人機重唱シンフォギア―Sinfonia×Rize― 作:ブレイアッ
2043年、現在。
特異災害対策機動部一課支部(旧A.I.M.S.本部)の会議室。
会議室の扉には『アルバイト面接中』の看板がドアノブにかけられていた。
ドアのすぐ前に立つエプロンドレス姿の女性が1人と、その前を落ち着きなくうろうろする男性が1人。
女性の方は、ゆるやかなウェーブがかかった明るめの茶色の髪をロングボブにし、赤いフレームの眼鏡をかけており、耳にあたる部分にはヒューマギアモジュールが付いている。
男性の方は、ファーの付いたコートを羽織り、クセのある黒髪。狼のように獰猛な眼光は、道行く人が「ひっ」と小さな悲鳴を上げてUターンするには十分な迫力がある。
そんな男の頭を、刃唯阿は手に持った紙束で容赦なくはたいた。
「少しは落ち着け」
「刃か」
「久しぶりだな、不破」
この男性の名は『不破諌』。かつて、刃唯阿/仮面ライダーバルキリーと共に仮面ライダーバルカンとして様々な敵と戦った仮面ライダーの1人であり、現在、彩夢の保護者をしている。
「刃様、やはり今度、例の手刀をラーニングさせて頂けませんか?」
「ふ、良いだろう」
「おい止めろサヨ」
不破にサヨと呼ばれた彼女は、飛電家の家政婦だ。家事能力の無い彩夢の代わりに家事全般をこなしている。
「冗談だ。しかし三者面談でも無いのにただのバイトの面接に保護者のお前まで出てくる事は無いだろ?
それに会議室は完全防音だ。外に声が漏れないのは知っているだろう?」
「ああ、知ってる。だがな……どうにも落ち着かん!」
再びうろうろ歩き始める不破。そんな彼に唯阿はため息を吐き。
「はぁ、だったら手伝ってもらおうか」
「何をだ?」
「決まってるだろう、彩夢の歓迎会だ。面接をやってる内に飾り付けを終わらせるぞ。サヨも手伝え」
「かしこまりました」
===
不破と唯阿が歓迎会の会場へ向かってから少しした頃。
会議室内、アルバイト採用面接は終わりを迎えようとしていた。
学校終わりに直接来たため、制服姿の彩夢と机を挟んで向かい側に座っているのは面接官を任された一課司令の
スーツの上からでも分かる鍛え上げられた筋肉と、スキンヘッドに額の傷痕が特徴的な男性だ。決して、40過ぎて禿げてきた訳ではない。
その威圧感のある見た目からヤクザにも見えなくも無いのだが、優しげな目元はどこか安心感を与えてくれる。なお、サングラスで隠すと非常に恐い。泣く子も黙る恐ろしさである。
ちなみに元A.I.M.S.で、24年前に不破諌が隊長をしていた頃は隊員をしていた。24年で平隊員から一課司令まで登り詰めた筋金入りの叩き上げである。
「以上で、面接は終わりです。ウチの性質上、
後日、家に採用通知が郵送されるけど、明日から来られるかい?」
「はい、大丈夫です!」
実質採用と言っているようなものだが、特異災害対策機動部一課は国家特務機関。加えてレイドライザーという特殊な装備を扱うだけあってアルバイトを雇うというのは本来あり得ない。
彩夢がアルバイトとして採用されたのは、レイダー部隊の技術顧問であり、彩夢をよく知る刃唯阿の口添えと、もう1つ。
「あの、“飛電の息子さんってなら”ってどういう意味ですか?」
“飛電或人の息子である”という事実だ。
「或人さん……君のお父さんには
飛電インテリジェンスと特異災害対策機動部との繋がりは強く、それこそ設立される案が出た時からの付き合いがある。
ノイズが出たらヒューマギアが避難誘導をし、時にはマギアとなってノイズと戦う。
それに加えて、ヒューマギアからノイズの数や位置情報、要救助者の数や怪我の状態などのデータや、ヒューマギアの視界情報が特異災害対策機動部に送られるようになっており、彼らはその情報を元に動いている。
特異災害対策機動部は人々の為になると信じた飛電或人が飛電インテリジェンスを挙げての協力を申し出た結果、システム構築の段階からヒューマギアを組み込み、ヒューマギアを利用しない当初の計画よりも迅速にノイズの対応を出来るようになったのだ。
「さて、質問とかは大丈夫かな?」
「あ、はい。大丈夫です」
「よし、それじゃあ面接は終了。お疲れ様
この後時間ある? 不破隊ちょ、んんっ。保護者の人からは大丈夫だって聞いてるけど」
「はい、大丈夫です!」
「よし、じゃあちょっと来てもらおうか」
そう言って立ち上がった田所。
彼の後ろを歩き、彩夢は閉め切られた扉の前に案内された。
扉の上のプレートにはただ2文字、食堂と書かれている。
田所に促され、扉を開ける。
「失礼しまーす……」
パンッパパンッパンッ!
「うわっ!?」
無数のクラッカーの破裂音と、何人もの一課職員達の拍手に迎えられる。
飾り付けされた食堂には「歓迎 飛電彩夢」と書かれた紙までぶら下がっていた。
「え、えっ、えぇ?」
「ようこそ、特異災害対策機動部一課へ。歓迎するよ」
次の瞬間、彩夢は一課の職員達にもみくちゃにされた。
===
彩夢への一通りの質問攻めが終わって少し落ち着いた頃。
彩夢は壁沿いに並べられたパイプ椅子に座ってオレンジジュースを飲んでいた。
「疲れた……」
「お疲れ様です、彩夢様」
彩夢の右隣の席にサヨが座る。
「サヨも来てたんだ」
「車を運転しないといけなかったので」
ちらりと部屋の角の方を見るサヨ。
そこには偉くなった元部下の田所と談笑する不破の姿があった。
「あれ、不破おじさん車持ってなかったっけ?」
「それが、先日ノイズが出た時に民間人を助けるためにノイズめがけてぶん投げたそうで……」
「また壊したんだ……」
「失礼。隣、いいかな?」
30代後半くらいの茶髪の男性が話かけてきた。
一課の制服に肩にはレイダー部隊の所属である事を示すワッペンが縫い付けられている。
彩夢がどうぞ、と左側の椅子を引くと、男性は軽く会釈をしてから座った。
「俺はレイダー部隊A班の隊長をしている、
よろしくする前に、1つ確認しておきたいことがある」
「なんですか?」
「……先週、俺の班で1人、ノイズにやられて死人が出た。レイダー部隊は一課の中でも特に死と隣り合わせだ。刃さんから話は聞いてるが、本当に良いんだな?」
「……勿論です」
ポケットからライジングホッパーのプログライズキーを取り出し、じっと見る。
「昨日、不破おじさんに聞いたんです。オレが手に入れた力、ゼロワンは、父さんが誰かの笑顔を守る為に戦っていた力だって。
誰かが助けを求めていて、オレに助けられるだけの力があるのなら、全力でそれを揮るう。それがオレのルール。ゼロワンは、その為の力だって思うんです。
だから──」
「分かった。よろしくな、飛電」
「はいッ! あ、出来れば彩夢って呼んでください」
「おう、彩夢」
千明が差し出した手を握り返し、握手する。
江井の手は、ざらざらしていて固かった。
ヴーッ! ヴーッ! ヴーッ!
突如、食堂にアラートが鳴り響く。
その瞬間、賑やかな空気は途端に冷えきり、ピリッと張り詰める。
アラートが鳴った直後に、何人かが駆け足で食堂を出た。
「江井ッ! 彩夢も連れて行け!」
「しかし彼はまだ」
「大丈夫だ」
『ノイズの出現を確認。レイダー部隊に緊急出動要請』
館内アナウンスでようやく状況を理解した彩夢は立ち上がる。
「彩夢! これを持って行け!」
唯阿が投げたサングラスと一体化したZAIAスペックをキャッチし、右耳に付ける。
サングラスの内側に次々とノイズの位置や進行方向、要救助者の位置や数といった様々な情報が表示され、流れていく。
(情報が、洪水みたいに……ッ!)
「了解しました。行くぞ彩夢ッ!」
「は、はいッ!」
「彩夢様ッ!」
「何ッ!?」
「どうか、ご無事で」
不安げなサヨに力強く笑って見せ、急かす江井の後を続いて食堂を後にした。
館内の廊下をすれ違う人は皆駆け足で、慌ただしい。
「いいか、出動要請が来てすぐ俺達に求められるのはスピードだ。要請を受けてから60秒以内に出動する必要がある。1秒長引けば2人死ぬと思え!」
「はいッ!」
===
出動要請から59秒でボックスカーに似た形の装甲車に押し込まれ、ドアを閉めるより早く彩夢と運転手を含めた7人で構成されたレイダー部隊A班が出撃。
現場に到着するまでの時間で、サングラスの内側に表示された地図を見ながら江井が作戦を確認する。
彩夢も、これを付けとけと渡された防弾チョッキを着ながら話を聞く。
「ノイズの出現地点はリディアン音楽院より約200メートルの距離にある。ここは学院に通う生徒や民間人も多いのですぐに戦闘はせず、ノイズの誘導を優先する。
ポイントはすぐ近くにある農地だな。この時間帯なら人通りも少ない。ここまで誘導したら後は二課が到着するまで足止めだ」
作戦を確認している間も、次々と情報が更新されていく。
千明が話している間にも、ノイズ出現地点から半径300メートル圏内の避難が完了したという情報や、誘導地点に続く道路の封鎖が完了したという情報が流れていった。
「彩夢、お前は見学だ。俺達より前には絶対に出るな」
「はい、ぁっ、了解!」
「作戦目標まで後2分です!」
「よし、寺島。ノイズ誘導の攻撃、頼んだぞ」
「了解!」
寺島と呼ばれた金髪の男性が席の下から青と黒のアタッシュケースを取り出した。
(アタッシュショットガンだ……)
「まもなく目視圏内!」
後方のドアを開け、そこから車の屋根へと登る寺島。
屋根の上で片膝をつき、プログライズキーを起動させた。
《ハード!》
レイドライザーにキーを装填。
《オーソライズ!》
「実装ッ!」
《レイドライズ!》
迸るエネルギーが装甲となり、寺島の身体に纏う。
《インベイディング! ホース シュー クラブ!》
バトルレイダーに実装した寺島はアタッシュショットガンを変形させ、銃の形態にするや、レイドライザーからキーを抜き、装填する。
《ショットガンライズ!》
《Progrise key confirmed. Ready to utilize.》
《ホースシュークラブ ズ アビリティ!》
車の進行方向にはノイズの群れ。
ノイズの周囲に民間人がいないかをレーダーと、レイダーとなって強化された視力で確認してから、アタッシュショットガンの引き金を引いた。
《インベイディングカバンショット!》
赤と黒の砲弾が放たれ、ノイズに命中。
1体の体を半分ほど吹き飛ばし、しかし再生が始まる。
その一撃で、ノイズの群れはレイダーに意識が向き、そのまま車の方へと進行方向を変えた。
「ノイズ、こっちに食らいつきました!」
「オッケー、このまま誘導ポイントまでノイズを引き付けるぞ!」
車が方向転換し、ノイズに背を向けて走る。
追いかけてくるノイズの意識を常にこちらに向けるため、寺島が絶えず銃撃を続けている。
8分近く走り続け、ノイズを3体を倒した頃に、目的のポイントに到着。
停車と同時に中に乗っていた江井をはじめとする5人の隊員が降り、横一列に並ぶ。
「総員、実装!」
「了解、実装!」
「実装します!」
「実装ッ!」
江井の号令で一斉に実装し、バトルレイダーとなる。
車の屋根から飛び降りた寺島を含めた5人のレイダー。これが特異災害対策機動部一課レイダー部隊A班である。
「シンフォギア到着まで約6分、俺達の作戦はそれまでの時間稼ぎだ。
必ずノイズ1体に2人以上で当たる事。決して距離を詰めすぎない事。絶対にノイズを他所へ向かわせるな! 作戦開始ッ!」
各々行動を開始。
倒すことを意識してではなく、徹底した囮。ノイズが引き返したりしないよう、銃撃を食らわせて引き付ける。
訓練された動きは無駄がなく、レイダーとなって強化された身体能力でノイズの攻撃をかわしていく。
(すごい、これが対ノイズのプロか……ッ!
オレも、いつかこの人達みたいに、ノイズから誰かを守れるようになる。この、ゼロワンで……ッ!)
・田所勤
一課の司令。強面だけど目元と喋り方は優しい。サングラスを付けて黙ると滅茶苦茶恐い。
元A.I.M.S.で不破、唯阿の元部下。額の傷痕は滅亡迅雷.netのアジトへ強襲をしかけた時に仮面ライダー迅から付けられた。
前を突っ走る不破や常に冷静な唯阿に憧れ、力になれるよう努力した結果、仮面ライダーバルキリーの高速戦闘を目で追える上に、援護射撃まで出来るレベルに成長。2キロ以内ならスコープ無しで動く直径4センチの的を射抜ける射撃の名手。腕は落ちてないらしく、彼もまたOTONAである。
・江井千明
一課レイダー部隊A班の隊長(レーダー部隊では班長ではなく隊長と呼ぶ)。
茶髪で30後半。婚約者だった幼馴染をノイズに殺された過去あり。
名前の由来はHから。
・寺島
一課レイダー部隊A班で一番の若手。
金髪で20代前半。リディアンに溺愛する妹がいるらしい。
最近、親友でもあった同期が目の前で死んだ。
名前の由来はG
(当初は寺井の予定だったが、「あっ、寺から始まる名字のやついるじゃん、ついでに兄妹設定足しとこ!」と寺井から寺島になった経緯があったり)