赤龍帝と青いヤツ   作:ニッカリ

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遅くなりました申し訳ない。




第二十七話

「おまたせ…どうした?」

「「「「………」」」」

「ふはははははっ!!!」

 

ようやく戦線に復帰できるようになった俺は兵藤達と合流したのだが―――様子がおかしい。

 

「嘘だ…」

 

特にゼノヴィアの様子が尋常ではない。

瞳は同様に揺れ、呆然としている。

戦意も失ったのか構えは解かれ聖剣を握る力も弱々しい。

 

「「???」」」

 

フリードと顔を見合わせて首を傾げる。

ゼノヴィア以外の連中も困惑顔で動きを止めていた。

 

「くくくくく…。やはり魔王の娘すらも知らされてはいなかったか」

 

ただ、コカビエルのみが滑稽なものを眺めるように愉快そうだ。

その目は主にゼノヴィアに向けられていた。

 

「どうだ?教会の聖剣使い。お前は『信仰』の名のもとに多くの者を切り捨ててきたはずだ」

「…」

「殺した後に神に懺悔したか?それとも神の名のもとにという免罪符で罪悪感は無かったか?」

「っ―――――貴様の戯言には惑わされん…」

 

ゼノヴィアは聖剣を握り直して切っ先をコカビエルに向ける。

歯を食いしばり、必死の形相で掲げられたソレは誰が見ても分かるほどに揺れていた。

 

「その言葉が出る時点で意志が揺らいでいる証。認められん…いや、認めたくない…か。ふん、もう一度言ってやろう―――先の大戦で神は死んだのだ」

 

…ニーチェ?

 

「黙れ…」

「貴様は今まで誰に向かって祈っていたのだ?誰から赦しを得ていた?誰の名の元に裁いてきた?」

「だまれえええええええええっ!!」

 

ゼノヴィアがコカビエルに向かって突っ込む。

勢いは凄まじい。

だが、それだけ。

精彩を欠いており、剣技のかけらもないただの突進。

殺気すらもどこに向けていいのか見失った――――八つ当たり。

 

「つまらん」

「げぇっ――――」

 

コカビエルは難なく攻撃を躱し、彼女の腹を無造作にボールでも蹴るかのように蹴り飛ばした。

ゼノヴィアは大きく吹き飛ばされ、俺たちのすぐ近くまで転がって来た。

 

「ぐっ、が…」

 

それでも、口から血反吐を吐き出しながらも立ち上がろうとする。

 

「貴様の信仰心もその程度か」

「なん…だと?」

 

剣を杖の様にして立ち上がろうとする。

その顔は血と埃にまみれ、憤怒の形相に歪められていた。

 

「なぜ俺の言葉を信じる?なぜそこまで動揺する?」

「え…」

「貴様が真に狂信者であるのなら、初対面の俺の言葉など聞く耳を持たんだろう」

「!!??」

 

ピタリとゼノヴィアの動きが止まった。

 

「何よりだ…そこまで動揺するのは何か?『神がいなかったのなら、自分の信仰は無駄だった』とでも?」

「あ・あああ」

「神のご加護?神の赦し?……はっ、所詮見返りが無ければ意味を見いだせないと?」

「やめろ…やめてくれ…」

 

先程までの気迫は既に無く、ゼノヴィアは弱々しく首を振る。

 

「神の実在、天使の実在をしっていた貴様がその程度とは…これなら何も知らず、日曜に教会に通う者の方がよほど敬虔だろうな」

「ぁ―――」

 

 

 

 

 

 

 

カランッ

 

ついにゼノヴィアは聖剣を取り落した。

へたり込み、虚ろに目を見開いてブツブツと呟く。

 

「結構陰湿だな、お前」

 

俺はチラリとゼノヴィアを一瞥して声を発した。

一名離脱か。

 

「期待外れにもほどがある。デュランダルの適合者と聞いて一度は心躍ったが…実力も、信念も、信仰も先代やローランに遠く及ばん。滑稽さでは随一だったがな」

 

心底不愉快だといった様にゼノヴィアを視界から外し、俺に鋭い眼光を向ける。

尋常ではないプレッシャーがのしかかった。

常人なら目を合わせただけで戦意を喪失するレベル。

 

「貴様らは…フリードと出来損ないだな?俺と真っ向から目を合わせてくるか…見込みがあるのか、はたまた蛮勇か」

 

そう言ってコカビエルは自身の頬を伝う血を拭う。

そして掌に付いた自身の血をじっと見つめると。

 

「聖魔剣使いっ!!」

「…なんだい?」

「貴様はこの中で一番見込みがある。バルパーの人形と戦っているときはゴミかと思ったが、今のお前は戦士として完成されている…俺に傷をつけた事といい、見事だ」

「……」

「だがグレモリーッ!!貴様らは駄目だ!!赤龍帝も、バラキエルの娘も!!」

 

コカビエルは振り向きざまに腕を振りぬき、衝撃波を飛ばす。

それだけで守りの体制に入った姫島、グレモリー、兵藤は大きく後退させられた。

 

「グレモリーと赤龍帝は口では守ると言っておきながら既に臆している。本当に何かを失ったことが無いだろう?喪失の恐怖を知っていれば、目先の恐怖に怯むことなどない。先の大戦ではそういった輩が溢れていた故に苦戦し、同時に心躍った。…いっそ誰かをむごたらしく殺すか?」

「くっ…」

 

奴は俺たちに無防備にも背を向ける。

なにをしても無駄ってか?

 

「木場、あいつに傷をつけたのはその剣か?」

「うん。でも、奴の剣技は僕よりずっと上だ。地力も経験もね」

「だろうな…」

「ね~、シューちゃん俺様暇なのよ。かんっぜんに舐めてくれちゃってるでございますよねあのお方」

 

フリードが聖剣の形状をグネグネ、ついでに自分もくねくねさせながらぶーぶーと不平を漏らす。

おー、エクスカリバーが犬の形になってる。

ホントに自由自在…使えるな。

 

「ちょっとだまってろ…木場、今から俺とフリードで時間稼ぎをする。その間に兵藤と塔城に―――」

 

俺は木場に作戦の説明をする。

木場は真剣に頷きながら聞いてくれた。

 

「…大丈夫かい?」

「ああ、そして俺とフリードが一瞬奴に隙を作るからそのタイミングでお前も戻ってこい」

「わかった。…しなないでね。僕は君に何も返せていない」

 

木場はそう言い残すと兵藤達の方へとむかった。

 

「はて、何かそこまでのことをしたっけか?」

 

もしかして『何でも』いう事聞いてくれるとか?

 

「フラグ立ったんじゃないの~~?ま、まさかシューちゃんはあたくしの貞操までも!?」

「それだけは無いから安心しろ…行くぞ」

「あいよ~」

 

俺たちは駆け出した。

 

 

 

 

 

 

ヒュン

 

「む?」

 

極限まで殺気を押さえて背後からの攻撃。

タイミングも会心のものだったが、奴は難なく躱して見せた。

 

「不意打ちか…」

「卑怯とはいわねえよな?」

「無論。ここは戦場だ。格下の貴様らはいかなる手をも講じねばならん」

 

そのまま超近接戦に持ち込む。

背中の翼が刃の様に自在なことも、槍の威力がシャレにならんのも確認済みだからな。

コカビエルは手に光の剣を出して応戦する。

半身だけ振り返り、片腕だけで俺の攻撃を凌いでみせる。

こっちはドライグの眼まで併用してるってのに…。

 

「ほう…錬度だけならば貴様が随一か」

「シェァァァァァァァァッ」

 

逆方向からフリードが聖剣での一撃を放った。

フリードは殺気がダダ漏れだから不意打ちには向かない。

だから俺の殺気に紛れれば行けると思ったんだが…。

 

「……」

 

コカビエルは少し眉を動かすだけでそれに対応して見せた。

両手に一本ずつ光の剣を手にし、俺たちを相手取る。

 

「聖剣エクスカリバー。不完全とはいえ使い手次第でここまで活きるか…。先のデュランダルよりも面白い」

「ひはっ。さっすが旦那。余裕っすね。でもでもエクスカリバーちゃんの可能性は無限大よ!?」

 

そういってフリードがエクスカリバーを一瞬両手持ちし、すぐに離す。

するとそれぞれの手には少し小さくなったエクスカリバーが。

『擬態』の応用か。

 

「むっ…」

 

流石にこれには驚いたのかコカビエルの意識の大半がフリードに注がれた。

 

「ひははは、これでもっともっとバラバラさ~」

 

一歩間違えれば即死するような状況でも狂人は笑う。

その目にはコカビエルの首、それしか映っていない。

 

「いい殺気だ。心地いい。やはりこうでなくてはな」

「俺も忘れんなよっと」

 

完全に奴がフリードに注目したタイミングで自慢の後ろ回し蹴りを顔に向かって叩き込んだ。

 

ゴッ

 

クリティカル。

これ以上ないほどの位置に決まった。

並の相手なら首が180度回転してもおかしくない…が。

 

「…貴様の錬度は感嘆に値する。最近悪魔に転生したと言ったか…人の身でよくぞそこまで磨いた。技量だけならば俺の知る中でも上位に位置するだろう」

 

効いてないか…ま、予想通り。

 

「そいつぁどうも」

「故に惜しい」

「あ?」

「貴様には基礎的な能力、そして決定打が絶望的に欠けている」

「んなこたァ百も承知よ。俺は出来損ないだからな」

 

努力が実らないかもしれない?

どうあがいても才能のあるやつに敵わないかもしれない?

だからどうした。

どんな結果に終わろうと、今俺にできるのは鍛えるのみ。

後悔なんざ死んでからでも遅くないだろうよ。

 

「くくくっ」

「どうした?」

「いやぁ?堕天使の幹部様はザコ悪魔に顔を足蹴にされても平気なのかなぁって」

 

余裕の笑みを湛えていたコカビエルの顔が引きつった。

俺はそれはそれはいやらしい顔で煽ってやる。

 

「言うではないか…きさ―――くっ」

 

ヒュオッという音と共にコカビエルのすぐ近くを斬撃が走る。

フリードではない―――木場だ。

 

「僕も参加するよ」

「作戦は?」

「伝えたよ」

「うし」

「いいぞ、先ほどの挑発は俺の意識を逸らせるためか…戦上手というべきか」

「さて…どうかな?」

 

今度は三対一だ。

 

 

 

 

 

「ふははははっ!!いいぞ、貴様らは合格だ。まさかここまで楽しめるとは!!連携も即興と言われてもにわかには信じがたい」

「ちっ…余裕ぶっこきやがって」

 

三人になってから奴と俺たちは辛うじて均衡を保っている。

三人、しかも全力でこれとは…そこが知れんな。

 

「くっ」

「木場っ!!」

 

ずっと攪乱するように全速で動いていた木場が足をもつれさせた。

 

「どうした、均衡が崩れるぞ?」

 

そう言いつつコカビエルは木場に追い打ちをかける。

だが、なんとか木場は奴と距離を取って攻撃を躱した―――来た。

 

「うあああああああああああっ!!!!」

「なんだ!?」

 

コカビエルの背後、正確にはグレモリー達のいた方向から猛スピードで何かが飛んできた。

搭城に投げられた兵藤だ。

 

 

 

 

 

 

「ひいいいいいいいいいっ」

 

奴はそのまま木場にすれ違いざまに一瞬だけ触れ―――

 

「ふざけ過ぎだ!!」

 

コカビエルに突っ込むも奴は回避。

兵藤はドップラー現象を起こしつつ明後日の方向へ飛んでいった。

だが、あまりにも予想外の攻撃にコカビエルはこの戦闘が始まって最大と言っていいほどの隙を見せた。

 

「おいおい、よそ見すんなよ?」

 

そんな奴に俺は初めの方に放った蹴り、それと全く同じものを繰り出した。

狙いは勿論頭。

奴はそれを見ても全く動じない。

早くもフリードの方へと意識を映しかけていた。

当然だ。

俺の攻撃は何一つ奴に効かない―――だが

 

「ククク」

 

俺は先程と同じように自分でも鏡で見れば殴りたくなるような笑みをして見せた。

 

――――もっかい顔を足蹴にしますよ?

 

それを見たコカビエルは半笑いの様な、怒り過ぎて零れたかのような表情をする。

 

「おのれっ」

 

奴は己のプライドにかけて俺の攻撃を回避した。

顔を仰け反らせて辛うじて。

だが、この場にいるのは俺一人ではない。

 

「勝機っ!!」

 

木場が体勢を立て直して正面から疾走する。

俺の反対側にはフリードが。

逃げられるのは後方か…上空。

 

「この俺を、コケにするかっ!?」

 

バサリッ

 

奴が翼を―――広げた。

 

「フリードォ!!」

「ひはははははっ、ばっらばらにしてやんよ!!」

 

フリードが思いっきり、剣を振りかぶる。

剣を振るための動作ではない。

まるで一本釣りをするかのような…。

 

「があああああああああっ!?」

 

次の瞬間、宣言通りにバラバラに分割された。

奴の十枚ある翼、そのうちの三枚が。

 

「いいいいいやっふううううう!!」

 

飛び散る肉片を浴びながらフリードが歓声を上げる。

手に握られたエクスカリバーからはキラキラと、よくよく目を凝らせばやって見えるほどの線が何本も生えていた。

―――鋼糸。

極限まで細くした金属の糸、その摩擦で肉を断つ武器だ。

奴は戦闘を続けながらも少しづつ上空にソレを張り巡らせていた。

そして奴が翼を広げ、網にかかった瞬間にすべて手繰りよせたのだ。

 

「キッサマ…ラァァ!!」

 

翼を三枚も失ったコカビエルは空中で体勢を大きく崩した。

飛び上がる事は出来ず、重力に引きずられ落下する。

 

「木場ァッ、やれぇぇぇぇぇぇ!!!」

「聖魔剣よっ!!!!」

 

ザンッ

 

木場の掛け声とともに大地に剣の花が咲く。

兵藤からの譲渡を受けたおかげで、一本一本に込められた力は今木場が手に持っている物を遥かにしのぐ。

無論、発生地点はコカビエルの真下。

 

「ごああああああっ」

 

自由落下するコカビエルは重力加速プラス剣の突き上げ、その勢いのまま剣の花に突っ込んだ。

奴は無数の刃に全身を切り刻まれてゆく。

 

「よっしゃ」

 

作戦成功。

 

 

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