"菊の番犬"と呼ばれた部隊   作:キングコングマン

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開始

 

 

 「ふぁああ………全然寝た気がしない………」

 

 翌日の朝。近くの宿で陽も上がりきってない時間に神崎はそう呟く。あの後、近くの宿を取り、気晴らしにご飯を食べながら四条と今後の策について話し合った。

 まず決まったのは、"ギルド"を作る事。初期メンバーは四条と神崎の2人。治安維持をすると言っても2人だけでは1万人のプレイヤーに目を見張る事はできない。ならば自分達の同じ考えを持つパーティーメンバーを増やし、徐々に治安維持の範囲を広げて行こうと言うのが今後の目標として決まった。

 そして茅場の捜索。これは後回しにすることとなった。この世界での最優先事項は、組織としてギルドの地盤を固める事だ。

 その第一歩として、この早起きを敢行したのである。

 神崎はぐるぐると肩を回し、身体をほぐす。ゲーム内なので肩凝りや疲れなどの症状は起きないのだが、現実世界でのクセでそうしてしまう。

 

 「……これからレベリングかぁ……流石にモブモンスターにやられる事は無いと思うけど………」

 

 神崎は誰もいない部屋で独り言を呟く。ギルドに人を集めるには、自分のレベルを上げて力を見せつける事が効果的だ。ましてや今はデスゲームの真っ最中。力のある人間に付いていこうとするのは自然な事でもある。

 それに"抑止力"を生むには、まず自らが強くならねばならないのだ。

 装備のチェックをすると、すぐさま扉の部屋を開いて宿の階段を降りる。

 

 「……身支度をしなくていいのはこの世界の良いところなんだけどなぁ……」

 

 階段を降りながら、苦笑いになってそんな事を呟く神崎であった。

 

 

 

 「おう、早いな。もう少し寝てても良かったぞ?」

 

 神崎が階段を降りると、宿の受付のベンチで四条が座って待っていた。彼も装備は準備万端と言った風だ。

 

 「アタシより早く起きた人が何言ってんすか、まだ集合時間の30分前っすよ」

 

 苦笑いになって神崎はそう返す。こう言うところも、四条の真面目らしさが出ている。事件現場でも四条が神崎より遅く来ると言うのは、彼女も殆ど思い当たらなかった。

 

 「どうも寝れなくてな。それより神崎、レベリングとは言うがモンスターを狩ると言う事はこの前の草原に行くのか?」

 

 ベンチから立ち、真剣な顔つきになる四条。この顔の時は仕事をしている時の顔だ。神崎もそれを察し、メインメニューからマップを開いた。

 

 「いや、そこから少し離れた場所に行くっす。あの草原もモンスターは出るっすけど、今回はここから離れた……ここっす」

 

 マップを指差し、マーキングをする神崎。そこは始まりの街の次の村の、少し離れた場所だった。

 

 「あそこじゃダメなのか?」

 

 「あのフィールドは始まりの街から近いっす。このゲームはマージンって言って与えられる経験値が限られてるっす。無限にモンスターが出る訳じゃないんすよ」

 

 「……つまり、この街から近い狩場だと、すぐに狩り尽くされてしまうと言う事か?」

 

 四条の言葉に神崎は無言で頷く。

 

 「なんで拠点を次の村に移して、人がいないところで借りをした方が効率が良いっす」

 

 確かにそれならば短期間で、効率良くレベルアップが出来るだろう。しかし、一つ問題があった。

 

 「………恨みは、買うだろうな」

 

 四条の発言に神崎は痛いところを突かれた様な顔になる。それはつまり他のプレイヤーを出し抜いて、自分達だけオイシイ思いをしようと言う事だった。

 

 「しかし、ギルドを作るには仕方がない。そうと決まれば早めに出発するぞ」

 

 だがこう言う取捨選択が出来るのが四条の強みだ。現状を把握し、今現在どの選択を取れば最適解なのか。その判断が抜群に上手い。

 彼が警視庁内で"カミソリ"と呼ばれる所以は、ここからだった。

 

 「了解っす!!」

 

 そしてその四条の判断に、神崎も全幅の信頼を寄せているのだった。

 

 

 

 

 2.

 

 

 「右に曲がったら強いモンスターが居るんで、遠回りになるっすけど左に曲がった方が安全っすね」

 

 「じゃあ、左だ」

 

 場所は少し薄暗い森に移り、次の村まであと少しと言うところまで2人は来ていた。

 道中は神崎が先頭に立ち、四条の道案内をしている。彼女はβテスター。テストでは第8層までクリアをしているので、始まりの街付近の危険ポイントは熟知していた。

 

 「……来た!!先輩!両方からっす!!アタシは右をやるんで先輩は左を!!」

 

 「了解!!」

 

 すると、茂みの中から2体のモンスターが飛びかかって来る。イノシシ型の小型モンスターだ。すかさず神崎は右に、四条は左に飛び掛かる。

 安全と言っても、ここはモンスターの出るエリア。エンカウントする確率はゼロでは無い。

 

 ___ピィギャァァァァ!!!____

 

 すると、四条は日本刀を一振り。神崎は薙刀を一振りして、モンスターを一撃で倒した。やはりあまり強いモンスターでは無かった様で、手に入る経験値も少ない。

 

 「ふぅ、……そろそろ先輩も狩りに慣れてきたっすか?」

 

 完全に敵が沈黙した事を確認すると、汗を拭う仕草をして神崎がそう聞いてきた。

 

 「ああ、いい"先輩"が居るからな。参考になるよ」

 

 まだまだモンスターは弱く、この様に会話をする余裕もある。四条がそう返すと、神崎は得意げに微笑んだ。

 

 「村まであと少し、HPも申し分ないんでこのまま行けば安全っすね」

 

 少し油断気味の神崎に、四条は少し困った様に笑う。

 

 「油断はするなよ。お前の悪い癖だ」

 

 「わ、分かってるっすよ。……もう少しでこの森を抜けるんでそれを過ぎれば"圏内"。つまりモンスターは襲ってこないっすね」

 

 "圏内"。それは居住区にモンスターが入り込まない様にするシステムで、各所の村や、最初の始まりの街がそれに当たる。そこまで来れば体制を立て直し、拠点が作れると言う訳だ。

 

 「しかし、やはりここまで来るとプレイヤーも居ないな」

 

 周りをキョロキョロと見回しそう呟く四条。辺りは最初の草原とは違い、プレイヤーの姿は全く見当たらなかった。

 

 「やっぱり皆んな慎重になってるんすよ。HPがゼロになれば命は無いって分かってるっすからね」

 

 皆、怯えて躊躇しているのだろう。ましてやこのゲームを初めてプレイするプレイヤーからしたら、モンスターの対処法が全く分からずに殺される事だってあり得る。

 その結果、始まりの街に籠ると言う選択肢を取るプレイヤーも少なく無い筈だ。

 

 「……全員がそうしてくれると、こちらもありがたいんだがな」

 

 苦虫を噛み潰したような表情でそう言う四条。自分の命を危機に晒す事は彼としては極力やめて欲しいところだった。

 

 「まあ、未だにこれはゲームの中って考えるプレイヤーもいるっすからねぇ……ってあれ?先輩、あそこに誰か立ってないっすか?」

 

 すると、神崎が立ち止まり、何かを見つけたのか林の奥の方を指差した。

 神崎が指を刺した方向に四条も顔を向ける。そこには、1人のプレイヤーらしき人物が棒立ちしていた。

 

 「……どうやらアタシたちみたいな考えをする人は少なからず居るみたいっすね。モンスターと戦闘中っぽいっす」

 

 始まりの街からここまでは結構な距離がある。時刻はまだ朝方。こんな時間にここに居ると言う事は、レベリング目当てのプレイヤーだろうか?

 

 「だが棒立ちだぞ?武器も構えていない」

 

 しかし、四条はそのプレイヤーの違和感に気付く。モンスターと対峙してると言うのに戦闘の構えを取ろうともしない。片手に剣は握られているがだらんと、両手を地面に向けて垂らしたままだ。

 

 すると、モンスターがそのプレイヤーに襲いかかった。無防備なプレイヤーはそのままダメージを受ける。

 

 「!?あの人、反撃を全くしないっすよ!?」

 

 その光景に神崎が驚いた顔をする。無理もない。あのプレイヤーは果たしてHPがゼロになったら現実でも死ぬ事を理解しているのだろうか?そんな事は御構い無しにと、プレイヤーはモンスターにされるがままだった。

 

 「もしかして……!!」

 

 「せ、先輩!?」

 

 その光景に、四条が飛び出す。もし彼の勘が当たってるとすれば、あのプレイヤーはこのままHPがゼロになるからだ。

 近くまで来ると、そのプレイヤーの全体像が確認できた。プレイヤーは男で、HPゲージを確認すると、ゲージは黄色から赤に変わっており、あと一撃でも喰らえばゲームオーバというところまで来ていた。

 しかし、モンスターはそんな事情を無視するかの様に、プレイヤーに突進を仕掛ける。

 

 「!!!、届けぇ!!!」

 

  モンスターのタックルがプレイヤーに届くまであと数メートル。四条は雄叫びを上げながらありったけに身体を伸ばしてモンスターに突撃していった。

 

 ____ドゥン!!!!!_____

 

 そして、鈍い音を立てながら、タックルを喰らった"それ"は転がって行く。

 

 「先輩!!!!!」

 

 神崎の悲鳴が森に木霊する。すんでのところで横から四条のタックルがモンスターに決まり、その勢いで両者とも横に転がって行った。

 何回転かすると、四条はモンスターに馬乗になる様な体制になり、すかさず上から剣を振りかざした。

 

 「このっ!!くたばれ!!!!」

 

 その一言と共に渾身の一撃がモンスターに振り下ろされる。至近距離から斬撃を喰らったモンスターは、けたたましい断末魔を上げて一瞬にして消えていった。

 

 「大丈夫っすか!?先輩!!!」

 

 慌てて神崎が駆け寄る。モンスターに直接タックルを仕掛けたのでHPは僅かながらに減ったが、どうやらゲームオーバにはまだまだならない様子だった。

 

 「俺は大丈夫だ。それより」

 

 四条は素早く立ち上がり、先程の棒立ちしていたプレイヤーに近づく。顔を確認してみると目は虚ろで、どこか遠くを見ている様だった。

 

 「君、自殺しようとしただろ」

 

 四条の突き刺す様な声に、プレイヤーの方がビクンと跳ねる。明らかに怒りを隠しきれていない声色だった。

 プレイヤーは体の線が細めの、髪の長い若い男だった。パッと見、20代前半と言ったところだろうか。

 

 「………もう少しだったのに………」

 

 若い男は、虚な目で地面を見つめながらそう呟く。助けられた感謝ではなく、後悔の言葉が出てくる辺り、やはりこのプレイヤーは自ら命を絶とうとした様だ。

 

 「もう少しで死ねると思ったか?」

 

 「…………」

 

 四条の問いかけに若い男は無言となる。目は依然として虚ろで、話が通じる様な状態では無かった。

 

 「……一旦落ち着こう。もうすぐ次の村に着く。そこで話を聞こう」

 

 すると四条は一旦落ち着かせた方がいいと考え、突き刺す様な声から優しさを含んだ声色に変える。そして若い男の手を取ると、引っ張るように歩き始めた。

 

 「……あ………」

 

 四条に手を引っ張られて男は何かを言おうとする。しかし有無を言わせない四条の雰囲気に、再び黙り込んでしまうのであった。

 

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