「悲惨だねぇ」
一人の学生服姿の少年がぽつりと呟いた。
癖のある短めの黒髪を掻きながら、青い瞳が目の前に広がる光景を眺める。
場所は田等院駅前に立つビルの屋上。
周辺は多くのビルに囲まれ、通勤や通学で人の往来が多い事から駅前には飲食店が立ち並ぶ。
何処にでもありそうな平凡そうな
それがあちこちシートで覆われて、急ぎ補修工事が行われていた。
レールは曲がり、枕木は折れ、高圧電線は千切れ、側面のコンクリートが砕け散っている。
砕けたコンクリートは下を通っている道路よりすでに撤去されているも、降り注いだ破片によって周囲に与えた傷や破損の跡が見受けられる。
「これがひったくり犯の足掻きってんだから、本当に
少年―――
よく二次創作小説などであった前世の記憶を持った転生者ってやつだ。
とは言っても別に神様に会った事も、チート能力を授かったなんて都合の良い事は無い。
ただただ前世の知識と記憶を持っているだけの
この世界は前世に比べて異常だ。
世界人口の約八割が何かしらの特殊能力を持ち、それを“個性”と呼んで社会に取り組まれている。
俺が生まれるずっと前はそうではなかったらしいが、中国で“発光する赤子”が生まれたのを皮切りに世界各地で“個性”を持つ人々が生まれ、現在の“超人社会”に成るまでに至ったのだとか。
これを聞いた時は恐怖を感じたね。
同年代の少年少女は個性をまるでアクセサリーのようにひけらかしたり、自慢したり、希望を持っていたようだが、前世がある分思考回路が出来上がっていた無一はすぐさまその危険性にも気が付いた。
個性は部類や用途によっては凶器となる。
しかも発現するまでどんなものかもわからないびっくり箱。
下手をすれば十代未満の子供が間違って人を殺してしまう可能性もある訳だ。
喧嘩となればカッとなって使用することだってあるだろう。
それ以上に手間も金も掛からない武器が身近にあれば、それを使って悪事に使おうとする者は必ず現れる。
法も人も万能ではなく、人の個性も性格も十人十色ですべてに対応する事なんて不可能。
その考えを肯定するかのように目の前の鉄道橋はひったくり犯が暴れた影響で被害を受け、夕方になっても路線の復旧が出来ていない。
どれだけの人に影響が出て、どれだけの被害額を被ったのか。
考えるだけでため息がまた出てきそうだ。
だからこそ“ヒーロー”が必要とされる。
個性を使用する“
コミックに登場するようなコスチュームに、悪を挫いて正義を成す。
解り易いヒーロー像を行く彼らは民衆に多大な支持をされ、世論に押される形で公的職業となった。
この田等院駅で起きた事件もヒーローとしての国家資格を取得した“プロヒーロー”二人の活躍により迅速に捕縛され、事件自体は即座に解決したのだった。
様々な理由でヒーローを目指す奴は多い。
ヒーローに成りたいと憧れを持つ者に金を稼ぎたい者、世間の注目を浴びたいやらヴィランをぶっ飛ばしたいなどなど。
俺とてヒーローを目指す者の一人で、無論ヒーローに成りたい理由もあるがその道のりは困難を極める。
なにせ彼は全人口の約八割より外れた二割内の存在。
超人社会にて特殊能力である個性を持ちえない“無個性”。
ヒーローは個性を悪用するヴィランと戦うだけではないが、戦う事の方が圧倒的に多いために命を危険に晒す。
誰もが口にするだろう。
無理だ、諦めろ…と。
でも無一はヒーローを目指す。
数少ない友人を
そしてとあるヴィランを自らの手で摑まえる為に…。
だから幼い時分から鍛え続けている身体を知識をより鍛えた。
個性がないから有るもので勝負するしかないのだから。
元々才能が有ったのか運動能力は高く、毎日怠ることなく研鑽を続けて目標に向かってただ進む。
おかげで友達と遊ぶ時間も限られて、友人と呼べるのは
「さて、そろそろ行くかな」
ただぼんやりと眺める為だけにタクシーで万札払ってここまで遠出しに来たわけではない。
今日は先の友人三名の内、二人と会うべくここまで来たのだから。
両親が亡くなって離れたから何年ぶりになるか…。
俺と同じく無個性ながらヒーローに強い憧れを抱き、前世の人生込みで精神年齢おっさんには眩しいほど眼差しを輝かせ、夢に希望を振り撒いて語ってくれた少年。
羨ましいほど強い個性を持つと同時に天性の才能に恵まれ、我が強く自分本位であるもヒーローを志す少年。
対照的な少年たちであったがそれゆえに記憶に残り、俺と良く接してくれた。
良い意味でも悪い意味でも…。
右腕に巻かれたごつい腕時計で時刻を確認し、待ち合わせに指定したレストランへと向かい始める。
懐かしく騒がしかった当時の幼馴染を思い浮かべながら。
偶然というものは本当に恐ろしい。
もう小学校以来会えていない友人に会おうと言うその日、僕―――
僕は無個性で個性を持っていない。
持っていても個性で人を傷つければ罪に問われる為、出来るのは小柄ながら自分なりに鍛えた肉体を用いた肉弾戦。
しかしながら襲って来たヴィランは身体がスライム状であり、打撃の類はまったくもって効きそうがない。
まったくもって相性は最悪な上に、襲われたところは人目に付きにくい頭上注意の看板が入り口に置かれた小さな橋の下で、この道は人通り自体が少ない。
最悪の状況でも必死に何か手はないかと思案しながら回避に専念する。
けど動きながら思案しても中々妙案は浮かばず、じりじりと体力と僅かな時間だけが消費されていくばかり。
そんな最中、マンホールから姿を現したのは“ナンバーワン”ヒーローのオールマイトだった。
安心感を与えるニッカリと力強い笑みを浮かべ、鍛え上げられた大柄な肉体がヴィランを殴らんと構え、振るった拳の風圧だけで液体状のヴィランをぶっ飛ばして捕縛した。
オールマイトは僕が一番好きなヒーローだ。
何者も何事も圧倒する力に、どんな状況でも笑顔を絶やさず、臆する様子など一切なく人々を救う最高のヒーロー。
まさに理想を形にしたヒーローに興奮し、僕もまたそんなヒーローになるんだと未来に想いを馳せた。
彼はただのヒーローではなく、その圧倒的な実力と存在自体がヴィランへの抑止力となっている事から“平和の象徴”と呼ばれているヒーロー。
忙しいのは理解しているつもりだ。
それでもほんのわずかな時間だったが邪険にされる事無くにこやかに言葉を交わし、サインまでしてくれた事は最高の時間だっただろう。
だけど僕はさらにその先を求めてしまった。
ナンバーワンヒーローの彼だからこそ聞きたい事があった。
こんな機会滅多にというかこの先ないだろう。
僕は必死に跳び去ろうとするオールマイトの脚にしがみ付き、案の定オールマイトを困らせてしまった。
悪い事をしてしまったという自覚はある。
憧れのヒーローに助けられるまでは恐ろしいほどの偶然だったが、自ら手を伸ばして先を掴んだのは偶然ではなくなった。ゆえに繰り寄せてしまった結果である。
「まったく危ないじゃないか」
周りのビルより高く飛翔したオールマイトは近場のビルに降り立ち、足にしがみ付いていた僕を安全に降ろしてくれた。
やはり急いでいるようですぐに去ろうとするのを大声で制止すると共に問いかける。
「個性が無い人間でも、貴方のようなヒーローに成れますか?」
問いかけて見たかった。
世界最高峰のヒーローはなんて答えるのか…。
そう問いかけると脚を止めたオールマイトは身体より煙を噴き出し、煙幕を張ったかのように視界が遮られ、晴れていく煙より姿を現したのは筋肉隆々の
自分で意図せずとも手繰り寄せてしまった結果は予想以上の話に脳が追い付かない。
体格は別人でも服装に髪型はオールマイトと同じ。
嘘だと思いながらも当人がそれを認めた。
否、認めてしまった。
見られたから説明する義務は無いも、事情がある為に実は知っている姿は力の限り力んで膨らましているだけで、今のがりがりの状態が本当の姿である事を語り出した。
その
衝撃過ぎる事実にもしこれを誰かに漏らせば“平和の象徴”として存在だけで犯罪抑止になっていた現状は崩れ去る。
絶対に漏らす訳にはいかない秘密。
古傷を見せながらそう語るのは知られたから事情を話して黙っていてくれと頼む為ではないだろう。
冷静になればすぐわかる。
最強と謳われるヒーローでもこのような大けがをするという事実を見せつける為。
すると続く言葉には見当がつく。
僕の問いに少し悩み、鋭い眼光が向けられた。
「プロはいつだって命がけだよ。“個性”がなくとも成り立つとはとてもじゃないが口に出来ないね」
あぁ、やっぱり貴方でもそう言うんですね。
ショックが無かったと言えば嘘になる。
けどそんな解かり切った事だったからこそ僕は受け入れられた。
幼い時分からヒーローに憧れた。
強くて、格好良くて、誰かを救えるヒーロー。
毎日毎日ヒーロー動画を見漁って、自分がヒーローになる未来を思い描いた。
中々発現しない個性に希望と夢を抱きながら日々を楽しみに過ごし、そして僕は夢見てきた瞬間が訪れる事無く、絶望の淵へと叩き落された。
―――無個性。
“個性”を持っている者は約八割。
残りの約二割は何の“個性”も持っていない人。
僕はその二割だったらしい。
『諦めた方が良いね』
皆が“個性”を発現させているのに未だ兆候すら見せない僕を心配してお母さんが連れて行ってくれた病院でお医者さんにそう言われた。
ピシリとナニカが罅割れた…。
『ごめんね出久…ごめんね…』
オールマイトの様なヒーローになれるかなとお母さんに聞いたら、
パラリパラリとナニカが崩れた…。
『“無個性”のくせにヒーロー気取りか
幼馴染でよく遊んでいた友達に笑顔でそう言われた。
バキリとナニカが砕け散った…。
僕はナニを勘違いしていたのかな。
虚無感と悲壮感に包まれた僕は何をするでもなし、ブランコにただただ腰かけていた。
「どうしたイズク?」
そんな僕に声を掛けてくれたのは
むーくんは幼馴染の中でも変わった子だ。
同い年なのに非常に落ち着いており、頭が凄く良くて、口は悪いけどその言葉一つ一つに芯があり、何処か惹かれる魅力を持っていて誰からも頼られる存在。
彼とは何度もオールマイト談義に誘って、ひたすらに話を聞いてもらった事もある。
嫌な顔一つせずに僕がヒーローに成りたい思いを聞いてくれる彼ならと口を開いた…。
「ぼく……ひぃろぉに…なれるかなぁ」
期待した。
彼なら言ってくれると勝手に信じた。
―――『無個性でもヒーローになれる』と。
それだけで良かった。
例えなれないとしてもそう言ってほしかった。
慰めて欲しかった。
励まして欲しかった。
何でも良いんだ。
僕は失ってしまいそうなナニカに縋れる一言を欲した。
「知らんがな」
予想だにしなかった言葉…。
いや、解かり切っていた言葉に僕は項垂れた。
そうだよね、やっぱり…と無理にでも納得させようとした僕の頬は左右より抓られ、無理やりに顔を上げさせられた。
「詳細を言わずにいきなり聞いて、一人で唐突に終わらせんな。話してみ?まずはそれからだろ」
医者の先生はただ淡々と…。
母さんは申し訳なさそうに…。
友達は嘲笑うように…。
けどむーくんは優しい瞳でしっかりと僕を見てくれた。
とめどなく感情が涙となって溢れ出し、泣き喚くように喋った。
途中途中相槌を打ちながら聞き終わると何度か頷きニンマリと笑う。
「ある人が言いました―――望みの大きさに合わせて身の丈を決めてやる――と。
確かに無個性ではイズクが憧れている超絶パワーで人々を救うオールマイトみたいには成れないだろう。だけど、イズクはオールマイトに成りたいわけじゃあるまい?ヒーローに…誰かを救う
「…
「プロヒーローという
正直難しい話だと当時の僕は思う。
けれどむーくんが語り掛けると何故かすとんと耳に入って来る。
いつの間にか涙は止んで、僕は頷きながら聴き入ってしまっていた。
「個性がないなら他でカバーしろ!イズクには両親から授かった立派な身体があるじゃねぇか!覚悟を決めろ!自身を奮い立たせろ!本気で
心が震えた。
諦めろと正しくも辛く悲しい現実を突き付ける訳でもなく、傷ついた傷心の心を癒やす慰めの言葉でもない。
現実を理解した上で僕を奮い立たせようとする言葉と彼の強い想い。
崩れかかった想いに焔が灯った…。
先ほどまで冷めきっていた身体に力が、想いが、希望が、熱が籠る。
そんな僕と対照的にむーくんは一息ついて頬を掻きながら、困ったように眉をハの字に曲げた。
「…とまぁ、偉そうなことをべらべら喋ったが決めるのはイズクだ。今までの夢を諦めて新しい目標に進むも良し。今までの夢を死に物狂いで掴もうとするのも良しだ。人としてはどちらを選んでも間違いじゃない。ただ後者を選ぶのであれば厳しい道のりだな」
最後に悪戯っぽく笑む。
籠った熱に僕は立ち上がり、一歩前へと踏み出した。
「じゃあ、ぼくもひーろーに…」
「今さ“じゃあ”つったか?」
「い、いってないよ」
「だったらなんて言ったんだ?」
大きく息を吸い込む。
今の僕の想いを告げるんだ。
「僕はヒーローに成ります。無個性でも貴方のように誰かを救えるヒーローに!」
しっかりと自信を持ってオールマイトの目を見て告げた。
“とてもじゃないが”と言った。
それは絶対に無理と断言する言葉ではない。
限りなく無理に近いが出来ない事はない。
僕はそう捉えた。
これは大きな壁なんだ。
ナンバーワンヒーローが言うんだからそれは非常に高い壁なんだろう。
ヒーローを目指すのならばそれさえも越えなければならない。
…というかここで弱音を吐いたらむーくんに蹴り入れられそうだし…。
もっと頑張らなくちゃと意気込み、オールマイトに頭を下げてむーちゃんとの待ち合わせ場所に向かうのであった。
グラントリノという老齢のヒーローが居る。
国家資格を持つプロヒーローであるもその認知度は非常に低い。
ヒーロー活動を行う者の中にはメディアへの露出を嫌う者も居るが、グラントリノはそういうのではなくヒーロー活動事態にあまり興味がないのだ。
―――と、いうのもある人物の頼みで雄英高校学生時代のオールマイトを鍛えるのに、個性使用許可が必要だったから取っただけという理由があり、同時に鍛えるにあたって雄英教師として勤める必要もあって教師としての資格も持っている。
現役時代と呼ばれる若い頃は逞しい肉体と自身が吸い込んだ空気を圧縮して足の裏の噴出口から噴き出す【ジェット】という個性を用い、屋内外問わずに縦横無尽の目にも止まらぬ速さで飛び回り、速度と肉体を生かした格闘能力はかなりの戦闘能力を発揮した。
それも今や昔…。
年老いたグラントリノの逞しい体躯は小柄となり、本気で個性を使用すれば腰を痛める等身体にガタがき始めている。
ただ衰えていてもその速さと攻撃力は現役のプロヒーローにも劣らない。
さすがは学生時代とは言えオールマイトにトラウマを植え付けたヒーローとでもいうべきか。
そんなグラントリノは電車とタクシーを乗り継いで、大きな屋敷の客間にて腰を下ろしていた。
家の持ち主は
彼もまた老齢のプロヒーローであるもその身体つきはグラントリノと比べて対照的に逞しいままだ。
身長は二メートルを超えた身体は上着の上からでも筋肉隆々な事が伺えるほど逞しく、ヒーロー活動の最中にヴィランより受けた古傷が左瞼から顎まで残り、鋭い眼光は居るだけで周りに圧を加える威圧感を放つ。
ヒーローというよりヴィランと見間違う見た目で子供に会えば泣かれ、大の大人と通り過ぎればあからさまに怖がられ、警察官と顔を合わせれば職質をかけられる始末。
何の因果かお互いに現役時代にオールマイトを通して出会った二人は、今でも交流を続けるような仲になっていた…。
「で、何の用だ?儂をここまで呼び出しておいて」
「いや、少し相談したい事があって…な」
無意識に放っている圧がふわっと揺れ、頬を掻きながら目の前の大柄の老人は悩んでいるようだ。
二人が挟んでいるテーブルに胴着姿の青年がお茶と山のように積まれた饅頭とたい焼きを乗せた皿を置いていく。
流拳はプロヒーローでありながら道場を運営しており、そこの代表兼師範代として約五百を超える弟子を持つ。
その弟子の一人がお茶とお茶菓子を置いて客間を退室すると一枚の写真を取り出した。
「孫の件なんだけどな」
「…儂は帰る」
「まぁ、待てって」
悪人面が孫が映る写真を手にした瞬間にふにゃりとだらしない笑みを浮かべる。
こいつは真面目で寡黙なのだと周知されているも、実際の大半はそうであるも孫の事になると普段とはかけ離れただらしなさが目立つようになり、彼の孫自慢に付き合うと日が傾くどころかまた上がって来るぐらい熱弁するのだ。
またかと友の悪癖にため息を漏らして立ち上がると必死そうに止めに来る
「真面目な話なんだろうな?」
「無論だ。実は孫の…無一の将来の事でな…」
「あのクソガキか…」
名前を聞いて再びため息を吐き出す。
扇動 無一とは何度か訪れた中で知り合い、流拳に直に自慢されたりで何度も顔を合わせている。
子供らしからぬ子供。
大人のような子供。
大人しいと言えば聞こえがいいが、幼いながらに完成された人格と性格を持つ異端児。
その上で性格は捻くれていると来れば生意気というものだ。
流拳にとっては自身を恐れる事無く接してくれる唯一の子供という事もあって一番可愛がっている。
ただ環境を考えれば別に可笑しくはないのかも知れない。
元々扇動家というのは数多くのヒーローを輩出しているヒーロー一族であり、無一の両親もある程度名の知れたプロヒーローであった。
周りは無個性の無一を“期待外れ”やら“落伍者”と嘆いて陰口を叩いていたが、彼の両親は腫れ物に触れるような接し方はせずに、純粋な愛情を注いでヒーローとしての有り方を熱心に説いた。
本当に仲の良い家族だったと流拳から聞いている。
それがある日崩れ落ちた…。
プロとしてヒーロー活動していると身の危険は当然ながら訪れる。
活動中ヴィランと遭遇し、幼い無一を残して彼らはこの世を去った。
元々正義感の強い子だったと聞く。
その事もあって彼は辛い訓練に励み続けた。
おかげで今では毎年表彰されるほどの肉体能力を得て、流拳の数多くの弟子達と渡り合えるほどの実力者となった。
「儂の天使になんてことを!?」
「天使って柄か?…何でもいい。無一がどうかしたのか?」
「それがの…ヒーローになりたいと言うんじゃ」
「ヒーローにか」
それは確かに悩むところだろうな。
孫を可愛がる流拳とすれば孫の願いを叶えてやりたいも、危険な目に合うかもとなれば話は別か。
個性が無いだけでその他はヒーロー向きだと思いはする。
運動能力が非常に高い事もさることながら学業の成績も優秀で、それだけでは飽き足らないのか悪知恵も良く働く。
捻くれているも人を思いやる心を持ち合わせており、幼くして我が身を犠牲にして他者を救うという“自己犠牲”の精神を持ち合わせている。
さらに努力家で戦闘技術と肉体能力の向上を図り、救助や応急手当などの学習を自ら学んだりと勤勉。
その学習の成果か中学時代には人命救助をし、多くのニュースで取り上げられた事もあって表彰もされた。
本当に惜しい存在だ。
個性抜きでヒーローになれるとグラントリノは口が裂けても言えない。
もう少し性格が捻くれて無ければオールマイトに紹介しても良かったんだがな…。
ここで否定するのも肯定するのも簡単だが、それのどちらが正解なのかと問われれば答えは永久に出ないだろう。
未来ある若者の人生を左右するというのは非常に重い。
だからこういう場合は任すに限る。
ある意味冷たく逃げに近いかも知れないが、無一の人生なのだからそれは無一本人が決めるもの。
「奴の思うがままにさせてやれば良いだろう」
「しかしだなぁ…」
「アイツは考え無しに動く人間ではないだろう。何か聞かれたりしたら答えてやるぐらいでちょうどいいんだ」
「でもなぁ…」
「それにお前さんの孫だろ?問題ないだろうさ」
「だよな!儂の孫だもんな」
最後のは後押しのつもりだったのだが、失言であったと気付いた時には時すでに遅し。
大興奮の爺さんによる孫自慢トークが炸裂し、半ば諦めつつ冷めないうちにたい焼きを口にするのであった…。
望みの大きさに合わせて身の丈を決めてやる
【ストレンヂア 無皇刃譚】虎杖 将監より