人機重唱シンフォギア―Sinfonia×Rize―   作:ブレイアッ

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今回は主人公の出番無し!
本当は回想を軽くやってから響視点での話を進める予定だったんですが想定以上に長くなったので分割。

ゼロワンのゼの字も出てきませんが間違いなくゼロワンのクロスオーバーな今回。
2年前、ライブ会場の惨劇の話です。


4話『アナタの歌を聴きたい』

 2年前、2041年。

 その日は、天羽奏と風鳴翼という2人の少女から成るアイドルユニット、ツヴァイウィングのコンサートが開かれる日であった。

 会場には10万人もの観客が入場を始めていた。

 

「奏、そろそろ着替えないと──」

 

 控え室のドアを開き、青い髪の少女、風鳴翼が中を覗きこむ。

 

「奏!?」

 

 控え室の床が、血に濡れていた。

 赤い水溜まりのすぐそばで、赤い髪の少女、天羽奏が倒れているのを見るや、すぐに駆け寄った。

 

「奏! 大丈夫!?」

 

 倒れた奏を抱き起こし、翼の腕の中で奏は目をうっすらと開く。

 

「待ってて奏、今すぐ」

 

「待て、翼」

 

 医者を呼ぼうと控え室を出ようとした翼を、奏が呼び止める。

 

「分かってたことなんだ、これは……!」

 

「分かってたって──」

 

「今日の実験に、余計な不確定要素(ガーベッジ)を入れたくなくてね、少し前から、シンフォギアの制御剤を控えるよう言われてたんだ。

 ま、見ての通り、インチキ適合者のあたしは薬を切らした途端にこんなさ」

 

 このライブの裏では、ある実験が行われる。

 

 『Project:N』

 

 特異災害対策機動部二課が、ライブで高まったウタノチカラを利用して完全聖遺物、『ネフシュタンの鎧』を起動させるという実験である。

 ネフシュタンの鎧を起動させ、解析することでよりノイズへ有効な対抗手段を模索するのが目的。

 そして完全聖遺物は、一度起動してしまえば誰にでも扱えるという特徴がある。そして、総じて完全聖遺物による攻撃は、人類の天敵たるノイズに有効であった。

 

 咳と一緒に、僅かな血が飛ぶ。

 喀血だ。肺や気管支からの出血を咳と一緒に出す症状をそう呼ぶのだと、聞いたことがある。

 床に出来た血溜まりから見て、吐血もしたのだろう。どちらにせよ、とても歌えるようなコンディションではない。

 

「やっぱり、ライブは中止に」

 

「翼ッ!」

 

 弱ってるとは思えないほどの、強く鋭い声。

 

「頼む。ライブの中止だけはやめてくれ」

 

「でもその体じゃ……」

 

 なおも食い下がろうとする翼を、瞳1つで黙らせる。

 強い瞳の輝きは、命を燃やす炎の灯りのようだと、翼は思った。

 

「翼は心配性だから、聞いたらライブどころじゃなくなるだろうし、本当はこのライブが終わったら伝えるつもりだったんだけどな。

 ……あたしは、この実験を、このライブを最後に、シンフォギアをやめるつもりなんだ。当然、ツヴァイウィングとしての活動もな」

 

 どうして、とは言えない。

 天羽奏がシンフォギアとして戦うのに必要なLiNKERは劇薬だ。使えば絶大な力を手に出来るが、同時に体に重大な負荷をかける。

 今の奏は、繰り返し投与したLiNKERの影響で体はボロボロだ。これ以上シンフォギアをすれば命の危険に関わる。

 

「そんな顔すんなって。シンフォギアを纏って戦えるのは翼だけになるかもしれないけどさ、二課のオペレーターにでもなって、翼のサポートをするつもりだ。

 絶対に翼を1人にはしない。だから今日くらいは、あたしのワガママに付き合ってくれ」

 

「奏……」

 

 浮かない表情の翼を、ギュッと力強く抱きしめる。

 

「頼りにしてるよ、相棒。両翼揃ったツヴァイウィング(あたしとあんた)なら、どこへだって飛んでいける」

 

「……うん」

 

 

===

 

 

 ライブ会場の地下。

 そこに作られた特異災害対策機動部二課の研究室では、完成聖遺物『ネフシュタンの鎧』の起動実験が行われていた。

 地下の研究室からでも、地上で行われているライブの音が漏れ聞こえてくる。

 

「フォニックゲイン、想定内の伸び率を維持しています」

 

 研究室にいるヒューマギアの1体が言う通り、 実験は順調に進んでいた。

 

 そう、進んで()()のだ。

 

 突如、研究室全体にアラートが鳴り響き始めた。

 

「どうしたッ!?」

 

「聖遺物のエネルギー急激に増大! 安全弁(セーフティー)が持ちません!」

 

「このままでは、聖遺物が起動。いえ、暴走します!」

 

 ネフシュタンの鎧から強い光が放たれる。

 待避する間もなく、地下の研究室は爆発に飲まれた。

 

 

 

 

 

 地下での異常は、地上にも影響を及ぼした。

 ライブ会場の一角から轟音と揺れと共に煙が吹き出す。その衝撃で音響システムに異常が出たのか、スピーカーからの音が途切れた。

 

「──ノイズが来るッ!」

 

 獣の如き奏の直感が叫び、次の瞬間に空から飛来したノイズが観客の1人を炭素の塊へと変えた。

 

「ノイズだぁぁぁッ!」

 

 誰かの叫び。それを皮切りに会場はあっという間にパニックに陥った。

 

 次々と現れるノイズ。小型だけでなく、見上げるほどに巨大なものまで現れ、逃げ惑う人々を次々と襲っていく。

 

「行くぞ翼ッ! この場で槍と剣を携えているのは、あたし達だけだッ!」

 

「奏……、ッ。うんッ!」

 

「Croitzal ronzell Gungnir zizzl」

 

 聖詠。

 シンフォギアを纏うため、胸の内から沸き上がる歌を口ずさみ、ステージから飛び降りながら2人の少女が光に包まれる。

 

 光が止むや、槍と剣がノイズを切り裂き、炭素へと崩す。

 

 ノイズの天敵、シンフォギアを身に纏った2人の少女は、各々の武器を構えて次々とノイズを切り裂き、貫き、討ち果たしていく。

 

 

 

 

 

 その裏で、会場の警備をしていたヒューマギア達が観客の避難誘導を進めていく。

 

 ノイズの進行状況、会場のどこに人が密集しているのか、どのルートが安全なのかといった様々なデータをリアルタイムに集め、それを元に、より素早く、より沢山の観客を避難させるためのルートを導き出し、そこに誘導していく。

 

 しかし、人間を襲う本能を持つノイズにとって、避難のために観客が並んで密集している地点を見逃すはずもなく。

 

「の、ノイズがこっちに来る!」

 

 飛行型のノイズがその身を円盤のように回転させながら人の群れめがけて落下する。

 

「私の仕事は、観客の皆さんを守ることッ!」

 

《オニコマギア!》

 

 観客の避難誘導をしていた警備員型ヒューマギアの1体が飛び出し、コウモリの絶滅種、『オニコニクテリス』のデータイメージを元にした『ゼアマギア・オニコタイプ』へと転身。

 ノイズに体当たりして軌道をズラし、観客に当たらない位置に落とす。

 

《ゼツメツノヴァ!》

 

 両手の爪、ザイタロンにエネルギーを集中させ、紫のクローを形成。

 地面に突き刺さったノイズめがけて振り下ろし、ノイズを炭素と崩す。

 

「皆様、落ち着いて避難をしてください!皆様の安全は、我々ヒューマギアが守りますッ!」

 

 オニコマギアの力強い宣言。

 

 しかし、それは嘘だ。

 

 ヒューマギアの高い演算能力が、この場にいる人々全員を無事に避難させることは不可能だと結論付けている。

 観客、関係者含めて10万人の中から()()()()10,462人の死者が出るという結論に、その場にいるすべてのヒューマギアが至っていた。

 絶望的なのが、この結論はすべてのヒューマギアがマギア化し、さらにシンフォギアの存在を前提としている事だ。

 

 そんな絶望的な予測を、表情変化の機能を切ってまで人々に隠し、ヒューマギア達は避難誘導を進めていく。

 

 人々の群れに、巨大な影が落ちる。

 牛と芋虫を合わせたような巨大なノイズ、ギガノイズだ。

 シンフォギアは遠く、ここからでは間に合わない。

 

《マンモスマギア!》

 

《アルシノマギア!》

 

 ヒューマギアの2体がそれぞれゼアマギア・マンモスタイプとゼアマギア・アルシノタイプに転身する。

 避難が完了していない今、マギア化することは避難誘導をする人手が不足し、避難そのものが遅れることを意味する。

 それでも、このマギアには人々がノイズに殺されていくのを見るのは耐えられ無かった。

 この2体のマギアに転身したヒューマギアは、ノイズに無惨に殺されていく人を見て、「人間を守りたい」という思いで今、シンギュラリティに覚醒したのだから。

 

 ギガノイズが、その巨体で押し潰さんと迫る。

 

《ゼツメツノヴァ!》

《ゼツメツノヴァ!》

《ゼツメツノヴァ!》

 

 オニコマギアから巨大なエネルギーの爪が伸び、マンモスマギアから巨大なエネルギーの牙とアルシノマギアから巨大なエネルギーの角が伸び、ギガノイズに突き刺さる。

 

「ッ!」

 

 しかし、痛覚の存在しないノイズには突き刺さった程度では止まらない。

 位相差障壁を緩めればマギアの攻撃はすり抜け、開けられた穴は再生する。

 

「もうダメだぁぁぁッ!」

 

 マギア3体程度では止まらない。意に返さない。

 迫り来るギガノイズに、マギア達が自爆特攻を仕掛けようとしたその時。

 

 

《インベイディングボライド!》

《インベイディングボライド!》

《インベイディングボライド!》

 

 

 赤く光る無数のエネルギー弾がギガノイズに命中。爆発して仰け反らせた。

 

「特異災害対策機動部一課、レイダー部隊現着ッ!」

 

 会場の上空を飛ぶヘリから次々とバトルレイダーが飛び降りてくる。

 

 ライブ会場の爆発とノイズの出現。そしてライブ会場地下にある実験室との通信が途絶したことを確認した二課の本部は、一課にレイダー部隊の出撃を要請。

 連絡を受けた一課はすぐさま、旧A.I.M.S.本部の一課支部に待機しているレイダー部隊に出撃命令を出し、連絡を受けてからヘリが離陸するまでの時間は1分34秒というスピードで出撃。

 4分21秒で会場上空に到着。ヘリ着陸の手間を省くため、レイダーに実装して上空500メートルの高さから飛び降り、現場に駆けつけたのだ。

 

「各員、マギアと協力してノイズの足止めを行えッ! ノイズの撃破より民間人の救助、避難を最優先ッ!」

 

「「「了解ッ!」」」

 

 まだ5000人近くの避難が完了していない中、マギアとレイダーによる決死の避難誘導作戦が開始した。

 

 

 

 

 

 5体のマギアが1体のギガノイズと刺し違え、4人のレイダーが観客の盾となってノイズの餌食となり、守りきれずに何百人もの犠牲者を出しても、避難は進む。

 

 すっかり人気(ひとけ)の無くなったライブステージにあるのは、無数のノイズと2人のシンフォギアを纏う少女。

 建物内ではいまだに避難が続いているが、ノイズの大半はこのライブステージにいた。

 

 戦い始めてからそろそろ20分が見えてきた。

 ノイズの群れは減る様子も無く、なおも増え続けている。そんな時に。

 

「が……ッ!」

 

 奏に、限界が訪れた。

 

「時限式じゃ、ここまでか……ッ!」

 

 実験のためにLiNKERの投与を控えていた事が、ここで災いした。

 戦闘中に効果時間が切れたのだ。

 

 焦点がぼやけ、視界が霞む。

 全身に激痛が走り、息をするだけで肺が痛む。

 適合係数がどんどん低下し、ギアからのバックファイアに体が蝕まれていくのを感じる。

 このままでは、ノイズの群れのど真ん中でギアが解除され、その餌食となってしまうだろう。

 

「きゃあっ!」

 

 不意に、少女の悲鳴が聞こえた。

 声のした方を向くと、1人の少女が立ち尽くしているのが見えた。

 

「ッ! 逃げ遅れたのかッ!?」

 

 ぼやける視界でよく見れば少女の頭から血が出ていた。

 何かの拍子で頭をぶつけ、物陰に倒れて気絶していたのだろう。それで避難出来なかったのだ。

 

 格好の獲物を見つけたとばかりに、ノイズが少女に向かって走る。

 

「ちっくしょォオオオッ!」

 

 悲鳴を上げる足に無理を言わせて全力で駆け、ノイズと少女の間に割って入る。

 ドリル状に変化し、突撃してくるノイズを、槍を体の前で回転させて防ぐ。

 回転する槍に触れたノイズは炭素と砕け、しかし奏に確実にダメージを与えていく。

 シンフォギアの装甲のあちこちにヒビが入り、砕けていく。

 

 砕けたシンフォギアの破片が、ノイズが激突した衝撃で後ろに飛び、少女の胸を穿った。

 

「……ッ!?」

 

 突撃してくる最後のノイズを砕くや、槍を投げ捨て少女に駆け寄る。

 

「おい死ぬなッ! 目を開けてくれッ! 生きるのを諦めるなッ!」

 

 胸から血を流しながら、少女が虚ろげな目を開く。

 

 声が聞こえている。意識はある。

 この場のノイズさえいなくなれば、すぐに助けが来て、この少女は助かるだろう。

 

 ならば、やることは1つだ。

 

(絶唱……あたしの命と引き換えに、この場のノイズを全部倒す。

 どのみち、このままじゃ戦えない。なら、最後に一発、ドでかいのを見舞ってやろうじゃないか)

 

 槍を拾い上げ、息を吸う。

 

 シンフォギア最大最強の攻撃、『絶唱』。

 増幅したエネルギーを一気に放出し、絶大な威力を持つ攻撃を放てる反面、そのバックファイアはシンフォギアを身に纏って強化された肉体と言えども負荷を軽減しきれないほどに絶大な奥の手だ。

 

 バックファイアは適合係数が高ければ高いほど軽減出来るが、今の奏はLiNKERの効果も消え、適合係数はギリギリ、かろうじてシンフォギアを纏えている程度。最早最低値と言っていい。

 

 歌えば、間違いなく死ぬ。

 

 しかし、歌わなくても死ぬこの状況なら、歌う以外に手は無い。

 

「カナでサんッ!」

 

 絶唱を口にしようとした瞬間、ノイズ混じりの声が、奏を呼んだ。

 声のした方を見れば、ボロボロのヒューマギアがいた。

 

 そのヒューマギアは、ライブ会場地下の実験室にいたヒューマギアの1体。

 青い冷却水が血のように流れ、ボディのあちこちから火花が散っている。何よりも目を引くのは、そのヒューマギアが上半身だけという点だ。

 

 思わず、そのヒューマギアに駆け寄る奏。

 

「こレ……ヲ……あナタに……ィ……」

 

 奏に、青く濡れた注射器を手渡し、機能を停止した。

 

「LiNKER……。お前……ッ!」

 

 そのヒューマギアは、ツヴァイウィングの歌が好きだった。奏の歌が好きだった。

 

 ネフシュタンの鎧の爆発で崩落した天井に下半身を押し潰され、千切れた時に聞こえたのは、地上から聞こえる奏の歌。

 戦いの歌を聞いたそのヒューマギアは、奏がLiNKERの投与を控えていたことを思い出し、壊れかけの受信機からノイズの状況を確認。戦いの最中にLiNKERの効果時間が切れると判断して実験室にあるLiNKERを持ち出したのだ。

 地下から、地上まで、下半身の無い体で、這って奏の元までLiNKERを届け、そして機能を停止した。

 本来ならば、下半身を潰された時点で動けなくなってもおかしくなかった。それでも動けたのは、人間で言う「意地」。

 奏の歌が好きだから、奏を死なせたく無いという思いでシンギュラリティに達したそのヒューマギアの、絶対に奏にLiNKERを届けるという意地が成し遂げたのだ。

 

「また、ヒューマギアに助けられちまったな……」

 

 名前も分からないそのヒューマギアのまぶたを閉じ、命懸けで託されたLiNKERを首筋に打ち込む。

 

「さあ、聞きやがれノイズども。これがあたしの、明日へ飛ぶための、絶唱だッ!」

 

 

===

 

 

 最低でも10,462人の死者が出るという予測は、会場にいたヒューマギア達の活躍と、想定以上の速さで現場に駆けつけた一課のレイダー部隊、そして奏の絶唱により、死者・行方不明者8,654人にまで抑えられた。

 

 この惨劇は、多くの人々の心に大きな傷痕を残す結果となった。

 

 そして2043年。

 飛電彩夢が一課支部に連れていかれるより少し前。

 

 天羽奏に守られたあの時の少女、立花響は、幼い少女を連れてノイズから逃げていた。

 

 




サブタイトルは奏にLiNKERを届けたヒューマギアが最後に言おうとした台詞。

次回は響視点での話です。
たぶん主人公まだ出てこない。
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