1.
「作戦を伝える。基本は2人一組。メイは迷いの森には入らず、ピー太を使って他のプレイヤーを探してもらう。その中で怪しい人物が居たらマークをするんだ」
「「「「はい!!」」」」
スグルの説明に、ユーシを含めた4人はすぐさま返事を返す。
今司令室にいるのはユーシ、メイの幹部2人と他3人の菊花隊隊員。そして隊長のスグルと副隊長のユーリーの7人。与えられた迷いの森のマップを見比べながら、会議は緊張感を持って進む。
「は、はい!」
1テンポ遅れてメイも返事を返す。しかしその表情は緊張でガチガチになっていた。
「特定出来る可能性はどのくらいでしょうか?」
ユーシがマップを見ながらスグルに質問をする。迷いの森はかなり広大なマップだ。その中でたった1人のプレイヤーを見つけるのは、相当難しい。
「先程も言った様に相手は自分の手を汚さずグリーンを装っている。確率はハッキリ言って少ないと言わざるを得ないだろう。しかしそこにいるプレイヤー達を把握できれば、ある程度は絞れる」
「もし特定出来なくても、無駄では無いと言う事ですね……」
スグルの回答に、ユーシは顎に手を当てる仕草を見せる。そして今度は顔をメイの方へと向けた。
「メイさん。ピー太は迷いの森の捜索、全域をカバー出来ますか?」
「え!?あ、は、はい。迷いの森は一度ピー太と飛んだ事がありますので」
緊張気味ながらも、メイはユーシの問いかけにそう返す。しかし、その表情には自信が感じられない。
「………で、でも、迷いの森って道自体も木の影に隠れてる様な場所なんです」
「と言うと?」
言葉を続けるメイに対し、ユーシも質問を続ける。
「プレイヤーもそれに隠れて見つからないって事があるかも知れません……」
「なるほど、そう言う事か……」
メイから回答を聞くと、再びユーシは顎に手を当てる。空からの捜索は確かに視認性が良いが、その殆が木々に隠れているとなると話は別だ。そんな難しい顔をしているユーシの姿を見て、メイは俯いてしまう。
「ご、ごめんなさい……役に立てなくて……」
「あ、いや、メイさんを責めてるわけじゃありません。僕たちが地上で捜すよりも、断然確率は良いですから」
目に見えて落ち込んでいるメイに対し、慌ててユーシはフォローを入れる。
「………ともかく、この作戦の肝はメイとピー太だ」
「うぅ…………」
スグルからのプレッシャーの掛かる言葉に、更に縮こまってしまうメイ。
「大丈夫っすよ!メイちゃんいっつも良い情報をアタシらにくれるんすから!今回だって気負うことなんて全然無いっす!」
そんなメイをユーリーが励ます。メイが作戦に参加する時は、いつもこんな感じだ。常に自信が無いので、常に誰かが励ましている。
「で、でもぉ……」
「深呼吸っす!ほら、吸ってー……」
「……すぅー」
ユーリーに言われるがままに、メイは大きく息を吸う。
「はいてー……」
「はぁーー……」
「吸ってー……」
これを何度か繰り返し、再びユーリはメイに聞く
「はい!どうっすか?リラックス出来たっすか?」
「ぜ、全然です……」
「えー!?」
どうにもこの自信の無さをどうにかするのは、一筋縄では行かないらしい。
2.
「よし、ここにしましょう」
35層、迷いの森の外れ。
見渡しの良い場所を見つけ、周りに危険が無いかを確認すると、ユーシがそう呟く。
「ここからなら捜索もしやすいでしょう。モンスターが襲って来る可能性もありますので、メイさんの護衛はウォーロングさんに頼んでも良いですか?」
「了解。いいぞ」
続けてユーシがそう言うと、ウォーロングと呼ばれた隊士も快く返事を返す。メイがピー太と視覚共有している時は、基本的にメイが見ている景色は空からのものだ。すると、自分の身体がどうしても無防備になってしまう。なのでモンスターに襲われる可能性がある圏外で探索をする時は、最低一人護衛を付けるのが基本だった。
「他の3人は僕含め迷いの森に入ります。マップにマーキングをしてますので、各自ポイントに就いて下さい」
「「了解!」」
ユーシの説明に、隊員達からもハキハキとした返事が返ってくる。具体的な作戦としては、まずは森の中に3人の隊員を配置。その上でメイが空からプレイヤーを探し出し、アイテムを通して隊員達に伝え一番近い隊員が急行すると言うものだ。
「メイさんはプレイヤーを見つけたらできる限りでいいのでその人の特徴を教えてください。オレンジやレッドが居たら直ぐに報告をお願いします」
「は、はい!」
「それでは、行きましょう」
「「「了解!!」」」
締めるようにユーシがそう言うと、3人は森の中へと消えて行く。
メイはそれを見届けると、自分を落ち着かせるように一つ大きく深呼吸をした。
「………ふぅー………行くよ、ピー太」
短く、一言そう言うと、メイは左腕を前に差し出す。それに応えるようにピー太が「ピィ」と短く鳴くと、肩から左腕に飛び乗り、飛行の体勢を取った。
「ふっ!!」
そしてその左腕を空に向かって大きく振り上げる。
振り上げられた手からカタパルト射出されて行く戦闘機の様に、ピー太はバサバサっと大きな羽音を立て、大空へと飛び立って行った。
3.
「上手く行くっすかねぇ……」
菊花隊本部。司令室でユーリーが難しい顔でそう呟く、
「……今回の捜索で探し当てる事は難しいだろう。大事なのは該当するプレイヤーを絞り込む事だ」
それに対し、スグルも少し険しい顔でそう返す。
「だから5人なんすか?」
ユーリーの問い掛けに、スグルは頷く。
本来ならば、迷いの森などの広大なマップで捜索をするとなると、もっと人数を割かなければならない。しかし、今はそれが出来ない理由があった。
「ここで捜索に人数を割いたら、下手したらラフコフが動くかもしれないからな」
犯罪者ギルドは、今迷いの森に隠れている奴だけでは無い。オレンジやギルドは嬉々として他プレイヤーを陥れる策を練って来る。もしここで菊花隊の警備が手薄になれば、ラフコフなどの犯罪者ギルドが動く可能性は十分にあり得る。
「……素性さえ分かれば、あとは早いんすけどね」
苦虫を噛み潰したように、ユーリーが恨めしくそう呟く。表立って活動をするオレンジやレッドよりも、グリーンに紛れていると言う手合いは、思った以上に厄介だった。
「焦るな。ある程度の素性は割れてる。見つけたらいつも通り確保して監獄に行ってもらうだけだ」
そう言うと、スグルは窓の外に目線を移す。
「……タイタンズハンド。ここで潰しておくぞ」
今回の逮捕目標であるオレンジギルドの名前。スグルがそう言うと、ユーリーも強く頷く。
「……そうっすね。……まあ、アタシは別の方面でも"気になっている"ところではあるんすけどね?」
今までの緊張感の張り詰めた雰囲気から一転、何処か面白がる様にユーリーはそう言う。
「……何のことだ?」
ユーリーが何を言おうとしているのか見当も付かず、スグルは首を傾げる。
「えー?気付かなかったんすか?先輩。メイちゃん、あんなにあからさまだったのに」
「……?」
尚もピンと来てないスグルに対し、ユーリーは軽くため息をついた。
「……まあ、そうっすよねー。先輩に乙女心が分かったら、アタシもこんな苦労して無いっすもん」
「?…………?」
このスグル、もとい四条優という男は、どうやら色恋沙汰に関してはまるっきりセンスが無いようだ。