無個性オリ主が共にヒーロー目指す!   作:チェリオ

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第10話 戦闘訓練《緑谷vs爆豪》

 “ヒーロー基礎学”

 ヒーローとしての基礎や現場で培われた経験から得た様々な訓練を行い、生徒達の素地を作り上げるヒーロー科ならではの科目。

 誰もが憧れ目指している夢へ至る授業であると同時に、記念すべき最初の授業を受け持つのが実力・人気共にナンバーワンのオールマイトであるという事、さらに形からという事で着替えた自身で考えたコスチュームを着るとなれば興奮を隠す事は出来ないだろう。

 

 ただ麗日 お茶子は半面で恥ずかしさを味わっていた。

 入学前に個性届と身体情報を提出し、要望を添付する事でなるべく沿う形で最新鋭のコスチュームを学校専属のサポート会社が用意してくれる被服控除というシステムがある。

 雄英高校ヒーロー科の生徒は(約一名を除く)利用しており、麗日自身もこのシステムを利用してコスチュームを得た。

 …得たのだが要望をしっかりと書かなかった為に身体情報通り(・・・・・・)に仕上がってしまい、身体のラインがはっきり解ってしまうパツパツのコスチュームが届いてしまったのだ。

 恥ずかしいなと思いつつも着替えを済ませて指定されたグラウンド・βに集まると、入試の実技試験以来仲良くなった緑谷 出久を見つけて駆け寄る。

 

 「あ、デク(・・)君!?格好良いね。地に足ついた感じ!」

 「麗日さぁ…んんッ!?」

 

 緑色のジャンプスーツに膝や肘を保護するサポーター、厚手の靴と手袋にオールマイトの髪型と笑みを模したフルフェイスマスクのコスチュームを着ていて、ぶんぶんと手を振りながら近寄ると振り向いた途端に膠着された。

 その様子に自分のコスチュームを思い出し、恥ずかしさから頬を赤らめる。

 

 「要望ちゃんと書けば良かったよ…パツパツスーツんなった」

 

 お互いに顔を赤らめていると黒基準の全身を覆うコスチュームを着込んだ扇動 無一が疑問符を浮かべながら近づいてきた。

 

 「満面の笑みでデク(蔑称)って――苛めか?それとも苛められるのが快感になったのかイズク」

 「どっちも違うよ!?」

 

 どちらも大慌てで否定する緑谷と扇動のやり取りを眺めながら麗日は一人納得する。

 昨日の帰り道で“デク”と爆豪より呼ばれていた事からデクという名前なのだと勘違いして呼び、それが出久と木偶(デク)の棒を掛けた蔑称である事を知ったのだ。

 幼馴染でその事を知っている扇動からすれば爆豪だけでなく、他からも蔑称で呼ばれていたら苛めが広がっているとも思えるだろう。

 けどそうではない(・・・・・・)のだ。

 緑谷にとって「でも“デク”って“頑張れ!!”って感じでなんか好きだ私」と思いもしなかった好意的な言葉を掛けられた事で、自身を卑下する蔑称である“デク”がまた違うものに変わってどれだけ救われたか…。

 その事を伝えようとするも言葉が組み立てられずしどろもどろに口から零れ出る。

 

 「麗日さんはその…蔑称だった“デク”に違う意味をくれたって言うか……」

 「あー…うん、そのニヤケ面で大体察した。すまないな、勘違いして」

 「ううん、デク君の事を知っていたらそうなるよね」

 「いらぬ心配だったけどな。それにしても君は凄いな。言の葉一つで陰を陽に変えてしまうんだから」

 「イン?ヨウ?」

 「心根の優しい子に巡り合えてよかったなイズク。その縁は大切にしとけよ」

 

 最後に邪魔したなと零してひらひらと手を振りながら扇動は離れていく。

 残された緑谷はそんな様子に苦笑し、麗日はコテンと首を傾げる。

 

 「いつもあんな感じなん?」

 「そう…だね。昔と変わらないかな」

 「さぁ、始めようか有精卵共!戦闘訓練のお時間だ!!」

 

 全員が集まった事で授業を始めようとオールマイトの声が響き渡る。

 集められたグラウンド・βは入試での実技試験で使用された市街地演習場。

 ゆえに実技試験を受けた一般入試組は同様の訓練かなと思い、フルプレート(全身鎧)のようなコスチュームの飯田が率先して質問をする。

 対して返ってきた返答は違った。

 屋外ではなく屋内での対人(・・)戦闘訓練。

 街中で見かけるヴィラン退治というのは屋外での活動が目立つも、実際は屋内での事件の方が圧倒的に多い。

 なので本日の訓練は“ヴィラン組”と“ヒーロー組”に分かれて2対2の攻防戦を行うとの事。

 基礎訓練も無しにと不安の声も漏れるも、それを知るためにぶっ飛ばせば良いだけのロボではない対人戦を行うとナンバーワンヒーローに言われれば、納得しざるを得ない。

 …と、ここまで説明がされると八百万が軽く手を上げ、質問を口にすると次々と皆が問いかけ始めた。

 

 「勝敗のシステムはどうなります?」

 「ぶっ飛ばしてもいいんスか?」

 「また相澤先生みたいな除籍はあるんですか?」

 「分かれるとはどのような別れ方をすれば宜しいですか?」 

 「このマントヤバくない?」

 「んんん~聖徳太子ィイ!!」

 

 一斉に巻き上がる質問の嵐にさすがのオールマイトも対応仕切れない。

 口から出たのもどれかの解答ではなく、十名の訴えを一斉聞き分けた逸話を持つ人物の名前…。

 現場では百戦錬磨の教師としては新米。

 元々のおおらかで優しい性格もあって相澤のように圧を放つこともなく、空気感は良くも悪くも緩んでしまっている。

 

 「…なぁ、まだ説明の途中だろ?最後まで聞いてから質問しようや」

 

 ゆえに扇動のため息と呆れが混じった注意によって少しばかり場が締まる。

 注意を受けた皆は黙ってオールマイトの説明の続きを待つ。

 状況設定としては“核兵器(・・・)”を隠し持つヴィランのアジトへヒーローが向かうというもの。

 ヒーローは制限時間内にヴィラン二名を捕まえるか核兵器の回収。

 ヴィランは制限時間が過ぎるまで核兵器を護るか、ヒーローを捕まえるのが勝利条件となる。

 相手を判定的に(・・・・)“捕える”には訓練開始前に配られる確保テープで巻く必要がある。 

 組み合わせはくじでランダムに決まる事に対して、緑谷は状況次第では他のヒーローと急遽チームを組む事を考えての事だろうとの推測(勘違い)を口にすると、皆がなるほどと関心を抱くもオールマイトは力強くも何処か焦りと申し訳なさの混ざった声で先に進めようとくじの入った箱を手にした。

 “A”のくじを引いた麗日は緑谷とチームを組むことになり、仲の良い相手と組めたことを喜ぶ。

 

 「頑張ろうねデク君!」

 「う、うん。頑張ろうね」

 「まずは建物の見取り図覚えないと。それにしても相澤先生と違って除籍とかないみたいで安心したよ――って安心してないね!!」

 

 組と対戦相手が決まるとすぐさま第一戦目となったヒーロー側の“A”と、ヴィラン側の“D”を引いた面々は別々に訓練会場として指定されたビルへと向かう。

 建物の見取り図を眺めながら声を掛けるも、全然大丈夫そうではない様子。

 

 「その…相手がかっちゃんだから身構えちゃって」 

 「爆豪君って馬鹿にしてくる人だっけ…」

 

 “D”は飯田とその爆豪のチームでデクが蔑称だと軽い説明を受けた際に、爆豪との関係を多少聞いていたので不安そうにする反応に納得する。

 …が、不安がっていたのも僅かな時間だけで、すぐさま何かを決意した強い意志を瞳に宿していた。

 

 「嫌な奴だけど凄いんだ。個性も身体能力も僕の何倍も…―――でも今は(・・)負けたくないんだ」

 「男の因縁ってやつだね!」

 「あ、いや…ごめんね。麗日さんには関係ないのに…」

 「あるよ!コンビじゃん!!頑張ろう!!」

 「―――ッ!!」

 

 先の雰囲気を払拭して道ながらに作戦を話し合い、正面の玄関からではなく窓から侵入する。

 訓練がスタートするのはヴィランチームが核兵器の設置場所などをセッティングする事を考えて、五分後にヒーローチームが潜入した時。

 お互いに周囲を警戒しつつ、緑谷を先頭に探索しつつ先へ進む。

 

 ナニかが視界を遮った。

 それが何だったのかを確認するよりも先に麗日は、振り返りながらも跳んだ緑谷によって庇われたまま地面を転がる。

 通路に響く爆音に肌を掠めた熱気と風圧。

 確認するまでもなく理解しつつ、顔を上げるとマスクの半分が破れている緑谷の顔が視界に映る。

 

 「麗日さん大丈夫!?」

 「うん、ありがと…ってデク君、顔!」

 「掠っただけ。まだ(・・)大丈夫」

 

 我が身の心配よりも先に人の心配をしながら、奇襲をしてきた爆豪(・・)から目は放さない。

 ビルまでの道中の話で爆豪が狙ってくると予想を聞いていただけに、混乱する事はなく寧ろ予測通りな実情に感嘆する。

 

 「避けてんじゃあねぇぞクソナードが」

 「かっちゃんならまず僕を殴りに来ると思った!」

 

 緑谷に向けられているとは言え放たれる敵意にブルリと身を震わす。

 怯えながらも立ち向かおうとする背を頼もしく感じながら、立ち上がっていつでも動けるように少し離れる。

 

 「中断されねぇ程度にぶっ飛ばしたらぁ!!」

 

 目を大きく見開き、血走った瞳孔を向けながら大ぶりの一撃をかまそうとする爆豪に対し、避ける事も防ぐ動作も見せずに緑谷は突っ込んだ。

 大きく振り被った大ぶりの右手を両手で掴み、右足を一歩前へ踏み込む。

 そしてその右足を軸にして左足を滑らせて爆豪に背中を向ける。

 相手の腰辺りを背に乗る感じで持ち上げ、掴んだ右手を思いっきり前へと引っ張る。

 柔道の一本背負い投げ。

 予想しなかった反撃と自らの勢いをも利用された事で、ダメージは大きく背中から叩き付けられた痛みから短く声を漏らす。

 

 「凄い!達人みたい!!」

 

 まるでドラマや映画のような魅せる動きに思わず叫んでしまった。

 叩き付けられた爆豪は扇動との喧嘩の癖で(・・)、距離を取りながらすかさず立ち上がり…二重の意味(・・・・・)で怒りを露わにした。

 

 「読んでやがったなぁ……クソデクがぁ!!」

 「どれだけ見て来たと思っているんだよ…凄いと思ったヒーロー(・・・・・・・・・・)の分析は全部ノートに纏めてるんだ!いつまでも“雑魚で出来損ないのデク”じゃないぞ…。僕は―――“頑張れって感じのデク”だ!!

 

 爆豪に対する布告と同時に決意を咆哮に乗せて叫ぶ。

 その決意に麗日は目を見張り、爆豪は苛立ちを募らせる。

 

 「黙って守備してろや!俺ぁムカついて―――」

 「行って麗日さん!!」

 

 爆音が響くも状況が解らない飯田からの無線に答えた僅かな隙。

 言われるがままに駆け出す。

 高い速度を誇る飯田に爆破という戦闘向きの個性に身体能力自体も非常に高い爆豪。

 二人が揃った場合、緑谷と麗日では勝算は少ない。

 かといって二体一で挑んでもそう簡単に勝てる相手ではなく、良くてもかなりの時間を消費してしまうし最悪二人共やられる可能性がある。

 ゆえに緑谷が囮になって固執する爆豪を引きつけ、麗日が飯田が護っているであろう核を確保する事にしたのだ。

 

 核捜索の為に駆け出した麗日の背後で緑谷に飛び掛る爆豪は、爆破の反動を活かして強烈な蹴りを頭部に喰らわせようとするも、個性把握テストで見る事が出来たイレイザーヘッドの技を模して確保テープで引っ掛けて(巻くほど余裕はない)防がれた。

 咄嗟に右の大振りを振るうも情報を蓄積していた緑谷に読まれて呆気なく避けられ、目も向けてなかった麗日どころか固執していた緑谷にまで見失ってしまう。

 

 「待てコラ!逃げてんじゃあねぇぞデク!!」

 

 遠くから響く怒声に上手くいったんやねと安堵しつつ、麗日は勝つために上への階段を駆け上がるのだった。

 

 

 

 

 

 

 緑谷と爆豪の対決を同ビルの地下にあるモニター室で見ていたオールマイトと一年A組の面々は、始めから目を見張る戦闘訓練の様子にそれぞれ抱いた感想を口々に話し合ってわいやわいやと盛り上がる。

 蛙吹 梅雨も同様に眺めていたのだけど、会話に入らずに部屋の隅へと目を向けていた。

 そこには室内の騒ぎを微塵も気に掛ける事無く、一人離れた席に腰かけた扇動 無一がマスクを外して真剣にモニターの映像に目を通していた。

 皆から離れた所に腰かけた事と眺めている様子から邪魔されたくないのだろうと、声を掛けないでいたのだけど芦戸 三奈は気にせずスタスタスタと近づいて行った。

 

 「さっきまでの戦いを振り返ってどう思いますか?解説の扇動さん」

 「いきなり振って来たな」

 「だって扇動ってば一人だけ皆と離れてカヤの外だったんだもん」

 「まったく二人から(・・・・)の気遣い痛み入るよ」

 「ケロッ!?」

 

 気付いていたらしい扇動が蛙吹にも微笑みかけ、驚いて声を漏らしてしまった。

 その様子に芦戸がニヤリと笑みを浮かべた事ですかさず話を進めようと口を開く。

 

 「扇動ちゃんはどう見てるの?」

 「正直微妙としか言えんな」

 「え?緑谷の方が優勢じゃないの?」

 「今のところは…だな」

 

 以前訪れたケーキ屋のように面白半分の話題にされずに済んだことにホッと胸を撫でおろす。

 爆豪の奇襲から麗日を咄嗟に護り、相手の攻撃を利用して投げ飛ばす様などアクション映画のようで、誰もが驚きと感嘆の声を漏らしていただけに、扇動の悩ましそうで重い口調に疑問を浮かべた。

 

 「昔っからあいつは情報の分析能力は高かったんだよ。俺と爆豪が喧嘩した後なんかノートにびっしりと書き込んでさ」

 「よく喧嘩してたの?」

 「あぁ、爆豪とは何度も。……で話を戻すが、戦闘が有利に運んだのはイズクの情報分析による予測と爆豪の油断によるものが大きい」

 「けど情報分析が得意なら爆豪の攻撃とかなんとかなるんじゃない?」

 「それはない。爆豪は粗暴で自分勝手で口が非常に悪く、誰彼構わずガンを垂れたり悪態を撒き散らして乱暴な奴だけど馬鹿じゃない」

 「…扇動ちゃん。それ普通に悪口よ」

 

 突っ込みを入れるも入学二日目にしてその様子はクラス内に知れ渡っており、誰一人訂正しない素振りすら見せない。

 寧ろ納得しているものの方が多く、蛙吹もまた否定できないのであった。

 

 「爆豪にとってイズクは苛めの対象であり、自身と比べて完全に格下と舐め切っていた。贔屓目なしに言っても爆豪は天才だ。努力をすることなく大抵のことは難なく熟す天性の才能を持っている。ゆえにそれは致し方ない事だろ俺は思っている。だけど今の奴は手痛くやられたことで本気でぶちのめそうとするだろう。どんな手を使ってでも……な」

 「それって大丈夫なの?」

 「多分だいじょばない。運動神経も頭も良くて勘も冴えている。そして喧嘩慣れしている分、人を攻撃することに対して躊躇いがない。そんな相手が本気になるんだ。不味いに決まってるだろ」

 「じゃあ緑谷じゃあ爆豪に勝てないって事?」

 「それはイズク次第としか言いようがない」

 「ならお茶子ちゃんが核を確保するしかないわね」

 

 これはチームでの戦闘訓練であって、個人戦ではない。

 爆豪と緑谷のどちらが勝とうとも、核の状態如何では勝敗は異なる。

 けれど扇動は渋い顔を浮かべた。

 

 「かなり難しいぞソレ」

 「そんなにかな?」

 「麗日の“無重力(・・・)”なら触れたら触る事さえ叶えば(・・・)どうにでも出来るけど天哉は速度特化の個性。狭い一室でも触れる事は出来まい」

 「確かにそうだけど無視して核を…」

 「八g…オールマイト先生。あの核は持ち運び可能?」

 「勿論可能さ。見た目だけのハリボテだからね。片手でも上げれるよ」

 「個性把握テストの様子から麗日の個性も予想(・・)している天哉は近づかれたくないだろうし、防衛という事から核を持ったまま逃げ回れるのが最良だろうな。なにせヴィラン側は時間さえ潰せば良いんだから」

 「あー…そう考えたらヒーロー側は難しいかぁ」

 「それにしてもお茶子ちゃんの個性って“無重力”なのね」

 「多分な」

 

 渋い顔の理由に納得する中、麗日が無重力であると知った蛙吹は口にするも、情報源である扇動より不確かな言葉が漏れ出た。

 小首を傾げると個性把握テストでボールを浮き具合と、宇宙服を連想させるコスチュームから予想したのだという。

 

 

 「そういえばあの二人喧嘩しているようにも見えたのだけど」

 「見えたじゃなくて喧嘩してたなぁ」

 「授業中なのに…」

 「良いじゃないか。変にため込むより感情のままにぶつかり合うなんて餓鬼らしくて」

 「友達が喧嘩してたってわりには嬉しそうね」

 「そりゃあ嬉しくて仕方がないんだよ梅雨ちゃん。だって今まで立ち向かうも恐怖で震えていたイズクが“凄い人”と嫌いながらも憧れていた相手に挑む。これは大きな一歩だろ?」

 「扇動ちゃんって緑谷ちゃんの事好きよね」

 「残念。爆豪もだよ」

 「あれだけ悪口を並べたのに?」

 「中々居ないから。ああやって妥協せず自身を貫こうする奴って」

 「…妥協?」

 「生きていれば様々な事で妥協するだろ?

  人間関係や日常生活、仕事などetc.etc.…。

  自身を貫いて生きて行くなんて周囲との軋轢も考えたら出来るもんじゃないし、息苦しさも生き辛さも大なり小なり生じる。

  だから多くがこれぐらいでいいやと妥協して生きている。

  けど爆豪は自分を貫こうとする。

  気に入らないなら真正面からぶつかり、目指すものがあるなら立ちはだかる壁をぶっ壊してでも突き進む。

  オールマイトを超えるヒーローになるという大言(・・)を吐き、己を鼓舞して完璧主義ゆえに断固として夢を目指す。

  アイツのそう言う所が好きなんだな。

  正直言って憧れすら抱いてるよ。

  …ただ周囲に対する荒々し過ぎる言動の数々は問題だけどな」

 

 しみじみと聞いていたが、最後の一言で皆が頷きながら苦笑する。

 そうこうしていると飯田が護衛をしている核を配置した部屋に麗日が足を踏み入れ、核を巡る交戦状態に突入。

 攻め切れない麗日に防衛と逃げに専念する飯田の攻防を繰り広げていると、一階を映し出しているモニターに緑谷と爆豪が接敵し、再開される二人の戦い(喧嘩)に皆の視線が集まる…。

 

 

 

 

 

 

 アイツは道に転がっているだけのただの石っころだった…。

 ボツ個性どころか個性が無い無個性で、なにをしても上手く出来ない鈍臭い。

 個性発現前は俺の後ろを付いて回り、発現後は扇動の後ろを付いて回るだけ…。

 努力と鍛錬を重ねて渡り合ってくる扇動とは違って凄くない奴(・・・・・)

 なのにいっちょ前に正義感とかは強く、何も出来ねぇ癖して苛めを目撃するとしゃしゃり出て…。

 昔から気に入らなかった。

 

 最近は特にそうだ。

 生意気に反抗するようになったり、俺もスゲェと思ってしまう個性を持っていたのを黙っていたりと何もかもがムカツク。

 苛立ちが増して怒りで煮えくり返りそうだ。

 動きを読まれて投げられた事やデク如き(・・)を警戒して離れた自分に対してもだが、それ以上にアイツが個性を使わない事が何より気に入らねぇ…。

 

 「なんで個性を使わねぇんだデク?」

 「かっちゃん!?」

 

 逃げ回りやがったデクをようやく見つけた。

 表情に不安を浮かばせながらも歯を食いしばってこちらに対峙する様は、滑稽で健気ながら俺の神経を酷く逆なでしやがる。

 怒りながらも思考は冷静なまま、右腕をデクに向ける。 

 

 「俺には個性を使うまでもねぇって相手って事かぁ?」

 

 俺の個性“爆破”は掌の汗腺よりニトログリセリンのような性質を持った液体を分泌し、それを発火する事で爆発を引き起こす個性。

 コスチュームにはその性質を活かす要望を出しており、腕部に装着している手榴弾を模した小手にはソレ(・・)を蓄積するようになっていて、安全ピンを抜けば溜まったソレラを放出する仕組みとなっている。

 

 『爆豪少年ストップだ!殺す気かっ!!』

 「当たんなきゃ死にゃしねぇよ!!」

 

 少量でも結構な爆発を起こせるのに小手いっぱいに蓄積され、放出口の一点から放たれる威力は相当なもの。

 それを知っているオールマイトが制止の声を掛けるが、無視して安全ピンを引っこ抜く。

 放たれた蓄積物は爆発となって放たれ、周囲を熱風と煙で満たす。

 

 「“個性”を使いやがれデク…全力のテメェをねじ伏せる!!」

 

 個性を使わず戦うなんて、俺を舐めたような事はさせねぇ。

 奴が使用した上で俺の方がスゲェと教え込んでやる。

 大規模な爆発により周囲の壁は罅割れ、正面の壁には大きな穴が空き、デクはそのすぐ横で震えながら無線をしながら立ち上がる。

 

 「あぁ…ムカつくな!俺を無視か!」

 『爆豪少年。次にそれ(・・)を撃ったら強制終了で君らの負けとする。屋内戦にて大規模攻撃は相手だけでなく自分達へも被害をもたらす愚策だ!大減点だからな!!』

 

 小さく舌打ちしながら苛立ちを隠さず、ならばと爆破を起こして接近戦に持ち込む。

 完膚なきまでぶちのめしてやる。

 

 速度を上げて接近する爆豪は触れるか触れないかの寸前で爆破を起こし、方向を変えて緑谷の頭上を飛び越える。

 真ん前での爆破により熱風と煙により視界を遮断され見失い、気付く間もなく背後に回った爆豪からの一撃をもろに喰らってしまう。

 爆破による衝撃は態勢を崩し、発生した熱は肌を焼く痛みを与える。

 悶える隙を逃さずに小手を使った大ぶりの一撃を当てると同時に、右手を掴んで爆破で強化した遠心力を利用して地面に投げつけた。

 連続する痛みに悶えながらも転がりながらも立ち上がった緑谷は距離を取る。

 恐怖や怯えを宿しながらも今だ闘志を失ってない瞳を向けて…。

 

 「ここまでして…ここまでされてなんで個性を使わねぇんだ!!俺を舐めてんのか!?ガキの頃からずっとそうやって…」

 

 脳裏に過るのは何人かと遊んでいて、足を滑らせて浅い川に落ちた時の事。

 怪我も痛みもなく、なんともなかった俺をデクだけは心配そうに手を伸ばして来やがった。

 (凄い奴)デク(凄くない奴)に心配される謂れはねぇんだ!

 

 「俺を舐めてたんかテメェは!!

 「違うよ!君が凄い人だから勝ちたいんじゃないか!!―――勝って越えたいんじゃあないかバカヤロー!!」

 「その面止めろやクソナードが!!」

 

 気に入らねぇ……気に入らねぇよ!

 涙を流してビビりながらも向かってくるアイツが!!

 

 爆豪は掌をバチバチと爆破させながら、緑谷は個性の発動により右袖を吹き飛ばしながら大きく振り被り、互いに狙い(・・)を付けて接近する。

 

 『双方中s―――』

 「行くぞ麗日さん!!」

 

 怒り一色に染まる中、オールマイトとデクの声が微かに耳に届いた。

 それが何なのか理解することなく怒りのまま思いっきり爆破を浴びせる。

 僅かに遅れてデクの拳が振り上げられる(アッパー)は、狙いが甘く(・・・・・)俺には当たらねぇ位置だ。

 

 …そう思い込んで(・・・・・・・)しまった…。

 

 DETROIT(デトロイト)―――SMASH(スマッシュ)!!

 

 振り上げられた拳による発生した風圧は、緑谷に向けられた爆発を吹き飛ばし、天井に次々と風穴を開けて屋上にまで到達した。

 あまりの威力と出来事に驚きと怒りが込み上げて混ざり合い、言いたい事が出て来るもはっきりとした言葉にならず口から漏れ出す。 

 

 「そういう…最初(ハナ)っからテメェは…やっぱ舐めてんじゃあ…」

 「使わないつもりだったんだ。身体が耐えきれなくて使えないから…。だけど…これしか…思いつかなか…った…」

 

 爆破と使い切れていない個性のダメージが限界に達した緑谷は、それだけ言い切るとその場に倒れ込んだ。

 その直後に無線を通じてヒーロー側が勝利した事を伝えられるも、爆豪は呆然と立ち尽くしたまま動かない。

 

 動きを読まれ、俺と戦いながらも訓練で勝利する算段を付けながら動いていやがった。

 認めたくねぇ……けどこれは完全に俺がデクに…。

 

 呆然として動かない爆豪は迎えに来たオールマイトに肩を叩かれるまでその場を一歩も動く事は出来なかった…。

 

 

 

 

 

 AヒーローチームとDヴィランチームの戦闘訓練は、アジトに設定した四階建てのビルを大きく破壊する出来事も起こったが、ヒーローチームの勝利で決着がついた。

 核を巡っての飯田少年と麗日少女の攻防戦は相手の個性を警戒して室内を念入りに片付け、速度を活かした防衛に徹した飯田少年に軍配が上がっていた。

 あのまま何事も無ければ間違いなくヴィラン側の勝利だったはずだ。

 けどもそこは機転を利かした緑谷少年の渾身の一撃によって覆された。

 連携が取れていなかったDチームと違い、連絡を取り合って互いの状況を知らせ合っていたAチームは、核が配置されている階層と位置を互いに把握しており、それを元に爆豪少年を惹き付けながら核のある部屋が頭上になるように移動した緑谷少年は、一階から四階までの天井をぶち抜いたのだ。

 情報が伝わらない飯田少年はいきなり床と天井がぶち抜かれたことに驚き、知らされていた麗日少女は発生した瓦礫を散弾のように個性で飛ばして一時的に飯田少年の動きを止め、隙をついて自身を浮かして核に触れて確保したのだ。

 

 その結果と内容を含めて迎えに行っていたオールマイトは今戦の評価を行うべく、参加していた四名中三名(・・)を連れてモニタールームに戻った。

 本来なら除かれた一名である緑谷少年にも聞かせるべきなのだが、戦闘訓練中に受けたダメージとワンフォーオールの使用による負傷の為、急ぎ保健室に移送すべくハンゾーロボ(小型搬送用ロボ)に運ばせた。

 そう言う訳でモニタールームより眺めていたクラスメイトの前に、爆豪少年に飯田少年、麗日少女の三名が並ぶぶも三人とも表情は暗い。

 爆豪少年は先の訓練(緑谷の件)を引き摺って俯き、飯田少年は敗北をした事への反省。麗日少女は結果ではなく自身が行った内容に思う所があって自信無さ気。

 コホンと咳払い一つして評価を始めよう。

 

 「戦闘訓練一回戦目はAヒーローチームの勝利。…つっても今戦のベストは飯田少年だけどな!!

 「なっ!?」

 

 この評価に周りもだが負けたヴィラン側の飯田少年が一番驚き、逆に麗日少女はやっぱりかと苦い顔をする。

 終わりが良ければ全て良しという事は実際にもあるのだが、訓練段階でそれを容認する訳にはいかない。

 彼ら・彼女らの成長させるには良し悪しに改善点を示さなければ。

 

 「勝ったお茶子ちゃんか緑谷ちゃんじゃないの?」

 「さぁて、何故だろうなぁ~?わかる人!」

 「はい、オールマイト先生」

 

 蛙吹少女からの質問に答えるのは容易いし、評価する上に悪かった点を語るのは当然の事。

 だけどそれを全部私が言うより、皆で考えて語り合うというのも一つの成長となるだろう。

 そう思って聞いてみるとすかさず八百万少女が手を挙げる。

 

 「それは飯田さんが一番状況設定に順応していたからです」

 

 爆豪少年は私怨丸出しの独断及び、自ら(ヴィラン側)拠点(建物)を倒壊させる可能性すらある大規模攻撃を行うという愚策。

 緑谷少年も同じく大規模攻撃を行い、麗日少女はヴィラン役に徹していた飯田少年を見るや否や噴き出すなど気の緩みに、核があるというのに範囲攻撃を行うなど攻撃が乱雑だったなどなどを批判。

 逆に飯田少年はハリボテを核と認識した(・・・・)うえで相手の対策を確実に熟し、核の争奪をちゃんと想定していたからこそ対応に遅れたので仕方はないと高評した。

 

 「ゆえにヒーローチームの勝利は訓練だから(・・・・・)という甘えから生じた反則のようなものですわ」

 

 最後にそう締め括った八百万少女の説明に、生徒のみならず私まで聴き入ってしまったよ。

 …というか私の言う事が無くなってしまった。

 

 「ま、まぁ、飯田少年もまだ固過ぎる節があったりもする訳だが…正解だよ!」

 「常に下学上達!一意専心に励まねばトップヒーローになどなれませんので!」

 

 思っていたより言われて困惑する心情を出さぬよう、表情筋に力を入れてサムズアップすると、当然と言わんばかりに胸を張って言い切ったところで扇動少年が何か言いたげに乾いた笑みを浮かべた。

 

 「そう気落ちしなさんな麗日。確かに気を抜き過ぎていたのもあるけど、今回のように個性が使えない状況がある事など不足な所が浮き彫りになっただけ一番成長する可能性があんだから。

  “勝ち負けは些事である。己が何を得られたかこそ重要である”。いつまでも反省するんじゃあなくて、反省点活かすように前向きに考えようや」

 「うん、そうやね……」

 「爆豪も反省しろよ。喧嘩すんなとは言わんが状況は選べ。イズクとお前さんの私情に無関係である麗日と天哉には迷惑千万だったんだから」

「………」

 「傷口に塩を塗っていくのね扇動ちゃん」

 「知ってっか?傷口に塩を塗り込むとかなり染みるが止血にはなるんだぜ。後が大変だけどな…」

 

 扇動少年が言うように出来なかった事の多くが洗い出された事で、今後の課題として見えた事は大きい。

 課題が理解しているのとしていないのでは、今後の成長も大きく異なるのだから。

 うんうんと一人頷き、次の戦闘訓練を進めようとくじの箱へ手を突っ込む。

 

 「さて、次の組み合わせはヒーローチームは“B”で、ヴィランチームは“I”。大きく損壊したから場所を移して二戦目を…っとそうだった。人数差からハンデが必要だね」

 

 ヒーロー科一年A組は21名で、二人組を作ると一人余るので一組だけ三人となっているのだった。

 速い者順で二十名が先に引き、最後まで待っていた21人目が再びくじをして、引いた所が三人組になるようにしたので、待っていた扇動少年がIのグループに入ったのだ。

 さすがに二対三では数に差が出るのでハンデを付けなければと頭を悩ました矢先、Bのくじを引いた轟少年がつまらなさそうに呟いた。

 

 「別にハンデなんかなくて良いよ…」

 「しかしだね轟少年――」

 「数の差なんて(・・・・・・)俺には関係ねぇよ(・・・・・・・・)

 

 強がっている様子もなく、淡々と呟いた言葉に周りの空気がピシリと歪んだのが解った。

 仲間()である障子少年は突然の事に驚き、Iの葉隠少女と尾白少年がムッと不機嫌そうな雰囲気を出す。

 A組の中で訓練に付き合った緑谷少年を除けば性格を知っている扇動少年がどう反応するか不安だったが、発言を聞いても動じる様子は無し。

 どうも私の杞憂だったようだ。

 

 「オールマイト先生。アジトを大きく損傷させる攻撃やわざと大怪我を負わせるような事以外は―――何をしても良(・・・・・・)いですよね(・・・・・)?」

 「んんっ!?」

 

 …戦闘訓練二回戦目は無事に終える事が出来るのだろうか。

 にっこりと表情だけ(・・)は満面の笑顔を浮かべる扇動に一抹の不安を抱えつつ、オールマイトは準備に取り掛かるのだった…。




 勝ち負けは些事である。己が何を得られたかこそ重要である
 【刀剣乱舞】山伏 国広より
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