感想など全て返して行こうと思うので気軽に書いてくれると幸いです。
警視庁捜査二課
______警察とは、正義では無い。
「どうしてもっと早く動いてくれなかったんですか!?」
基本的に"何か"が起こらないと行動できない。
「貴方達がもっと早く来てくれれば、こんな事にはならなかったのに!!!」
証拠もないのに怪しい人間を拘束する事は出来ない。"事件"が起きないと何も出来ない。
ヒーローの様に、何か誤ちが起こる前に解決する事はまず無い。
事件が起こってからの後始末。これが警察の仕事。
「あの子が死ぬ事も無かったのに!!!!!」
_______だから警察は、"正義"では無いのだ。
1、
警視庁捜査ニ課。言わずと知れた刑事警察であり、贈収賄や企業犯罪、特殊詐欺などのいわゆる"知能犯事件"を取り扱っている課だ。その課が設置されているとあるオフィスでは、あるゲーム機が話題に出ていた。
「ナーヴギア?」
20代後半くらいだろうか、若い男がそう呟く。
オフィスの一室、捜査ニ課の課長室では二人の男性が向き合っていた。一人は自分のデスクに座っており、もう一人はそれに対面する様に立っている。
「ああ、そうだ。最近話題になっているだろう?」
若い男の目の前でデスクに座っている初老一歩手前といった感じの男性が言葉を返す。
「…知らないですね」
「そうか、なら実物を見てもらった方が良いな」
すると初老の男は自身の机の下からヘルメットの様なものを出してきた。しかし、ヘルメットにしては何処か近未来的過ぎる。
「柳井さん、何ですか?それ」
若い男が初老の男性、柳井と呼んだ男にそう聞く。
「これがナーヴギアだよ。手に入れるのに苦労したんだ。何でもフルタイム?型とか言うゲーム用VRマシンらしい。四条君は知らないのか?」
「いえ、ゲームには疎いもので...」
柳井に若い男、四条と呼ばれた男が頭を掻いてそう言う。
目の前に出されたこのヘルメットの様な物体はナーヴギア。フルダイブ型のVRマシンであり、端的に言えばコントローラーの不要なVR型ゲーム機、と言えば良いだろう。
「何でも人の脳神経を直接この機会で読み取る事で、現実世界での手足や身体の動きをVRの世界に反映させるらしい」
付属の説明書を見ながら柳井がそう説明するが、四条はイマイチピンと来ていない様だ。
「はぁ、なるほど?で、それがどうしたんですか?まさか警察ともあろうお方が勤務中にゲームで遊ぼうと?」
肩をすくめて冗談っぽく言う四条。今のところ彼には目の前の物体が唯のVRゴーグルにしか見えない。
「それも良いかもしれないが、今回は歴とした仕事だよ」
柳井の"仕事"と言う言葉を聞いて四条の顔が一気に張り詰めた。ここからは警察としての仕事の話。四条の中に緊張感が走る。
「……ここ数年、インターネット上での犯罪、事件が増えている事は知っているな?」
「……えぇ、詐欺からイジメによる自殺、はたまた殺人に至るまで。大体の元を辿ればインターネット上のトラブルに行き着く事が多いですね」
インターネットの爆発的な普及。それは同時にそこでの犯罪率を高める事にもなった。ネットの世界にある莫大になった情報を取捨選択できずに騙され、犯罪に巻き込まれる人間を四条も何人か見てきたのだ。
「それを踏まえて今回、四条君にやって貰いたいのは、ナーヴギアを使っての調査だ。さっきも言った通り、このナーヴギアは脳神経の身体に対する信号を直接VRの世界に反映する。…つまりだ、今までパソコンの画面でしか出来なかったネット上での意思疎通を、ナーヴギアと言うVRを通じてよりリアルに出来るようになったと言う事だ。…これがどう言う意味か、君なら分かるだろう?」
柳井の説明に四条も真剣な表情で頷く。
「……トラブルが増えるのは、間違えありませんね…」
それはつまり、今までのネットの世界でパソコンの画面では見えなかった相手の表情、仕草などがナーヴギアでハッキリ分かる様になると言う事だった。匿名で、しかも自分の本当の声と姿を見せずに現実世界と同じ様に意思疎通が出来ると言う事は、犯罪者としては動きやすい事この上ない。
もしこれが詐欺師などの"騙す側"だとしたら、これ以上に食いつきの良い釣り場は無いのだ。
「このナーヴギアが、犯罪者の温床になる可能性があると?」
「流石に鋭いな。その通りだ。刑事上のトラブルはまだ少ないかもしれないが用心するに越した事はない。全く、科学の進歩も決して良いことばかりじゃ無いな。それどころか問題点は増すばかりだよ」
そう言ってため息を吐いて苦笑いをする柳井。ナーヴギアにより犯罪者が急増する前に何か手を打っておきたいと言うのが、彼の狙いだった。
「それで、僕はその、ナーヴギアを使って何をすれば良いんでしょうか?」
しかしゲームに疎い四条としてはこの機械を使ってどの様に調査をするのか全く検討もつかない。
「まあ、落ち着け。これは言った通りゲーム用のVRマシンだ。ならプレイをするソフトが必要だろう?」
柳井がそう言うと再びデスクから何かを取り出す。四条の目の前に出されたのはよくあるゲームソフトのパッケージだった。
そこには空中に浮かんでいる島の様なものが描かれ、中央にはタイトルであろう文字が書いてある。
「ソードアート……オンライン……?」
パッケージのタイトルを見て四条が呟く。
「そうだ。通称SAO。仮想現実を舞台としたVR MMOで茅場晶彦と言うゲーム開発者がデザインを手掛けた作品らしい。何でもこの茅場と言う男はナーヴギアの開発者でもあるそうだ。だから巷ではナーヴギアの性能を存分に引き出せるゲーム、との噂だ。そしてこのゲームの最大の特徴はインターネットを通じて世界中のプレイヤーとコミュニケーションが取れる点にある」
なるほど、パッケージの名前の通りこのゲームはオンライン上でのやり取りがメインらしい。と言う事は人と人との交流は仮想現実ながら増えるわけであり、そこに生ずるトラブルも大いに考えられる。
「なるほど、このゲームの世界で色々問題が無いか探ってくれと、そう言う事ですね?」
察しのいい四条に柳井も満足そうに頷く。
「ああ、君にはそこで調査をしてもらいたい。と言っても、深入りはしなくていいぞ。あくまでどんなゲームだったかを報告してくれるだけでいい」
あくまでも調査。犯罪捜査では無い事に四条も内心ホッとする。
「分かりました。じゃあ早速始めましょうか」
大体の説明を聞いたところで、四条がナーヴギアに手を伸ばすが柳井がそれを止める。
「まあ、待て。このゲームのオンライン正式サービスは明日からだ。今日は明日に備えての説明ともう一つ、君に同行する部下。つまり相棒を選んで欲しい」
柳井の相棒と言う言葉に四条が反応する。確かに目の前に用意されたナーヴギアは2台あるが……
「相棒?柳井さんが一緒にやるんじゃ無いんですか?」
てっきり柳井と一緒にプレイするものだと思っていた四条が疑問を口にする。
「……私も機械には疎いんだ。それに今は課長と言う肩書きもある。仕事であれゲームをしてたなんて上にバレたら後が面倒だからな」
「……僕では、問題ないと?」
不貞腐れる様にそう言う四条だが、柳井は快活に笑い飛ばした。
「ハハっ!そう言うな。それに、捜査ニ課でも一際優秀な君だ。そろそろ君も部下の扱い方と言うものを覚えてもらわないとな」
そう、この四条優と言う男は捜査二課でも"カミソリ"との異名を持つ程、腕の立つ刑事だった。要するに切れ者なのである。しかし、初めて自分の部下を持てると言うのに、四条は下を向いて俯いてしまった。
「……自分は部下を持つ様な人間ではありません。現場判断を誤る様な人間には…」
暗い声でそう言う四条に、柳井は少し心配そうな顔をして問いかける。
「……まだ、あの事件を引きずってるのか?」
「……」
「あれは不可抗力だ。君の責任じゃ無い」
「ですが……」
「どうもこうもない。終わった事件を後々まで引き摺るのは刑事として御法度だ」
キツい口調で柳井はそう言い切った。圧のある柳井の言葉に何も言えず四条は押し黙ってしまう。
重い沈黙が流れ、しばらくの無言の後、口を開いたのは再び柳井の方だった。
「……とにかく、パートナーはそっちで選んでくれ。そんなに難しい仕事でも無い。資料にも目を通しておいてくれ。いつまでも引き摺ってないでそろそろ前を向いてみろ」
口調を戻し、柳井は困り顔でそう言うと四条は短く一言、
「……分かりました。それでは、失礼します」
それだけ言って捜査ニ課の課長室から退出した。
2、
ビルの屋上、目立たない場所の片隅には申し訳程度の喫煙スペースが設けられている。四条はそこで一服をしていた。
「ゲームねぇ……」
ポツンと、独り言を漏らす四条。彼自身、ゲームをやるのは高校か大学生以来だった。当然、その時代にはナーヴギアなんて物は存在していないし、何ならVRMMOなんて言うゲームのジャンルでさえ無かった。
「まさか仕事でやる事になるとはな……」
タバコの煙を空に吐き出して考え込む四条。まず今までやってきた捜査とは毛色が全く違う。現実世界では無く仮想現実での調査だ。限りなく現実に近いが、それは唯のまやかしに過ぎない。恐らく、彼が警察だと言っても信じて貰えない者の方が多いだろう。それくらいの"偽装"ならあの世界では十分に可能だからだ。警察と言う肩書きは、あの世界では全く無意味と思っていい。
それと四条には柳井から貰った資料の中に、気になる一文を見つけていた。
"これは、ゲームであっても、遊びでは無い"
このゲームの開発者、茅場晶彦がどこかの週刊誌に向かって吐いた言葉。開発者である彼がフルダイブ型VRのリスクを危惧しての言葉だと週刊誌には紹介されているが、言い回しといい、四条には別の意味がある様に思えた。
「考え過ぎか……後は、誰を連れていくかだな……」
正直、四条の悩みの種の大半はこれだった。数々の刑事事件に関わってきた彼だが、部下を率いての調査は経験が無い。柳井に無理矢理押し付けられたとはいえ、上司に頼まれたのならやらなければならない。
少し考える。今回は仮想現実、ゲームの世界での仕事。恐らくそう言うところでも決められたルールや暗黙の了解などがあるだろう。
となれば、インターネットやゲームに詳しい人物を相棒にしたい。
「目星は一人、付いているんだがなぁ……」
四条の中では一人、心当たりのある人間がいるのだが、どうも何かが引っかかって躊躇している様だ。
「少し若過ぎるのがな……」
そう言って悩みながら一服を続ける四条。気付けばあっという間にタバコを一本吸い終えようとていた。しかし他の候補を探せと言われても四条には思い付かなかった。
「とにかく、アイツに話だけでも聞いてみるか……」
そう言って同時にタバコの火を消すと、再びビルの中へと戻っていった。
3、
「え?今何って言ったんすか?」
「だから、ソードアート・オンラインについて教えてくれと言ってるんだ」
"捜査ニ課"と入口に書かれたオフィスの一室で二人の男女が会話をしている。女性の方は驚いた顔で男性、四条を見ており、対する四条は何だか居心地の悪そうな表情をしていた。
「……へぇー、先輩、ゲーム興味ないって言ってたじゃ無いっすか」
女性の年齢は四条を先輩と呼ぶあたり、彼よりも歳下なのだろう。童顔で黒い髪をお団子ヘアにまとめており、結構スレンダーな体型をしている。下手をしたら高校生か中学生に間違われる様な見た目をしていた。
ニヤニヤと煽る様にしてそう言う女性に四条の眉間に少し皺が寄る。
「……プライベートの話じゃ無い。仕事の話だ。神崎はゲームに詳しいだろう?このゲームに関してもやってたりするのか?」
四条の言葉に、よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに神崎と呼ばれた女性が立ち上がった。
「そりゃ勿論っすよ!アタシはこのゲームがβ版の頃からやってたっすからね!!」
「β版?」
聞いたことのない言葉に四条は首を傾げる。
「あー、何って言うか、簡単に言うとオンラインの体験版みたいな物です。と言うかβ版知らないって、先輩ホントにゲームに疎いんすね」
「ゲーム歴は高校生で終わってるからな。それより体験版をやったと言う事はある程度詳しいんだろ?」
それなら話が早い。捜査、調査の基本はなるべく多くの情報を集める事だ。そう言う意味ではここにSAOのプレイヤーが居るのは、四条にとってかなりありがたい事だった。
「まあ、ある程度は。と言うか先輩、ナーヴギアを使って仕事なんて、一体何をするつもりなんすか?」
警察がゲームを使っての仕事をするなんて聞いたことが無い。純粋に疑問に思った神崎は四条にそう尋ねる。
「調査だ。仮想現実を創るあのゲーム機が犯罪者達の温床になるかも知れないと言う事だ。少なくとも、課長はそう思っているらしい」
「へぇー、なるほどー。まあ、いい読みしてるんじゃないすか?確かにフルダイブ型のVRだと現実世界とあまり変わらないっすから、詐欺師とかが目を付けやすいかもしれないっすね」
神崎も早くもナーヴギアのリスクに気付いた。やはり普段からオンラインゲームをしている分、その世界でのトラブルに詳しいのだろう。この理解の早さにやはり相棒にするなら彼女しか居ないと、四条の心が決まる。
「理解が早くて助かる。そこでだ神崎、今回の案件、ナーヴギアは2つ用意されている。……俺に任された案件だが生憎ゲームには詳しく無いからな。お前の知識が欲しい」
「え?それって?」
「明日から正式サービスなんだろう?一緒に行くぞ」
四条に誘われて神崎の目が一層輝く。
「おぉー、マジっすか!?いやー、まさか仕事でSAOの世界に入れるとは思わなかったっすねー!!」
仕事でもゲームができると思っているのか、神崎のテンションが妙に高い。
「一応言っておくが、遊びじゃ無いぞ?歴とした仕事で行くんだからな?」
勘違いしてもらっては困るので一応四条も釘を刺しておく。ゲームであって遊びでは無い。週刊誌の茅場の言葉を四条は思い出していた。
「勿論分かってるっすよ、まぁ、任せて下さい!アタシがSAO初心者の先輩に色々教えてあげるっす!!」
元気いっぱいにそう言うと神崎はサムズアップを決める。
「はぁ、全く、調子のいいやつだな……」
対して、四条はため息を一つ吐いてそう言い放った。