無個性オリ主が共にヒーロー目指す!   作:チェリオ

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第13話 騒がしい日常に忍び寄る者…

 合格通知が届いてからは通う事が待ち遠しく、昨日までは通学中までどんなことを習うのだろうかとやる気と未来への期待で満たされていたというのに、今日は学校に向かう足取りがやけに重い…。

 体調不良という訳ではないのだけど一歩進む度に心中が騒めいて、溜まった負の感情を撒き散らすように僕―――緑谷 出久は俯いたまま大きく深いため息を零す。

 

 胸中穏やかでない理由は昨日の放課後にあった…。

 戦闘訓練での勝利条件は満たしたものの、内容的には褒められたものではなかった。

 その事にも想うところはあるけれど、それ以上に対戦したかっちゃんの事である。

 格下に見ていた相手は戦闘訓練で勝つことを考えながら、一対一で戦って勝利条件を満たした。

 これは内容云々を抜きにしても防衛を無視して僕をぶちのめす事に専念していたかっちゃんの自尊心を大きく傷つけた。

 

 励ます…なんて事は出来ないけど、授業中に舐めていると思われていた事だけは否定しようと先に下校していたかっちゃんを追いかけた。

 決して軽んじていた訳ではなく今出来る全力で挑んだんだと。

 それと個性把握テストでは僕が個性が有るのを黙って、騙してやがったと言っていた事もむーくんの言葉だけじゃなくて僕の言葉で伝えないといけないとも思っていた。

 それが何故か譲渡されたばかりで個性をまだ使いこなせていない事と、いつかは使いこなして君を追い抜くとの宣言になってしまったんだろうか…。

 オールマイトに秘密にと言われ、漏洩した場合どんな事態になるか理解していた筈なのに。

 かっちゃんは今は(・・)理解出来てはいなかったみたいだけど、頭も勘も良いからもしかしたら気付かれるかも知れない。

 けどそれよりも僕に負けて(・・・・・)轟君の氷結の個性に圧倒されて敵わないと一瞬でも過らせ、八百万さんの指摘に納得してしまって(・・・・・・)意気消沈していたかっちゃんが、“俺はここで一番になってやる(・・・・・)!!俺に勝つなんて二度とねぇからな!!”と想いを吐露すると同時に()がついたのは良い事だ。

 …後で話した事をオールマイトに怒られれてしまったが…。

 

 今、僕の心に影を落としているのは図らずにもかっちゃんに秘密を話してしまった事と、むーくんに話せていない(・・・・・・)という二つ。

 

 入学してからずっと思っていた。

 むーくんは僕の事をどう思っているのだろうかと…。

 対応や雰囲気は個性の有無に関わらず昔のまんまだった。

 けど同じ無個性だったのに僕が個性を突如発現した(・・・・・・)知った(思い込んだ)時どのような事を想ったのだろう。

 簡単だ…。

 きっと羨んだはずだ。

 そして少なからず負の感情を抱いたはずだ。

 何故なら逆の立場なら僕だって思い兼ねないから…。

 

 本人は否定するかも知れないけど僕を奮い立たせて、諦める事無く険しいヒーローへの道を進もうと決意させてくれた。

 そんな彼にこの秘密(ワン・フォー・オール)の事を伝えるべきなのではないのか?

 けれどオールマイトに再度注意された事も考えると話す訳にはいかない。

 かっちゃんに話してむーくんに話さないと言うのは…。

 

 悶々とその問答が胸中を巡り、結果として伝えず(・・・)にため息を漏らしているのだ。 

 今日は延々と悩み続けるんだろうなぁと頭を悩ませていると、雄英高校校門前の光景に戸惑って小さく声を漏らした。

 

 ヒーローとはこの超人社会において最も人気のある職業である。

 “憧れ”の対象として(いだ)かれるに留まらず、一種の有名人と同等またはそれ以上の扱いを受け、多くのファンが彼ら・彼女らの活躍に心躍らし、私的な欲から好きなヒーローの事をより広く、より深く知りたいと願う。

 それは恐ろしいまで貪欲であり、中には欲を満たす為には非情な程残虐さを内包し、犯罪にすら手を出す者が出る程に…。

 底なしにも思えるその欲に答えるようにマスコミは民衆が望む望まない(・・・・)に問わず、ヒーローの活躍や私生活の情報を我先にと求めて駆け摺り回る。

 全部が全部とは言わないが、その行為が行き過ぎる時があるのも事実。

 まさに僕が見た光景はそれであり、雄英高校の門の前にカメラやマイクを持ったマスコミ関係者が群れを成して殺到しているのだ。

 何のイベントも無く、控えてもいないというのにどうしてこれだけの人だかりが出来てしまったかというと、それはオールマイトのせいだと断言出来よう。

 なにせ日本だけでなく世界からも絶大的な人気を誇るヒーロー。

 最前線で身を削る様に活躍していたというのに、それが今までになかった後人育成の動きを見せた。

 誰もがどうしてと知りたがり、マスコミは情報を収集したいしせざるを得ない。

 彼の事を知りたいという者は山のように居る。

 僕だってその一人であり、マスコミが搔き集めた情報を元に編まれた書籍を読み漁ったり、コレクションしようとお母さんに頼んで買って貰ったのだから。

 

 だがこうして情報を得ようと熱を持って殺到する様子は、悶々としていた心情を一時忘れさせて気圧させるには充分過ぎた。

 あの中を通らないといけないのかと困惑するも、今日に限ってオールマイトが非番の為にメディア関係者が満足して帰る事は絶対に無い。

 ゆえにあの群れの中を突っ切る事は決定事項なのである。

 

 「うわぁ、凄い人だかり!」

 「記者のようだが何かあったのか?」

 

 登校する道中で合流した飯田くんと麗日さんもマスコミの人だかりに、戸惑いを覚えながら遠巻きに眺める。

 あの集団に突っ込んだ生徒はヒーロー科問わずにオールマイトの事で質問され、オールマイトの授業を受ける事のない学科の生徒と知るとあからさまに残念がって離れていく。

 

 「何してんだお前ら?」

 「――ッ!?おはようむー…く……ん?」

 

 どうしようかと眺めていると先ほどまで悩んでいた対象であるむーくんに、背後から声を掛けられ振り返るとさらに困惑する事に。

 この困惑と自分の言葉にデジャブを感じつつも、戸惑いを隠せない僕は後ろより声を掛けたむーくん………ではなく、その斜め後ろにいる八百万さんを注視する。

 クラスメイトである彼女は学校指定のジャージ姿で扇動と同じく口元を大きく覆うマスクを付け、汗を掻きながら肩で息を切らしていた。

 

 「おはようイズク。で、どうしたんだ?」

 「いやいやいや、そっちこそどうしたの!?」

 「俺のペースに合わせる為に無理した結果だ。あんまりじろじろ見てやんな」

 

 麗日さんが駆け寄って心配そうにするも、それ以上に八百万さんは申し訳なくて仕方がなかった。

 なにせ先日に続いてトレーニングを一緒にさせて貰っておきながら、限界を見誤ったペース配分で先導してこの様なのだから。

 扇動のペースを落とさせて邪魔をしてしまった…と。

 

 「すみま…せん…迷惑をおかけして…」

 「謝るぐらいなら把握しろ自身の限界を。そして活かして越えるように努めろ」

 

 それを得れるなら上々と言わんばかりにニカリと笑うむーくん。

 その様子を懐かしみながら、どんなトレーニングだったのかに興味を持ってぶつぶつ呟きながら自分も混ぜて貰えないかと考える。

 毎度お馴染みの呟きに苦笑したむーくんは、じろりと鬱陶しそうに校門前に睨むと「面倒臭ぇ…」と呟いてガシガシと頭を掻く。

 

 「俺が注意を引くからイズクはお嬢を連れて先に行ってくんね?さすがに休ませねぇと」

 「えっ!?だったら僕も―――」

 「腹を空かせた肉食獣顔負けに(ネタ)を求めて殺到する大人数を相手出来るか?」

 「………ごめん、無理かな…」

 

 想像しただけでも緊張でガチガチになるのは明白なのですぐさま謝ると、逆に飯田君が「なら俺が」と申し出るも目がそちらに行った際に頼むと言われて僕達と共にこっそりと門を潜る事に。

 正々堂々と真正面から向かう扇動を見て、こっそりと回り込むように動く。

 門に連なる壁際を歩き、大勢の視線を集めるむーくんに申し訳なさ交じりでちらりと伺う。

 

 「おはようございます。朝早くからお仕事お疲れ様です」

 (((………誰っ!?)))

 

 爽やかな笑みを浮かべ、穏やかさを纏ったむーくんに僕を含めた皆が目を疑った。

 自然ながらも普段を知っているだけに作られた雰囲気と表情に目が釘付けにされるも、それで足を止めていては意味がないと門へと急ぐ。

 

 「君、ヒーロー科の生徒かな?」

 「えぇ、そうですけど」

 「ちょっと待って。確かヘドロ事件で―――」

 「その件は大変申し訳なく―――」

 「オールマイトの授業の様子は―――」

 「平和の象徴が教壇に―――」

 「○○中学校での殺人未遂事件で表彰されてた子だよね?あの事件で―――」

 

 ヘドロ事件を含めて様々な事で話題を持つむーくんはマスコミを惹き付けるには十分であり、知らずとも他の者が話題を口にすれば呼応して群がる。

 落ちているお菓子に群がる蟻のような光景に「うわぁ…」と誰かが声を持たした。

 僕はその姿を申し訳なく見つめながら門を潜った。

 ぶり返した悶々とした悩みを渦巻かせながら…。

 

 

 そして朝のHR(ホームルーム)にて悶々と悩んでいた緑谷は、戦闘訓練で個性の制御が出来ていない事を相澤より駄目だしを受け、制御さえ出来ればやれる事も多いと発破をかけられた事でやる気に満ちるも、クラス代表である学級委員長を飯田の提案で投票で決めた結果、立候補(ほぼ全員)したとはいえ自身が選ばれたことに別の不安を抱く事になるのだった…。

 

 

 

 

 

 

 昼休みは昼食を食べようと多くの教員や生徒が大食堂に集う。

 飯田 天哉もまた大食堂に訪れ、注文したカレーライスを楽しんでいた。

 隣には麗日 お茶子、向かいの二席には緑谷 出久と扇動 無一が腰かけてそれぞれ食事を口にしている。

 だが緑谷だけは不安そうにかつ丼を食べては手を止める。

 

 「委員長なんて僕に務まるかな?」

 「務まる」

 「大丈夫さ」

 

 ぽつりと吐露された言葉に即座に返す。

 普段は失礼だが頼りなさげな彼だけど入試時の実技試験や個性把握テスト、戦闘訓練では見事な判断力と胆力を見せた。

 そんな彼に資質がないなど断じて思えなかった。

 ()よりも先に返答したように麗日君も同じように思っていたのもその証拠だろう。

 

 「緑谷君のここぞという時の胆力や判断能力は“多”を牽引するのに値する。だから君に投票したんだ」

 「けど牽引するんだったもっと他に…」

 

 不安げにちらりと視線を向けた先には扇動君が居た。

 確かに扇動君にも多を牽引する力は十分にあるし、彼ならそつなく熟すだろう。

 

 「無理強いはあかんよ。したくない(・・・・・)って言うんやから」

 

 麗日君の言う通り扇動君は学級委員長を自ら棄権している。

 ヒーロー科においてクラス代表である学級委員長は、プロヒーローに必要な“集団を率いる”という素地作りに向いている。

 ゆえに委員長には誰もが立候補するほどの人気を見せたが、扇動君だけは手を挙げるところか寧ろはっきりと“俺、したくないんだけど”と宣言したのだ。

 理由は如何にも扇動君らしく「委員会で時間を割くより自身を鍛えたい」との事。

 

 「でも飯田くんは委員長やりたかったんじゃないの?眼鏡だし!」

 「やりたいと相応しいかは別の話。()は僕の正しいと思う判断をしたまでだ」

 「…僕?」

 

 話題が僕に振られるも自分の選択は間違っていないと思っている。

 だから皆が皆、自身に投票する中で僕は緑谷君に入れたのだ。

 ちなみに麗日も緑谷に投票して三票で委員長に選ばれ、緑谷に投票した飯田は扇動から投票されて一票を得ていた。

 

 自身の考えを口にしていたのだが、一人称が俺から僕に戻っていた(・・・・・)事に気付かず、気付いて疑問符を浮かべた緑谷君の一言にしまった!と顔を歪ませる。 

 

 「ちょっと思っていたけど飯田くんて坊ちゃん?」

 「坊ッ!?……そう言われるのが嫌で一人称を変えていたんだが…あぁ、俺の家は扇動君と同じく代々ヒーロー一家なんだ。俺はその次男なんだ」

 

 言ってしまった事はもう仕方ない。

 麗日君の問いに諦め交じりに答えると興奮気味に緑谷君が食いついて来る。

 僕の兄さんはターボヒーロー“インゲニウム”と言って、東京の事務所に65人ものサイドキックを雇っているプロヒーローで、最も僕が憧れているヒーローである。

 そんな兄さんの事に詳しく、キラキラと目を輝かせて語られると凄く嬉しく誇らしい。

 いつの間にか笑みを浮かべながら胸を張って答える。

 

 「規律を重んじ人を導く愛すべきヒーロー!!俺はそんな兄に憧れヒーローを志したんだ」 

 「まったく一家揃って堅物なんだから。ま、そこが飯田の良いところなんだけどな」

 「前にも言ってたけど扇動くんの家もヒーロー一家なん?」

 「正確には一族。ただしまともにヒーロー活動してんの極一部だけどな…にしてもこのサバの味噌煮美味かったなぁ」

 「お米も美味いし」

 「本当にそれな」

 

 会話に参加しないなと思っていたら、どうやら心行くまで麗日君同様に注文したサバの味噌煮定食を味わっていたようだ。

 しかし参加して訂正を入れると話題を逸らした。

 何故か知らないけれど扇動君は緑谷君にご家族の事を意図して伏せているように感じる。

 こちらとしてもどうしてなのかと追及する気はない。

 彼は彼なりの考えがあるのだろう。

 

 「そうだむーくん…今日時間あるかな?話したい事があるんだ」

 「放課後は開発工房の方に行こうかと思ってたけど、急用なら先に回すけど」

 「う、ううん!用事があるんだったら良いよ」

 「開発工房というのは?」

 「読んで字の如くだよ。主に使用しているのはサポート科の教員や生徒だけどな」

 「なら扇動君は開発工房へ?」

 「コスチュームの改良ってかサポートアイテム制作依頼出来ねぇかパワーローダー先生に聞きに行こうと思ってさ」

 

 昨日の戦闘訓練ではオールマイトにも褒められ、見事な勝利を収めたというのに奢ることなくさらに上を目指す為に動く。

 さすがだなと思い口を開こうとした矢先、校内放送でけたたましい警報が鳴り響いた。

 

 『セキュリティレベル3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外へ避難してください』

 

 警報に続いて校内アナウンスが流れて周囲が騒がしくなる。

 セキュリティレベル3が何のことか解らずにいると、近くにいらっしゃった先輩に聞いてみるとどうやら校内に何者かが侵入した事を知らせるものらしい。

 急ぎ避難をしようとするが非常口に大食堂を利用していた生徒達が殺到。

 高い危機意識を持っていたからこそ迅速な行動が行えたが、この事態は想定外だっただろう。

 人の波に僕は勿論ながら緑谷君や麗日君、それと少し離れた位置では上鳴君や切島君が呑まれて身動きが取れ辛い状態に陥っていた。

 窓際で身動きが取れなくなっていると、運よく外で駆けている集団が視界に映った。

 それは今朝校門前に集まっていたマスコミのようであった。

 侵入者というのはマスコミの方々だったのかと解り、ヴィランなど危険な者でなかったことに安堵すると同時に、これを皆に伝えなければならないと思考を巡らす。

 現在人が多く集まり過ぎた上にパニックまで起こしている現状、転倒でもしようものなら大怪我に繋がり兼ねない

 

 「――ッ!麗日君、僕を浮かせてくれ!!」

 

 無理やりにでも麗日君に近づいて手を伸ばす。

 意図は理解せずとも伸ばした手に触って個性を使ってくれた事に感謝する。

 浮いた事で圧迫感はなくなり障害物は無くなった。

 個性“エンジン”を吹かして加速を得る。

 目指すは皆の注目を集めるであろう非常口上部。

 爆豪君のように自由に空中を動く事は叶わなかったけど、何とか壁に激突する形で到達した。

 思っていた通りその場の全員の視線が集まり、僕は大声で侵入してきたのはマスコミで落ち着いた対応をと大声で叫ぶ。

 事態を理解すると混乱も収まって、落ち着きを取り戻した集団は慌てる事無く冷静に屋外への非難を開始した。

 

 「凄かったよ飯田君!」

 「ありがとう。これも麗日君のおかげだ」

 「うちは何もしてへんよ」

 

 駆け寄る緑谷君に笑みを浮かべ、照れ臭そうにする麗日君。

 僕の様子を見ていた上鳴君に切島君もスゲェと言いながら駆け寄ってきてくれる。

 そこでふと気が付いた。

 扇動君の姿がこの場に無い事に…。

 

 

 

 

 

 

 朝から校門前で待機していたマスコミは、どうにか情報(ネタ)を仕入れれないかと頭を悩まし、募る焦りと苛立ちをネタの提供を拒む雄英教師陣に向けて各々が愚痴っていた。

 時刻が十二時を回って学生や職員が食堂でわいわいとランチを楽しむ中、飲食店に食べに行ってネタを逃す可能性もある事からコンビニで買っておいたおにぎりや菓子パンなどでそれぞれが空腹を満たす。

 そんな彼ら・彼女らの前に異常事態が起きた。

 突如として校門を塞いでいた分厚い壁が崩れたのだ。

 

 ネタが欲しかったのもある。

 空腹もあって苛立っていた者も中には居ただろう。

 かれこれ四時間以上待ち侘びるばかりで判断能力が欠如した者も居たかも知れない。

 集った誰もがそれぞれの思惑を抱いている中で、壁が崩れた瞬間誰かが(・・・)雄英高校敷地内に足を踏み入れたのだ。

 不法侵入に当たる行為で同じことをすれば最低でも警察に厳重注意を受ける羽目になる。

 所属している会社に迷惑をかける事にもなるだろう。

 しかし誰一人としてそんな事で(・・・・・)躊躇う者は居らず、他社にスクープを奪われてなるものかと我先にと雪崩れ込む。

 

 校内で警報が鳴り響くのもお構いなしに突き進み、何事かと対応に出てきた職員に群がる。

 誰もが情報を求めて殺到するも職員は嫌な顔をしつつ頑なに拒む。

 

 これだけ待って中に入れたのに何の収穫も無しではそれこそ編集長に怒られてしまう。

 新人の女性記者は落胆を露わにしながら、遠巻きにマスコミに囲まれながら対応する相澤と山田(プレゼント・マイク)を眺めてため息を漏らした。

 彼女は新人ゆえなのか本来の気質なのかよく言えば意欲的、悪く言えば高圧的に取材を行っていた。

 朝だって無理に校門を潜ろうとしてセキュリティを起動させてしまうし、先ほどまでマスコミの最前列で攻めるように突っかかっていたのだ。

 ゆえにかオールマイトの情報を得れなかった今となっては、雄英高校の冷たい対応(彼女目線&私怨交じり)を批判する記事を出してやろうかと攻撃的に思考を働かし始める。

 

 「お姉さん、少し宜しいですか?」

 「なによ…って、君は――」

 

 後ろから声を掛けられてムッとしながら振り向くと、今朝の取材でそれなりに(・・・・・)答えてくれた少年―――扇動 無一が微笑みながら立っていた。

 他者のマスコミがあれやこれやと話を聞きたがっていた様子から気になって先輩から話を聞いてみると意外に話題の尽きない人物だったらしい。

 先輩から聞いたからには気にしていた相手が、いきなり現れた事に驚き声を上げようとしたところ、口元に人差し指を当てて“お静かに”と意思を示してきた。

 飛び出しそうになった言葉に制止をかけて、手招きされるがまま他のマスコミから隠れるように木々の裏へ回る。

 

 「良いネタ仕入れれました?」

 「それが駄目なんスよね。ガードが固くて…君ならオールマイトのネタとか持ってない?」

 「まだ授業も一回だけなので特筆して言う事は何も無いですね。お力に沿えず申し訳ないです」

 

 にっこりと笑顔で問われるも結果は散々。

 物は試しと聞いてみてもそりゃあそうかと解りきっていた答えが返ってきた。

 逆に申し訳なさそうにする様子にこっちが困ってしまう。

 …っと、ここで一つ気が付いた。

 オールマイトが無理なら彼を取材するのも良いのではないか…と。

 先輩曰くプロヒーローだった両親がヴィランに殺害された過去を持ち、今は雄英高校ヒーロー科に在籍している事などストーリー(・・・・・)としても良いだろうし、無個性ながらも入試一位で合格したり、ヘドロ事件など話題になった事件に関わった人物としては話題性もあるのでは?

 祖父はプロヒーローを輩出するヒーロー一族の扇動家当主であり、会社経営をしながら今だ現役を続ける人物。

 

 「もしよかったら君の事取材させて貰えないかな?」 

 

 これはいけるのではと思って言ってみると、キョトンとした後に嬉しそうに(・・・・・)頬を緩ませた。

 そして勿体ぶるようにどうしようかなと悩む素振りを見せられる。

 

 「う~ん、条件次第では構いませんよ」

 「条件?」

 「そう条件。お姉さん以外にお仲間っています。特にカメラマンとか」

 「いるよ。あそこの彼がカメラマンでその隣は先輩ッスね」

 

 扇動に教えようと指で示しながら背を向けた彼女は気付く事は無かった。

 今朝も今も自然な作り笑いと外向きの対応を取っていた扇動が、ニンマリとほくそ笑んでいた事に…。

 

 

 

 マスコミの一団から離れた扇動 無一は、放送で流される避難指示を完全に無視して校門前に立つ。

 本来ならば即座に避難するべきなんだろうけど、侵入してきたのが悪意あるヴィランでなく強硬なマスコミならば、身の安全を確保する前にどうやって雄英高校の敷地内に侵入して来たのかという方が気になって仕方がない。

 ヒーロー科のある高校とは大なり小なり目立つものだ。

 ヴィランなどの犯罪者からすれば自分達を取り締まるヒーローの卵が育成される場所。

 時には標的にされることもあれば、度胸試しと称して乗り込んで来る奴も現れる。

 そんなヒーロー科を抱える中でも幾人ものトップヒーローを輩出し、名門中の名門と謳われる雄英高校は万全のセキュリティを敷いていた。

 校内の各所には一般公開されることも多いので場所ごとにレベルは異なるがセンサーが置かれ、校門には学生証などの学校側より配布された通行許可IDを未所持の者が通ろうとすると分厚く非常に頑丈な壁が出現して塞ぐようにセキュリティシステムが組まれている。

 

 扇動の視線の先には確かに壁によって塞がれた痕跡(・・・・・・)が残っていた。

 門を塞いだ壁は今も尚塞ぎ続けてはいるが、それは半分ほどでもう半分ほどは崩れ落ちている…。

 携帯のカメラで撮影しながらその様子を考察しながら眺める。

 

 半分が崩れたおかげで断面が覗いているだけに、詳細は解らないがかなりの強度がある事が伺える。

 少なくとも俺ぐらいでは傷一つ付ける事は出来ないだろうな。

 そんな扉を壊すのなら非常に高い攻撃力を発揮する個性か、特殊な攻撃系の個性の二択。

 ただ今回の様子から前者はあり得ない。

 外から壁を壊そうと力を加えたのなら、壁だった破片は外側から校内側へと飛び散る筈だ。

 だけど今回は崩れ落ちた様に扉の周りに転がっている。

 となれば特殊系…それも“崩壊”させる系の個性の可能性が高い。

 芦戸の個性()みたいに溶解させる個性でも破壊は出来るが、こんな破片は出来ずにどこぞやに溶けた跡が残る筈。

 

 なんにしてもこんな事を仕出かす強個性の持ち主など相当に厄介だ。

 いくら何でもネタ欲しさにマスコミが破壊してまで侵入するとは考えられず、そうなるとかなり自信があるヴィラン…。

 

 携帯の動画を再生する。

 先ほど今朝にも居たマスコミから入手した映像だ。

 壁が崩壊して中に入ったのなら、この機を逃すまいとカメラを回しているだろうと踏んで取引(・・)を持ちかけて良かった。

 個性を使ったシーンは映っては居なかったが、不審なフードを深く被った人物が靄で覆われたナニカ(・・・)と共に校内に入って行く様子がばっちり撮られていた。

 話を掛けた時はどうやってマスコミが入ったのかを知りたい程度だったが思った以上の収穫に、取引を持ち掛けたマスコミの単独取材を受けるという苦労も報われるというものだ。

 向こうから食いついてくれたおかげで楽だったし、あの新人(・・)女性記者には感謝だな。

 

 ともあれどうやって侵入したかは分かった。

 壁を破壊した個性は凡そ推測出来た。

 容疑者らしき人物も顔は見えないが映ってはいた。

 得られる情報は得たし戻るとしますか。

 

 一応これらの情報はそっと相澤先生に伝えるけど、どうせ向こうは生徒にこういった詳しい説明はしてくれないだろうに。

 校舎に戻ろうとした扇動はぴたりと足を止めて、私用で使っている携帯ではなく仕事用の携帯を取り出す。

 

 何故壁は破壊されたのか? 

 ヴィランとすれば目的はなんだ?

 今現在暴れている様子が無ければただの悪戯か何かしらを仕込んでいる可能性がある。

 校内に潜伏はセンサー類から難しいが、不審物を残すぐらいなら可能だろう。

 だがもし中に潜める手段があるとすれば、それは後々にヤバイ事態が巻き起こる事も考えられる。

 

 こっちも一応示唆しておくが、ただの生徒である自分が出来る事はない。

 なので保険を掛けておいた方が良いだろう。

 無駄で終われば良し。

 本当にただの保険。

 

 電話帳の中から“ココ”と表示される人物に連絡をつける。

 ()を仲介して何かしら手は打ってくれるだろうと、ヘラヘラと笑う彼を思い浮かべながら話を付ける。

 

 ―――これが翌日に続く事件の幕開けであったとは露とも思わずに…。

 

 

 

 尚、朝のSHR(ショートホームルーム)に続いて、帰り前のLHR(ロングホームルーム)にて委員決めの続きが行われ、非常口に殺到した生徒が大混雑と混乱したのを見事治めた飯田の活躍により、緑谷が委員長として飯田を推薦して本人が受け入れた為に飯田が一年A組の委員長となる。

 その途中に上鳴 電気が言った“非常口飯田”というあだ名の詳細を情報収集の為に見逃した扇動は、「…何それ?」と困惑と興味津々と言った様子でLHRを過ごすのであった…。 

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