"菊の番犬"と呼ばれた部隊   作:キングコングマン

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スイッチ

 

 1.

 

 デスゲームが始まってから4日目、相変わらず四条達3人は、始まりの街から少し離れたフィールドで狩りをしている。

 他のプレイヤーを見かける事はなく、経験値稼ぎの為の争なども起きていない。なので順調に3人ともレベルアップを重ねていた。

 

 「はぁっ!!!」

 

 気合の入ったカイトの声と同時に、モンスターが倒される。彼のHPはまだ青色。ガチガチに固まってる訳でもなく、出会った初日と比べれば、かなり動きが良かった。

 

 「ナイスっす!!やったっすね!カイトさん!」

 

 「は、はい!!ありがとうございます!!」

 

 手放しの神崎の褒め言葉に、心底嬉しそうにそう返すカイト。初めは四条と神崎に大きく差をつけられていたレベルも、みるみる内に縮まっていった。

 

 「やっぱセンスはあるんすよね。あがり症が無くなって、かなり良い動きをする様になったっすから」

 

 神崎が感心する様にそう言って頷く。正直、カイトのゲームセンスは2人よりも上だった。剣術に関しては四条と神崎に分があるのだが、それ以上にモンスターと戦う際の立ち回りが上手かったのである。

 

 「もうレベルも大分上がって来たし、次は連携でやってみるっすか?」

 

 「連携?」

 

 神崎がそう提案すると、四条が疑問の声を上げた。

 

 「はい、ソロでやるのも良いんすけど、やっぱMMOの醍醐味はチーム連携っすからね。例えばこっちが大技を使うと大きな隙が生まれるんすけど、それを連携で埋めるんすよ」

 

 「と、言うと?」

 

 「例えば、その生まれた隙にモンスターに攻撃される可能性があるじゃないっすか?そう言う時に別プレイヤーと交代すれば、攻撃の手を緩めずに済むって事っす。"スイッチ"って技術なんすけどね」

 

 神崎の説明になるほどと、納得した様に頷く四条。確かにメリットは多そうだ。

 

 「攻撃以外にも、スイッチしてる間は回復とかも出来るんで、やる事に越した事はないっすよ」

 続けて神崎はそう言う。やはり彼女がβテスターで助かった。知識で言えばこの3人の中でずば抜けているのだ。

 

 「なるほど……なら、連携の練習もした方がいいな。カイト、お前もやるか?」

 

 「も、もちろんです!!」

 

 四条がカイトに向かってそう聞くと、勢いの良い返事が返ってくる。少しずつ彼も変わっているのを四条も感じ取り、心の中でほくそ笑んだ。

 

 「よし、じゃあ少し休憩したら森の方へ行ってみるか」

 

「了解っす」

 

 「は、はい!!」

 

 四条がそう提案すると、2人から了承の返事が返って来た。

 

 

 

 

 2.

 

 「取り敢えず、あのモンスターで試してみるっすか?」

 

 「……そうだな」

 

 「ま、マジっすか?つ、強そうですよ……?」

 

場所は森のフィールド。茂みに隠れて3人は1匹のモンスターを観察している。

 そいつは体の大きいゴリラみたいなモンスターで、身長は3人の中で一番高い四条を軽く越している。

 外観も本物のゴリラみたくムキムキなので、体の大きさも相まって相当な威圧感を感じる。

 

 「……作戦をおさらいするっすね。まずは先輩が攻撃を仕掛けるっす。その途中で"スキル"を使った攻撃をして下さい」

 

 すると、神崎が作戦のおさらいとしてモンスターに気付かれない様、小声で話す。

 

 「……さっき覚えた"薄雪(ウスユキ)"ってやつか。了解」

 

 「そしたら先輩がスイッチって、叫んでください。その掛け声でアタシとカイト君が飛び出すんで、先輩は素早く後ろに下がってください」

 

 「……了解」

 

 「りょ、了解です……」

 

 なんとも言えない緊張感が張り詰める。普通のゲームならばここまで空気が張り詰める事は無いだろうが、この世界はデスゲームなのだ。

 もし失敗してHPがゼロにでもなったら、本当にこの世とはおさらばになる。

 

 

 「ふぅー……」

 

 四条が一つ、深呼吸をする。相手は自分より数段背も体格も大きいモンスター。恐怖感はある。しかし、それを押さえつけるかの様に深呼吸をして、四条はいつも通り、平常心を保つ。

 

 「……よし、行くぞ!」

 

 

 そして、自分に喝を入れる様に掛け声を出すと、弾き出された様に茂みから飛び出していった。四条はそのままモンスターに突進して行き、不意を突かれたモンスターはそのまま一撃、二撃と四条の斬撃を喰らう。

 

 ____ブフゥーン!!____

 

 攻撃を喰らったモンスターは興奮したのか、鼻息を荒くして両腕をブンブンと振り回す。しかし、攻撃をして即座に距離を取った四条には当たらなかった。

 

 「デカイのは図体だけだな」

 

 ボソッと、四条はそんな事を呟く。確かに当たったらダメージがデカそうだが、スローモーションの様なその動きは避けるに十分だ。

 

 ____ブン!、ブン!___

 

 続けてモンスターがヤケクソの様に太い腕を振り回してくる。しかし、四条はそれを冷静に避けていく。スキルを発動する間合いを測っているのだ。そして3、4度、モンスターの攻撃を避けると、四条の刀が薄い光を帯び出した。

 そして、もう一度モンスターの攻撃を避けると、四条は大きく刀を振りかぶった。

 

 「オラァッッ!!!」

 

 そんな叫び声と共に光を帯びたエフェクトを携え、四条の刀がモンスターを斬りつける。

 モンスターはけたたましい叫び声を上げ、HPゲージが半分程に減った。

 

 「スイッチ!!!」

 

 そして、すぐさま四条が声を張り上げる。それと同時に茂みに隠れていた神崎とカイトが飛び出した。

 作戦通り、四条は素早くモンスターと距離を取る。モンスターは四条を逃さまいと、慌てて距離を詰めようと飛び掛かるが_______

 

 「はあぁっ!!!!」

 

 「ふぅっ!!!」

 

 その前に、神崎とカイトと斬撃がモンスターに直撃する。その一撃でHPがゼロになったモンスターは、激しい断末魔を上げて倒れ、そのままアイテムをドロップした。

 

 

 

 「………ふぅ、上手くいったっすね」

 

 少しの余韻の後、神崎がドロップアイテムを拾いながら安堵した声でそう言う。

 

 「なるほど、これは使えるな……」

 

 今回の練習で確かな手応えを感じたのか、四条も薄く笑って神崎にそう返す。

 この連携を突き詰めれば、多種多様な戦法も可能になるだろうと四条は考えていた。

 

 「き、緊張したー……」

 

 そして横では、カイトが安心し切った顔で情けない声を出していた。

 

 「だが、飛び出したタイミングは完璧だったな」

 

 神崎と同じタイミングで飛び出していたので、四条は手放しでカイトを褒める。

 四条にはさっきのカイトが今までで一番いい動きをしている様に見えた。

 

 「ユーリーさんの動きをずっと見てたんで、それに追いつく様にして一緒に飛び出したんですよ」

 

 直接褒められたのが少し恥ずかしいのか、少し照れ臭そうに笑ってカイトはそう返す。

 それを聞いて、四条は少し驚いた様な表情になった。

 

 「……ほお、中々周りを見てるじゃないか」

 

 このゲームの経験者である神崎の動きを見ると言うのは、ある意味正解だ。そして、それに合わせられるカイトも、中々のものである。

 

 「とにかく、この"スイッチ"でやれる事はまだ沢山ありそうだな。もう少し練習するか?」

 

 「もちろんっす!」

 

 「はい!」

 

 四条の問いかけに、神崎とカイトも良い返事を返す。

 その後は、日が暮れるまで連携でレベリングを行った。

 

 

 

 

 3.

 

 「あー、疲れた……連携って、結構頭使うんすよねぇ……」

 

 日が暮れ、この前と同じ様に四条たちは酒場に再び来ていた。そのテーブルの一角、神崎は椅子に寄りかかる様に座り、そんな愚痴をこぼす。

 

 「そうですか?自分は楽しかったですけど……」

 

 そんな神崎と対照的に、カイトはケロッとした顔でそう言う。

 初めての連携、意外なところでカイトの強みが分かった。と言うのも彼、サポートが滅茶苦茶上手かったのである。四条や神崎に比べれば戦闘技術は劣るが、常に周りを意識した立ち回りで絶妙なタイミングでスイッチを繰り出し、一切の無駄が無い。

 

 「性に合ってるってやつっすかね?意外と言っちゃなんすけど、今までMMOをやって来た中でトップクラスのサポート能力だったっすよ」

 

 それはこのゲームに慣れ、知識も豊富な神崎が舌を巻く程だ。対してカイトは苦笑いになった。

 

 「あはは……仕事が終わって家に帰ったらゲームぐらいしかやる事がなかったですから。それで、他のゲームでもよくサポートに回ってたってのもありますね」

 

 こればかりはゲーマー独特の感覚だろう。カイトは他のゲームもやり込んでいた。そこで得た立ち回りのノウハウをこのSAOでも活かしているのである。

 

 「しかし、これだけ周りが見えるなら、現実世界でも活かせば良いだろう?少なくとも職場で孤立することは無いと思うが……」

 

 すると、四条がカイトに向かってそんな事を言う。現実世界の事を引き合いに出されたカイトは、下を向いて少し暗くなった。

 

 「あはは……そう言う、チームプレイを重視する職場だったら、良かったんですけどね……」

 

 「………」

 

 「………」

 

 何処か濁った目でそんな事を言うカイトに対し、四条も神崎も言葉を詰まらせてしまう。

 ……どれだけ劣悪な環境で働いていたのだろうか?

 

 「……僕って、つくづく運が悪いんですよ。職場で孤立したのも、他人のミスを僕が休みの日なのを良い事にアイツがやったって事ででっち上げられて……僕じゃ無いって言っても誰も信じてくれませんでした」

 

 「……辞めれば良かったじゃないか、そんな職場」

 

 あまりにも酷い労働環境に、四条がそんな事を言う。対してカイトは顔を上げ、困った様に笑った。

 

 「今ではそうしておけば良かったなって思いますけど、その時はかなり追い詰められてまして……お陰でどんどん内向的になって、昔からの友人とか、家族とも連絡を取らなくなって………」

 

 そこまで精神的に追い詰められていたとは、四条も思わなんだ。このカイトと言う青年は誰にも相談出来ない相手がおらず、職場でも孤立して徐々に精神を削られた結果、あの森で自殺紛いの事をしようとしたのだ。

 

 「でも、その中でもスグルさんとユーリーさんと出会えたのは、数少ない幸運だったかも知れませんね」

 

 そして暗い顔から一転、柔らかく微笑んで、カイトはそんな事を言う。

 心の底からの言葉である事は、四条と神崎にも理解出来た。彼と出会って3日。この純朴さが、彼の本来なのかも知れない。

 

 「……そうか、そりゃ嬉しい限りだな」

 

 「な、なんか、面と向かってそう言われると、恥ずいっすね……」

 

 そんな彼の純朴さに充てられたのか、少し気恥ずかしそうに四条と神崎はそう返す。

 まるで命の恩人かの様な扱いをされて、二人とも参っていた。

 そして、四条の頭にある考えが浮かぶ。

 

 (……なあ神崎、ちょっと提案があるんだが……)

 

 すると、四条が神崎に耳打ちをし始めた。

 

 (?、なんすか?)

 

 そんな四条に、神崎も耳を傾ける。そして、カイトに聞こえない様に何やら小声で会話を始めた。

 

 「な、なんですか?二人して小声で話して……」

 

 目の前で内緒話をし始められて、カイトは内心穏やかでは無い。そして1分ほど話したのち、四条は神崎の耳から顔を話し、今度は真剣な眼差しでカイトを見つめた。

 

 「なあ、カイト。お前、元の世界に戻るにはどうしたらいいと思う?」

 

 「え?、も、元の世界ですか……?」

 

 明らかに先程とは雰囲気の違う四条に困惑し、質問に質問を返してしまうカイト。

 

 「俺はな、現実世界で事件が解決するまで、この世界で生き抜くのがベストだと思っている」

 

 「そ、それって、元の世界の警察に事件解決を任せるって事ですか?」

 

 カイトの疑問に、「ああ」と四条は深く頷いた。そして、次に四条が発する言葉に、カイトは大きな衝撃を受ける事となる。

 

 

 

 「……実はな、俺とユーリーは、警察官なんだ」

 

 

 

 「………え?」

 

 直ぐには、理解が出来なかった。この世界はゲームの世界。そんな場所に国の威信である警察が居るとはカイト自身、露ほども思っていなかったからである。

 そんなカイトを他所に、四条は自己紹介を始めた。

 

 「俺の本名は四条優。警視庁捜査二課の刑事だ。そしてこっちが……」

 

 「神崎由里子、同じく捜査二課で先輩の部下っす」

 

 唖然とした顔でカイトは両者を見つめる。にわかには信じられなかった。確かに相当な場数を踏んできているのだろうなとは、四条の立ち振る舞いと雰囲気で分かった。

 しかし、それが刑事だとは……

 

 「ほ、本当に刑事さんなんですか……?」

 

 まだ二人が刑事だと言う事を信じられないカイトは、驚いた表情のままそんな事を聞く。

 それを見て四条と神崎は、困った様に笑って互いを見つめ合った。

 

 「まあ、いきなりこんな事言われて信じられないだろうが事実だ。……警察手帳は現実世界に置きっぱなしだがな」

 

 「は、はぁ……」

 

 冗談ぽくそう言う四条だが、カイトはそんな事よりもこの二人が本当に刑事なのかをまだ疑っていた。

 しかし、この二人が嘘をついている様にも思えない。それはこの3日間一緒に行動した事で、彼も何となく分かっていた。

 

 「そこでだ、現実世界で事件が解決するまでの間、俺達はこの世界の治安維持をしようと思っている」

 

 そして、ついに四条が本題に入る。ここまで話を聞いていたカイトも、なんとなく想像できた。

 

 「それって……」

 

 彼らは警察官。それが本当なら、やるべき仕事は一つ。この世界には、今のところ治安を維持する組織は存在しない。

 

 

 「この世界で警察の"代わり"をする。そしてカイト。お前にもその手伝いをして貰いたい」

 

 

 四条の発言に、カイトの背筋がゾワっとする。カイト自身、この世界から抜け出すためには茅場の言ってた通り、フロアを100層攻略しなければならないと思っていた。

 しかし、この四条が考えているのはあくまで現実。カイトを見つめるその眼差しは真剣そのもので、彼に四条と神崎が警察官だと認めさせるには、十分なものだった。

 

 

 「ぼ、僕に出来るっすかね……」

 

 

 そして次にカイトに生まれた感情は、不安。言うが易し行うが難しとはよく言ったもので、一般人として生きてきたカイトにとって、その使命は重すぎるものだった。

 

 「お前は、変わりたいと言ったな?なら、これはその第一歩だ。人の為に、誰かを守る為に行動する。それは生半可な事じゃないが、確実にお前を強くしてくれるぞ?」

 

 だが、四条は尚も真剣な眼差しで、カイトを諭す様にそう言う。四条は、この青年にその力があると確信していた。いや、力と言うよりかはその信念があると踏んでいた。

 先程見たサポートの立ち回り。他人への気遣い。そして、素直に礼を言えるその純朴さ。

 後は、その気弱さだけなのだ。

 

 「………」

 

 四条の言葉に、カイトは深く考える。今まで自分が人の為に何かやってこれたかどうか。

 努力は、したと思う。しかし、それが実った事はない。

 だが、ここで諦めては、現実世界と同じだ。今、ここはゲームの世界。限りなく現実に近いが、まやかしの世界だ。

 

 そんな虚偽の世界なら、自分も人の為に何かできるかも知れない。

 

 

 「……分かりました。手伝います!!」

 

 

 一言、それだけ言い、真剣な表情で四条を見つめ返すカイト。その一言で十分だった様で、四条は軽く笑うと、カイトに向かって手を差し伸べた。

 

 「よし、じゃあ、改めてよろしくな。3人目のギルドメンバー、ゲットだ」

 

 「お、お願いします!!」

 

 差し出された四条の手をしっかりと握り返し、緊張の面持ちでそう返すカイト。

 

 「よし、じゃあ、飲むか!コルは今日一日で山ほど貯まったから、好きなだけ飲んで食っていいぞ?」

 

 すると、四条は新たなギルドメンバーの歓迎にと、そんな事を宣言した。

 

 「へへっ、あざーっす!!」

 

 「あ、ありがとうございます!!」

 

 そしてここぞとばかりにと、神崎はNPCの女性店員に、注文する。そして、いつも通り形だけではあるが、用意された料理を食べ始めた。

 

 

 _______ジジッ_______ジジジッ______

 

 

 すると、料理に手をかけたカイトの手が、少しながらノイズを上げて霞んだ。

 

 「ん、なんだそれ?」

 

 「さ、さあ?、バグか何かですかね?」

 

 しかし、直ぐに元通りになったので、その後は気にせず、料理に舌鼓を打った。

 

 

 

 

 

 

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