"菊の番犬"と呼ばれた部隊   作:キングコングマン

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鼠と桜

 

 1.

 この広大なアインクラッドで生き残るには、情報が命だ。

 

 モンスターの情報、マップの情報、他プレイヤーの情報。

 一つでも多くの"情報"を手にした者が、有利にゲームを進められる。しかしこの世界には攻略サイトは無い。情報を集めるには全て自分の足で。だから大きなギルドともなると、諜報専門のプレイヤーを置く事もある。

 

 「……ご苦労。手応えは?」

 

 「………茅場に関してはまだまだだね」

 

 ここはアインクラッド第11層。タフトの街の路地裏。人気の少なく薄暗い雰囲気と同じく、小声で会話している2人のプレイヤーも黒のフードを被っている。

 

 「聞き方を変えよう。ヒースクリフに関しての情報はあるか?」

 

 「そっちなら進展あったよ」

 

 1人は男、もう1人は女性。情報を外に漏らさないためか、路地裏に踏まえて念を押して音声遮断のアイテムを使っている。

 

 「彼、いい情報を待ってるね。この前の31層がクリアされた時もそうだけど、オイラが知らない様な情報もほとんど把握してた。オイラが必死で裏を取った情報さえも、いとも簡単にね」

 

 女性としては特徴的な1人称を使い、男にヒースクリフに関する情報を伝える。薄暗くフードを被っていても、その金褐色の髪と両頬にペイントされた特徴的な3本の線が確認出来る。

 

 「………そうか。そこまでの情報をあっちが把握してると言う事は、血盟騎士団にも"情報屋"がいるのか?」

 

 「少なくとも血盟騎士団の中には居ないよ。アイツらの諜報スキルはからっきしだからね。戦闘一辺倒って感じ」

 

 少しおちゃらける様に、女性はそう言う。対して男は難しそうに腕を組んだ。

 

 「……お前以上にアインクラッドの情報を把握してるプレイヤーがいるとは思えん。……別の情報屋がヒースクリフに協力してる可能性はあるか?」

 

 「そこは分かんない。そもそもヒースクリフ自身が攻略以外では外にほとんど出て来ないプレイヤーだからね。どっかでパイプが繋がってたとしても、どうやってその情報を仕入れてるのか、検討もつかないや」

 

 「……一気にきな臭くなってきたな……」

 

 報告を一通り聞いて、難しい口調で男は呟く。

 情報屋が命懸けで集めたこの世界の情報を、ヒースクリフはいとも簡単に入手している。疑惑を深めるのには十分な材料だ。

 

 

 「ヒースクリフに関してはこんなもんかな?……あと、ラフコフに関しても新しい情報があるよ」

 

 

 すると、してやったりといった顔で、女性は自身ありげにそう言う。その情報は男としても予想してないものだったのか、少し驚いた様なリアクションを取る。

 

 「……無茶はしてないだろうな?」

 

 犯罪者ギルドの情報集めは、ある意味ボス攻略の情報を集めるよりもリスクが伴う。男が心配そうな口調でそう尋ねると、女性は不敵に笑った。

 

 「大丈夫、大丈夫。足跡は残してないよ」

 

 「そうじゃなくてお前が……まあいい。それで?何か分かったのか?」

 

 男がそう聞くと、今までヘラヘラとしていた女性の口調が、真剣味を帯びたものに変わる。

 

 

 「……ラフコフのリーダー、分かったかもしれない」

 

 

 「な!?」

 

 その一言を聞いて、意図せずとして男から大きな声が出てしまい、慌てて片手で自分の口を覆った。

 

 「……確定か?」

 

 こんな情報、最重要機密と言っていい。今までラフィン・コフィンという犯罪者ギルドがあるのは分かっていたが、その中身はほぼ謎と言って良かった。だからこそ前回の菊花隊の悪評が広まったと言っていい。

 

 しかしその内情が少しでも分かれば、大きな前進となる。

 

 「……裏は取ってない。情報って言っても噂程度だからね。」

 

 「……詳しく頼む」

 

 それでも、喉から手が出るほど欲しい情報だ。

 

 「25層の森で、ラフコフのメンバーが会話してるのを見たってプレイヤーが居る。腕に棺桶の紋章があったから、間違い無いって」

 

 「……それで?」

 

 「会話をしていたうちの1人が、『これであの人に認めてもらえる。やっぱり"ホップ"は考える事が違う』って、言ってたらしいよ」

 

 「……ホップ?」

 

 「プレイヤーネームなのか、それとも二つ名の類いなのかは分かんない。それを見たプレイヤーはそいつがなんか怖くてすぐ逃げ出しちゃったみたいだし……」

 

 女性も確定的な情報では無いからか、言葉に迷いがある。

 しかし、この情報だけでも大きな収穫だ。今まではそもそもラフコフにリーダーが居るか居ないかさえも分からなかった。それに加えて、このホップという名前。もしこいつがリーダーであるならば、ここからPKなどの指示が出ている可能性が高い。

 

 「ありがとう。それが分かっただけでもかなり大きい」

 

 そう言って男は被っていたフードを脱ぎ、顔を覗かせる。

 

 「いや、オイラに出来る事はこれぐらいだからさ。"桜花隊"の一員として、仕事をやっただけだよ。スグルさん」

 

 そして、同じくして女性もフードを脱ぐ。今度はその頬の3本線がハッキリと見えた。

 「お前の情報力には驚かされるばかりだよ。"アルゴ"」

 

 感心した様にスグルがそう言うと、女性、もといアルゴは少々照れる様な仕草を見せる。

 

 「いやいや、その代わり"コレ"はたっぷりと頂いておりますので」

 

 そんな照れを隠す様に、アルゴは顔の前でお金のジェスチャーを作る。彼女のプレイヤーネームは、アルゴ。通称、"鼠のアルゴ"。このアインクラッドでプレイヤー間での情報交換を生業とする、いわゆる情報屋だ。

 そして、菊花隊の裏の顔である諜報機関、"桜花隊"のメンバーでもある。

 

 「今のラフコフの情報、他のプレイヤーには売るなよ?」

 

 「分かってますよーそれぐらい。オイラは"サクラ"の人間だからねー」

 

 彼女の表向きの肩書は、ただの情報屋。どこに属することも無く、費用に対して相応の情報をプレイヤーに与える中立的な立場。

 しかしその裏では菊花隊の為に情報を集めている。そこにはスグルとの奇妙な出会いがあったのだが、ここでは割愛させていただく。

 

 「それならいい。……最近は"鼠"としても随分稼いでる様じゃ無いか?」

 

 すると揶揄う様にスグルからそう言われ、アルゴはそれに乗っかる様にニンマリと笑顔を見せる。ここでスグルが言った『鼠として』と言う言葉は、表向きのただの情報屋としてと言うことだ。

 

 「最近、お得意様が増えたもんで。やっぱり"ソロ"はいっぱい出してくれるからねー」

 

 「……随分な客を見つけたもんだな」

 

 そのお客様はどうも羽振りが良いのか、少し呆れた様子のスグルに対してアルゴ更に幸せそうな表情を見せる。

 

 「なんせ"黒の剣士"様ですから。レベルも高けりゃコルも大量って訳ですよ」

 

 黒の剣士。

 その言葉を聞いて、今度は驚いた表情を見せるスグル。

 

 「へぇ、なるほど。攻略の人間でソロとなれば、そりゃ羽振りもいいか」

 

 黒の剣士の噂は、スグルの耳にも届いている。なんでもこのアインクラッドでは珍しいソロプレイヤーらしく、自分の腕一本で攻略組にも参加している"変わり者"が居ると。

 

 「どんな奴なんだ?その黒の剣士様ってのは?」

 

 スグルは興味津々に、黒の剣士についてアルゴに聞く。

 この世界で1人で生きていくと決めたプレイヤーがどう言う人物なのか、スグルとしても気になるところではあった。

 

 「うーん、一言で言えば、"子供"かな?」

 

 「子供?」

 

 なんとも抽象的な答えに、首を傾げるスグル。

 

 「うん。何って言ったら良いのかな?とりあえず会ってみれば、その言葉がしっくり来るかも」

 

 「?」

 

 言葉で説明できないのか、聞き取りようでは馬鹿にしてるとも取れる発言をアルゴはする。しかし、表情は決して馬鹿にはしておらず、逆に何かを期待する様な表情をしていた。

 

 「今度会ったらスグルさんを紹介してみるよ。……もっとも、あの子がそれに応じるかは分かんないけど」

 

 困った様な笑みを浮かべてそう言うアルゴに、なんとなくスグルも察してしまう。

 

 「……なるほど、そう言う感じか」

 

 

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