"菊の番犬"と呼ばれた部隊   作:キングコングマン

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攻略組

 

 1.

 「おい、あれ……」

 

 「……間違いない。白軍服と菊の紋章、"番犬"だ」

 

 「何でこんなとこに……」

 

 ヒソヒソと、話し声が聞こえる。どれもこれも怪しむ様な目線。菊花隊のメンバーも、それをひしひしと感じていた。

 

 (予想より、噂が出回ってるんすかね?)

 

 (そうみたいだな。少なくとも、歓迎という雰囲気では無い)

 

 小声でユーリーとスグルがそんなやり取りをする。完全アウェーの雰囲気だ。果たしてどんな噂が出回っているのやら。

 

 「ようこそ、攻略組へ。僕はシンカー。一応、アインクラッド解放軍のリーダーという事になってるよ」

 

 すると、気弱そうな雰囲気を纏った男性がスグルの前に出てきた。そして柔らかく微笑んで、右手をスグルの前に出して握手を求める。

 

 「よろしく。菊花隊リーダー、スグルだ。今回は俺達の申し出を受け入れてくれて感謝する」

 

 対するスグルも自己紹介をし、シンカーの手を握った。

 

 「感謝するのはこっちだよ。普段からこの世界の治安維持活動に当たってくれている上、攻略にまで参加してくれるなんて、頭が上がらないよ」

 

 シンカーは申し訳なさそうにそう言う。場の雰囲気から軍のリーダーには良い印象を持たれていないと思っていたスグルだが、案外友好的な態度に肩透かしを喰らっていた。

 

 

 「へっ、何をしてんのか分からん連中やないか。今更攻略組に来て何しよう言う気や?」

 

 

 すると、ツノの生えたような特徴的な髪型をした男が、関西弁を喋りながらスグルに突っ掛かって来た。

 

 「ちょっとキバオウ!……ごめんね。彼は解放隊のリーダーだった人で、25層での事件から、少し疑い深くなってしまっているんだ」

 

 申し訳なさそうにそう言うシンカー。対してスグルは軽く首を振った。

 

 「大丈夫だ。変な噂が出回っているのは、俺たちの耳にも入っている」

 

 「はっ!今まで攻略に参加せえへんかったのに、今更仲間にして下さいかいな!恫喝に必要なレベルでも足りひん様になったか?」

 

 挑発する様に、キバオウはそう言う。しかし菊花隊の面々はどこ吹く風。全くその言葉に靡かない。

 治安維持活動を名目としている以上、菊花隊に属していると人間同士のトラブルに巻き込まれる頻度は多い。なのでこれくらいの言葉ではびくともしないのだ。

 

 「………ッチ、その内その化けの面、剥がしたるわ」

 

 カマをかけたつもりのキバオウだったが、全く反応の無かった事に舌打ちをして悪態を吐くと、その場を去って行く。

 

 「……本当にすまない。後でキバオウには僕から言っておくから」

 

 尚も申し訳なさそうにそう言うシンカーに対し、スグルは薄く微笑んだ。

 

 「気にしなくていい。あの程度の罵倒、言われ慣れている。こんな役割を担っているもんでな、冷静さを失った人間なんていくらでも見ている」

 

 冗談めいてスグルがそう言うと、シンカーはホッとしたような表情になった。

 

 「……そう言ってくれると助かるよ」

 

 組織のリーダーがこんなので良いのかと思ってしまう程、シンカーは気弱な性格だった。

 

 

 

 2.

 

 「今入ってる情報を確認しよう。ボスは飛行型、両翼に蝶の様な羽が付いていて、恐らく今までのボスの中でもトップクラスの素早さを持っている。……だが、攻撃力に関してはそこまででは無いらしい」

 

 シンカーの説明に、皆真剣に耳を傾ける。やはりHPがゼロになれば死ぬと言う、自分の命が掛かっている事もあり、雰囲気はかなり張り詰めていた。

 

 「……ホンマに信じれるんか?その情報?」

 

 一人、副リーダーのキバオウは、懐疑的な目でそんな事を言う。

 

 「……確かな筋からの情報だ。間違い無いよ」

 

 水を差す様なキバオウ発言に困った様な表情を浮かべ、シンカーはそう返す。

 

 「それが信じられんのや。ワイは25層でのあの時、嘘の情報に騙された。お陰で部隊は半壊。せやからシンカーさんのその情報の裏付けが欲しい」

 

 「……そんな事を言い出せばいくらでも疑える。今はこの情報が精一杯だ」

 

 あいも変わらず懐疑的な姿勢を崩さないキバオウに対し、困り果てるシンカー。

 キバオウの言葉に乗せられたのか、少々場がざわつき始めた。

 

 

 「……なら、自ら行って確かめようでは無いか」

 

 

 すると、その騒めきを消し去る様に、一人の男が前に出た。

 

 「……血盟騎士団だ……」

 

 「あれが?……じゃあ、あの男が……」

 

 周りから小声でそんな事を囁く様な声が聞こえる。

 精悍な顔つき。髪型をオールバックに纏め、全身を赤色の鎧で包んだその男は……

 

 

 「血盟騎士団、リーダーのヒースクリフだ。突然出て来て済まないが、あまり建設的な話では無い様でな」

 

 

 「なんやと!?」

 

 ヒースクリフと名乗った男に馬鹿にされたと感じたのか、キバオウがすぐさま食って掛かる。しかしシンカーがすぐさま片手をキバオウの前に上げ、静止する。

 ヒースクリフ。この男の名は、四条の耳にも入っていた。25層を突破した辺りから突如攻略組に現れ、瞬く間に血盟騎士団と言うギルドを結成。そのギルドも最近、急速に力を付けて来たと聞いている。

 

 「そう、だね。……でも、それだと前衛の部隊が危険に晒される事に……」

 

 シンカーは困った様な表情を浮かべ、ヒースクリフに対してそう言う。それを聞いたヒースクリフは薄く微笑んだ。

 

 「なるほど……なら、前衛は私たちに任せてくれないか?」

 

 自身ありげにそう言うと、周りのプレイヤーから「「おぉー……」」と、感嘆の声が上がる。

 しかしそれに構わず、ヒースクリフは言葉を続ける。

 

 「……私のユニークスキル、"神聖剣"は防御特化型。敵に攻撃されても倒される事はほぼ無いだろう。……それに、"素早さ"なら血盟騎士団に抜きん出ている者がいる」

 

 そう説明すると、ヒースクリフの後ろから一人の少女が現れた。

 

 

 「血盟騎士団、副リーダーのアスナと申します」

 

 

 出て来たのは明るい髪色を腰まで伸ばし、ヒースクリフと同じく赤を基調とした衣装を纏った若い女性。アスナと名乗った少女が棘のある口調でそう言うと、ペコリと一礼する。

 

 「この少女は血盟騎士団の中でも屈指のスピードを誇る。その素早いと言うモンスターにも、付いていけるだろう」

 

 ヒースクリフがそう言うと、今度はその場から響めきが起こる。最近の攻略組でのこの血盟騎士団の活躍というのは、目覚ましいものがある。規模は30人程度と少数であるが、その一人一人が高レベルで実力も高い。

 そんな勢いのある新生ギルドに、他のプレイヤーも期待を寄せているのだ。

 

 「良いかもしれないね。皆んなは?この作戦に賛成という人は手を挙げてくれ」

 

 シンカーがそう聞くと、プレイヤーから何の迷いもなく手が上がり始める。菊花隊の面々もそれに釣られる様に、手を挙げて行った。

 

 「………了解した。では今回の作戦、血盟騎士団のメンバーが前衛となってもらう。よろしく頼むよ」

 

 シンカーがそう言うと、周りから拍手が起きる。対してスグルは、真顔でその光景を見つめていた。

 

 

 

 3.

 

 「………茶番だったな」

 

 「ホント、そうっすね」

 

 その後、一度解散し、スグルとユーリーは近くのレストランで食事を終え、そんな会話をする。

 今は菊花隊の人間とは悟られない為に、二人ともデフォルトの衣装に変更していた。

 

 「あんな少女を前衛に出すとはな。……どうやらゲーム感覚がまだ染み付いているらしい」

 

 スグルは眉間に皺を寄せながら、悪態を吐く様にそう言い放つ。

 

 「ヒースクリフ。……最近急速に力を付けて来た、血盟騎士団のリーダーっすね」

 

 すると、周りに聞こえない様にユーリーはそう言う。

 

 「それに加えて謎も多い。どこであの"神聖剣"を手に入れたのか。25層が攻略されるまで一体何をしていたのか、全く情報が無い」

 

 それに対し、ユーリーも小声でそう返す。

 

 「……"桜花隊"の情報力を持ってしてもですか……」

 

 「ユーリー」

 

 ユーリーから桜花隊と言う言葉が出た瞬間、スグルはキッと彼女を睨めつけた。

 

 「おっと、口が滑りました。すんません」

 

 まずったと言う風に、ユーリーは口を抑える。

 

 「どこで犯罪者ギルドの連中が聴き耳を立てているか分からん。注意しろ」

 

 それに対し釘を刺す様に、スグルはそう言い放った。

 

 「了解っす……でも"サクラ"が必死になってもヒースクリフの情報を得られないとは……」

 

 「これまで人と関わらず、ソロでプレイしていた可能性もある。……今のところは様子見で良いだろう」

 

 スグルがそう言うと、ユーリーは納得した様に頷いた。

 

 「それで、アタシ達は後衛っすか」

 

 すると、話題を変える様に神崎がそう言う。

 

 「ああ。正直、無理にする必要も無いが、信頼を得るには十分なポジションだろう。前衛に次いでモンスターに襲われやすいポジションだ」

 

 それに対し、スグルはそう返す。菊花隊に与えられたポジションは、フォーメーションの一番後ろ、後衛。これはリーダであるスグルが自ら志願した場所だ。前衛ほどでは無いが、攻略組の背後からモンスターが襲ってくる場合ももちろんある。

 菊花隊が信頼を得るには、危険な場所でモンスターから攻略組を守る事も有効なのだ。

 

 「それについてはまたギルドメンバーを集めて話そうと思う。……ボス部屋に行くまでは迷宮区を通る。その中での後衛はある程度危険を伴うだろう。宿に着いたら幹部を集めて戦略を立てるぞ」

 

 スグルが続けてそう言うと、「了解っす」とユーリーも一言それだけ返す。

 

 

 「……さあ、行くか」

 

 「っすね」

 

 そして一通り話を終えると、二人して席を立ち上がる。そのまま会計を終えてレストランの扉を開くと、タイミング悪く人とすれ違ってしまった。

 

 

 「おっと、すまない……あ」

 

 

 「いえこちらこそ……あ」

 

 

 互いに謝ろうとすると、見覚えのある顔にお互い声を上げる。

 そのすれ違った人物は、先程ヒースクリフが紹介していた、アスナという名の少女だった。

 

 

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