「私、ちょっと本気出すよ!!」
戦闘訓練二回戦目でヴィラン側を担当する事となった
姿が見えない“透明化”の個性を活かそうとしたら、見えている衣類を脱ぐのは正しい選択である。
憤慨してそのような行動に出たのには
個性把握テストで氷結という強個性と、高い身体能力を見せていた事から凄いのは解かったけど、あからさまに物の数じゃないと宣言されれば怒るのが普通の反応であろう。
ぷんすかと怒りながら脱ぎ捨てる様子に
…ただ一階廊下にて
見えないとしてもまじまじと眺められてはさすがに恥ずかしい。
「えっと、なにかな?」
「あぁ、すまない。ただただ感心しただけなんだ。たかが訓練と侮ることなく、自身の個性を最大限に活かす為に最善を尽くす。それも透明だと言え年頃の女の子が異性の前で衣類を脱ぎ捨てるなど相当の覚悟だろう」
「あはは、そうかな」
揶揄するのではなく本当に褒め称えている事から照れて頭を掻いて誤魔化す。
ニカっとひと笑いすると扇動は作業に戻り、やる事の無い葉隠と尾白はその様子を眺める。
「所で扇動君は何してるのかな?」
「んー、グレネード仕掛けてる。言っとくけど非殺傷のな」
「何処からそんなの用意したんだ…」
「アイテム会社…ってかコスチュームに要望書いといた」
話を聞いてみれば敵対者を無力化する強烈な光と音で視界と聴覚を乱すスタングレネードに、皮膚や粘膜に付着する事で刺激を与えて咳や落涙、嘔吐などの症状を発生させる催涙手榴弾。
攻撃時にも撤退時にも使用できる発生させた煙幕で視界を塞ぎ、周囲を隠してしまうスモークグレネード。
火災現場などで活用しようと要望・制作して貰った破裂するのではなく、内部の消火剤を噴出する
消化手榴弾については粉末消火剤、強化水消火剤、窒息効果のあるガス性消火剤の三種類あり、罠として仕掛けているのはスタントスモーク、粉末消火剤と強化水消火剤の四種類を仕掛けているらしい。
「扇動って容赦ないな…」
「なに言ってんだよ。後を引く催涙と窒息の恐れがあるガス性消火剤は使わないという配慮をしてんだろ?」
「配慮になるのか?普通にアウトなのでは?」
「それに汚かろうが小賢しかろうがあんな啖呵切られちゃあやるしかねぇだろ」
「うん!私もそう思うよ!ちょっとムカッとしたもん!!」
「…と言いつつも結構ヤバいんだよな轟と障子」
「え、そんなに?」
やる気十分だった様子が深いため息を吐き出し、困り顔を晒した事に首を捻る。
確かに轟君は個性使わなくとも良い記録出していたし、個性で速度を上げた50m走は結構早かったのは解っているが、それほどなのかと疑問を抱いたからだ。
それは尾白も同様で強いとは何と無しに理解していても、扇動程の危惧は抱いていない。
「アイツ50m走の時、足元から氷を連続して生やして速度出してたろ。連続して出せんなら多分範囲攻撃も行けそうなんだよなぁ。氷結の範囲攻撃持ちに室内での防衛線…勝ち目ねぇよ。それに障子の握力測定の人間離れした数値。近接戦で掴まれれば一貫の終わりだ」
「だったらどうするの?」
「そこは策を巡らすさ。これだってそうだろ?」
「え?これって…」
「スタングレネード。各種二個ずつ持ってんだ」
「そうじゃなくて使い方知らないよ!?」
「教えるって。それと策もね」
一階での仕掛けを終えた扇動君から使い方と作戦の説明を受けながら二階へ上がる。
本人は気に入らなかったら言って欲しいと苦笑しつつ言ったけど、私も尾白君も異論が出るどころかそれで行こうと太鼓判を押した。
二階の窓から外では開始の合図を待つ轟と障子の姿があり、まだかまだかと待ち侘びている様子。
眺めていると罠を仕掛けない扇動に疑問を抱いた尾白が問いかける。
「そう言えば二階には仕掛けなくて良いのか?」
「出来れば仕掛けてぇけど手榴弾の数が足りないし時間も短い。だから山勘で一階、それも限定的な場所にしか仕掛けれなかったんだよ」
「山勘って…」
「あの台詞に普段の態度がブラフでなければ策なんて使って来ねぇよ」
「轟はそうかもだけど障子は解らないんじゃあ」
「あー、アイツは個性も読めんかったんだよな…」
「「読む?」」
「ほら名は体(個性)を現すって言うだろ。葉隠は名に“隠れる”に“透き通る”、尾白には“尾”に“猿”が含まれていて、どちらも個性を連想できるだろ」
「あ、本当だね!」
それぞれ指差して言われた答えに確かにと驚く。
言われてみれば確かに皆の名前にもそう言うのがあると考えていると、扇動君は苦々しい表情をする。
「“障子”に“目”だから
「もくもくれんってなに?」
「妖怪の一種。障子に目が現れて増殖していく話」
「普通に怖いなソレ」
「話では商人がその目を全部抉って売ったって」
「その人の方が怖いよ!」
「他にも障子と目を含んだことわざもあるだろ。壁に耳あり、障子にメアリー、肩にフェアリー…ん?なんか違ったような…」
「なんか一つ多いし、名前出て来たよ!?」
「…障子に目有りでしょ」
ネタなのか素なのか解らない反応に突っ込みながら思わず笑ってしまった。
ほどなくしてオールマイトから無線で「五分が経つよ」と知らせがあり、私は二階に残って屋上に向かう尾白君と扇動君を見送る。
さぁて、頑張るぞぉー!と一人気合を入れて、ヒーロー側の登場をジッと待つのだった。
人数差なんて関係ない。
そこにあるのは驕りや虚勢ではなく決定的な実力差。
轟 焦凍は淡々と母より受け継いだ凍らせる個性を振るえる右手を見つめ、父より
―――個性“半冷半燃”。
誰もが羨む個性の二つ持ちという稀有と言われる存在ながらも、その事を一度たりとも誇らしげに思う事は無い。
父親である
その
自身と個性の限界を感じた親父は一つの打開策を考え出した。
違うな、打開策なんかじゃない。
自身が持つ炎系の個性に加えて、籠った熱を冷却する個性までも受け継がせ、自身では越えられなかった夢を
個性を一つしか発現出来なかった夏兄や姉さんを“失敗作”と蔑み、個性を二つ受け継いだ俺を“成功作”と称して
幼少期の全てを訓練という虐待で染め上げられ、同年代や兄姉との時間を奪われ、厳し過ぎると護ろうとした母は暴力を受けて肉体的にも精神的にも疲弊して病院に入れられた…。
―――
病院に入れられる前に電話している母さんが言った言葉。
そして精神を病んだ母さんは俺の…クソ親父から受け継いだ左側に熱湯を浴びせた。
憎かった…。
母さんがじゃない。
優しかった母さんをあんなになるまで苦しめ、追い詰めた親父が心底憎い。
左目周りに今でも残る火傷の痣をひと撫でして、戦闘訓練の舞台となっているビルをつまらなさそうに見上げる。
ヒーローを目指すに当たって一つの誓約を立てている。
嫌々ながら鍛え上げられた身体能力に母さんから受け継いだ個性だけでヒーローを目指す。
同じチームの
個性は“複製腕”。
肩より腕は勿論ながら目玉や耳を生やして戦闘能力だけでなく索敵能力も保有している。
「屋上に一人。二階のどこかにもう一人…素足だな。三人目は…音がしない。動いていないのか個性なのか解らない」
「外出てろ危ねぇから。向こうは防衛戦のつもりだろうが…」
索敵した結果を伝えて来るが
さらに点だけでなく
ビルごと凍り付かせれば核にダメージを与えずに、相手を無力化する事が可能。
攻防戦など端から存在しない。
あるのは無慈悲までの一方的な蹂躙…。
勝手に相手を
触れようとした矢先に破裂音が響き渡った。
同時に周囲に湿気が通路を満たす。
凍らせようとした手をぴたりと止める。
ビル一棟を凍り付かせるほどの冷気に周囲を満たす湿気は呼応するように凍り付くだろう。
そうなれば通路内の自身も多少なりとも凍り付く事になる。
凍っても溶かす手段は
再び破裂音が鳴り響くと奥より煙が流れてくる。
煙幕で視界を遮って来るという事は何かしら仕出かしてくるつもりらしい。
予想通り奥の方から手榴弾らしきものが転がって来るのが煙幕の隙間より見えた。
本当に忌々しい。
障子を押して急ぎ外へと急ぐ。
いっそのこと外から凍り付かせるかと外に飛び出て、通路内を煙幕越しにでも強烈な閃光と音で満たす。
光で眩む事は無かったが音で多少耳鳴りに悩まされるも、これぐらいなら戦闘に支障はない。
「ビルから離れてろ。外から凍ら―――」
「――ッ!?危ない!!」
言い切る前に突然目を見開いた障子に突き飛ばされた。
何事か理解出来なかった轟は、転がりながら
まるで空から降って来たかのようにロングコートを靡かせて舞い降りる扇動と、着地の瞬間に尻尾で地面を叩いた事で加速を得ながら方向転換を行った尾白が、轟を押しのけた障子の背後からに突っ込んで確保テープを撒く瞬間を…。
「
「―――ッお前!!」
「う、動くなヒーロー!」
無線で連絡を入れる扇動の声を耳で聞き取りながら、転がりつつも即座に立ち上がり反撃に出ようとする。
しかし確保テープで捕縛判定された障子を尾白が人質にする事で僅かな躊躇いが発生した。
声の震えようと迷いのある表情から尾白の意思ではないのだろう。
…と、なればこの
「“さぁ、ショータイムだ”」
「―――ッ、
「散れ!」
余裕のある態度と言葉に苛立ち、右足を踏み込んで接触面より地面を凍らし、氷結を真っ直ぐ走らせる。
しかし咄嗟に指示を出した扇動は轟から見て左に、指示に呼応した尾白は障子は放して右側へと走って回避する。
伸びた氷結は尾白を取りのがしてしまったが、
だが、人質を救出したからと言って安心はできない。
轟は左側を使いたくない理由があり、それを覆う事も兼ねて左半分を氷で覆い尽くしている。
氷による防御力も得られるものであるが、ここで一つの弱点が漏洩した。
非常に見え難いのだ。
左目まで覆わぬようにはしていたものの、周囲の氷が光を屈折させて正確に見る事叶わず、外に出たことで太陽光に反射する。さらに氷の僅かな厚みでも右目の視界を多少なりとも遮ってしまう。
回り込んだ扇動の動きが一切見えない…。
先の様子から
空から降り立ったのを個性と断定するなら飛行…いや、浮遊に
自由に飛べるのであれば地面を凍らせる事を警戒して飛ぶはずだが、扇動は尾白と別れる際に凍らされる危険があるのに関わらず地面を走っていた。
何かしらの制限があるか、使いどころが難しい個性…。
どちらにしても攻撃に適しては居ない筈。
ならば
視線を尾白に向けて再び足より氷結を走らせると、尾白は地面に尻尾を叩きつける事で力業ながら氷結を
振り返れば扇動は尾白を狙った事で生まれた死角を利用して、かなり接近してきていたものの手が届く様な位置まで辿り着けてはいなかった。
「奇策には驚かされたが―――悪いな。レベルが違う」
『フレイム』
冷気を纏わせた右手を振るおうとしたのに合わせて、扇動はベルトに右手に嵌めた赤い指輪を重ねて回し蹴りを放った。
ベルトより電子的な声が発せられると同時に靴が炎を纏う。
振るおうとしていた右手で咄嗟にガードして、眼前で
扇動はガードされたことで即座に距離を取り、咄嗟に振り払うようにして氷結を放った轟は感情の揺らぎによって遅れて取り逃がす。
「予想以上に氷結が
「呑気な事言っている場合!?」
距離を取って相対する扇動と尾白。
策が通じず焦っているようだが退く気配はない。
初手で圧勝できなかったことは残念だが、ここで一気に凍り付かせて終わらせる。
前面に対しての広範囲氷結で片を付ける。
氷結に用いる冷気により身体が冷え、それを全放出させて凍り付かせようとした瞬間、上から下へと視界を何かが遮った。
頭が真っ白になった。
遮ったそれが何なのか理解する間もなく無線が届く…。
『ヴィランチームの勝利!!』
「……は?」
オールマイトからの敗北宣言を受けて、あまりの衝撃に声が漏れ出た。
そして自身を遮ったモノへと視線を降ろすと胴を巻くようにあったそれは確保テープ。
敗北した事が信じきれずに振り返ればそこには
が、自分にテープを巻いた相手が居るのは確かだ。
「やったね扇動君!」
「ナイスだ葉隠!」
何もない空間でハイタッチしているらしい扇動を見て全てを理解した。
わざわざ俺達の前で無線したのはそう思い込ませる為で、扇動と尾白は葉隠を気付かせずに近づかせる囮であったと…。
完全にしてやられた。
圧勝できると思っていただけに思い描いていた勝利をあっさり覆された事で、悔しさ以上に恨み辛みが込み上げるも、モニタールームでオールマイトの評価を耳にするうちに、自らのミスに気づかされ沸き立った感情が鎮火する。
扇動達は仲間内と会話をして連携で戦ったのに対して、俺は会話すら行わずに勝手に相手を舐めて掛って敗北した…。
何が行われていたか見てない身としては、モニタールームで話される内容に驚くばかり。
俺の発言と様子から侵入経路を予測してサポートアイテムである非殺傷の手榴弾を仕掛け、個性把握テストの様子から氷の個性は右側だけと断定し、氷で左側を覆っていた事で死角が出来ていた事に気付いていたと…。
さらに振って降りたようだった扇動は個性など一切使っておらず、腰のベルトに取り付けてあったフック付きのワイヤーを用いて壁伝いを降りて来たのだ。
屋上の柵にフックをひっかけ、左腕を上へとまっすぐ伸ばしててワイヤーを掴み、右手は右腰にあるワイヤーにブレーキを掛けるレバーに添え、建物の壁を走る様に降りたり、段差を両足を揃えて蹴って越え、自衛隊や消防士などが行う
それも自らも囮となるように行動して、葉隠との挟撃となるように…。
何やってんだろ俺…。
第三回戦目の様子を皆から離れた後ろの壁に凭れながら眺める。
すると何気なしに横に扇動がやって来た。
勝利した割には辛気臭い雰囲気を漂わし、ため息交じりに壁に凭れた。
話しかける事も無くモニターを眺めていると、小さく唸り声を漏らして重い口を開いた。
「聞き辛ぇし、答えにくいかも知らんが一つ聞いても良いか?」
「…あぁ、なんだ?」
「お前さん、親父さん嫌いか?」
唐突な問いに一瞬だけ戸惑い、次の瞬間には憎しみを込めて答える。
「あぁ、大っ嫌いだな」
問いの答えにやっぱりかと暗い表情を浮かべ、大きく息をつく。
ちらりとモニターから他の面々に視線を向けると三回戦目の様子に釘付けのようで、こちらの話には一切気付いて居ないようだ。
軽い確認を済ますと呟くようにこちらも問いかける。
「どうしてそう思った?」
「炎を憎むように見たろ?あん時炎を通して誰かを見てる気がしてな。炎に轟姓ともなれば嫌でもエンデヴァーが思い浮かんじまう。それにその火傷跡が気になったのもあるが」
「これは……いや、関係はする…か」
ぽつりと零す。
聞き難い内容ゆえか言葉で続きを催促する事はなかったが、視線で
語る理由もなければ黙る理由も…別にない…。
詳細には語らず、自分に起こった事を簡潔に思い返しながら呟く。
扇動は返事をすることなく聞き、終わると小さく頷いてこちらに視線を向けた。
「ひでぇ話だなそりゃあ…だけどなんでお前さんはヒーローを目指すんだ?」
問われた意味が理解できずに首を傾げる。
「嫌いなんだろ?だったらなんで同じ土俵に上がろうとしてんのかなって」
「ヒーローに成りたいからだ。親父の考えを全否定して…」
拳を握り締めながら答える。
胸中を満たすのは親父に対する憎しみばかり。
絶対にアイツの思い通りにはしてやるものか。
そんな想いを知ってか知らずか扇動は眉を潜め、呆れているようだ。
「私怨で人助けか。報われねぇな」
「あ?」
「鏡見てみ。今のお前さん――テレビで見たエンデヴァーそっくりだぞ」
「――ッ!?」
「もう一回聞くぞ。お前さんはなんでヒーローを目指すんだ?」
言われて顔を隠すように手で覆う。
鏡を見ずとも指先だけで相当に険しい表情をしているのが容易に解る。
確認
荒れる心境に再び問われる問いに、深く考え込む。
どうして何故だと自身に問いかければ、過ったのは幼き日々。
母さんと一緒にソファに座り、オールマイトのインタビューを見ていた。
言葉になるほど整ってはいなかったが、その日その時に抱いた感情が僅かに蘇って心に灯る。
あの時…母さんはなんて言ってたっけ?
「良い瞳するじゃん。しっかりとしたヒーロー像持ってんじゃあないか」
思い出すこと叶わず、沸き立つ想いを宿した瞳に嬉しそうな扇動の言葉に意識が戻された。
同時に扇動はやっちまったと言わんばかりの苦い顔をする。
「“最後まで責任を持てないのなら何もするな”か。知ってる筈なのにな」
悔やんでいるように言葉を吐き出し天井を仰ぐ。
突然どうしたのかと見つめれば、大きく息は吐き出して苦笑を向ける。
「轟。一人暮らしか?それとも実家暮らしか?」
「実家暮らしだ。それがどうした?」
「家に居辛いなら俺の所に来い。一人暮らしにしては広い家だ」
「良いのか?」
「最後までは無理だがせめて手助けぐらいはすんよ」
急な話に戸惑うと「離れる事も必要だろう。時間もな」と言って、こちらに向けていた視線をモニターに戻した。
色々思う所があってすぐには答えが出ないだろう。
最低でも姉さんには話しておきたいし…。
「少し考える時間をくれないか」
「構わねぇよ別に。…っとそうだ。帰りにドーナツ食いに行かね?この
ニカリと笑う扇動につられて薄っすらと微笑む。
この日、初めて轟は誰かと共に買い食いをするのであった。
さぁ、ショータイムだ!
【仮面ライダーウィザード】操真 晴人より
最後まで責任を持てないのなら何もするな
【ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり】伊丹 耀司より
壁に耳あり、障子に目あり、肩にフェアリー
【銀魂】土方 十四郎&近藤 勲より