人機重唱シンフォギア―Sinfonia×Rize―   作:ブレイアッ

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毎週日曜更新(時間は不定期)

あ、本作の略称はSinfonia×Rize(シンフォニアライズ)を略した「フォニライズ」となっております。よろしく。


5話『覚醒のコドウ』

 2043年。

 立花響が、飛電彩夢と別れてから少し経った頃。

 

 立花響は少女、緑川ルリを背負ってノイズから逃げていた。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

 

(彩夢くん、大丈夫かな)

 

 大丈夫だと信じたい。そんな思いを胸に、走り続ける。

 

「お姉ちゃん! 前!」

 

「っ!」

 

 路地から出ようとすると、そこは待っていましたとばかりに前方を塞ぐノイズの群れ。

 後ろを振り向けば、そこにもノイズ。

 左右を壁に挟まれ、前の開けた場所にも、後ろの一本道にも、ノイズが立ち塞がる。

 

「そんな……逃げ場が……」

 

 ノイズが紐状に変化し、響めがけて突撃してきたその時。

 

 

「伏せてな、お嬢ちゃんッ!」

 

 

 突然真上から聞こえてきた声を疑う間もなく、咄嗟に伏せる。

 

 ドゴォッ! という音と共に地面が揺れ、アスファルトが捲れ上がった。

 突然出来たアスファルトの壁に激突し、勢いを失うノイズ達。

 

「間一髪。怪我ァ無いかい、お嬢ちゃん達?」

 

 見上ると、そこには黄色いヘルメットとツナギが特徴的な男性。耳にあたる部分にはヒューマギアであることを示すモジュールが付いていた。

 

「ヒューマギア……」

 

「応よ。俺ァ、大工型ヒューマギア。最強匠親方だ!」

 

 キュインと片手のドリルを回転させ、2メートル近い大柄の彼は、ニカッと笑った。

 

「よく頑張ったな。後はこの俺に、最強に任せ……おいどういうこったゼア! マギア化不認証!?」

 

「え?」

 

「仕方ねェ。よし嬢ちゃん、逃げんぞ!」

 

 ルリを背負い、響を左腕で抱える。

 

「逃げるって、前も後ろもノイズが」

 

「だったら、横に逃げるしかねぇだろ。どぉりゃあああッ!」

 

 ギュオンと片手ドリル一発で風を巻き込みながらビルに穴を開ける。

 

「横って、壁に穴を開けるのぉ!?」

 

「非常事態だ! 後で最強に直してやる!」

 

 あっという間にビルに穴を開け、そこに飛び込む。

 次々と穴を開けて脱走路を作りながら人のいないビルを一直線に駆け抜け、反対側に出る。

 しかし、

 

「嘘だろ……ッ!」

 

 ビル3つを貫通し、飛び出した先はまたしてもノイズの群れ。

 それも先ほどの倍以上の数だ。

 後ろにも回り込まれ、最早逃げ場は無い。

 

 飛行能力のあるマギアに転身出来れば、このノイズの大群から2人の少女を助ける事が出来る。

 だというのに、どういうわけか衛星ゼアは最強匠親方のマギア化を承認しない。

 

「死んじゃうの……?」

 

「絶対に家に帰してやるからな……!」

 

 ジリ、と後ずさる最強匠親方。

 

「────」

 

 立花響の脳裏に、2年前の出来事が浮かぶ。

 ライブ会場にノイズが現れた時、翼と奏がノイズと戦っていた。ヒューマギアが、奏のために下半身が無くなっても駆けつけていた。

 

 ドクン、と鼓動が大きくなる。

 

「下ろしてください……」

 

 最強匠親方が片手に抱えていた響を下ろす。

 響は、一歩前に出た。

 

「おい、嬢ちゃん」

 

「ヒトも、ヒューマギアも、命懸けで戦ってた……。

 わたしに出来ること……わたしにも、出来ることを……ッ!」

 

 ドクン、ドクン、ドクン。

 

 心臓が痛くなるほど激しく、大きな鼓動。

 心臓を経由した血液が、熱い。

 全身を巡る血液が、熱く滾る。

 

 天羽奏の言葉が、胸の内に焼き付いている。

 

「わたしは……生きるのを、諦めない──ッ!」

 

 それが、()()()()()

 

 

 

 

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron」

 

 

 

 

 

 聖詠。

 胸の内から湧き上がる、立花響がはじめて口ずさむ歌詞、はじめて口ずさむメロディ。

 はじまりの歌。

 

 聖詠と共に、胸の傷が輝き、光が少女の身を包む。

 光が装甲と化し、(よろ)う。

 

 そのシルエットは、かつての天羽奏のそれに酷似していた。

 

 

 衛星ゼアから最強匠親方にその情報がアップロードされ、その存在を知り(ラーニングし)、その名を口にする。

 

「シンフォギア……!?」

 

 アンチノイズプロテクター・シンフォギア。

 ゼアから与えられた情報によるとノイズに対抗する人類の切り札。そしてそれを纏える人間は装者と呼ばる。そして現在、装者は風鳴翼のみ。

 ──情報がアップデートされ、装者に立花響の名が追加された。

 

「何……これ……」

 

「お姉ちゃん、かっこいい……!」

 

 状況を飲み込めていない響と、そんな響の格好をかっこいいと評するルリ。

 今の状況に飲まれていないという点では、ルリは大物だった。

 

 ノイズが響めがけて飛びかかる。

 変形も無く、ただ走って跳んでのしかかるだけ。それでも普通の人間にとっては即死ものだ。

 当然、そんな事も分かりきっている響は、ノイズに怯え、動けなくなる。

 

「拳を前に突き出せ!」

 

「うぇ、ええいっ!」

 

 最強匠親方の声に、咄嗟に拳を突き出す響。

 目を閉じて敵を見ていないし、拳の握り方も甘く、腰も入っていない、ヘロヘロの素人丸出しパンチ。

 

「え……?」

 

 それでも、シンフォギアの攻撃であることに違いは無い。

 ノイズに触れたインパクトの瞬間、位相差障壁は無いものと化し、炭素転換も意味を成さず、ノイズは炭素と崩れさる。

 

「わたしが、やったの……?」

 

「次来るぞ、伏せろ!」

 

「は、はいッ!」

 

 再び咄嗟に動いて、伏せる。ドリル状に変形したノイズが響の頭上を通りすぎた。

 

「立ち上がって右にパンチ!」

 

「はいぃッ!」

 

 最強匠親方の指示に従いながら、ヘロヘロの攻撃でノイズを倒していく。

 

(戦いに関しちゃただの素人……しかし確実に一撃でノイズを倒していきやがる。これがシンフォギアの性能か?

 いや、もしかするとこのお嬢ちゃんの──)

 

 その時、最強匠親方のセンサーに待ちかねていた存在の反応が来る。

 

「──ッ! やっとお出ましかッ!」

 

 

 

《 《 絶刀・アメノハバキリ 》 》

 

 

 

 空から歌が聞こえてくる。

 蒼き光の一閃が、ノイズの群れを切り裂き、黒い炭へと霧散させた。

 

 スタッ、と着地した青い髪の少女。風鳴翼は、響を一瞥するや、その手の剣でノイズどもを両断していく。

 

 最強匠親方は、ただ闇雲にビルに穴を開けていた訳ではない。

 特異災害対策機動部と連絡を取り、二課の戦力がある方へと向かっていたのだ。

 

「すごい……」

 

「よし、こっちだ。お嬢ちゃん!」

 

 翼の勇姿に呆ける響に声をかけ、最強匠親方は翼が切り開いた脱走路を一目散に走り抜けた。

 

 

===

 

 

 翼の活躍でノイズは掃討され、安全が確保されるや最強匠親方は「じゃ、これから仕事なんでな!」と、迎えに来た4人の最強匠親方と共に笑顔で去り、緑川ルリは母親と再会。

 

 そして立花響は──。

 

「それでは、ご同行を願います」

 

「何でぇーッ!?」

 

 ゴツイ手錠をかけられて黒塗りの車に乗せられていた。

 

 

 

 

 

 

 車に揺られ、着いた先は響も通う私立リディアン音楽院。

 その地下深くに存在する、特異災害対策機動部二課の本部であった。

 

「ようこそ人類守護最後の砦へ!」

 

 連れて来られた部屋では、たくさんの人とヒューマギアが待っており、何故か響の歓迎会が開かれていた。

 綺麗に飾り付けがされ、簡単な軽食や飲み物も用意されている。

 

「参ります……天空、真心握りッ!」

 

 ネタが跳ね、スパパンッシュタタンッスッタカタンッ♪ と見事な技を披露する寿司職人型ヒューマギア、一貫ニギロー。

 

「おおっ! 一貫ニギローの天空真心握り! テレビじゃなくて生で見られるなんて!」

 

「へい、歓迎の一貫。玉子一丁」

 

「あ、ありがとうございます……んっ! すっごい美味しい!

 

 って、ちっがーう! 何なんですかこれぇ!」 

 

「何って、君の歓迎パーティーだが……不満だったか? せっかく刃女史のツテを頼ってまごころ寿司の一貫ニギローまで呼んだんだがなぁ」

 

「それについては、何と言うかありがとうございます!」

 

 一貫ニギローは、ただの寿司職人型ヒューマギアでは無い。

 ミシュラン三ツ星の名店「まごころ寿司」の店主を務め、『ヒューマギア伝統文化保全計画』という、後継者が不足する界隈にヒューマギアを派遣し、その技術をラーニングすることで文化の伝承を絶やさないようにする事を目的とした計画を飛電或人に提案し、その計画のリーダーを務めているヒューマギアである。

 その活躍はニュースに取り上げられる事も多く、ニギローを知らないという人も少なくはない。

 

「ま、それはそれとして。

 改めて自己紹介だ。俺は風鳴弦十郎。ここで一番偉い人だ」

 

「そして私が、出来るオンナと評判の天才(てぇんっさい)考古学者。櫻井了子よ」

 

「君に来てもらったのは他でもない。協力を要請したいことがあるのだ」

 

「協力って……あの力の事ですか? 教えて下さい。あれは何なんですか?」

 

「そ・の・ま・え・に♪ ちょーっと脱いでもらっても良いかしらん?」

 

「え」

 

 響の耳元で艶っぽく囁く了子の頭にひゅう、と弧を描いて丸められた紙玉が当たった。

 

 

いたずらがすぎるぞ、了子さん

 

 

 そう書かれたスケッチブックを膝の上に乗せ、現れたのは車椅子に乗った赤い髪の女性。

 

「あらら。ごめんなさいね、奏ちゃん」

 

(え……)

 

 

はじめまして

 あたしは天羽奏

 よろしくな

 

 

 そう書いたスケッチブックを膝の上に乗せ、奏は笑う。

 

 

 響にとって、天羽奏は命の恩人だ。

 2年前、ライブ会場の惨劇と呼ばれるあの事件で。

 薄れ行く意識の中で聞こえた奏の言葉は、響の胸の内に残っている。

 いつか会えたら、助けてくれたお礼を言おうと思っていた。

 

 その恩人が目の前にいるのに、言葉が出なかった。

 

 車椅子に乗っているということは歩けないということ。スケッチブックで筆談をしているということは話せないということ。

 2年前の絶唱は、奏から戦場に立つ足を、歌うための声を奪ったのだ。

 

 

 わたしのせいですか。

 

 

 そんな言葉が喉で詰まり、無理矢理飲み込む。

 

()()()()()()! 立花響です!

 よろしくお願いします!」

 

 その日、訳も分からず連れて来られた場所で、ずっと会いたいと思っていた恩人に、嘘をついた。

 

 




天羽奏、生存(絶唱の後遺症で足が動かない&話せない)

本作品、基本的にシリアスで行きます。
次回は彩夢視点。初出動の話の予定。
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