赤龍帝と青いヤツ   作:ニッカリ

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第十八話

「シューちゃん、おっひさ~~♪」

 

くねくね上半身を揺らしながら相変わらずの陽気な声を上げる。

 

「お前がいるってことはまた堕天使か?」

「イエース、イエスイエス!!・・・ッてゆーかシューちゃん悪魔になったの?なんか悪魔臭い。こちらにおわすはデビル・シューちゃんですかぁ?」

「そうだよ、デビル秀介さんだ。恐れおのののけ」

「いやいやおうおうおう、悪魔くんには分ーかりませんかァ~?それとも見えない?このっ、聖ッ、剣ッ、がッ」

 

左手に握った奇抜な形の件をかっこよく天につきつける。

・・・悪寒の正体はあれか。

聖剣―――昼間兵藤が言ってたやつだな。

 

「悪魔はこれで斬られると一撃ッスからねぇ~~。ほらほら、みてみてこのエクスカリバー」

「マジでっ!?」

「あり?知んないの?悪魔にとって聖剣は―――」

「いや、そんなのどーでもいいから。なに?ソレがあのエクスカリバーなの?」

 

すっげー!!男の子なら一度はあこがれる武器トップ10には入ってんだろ!

悪魔とか神とかいるんだから聖剣くらいあるとは思ってたけど、まさか実物を見られるとは!!

 

「あ、うん。そうです・・・じゃなくてぇ。んん?シューちゃんエクスカリバー好きなの?目ぇめっちゃキラキラしてんだけど」

「かっこいいじゃねぇか」

「おおおおおおッ!!!わっかるー?やっぱそーだよねー!!いいっしょー、これー」

 

見せびらかすようにブンブンと振り回す。

剣はふられる度に軌跡を描くように金色の粒子を残す。

 

「うはー、眼福だわー」

「だしょー??やっぱシューちゃんセンスいいって、うんうん」

 

一通り二人で黄金の煌めきを眺める。

 

「そーいやさぁ、シューちゃんさァ、そこに転がってる神父、見ちゃったよねぇ?」

「ああこれ?・・・忘れてたわ」

「ひっどー。そこはどうしてこんなことをッ!?つって飛び掛かってくるとこだよ」

「だって死んでんじゃん。知り合いでもないし」

 

生きていたなら助けるし、知り合いだったら、大切な存在だったらもちろんフリードを殺そうとしただろう。

だが、死んでいる他人に俺がしてやれることは弔うことくらいだ。

 

「吾輩、目撃者は全員コロコロしろって言われてんのよねっとォ」

 

突然フリードは俺に向かって切りかかってくる。

 

ブオン!!

 

「っとぉ」

 

俺はスウェーで躱しつつ距離をとった。

さっきまでの和気藹々ムードは一変して、ピリピリとした緊張感が二人の間を流れる。

 

「見逃すわけにはいかんのか?」

「えー、別にボクちん真面目君じゃないけどォ~。命令とは別ナンスわ、この感情はッ!!もーね、我慢できない!!興奮しちゃった!殺し合おうよ!?」

 

完全に目がイってらっしゃる。

この表情を見ていると初対面の時を思い出すな。

あの殺し合い――――クククククッ

 

「伝説の聖剣が相手・・・あたりゃあ即死だっけか?クハッ」

「シューちゃんも悪魔になって強くなったよねェ?ひひひゃは」

 

俺も気が狂っているのだろう。だが、死ぬような状況が楽しい訳じゃない。

むしろ逆だ。死ぬつもりは毛頭ない。

俺は死ぬことが何よりも恐ろしい。

俺は生きることが何よりも楽しい。

死にそうな状況、死んでもおかしくない状況、そこから『生き延びる』事が最高に興奮する。

平々凡々と、だらだらと生きるよりもずっと自分の生を実感できる。

俺は永遠に生きて、生を実感し続けたい!!!

 

「ハッハハハハハハハハハ――!!」

「イイェェェェェェアッハアァァァァ!!」

 

フリードの聖剣を傘ではじく。

勿論、傘を両断されないように剣の腹を横から殴りつけてだ。

パンッパンッパンッ

剣と傘のぶつかる間抜けな音がしばらく続く。

 

バシィッ

 

一際大きくぶつけると、傘を鎬を削るようにして鍔元まで滑らせフリードの手首を押さえつけた。

鍔迫り合いの形で接近した俺は

 

「オラァッ」

 

全力で額を奴の顔にぶつける。

が、相手も同時に同じことを実行したため額には二倍の衝撃が走った。

 

ゴッ!!

 

額を突き合わせたまま、吐息の掛かる様な距離でにらみ合う。

俺の額から一筋、血が流れるのを感じる。

フリードの顔にも同様に血が滴っていた。

 

「ククク」

「ヒヒヒ」

 

同時に弾かれたように距離をとり、体勢を立て直そうとする。

俺が人間のままならここで仕切り直しだ。

しかしこの身は既に人間では無い。

悪魔の瞬発力をもってすれば、人間の奴よりも先に行動に移れるッ!!

 

「シッ!!」

 

右足の爪先で聖剣を相手の体の外側へ弾く。

そのまま足を下げず、一発二発と胸を足裏で蹴りつけた。

ダメージは少ないようだが体勢は崩せた。

攻撃した足で踏み込みつつ、接地した瞬間軸足に変える。

頭を狙った後ろ回し蹴り。

 

「うおわあァァァい!?」

 

ギリギリのところでフリードは仰け反って死神の鎌を回避する。

そしてバク転を繰り返し距離をとった奴は、一段と高く飛んで背後の塀に飛び乗った。

俺も奴を追って塀に難なく飛び乗る。

どうやら塀の内側は民家のようだ。

 

「む?あれは・・・」

「戦闘中にッ、よそ見ですかァっ!?」

 

正面からの斬撃を躱しつつ塀を飛び下りる。

 

「ちょっとお借りしまーす」

 

俺は庭に出しっぱなしだった物干し竿を掴み、再び塀に戻った。

 

「傘の次はその棒っきれ?」

「・・・かの高名な佐々木小次郎は、物干し竿でエクスカリバーと互角に渡り合ったという」

 

金属製のソレは傘なんかよりもよっぽど頼りがいがある。

俺は物干し竿を槍の様に構えた。

 

「第二ラウンドだ」

 

先制して突きを放つ。引きを極限まで早くして、高速で突く。

線よりも点での攻め。金属製とはいえ聖剣とまともにぶつかればアウト。

接触は最小限に。

 

「ほんっと器用だねェ!!苦手な武器はなんですかっとォ!!」

 

武器を変えてからは明らかに俺の方が押している。

聖剣がいくら凄かろうと、振っているのは人間だ。

だが、油断は禁物。ただの光属性の剣が伝説と呼ばれるはずがない。

 

「ぶぎゃっ」

 

俺の突きがフリードの脇腹を捉えた。

 

「げっほ、ぐふ、おえええ。・・・・やだ~~、素の能力じゃあもう敵わぬですなぁ!こうなったらぁ―――」

 

聖剣が金色のオーラを纏い始める。来るか・・・。

――まさか対場攻撃とかしてこないよな?

 

「解放!『天閃の聖剣』!!!」

 

次の瞬間、フリードの剣を振る速度が劇的に加速した。

速い。速すぎる。人間の出せる速度じゃない。

普通に木場クラス、いや恐らくもっと速い。

間違いなく聖剣の能力だろう。

 

ザンッ

 

速さに全く追いつけず、竿を二つに両断されてしまった。

まだまだっ

 

「得物が、二本に増えたなッ!」

 

斬られた半分ずつを両手に握って双剣の構えに変えた。

フリードの高速剣を二刀でさばく。

いなす、弾く、逸らす、弾く、いなす、いなす。

防戦一方。

それでも完全にはさばき切れず、俺の体には無数の小さな切り傷が出来る。

 

ギギギギギギッ

 

音は一続きの音楽の様に連続で鳴りはじめる。

片目が使えないのが本当にしんどい。

相手も覆われた右目の方を重点的に狙ってくる。

どうする、『目』を使うか?

 

「ッ!?」

 

そう思った瞬間、全身から力が抜けた。

踏ん張ろうとするが敵わず膝をつく。

 

「あーあ、いったじゃーん。ボクちん言いましたよねェ?」

「ちっ」

 

そうか、悪魔にとっての光は『こういうもの』か。

夕麻の槍を受けた時は人間だったから、焼けるようなものをイメージしていたが・・・。

これは毒だ。ごく少量の傷でも確実に体を蝕む。

 

「っていうかいくら七分の一とはいえそんなもので聖剣と張り合うってねェ?すごいけどさァ、なーんか拍子抜けってかァ?もっと期待してたんよ?シューちゃんとやり合ってからさー、雑魚をぐっちゃぐちゃにしても前みたいに興奮しないワケ。万年欲求不満。どうしてくれんの?」

 

そう言うフリードは、珍しく本気で不満そうな顔だった。

 

「わかってねェ・・・なァ」

「んんんんん?」

 

俺にはこいつが満足できなくなった理由に心当たりがある。

武を志すものなら一度は必ず感じるであろう葛藤。

 

「殺すのが困難な、はぁッ・・・奴を殺す方が楽しいんじゃねえか。・・・新人の時にはもっと楽しかった。成長するほどにつまらなくなった。そう思わないか?」

「・・・」

「お前は相手してるのが雑魚すぎんだよ」

 

こいつは根っからの戦闘狂だ。

だが、なまじ才能があった分満足できる殺し合いが無かった。

物足りない、満たされない。そんな思いが残虐性をエスカレートさせていったのだろう。

勿体ない。死線をくぐるのはこんなにも楽しいのに。

 

「想像してみろよ、戦う前までふんぞり返ってた格上が這いつくばってお前に命乞いをする様を」

「うーん、うーん・・・お、お?おおお?・・・うへへ、ひひひぇへ」

 

想像しているのだろう。奴の顔が徐々に喜悦に染まってゆく。

 

prprprprprprpr

 

しかし妄想を中断するかのようにフリードの携帯電話が鳴った。

フリードは見るからに不満そうに電話をつまみ上げる。

 

「あ、はいもしもしィ?・・・ええええ、しょーが無いッスね~」

 

ピッ

 

通話を終了したフリードは頭をガシガシと掻く。

 

「・・・ごめんシューちゃん、ワタクシ帰りますわ」

「とどめは刺さねえのか?」

「だァって今のシュウちゃん殺してもねえ?こーね、アガらないっすわ」

 

そう言って奴は俺に背を向け、振り返りもせずに立ち去った。

今のお前には殺す価値もない、という事だろう。

 

「・・・・・・・完敗、だなぁ」

 

油断していたつもりは一切ない。

俺の悪魔としての初戦は敗北だ。

 

 

 

 

 

「ってことがあったわけよ・・・いで、いででででっ」

 

ピンセットにつまんだ脱脂綿で消毒液を塗ってくれていた夕麻が傷口をぐりぐりと突っつく。

俺はソファーに座ってさっきの出来事を報告していた。

 

「なんで悪魔になって一か月にも満たない下級悪魔が、聖剣に喧嘩売ってんのよ。バカなの?死にたいの?」

「フリード・セルゼン、フリード・セルゼン、フリード・セルゼン兄様を殺そうとしたニンゲン・・・・」

 

そうだ、堕天使なら聖剣についても詳しいんじゃないだろうか?

 

「エクスカリバーについて、知ってることある?」

「はぁ・・・聖剣といえばって言うとまず挙げられる代名詞ね。でも、たしかエクスカリバーは全部教会が管理している筈よ。堕天使側に渡ったなんて話、少なくとも私はしらないわ」

 

だがフリードは堕天使側だと言っていた。

ここ最近の急な出来事なのか、水面下での極秘事項なのか・・・。

ってか全部?

 

「エクスカリバーって何本もあるの?」

「本来は一本よ。でもかつての大戦で砕けたらしいわ。いまあるのは破片から再構成した七本」

「だから七分の一か・・・」

「アンタが相手したのは『天閃』でしょうね。能力は所持者の加速よ」

「フリードフリードフリードフリード・・・わわっ」

 

ハイライトの消えた目でブツブツ呟いていたギャスパーを膝の上に載せる。

――加速か・・・間違いなくそれだな。

七分の一であれか・・・

 

「もしも本当に堕天使の手にエクスカリバーが渡っているならかなりの大事件よ。教会の人間にとっては切り札なんだから」

「最悪の場合は?」

「さぁ?・・・戦争?」

 

そこまでデカい話なのか・・・会長に報告すべきだな。

ギャスパーの頭に顎をのせ、考えにふける。あ、結構いい匂い。

――グレモリーの方にも言っておいた方がいいだろう。

悪魔なら絶対に気を付けておくべきだ。

暫くは全員に警戒してもらう必要がある。

 

「このことは主に報告しておく」

「それがいいでしょうね。でも、聖剣の詳細までは言わない方がいいわ。あんたさっきまで知らなかったんだから」

「ああ、分かってる」

 

夕麻を匿っていることが知れればどうなるか。

それこそ大問題だ。

 

「さて、メンドクサイ話は終わりだ。お前らも一応気を付けとけよ」

「はいはい。で?ごはんどうするの?」

「そーだなぁ。宅配ピザなんてどうだ?」

「けち臭いアンタにしては珍しいわね」

「けち臭い言うな、倹約家と言え。・・・今回は別に目的がある」

「目的?」

 

膝の上でうつらうつらしているのをチラリと一瞥し

 

「注文はギャスパーにやってもらう。もちろん、受け取りもだ」

「えええっ!?む、無理です嫌です怖いです」

 

膝から飛び降り、手をバッテンの形にして首を振る。

 

「まだ人の多い外に出るのは怖いんだろう?だったらまずは赤の他人と一対一の状況を乗り越えてみろ。ステップワンだ」

「ふーん。更生ってただの口説き文句じゃなかったのね。・・・いいんじゃない?ギャスパー、頼んだわよ」

「そ、そんなぁ」

「大丈夫だって、俺らも見といてやるから」

「一緒にいてくれるんですか?」

 

少し光明が差したという様に聞いてくる。

 

「いや、物陰から」

「うわーんっ」

「はい、チラシ」

「お、サンキュー」

 

 

 

 

 

 

 

「うまー」

 

なんだかんだでギャスパーはやり遂げた。

配達員にもつっかえながらも応対し、代金も支払った。

こっそりつり銭が出るようにしていたが、それもクリア。

 

「たまにはこういうジャンクなのもいいわね」

「・・・・・・」

 

ギャスパーはさっきからずっとつり銭とピザを交互に眺めている。

 

「できたろ?」

「・・・はい」

「今回の挑戦で少しは自信が付いたはずだ」

「そうなんでしょうか?」

 

不安そうな様子は変わらない。

 

「別に一気に治す必要はないんだ。気長に、一歩ずつやってこうぜ?俺も手伝ってやるからさ」

「・・・次も、次のときも僕がやっていいですか?」

 

驚いた。ここまで前向きな意見が出るとは。

 

「もちろんだ。そう思えるだけで大きな成果だよ。・・・頑張ったな」

「えへへ」

「ほら食え。おい、夕麻食い過ぎだ。ジャーマン後一切れしかねえじゃねえか!!」

「これが一番おいしいのよ」

 

結局ギャスパーに譲ったため、俺はジャーマンが食えなかった。

くそっ、俺も一番好きなのに。

 

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