"菊の番犬"と呼ばれた部隊   作:キングコングマン

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迷いの森②

 

 「……森の南西、プレイヤーが4人居ます」

 

 空からの目。

 ピー太と視覚共有しているメイが、通信用のアイテムを通して隊員たちに情報を伝える。

 

 『近付けますか?』

 

 「は、はい。可能な限り近づいてみます。……ピー太、行くよ」

 

 ユーシの問いかけにメイそう返すと、ピー太は高度を下げて行く。

 連携はうまく行っている。メイの報告をユーシが受け取り、的確に指示を出す。

 そして木陰になる様、木の幹にピッタリ止まり、ピー太の視覚を通してプレイヤーを確認する。

 

 「……男性が4人。街の方向へ向かってます。……恐らく狩りの帰りでしょう」

 

 『様子はどうです?』

 

 「皆さん和気藹々と喋りながら歩いています。多分、ずっとこのメンバーでやって来た感じの……」

 

 『……分かりました。特徴はありますか?』

 

 「えっと……皆さん武器に星のマークが付いています。見た事ないですが、多分ギルドの紋章だと思います」

 

 『了解です。そっちはもういいので、また別のプレイヤーの捜索をお願いします』

 

 「りょ、了解です!」

 

 ユーシの指示に、素直に従うメイ。再びピー太を空へと羽ばたかせる。

 現在メイが発見したプレイヤーは、併せて3組。高難易度のフィールドとあってか、皆集団で行動している。メイから得た情報を元にギルドの特徴が報告されるが、今のところ怪しげなギルドは無い。

 

 「………もう居ないか?……いや、それにしては何か引っ掛かる……」

 

 森の中、ユーシが独り言を呟く。この何処かに例のオレンジギルドが居た事は確定的なのだが、もう既にこの森を出ている可能性もある。そのリスクを考えると、時間が長引けば長引く程探し当てるのは困難になって来る。

 しかし、何も痕跡が残っていないと言うのが、ユーシにとっては気掛かりだった。もしプレイヤーがキルされた場合、少なからず森のどこかでは騒ぎになる筈だ。だが今のところその情報は一切入っていない。仮に今起きたとしても、ピー太とメイがそれを見逃すはずが無かった。

 

 「………もう少し探してみましょう」

 

 『りょ、了解です』

 

 通信アイテム越しにユーシがそう言うと、メイから緊張気味の返事が返ってくる。まだこの森の中で機会を伺っているのか、それともPKはここでは起こせないと判断して既に森を抜けたのか。ユーシには計りかねた。

 

 

 ____________

 

 

 空からの景色というのは、最大の情報源となる。

 大昔なら気球。少し時代が進めば飛行機。現代になれば衛生などの宇宙から情報を得る事が出来る。

 そしてそれはゲームの中でも、かなりのアドバンテージとなる。モンスターから攻撃されない安全圏から、質の高い情報が得られるのだ。

 

 『……人数は6、い、いや、7人です。……この紋章は、アーリーグロウのギルドですね』

 

 「了解です。怪しい動きをしている人は居ますか?」

 

 『いえ、それらしき人は……』

 

 そして正確な報告。

 このメイという少女、見かけによらず観察眼が鋭い。その人物の特徴や仕草。雰囲気などを見極める能力が高いのだ。

 

 空からの高い諜報能力とメイ自身の鋭い観察眼。

 

 菊花隊が重宝するのも頷ける人材だ。

 

 「……分かりました。そろそろ終わりにしましょう。何か手掛かりでも掴めれば良かったんですが、そうも行きませんね」

 

 一つため息をつき、冗談めいてそう言うユーシ。

 

 『す、すみません!役に立たなくて……』

 

 「い、いや!メイさんを責めてるわけじゃ無いですよ!」

 

 『うぅ……すみません……』

 

 何故か謝るメイに対し、ユーシが慌ててフォローを入れる。後はその自信の無さをどうにかすればもっと良くなるのだが……

 

 「とにかく今日は終わりです。……夜間の迷いの森はフロアから抜け出すのが非常に困難です。撤収しましょう」

 

 締めるようにユーシがそう言うと、他の隊員達から「了解」と返事が返ってくる。

 

 「……了解です」

 

 メイも一つ遅れて返事を返す。

 そして再びピー太を空へと羽ばたかせ、自分のところへと戻そうとしたその時だった。

 

 

 「………ん?」

 

 

 視覚共有しているピー太の視界に、何かが入る。

 日も沈みかけている森の奥、何かが動いている。唯のモンスターだろうか?

 ……いや、そもそもエンカウントしなければモンスター自体現れない筈だ。では、プレイヤーの誰かがモンスターと戦っているのだろうか?

 

 「ひ、東側で誰かがモンスターと戦っているかもしれません。最後に見てもいいですか?」

 

 『……分かりました。向かって下さい』

 

 ユーシの了承を得ると、メイ。もといピー太はその場所へと飛んで行く。森の木々で見えにくいが、段々と全貌が明らかになってきた。

 中型のゴブリンが数体居る。この数を相手してると言う事は、ギルドの複数人で相手をしていると言う事だろうか?

 

 確認するためにピー太はもう少し近づく。すると驚きの光景がそこにあった。

 

 「………っ!!」

 

 メイは絶句する。プレイヤーは1人。しかも少女。タガーを持っているが、ゴブリン相手に全く歯が立っていない。

 そして何より_______

 

 

 

 「森の東側!プレイヤーが1名モンスターと戦っています!!かなり劣勢!ゲージも黄色から赤に変わりかけています!!!」

 

 

 

 ゲームオーバー寸前。

 正にそう言ってもいい様な状態のプレイヤーが居た。

 

 『!!、向かいます!!詳細の場所を教えて下さい!!!』

 

 メイの叫びの様な報告に即座に反応したのは、ユーシだった。

 

 「森の東側!小川に掛かる石橋を南東に進んだ辺りです!!」

 

 『了解しました!!自分が一番近いです!!メイさんはそのままそのプレイヤーを見張って下さい!!逐次報告をお願いします!!!』

 

 「は、はい!」

 

 報告のあって地点に向けてユーシは猛然と走る。

 プレイヤーを補助するビーストではあるが、ピー太自身には戦闘能力は全く無い。

 なのでユーシ自身が現場に急行する他ないのだ。

 

 

 「ど、どうすれば……っ!」

 

 そして、メイは狼狽えていた。目の前、いやピー太の視界を通した眼前では1人のプレイヤーがゲームオーバーになろうとしている。

 しかし、何も出来ない。

 今からメイが現場に向かったとしてもまず間に合わないし、よしんば到着したとしても迷いの森でモンスターと戦えるほどのスキルをメイは持ってない。

 

 言うなれば、1人の少女を見殺しにしている様なもの。

 

 そんな事実に、自責の念がメイに積もる。

 

 「ユーシさん!!あとどれくらいで着きますか!?」

 

 助けを求める様に、メイが叫ぶ。

 

 『あと少しです!!今、石橋が見えました!!』

 

 「っ!!」

 

 メイは直感する。これじゃ間に合わない。最悪の光景がメイの脳裏に浮かぶ。目の前で、何も出来ずに1人のプレイヤーが散って行く姿を。

 

 

 

 「ピー太……どうしよう……!」

 

 

 

 震えた声で、助けを求める様にメイは呟く。

 

 すると、思いもよらない出来事が起こった。

 

 

 「!?、ピー太!!何を……!!」

 

 

 _____________

 

 

 

 「……はぁ、はぁ……」

 

 少女は追い込まれていた。

 目の前には敵モンスターであるゴブリン。それも一体だけでは無い。数体のゴブリンが絶え間無く攻撃を与えてくる。ジリ貧になるのは明らかだった。しかしもう回復アイテムも無い。

 

 「キュイーーーー」

 

 その時、少女のHPゲージが僅かながらに回復した。

 彼女が回復したのでは無い。

 

 「はぁ、はぁ……ピナ……」

 

 少女の横に居る、薄い青色の小さな竜の様な生物。

 そう、彼女はビーストテイマーだった。それも回復系の。しかし少しHPを回復したとて、ゴブリンの攻撃が収まる事は無い。

 

 「きゃあっ!!」

 

 遂にゴブリンの一撃を喰らい、大きく後ろに跳ね飛ばされる少女。遂にゲージが黄色から赤に変わる。

 

 「はぁ……はぁ……もう、何も……」

 

 少女の顔色が絶望に染まる。

 逃げなければ。しかし恐怖で手足が震える。

 ここに来て、ようやく実感する。

 

 

 この世界でゲームオーバーになれば、現実での命も失うのだと。

 

 

 

 「ごめん……ママ、パパ……」

 

 

 

 俯き、諦めた口調で少女は呟いて、祈る様に目を瞑った。

 しかしそんな少女の心を踏み躙るかの様に、ゴブリンは攻撃の体制を取る。

 

 そして次の瞬間_______

 

 

 

 _________ピィィィーーーーーーーッ!!!____________

 

 

 

 

 勇猛な、気高い鳴き声。

 

 ________グシャっ!!!__________

 

 そして鈍い音が響き渡る。

 少女がやられたのだろうか?……いや、違う。

 

 「…………え?」

 

 少女は呆けた様な声を出す。やられたのは自分でも、ましてや自身が使役しているビーストでも無い。

 

 「……………」

 

 隣を見渡すと、倒れてピクリとも動かない鷹の姿が少女の目に入った。

 

 「わ、わたしを………」

 

 一歩、その鷹に近づこうとする少女。

 

 

 __________グオォォォォォォ!!!___________

 

 

 それも束の間、再びゴブリンが襲い掛かる。

 今度こそやられる。少女は諦めた様にゴブリンの攻撃を見つめる。

 

 

 しかし、その攻撃が届く前にゴブリンは散って行った。

 

 

 「ふっ!!!」

 

 

 男の声が少女の耳に入る。そして次に目にしたのは、刀。

 その軌道は、他のモンスター達を次々と切り裂いて行った。正に一瞬。流れる様な動作で敵モンスターのHPをゼロにまで削って行く。

 全てのモンスターが倒されると、倒した人物のシルエットがくっきりと見えてきた。

 

 白の衣装。菊花紋章の胸バッジ。凛とした佇まい。

 

 

 

 「菊花隊………」

 

 

 

 気が抜け切った声で、少女はそう呟いた。ヘタリと、ぷつりと糸が切れた様にその場に座り込む。

 

 「………大丈夫ですか?」

 

 一言、ユーシは少女に対してそう尋ねる。

 

 「え、あ……は、はい!ありがとうございます!それより……」

 

 一言礼を述べ、少女は先程助けてくれた恩人に目を向ける。同じくユーシも少女と同じ方向に目を向けた。

 

 

 「!!、ピー太!!なんで……!!」

 

 

 ユーシが目にしたのは、変わり果てた姿になったピー太だった。すぐさま駆け寄るが、息も絶え絶え。HPゲージは赤では無く、ゼロになっていた。

 

 「これは……」

 

 すぐさまユーシはピー太を抱きかかえるが、その瞬間、淡い光を纏ってピー太はその光と共に散って行った。

 

 「ピー太!!」

 

 ユーシは叫ぶが、それも虚しく手には先程まであったピー太の重みだけが残っていた。

 間違いない。ピー太はこの少女を庇ったのだろう。

 

 「クソっ!!……もうちょっと早く来れていれば……」

 

 拳を地面に叩きつけ、悔しがるユーシ。

 自分がもう少し早く到着していれば、こんな事にはならなかったと、自責の念が彼の中で湧いていた。

 

 「あ、あの……」

 

 そんな彼に、少女はおずおずと話しかける。それによって幾分かユーシも冷静さを取り戻した。

 立ち上がり、少女の方へと振り返る。

 

 「あ……すみません。……怪我は無かったですか?」

 

 「は、はい。それより、その……ごめんなさい………わたしのせいで……」

 

 俯き、本当に申し訳なさそうに少女はユーシに謝る。助かったのは良いが、彼女もビーストテイマー。家族とも言える相棒を失った悲しさは計り知れなかった。

 

 「いや……それは……」

 

 ユーシの脳裏に浮かんだのは、メイの姿。

 そう言えば今、彼女は……

 

 ユーシはすぐさまアイテム欄から通信用のアイテムを取り出す。するとタイミング良く、着信が入った。メイの護衛を担当していたウォーロングからだ。すぐさまユーシは応じる。

 

 『やっと繋がった!!ユーシ!!そっちはどうなってる!?』

 

 ウォーロングは何やら焦っている様子だ。

 

 「ピー太がやられました!メイさんは大丈夫です!?」

 

 予想が当たっていれば、彼女は……

 

 

 

 『大丈夫じゃねえからお前に連絡したんだよ!とりあえずメイが錯乱しちまってる!』

 

 

 

 やはりなと、ユーシは悲痛な表情を浮かべる。

 

 「分かりました。とりあえずそのままメイさんを見てやってください!他隊員はすぐに撤収を!」

 

 「「「了解」」」

 

 それだけ伝えると、ユーシは通信を切る。

 そして目線を再び少女へと向けた。

 

 「……とりあえず、お話を聞きたいので、付いて来てもらってもいいですか?」

 

 有無を言わせないユーシの表情に、少女の顔も強張る。

 

 「は、はい」

 

 

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