「……森の南西、プレイヤーが4人居ます」
空からの目。
ピー太と視覚共有しているメイが、通信用のアイテムを通して隊員たちに情報を伝える。
『近付けますか?』
「は、はい。可能な限り近づいてみます。……ピー太、行くよ」
ユーシの問いかけにメイそう返すと、ピー太は高度を下げて行く。
連携はうまく行っている。メイの報告をユーシが受け取り、的確に指示を出す。
そして木陰になる様、木の幹にピッタリ止まり、ピー太の視覚を通してプレイヤーを確認する。
「……男性が4人。街の方向へ向かってます。……恐らく狩りの帰りでしょう」
『様子はどうです?』
「皆さん和気藹々と喋りながら歩いています。多分、ずっとこのメンバーでやって来た感じの……」
『……分かりました。特徴はありますか?』
「えっと……皆さん武器に星のマークが付いています。見た事ないですが、多分ギルドの紋章だと思います」
『了解です。そっちはもういいので、また別のプレイヤーの捜索をお願いします』
「りょ、了解です!」
ユーシの指示に、素直に従うメイ。再びピー太を空へと羽ばたかせる。
現在メイが発見したプレイヤーは、併せて3組。高難易度のフィールドとあってか、皆集団で行動している。メイから得た情報を元にギルドの特徴が報告されるが、今のところ怪しげなギルドは無い。
「………もう居ないか?……いや、それにしては何か引っ掛かる……」
森の中、ユーシが独り言を呟く。この何処かに例のオレンジギルドが居た事は確定的なのだが、もう既にこの森を出ている可能性もある。そのリスクを考えると、時間が長引けば長引く程探し当てるのは困難になって来る。
しかし、何も痕跡が残っていないと言うのが、ユーシにとっては気掛かりだった。もしプレイヤーがキルされた場合、少なからず森のどこかでは騒ぎになる筈だ。だが今のところその情報は一切入っていない。仮に今起きたとしても、ピー太とメイがそれを見逃すはずが無かった。
「………もう少し探してみましょう」
『りょ、了解です』
通信アイテム越しにユーシがそう言うと、メイから緊張気味の返事が返ってくる。まだこの森の中で機会を伺っているのか、それともPKはここでは起こせないと判断して既に森を抜けたのか。ユーシには計りかねた。
____________
空からの景色というのは、最大の情報源となる。
大昔なら気球。少し時代が進めば飛行機。現代になれば衛生などの宇宙から情報を得る事が出来る。
そしてそれはゲームの中でも、かなりのアドバンテージとなる。モンスターから攻撃されない安全圏から、質の高い情報が得られるのだ。
『……人数は6、い、いや、7人です。……この紋章は、アーリーグロウのギルドですね』
「了解です。怪しい動きをしている人は居ますか?」
『いえ、それらしき人は……』
そして正確な報告。
このメイという少女、見かけによらず観察眼が鋭い。その人物の特徴や仕草。雰囲気などを見極める能力が高いのだ。
空からの高い諜報能力とメイ自身の鋭い観察眼。
菊花隊が重宝するのも頷ける人材だ。
「……分かりました。そろそろ終わりにしましょう。何か手掛かりでも掴めれば良かったんですが、そうも行きませんね」
一つため息をつき、冗談めいてそう言うユーシ。
『す、すみません!役に立たなくて……』
「い、いや!メイさんを責めてるわけじゃ無いですよ!」
『うぅ……すみません……』
何故か謝るメイに対し、ユーシが慌ててフォローを入れる。後はその自信の無さをどうにかすればもっと良くなるのだが……
「とにかく今日は終わりです。……夜間の迷いの森はフロアから抜け出すのが非常に困難です。撤収しましょう」
締めるようにユーシがそう言うと、他の隊員達から「了解」と返事が返ってくる。
「……了解です」
メイも一つ遅れて返事を返す。
そして再びピー太を空へと羽ばたかせ、自分のところへと戻そうとしたその時だった。
「………ん?」
視覚共有しているピー太の視界に、何かが入る。
日も沈みかけている森の奥、何かが動いている。唯のモンスターだろうか?
……いや、そもそもエンカウントしなければモンスター自体現れない筈だ。では、プレイヤーの誰かがモンスターと戦っているのだろうか?
「ひ、東側で誰かがモンスターと戦っているかもしれません。最後に見てもいいですか?」
『……分かりました。向かって下さい』
ユーシの了承を得ると、メイ。もといピー太はその場所へと飛んで行く。森の木々で見えにくいが、段々と全貌が明らかになってきた。
中型のゴブリンが数体居る。この数を相手してると言う事は、ギルドの複数人で相手をしていると言う事だろうか?
確認するためにピー太はもう少し近づく。すると驚きの光景がそこにあった。
「………っ!!」
メイは絶句する。プレイヤーは1人。しかも少女。タガーを持っているが、ゴブリン相手に全く歯が立っていない。
そして何より_______
「森の東側!プレイヤーが1名モンスターと戦っています!!かなり劣勢!ゲージも黄色から赤に変わりかけています!!!」
ゲームオーバー寸前。
正にそう言ってもいい様な状態のプレイヤーが居た。
『!!、向かいます!!詳細の場所を教えて下さい!!!』
メイの叫びの様な報告に即座に反応したのは、ユーシだった。
「森の東側!小川に掛かる石橋を南東に進んだ辺りです!!」
『了解しました!!自分が一番近いです!!メイさんはそのままそのプレイヤーを見張って下さい!!逐次報告をお願いします!!!』
「は、はい!」
報告のあって地点に向けてユーシは猛然と走る。
プレイヤーを補助するビーストではあるが、ピー太自身には戦闘能力は全く無い。
なのでユーシ自身が現場に急行する他ないのだ。
「ど、どうすれば……っ!」
そして、メイは狼狽えていた。目の前、いやピー太の視界を通した眼前では1人のプレイヤーがゲームオーバーになろうとしている。
しかし、何も出来ない。
今からメイが現場に向かったとしてもまず間に合わないし、よしんば到着したとしても迷いの森でモンスターと戦えるほどのスキルをメイは持ってない。
言うなれば、1人の少女を見殺しにしている様なもの。
そんな事実に、自責の念がメイに積もる。
「ユーシさん!!あとどれくらいで着きますか!?」
助けを求める様に、メイが叫ぶ。
『あと少しです!!今、石橋が見えました!!』
「っ!!」
メイは直感する。これじゃ間に合わない。最悪の光景がメイの脳裏に浮かぶ。目の前で、何も出来ずに1人のプレイヤーが散って行く姿を。
「ピー太……どうしよう……!」
震えた声で、助けを求める様にメイは呟く。
すると、思いもよらない出来事が起こった。
「!?、ピー太!!何を……!!」
_____________
「……はぁ、はぁ……」
少女は追い込まれていた。
目の前には敵モンスターであるゴブリン。それも一体だけでは無い。数体のゴブリンが絶え間無く攻撃を与えてくる。ジリ貧になるのは明らかだった。しかしもう回復アイテムも無い。
「キュイーーーー」
その時、少女のHPゲージが僅かながらに回復した。
彼女が回復したのでは無い。
「はぁ、はぁ……ピナ……」
少女の横に居る、薄い青色の小さな竜の様な生物。
そう、彼女はビーストテイマーだった。それも回復系の。しかし少しHPを回復したとて、ゴブリンの攻撃が収まる事は無い。
「きゃあっ!!」
遂にゴブリンの一撃を喰らい、大きく後ろに跳ね飛ばされる少女。遂にゲージが黄色から赤に変わる。
「はぁ……はぁ……もう、何も……」
少女の顔色が絶望に染まる。
逃げなければ。しかし恐怖で手足が震える。
ここに来て、ようやく実感する。
この世界でゲームオーバーになれば、現実での命も失うのだと。
「ごめん……ママ、パパ……」
俯き、諦めた口調で少女は呟いて、祈る様に目を瞑った。
しかしそんな少女の心を踏み躙るかの様に、ゴブリンは攻撃の体制を取る。
そして次の瞬間_______
_________ピィィィーーーーーーーッ!!!____________
勇猛な、気高い鳴き声。
________グシャっ!!!__________
そして鈍い音が響き渡る。
少女がやられたのだろうか?……いや、違う。
「…………え?」
少女は呆けた様な声を出す。やられたのは自分でも、ましてや自身が使役しているビーストでも無い。
「……………」
隣を見渡すと、倒れてピクリとも動かない鷹の姿が少女の目に入った。
「わ、わたしを………」
一歩、その鷹に近づこうとする少女。
__________グオォォォォォォ!!!___________
それも束の間、再びゴブリンが襲い掛かる。
今度こそやられる。少女は諦めた様にゴブリンの攻撃を見つめる。
しかし、その攻撃が届く前にゴブリンは散って行った。
「ふっ!!!」
男の声が少女の耳に入る。そして次に目にしたのは、刀。
その軌道は、他のモンスター達を次々と切り裂いて行った。正に一瞬。流れる様な動作で敵モンスターのHPをゼロにまで削って行く。
全てのモンスターが倒されると、倒した人物のシルエットがくっきりと見えてきた。
白の衣装。菊花紋章の胸バッジ。凛とした佇まい。
「菊花隊………」
気が抜け切った声で、少女はそう呟いた。ヘタリと、ぷつりと糸が切れた様にその場に座り込む。
「………大丈夫ですか?」
一言、ユーシは少女に対してそう尋ねる。
「え、あ……は、はい!ありがとうございます!それより……」
一言礼を述べ、少女は先程助けてくれた恩人に目を向ける。同じくユーシも少女と同じ方向に目を向けた。
「!!、ピー太!!なんで……!!」
ユーシが目にしたのは、変わり果てた姿になったピー太だった。すぐさま駆け寄るが、息も絶え絶え。HPゲージは赤では無く、ゼロになっていた。
「これは……」
すぐさまユーシはピー太を抱きかかえるが、その瞬間、淡い光を纏ってピー太はその光と共に散って行った。
「ピー太!!」
ユーシは叫ぶが、それも虚しく手には先程まであったピー太の重みだけが残っていた。
間違いない。ピー太はこの少女を庇ったのだろう。
「クソっ!!……もうちょっと早く来れていれば……」
拳を地面に叩きつけ、悔しがるユーシ。
自分がもう少し早く到着していれば、こんな事にはならなかったと、自責の念が彼の中で湧いていた。
「あ、あの……」
そんな彼に、少女はおずおずと話しかける。それによって幾分かユーシも冷静さを取り戻した。
立ち上がり、少女の方へと振り返る。
「あ……すみません。……怪我は無かったですか?」
「は、はい。それより、その……ごめんなさい………わたしのせいで……」
俯き、本当に申し訳なさそうに少女はユーシに謝る。助かったのは良いが、彼女もビーストテイマー。家族とも言える相棒を失った悲しさは計り知れなかった。
「いや……それは……」
ユーシの脳裏に浮かんだのは、メイの姿。
そう言えば今、彼女は……
ユーシはすぐさまアイテム欄から通信用のアイテムを取り出す。するとタイミング良く、着信が入った。メイの護衛を担当していたウォーロングからだ。すぐさまユーシは応じる。
『やっと繋がった!!ユーシ!!そっちはどうなってる!?』
ウォーロングは何やら焦っている様子だ。
「ピー太がやられました!メイさんは大丈夫です!?」
予想が当たっていれば、彼女は……
『大丈夫じゃねえからお前に連絡したんだよ!とりあえずメイが錯乱しちまってる!』
やはりなと、ユーシは悲痛な表情を浮かべる。
「分かりました。とりあえずそのままメイさんを見てやってください!他隊員はすぐに撤収を!」
「「「了解」」」
それだけ伝えると、ユーシは通信を切る。
そして目線を再び少女へと向けた。
「……とりあえず、お話を聞きたいので、付いて来てもらってもいいですか?」
有無を言わせないユーシの表情に、少女の顔も強張る。
「は、はい」