"菊の番犬"と呼ばれた部隊   作:キングコングマン

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会議

 「……と言う事だ。皆、何か異論はあるか?」

 

 菊花隊のホーム。そこにある集会所では、スグルが次のボス攻略に行く旨をギルドメンバー全員に伝えていた。いきなり全員集められての発表に、メンバーから騒めきが起こる。

 

 「無理に行く必要は無い。攻略の間、治安部隊としてここに何人かは残しておきたいからな。……攻略メンバーとしては俺、副リーダーのユーリー。"幹部"からエイン、リダが先頭となって行くつもりだ。治安部隊として残るのはミカ、ユーシ、メイの予定だ。治安部隊のリーダー代行は、ミカにやってもらおうと思う」

 

 淡々と、続けてそう説明するスグル。

 今の菊花隊には、リーダーがプレイヤーネーム"スグル"こと四条。副リーダーに"ユーリー"こと、神崎。そして、その下に、"幹部"という役職が存在する。

 現在、アインクラッドは第28層まで攻略されている。その広い範囲で治安維持活動をする為には、現場に少しでも早く駆けつけられる様、ある程度ギルドメンバーを層ごとに分けて配置しなければならない。

 

 そこで生まれたのが、その配置されたギルドメンバーをまとめ上げる役割を担う、"幹部"だ。

 

 現在の幹部の人数は5名。メガネをかけ、細身のスラッとした高身長が特徴の男性、"エイン"。垂れ目におっとりとした雰囲気で茶髪気味のウェーブした長髪が特徴の女性、"ミカ"。長身で長い赤髪を後ろで一つにまとめ、快活そうな印象を受ける女性、"リダ"。目元が隠れる程黒い前髪を伸ばし、少し幼さの残る顔をした男性、"ユーシ"。幹部の中でも一際身長が小さく、小動物の様なくりっとした目つきが特徴の女性、"メイ"。

 そこにユーリーとスグルを含めたこの7人が中心となって、アインクラッドの治安は維持されている。

 少し話が逸れたが、その7人を攻略組に4人。治安部隊に3人割くと言う事は、スグルがいかに攻略組に対して気を遣っているかが垣間見えた。

 理想としては、全体で半々に別れれば良いと彼は考えている。

 

 「幹部が半分抜けるって……それでアインクラッドの治安は大丈夫なんですか?」

 

 すると、隊員の一人が不安そうにそう聞いて来た。

 

 「今回の攻略組への参加、今のフロアボスを倒すまでにしようと思っている。大事なのは他のプレイヤーに菊花隊は信用に足るギルドだと思わせる事だ。層を突破する事じゃ無い。プレイヤーの協力があってこその治安維持だからな。……留守中に一部の犯罪者ギルドが動き回る可能性はあるが、俺は優先順位はこっちの方が上だと思っている。君達はどう思う?」

 

 そして要点をまとめてスグルがそう説明し、是非を問うと、ギルドメンバーは各々考え始める。攻略組に菊花隊が参加するか、それとも参加せずに治安維持に尽力するか。

 攻略組に参加すれば、メリットとして他プレイヤーからの信頼が得られる。しかしデメリットとしては、手薄になった警備の穴を突かれて、犯罪者ギルドが大きく動くかもしれない。

 対して攻略には参加せず、治安維持に尽力する方向を取れば、先ほどのデメリットは無くなるが、今度は逆に他プレイヤーからの信頼を失い、今後の治安維持活動に支障が出るかもしれない。どちらも一長一短。決めあぐねている様だ。

 

 「俺は、スグルさんの意見に賛成です」

 

 すると幹部の一人、エインが一歩前に出て、同意して来た。

 

 「……アタシは、反対っす」

 

 対してユーリー。神崎は、険しい顔をしてそれを否定して来た。

 

 「理由は?」

 

 それに対し、スグルが一言そう聞く。

 

 「リスクが高過ぎるっす。菊花隊の基本理念は、"現実世界で事件が解決するまで辛抱強く待つ事"と、"その間の治安維持"っす。それを崩してまで死ぬ可能性の高い攻略組に参加する程、メリットがあるとは思えないっす」

 

 「それだけか?」

 

 見透かした様にスグルがそう言うと、困った風に苦笑いになるユーリー。

 

 「……ホントに先輩には隠し事が出来ないっすね。……これはアタシの予想なんすけど、攻略に参加すれば、一時的には信頼が得られるかもしれないっす。けど、次のボス攻略に参加しないとなった時、『何で前回は前線に出たのに、今回は前線に出ないんだ』と言う声が必ず出る筈っす。そしてそれは、今よりも菊花隊への信頼を落とす事になりかねない。それに………」

 

 そこまで説明すると、ユーリーは後悔する様に目を伏せた。

 

 

 「無駄に命を消費する様な事は、アタシとしては反対です」

 

 

 普段の砕けた口調を捨て、伏せていた目を四条に向けて力強くそう言い放つユーリー。

 思い出すのは、目の前で消えて行ったあの青年。その時の無力感をもう一度味わいたく無いと言うのが、彼女の本音だった。

 

 

 「………ユーリー。このデスゲームが始まってから、何人が消えて行った?」

 

 

 すると、真剣な口調でスグルは問い掛ける。

 

 「……1000人程っす」

 

 それに対し、ユーリーは言いにくそうにそう答えた。

 

 「そうだ。1000人。半年で1000人もの命が失われている。サービス開始から全体の10パーセント。凄まじい数だな」

 

 「「「…………」」」

 

 スグルに現実を突きつけられ、言葉を失うギルドメンバー。菊花隊の最大目標は、一人でも多くの人々を現実世界に帰す事だ。その内の1000人は、叶わずこのゲームにより散って行った。モンスターに殺された者、プレイヤーキルでやられた者。長過ぎるプレイ期間の内に現実世界で病死した者。

 

 そして、ボス攻略で散って行った者も居る。

 

 「……皆、もう現実の警察を信じれていない。……事件発生から半年、この世界から解放される気配が無いからな。だからこそ、茅場の言い放った言葉を信じ、皆、層の攻略を目指す。それが自分達が解放される唯一の希望だからだ」

 

 今、アインクラッドで信じられるのは、皮肉にもこのデスゲームを始めた茅場の言葉のみになりつつある。

 この世界では、現実世界の情報は一切入って来ない。現実での警察が、どれほど捜査を進めているのかも把握出来ない。そしてゲームの世界に幽閉された状態のまま、何ヶ月も時間だけが過ぎて行く。

 そこに覚えるのは、紛れもなく"不安"だ。

 本当に現実世界で警察が事件を解決してくれるのだろうか?本当は警察も匙を投げて、自分達は見捨てられたのではないだろうか?

 

 _____なら、茅場の言う通り、自分達の力でアインクラッドを100層まで攻略するしかないじゃないか。

 

 "現実世界で警察が事件を解決するのを待つ"と言う理念を持つ菊花隊が攻略組に良く思われない理由は、そこにあった。

 

 『もう現実での事件解決を待つのは無駄なのだから、お前達も攻略に参加しろ』と。暗にそう言っているのだ。

 

 「……俺は、菊花隊の方針を曲げるつもりはない。"この世界から一人でも多く現実世界に帰す"。これを曲げれば、組織は崩壊する」

 

 しかし、この四条優と言う男はは警察官だ。それも警視庁の人間。日本の警察がどの様な組織かも熟知している。

 

 「だったら余計攻略に行くのは……」

 

 矛盾している。しかしユーリーがその言葉を言う前に、スグルは口を開いた。

 

 

 「だが今だからこそ、攻略に行くのが一人でも多く助かる最善の策だと、俺は思っている」

 

 

 

 「……どう言う事ですか?」

 

 それを聞いて幹部の一人、ユーシが疑問の声を上げた。

 

 

 「………"サクラ"からの情報だが、最近、菊花隊に関しての良くない噂が、攻略組の間で流れているらしい」

 

 

 深刻そうな表情でスグルがそう言うと、ギルドメンバーからどよめきが起きた。

 

 「……良くない、とは?」

 

 初耳の情報だったのか、ユーシも驚いた表情で詳細を聞く。

 

 「『犯罪者ギルドの連中から助けた報酬として、アイテムを全部没収された』とか、『何もしていないのに疑われて、酷い仕打ちを受けた』やら、根も歯もない噂ばかりだ」

 

 「そんな……!各層のメンバーには、それぞれ幹部が付いているはずです!怪しい動きなんてしたら直ぐにバレますよ!?」

 

 冤罪だと言う風に、ユーシは声を張り上げる。しかしスグルは落ち着いた様子だ。

 

 「そう、全ては"噂"だ。菊花隊がそんな事をしたと言う事実は無い。……恐らく、俺達を良く思わない連中が、何かしらの工作をしているんだろう」

 

 

 「………ラフィン・コフィン……」

 

 

 すると、思い切り顔を顰めて、エインが恨みの篭った口調でそう呟く。その名前が出た途端、ギルドメンバーに緊張が走った。

 

 犯罪者ギルド、"ラフィン・コフィン"。このアインクラッドで、そのギルドの名を知らない者はいない。

 菊花隊が急速に勢力を伸ばすキッカケとなった集団。

 この集団は、"SAOで最も悪辣なギルド"と呼ばれる。基本姿は見せず、他のプレイヤーに対し"対立煽り"と言う、わざと仲違いをさせる様な行動を繰り返し、治安を乱す。

 そして自身の利益や目的の為には、平然とプレイヤーキルを行う。

 数ある犯罪者ギルドの中でも、最も恐れられるレッドプレイヤーばかりが集うギルド。

 

 そして、菊花隊の宿敵とも呼べる集団だ。

 

 「……噂を流しているのがラフコフかは定かでは無いが、一枚噛んでいるのは確定的だろう。……このまま無視すれば、菊花隊の信頼は地に落ちる。そして、菊花隊を頼るプレイヤーは居なくなる。……そうなれば、治安維持を行うギルドは事実上消滅し、ラフコフなどの犯罪者ギルドが動きやすくなってしまう。……死人が増えるのは明らかだろう」

 

 スグルのその説明に、ユーリーはハッとした様な表情になる。彼がここまでのリスクを背負って攻略組に参加しようとする理由は、ここにあった。

 

 「生憎、奴らは表立って活動しない。噂の根源を特定する事は不可能に近いだろう。……だからこそ、菊花隊が前線に出て、身の潔白を示す必要がある」

 

 続けてスグルがそう説明すると、ギルドメンバーから納得の声がちらほら上がり始める。しかし、それだけでは……

 

 「……ですが、どうやって身の潔白を示すんですか?我々が前線に出ただけでは、その疑いを晴らす事は出来ないと思うのですが……」

 

 心配そうにユーシがそう聞く。すると、スグルはニヤリと笑った。

 

 「そこでだ。今回のボス攻略で得られる経験値、アイテム等は全て解放軍に譲ろうと思う。こちらから見せつけるんだ。菊花隊の潔白をな。そうすれば菊花隊の疑いは晴れるし、次の層攻略に参加しなくても文句は言われないだろう。そして、人数は多い方が良い。人が多い程、向こうはこちらに信頼を置くからな」

 

 スグルがそう説明すると、ユーシも納得した様な表情になる。そして、その他のギルドメンバーも。

 そしてそのタイミングを見逃さず、スグルは全員に聞こえる様、声を上げる。

 

 「もう一度聞こう。俺の案に賛成する者は、手を挙げてくれ」

 

 その問いかけに、次々とメンバーから手が上がって行く。

 そして全会一致で、攻略組に菊花隊が参加する事が決定した。

 

 

 

 

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