"菊の番犬"と呼ばれた部隊   作:キングコングマン

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茶番

 1.

  

 「ど、どうする?」

 

 「どうするって、どうもしねえだろ。お前、アイツの言う事信じるのか?」

 

 「でも、さっきニュースでも話題になってるって……」

 

 「ハッ!あんなん合成でどうとでもなるだろ?ハァーっ……せっかく最高のアバターも作ったのに本当の顔がバレちまうしよぉ。現実世界に戻ったら開発元に抗議しまくってやるわ」

 

 広場ではやはり現実を受け入れてない者が居るのか、そんな会話もチラホラ聞こえて来る。

 

 "ゲームの世界に閉じ込められた"

 

 そんなものはよく出来たSF作品でしか見た事も聞いた事も無い。自分は夢を見ているのでは無いか?そんな事すら思う者も出る始末であった。

 

 「……取り敢えず、一回死んでみるか」

 

 「お、おい!!良いのかよ!!アイツの言ってることが本当なら……」

 

 「んなもん嘘に決まってんだろ?取り敢えず一回死ねば戻れるんじゃね?」

 

 そう言うと、プレイヤーの一人はヘラヘラと笑って自分の剣を首元に当てる。本当にHPがゼロになったら現実でも死ぬとは思っても無い様子だ。

 

 

 

 「だから言ったじゃないっすか!!!」

 

 

 「お、俺だってあんな事になるなんて思ってなかったんだよ!!」

 

 

 

 すると、プレイヤーの耳に大声で言い合いをする男女の声が聞こえて来た。何事かと、プレイヤーは首元に当てた剣を一旦下ろし、声の方向に視線を移した。

 

 「先輩が大丈夫なんて言うからっ!!柳井さんは死んじゃったんだ!!!」

 

 「アイツだって信じてなかったじゃないか!!!まさか本当に"居なくなる"なんてっ………!!!」

 

 言い合いをしているのは四条と神崎だった。2人の声は相当に大きいのか、直ぐに周りの注目を集め出した。

 

 「人殺しぃ!!先輩が柳井さんを殺したんだ!!!先輩が一旦HPをゼロにすれば戻れるんじゃないかとか言うから!!!」

 

 神崎の悲痛な叫びを聞いた周りにいる人間がギョッとする。

 

 「え?本当に死んだの……?」

 

 「いや、でも………」

 

 神崎のあまりの剣幕に、周りの人間は再びドヨめき始める。恐らく親しい人間が自らHPをゼロにしたのか、それとも何らかのトラブルでゼロになってしまったのか。そんな事がヒソヒソ囁かれ始めていた。

 

 「ど、どっかでリスポーンしてるかも知れないだろ!!!まだ死んだってわけじゃあ……」

 

 「じゃあ!!何で柳井さんはアタシ達のギルドから急に消えたんすか!?」

 

 「そ、それは………」

 

 神崎に問い詰められ、四条は絶望的な表情をする。周りの人間も顔が青ざめていく者ばかりだった。

 

 「嘘………」

 

 「ギルドから消えたって……やっぱ本当に………」

 

 周りの人間が状況を把握し始めたのか、"ゲーム内で死ねば現実世界でも死ぬ"と言う事実を認識し始める。

 

 「ろ、ログはどうなんだ!?プレイ中ならアイツのログに反応がある筈だろう!?」

 

 最後の望みを賭ける様に四条がそう聞くが、神崎から帰って来たのは無言。そのまま首を横に振る仕草だけだった。

 

 「あぁ……そんな………!!」

 

 それを見て四条は膝から崩れ落ちる。

 

 

 「本当にHPがゼロになったら死ぬ……?」

 

 「アイツの言う事は、本当なのか?」

 

 そして、広場にいる人間はこの状況を見て、理不尽な現実を受け入れ始めていた。2人のやり取りにより突きつけられた現実に、その場の空気がどんどん重苦しく変化していく。

 

 「お、おい茅場!!!俺達は本当に元の世界に帰れねえのかよ!!!」

 

 すると、1人の男が空に向かって叫び始めた。

 

 「ふざけんな!!!出てこいよ!!!何処かで見てんだろうが!!!」

 

 もう1人、違うプレイヤーも追随する様に叫び始めた。

 

 「頼む!!誰かここから出してくれぇ!!!」

 

 「やだ………やだぁ……!!!」

 

 再びパニックになったプレイヤー達は、次々と先程まで茅場が喋っていた空に向かって声を上げる。さっきまで冗談半分で聞いていた表情とは違い、怒りや焦り、悲痛な表情に染まった者達ばかりだ。

 

 「……神崎、ここから逃げるぞ」

 

 「了解っす」

 

そしてさっきまで喧嘩していたはずの2人が、この混乱に乗じてその場をそそくさと去る。皆空を見上げて怒号や助けを求めている者ばかりだ。2人を気にしているプレイヤーなど居ない。

 

 

 「……更にパニックにさせてしまったが許してくれ。これは本当に起こった出来事なんだ……」

 

 

 広場を去る途中、一瞬振り返って四条がボソッと謝りの言葉を入れると、人混みに紛れる様に2人は消えていった。

 

 

 

 

 

 2.

 

 「……ふぅ、取り敢えず、成功っすかね」

 

 「ここまで来れば大丈夫だろう」

 

 四条と神崎は広場から離れ、人目の付かない街中の細い路地まで来ていた。

 

 「……現実を突き付ける形になってしまったが、ああでもしなけりゃ意図せず自殺する人もいただろう」

 

 申し訳なさそうに、四条はそう言う、茅場の言う事が信じられないと言うのは、その実例を目の当たりにしてないからだ。

 ならば信じ込ませるにはその実例を見せれば良い。たとえそれが嘘であったとしてもだ。

 

 「ククッ、先輩の絶望した顔、見事なモンだったっすよ」

 

 「お前の発狂もなかなかのものだったな」

 

 お互いに悪どい笑みを浮かべながらそう言う2人。四条の案、それは仲間が本当に死んだと言う"架空"のシナリオを作り、それをプレイヤーに見せ付けることで茅場の言葉を信じ込ませる事だった。

 その茶番劇の効果は絶大で、少なくともあの広場に居たものが、自らHPをゼロにすると言う最悪の事態は起こらないだろう。

 代わりに混乱を大きくしてしまうと言う代償もあったが。

 

 「状況を整理しよう。これからこの世界で生き抜き、そして元の世界に帰る為の策を考えるぞ」

 

 四条は真面目な顔に戻ってそう言う。うかうかはしてられない。一刻も早くこの世界から抜け出さなきゃいけないのだ。四条の雰囲気が変わった事に神崎も気が付き、同じく真面目な顔になる。

 ここから先はこの世界からどうやって帰るのか。その解決策を考えねばならない。

 

 「茅場は100層を突破すれば、つまり100体のフロアボスを倒せばクリアって言ってたっすね」

 

 神崎の言う通り、茅場から告げられたプレイヤーが解放される唯一の条件、このフロアの100層まで到達する事。もしそれが本当であるならば勇気あるプレイヤーは皆そこを目指すだろう。しかし、四条は難しい顔をする。

 

 「神崎、お前は確かβテスターだったな。その時はどこまで行けたんだ?」

 

 「……βテスト期間の2ヶ月、丸々やってやっと第8層っす」

 

 四条以上に難しい顔をして神崎はそう言う。彼女はβテスター。このさゲームの難しさは見に染みて分かっている。

 その表情だけで、100層のクリアが現実的では無い事を物語っていた。

 

 「……恐らく現実では茅場晶彦に逮捕状が出てるだろう。何処かに隠れてるのは違い無いが、警察には面子と言うものがある。血眼になって総力を上げて探し出す筈だ。開発元も即、摘発されるだろう。そうすれば俺達も元の世界に戻れる筈だ」

 

 「……現実で事件が解決するまで、アタシ達はこの世界で生き抜くって事っすか?」

 

 神崎の言葉に四条は頷く。ゲームをクリアすれば解放されると茅場は言っていたが、あまりにも現実的では無い。それなら元の世界での警察に事件解決を任せ、その間自分達はこの理不尽な世界で生き抜くと言う選択を取るのが一番正しい。

 

 「プレイヤー達は混乱している。……ここはゲームの世界だ。ならプレイヤーは若年層が多い。彼らの中に冷静な判断が出来る人間が果たして何人いるのか……」

 

 このゲームのプレイヤー層は、やはり中、高、大学生と言った若者が多い。彼らは言葉は悪いがまだまだ"未熟"な人間も多いと言う事だ。

 それらがもしこの世界で暴走などすれば混乱は更に大きくなってしまう。

 

 

 「そこでだ神崎。俺らはこの世界で"治安の維持"をしようと思う」

 

 

 四条の提案に、神崎がハッとした顔になる。この世界での治安維持。つまりそれは……

 

 「この世界で、警察の"代わり"をアタシ達がやるって事っすか?」

 

 

 

 神崎の言葉に四条は頷く。つまりは現実世界で事件が解決するまでの間、PKやプレイヤー同士のトラブルを抑制しようと言うのが四条の狙いであった。

 現実の警察官を、このアインクラッドでやろうと言う訳である。

 

 「いつ元の世界に戻れるか分からんからな。それは柳井さん達に期待するしかないが、その間に出来る事はやっておきたい」

 

 1人でも多く元の世界に返す為、その策を四条は考えていた。プレイヤーはまだ20にもなってない少年ばかりだ。その未来が消えて行くのは四条としても避けたいところだった。

 

 「それともう一つ、これは個人的な憶測なんだが……」

 

 「何すか?」

 

 そして四条は顎に手を当てて眉間に皺を寄せる。少し怒っているかの様に見えて神崎も少し縮こまってしまった。

 

 

 「………茅場もこの世界にいるかも知れない」

 

 

 四条の言葉に神崎は目を見開く。事件の首謀者、茅場晶彦もこのゲームをプレイしてる。そんな発想は全く無かったからだ。

 

 「神崎、このゲームは現実の世界から第三者視点でゲームを覗くことは可能か?」

 

 「え?えーっと………」

 

 続けて四条にそう問われて神崎は少し考える。そして合点が行ったかのようにハッとした表情になった。

 

 「………無理っす。SAOはフルダイブ型と言う特徴である以上、ナーヴギアを装着しないとその世界で何が起こったか知る事は出来ないっす」

 

 それはつまり、自分もゲームプレイヤーにならないとその世界を知り得る事はできないと言う事だった。神崎の返答を聞いてやはりなと言う風に四条は頷く。そして憶測は確信へと近づいて行った。

 

 「……茅場はこの世界を"鑑賞"すると言っていた。それはつまり……」

 

 

 

 「……今もこの世界の何処かに、茅場が居る……?」

 

 

 

 このゲームの世界を"鑑賞"する。そうするにはナーヴギアを装着するしか無い。この事実が、四条が茅場がこの世界にいると言う推理を立てた根拠だった。

 

 「しかし100%居ると決まったわけじゃない。アイツは開発者だ。色々と融通も利くだろう。自分だけログアウト出来る様にもしてる筈だ。だが、アイツが"鑑賞"してる間は、この世界にいる可能性が高い」

 

 神崎は生唾を呑む。この世界を自由自在にコントロールできる人間が、すぐそばにいるかも知れない。

 それは"鑑賞"する為に自分に不都合な事があれば、容赦なくHPをゼロにする事だって出来ると言う事だ。

 

 「茅場晶彦の捜索、そして拘束。これも目的に加える……恐らく困難を極めると思うがな」

 

 言葉通り難しそうな顔をしてそう言う四条。自分で作った世界に1万人をも閉じ込め、それを"鑑賞"するには、恐らく自身のアバターも現実に似せないだろう。その中から茅場を見つけ出せと言われても恐らく生半可には行かない事は確かだ。

 

 「層の攻略は、どうするっすか?」

 

 次に神崎が100層までの攻略をどうするのか聞く。茅場の言う通りなら、あと99層のフロアボスを倒さなければならない。

 

 「俺達は干渉しない。あまりにも非現実的だからな。俺達の目的はあくまで"この世界の治安維持"と"茅場晶彦の捜索"だ」

 

 しかしピシャリと、そう言い放つ四条。恐らく多くのプレイヤーは茅場の言葉を鵜呑みにし攻略を目指すだろうが、四条の見ているものはあくまで"現実"だった。

 現実世界に戻る為の最善の策。それは層を攻略する事ではないと四条は結論付けたのだ。

 

 「了解っす。それと、後は、えーっと………」

 

 他に何か決めておく事は無いかと、神崎は考えを巡らす。正直、今日1日で起きた出来事が多過ぎて神崎の頭はパンク寸前だった。

 

 「……明日、具体的な策を練るぞ。今日は色々頭を使ったからな。もう時間も夜だ。取り敢えず一旦休憩しよう」

 

 そんな神崎を見て四条も察したのか、そんな提案をする。

 

 「え?い、いや!、まだまだ行けるっすよ!!」

 

 しかし、足枷になりたくないと言う思いからなのか、神崎は食い下がる。しかし四条にはお見通しで、険しい表情から困った様に笑った。

 

 「じゃあ、俺が疲れた。少し休憩したい。どっかで休むぞ」

 

 「え?そ、それなら……ハイ………」

 

 そう言われては神崎も強くは出れない。見透かされた気持ちになった神崎は、顔を真っ赤にして四条の言う通りにするのであった。

 

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