"菊の番犬"と呼ばれた部隊   作:キングコングマン

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洞窟の蝶

 

 「………行くよ」

 

 ボス部屋の前。

 緊張な面持ちでシンカーがそう言う。

 

 この先は、未知の世界。どんな死に方をしたっておかしくない。

 それを皆分かっているのか、強張った顔をするものばかりだ。

 

 _____ギィーー………_______

 

 ゆっくりと、大きく重い扉が開いていく。

 中は暗闇。何が居るか分からない。それが更にプレイヤー達の心を揺さぶる。

 

 「………行くぞ」

 

そんな中、ヒースクリフが一声掛けると血盟騎士団がゆっくりとその中へと入って行く。それに追随する様に、他のプレイヤーもボス部屋の中に入って行った。

 

 「………鳥籠……?」

 

 暗闇に目が慣れてくると、部屋の全体像が見えてくる。スグルの目に映ったのは、まるで自分達が大きな鳥籠の中に入れられたかの様な、異質なフィールドだった。

 

 ______ボッ__________

 

 するとフィールドを照らす様に松明の火が点き、暗闇から一転、周りの景色が露わになる。一瞬目が眩んだが、フィールドの全体像が明らかになる。

 

 「………居ない……?」

 

 プレイヤーの1人がそんな事を呟く。周りにはボスは愚か、他のモンスターさえ見当たらない。

 

 _____ヒュウウウゥゥゥ…………______

 

 すると、何処からか風切り音の様な音が聞こえる。外に繋がっているのか?

 そう思ったのも束の間_______

 

 ______ボウッ!!!!!_________

 

 「わあ!?」

 

 「ぐあっ!!!」

 

 突如として吹き荒れる暴風。

 突然の出来事に、プレイヤーの何人かが吹き飛ばされてしまった。

 

 「!?、上!!!!」

 

 すると、アスナが吹き飛ばされ無いよう必死で踏ん張りながら、上を指差して叫ぶ。

 その声に反応して、プレイヤーは一斉に顔を上げた。

 

 「んだありゃ!?」

 

 「飛んでる!?」

 

 フィールドの上空、我が物顔で翼を羽ばたかせているモンスター。

 翼を広げ、色とりどりの模様を携えたその羽は、今は絶望の色にしか映らない。

 

 

 その蝶型のモンスターの横には、《パピヨン・デ・グロッド》と名前が記してあった。

 

 

 「落ち着いて!!情報通りだよ!!!まずは風圧で吹き飛ばされない様、距離を取って!!!」

 

 シンカーがそう叫ぶと、プレイヤー達は一斉にパピヨンから離れる様に距離を取る。

 まずは情報の再確認。もし情報の通りなら次は……

 

 「耳を塞げ!!!!」

 

 「フオオォォォォォォォン!!!!!!!!!!」

 

 四条が叫ぶと同時に聞こえてきたのは、爆音。甲高く耳を貫く様なその音は、複数のプレイヤーを一瞬にして麻痺状態に変えてしまった。

 

 「ッチ!!!会議に参加しないから……!!!」

 

 悪態を吐く様に四条はそう言い放つ。何人かのプレイヤーに麻痺を示すアイコンが出ているが、それは一様に攻略会議に参加してない者ばかりだった。

 

 ________ブオッ!!!!_______

 

 そして続け様に暴風が吹き荒れる。

 

 「これじゃ……近付けない………!!!」

 

 飛ばされそうになる体をなんとか踏ん張り耐えて、ユーリーがそう言う。

 今までの雑魚モンスターとは明らかに違う大きさ、機動力、戦闘力。

そんな現実を目の当たりにして、菊花隊の面々は怯んでいる者ばかりだった。

 

 

 「落ち着け!!!考えろ!!!!」

 

 

 すると、一喝するようにスグルが叫ぶ。

 

 「冷静を保て!!取り乱せば間違った判断をするぞ!!!」

 

 普段からスグルが口酸っぱく隊員に言い聞かせている言葉。

 冷静さを失えば、人は間違った判断をする。

 その言葉で気付かされるように、菊花隊の表情が変わった。

 

 「………思い出せ。奴の弱点はその耐久性だ。攻撃を与えられる手段さえ見つかれば勝ち筋は見える」

 

 諭すようにスグルがそう言うと、菊花隊のメンバーは考える。シンカーから得た情報は、敵の耐久力は低く、飛行型。そして音響で麻痺を仕掛けてくる。それに加えて今の戦闘で暴風で相手を寄せ付けない事も加わった。

 この世界に弓などの飛び道具は無い。ならばその暴風攻撃が来ないタイミングを見計らい、一気に距離を詰めるて攻撃を喰らわすしかない。

 

 「まずは様子見だ。相手がどんな攻撃を、どんなタイミングで仕掛けてくるか。……幸い、回復アイテムはまだ山ほど残っている。まずは下手に攻撃せず相手を観察しろ!!」

 

 「「「「了解!!!」」」」

 

 スグルがそう言うと、メンバーは一歩引いた構えを取る。

 その圧倒的なリーダーシップでその場をまとめ上げる姿は、菊花隊を象徴するものだった。

 

 

 「お、おい、どうする?」

 

 「俺らも一回様子を見た方が良いんじゃ………」

 

 そしてその姿は、攻略組の面々にも影響を与え始めていた。今までの的確な指示、隊員の士気を下げさせない凛とした立ち振る舞い。

 それはカリスマ性とも呼ぶべきものだろうか。

 この人に着いて行けば、間違いは無いんじゃないだろうか?

 そう感じる程のの存在感を、スグルは今攻略組に見せつけている。

 

 「……………」

 

 一人、ヒースクリフはその光景を感心するように見つめていた。極限の戦いであるボス戦の最中である筈なのに、意識は完全にスグルの方へと向いている。

 

 「わあっ!?」

 

 「うぐっ……!!」

 

 パピヨンの攻撃は続く。暴風が吹き荒れる中、菊花隊の隊員は何処かに隙はないかと、目を凝らす。

 

 「1……2……3………」

 

 そんな中、敵の暴風圏内より遠くで、何かを確かめるように秒数を測る男がいた。

 

 「1……2……3………」

 

 幹部の1人、エインだ。暴風攻撃が止んでは秒数を測り、次の攻撃が来るまでの時間を測っている。

 

 「1……2……3………」

 

 プレイヤーを寄せ付けない暴風攻撃。それを喰らわない様に敵に近づくにはどうしたら良いのか?

 

 「1……2……3……よし……!」

 

 そして確認する様にそう言うと、エインはすぐさまスグルへと近づいて行った。

 

 「隊長。パピヨンの暴風攻撃、放った後に隙ができます」

 

 同じく離れた場所でパピヨンの攻撃を見ていたスグルに対し、そう報告する。

 

 「どのくらいだ?」

 

 「3.5秒ほど。その間にこっちの攻撃を当てられれば、もしくは」

 

 暴風吹き荒れる中、簡潔にそんなやりとりをするスグルとエイン。

 

 「それじゃ足りない。暴風圏内から奴の元まで5秒は掛かる」

 

 「菊花隊にそこまで早い隊員は………」

 

 「……ウチで1番早いのはユーリーだが、それでも恐らく届かないだろう」

 

 敵の暴風攻撃の隙は3.5秒。それまでは近づく事さえも出来ない。

 

 「この隙を突くのは無理ですかね……」

 

 悔しそうな表情でエインはそう言う。一度敵の暴風圏内に入れば、3.5秒を過ぎるとまた振り出しに戻される。

 問題はスピード。ならば"閃光"よりも早く、敵まで辿り着ける俊敏さを持つ者が必要となる。

 

 

 「………一人、居る」

 

 

 その時、スグルの頭に一人の少女の姿が浮かんだ。

 ボス部屋までの道中、誰よりも早かったその少女。

 

 「作戦だ。俺は血盟騎士団の方へ向かう。エインは俺が今から言う事を皆に伝えてくれ」

 

 「え?、は、はい」

 

 不敵に笑ってそう言うスグルに対し、エインは困惑気味に返事を返した。

 

 

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