赤龍帝と青いヤツ   作:ニッカリ

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第二十九話

「「「「終わっっっっっっったああああぁぁぁぁ」」」」

 

生徒会室にゾンビどもの呻きが満ちる。

普段は隙を見せない会長までもが呻きに加わっていることに注目していただきたい。

 

終わった。

コカビエル襲撃並びに聖剣エクスカリバー強奪事件の事後処理プラスアルファがーーー

 

「「「「終わったああああぁぁぁぁ」」」」

 

まともに書類の向かって座っている奴は少ない。

匙と仁村は二人ならんで壁に頭を打ち付けている。

 

ぱっと見まともそうにペンを動かしている草下もーー

 

「えへへ~、あんぱんまーん」

 

書いているのがそんな感じ…幼児退行していた。

長かった…

 

あの後フリードは聖剣を持ってとんずらこいて、それを追っかけてE2も失踪。

バルパーや大小コンビの死体はグレイフィアさんが率いていた連中が回収していった。

校庭の片づけや隠蔽工作もグレイフィアさんの派遣してくれた人員のおかげで思いのほかスムーズに済んだ。

 

ここまでは良かった。

ここまでは―――

 

「三勢力首脳会談をこんなとこでやるか?フツー」

 

今回の一件は三竦みの情勢に大きく影響を出した。

事態を重く見た上の連中は一度トップ同士での会談が必要だと判断。

その会場にここ、駒王学園が選ばれた。

 

会場設営に三者陣営のスケジュールの擦り合わせ等やる事一つ一つは普段の業務、体育祭の運営等と変わらない。

だが、今回の話には一切の間違いが起こってはならないのだ。

 

「みんな、よくやってくれました」

 

そうねぎらう会長の声にもいつもの覇気がない。

そりゃそうだ。一番働いていたのは彼女だ。

その彼女にそう言われては、全員が正気に戻らざるを得ない。

本来は数日後、なんて無茶なスケジュールだったのを一か月まで伸ばしてくれたのは他ならぬ会長の功績だ。

 

「「うううう~~~~~~」」

 

ゴスッ、ゴスッ

 

「へぶっ」

「はうあっ!?」

 

壁に頭をぶつけてたやつにも四十五度のチョップで復活してもらった。

 

「いつつ…でも、なーんか納得いかないっすよ。兵藤のとこはなんもしないでうちだけ…」

「それは違いますよ、匙」

 

頭を押さえながら不平を漏らす匙を会長がたしなめる。

 

「彼らには会談までの近辺警備と不穏分子の排除を任せています。何もしていないはずもありません。むしろ危険度でいえば彼らの方が数段上でしょう。深夜にパトロールも行っていますし、何より―――」

 

そこで会長は言葉をいったん区切った。

 

「現在兵藤邸には現魔王、サーゼクス・ルシファーが滞在しています」

「でも、それってかえって安全なんじゃ?」

「それは…そうなのですが」

 

匙の疑問の声に会長の言葉が詰まった。

どうにもこの人は魔王の話になると途端に歯切れが悪くなるな。

やっぱ魔王って言うからには傲慢だったり、『ハァーーーッハッハッハ!!』とかうるさかったりするのだろうか?

 

「と、とにかくっ。来たる会談に向けての準備は整いました。実際に参加するのは私と椿姫、そして青江ですが各自気を抜かぬよう。何があったとしてもすぐに対応できるようにしてください」

「「「「はい」」」」

 

今回の会談には俺も参加する。

実際にあの場にいたのは勿論、神の不在を知る悪魔。

それだけならまだしも当人が元教会関係者に作られた堕天使幹部の息子となれば…ねぇ?

親父殿はくるのだろうか?

まあ、その前に俺がこの件を終わったというにはまだもう一つやるべきことがある。

 

「会長、俺今から早退するから」

「体調が悪いのですか?」

「いや?ちょっとな…」

「……分かりました。今回だけは特別に許可しましょう」

「理由は聞かないのか?」

 

意外だ。

真面目な会長の事だから反対されるかと思った。

 

「ええ」

「俺は―――」

「行ってきなさい。私の気が変わらないうちに」

「………ういっす」

 

それきり会長は拗ねたようにそっぽを向いてしまった。

怪訝そうな表情の匙たちに見詰められながら、俺は生徒会室を後にする。

最後にチラリと振り返ると―――

 

「つくづく私も甘い…」

 

閉じる扉の隙間からそう呟いて頭を抱える会長が見えた。

 

 

 

 

 

 

「409、409……っと、ここか」

 

コンコン

 

病室の白いドアをノックする。

 

「はい、少し待ってくださいねー」

 

扉の向こうからは看護師さんのものと思われる若い女性の返事があった。

 

「おまたせしました」

「どうも」

 

しばらくして出てきた看護師さんに軽く会釈をしてすれ違う。

うむ、いいケツだ。

 

「入るぞ?」

 

病室は白い色合いで統一されており、少し眩しさを感じた。

中央に備え付けられたベッドには先ほどまで検診を受けていたのであろう、一人の老婆が上体を起こしていた。

 

「元気か?…ばあさん」

「あら?秀介さん。珍しいですねぇ、貴方がここに来るなんていつぶりでしょうか?」

「入院してすぐだったか?」

 

芳江婆さんはしばらく前から入院しており、こちらの大きな病院でお世話になっている。

 

「ばあさんとこの家族は?」

「ふふふ、今日は平日ですよ?あら?秀介さんも学校があるのではないですか?」

 

そう、俺がわざわざ学校をサボってここに来たのはこの為だったりする。青江の家は嫌われてるからな。

 

「それで?今日はどういった用で?」

 

背筋を伸ばしてこちらを見つめる。

その姿は幼少時に正座していた時と何ら変わりなく、一瞬ここが病室であることを忘れそうになる。

俺は一呼吸置いた後、単刀直入に告げた。

 

「爺さんを殺した奴が死んだ」

 

細められていた目が大きく見開かれた。

何度か口をパクパクさせて何事か言おうとする。

 

「っ…。そう、です…か」

 

やっとのことで出てきた言葉はそんなものだった。

口を閉ざしたあと、俯いて目を閉じてしまう。

そして、俯いたまま何度か深呼吸をする。

 

「復讐に身を焦がすのはいけないと、頭では分かっていますが…やはり…」

「…」

「秀介さん、この言葉が正しいのかは分かりません。ですが…ありがとうございます」

 

俺が手を下したとは言わない。

だが……バレてそうだな。

 

 

 

 

シャリシャリ

見舞いの品のなかにあったリンゴを剥いてゆく。

 

「秀介さんの顔も見られましたし、これで思い残すことはありませんね」

 

ナイフを持った手が止まった。

顔をあげてみれば芳江婆さんはにっこりと微笑む。

 

「長くないのか?」

「ええ。会うのもこれで最後になります」

「…」

「そんな顔をしないでください」

 

そういって婆さんは困ったように笑う。

俺は表情を変えたつもりは無いんだが…。

 

「不思議そうな顔をしない。全く、そういうところだけはそっくりなんですから…」

「???」

「気付ける人が出来ればいいんですけどねぇ」

 

そう言いつつも嬉しそうに笑う。

遺伝子的な繋がりはないが、俺にも爺さんに似た部分があるのだろうか?

見方を変えれば癖も方言だって親から受け継いだと言えなくもない。

 

「それに、私は少し楽しみなんですよ?」

「楽しみ?」

「あの子にはさっさと勝ち逃げされてしまいましたからねぇ。向こうでリベンジ、というやつです」

 

あの子、というのは早死にした俺の祖母だろう。

爺さん、芳江婆さん、俺の祖母の三人は幼馴染みだったという。

 

「アンタにはアンタで旦那がいただろう」

「あら、彼のことも愛していましたよ?お家のための結婚だったとはいえ息子ができ、孫までいるのですから」

「…」

「ですが、最も愛した人を問われたのなら…あとにも先にも、私の答えは…」

「おいおい」

 

だから青江家が嫌われるんだっての。

本人も分かってるだろうに。

俺は葬式にいっても追い出されるんだろうなー。

 

「勝てんのかよ?元々夫婦だったんだぜ?」

「確かにそうですね。ですが共に過ごした時間なら、さっさと逝ってしまった彼女よりもずっと長いですから」

「…そうかい」

 

ま、暗い別れよりはこっちの方がらしいかね。

婆さんの青江家びいきには随分と助けられたしな。

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、俺帰るわ」

 

俺は立ち上がった。

二人でリンゴを食べ尽くし、しばらく話し込んでいたらいつの間にか日は暮れかけていた。そろそろ婆さんの孫が来る時間らしい。鉢合わせは避けたい。

 

「秀介さん。血は繋がっていなくとも私はーー」

「さっきの話な?」

「え?」

 

俺はしばらくここには来られない。

葬式には出られない。

これが本当に別れになるだろう。

 

「リベンジの話。会ったこともない実の祖母か芳江婆さん、どっちかと問われれば俺は迷い無くアンタを推す」

「あ…」

「健闘を祈るよーーーーお祖母ちゃん?」

 

こうやって呼ぶのは初めてだったか。

驚いた表情の婆さんが目を赤くし、潤ませる。

だが、涙は溢さなかった。

 

「ええ。そうですね、百年ほどすれば決着は着くでしょう。その頃にお会いしましょうか」

「はっ」

 

あと百年生きろってか。

だが残念。

この身は既に人ではない。

 

「悪い。すっげえ遅刻するかも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから少しして婆さんは死んだ。

やはり俺が彼女を看取る事は無かった。

報告は婆さんの息子からの淡白な電話のみ。

 

「はい、そっすか。ええ、どうも」

 

Pi…

 

「…………」

「どうしたの?」

 

ああ、少しボケていたか。

ソファーの隣に座っていた夕麻が顔をのぞきこんでいた。

 

「兄様?」

 

反対側のギャスパーも俺の袖をぎゅっと掴む。

 

「いや、知り合いが亡くなった」

「……葬式は?」

「行かない」

「ふーん……それでいいの?」

「ああ、別れはすませてる」

「そ」

 

交わした言葉はそれだけ。

すぐに夕麻はバラエティ番組を垂れ流すテレビへと向き直った。

 

「………」

「………」

「……」

 

俺はギャスパーの髪を鋤きギャスパーは俺を見上げる。

夕麻はテレビを眺めるーーーと思いきやチラチラとしきりにこちらの顔を伺っている。

膝を揺さぶってそわそわしてもいるし、間違いなく意識はテレビに向いていない。

 

「なんだよ?」

「べつに…」

 

いや、明らかになんかあんだろ。

ギャスパーも俺たち二人の顔を交互に見ては口を開こうとしている。

 

「「「……」」」

 

気まずい空気になっていても夕麻はテレビから目を逸らさない。

 

 

 

 

 

 

 

「終わったか…」

 

さっきまで見ていたテレビ番組が終わった。

 

「どうする?俺はもう少し起きてるつもりだが、先に寝てもかまわんぞ?」

「~~~~~ッあーもうっ!!ギャスパー!!」

 

夕麻が突然叫んだかと思うと立ち上がり俺を見下ろす。

 

「ひゃい!?」

「分かってるわね!?」

「え?あ………はいっ」

 

ギャスパーまでもがこちらを向いて立ち上がった。

 

「???」

「「不思議そうな顔しないっ」」

「お、おお?」

 

二人に腕を引っ張られて立たされる。

そのまま二人はずんずんと寝室に向かっていった。

 

「何するんだ?ヤるってんなら疲れてるから今日はーーー」

「「寝る!!!」」

「アッハイ」

 

 

 

「なんだってんだ?」

 

三人で一緒に寝るのはいつもの通りだ。

だが今日はいつもに増して密着度が高かった。

夕麻は俺の頭を胸に抱えるように横になり(少し息苦しい)、ギャスパーは後ろから腹付近にしがみついている。

 

「暑くないか?」

 

二人の腕に更に力が籠った。

離れるつもりは無いという意思表示か。

 

「……」

「……」

「ふー……」

 

なんか力が抜けた。

 

「ん?」

 

と言うことはーーー

 

「無意識に力んでたのか……」

「それだけじゃ……もういい」

 

それきり目を閉じてしまった。

 

「わけわからん」

 

俺は正直まだ眠くない…がこうもくっ付かれては今さら押し退けるのもなんだかな。

何とも手持ち無沙汰になって、天井にまるで海の様に貼られた蛍光シールを眺める。

この間夕麻とギャスパーが二人で貼ったものだ。

この部屋にも二人のものが増えたな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………さっき言ってた知り合いな?」

 

どれくらいそうしていただろう?

寝付くには十分な時間が経ったのは間違いない。

俺はふと気づけば口を開いていた。

 

「…」

「…」

 

返事はない。

しかし、耳を傾けてくれているという確信がどこかにあった。

 

「最後の家族だった」

「「………」」

「それだけだ」

 

心なしか二人の腕に力が籠った気がした。

 

 

 

 

 

 

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