投稿順を間違えていました。
これが十七話です。
ひとつ前に本来の十六話を入れました。
第十七話
ゴンッ!!
「だりぃ・・・」
椅子に座っているのでさえ億劫で、脱力して机に額を打ち付ける。
悪魔が日中しんどいってのは事前に聞いていたがここまでとは・・・。
個人差もあるらしいが俺はかなり重い方なんだとか。
今でも気を抜けば気を失ってしまいそうだ。
夜には絶好調な分、落差が酷い。
額を打ち付けた際かなり大きな音を立ててしまった為、
「だ、大丈夫ですか?」
隣に座って書類整理をしていたおさげの少女、草下 憐耶が心配そうにのぞき込んできた。
パッと見地味な印象を受けるが、この素朴さがいいと僕は思います。
「個人差はありますが、誰でも最初はそうなります。・・・あまりしんどいようでしたら早退しますか?」
会長もさすがに見かねたのか気遣いを見せた。
「いや、やるよ。雑用とはいえ新入りなんだ。いきなり病欠みたいな真似はしたくない」
俺は悪魔に転生してからはほぼ毎日、昼休みと放課後を生徒会業務に費やしている。
既に今年度の役職は決まっていたので表向きは雑用係という事になった。
「そうっすよ会長!!新入りなんだからもっとビシバシしごかれるべきなんすよッ!!」
デスクの向かいから身を乗り出して匙が大声で主張する。
匙元士郎。同い年で隣のクラスだったはずだが、眷属としては先輩だ。
「匙、彼は転生してまだ数日なのです。・・・それにあなたが転生した際は丸二日寝込んでいたはずですが」
「うぐっ」
「ははは、だっせぇ」
指をさして笑ってやる。
二日?俺は翌日には登校したぞ。
「うるせぇ!お前なんてまだ魔力にも目覚めてないじゃないか!!」
こ、こいつ人が気にしていることを。
そう、俺はまだ魔法というものが使えない。
魔力は知覚しているし、流れも操作できる。
どころか、会長によるとちょっと異常なくらいの精度らしい。
だが、未だ魔力を持ってして現象を起こす―――炎を出したり、物を氷らせたりに成功していないのだ。
内包している魔力量が大したことないとも言われた。
「バッカ。俺はほら、大器晩成型なんだよ」
家で夜中に自主練習はしているが、うまくいかない。
魔力を練って固めて研ぎ澄ませるまではいくのだが、最後の変換のイメージが全く湧かない。
相談に乗ってくれた堕天使と女装少年は
『さあ?私魔力なんて持ってないし』
『ごめんなさい、兄様。僕も何となくで今までやって来たから…』
との事。
「魔法に最も必要なのは想像力です。何かモデルを思い浮かべながらやってみてはどうですか?」
暫く顎に手を当てて考えこんでいた会長が顔を上げ発言する。
「モデル?」
「ええ。例えば魔術師たちが唱える呪文、あれはそのものに意味があるのではありません。トランス状態になることで成功率を高める、一種の自己暗示の様なもの」
「なるほど。呪文か・・・やってみる価値はあるかもな」
うむ、さっそくやってみよう。
立ち上がり、少し広いスペースを確保。
えーっと?魔法の呪文、魔法の呪文・・・・。
目を閉じて魔力を練る。純度を高めて手に収束―――
「バルスッ!!」
「「「・・・・・・・・・・・・・」」」
何も起こらない。いや、心なしか三人の眼差しの温度が下がった。
「だめか・・・」
しかし一度で諦めるわけにはいかない。
「カイザード・アルザード・キ・スク・ハンセ・グロス・シルク―――」
不発
「黄昏よりも昏きモノ、血の流れよりも赤きモノ―――」
不発
「宇宙天地興我力量降伏群魔迎来曙光―――」
不発
「アブトルダムラル―――」
「Iam the bone of my sword――」
「我は放つ、光の白刃ッ―――」
俺の中での魔法の呪文を片っ端から唱えてみる。
だが、結果は
不発
不発
不発
不発―――途中までは注目してくれていた三人も、今はガン無視で生徒会業務に戻っている。
「・・・すみません。貴方にはこの方法は―――」
流石に鬱陶しくなったのだろう。会長がため息をついて制止しようとしたその時
「ザケルッ!!」
パリッ
「え?」
手のひらに青白い静電気程度だが、確かに電流が走った。
「おお、出た」
できた。
「んっ、ふう・・・。ありがとう。おかげでだいぶ楽になりました」
俺は副会長の肩に行っていた放電を止める。
やっぱ胸が大きいと凝るんだな。
あれから数日、何度か練習してコツを覚えた俺は呪文なしでも電気を発生させることが出来るようになった。
しかし、成功したのは電気のみで他のものは成功していない。
電気も非常に微弱で、本当に静電気よりはちょっとマシなレベル。
活用法としては肩こり解消位しか思いつかない。
あ、猫の蚤取りができるかも。
「・・・眼の調子はどうですか?」
自分の力の新たな可能性に喜んでいると、会長が心配そうにこちらを見ていた。
「ぼちぼちだ」
問いかけに曖昧な回答をしつつ、俺は自身の右目に手をやる。
医療用のガーゼに覆われているが別に怪我をしている訳では無い。
――赤龍帝の代償――
人に見せるわけにはいかないから隠している。
クラスメイトに中二病だと笑われたので、眼帯は避けたいと思う。
そろそろ物もらいでは誤魔化し辛くなっているがどうしたもんかねぇ。
「あんま気にすんな」
気遣わしげな視線から目をそらし、窓の外へと向ける。
自業自得な上に、俺は本気で気にしてないってのに。
むしろパワーアップだろ、これ。
カキ―ン!!
生徒会室の窓からは生徒たちが来たる球技大会へ向けて練習しているのが見下ろせる。
おお?
あの白、赤、金と目立つ頭が揃っているのは兵藤達か。
白い頭――塔城がものすごい勢いでホームランをカッ飛ばしている。
「会長、オカ研の連中も練習してるんだが、あの人外集団も参加すんのか?」
「ええ。彼らも参加します。勿論、我々も」
「は?」
「部活対抗試合に我々は『生徒会』として参加します」
うそーん
「遊びといえど、勝敗の分かれるものでリアスに後れを取る訳にはいきません」
悪魔陣営が人間の目の前でぶつかるって・・・秘匿性は?
「もちろん悪魔としての力は使いません。ですが、手も抜きません」
魔力なしでも悪魔の体力は反則だって。
俺も悪魔化して得た身体能力に未だに少し戸惑っているくらいだ。
「競技は?」
「ドッジボール」
あー、うん。
何人か死ぬんじゃないかな?
「本日のノルマを達成次第、我々も練習を開始します。既にほかのメンバーは始めていますので・・・椿姫、今日の練習場所は?」
「体育館のコートを一つ抑えています」
「わかりました。青江も、もう体調は大丈夫なようですね」
「すんません、今日はちょっと体調が」
「もうじき日も暮れます。・・・大丈夫ですね?」
「イエス、サー」
新人に拒否権はない。
パーン! パーン!
球技大会の開催を知らせる花火が空に響く。
と言ってもあれは経費削減のために魔力弾での代用だ。
『あー、塚本くーん。漫研ロリ絵担当の塚本くーん。至急職員室まで来てくださーい。橋岡先生がお呼びでーす』
この学校は生徒会の権力が非常に大きい。
こういったイベントもほとんど生徒会が発案、主催、運営を行っている。
俺は生徒会役員としてサポートに回っている。今は放送部のピンチヒッターだ。
生徒会は当日も仕事があるため、参加できるのは一つ。
優勝チームとのエキシビジョンマッチ、つまり最後の最後。
『そこ、テニスコートへのカメラ持ち込みは禁止。アンダ―スコートは自分の目に焼き付けろ。―――警備員、部外者が紛れ込んでる。つまみだせ。―――二年三組、先頭の子が倒れそうだ。必要なら保健室へ連れていけ』
この学校は毎年盗撮被害が多い。会長の方針で、今年は警備を例年の倍近く強化している。
ここ、女子のレベルが滅茶苦茶だからなあ。写真一枚でも需要は天井知らずだろう。
なんとなく放送委員の役割から外れている気もするが、目に入るものはしょうがない。
まあ、渡されたマニュアルにコーヒー零しちまって本来の業務自体を知らないけどな。
「あ~~!青江~ッ!!」
「あ?」
休憩時間にぶらぶらしていると背後から大声で名前を呼ばれた。
振り返ると、良く知った顔の少女が階段に腰掛け手招きをしていた。
「なんだ、桐生か」
「なんだじゃないわよッ!!アンタがいなかったせいでうちのクラス一回戦落ちだったんだから!!」
怒りも露わにガーッと叫ぶ。
「俺のせいかよ。生徒会の仕事だって」
連絡はしていたはずだ。もしかして伝わってなかったのか?
だったら怒りも納得できる。うちのクラスは特に練習に力入れてたからな。
しかし
「知ってるわよそんな事。言ってみただけ」
彼女はケロッとした表情でほざいた。
「・・・そのこころは?」
「ん?八つ当たり」
「しばくぞ」
他にすることも無かったので隣に腰を下ろす。
グラウンドではドッジボールの準決勝が行われていた。
『イッセーを殺せえぇぇぇぇぇぇッ!!』
『お願い!兵藤を倒して!リアスお姉さまのために!朱乃お姉さまのために!』
『アーシアさんを正常な世界へ取り戻すんだ!』
『落ちろ!右!いや、正面か!』
オカ研の中で兵藤だけが集中砲火を受けている。
観客からも死ね死ねコール。
「うわあ。あれ、最早勝ち負け考えて無いわよ」
「ああ、兵藤しか狙ってない―――あ、股間に当たった」
うおおおおおおおおおおおお!!!
『淫獣討ち取ったりぃぃィィ!!!』
『やったー!やっぱり正義はあるのね!!』
兵藤が倒れたことにより大歓声が上がる。
「あれってそんなに痛いの?」
「痛い」
あの痛みは形容しがたい。禁手の『請負』もあれだけはお断りだ。
「ヒヒヒッ、標的が兵藤に集中してよかったわねえ?」
嫌らしい顔をして肘で小突いてくる。
「何が言いたい?」
「姫島先輩と塔城小猫、一番仲が良いのはアンタでしょ?」
「・・・・」
「しかも異例の生徒会入り――あの青江秀介がよ?あり得ない・・・何?今度は会長狙ってるの?」
鋭いな。
「モテモテじゃない?その可愛げないくらい立派なものにもやっと使い道ができたわね?」
そうだった。こいつは女版元浜だった。
見ただけでアレのサイズが分かるんだ。
「羞恥心とかないのか?」
「ない」
きっぱりとそんなに大きくない胸を張ってふんぞり返る。
「まーねー、私くらい経験豊富になればそんなもの『でもお前、処女だろ?』―――ふぇッ!?」
素っ頓狂な声を上げて仰け反った。
サイズを測る異能はどう習得できるか見当もつかないが、生乳を見た事のない元浜が編み出している。
桐生はすぐに平静を取り戻し、
「あー、やだやだ。すぐに男ってそういう幻想抱くよねー」
やれやれと言いたげに首を振る。
「この私が?この『匠』が?そんな訳ないじゃない。男なんてね、もうとっかえひっかえよ」
「なら、俺でもいいのか?」
顎をツイと持ち上げておとがいをそらさせる。
「え?ちょ、冗談でしょ?」
「・・・」
無言で顔を近づける。身をよじって逃れようとするが放さない。
「――――ッ!!」
ついに彼女は顔を真っ赤にして目をぎゅっと閉じた。
吐息のかかる距離、意外と長い睫毛が震えている。
俺は―――
「ぶはははははははっ」
堪えきれなくなって至近距離で爆笑した。
「アンタねぇ!!やっていいことと悪いことがッ」
「いやいや、なかなか・・・ククク」
腕を振り回しての攻撃を躱してゆく。
所詮女の腕力、しかも座った態勢だ。当たっても大したことはないが、悔しそうな様子が面白い。
「よっと」
「うわあ!?」
隙をついて、ひざ裏と背中に手を回し持ち上げた。
俗に言う『お姫様だっこ』だ。
「なにすんのよ!」
「保健室だ。さっき出塁したときに足捻ったんだろ?」
「!?・・・なによ、見てたんじゃない」
「放送室は見晴らしがいいからな」
「はあ・・・もういい。さっさと連れてって」
ため息をつき、観念したように体から力を抜く。
「あいよ」
視界の端では兵藤が外野なのに中からボールをぶつけられていた。
「ついにこの時が来ましたね、リアス」
「ええ、去年のテニスは引き分け・・・。決着をつけましょう」
赤と青が対峙する。
先生は俺たち生徒会。人数的にはこちらが上だがどうなることやら・・・。
「おくらいなさいッ!!支取流、レーザービーム!!」
会長の投げたボールが一切曲線を描かずグレモリーに迫る。
速ッ!?
ドッジボールが硬球よりも早く飛んでやがる。
「くう!!」
グレモリーも辛うじて受け止める。
実力は拮抗しているのだろう。
が、なんというかあっちの眷属は全員心ここにあらずみたいな感じだ。
木場もいない。
どんな凄まじい戦いになるか戦々恐々だった分、拍子抜け。
「兵藤、木場は?」
「分からない。最近ずっと心ここにあらずって感じで、さっきも部長に叱られて早退したんだ」
「原因は分からないのか?」
「・・・写真」
「写真?」
「俺の昔の写真に聖剣が映ってたんだ。それを見てから・・・」
聖剣?クラウ・ソラスやらエクスカリバーの事か?
「聖剣って―――」
なんだ?と聞こうとしたが――
「青江!!」
「イッセー!!」
二人の主が同時に叫ぶ。
「「まじめにやりなさい!!」」
「「イエッサー!!!」」
木場、大丈夫かなあ?
「遅くなっちまったな」
エキシビジョンマッチはあり得ないくらい長引いた。
他は全滅したのに主二人が延々とラリーを繰り返したのだ。
終盤には『なぜか』二人ともボールを受けるたびに服にまでダメージが及びはじめ、別の意味でかなり際どい試合となった。
おかげでいくら長引いても観客は男女ともに減ることが無かった。
最後は完全に相打ち。会長は最後の一球を投げたと同時に気絶したが、受け止めたグレモリーも投げ返すことが出来なかった。
ちょうど雨も降り始めたので、引き分けという事に落ち着いた。
「腹減った・・・」
時間は既に夜と言っても差し支えのない時間。
道を照らすのは街灯の光のみ。
傘はさしているが、帰ったらまず風呂に入りたい。
「ん?」
正面から人影が近づいてくる。かなりふらついているな。
悪魔化したことで夜目も聞くようになった。
でなければ目の前に来るまで何者なのか分からなかったろう。
影は神父だ。
どしゃっ
人影は10mほど俺の手前で崩れ落ちた。
「おいおい」
いくら神父とはいえ、流石に放っておけない。
駆け足で近寄ると、詳細が分かる。
「・・・こりゃだめだ」
腹には大きな傷があり、明らかに致死量の出血をしている。
――意識を戦闘用のものに切り替える。
通り魔のナイフではこの傷はつけられない。つまり、大きな刃物を持った下手人はまだこの近くにいる。
「っ」
背筋に極大の悪寒が走る。殺気だとかそんなものじゃない。
本能が全力で警報を発していた。
ひゅっ
頭を下げると、直前まで首があった場所に何かが通る。
勢いのまま前転しつつ距離をとった。
反撃できるよう身構えるが、相手に追撃してくる気配はない。
「いきなりなにしやがる」
ゆっくりと立ち上がると相手は余裕の足取りで接近してくる。
「おまえは・・・」
街灯の光の範囲に入ったその姿は忘れもしないクソ神父――
「フリード・セルゼン?」
相手の顔が喜色に染まった。