あれからかなりの時間をかけて教会について調べまわった。
どうやらかなりの人数があの教会に居住している。見張りをつづけていただけでも十人、捨てられているゴミの量からしてもっと多いはずだ。
基本的に夜活動しているため、少し太陽が恋しい今日この頃だ。
アーシアも先日この教会に入っていった。道案内をしていたのが兵藤だったのには驚いたがな。恐らく兵藤は既に悪魔化している。教会に来た際、顔が引きつってたしな。
あいつがフランス語ペラペラだったのは悪魔化の恩恵か何かだろう。あいつ自身は‟ボンジュール”くらいしか知らないはずだ。
やはり夕麻の言っていた通り彼女の仲間に殺されて、その後グレモリーに転生させられたのだろう。彼女が兵藤の悪魔化の元凶だってことはかすかに覚えている。
「アーシア笑ってたな・・・。」
彼女もイッセーハーレムに加わるのだろうか?だったら寂しくはなさそうだが・・・。
「コンビニ弁当生活は自炊派としてはSAN値削られんな~。いっそ河川敷で調理してみるか?」
アンダーザブリッジ的な?
深夜、コンビニ弁当を片手に俺は夜道をあるいていた。
世間では俺は行方不明扱いになっているのだろう。
クラスの机に花があったりとか、テレビのインタビューに適当な回答されてたらやだなあ。
そんなくだらないことをつらつらと考えていると、
「い、いやぁぁぁぁぁぁっ!」
すぐそこの民家から悲鳴がきこえてきた。この声は・・・アーシア!?
「っち!!」
コンビニ弁当の入った袋を投げ捨てて全速力で悲鳴の方向へ向かう。
民家の前には自転車が止められており、玄関が開きっぱなしだ。
「アーシアっ!!」
中に飛び込むと部屋には甘ったるいような血の匂いがむせ返りそうなほど充満している。
壁には杭により逆十字の形で磔にされた男性。これをやったやつはなかなかのイカレ野郎だろう。
そしてその隣には『悪いことする人はおしおきよー』というふざけた血文字。
アーシアは・・・無事か。
「青江!?」
名前を呼ばれたので振り向くと、両足を撃ち抜かれ、頭に銃口を押し付けられた兵藤がいた。メッチャピンチじゃん!
「お前どこ行ってたんだよみんな心配してたんだぞ!!いや、それよりも逃げろ、こいつはやばい!!」
自分が死にかけてるのにどこまでも他人の心配とは・・・。
「あんれあれ~?気持ちよく悪魔ちんをコロコロしようとしてるのに、邪魔する奴がいるですねえ~。」
兵藤に銃口を押し付けていた白髪の男が無駄に回りつつ体をこちらに向ける。
「・・・誰だ?」
「はあい。誰だお前と聞かれたら、答えてあげるが世の情け!!ワタクシいつもニコニコ元気印のはぐれエクソシスト、フリイイィィィィィィド・セルゼン!!!おりょ?さっきも名乗ったよねボクちん。もしかしてチミは痴呆症?」
なるほど、このイカレ具合、こいつが犯人か。
「俺はさっき入室したんだが?」
「はぁぁ?じゃなんですか、チミは遅刻してきてそんな偉そうにしてんの?だぁめだよ~、そんなマナー違反は~。アカウントをBANされちゃうよぉぉォォ!?」
「シュースケさん!?」
アーシアが驚愕の声を上げるが、相手をしている余裕はない。
「これをやったのはお前か?」
「イエスおふこ~す。自信作の観客ふえてボクちゃんうれぴー。目撃者はみんな殺してイイんだぁって♪ってことでし~んでちょ♪」
フリードが右手に持った光の剣で切りかかってくる。
「おっと。」
危ういところで身を捻り斬撃をかわす。
「青江!銃だ!!」
「なに?」
パンッと乾いた音と共に右足に激痛が走る。
「ねえねえ知ってた?人間っておてて二本あるんだよ?」
フリードが体を左右に揺らしながら歩いてくる。アホか俺は、こいつ銃持ってたじゃん。
「痛ってぇ。」
だがこの程度のいたみじゃあな。足りんよ、足りん足りん。
立ち上がって左足で軽くジャンプする。
「あれ?効いてない?でも血は出てるしィ・・・。お前人間だよな?」
フリードが不思議そうに首をかしげている。ふざけたヤツだが実力は本物だ。いくつもの修羅場をくぐってるんだろう。こいつは強い。
ククッいい、いいな。
「クックク、ハハハ、ハーッハーッハーッッッ!!いいね、いいぜお前。」
「痛みで狂った?まいいや、ばいびー♪」
「ククッ」
同じように光の剣を振ってくる。先のものと同じく、必殺の太刀筋。
今度は油断せず、こちらからも距離を詰め剣を握った方の手首を掴む。
「おりょ??・・・・・・・・ガッ!?」
フリードの体を引き寄せると同時にヤツの右膝を横から踏み砕く。その流れのまま髪を掴み、下がった頭に膝を叩きこんだ。
ガシャァァァン!!
フリードはもんどりうって背後にあった食器棚に突っ込んだ。
「すげぇ・・・・・。」
兵藤は呆然と俺を見上げている。間抜け面が際立つぜ。
「イッセーさん、シュースケさん!」
アーシアが泣きそうになりながら駆け寄ってくる。
「アーシア、大丈夫か?」
兵藤がアーシアに声をかける。
「はいぃ。でもお二人ともっ血が!!」
「先に兵藤の手当てをしてやってくれ。俺よりも重症だ。」
「ちょ、おい青江!俺は頑丈だから大丈夫だって。アーシア、先に青江を!!」
「お前は傷の数も数えられんのか?俺は一つ、お前は二つだ。歩けん奴は足手まといださっさと治してもらえ」
「くそ、・・・・頼むアーシア。」
「はい!!」
兵藤の足を癒しの光が包む。暗い室内では一際神々しく感じる。
じっとそれを見つめていた兵藤がふと話しかけてくる。
「なぁ、青江。お前アーシアと知り合いだったのか?」
「ああ、隣町でちょっとな。」
「もしかしてシュースケさん、あれからお家に帰ってないんですか!?」
「まあな。いろいろと事情が・・・兵藤、動けるか?」
「おかげさまでな。アーシア、次は青江を頼む。」
「違う。お前ら下がってろ。」
「へ?」
気の抜けた声を上げる兵藤。こいつがいるとなんか締まらんな。
「んんんんんんんん~~~!!おいおいやってくれましたね一般ぴーぽーがよォ!決めた、キめましたよ。この作品、十字架ちゃん!!てめェの体もくっつけて『本』の形にしてやりますですよ。これが、この作品の、完成形だ~~YO!!」
がしゃあああんという音と共に狂人復活。
「存外に早かったな。」
片足をひきずり、鼻血を垂らしながらフリードが近づいてくる。
お互い片足は使えず、コンディションはほぼ同じ。相手は剣と銃の二刀流、こっちはステゴロ。
実戦経験は相手の圧勝、か・・・。
「ハッ!おもしれえ。」
「ひゃっは~!!」
フリードが片足だけの跳躍で飛び掛かってくる。
「ぜらァッ!!」
空中のフリードに向かってさっきから握りこんでいたこの家の包丁を投擲しつつ、体を前に投げ出しヤツの下に潜り込もうとする。
「うっひょい、すっごい手品ジャン!」
空中で剣を使って包丁を叩き落とし、こちらに銃口を向けてくる。
俺は既に身を投げ出していて、今からの方向転換は無理だ。なら――
「フッ」
床に手をつきハンドスプリングの要領で踵を叩きつける。俺の踵は寸分たがわず奴に向かい・・・
「よいさっさ。」
フリードは俺の足に手をついて飛び越える。
ダン!!
俺はそのまま食器棚の前に屈伸の形で足をつき、同時に振り返る間も惜しみながら確認もせず背後に掌底を放った!!
ごつりと鈍い音を立てて掌底とフリードの振り下ろした銃底が衝突する。銃は吹っ飛んだが手首の関節がかつてない方向を向いてしまった。
「あ~あ、右腕、イッちゃったね~。でもでもボクちんの傷心はーとはまだまだ癒えそうにないんでやんすよ。まァ、で・・・」
「オラ!!」
余裕ぶっこいて天を仰ぐフリードを折れた右腕でそのまま殴りつける。
まさかこっちの腕で殴って来るとは思わなかったのだろう、あっさりと頬に決まりたたらを踏んだ。
すかさず左手を伸ばしヤツの頭を正面から掴む。
「不感症ですかコノヤロー」
フリードも俺が掴むのに成功すると同時に光の剣を首筋に当ててくる。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
お互いに無言。硬直したまま見つめ合う。フリードが剣を動かせば俺を殺せる。
しかし俺も後ほんの少し力を加えるだけでヤツの頭蓋を破砕できる。動かないのではない、動けないのだ。
「「・・・・・・・」」
「お前らほんとに人間か?」
引きつった顔で兵藤が呟いた。
勿論俺は人間だぜ?
「・・・・・クククク・・・」
「・・・・・ひひひひ・・・」
「おっ、おい!!」
楽しい、楽しいなあ。刺激的すぎる。
「ハーッハーッハーッ!!!」
「ひひひゃははははははは」
さあ、殺そっかな?
―――その時、床が白く光りだした。
青い光は徐々にとある形を作ってゆく。
――魔方陣だ。
カッ!
床に描かれた魔方陣が光りだす。
そして中からは
「兵藤くん、たすけに・・・・・」
剣を持ったイケメンが現れる。
「あらあら。これは・・・・・どういう状況なのでしょうか?」
「・・・・・・・・・・・なに、これ?」
続いて駒王学園二大お嬢様の片割れと無表情なロリッ娘。
「ハァーッハッハ・・・げほ、ごほ、・・・クハハハハハ」
「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃ・・・・げふ、ごふ、がは、ハックション!!」
木場が兵藤に歩み寄り、声をかける。
「兵藤くん、僕たち全然状況が掴めないんだけど。」
へたり込む金髪美少女と男子学生。壁には惨殺された男性の遺体。そして血塗れになりながら至近距離で爆笑しあっている男二人。
これで分かったらびっくりだ。
「イッセー、私も説明してほしいわね。」
グレモリーも兵藤の隣に突然現れる。
「部長!!来てくれたんですか!?」
「ゴメンなさいね。まさか、この依頼主のもとに『はぐれ悪魔祓い』の者が訪れるなんて計算外だったの。・・・この状況は理解不能だけれど。」
謝るグレモリーは目ざとく兵藤の足の傷を見つける。いや、一目瞭然か。
「・・・イッセー、ケガをしたの?」
「あ、すみません・・・・・・。その、撃たれちゃって・・・・・・。でも、その・・・アーシアが治してくれました」
だから何故そこで申し訳なさそうにすんだよ。
ボンッ!
俺たちのすぐ傍の家具の一部が消し飛んだ。
「私は、私の下僕を傷つける輩を絶対に許さない事にしているの。下手人はどっちかしら?」
凄まじい迫力だ。美人が怒ると怖い。
この背筋が凍るような重圧が魔力ってやつか?
「はぁい。ボクちんでェ~っす。」
「そう、・・・・・なら死になさい。」
グレモリーの手に赤い光が収束してゆく。
その輝きが最高潮に達しようとした時、
「!部長、この家に堕天使らしき者たちが複数近づいていますわ。このままでは、こちらが不利になります」
何かを感じたのか、姫島がそう言う。
堕天使・・・・夕麻か?
グレモリーがフリードを一睨みする。
「・・・・・朱乃、イッセーを回収次第、本拠地へ帰還するわ。ジャンプの用意を」
「はい」
姫島が何やらむにゃむにゃと呪文を唱え始める。
どうやら兵藤を連れて撤退するつもりらしい。
兵藤が俺とアーシアに目を向ける。
「部長!あの二人も一緒に!」
「無理よ。魔方陣を移動できるのは悪魔だけ。しかもこの魔方陣は私の眷属しかジャンプできないわ」
愕然とする兵藤。
「イッセーさん。また会いましょう」
アーシアは微笑む。
「ッ!?」
泣きそうな顔をした兵藤が光に包まれて消える。
後には俺たち三人が残された。
「どうする、まだやるか?」
フリードに尋ねる。
「なんか~、興ざめなんですが~。」
「だな」
二人同時に互いを開放し、ため息をつく。
「あの」
「うん?」
アーシアが声をかけてくる。
「ケガを・・・」
治してくれるのか。チラリとフリードを見る。
「だる~ん」
テーブルにへばりついていた。
「たのむわ。」
「はいっ」
あんなに心の傷を抉ったのに、彼女の態度は明るい。嫌われるのも当然だと思ってたんだがなあ。
「そういえば」
淡い光に照らされながら尋ねる。
「兵藤とはどこで知り合ったんだ?」
「えっとですね、私が迷子になってた時に道案内をしてくれたんです。」
「なるほど、言葉通じないもんな。」
人に道を聞けないのは無理もない。
「いえ、それもあったんですけど、買った地図と住所のメモが日本語だったんです。そのことに町に到着するまで気付かなくて・・・」
「ドジっ子め」
「あうっ」
指で彼女の額を弾く。
「・・・アーシアはあいつの素性知ってんのか?」
涙目で、赤くなった額を撫でさすりながら
「ううう・・・。はい。シュースケさんの来る直前に」
悪魔を癒して追放された彼女には酷な話だろう。だが――
――また会いましょう――
「そうか・・・」
もう大丈夫みたいだな。
「シュースケさんはイッセーさんとお知り合いなんですか?」
「同じ学校のクラスメイトだ。」
「学校・・・、どんなとこなんでしょうか?」
暗い感情は感じられない。単純に興味があるだけなんだろう。
「退屈はしないぜ?同じ町なんだ、今度案内してやるよ」
直接関わるつもりは無かったんだが、ついそんな言葉を発していた。
「ほんとですか!?」
ぱぁっと顔を輝かせるアーシア。かわいいな畜生。
頭をポンポンと撫でてやる。
「ああ、約束だ。」
「じゃあ、またな」
「はい」
やはりアーシアの神器は強力だ。あの怪我をあっという間に治してしまった。
フリードはまだぐだってる。
「ほんとにいいのか?俺のこと報告しなくて」
そう、こいつは間もなくやってくる堕天使たちに俺のことは言わないというのだ。
「だって、足折れてて追っかけられないし、取り逃がしたなんて言ったらボクちん怒られちゃうなりよ。ドMとは違うのだよドMとは。アーシアたん、後で俺も治してね♪」
「不良神父め」
聖職者がドMだと思うのは俺だけだろうか?
勿論、コンビニ弁当は回収した。