人機重唱シンフォギア―Sinfonia×Rize― 作:ブレイアッ
或る人の言葉として引用した、仮面ライダーの生みの親である石ノ森章太郎先生の言葉に反応してくれると思ってたんだけどな……もしかしてあの名言ってマイナーなの?
2043年。
青空澄み渡る、日が僅かに傾き始めた午後の春空の下。
「やぁっべぇえええええッ! 間に合わねえぇえええええええッ!」
坂道を時速40キロで爆走する自転車が1つ。
人並み外れた健脚を見せつけるのは、左目が青い、黒髪の少年。何処かの高校の制服らしきブレザーを身に纏い、自由な校風なのか、その下には黄色いパーカーを着ている。
坂道を駆け上がりきると、真新しい建物が見えてくる。
今年で創立10周年を迎える学校、私立リディアン音楽院。その高等科の校舎だ。
「ふぅ、これなら間に合いそうだな……」
校門前の横断歩道の手前で停止。下校途中であろうリディアンの生徒達を前に、一息吐きながらブレザーの内ポケットから出した飛電ライズフォンで時間を確認する。
「風鳴翼の新曲CD、店舗特典が豪華なんだよなぁ……っと」
ふと顔を上げると、見知った少女が校門から出てきた。
「あれ、立花?」
「あ、
たったった、と少年、彩夢の元に駆け寄る少女。
明るい太陽のような笑みを浮かべる、活発そうな彼女の名前は立花響といった。
「久しぶり。相変わらずオレ先輩なのにくん付けなのな……まぁ良いけど。去年の中学の卒業式以来か」
「そうだねー。大体1年ぶりくらい?」
「正確には1年と42日だな」
「あああぁぁッ!!!」
突然大声を上げる響にビクッと肩を跳ねさせる彩夢。
「ど、どうしたいきなり大声を上げて」
「それ!」
響が指差したのは彩夢のライズフォン。
「もしかして彩夢くんも今日発売の翼さんのCD買いに行くのッ?」
「そ、そうだけど……あっ、もしかして立花も?」
「そう! 同士よ~!」
「よっしゃ、じゃあ後ろに乗りな。一緒に行こうぜ」
「いいの? やった!」
「3年連続、体育大会の徒競走系の競技で1位を取りまくったオレの健脚、見せてやるよ!」
前のカゴにカバンを入れ、後ろの荷台に座る響。
なお、現実では自転車の2人乗りは原則として禁止されています。真似しないようにしましょう。
「右よーし、左よーし、後ろもよーし、響のしがみつきよーし、時速30キロくらいでしゅっぱーつ!」
「しんこーう!」
「片手上げるな揺らすな危ないからしっかり捕まってろ~!」
ひゃあと腰に手を回す響。
ぐんぐん加速していく自転車の風を顔に受けながら、2人はCDショップに急いだ。
===
10分足らずで街に到着。車道の端を走りながらCDショップに向けて走り続ける。
自転車が起こす風が、黒い砂を巻き上げた。
「……ん?」
ふと、違和感を感じて、彩夢はペダルから足を離し、響に気を使いながらゆっくりとブレーキをかける。
「どうしたの? CDショップはこの先の曲がり角を右……に……」
静かだ。
今は太陽が赤く空を染め始め、人々が学校や職場から帰って賑やかになり始める。そんな時間のはずだ。
帰ったら何をしよう、今日の夕飯は何かな、そんな会話が、友人との会話で起こる笑い声が、そこかしこから聞こえ始める。そんな時間のはずだ。
だのに、声が聞こえない。人の気配がしない。
あるのは、黒い砂。
──否、炭となった人の死体。
「──ノイズッ!」
「立花、ここから離れるぞ!」
彩夢が引き返そうとしたとき、幼い少女の悲鳴が聞こえた。
「誰かいるッ!」
「あっ、おい立花!」
悲鳴を聞き、荷台から飛び降りて駆け出す響。
最速で、最短で、真っ直ぐに、一直線に、そんな勢いで声のした方へと駆けていく。
「だぁっ、たくッ!」
自転車をその場に止めて響を追いかける彩夢。
基本的に、人間にノイズに対抗する手段は無い。ばったり居合わせれば死ぬ。走って逃げても死ぬ。車で逃げても追い付かれて死ぬ。反撃しようとしても触れれば死ぬ。それがノイズ。
例え悲鳴が聞こえようとも、ノイズを前に悲鳴を上げた人はまず助からないし、助けに行ったら一緒に死ぬ。常識的に考えても、助けに行くのは論外だ。
だというのに、響は、彩夢は、ノイズがいる方へと駆けていく。
響は底無しのお人好しで、人助けを趣味と言い張るような、誰かが困っていたら動かずにはいられない少女だ。
では彩夢はどうか? 彼がもしここで響を見捨てて逃げても、ノイズが相手ならそれは間違った選択ではない。それでも駆け出したのには理由があった。
──誰かが助けを求めていて、オレに助けられるだけの力があるのなら、誰かの笑顔を守れるのなら、全力でそれを
自分で自分に決めた
響を後から追いかけた彩夢は、あっという間に追い付き、そして追い越した。
目の前には路地裏。L字になったそこには、ノイズを前に動けなくなっていた幼い少女。
「ッ! 間に合え……ッ!」
彩夢がぐっと足に力を込めて跳ぶ。
少女を抱え、怪我をしないように気を払って地面を転った。
ドリル状になって突撃してきたノイズに靴底を削られて肝が冷える。
(あっぶねぇッ! 後少しで炭素街道まっしぐらだったじゃねーかッ!)
右手側には壁とノイズ、後ろには壁。左手側にはノイズ。正面は来た道と響。その手前にノイズ。
響には気付いていないのか、ノイズの視線はこちらに釘付けだ。
「お兄ちゃんにしっかり掴まってな……」
「うん……」
右手に少女を抱え、ゆっくりと迫り来るノイズを見つめる。
(これは……ダメか……?)
正面と左右をノイズに囲まれ、絶体絶命。
心が諦めかけたその時。
「……ッ!」
響の小さな声が聞こえた。
ノイズの後ろでこちらを見つめる彼女の強い瞳の輝きが彩夢の瞳に映り込んだ。
(まだだ……まだ、生き残る術は…………あった!)
思い出すのは少女を抱えて跳んださっきの瞬間。
ノイズが変形した瞬間、進行が止まっていた。
(チャンスは変形した瞬間、そのタイミングなら一瞬だけ隙間が出来る。そこに勝機はある!)
これは賭けだ。
ノイズがドリル状に変形した瞬間、一瞬だけ進行が止まり、前を隠す面積が小さくなる。そこで出来る隙間を付けば何とか脱出が可能となる。
しかし、変形せずに歩いてきたら終わりだ。逃げ道を塞がれ、動けずに触れられて死ぬ。
この賭けに──。
(今だッ!)
彩夢は勝った。
変形したノイズの下をくぐり抜け、響の元に駆け寄る。
背後で壁を穿つ音が聞こえたが振り返る余裕は無い。
「こっちだッ!」
彩夢の無事を祈っていた響の手を引き、片方の手で少女を抱えたまま駆け出す。
「彩夢くん! 良かった、良かった!」
「死ぬかと思った! 死ぬかと思ったッ! でも生きてる! この調子で逃げ切るぞ!」
「「うん!」」
彩夢が自分でも驚くほどのスピードで走り、何とか追いかけてくるノイズを撒くことが出来た。
3人は、廃ビルの中に避難する。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、シェルターの前に、陣取るとか、止めてくれよ……」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ」
「お姉ちゃん、大丈夫……?」
「……っ、へいき、へっちゃら、だよ……」
準備運動も無しに全力疾走を繰り返した結果、響は肩で息をしてあまり余裕も無い。
「すぅーっ、はぁーっ……っし、立花の息が落ち着いたらまた走るぞ。湾岸の工場の方に向かえば、職員用のシェルターがあるはずだ」
「それなら、大丈夫。もう行けるから」
「よし、それじゃあ……」
行くぞ。と続けようとして、廃ビルの出入口を塞ぐノイズが目に入った。
(またしても絶体絶命……ッ!?)
人形のヒューマノイドノイズが3体、5体とどんどん数を増やしていく。
逃れる術は無いかと、思考を加速させ、逃げ込む時に、外から見た廃ビルの構造を思い出す。
二階から窓を割って外に脱出。突き出た屋根の上を走って隣のビルに跳び移れば逃げ出せる。
そのためには──。
(階段を使って上に逃げる? ダメだ。背中を見せた瞬間にやられる。だとしたら)
響と少女を左腕で纏めて抱え、右の拳を握りしめる。
確信は無い。だが、今日の自分ならなんかイケる気がする。そんなフワッとした思考が彼を動かした。
「しっかり掴まってろよォッ!」
「え、うぇえッ!?」
跳躍。天井をブチ抜いて2階にジャンプ。
下からドリル状に変形したノイズが壁を穿つ音が聞こえる。またしても危機一髪であった。
「火事場の馬鹿力ってすげぇ……」
人間、本気になれば何でも出来るを体現したような今日の自分に驚く彩夢。
「彩夢くん後ろ!」
響の声に振り向くと、そこにはヒューマノイドノイズが1体。
「もう登ってきたのかよッ!」
偶然足下に落ちていた鉄パイプを拾い上げ、ひび割れた窓ガラスを叩き割る。
「2人はここから外に逃げろッ! 外から隣のビルに移るんだッ!」
「彩夢くんはッ!?」
「いいから早くッ!」
響と少女に背を向け、ノイズを正面に鉄パイプを構える。
「……ッ! 生きるの、諦めないでね……ッ!」
後ろで、少女と響が外に出たのを気配で感じる。
「二度あることは三度あるか、仏の顔も三度までか……」
ノイズが変形、ドリル状になって突撃してくる。
「イチかバチかだァッ!」
向かってくるノイズに鉄パイプを突き出す。
攻撃の瞬間で位相差障壁を緩めていたノイズは、その鉄パイプに突き刺さり、炭素となって彩夢の体を黒く染める。
返り血のようなそれは、彩夢を炭素転換することなく、ノイズを倒した事を意味していた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、やった、やったぞ! ハハッ、さっきから空ぶったノイズが壁にぶつかるから、もしかしたらと思ったけど、やっぱりだ! ノイズは、攻撃の瞬間ならこっちの攻撃が当たるッ!」
それは、ノイズと戦う者にとっての常識であり、ノイズと戦わない一般人が知り得ない情報。
彩夢は、逃走の中でノイズの行動パターンをラーニングし、対抗手段を導き出したのだ。
「ハハ……はぁ……。生きるのを諦めないで、か……。ごめん、立花」
彩夢は、床に開けた穴から飛び降り、一階に落ちる。
「おらおらおらァッ! ノイズども! オレはここだぞッ!」
ノイズの集団のど真ん中。鉄パイプでガンガンと床を叩きながら大声を上げてノイズの視線を集める。
(生きろよ、立花……ッ!)
それは、ノイズを響の元に行かせないための囮。
それは、決死の覚悟。
誰かを助けるために自分を犠牲にする英雄的行為であり、前向きな自殺であった。
ノイズがドリル状に変形し、一直線に襲ってくるのを転がって回避。
咄嗟の行動だったせいか、変な体勢で転がって頬を擦りむき、赤い血が滲む。
回避した先にはノイズ。それを跳んで、くぐり抜ける。
それはまるで、イルカショーでイルカがリングをくぐり抜けるかのような精密さだった。
「おらおらどうしたァッ! 人間1人炭素化出来ないなんて、人類の天敵の名が泣いてんぞッ!」
壁に追い込まれて、しかし鉄パイプで壁をガンガン叩きながら挑発する。
変形し、突撃してくるノイズを壁沿いを走って奥の方に逃げる。
背後で壁が抉れる音が聞こえた。
少しでも響達の元にノイズを行かせないためにと室内の方に走ったはいいが、その結果として部屋の隅に追いやられる。
トドメとばかりに迫るノイズは避けられない。
「こんッ、のぉッ!」
そのノイズを、鉄パイプの全力の振り抜きで迎え撃つ。
その結果、鉄パイプは半ばから折れ、しかしノイズは真横に吹っ飛ばされる。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……さーて、どうしよ……」
短い付き合いだったが、心強い味方だった鉄パイプが折れ、視界は全てノイズに埋め尽くされ、いよいよ絶体絶命だ。
もう切り抜ける
「立花達、逃げ切れたかな……」
ジクジク痛む頬の擦り傷からにじみ出た血が、汗と混じって顎から落ちる。
彩夢にノイズが飛びかかる。
死の直前は、周りの動きがゆっくりに見えるという。
ノイズの動きは、やたらとゆっくりに見えた。
ゆっくりと動く世界の中、突如、仮面の異形が彩夢の前に現れた。
『生きたいか?』
仮面の異形は、赤い複眼でこちらを見つめながら問うてきた。
その声は機械によって加工されているのか、男のようにも、女のようにも聞こえる、奇妙な声だった。
口が動くスピードがゆっくりだ。
声を出して答えられないから、強く思う。
(オレは、生きたい。生きるのを、諦めたくない……ッ!)
『なら、手を伸ばすんだ』
彩夢の思念に仮面の異形が答える。
ゆっくりとした世界の中で、手を伸ばす。
大して動きはしなかったが、開いた手に、仮面の異形が何かを握らせた。
『いいか、オマエの進む道を決められるのはただ1人、キミだ』
仮面の異形が彩夢に背を向け、右の拳を握る。
まばゆい光が拳から放たれ、静止している(ように見える)ノイズめがけて打ち出す。
パンチで圧縮された空気が炸裂し、触れることなくノイズどもを吹き飛ばす。
『夢に向かって、飛べ』
世界の速度が元に戻る。
さっきまでいた仮面の異形はどこにも見当たらない。しかし、手にずっしりとした重みを感じる。
ノイズはこちらを警戒しているのか、攻撃を仕掛けてくる様子は無い。
両手に握られた、それを見る。
手には、見たことの無い機械が握られたいた。
「飛電ゼロワンドライバーとライジングホッパーのプログライズキー……!
あれ、何でオレ、これの名前を……いや、そんな事は今はいいッ!」
見たことが無いはずなのに、ソレの名前を知っている。
ソレの使い方を
《ゼロワンドライバー ver.2 !!》
ドライバーを腰に装着、プログライズキーを起動。
《ジャンプ!》
ドライバーにかざして承認。
《オーソライズ!》
キーを展開すると同時に、空から光と共に天井を破壊しながらライダモデルと呼ばれる、巨大なバッタが現れた。
「変身ッ!」
《プログライズ!》
キーをドライバーに装填。
黒いアンダースーツが身を包み、バッタのライダモデルを装甲と纏う。
《飛び上がライズ! ライジングホッパー!》
《A jump to the sky turns to a rider kick.》
ゼロワンへと、変身した。
生身で鉄パイプ一本でノイズと渡り合う、どこか一般人離れした主人公、彩夢。でもOTONAとかNINJAのいる世界観でこれくらいなら普通……?
なお、生身でノイズに触れると炭素転換される模様。
人を抱えて天井を突き破る、棒(鉄パイプ)を持って戦うという『仮面ライダー』第一話のオマージュを入れてみたり。