人機重唱シンフォギア―Sinfonia×Rize― 作:ブレイアッ
先手必勝。
されど動き始めたのは両者同時。
双方が先手を取ろうとしたが故の必然。
ゼロワンは相手の手からライジングホッパーのプログライズキーを奪い返すべく駆け出し、鎧の少女は鞭のリーチを生かしての先制攻撃を放った。
走るゼロワンの足元を狙って横凪ぎに振るわれた鞭。
伸縮自在のそれはゼロワンの予測よりも速くその足を刈り取らんと接近し、
「せぃッ!」
踏みつけられ、地面にめり込まされた。
「はあッ!?」
鞭というのは、普通の人間が振るってもその鞭の先端の速度は音速を超える。
ならば、普通の人間を遥かに凌ぐスペックをもつ少女が振るえば、音速以上の凄まじい速度になるのは想像に難くない。
そんな鞭の先端を正確に踏みつけ、あまつさえ地面にめり込ませるなど、不可能だ。
しかし、ゼロワンにはそれが出来る。
高速戦闘形態であるラッシングチーターには、装着者の走力と反応速度を大幅に引き上げる能力がある。だからこその芸当だ。
鞭の1つは地面にめり込み、すぐには戻せない。かといってもう1つを使おうにも、片手はアタッシュカリバーで塞がっている。
よって、最初の一手を取ったのは、ゼロワンだった。
「ちッ!」
舌打ちを1つ吐いて、少女が後ろへ飛ぶ。
しかし、ゼロワンはそれよりも速く少女の元へ到達し、アタッシュカリバーの峰を掴んだ。
「こンのッ!」
《ライジングカバンストラッシュ!》
咄嗟に少女がトリガーを押し、必殺技を発動。
刀身から黄色い光がスパークし、ゼロワンの手を焼く。
「ぐ……ッ! うおおォッ!」
それでも離さず、さらに両手で掴み、意地でアタッシュカリバーを握りしめる。
「このッ、近ェんだよッ!」
鎧の少女が力任せに振り抜き、ゼロワンを吹き飛ばす。
しかし、地面を転がったゼロワンの煙が立ち上る手の中には、ライジングホッパーのキーが握られていた。
「なっ、やられた! 今の一瞬でキーを抜きやがったのか!」
「へへ、イチかバチかを選ぶのは得意でね。返してもらったぞ」
手をアタッシュカリバーに焼かれたダメージは大きく、しばらくはマトモに使えそうに無い。
立ち上がりながらキーを腰のホルダーにしまい、少女を見据えて構える。
軽く前に出した右足は踵を浮かせたそれは、空手における猫足立ちと呼ばれる構え。即座に前蹴りを放てる構えだ。
「はッ、キーを取り返した以上、そっちから仕掛ける理由は無いってわけか。だったらッ!」
鎧の少女がアタッシュカリバーを地面に突き刺し、空いた両手で鞭を握り──
《ライトニングブラスト!》
瞬間、雷を纏う光弾が両者の間に着弾。爆発と共に煙と巻き上がる土煙が2人の視界を奪う。
「なんだ!?」
「チッ、新手かッ!」
鎧の少女が鞭を振るって土煙を振り払う。
土煙が晴れたそこには、ゼロワンを背に、鎧の少女へと短銃型のデバイスを構えたサヨがいた。
「彩夢様、ご無事ですか?」
「サヨ!? って、その銃は……」
初めて見る銃だった。しかし、それがある銃に酷似
「はい。この銃は、エイムズショットライザーのデータを元に飛電が開発したゼロワンサポート用装備。『飛電ショットライザー』です」
ゼロワンの質問に、ショットライザーを油断なく構えたままサヨは答えた。
サヨが構える銃をもう一度見る。
見た目は、青色だった部分がゼロワンのメインカラーである蛍光イエローをしている以外はかつて不破諌や刃唯阿が使用していたショットライザーと同じ。
ライズスロットと呼ばれるプログライズキー装填用スロットには、非展開状態のライトニングホーネットが確認できる。
「物体認識成功……その鎧は、2年前に紛失したとされている『ネフシュタンの鎧』ですね?」
「だったら、どうするよ?」
「抵抗せず、大人しく投降してください」
「抵抗したら?」
「その時は、容赦なく撃ちます」
「へぇ、でもそういうのは……照準をこっちに合わせてから言うもんだ!」
瞬間、鞭が唸る。
風を切り、サヨの首筋に迫るそれは、
「は……ッ?」
予想外の手応えに、驚愕して固まる鎧の少女。
その一瞬の隙をサヨは見逃さなかった。
《サンダー!》
ショットライザーに装填されているライトニングホーネットの起動スイッチを押し、引き金を引く。
《ライトニングブラスト!》
銃口から雷を纏う光弾が放たれ、反動で後ろに吹き飛んだサヨをゼロワンが受け止める。
光弾は一直線に鎧の少女へと向かい、着弾。同時に電気が迸る。
「ぐああぁっ!?」
アタッシュカリバーを取り落とし、片膝をつく鎧の少女。
バチバチと走る電気がハチの巣のような正六角形を形作り、縛りあげ、拘束する。
飛電ショットライザーはあくまでゼロワンをサポートするための装備であり、戦闘を目的として作られていない。
事実、同じライトニングホーネットのキーを使った仮面ライダーバルキリーの《ライトニングブラスト》に比べると威力は格段に低い。
生身での使用を前提としているため出力を落とし、ライトニングホーネットの能力を麻痺と拘束に特化させたのがサヨの《ライトニングブラスト》なのである。
「ッ……! こンッ、な、ものォッ!」
鎧の少女が両腕に力をこめるや、電気の拘束はバチィッ! と音をたてて引きちぎられた。
「……やはり完全聖遺物、そう易々とは行きませんか」
「はぁッ、はぁッ、鎧の力だけと見くびるなよ、機械人形ッ!」
左右の宝石の鞭を同時に振るう。
ゼロワンとサヨを挟むように、左右同時攻撃だ。
「オレを──」
それを前に、ゼロワンがサヨの前に出る。
いまだに煙が燻り続ける両手は使い物にならない。ならばと構えるは猫足立ち。
そこから繰り出される音速の前蹴り、二連。
「──忘れてもらっちゃ困るな」
パンッ、と空気が爆ぜる音が鳴り、左右から迫り来る鞭の先端を見事蹴り返した。
「ハッ、忘れちゃいないさ」
口元をつり上げる少女。
瞬間、蹴り弾かれた鞭の先端から黒と白のエネルギーが迸り、球形を形作る。
「ぶっ飛べ」
そして、爆発。
炎と光、そして爆風によって土が巻き上がり、ゼロワンとサヨを包んだ。
「……っと、間一髪」
「ありがとうございます。彩夢様」
後ろから聞こえた声に、鎧の少女が振り向く。
そこにはサヨを横抱きに抱えたゼロワンがいた。
爆発に巻き込まれる直前の一瞬で、サヨを抱えて走り、爆発から逃れたのだ。
サヨを地面に下ろし、背に庇って構えるゼロワンを見て、鎧の少女は視線を左右に走らせ……。
「……やめだ」
鞭を手放し、言い放った。
「は?」
「ゼロワン、オメーのスピードならさっきの隙にアタシに一撃入れられたハズだ。それに、そこのも、最初っからあの拘束弾をアタシに撃てば良かった。なのにしなかったって事は……時間稼ぎが目的だな? 大方、アタシを確実に捕獲するためにドンガメどもを呼んだんだろ」
「──ッ!」
「読まれてる……!」
鎧の少女と対峙し、サヨが不意の攻撃を仕掛ける直前。
ゼアを通して、サヨはゼロワンにある作戦を提案していた。
それは、鎧の少女の身柄を拘束すること。そして、それを確実にするためにレイダー部隊への協力要請と、到着までの時間稼ぎ。
人工知能と同じ思考速度が可能なゼアの空間であれば、1秒に満たない時間で作戦を練ることが可能となる。
そしてゼロワンはサヨの作戦に乗り、バレないように演技をしながら時間を稼ぐよう立ち回っていたのだ。
ヘリの飛行音が聞こえてくる。
彩夢にとって最近聞き慣れてきた、特異災害対策起動部一課のヘリのものだ。
「投降するつもりは?」
「無いね」
ふわり、と宙を浮く鎧の少女。
いつの間にか、手には銀色の杖が握られていた。
「そら、コイツらとでも遊んでな!」
杖から放たれる緑の光。
あっという間にゼロワンとサヨをノイズが囲んでいた。
「くっ!」
ノイズを一瞥し、鎧の少女を睨み付けんと宙に視線を走らせるが、そこにその姿は見えなかった。
「逃げられたか……ッ!」
「彩夢様」
「わかってる。ノイズの掃討に移るぞ」
「はい!」
《パワー!》
《Progrise key confirmed. Ready to shot.》
ゼロワンはスタンディングスタートの構えをとり、サヨは飛電ショットライザーにパンチングコングのプログライズキーを装填し、構えた。
《レイドライズ!》
《インベイディングホースシュークラブ!》
そこに響く複数のレイドライサーの音声と変身音。
「レイダー部隊C班、現着ッ!」
上空のヘリから次々とバトルレイダー達が降下してくる。
そして──
「Balwisyall Nescell gungnir tron──」
戦場に不似合いな、歌が聴こえた。
「な……ッ」
聞き覚えのある声に、ゼロワンは動揺し、レイダーの1人に抱えられて降下してきたその少女の姿を見て驚愕する。
ゼロワンが見たことの無い、橙色の装甲を身に纏った少女。
ゼロワンとなって守るべき人々と思っていた少女。
「立花響、現着しましたッ!」
立花響の姿が、そこにあった。
新アイテム。
飛電ショットライザー。
見た目は.I.M.S.ショットライザーのリデコ。変身能力無し、あくまでサポートアイテムですが隠された機能が他にもある様子……?