"菊の番犬"と呼ばれた部隊   作:キングコングマン

4 / 24
始まりの街

 1.

 

 「……人が多いな。さっきまでとは大違いだ」

 

 「正式にサービスが開始したっすからねえ。β版の時よりももっと賑やかになったっすね」

 

 二人はプレイヤーが一番多く集まる場所である、始まりの街に居る。

 このソードアートオンラインは、浮遊城アインクラッドと言う巨大な浮遊物体の中で行われるゲームで、その城の階層は100。それら全てにボスモンスターが配置されており、100階層を全てクリアすれば晴れてゲームクリアと言う設定だ。

 始まりの街はその最下層、第一層に存在する。

 ふと、周りを見れば一人がコミュニケーションを取るために様々なプレイヤーに話しかけたり、初めてプレイするゲームで戸惑っている者が居たりと、反応は様々だった。

 

 「……にしても先輩、プレイヤーネームが『スグル』って、安直過ぎないっすか?それにアバターが顔も背格好も現実と変わらないじゃ無いっすか?」

 

 そんな中、神崎が苦笑いをしながらそんな事を言って来た。

 

 「何でだ?自分がプレイするんだから当たり前だろう?」

 

 四条は何を言っているんだと言う風な反応を返す。

 

 「そりゃあまあ、そうなんすけど……オンラインゲームって匿名でやる人間が殆どっすからねえ。現実の自分と顔を似せたり本名だと色んなトラブルに巻き込まれやすいっすよ?」

 

 なるほど、と四条は納得した様に頷く。ネット掲示板の名無しみたいなものだろう。匿名の方が何かと動きやすいし、ゲーム上のプレイヤーになり切る事だって出来る。

 

 「お前のその格好もそう言う理由だったのか。成る程、感心だな」

 

 今回は刑事と悟られない様に動くことが大切だ。そういう意味でも神崎の言う匿名性は大事なのだと四条は感じていた。

 

 「そ、そうっす!別にもっと色気出したいとかじゃないっすから!!」

 

 対して神崎は言い訳する様に慌ててそう言う。しかし神崎の見栄っ張りに気付かない四条は首を傾げた。

 

 「?、まあいい。じゃあお前のプレイヤーネームは何なんだ?」

 

 自分は本名にしてしまったので神崎のプレイヤーネームが気になった四条はそう尋ねる。

 

 「え?あ、あぁ、アタシはこのゲームじゃ『ユーリー』って名乗ってるンスよ」

 

 すると神崎はメニューを開き、"情報"の欄のプレイヤーネームを見せて来た。確かに『ユーリー』と表示されている。

 

 「……由里子だから、ユーリー?」

 

 「そうっす。まあ、アタシ達が警察の人間だってバレることは無いと思うっすけどね。なんで先輩も自分だけのプレイヤーネームやアバターを作ってみたらどうっすか?」

 

 神崎にそう勧められるが、四条は微妙な顔をした。

 

 「……やめとくよ。自分を偽って名乗るのは何だか慣れない」

 

 「ははっ、何だか先輩らしいっすね」

 

 そんなやり取りがありながらも、2人は何かトラブルが起こらないか、目を光らせるのだった。

 

 

 

 

 「取り敢えずここには怪しい人間は居なさそうだな」

 

 始まりの街に来てから1時間と少し。賑わっているが、その後もトラブルが起こる事もなく、プレイヤーのモラルも良心的。と言うのが四条の印象だった。

 しかし神崎は苦笑いになる。

 

 「まぁ、ここは戦闘も無くてトラブルも起こりにくいっすからね。モンスターの出るところまで行くと、そうも行かないかも知れないっす」

 

 オンラインゲーム上のトラブル。それはいざ戦いが始まってからの方が表面化しやすい。ゲーム上とは言え、戦うのがモンスターだけとは言え、プレイヤーは闘争本能を掻き立てられる。すると思った事や攻撃的な部分が口から出てしまう事があり、そこからトラブルに発展する。

 オンラインゲームに慣れ親しんだ神崎は、それを身に染みて経験していた。

 

 「この街より、外のモンスターの出るエリアの方がトラブルが起きやすいと?」

 

 「その通りっす。興奮して自制の効かなくなったプレイヤーほど厄介なものは無いっすからね。……ゲーム上の話なんで犯罪にはならないっすけどそれでもモラルは良くない事が多いっすよ」

 

 こればかりは仕方がないと、神妙な顔で肩をすくめる神崎。

 

 「……取り敢えず、モンスターが出る場所まで移動してみるか」

 

 四条も、同じく神妙な顔になりながら、二人はモンスターの出るエリアまで移動して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 2.

 

 始まりの街の西に位置する場所には草原が広がり、モンスターが現れる。

 草原にはやはりと言うべきか、レベルアップを目論むプレイヤーで溢れており、一人で狩る者。チームを組んで狩る者など各々が様々なプレイをしている光景が見られた。

 時刻はもう夕方を回ったところなのか、陽も落ちて来ている。しかし活気は途切れる事がなかった。

 

 「……取り敢えず、大丈夫そうか?」

 

 四条は数人のプレイを見渡し、そう呟く。

 

 「……オンラインゲームにも暗黙の了解というか、ルールがあるっすからね。……ここにいる人達は熱心なゲーマーさんばかりなんでそう言う、モラルがしっかりした人が多いんじゃないっすか?」

 

 まだ正式のサービスが始まって数時間。この日を待ち侘びた1万人と言う最初の選ばれたプレイヤー達は流石にオンラインゲームに慣れている人間が多いのだろう。ルールやモラルを守るプレイヤーがたくさん見られた。

 

 

 「おいふざけんなよ!!お前俺の戦利品取っただろ!!!!」

 

 

 

 するとそんな感想も束の間、遠くから男の怒鳴り声が聞こえて来た。

 

 「……やっぱり、こうなるっすよねー」

 

 それを聞いた神崎からため息と共にそんな言葉が出る。

 

 「取り敢えず、行ってみるか……」

 

 真剣な表情になりながら、2人は怒鳴り声の方向へと歩いて行った。

 

 

 

 周りには野次馬が出来ている。その野次馬の合間を縫って声の主の方へ進むと、2人の男が口論しているのが見えた。

 

 「ふざけんなよ!!俺のドロップ品早く返せよ!!!」

 

 「だから!!取ってねーって言ってんだろーが!!」

 

 口論と言うよりかは、1人がもう一方に対して一方的に癇癪を起こしている様な状況だ。

 詰め寄っている男は金髪で全身青の服を着て、顔を真っ赤にしながら叫んでいる。

 もう一方は赤い髪で、装備も戦国時代の赤備えの様な野武士の風格を漂わせた、これまた詰め寄っているプレイヤーとは真反対の雰囲気を持った男だった。面倒臭そうに絡んでくる金髪の男をあしらっている。

 

 「俺は見たんだぞ!!モンスターがドロップしたアイテムがお前の前で消えて行くのをな!!!」

 

 「知らねえよ!!さっきも見せたけど俺のアイテム欄にはそんな物無かったろーが!!」

 

 「どっかに隠し持ってるに違いない!!早く返せよ!!!」

 

 口論がヒートアップして来た。周りの野次馬達も『良いぞー』とか『やれやれー』と言った様なヤジが飛んでいる。

 まるで田舎のヤンキーのケンカだ。

 

 「……止めるか」

 

 見かねた四条が口論を止めようと一歩踏み出す。

 

 「ちょ、ちょっと先輩!!何やろうとしてんすか!?」

 

 それを見た神崎は慌てて四条の服の袖を引っ張って止めた。

 

 「何だ神崎、今目の前で"事件"が起こっているだろう。これは仕事だぞ?」

 

 神崎に引き止められた四条は不満げな顔で神崎を見つめ返す。

 

 「もう!これだからオンゲー初心者は……先輩、いいっすか?ここは"ゲーム"の中っす。もし口論から相手を斬りつけたり殴ったりしても"傷害罪"にはなったりしないっすよ。全ては現実じゃ無くてバーチャル上の出来事っすからね」

 

 「……しかし、あれは……」

 

 初めてのオンラインゲームプレイがSAOであった事が四条の最大の不幸であろう。他の視覚と聴覚でしか情報を得られない、パソコンの画面上のみのオンラインゲームであれば非現実の中の出来事だと実感できる。しかしこのナーヴギアは五感から得る情報全てをゲームに反映させることが出来るものだ。

 

 つまり、現実と虚構の境界線が、ひどく曖昧になる。

 

 四条はそこに困惑を覚えていた。

 

 「おい!!お前らも見たよな!?コイツが俺のアイテムを盗むところをよぉ!!」

 

 すると、金髪の男が大声で周りの野次馬に問い掛ける。他のプレイヤーは自分はやってないと目を背けたり、唯のモブモンスターのドロップアイテムでこれだけ激昂する金髪の男の異常性に気付いた者もいるのか、仲間内でヒソヒソと、まるで腫れ物を扱う様な視線に変わって来た。

 

 

 「……ああ、俺は見てたぞ」

 

 

 すると、一人。男の声が何処からか響き渡った。四条と神崎もキョロキョロと辺りを見廻して声の主を探す。

 すると、周りを囲んでいた野次馬から一歩、黒髪の男が前に出て来た。

 

 「おお!!何だよ!お前はちゃんと見てたのか!ほら見ろ!!これでお前の悪行は…「結論から言うと、その赤髪の人は本当に盗んでないぞ?」

 

 

 「……は?」

 

 

 金髪の男の言葉に被せる様に、黒髪の男はそう言い放つ。援護してくれるものかと思っていた金髪の男から情けない声が出た。

 

 「アンタ、複数のモンスターをかなりの至近距離で相手にしてただろ?」

 

 「だ、だから何だよ?」

 

 黒髪の男の淡々とした口調に金髪の男もたじたじとなる。

 

 「このゲームは自分の剣でアイテムを斬るとアイテムも消してしまう"と言う特性もある」

 

 「………」

 

 まるで知らなかったと言う様な表情になる金髪の男。だが黒髪の男は話を続ける。

 

 「……アンタ、モンスターを倒すのに夢中で、自分で自分のアイテムを消したんだろう?」

 

 「なっ!!!」

 

 黒髪の男の核心を突く言葉に金髪の男の顔が真っ赤に膨れ上がる。もしそれが本当なら、恥をかくと言うレベルでは済まされない。

 

 「な、そんな事あるはず無いだろう!?確かに俺は同時に3体相手にしてたけど、そんなヘマ俺がする訳ねーよ!!」

 

 「じゃあ、その赤髪の人のアイテム欄に何も無かったのをどう説明するんだ?」

 

 「そ、それは……」

 

 黒髪の男がそこまで言うと、金髪の男は絶句してしまった。

 

 

 

 

 「……なあ、神崎、彼らは何の話をしてるんだ?」

 

 そんな光景を小声で一言。遠目から話を聞いても状況を全く理解できていない四条から疑問の声が上がる。

 

 「へ?あー……何って言うか、不毛な争いに終止符を打ったって感じ……っすかね?」

 

 神崎もどう返そうか迷ったが、取り敢えず事態は収束に向かっている事だけを四条に伝えた。

 

 「……そうか、取り敢えず終わりそうなんだな」

 

 「……っすね」

 

 四条としてはどちらが悪いとか言うよりも、面倒事が収まる事に安堵していた。

 所詮はゲーム上の口論なので、どちらが悪いとか悪くないと言う話では無いのだ。

 もし黒髪の男が現れ無かったとしても、赤髪の男がその場から逃げるなり、ログアウトすれば話が済む。

 

 つまりこの口論は、ゲーム上の茶番でしか無いのだ。

 

 

 「……っ!!!」

 

 しかしその茶番に、金髪の男はなおムキになっている。顔を真っ赤にして、今にも何かやらかしそうな雰囲気を纏っていた。

 

 「………ありゃ不味いな」

 

 「……先輩?ちょ、先輩!!」

 

 刑事の勘と言うやつなのだろう。これまで様々な犯罪者や異常者を見てきた四条はするりと野次馬の中から飛び出した。

 

 

 「何だよ!!俺が間違ってるのかよ!!ふざけんな!!ふざけんなあああああ!!!!」

 

 

 すると、金髪の男が叫び出し、腰にある剣を抜いた。

 

 「え!?」

 

 「なっ……!!!」

 

 金髪の男の突然の暴走に黒髪と赤髪の男達も反応が遅れている。

 

 「死ねえぇぇぇ!!!!!」

 

 顔を真っ赤にして薄っすらと涙を浮かべながら金髪の男は二人に斬りかかる。このままではPK、つまりプレイヤーキルが起こる。

 

 「少しは冷静になったらどうだ?」

 

 「え?」

 

 そんな声が金髪の背後から聞こえてきた。そして振り返る間もなく金髪の両手に衝撃が走る。

 

 「がぁっ!!!」

 

 衝撃で剣を落とす金髪の男。状況を確認しようと振り返るが、その瞬間、金髪の男の視界がひっくり返った。

 目の前には四条が居たのだ。振り返ると同時に上体を押され、男は後ろにバランスを崩し、その勢いのまま地面に叩きつけられた。

 

 「ぐえっ!!!」

 

 カエルが潰れた様な声を出して仰向けに叩きつけられる金髪の男。

 四条がした動きは柔道のものだった。いきなり現れた四条に、赤髪と黒髪の男も目をパチクリとさせている。

 

 「悪いな。口を挟むつもりは無かったんだが、仕事柄どうしても身体が動いてしまってね」

 

 「っつ!!離せっ!離せよ!!!」

 

 倒れた金髪の男にガッチリと関節技をキメて動けなくなる様にする四条。男の方も何とか抜け出そうとしているが、無駄な様だった。

 

 「あ、え、いや、こちらこそ。助けてくれてありがとうございます!」

 

 「あ、ありがとうございます!」

 

 状況が飲み込めたのか、遅れて反応した赤髪の男が礼を言う。するとそれに続く様に黒髪の男も慌てて礼をした。

 

 「黒髪の子、全員が傍観してた中で一人勇気を出して行ったのは流石だ。素直に感心するよ」

 

 「え?あの、その……」

 

 四条からいきなり誉め言葉が出て来て、黒髪の男はポカンとする。

 

 「赤髪の子も、良く自分から手を出さなかったな」

 

 「え?あ、ありがとうございます?」

 

 続いて赤髪の男にも称賛の言葉を送り、意識を自分の下で関節技を極めている金髪に向ける。

 

 

 

 

 「……さて、金髪、お前、まだやるつもりか?」

 

 

 四条が金髪に対してそう問い掛ける。対して金髪は先程の威勢は何処へやら。プライドがズタズタにされたのか、随分と大人しくなっていた。

 

 「……いいよ、もう良いから、離せよ……」

 

 ポンポンと、四条の足をタップして降伏の意を示す金髪。それを確認した四条はゆっくりと関節技を解いた。金髪は項垂れながら落とした剣の方へと向かい、拾い上げて鞘に仕舞う。

 それからこちらを一切見る事なく、足早にその場を立ち去ろうとした。それを見た四条は金髪に向かって声を発する。

 

 「……一つアドバイスだ。人間、冷静さを失っている時ほど、間違った判断をするぞ?」

 

 金髪は一瞬立ち止まり、肩をビクンと震わせた。

 

 「………っチッ!!!!」

 

 まるで捨て台詞かの様に舌打ちをすると、その場から逃げ去る様に金髪は走り去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。