"菊の番犬"と呼ばれた部隊   作:キングコングマン

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攻略開始

 

 1.

 宿に戻ると、スグルの部屋に幹部が集められ、そこで会議をする。攻略組に参加する幹部は、リダとエイン。そしてそこにスグルとユーリーの4人が部屋に集まっている状況だ。

 

 「俺達は後衛。ボス部屋に行くまでには、迷宮区を通らなければならない。そして迷宮区にはトラップやモンスターなども大勢いる」

 

 「迷宮区ですか……シンカーさんが言うには、ボス部屋までのルートは判明していると言ってましたね」

 

 スグルがそう言うと、エインがそう返す。

 

 「ああ、だが迷宮区はモンスターの出現率が高い。スイッチなどの連携は必須になるだろう。欲は出すなよ?最低限の数だけモンスターは倒すんだ」

 

 「「「了解」」」

 

 念を押すようにスグルがそう言うと、各々返事が返ってくる。

 迷宮区と呼ばれる場所は、100層あるアインクラッドの幾らかの層に存在する、ダンジョンのような場所だ。

 文字通り迷路のように入り組んでおり、そのマップを全て把握するには、相当の時間と土地勘を必要とする。その中で見つけたボス部屋。しかし事前の情報により、ボス部屋までのルートは確立されている。

 その道中の後衛を、菊花隊は任されたのだ。

 

 「経験値云々の話はどうするのさ?アタシ達は今回の攻略で一切貰わないんだろう?」

 

 すると、長い赤髪を一つに纏めた長身の女性。幹部の一人であるリダがスグルに対してそう聞く。

 

 「それに関しては、明日の攻略に出る前に俺から宣言する。……シンカーに聞いたところ、今日の攻略会議に参加しなかった者もいるらしいからな。全員集まる明日に言った方がいい」

 

 「なるほど、了解。……にしてもあいつら、アタシ達が経験値要らないなんて言い出したら、どんな顔するのかねえ?」

 

 スグルの説明に納得すると、今度はケラケラと笑い面白がる様にそう言うリダ。

 

 「驚くと言うよりかは、困惑するんじゃないすか?ボスを倒した時の経験値は、そこら辺のモンスターとは比にならないらしいっすからね」

 

 それに対し、興味なさげにそう返すユーリー。

 何度も言う様に今回のボス攻略は、あくまで攻略組の信頼を得るためのものだ。層の攻略や私欲のためでは無い。

 

 「……本来の目的を忘れるな。明日、攻略組の連中に煽られたりしても、絶対に反応するんじゃ無いぞ」

 

 「分かってますよー」

 

 釘を刺す様にスグルがそう言うと、リダは軽い感じでそう返す。

 

 「……よし、他に何か質問はあるか?」

 

 そしてスグルが皆に対してそう聞くと、3人とも軽く首を振った。

 

 「なら、これで解散とする。……明日の攻略、無駄な戦闘は極力避ける様に。良いな?」

 

 「「「はい!!」」」

 

 最後に締める様にスグルがそう言うと、会議は終了した。

 

 

 2.

 

 「よし、みんな集まっているね」

 

 翌朝、解放軍のリーダーであるシンカーがぐるりと周りを見回し、全員が揃っていることを確認する。

 そして、全員に聞こえる様に声を張り上げた。

 

 「では、最終確認をします!ボス部屋までの道中、前衛は血盟騎士団、後衛は菊花隊が守ります。迷宮区はモンスターの出現率が高いエリアです。ボスモンスターまで回復アイテムを極力使わないのが理想ですが、危険と判断した場合は惜しみなく使用する様に心がけて下さい!これはデスゲームです!HPがゼロになれば、そのまま現実世界でも死んでしまうのを忘れない様に!!」

 

 シンカーがそう言うと、その場に居たメンバーの背筋が伸びる。これからボスに挑むと言う実感が湧いてきたのだろう。

 

 「アイテム分配については、金は自動均等割り。経験値は、モンスターを倒したパーティーのもの。アイテムは、ゲットした人の物とする。いつもと同じだが、それで良いかい?」

 

 続けてシンカーがそう聞くと、皆一様に頷く。

 そして、そのタイミングを見計らって、スグルが手を挙げた。

 

 「少し良いか?」

 

 皆納得する中、スグルが手を挙げたので、少々場が騒つく。

 

 「……何かな?」

 

 対してシンカーは、身構える様にしてそう聞いてきた。

 

 

 「今回のボス攻略、菊花隊は手に入れたコルもアイテムも経験値も要らない。全て攻略組に譲ろうと思う」

 

 

 この場に居る全員に聞こえる様にスグルが宣言すると、案の定、騒めきは響めきへと変化した。

 

 「な、なんや、また何か企んどるんか?」

 

 スグルの言葉の真意が理解できてないのか、解放軍の副リーダーであるキバオウが困惑しながらも食って掛かる。

 しかし、スグルは憮然とその表情を崩さない。

 

 「言葉の通りだ。……最近、菊花隊に関して様々な噂が攻略組の間で流れているらしいな」

 

 スグルが問い掛ける様にそう言うと、今度はシンと、周りが静まり返る。まさか噂されている本人からその言葉が出るとは意外だった様で、皆驚きの表情をしている。

 

 「……菊花隊はこの世界での治安維持部隊だ。そして、現実の世界で事件が解決するまで一人でも多くHPがゼロにならない様、最大限を尽くす。……これは、この場に居る人間なら皆が知っている方針だろう」

 

 スグルがそう言うと、バツの悪そうに顔を背ける者がちらほら。恐らく噂を真に受けた連中なのだろう。

 

 「……なら、なんで今更攻略に参加するんや?」

 

 しかし、キバオウは尚も警戒心丸出しでそう聞く。

 

 「攻略組に菊花隊を信用してもらう為だ。今ここに来ているメンバーはギルド全体の半分。判断材料としては十分だろう。ここに居るプレイヤー達には、今からの我々を見て貰い、菊花隊が信用に足るギルドかをその目で判断して欲しい。……聞いただけの噂では無くな」

 

 憮然と、スグルがそう宣言すると、今度は困惑した様な声が上がる。

 いくら口だけで噂は事実無根だと訴えても、この世界の人間はそれを信じられる人は少ない。

 なら、行動で見せれば良いでは無いか。

 菊花隊が攻略組に参加する理由の一つはこれだ。言い方は悪いが、攻略組の目の前で菊花隊がどんなギルドなのかを"プレゼン"する事によって、スグルは彼等から信頼を得ようとしているのだ。

 

 「……なるほど、分かった。僕としては良いけど、皆んなもそれで良いかい?」

 

 シンカーの問いかけに、尚も困惑した反応を見せるプレイヤー。

 

 「………私は、構わないが?」

 

 すると、血盟騎士団のリーダー。ヒースクリフも同意して来た。発言力のあるプレイヤーがそう言った事により、周りからも同意の声が上がり始めた。

 

 「……よし、じゃあマージンの設定を変えておくよ。……本当に良いんだね?」

 

 「ああ、構わない」

 

 躊躇なくスグルがそう言うと、シンカーはメニュを開いて設定を弄る。そしてその操作を完了させると……

 

 

 「よし!、ではこれより29層フロアボス、の攻略に行く!皆んな、覚悟はいいか!!」

 

 「「「おぉおおー!!」」」

 

 いつも気弱なシンカーが精一杯声を張り上げると、それに呼応する様に雄叫びが返ってきた。

 

 

 

 3.

 

 29層、迷宮区。洞窟型のこの迷宮区は所々見通しが悪く、油断しているとモンスターがすぐそこまで迫ってきていると言うこともあり得る。

 攻略組はそこを一歩ずつ、慎重に進んでいた。

 

 「はあぁっ!!!」

 

 前衛、女性の気合の入った声と共にモンスターが細身の剣、レイピアで一突き、消滅する。

 

 「は、速ぇー……」

 

 「俺今、見えなかったぞ……」

 

 その光景を見て、周りのプレイヤーから驚きの声が上がる。

 

 「ヒースクリフ!右!」

 

 「……分かっている」

 

 アスナがそう叫ぶと、それに答える前にヒースクリフは盾を構える。そしてその盾を構えた方向に吸い寄せられる様に、モンスターが突進して来た。

 

 「っ!……ふっ!!」

 

 盾で難なくその突進を受け止めると、もう片方で握っていた剣を一振り。モンスターに浴びせると、これまた一撃で粉砕した。

 

 「ヒースクリフも凄えな……やっぱ今一番勢いのあるギルドは違うな……」

 

 ヒースクリフの戦闘を見ていたプレイヤーからも、感嘆の声が上がる。

 血盟騎士団の実力は、本物だった。一人一人のレベルは勿論、スキルも高い。

 正に"個"の力で押して戦っている様な、圧倒的力量だった。

 

 

 

 「スイッチ!」

 

 「あいよ!」

 

 して、こちらは後衛。スキルの発動後にすぐさまエインがそう叫ぶと、流れる様に素早く、リダが前に出る。そして襲ってきたモンスターにカウンターをを合わせる様に剣を一振り。消滅して行った。

 

 「……こっちは派手さは無いが連携が完璧だ。スキルを発動した後も殆ど隙がない」

 

 菊花隊の戦い方は、血盟騎士団の個の戦闘力に頼る戦い方とは真逆の、洗練された連携による一切の隙のない攻撃だった。

 ヒースクリフの"神聖剣"の様なユニークスキルを持っている者は愚か、スキル自体も、派手なスキルを持っている者はいない。

 しかし、その差をカバーする様な、完璧な連携。

 

 「左方!1人ゲージが黄色だ!回復隊!リダが護衛に当たれ!」

 

 「はい!!」

 

 「前方3匹!続けて来るぞ!!ユーリーとエインで当たれ!」

 

 「「はい!!」」

 

 そしてその連携を可能にしているのは、スグルの的確な指示も大きかった。一切の無駄がなく、メンバー全員がそれぞれの仕事をこなしている。

 まるで訓練された軍隊の様に。

 

 結果、後方から襲って来るモンスター達は殆ど攻略組の元に行き着く事なく、菊花隊によって消滅させられていた。

 

 「……凄え……流石にオレンジやレッドから、"複数の番犬が来たら即座に逃げろ"と言われるだけあるな……」

 

 "連携"。それが菊花隊の真骨頂。このギルドは他プレイヤーからしばしば、"アインクラッドで最も統率の取れたギルド"と呼ばれる。

 これはリーダーのスグルが打ち編み出した戦い方で、交互にモンスターに攻撃を与える"スイッチ"を始め、攻撃専用のプレイヤー。回復専用のプレイヤー。モンスターの数が増えた際の予備要因と、それぞれの役割を持って戦闘に挑む。

 そして、その役割を駒の様にスグルが動かすと言うのが菊花隊の戦い方だった。

 

 

 「………面白い戦い方をするな……」

 

 

 すると、前衛から遠目にそれを見つめていたヒースクリフが、誰にも聞こえない声でポツリとそんな言葉を漏らした。

 

 

 

 

 

 

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