人機重唱シンフォギア―Sinfonia×Rize― 作:ブレイアッ
刃唯阿が飛電彩夢と出会ったのは8年前の2035年。
「は? 息子?」
始まりはA.I.M.S.の本部に、飛電或人とイズが1人の子供を連れてきたのが最初の出会いだった。
「そ、養子なんだけどね。名前は飛電彩夢」
椅子に座ったイズの膝の上で、興味深そうにあちこちを見回す子供、彩夢の頭を撫でながら或人は笑う。
「実はちょっと事情があって、まだ小学校に通わせられないんだ。そこで刃さんに先生になってもらおうと」
「待て、どうしてそうなる。第一、私にはA.I.M.S.の隊長としての仕事が……」
「最近は事件も無くて毎日書類仕事か訓練ばかりで暇そうにしてるって
内閣官房直属の対人工知能特務機関であるA.I.M.S.は、暴走したヒューマギアやサイバーテロリストの脅威から人々を守り、人工知能特別法の違反の取り締まるのが主な仕事である。
しかし、A.I.M.S.が出動するような事件は20年代を最後に右肩下がりを続けており、最近は2ヶ月に1回出動要請があるかといった状況である。
飛電インテリジェンスによるヒューマギアのセキュリティ強化や、ZAIAエンタープライズジャパンのサウザー課、さらにはヒューマギアの守護者となった滅亡迅雷.netらの活躍により「ヒューマギアを悪用する方が危険」という認識が広まったおかげで事件の発生件数が激減したのだ。
珍しく事件が発生しても、現場に着く頃にはA.I.M.S.よりフットワークの軽い「仮面ライダーを自称する怪力男(無職)」がすでに解決していることが多く、仕事の無さに拍車をかけている。
「ぐっ……、だが、何故私なんだ」
「不破さんから刃さんは教員免許を持ってるって聞いてさ、それに刃さん、子供、好きでしょ?」
「不破のやつ、勝手に……」
唯阿の脳裏に「なんだ、やっと来たのか。もう終わったぞ?」と事も無げに言い放つ男の顔がよぎる。
うるさい、お前の事件遭遇率がおかしいんだ。そもそも電柱をへし折って暴走したヒューマギアを押さえつけて鎮静化させるやつがあるか。今日もお前が壊した公共物の始末で書類に追われてるんだぞと、文句がふつふつ湧いてくるのを頭を振ってどこかへ追いやる。
ちなみに、暴走した原因は交通整備で炎天下の中、長時間外に立ちっぱなしだったことによって回路に異常をきたした結果である。排熱がうまくいかなくなって故障したらしい。
「そもそも、家庭教師ならそれこそヒューマギアにでも任せればいいじゃないか」
「それが出来ないから頼んでるんじゃないですか」
「む……」
唯阿は口を閉じ、彩夢を見る。
青い左目を持つ子供。あどけない表情のこの少年に、唯阿はどこか起動したばかりの、何も
「或人社長、そろそろお時間です」
「えっ、イズ、もうそんな時間なの?
……あ、そうだ。ねぇ刃さん」
「なんだ?」
「実は、ウチが協力してるところが最近優秀な技術者を探してるらしくてさ、刃さんが良ければどうかな~って」
「む、それは……」
実のところ、A.I.M.S.は近い内に解散される事になるだろうと言われている。
と言うのも、2030年に国連で特異災害の総称としてノイズ認定されてから、日本政府の意識が対ノイズに向き始めた。これまでの悩みの種であったマギアは8年近く出現していないこともあり、マギア対策よりもノイズ対策が優先され始めたのだ。
そこでめっきり出番の減ったA.I.M.S.は予算の削減がされ、規模を縮小。その分がノイズ対策に当てられている。A.I.M.S.が完全に解散されるのも時間の問題だろう。
唯阿もそろそろ次の就職先を考えるべきかなと思っていたところだ。
「……お前、昔よりしたたかになったな」
「はて、何のことやら」
首を傾げる或人。15年近い付き合いになるが、このとぼけた表情は全く変わっていない。
「分かった。彩夢の先生の件、受けてやる。しばらくは非番の時になるが構わないか?」
「ありがとう、刃さん!」
「それで、その協力しているところってのは、どんなところだ?」
「2年前に設立されたばかりの政府機関、その名も『特異災害対策機動部』。そこの二課にある技術開発局だ」
彩夢の教育を始めて、なるほどこれは学校に通わせられないなと唯阿は思った。
なんというか、体の使い方が全体的に下手くそなのだ。よくこけるし、力加減も分からず、よく物を壊す。そして突然倒れて動けなくなって病院に運びこまれたり、定期検査で入退院を繰り返す。
小学校に通わせようものなら学校の備品を壊し、同級生にすぐに怪我をさせる問題児認定されること間違いなしだろう。そもそも入退院を繰り返す頻度が高かったためロクに登校出来ないので、友達も出来ずに孤立するに違いない。
そんな幼少の彩夢は、唯阿にとって「面倒くさいなやつ」カテゴリに分類されるタイプであり、彼女はその手の扱いに関してはプロフェッショナルであった。
或人がヒューマギアではなく唯阿に先生を頼んだのも、それが理由だったのだと、彼女は理解したのであった。
===
2043年、現在。
レイダーに実装する人間が所属する特異災害対策機動部一課とは、認定特異災害ノイズが出現した際に出動する政府機関である。
主に住民の避難誘導やノイズの進路変更、さらには被害状況の処理、ノイズの撃退のほか、人工知能特別法の取り締まりが一課の仕事だ。
10年前の2033年に設立され、当初はノイズに効果の薄い通常火器を使用していたが、6年前の2037年に対人工知能特務機関A.I.M.S.を吸収合併。これによってA.I.M.S.が保有していたレイドライザーやギーガーといった兵装を一課も得て、ある程度ノイズを相手取ることが出来るようになった。
その代わりにA.I.M.S.の仕事内容も業務に含まれるようになったのだが、「ヒューマギアを悪用しようとするとやって来る刀を持った恐いお兄さん」達のおかげで、その仕事はあって無いようなものである。
A.I.M.S.の施設も一課のものとなり、A.I.M.S.本部は一課のレイダー部隊の拠点として今も多くの人々が出入りしている。
そんな旧A.I.M.S.本部の取調室に、飛電彩夢と刃唯阿はいた。
「まずは、お前の言っていた立花響と緑川ルリという少女だが、二課の別動隊に保護されたらしい。2人とも、目立った外傷も無く、今夜中には家に帰れるそうだ」
机を挟んで彩夢の向かい側に座った唯阿が開口一番にそう言った。
「そっか、良かった……」
どうやら、響達は無事らしい。それを聞いて彩夢はほっと胸をなでおろす。
「少しは肩の力が抜けたようだな、では取り調べを始める前に、お前には黙秘権がある。話したくないことは話さなくていい。後、この取り調べは録音されている──」
取り調べが始まり、何故あの場にいたか、何故ゼロワンドライバーとライジングホッパーのプログライズキーを持っていたのかなど、いくつかの質問に答えていく。
取り調べは30分もせずに終わった。
「なるほど……その仮面の異形とやらにドライバーを渡されて変身しただけで、どうやら本当に何も知らないようだな」
「すみません……」
「謝る必要は無い。それより、これからの事を考えろ」
「これからの事? あっ、晩ごはんの事とかですか? 今日は茹でふきのとうですよ」
「違う。ゼロワンに変身した以上、お前がこれまで通りの生活を送れなくなったと言うことだ」
「どういう事ですか?」
「ゼロワンは元々、飛電の社長しか変身出来ない。確認したところ今の飛電の社長が変わったという話は出ていないが、誰もがお前が次期社長だと思うだろうな」
「父さんはオレに会社を継がせる気は無いって言ってましたよ?」
飛電或人には彩夢の将来の道を決めるつもりは無かった。
或人曰く、「下積みも無くいきなり社長継がされるのはダメだよ。本当にダメ」との事である。
売れないお笑い芸人から祖父の遺言と成り行きで大企業の社長に就いた或人だからこそ、彩夢には誰かの意思ではなく、自身の意思で仕事を決めてほしい。という父の思いがあった。
「例えそうだとしても、周りはそうは思わないという事だ」
「そんなぁ……」
彩夢は高校2年生の16歳。進学か就職か、進路を決めるにはほんの少し早く、考えるには遅くない時期だ。
飛電インテリジェンスに就職することを考えなかったわけでは無いが、それはあくまでも候補の1つであり、将来どんな仕事に就くかは、まだ決まっていない。
「お前には2つ、選択肢がある」
悩む彩夢に、唯阿が道を示す。
「1つ目は、このままゼロワンとしてノイズと戦うこと。命の保証は無いし、ゼロワンに変身する以上、周りは飛電の次期社長としてお前を見るだろう。正体を隠したとしても、いずれバレる。
2つ目は、ゼロワンドライバーとプログライズキーを私に預けて、元の生活に戻ること。幸いにも、ゼロワンに変身したことを知っているのは一課の一部だけだ。周りから飛電の次期社長という風に見られることは無いだろう」
ゼロワンとして戦うか、普通の生活を送り続けるか。
ゼロワンに変身するということは、戦う力を得るだけでなく、飛電インテリジェンスという大企業の看板を背負うことを意味する。『ゼロワン=飛電の社長』という構図が世間に浸透している以上、その正体を暴こうとする輩はどうしても出てくる。隠れて変身しようとしても、ゼロワンの変身シークエンス上、空からバッタが降ってきてピョンピョン飛び跳ね回るので限界がある。現に、それで一課のレイダー部隊に見つかっている。
正体がバレれば、間違いなく周囲の目は変わり、彩夢に取り入ろうとすり寄ってくる者が現れ、元通りの普通の生活は送れなくなるだろう。
しかし、ゼロワンに変身しなければ、普通の生活に戻れる。今ならまだ間に合うのだ。
「私としては、お前に戦ってほしくない。
新しいゼロワンにノイズの炭素転換を無力化する力が備わっていようと、相手はマギアやレイダーとは違う。人類の天敵、ノイズだ。いつ死ぬかも分からないような
紛れも無い、刃唯阿の本音。
それを聞いて、彩夢は決心する。
「オレ、戦います。ゼロワンとして。
だって、誰かが助けを求めていて、オレに助けられるだけの力があるのなら、誰かの笑顔を守れるのなら、全力でそれを
ゼロワンの力は、きっと沢山の誰かを助けられる力だから!」
ああ、やっぱりか。と、内心で呟く。
彩夢なら、誰かを助けるために戦う選択肢を取るだろうと思っていたから。
「……ノイズの相手は、私達特異災害対策機動部でどうにかなっている。お前が戦う必要は無いんだぞ?」
「だったらッ!」
彩夢が、ガタンッ、と音を立てて椅子から立ち上がる。
「オレを特異災害対策機動部一課に、アルバイトとして雇ってくださいッ!」
ガバッ、と90度の礼。
唯阿は一瞬目を丸くして、そして深く、深くため息をついた。
「明日、保護者の同意書を持ってここに来い」
面接してやる、と言外に示した。
「! ありがとうございますッ!」
「まだ採用するとは言っていないぞ」
お笑い芸人からいきなり大企業の社長になるだけでもかなりの重圧なのに、自社製品の暴走とか色々起こって本当に大変だったろうに笑顔を絶やさなかった或人社長って本当にすごいなって思います。
そんな社長が清濁合わせ飲めるようになったのが本作の飛電或人です。