそう言うと、書類作業へと戻って行った。

 犯罪者ギルドの対策と、茅場晶彦の捜索。そして攻略組への信頼獲得と、ゲームの中でさえ大忙しな四条優であった。

 

 

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