無個性オリ主が共にヒーロー目指す!   作:チェリオ

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第15話 ヴィラン襲来 前編

 サポートアイテムとは戦闘面または救助活動にて、使い手の手助けや補助を行う道具。

 多くは最新の技術や素材、電子機器を用いられたハイテクノロジーの塊であり、その用途や仕組みを理解していなければ性能を徒然に発揮する事は難しい。

 特に戦闘面を支える武器となると尚更だ。

 頼れる相棒となる筈が、理解及ばず戦闘中に使用不能なれば目も当てられないだろう。

 ゆえに扇動 無一は注文していたサポートアイテムのチェックは怠らない。

 握りの具合にトリガーの固さ、持った時の銃身に掛かる重み、折り畳み式の刀身(スタンロッド)と握りの機構、フレームに歪みがないか、弾倉の入り具合などなど。

 説明書に目を通しながら念入りに確かめる。

 今のところは問題はなさそうだが、撃った時(・・・・)の癖や()として扱った時の具合は実際に使ってみないと解らない。

 外見は灰色に銀色で構成された色合いに、大型拳銃と呼ぶに相応しい実物サイズなどほぼ要望通りで外見は良い感じではある。

 しかし実用性を考えると仕方なく手型のハンドオーサーや音声は無いが、趣味的には欲しかったところである。

 

 「男子ってそういうの好きだよね」

 

 移動中のバス内で座ってから一人確認作業に勤しんでいた扇動は、葉隠の言葉に顔を上げる。

 本日は第二回目となるヒーロー基礎学で人命救助(レスキュー)訓練を受けるのだが、雄英高校は多くの巨大な施設を複数持つために広大で、今回使用する施設まで校舎より距離がある為に敷地内をバスで移動しているのである。

 移動中はさしてする事がなく暇で、各々好きに時間を潰している。

 そんな中で一人作業をしていたら自然と皆からの注目を浴びてしまう。

 …ただバスでの移動と聞いて左右二列ずつの座席を予想して、緑谷より委員長の座を受け継いだ飯田が張り切って乗り込む際に皆を二列に並ばせて乗車させたのだが、予想に反して前半分は長椅子である為に張り切りが空回りして「こういうタイプだった!くそう!!」と叫んで一人だけ項垂れてはいるが…。

 周囲を見れば何人かと目が合い、隣の蛙吹や緑谷に向かいの芦戸は堂々と覗き込んでいた。

 

 「全員という訳ではないだろうが俺は好きだな」 

 「ってか銃刀法違反じゃね!?」

 「無許可で実銃だったらな。これは非殺傷のサポートアイテム」

 「戦闘訓練の時は使って無かったよね?」

 「デザインとか弾丸とか色々注文したから遅れたんだ」

 

 趣味満載のアイテムだから余計にな。

 機構と弾が特殊な為にコスチューム受け渡し時にこの二丁(・・)は間に合わなかった。

 一つはバス内で確かめていた仮面ライダーウィザードが使用していた“ウィザーソードガン”。

 コスチュームをウィザードにする時点でやはりこれはいるだろうと詳細な要望書を出しておいたのだ。

 弾丸は銀の弾丸…なんて殺傷能力の高いもの頼めないので、超小型の電源と回路を内蔵した特殊弾を用いるので近接可能なスタンガン()である

 もう一丁は黒基準で木製グリップのコルト・パイソン。

 こちらはウィザードは関係ないが、予備でもう一丁欲しいなと思ったら仮面ライダークウガで刑事(杉田 守道)がクウガに渡していたシーンが頭が過って要望したのだ。

 上鳴の問いに問題ないと二丁の拳銃を見せながらロングコートで隠れているホルスターに収める。

 これで銃の話題は終わったのか、蛙吹が緑谷に視線を向けて口を開いた。

 

 「私思った事をなんでも言っちゃうの。緑谷ちゃん」

 「あ、ハイ!?蛙吹さん!!」

 「梅雨ちゃんと呼んで―――アナタの個性、オールマイトに似てる」

 「―――ッ!?い、いや!それは…その」

 

 女性に話しかけられた事でテンパる緑谷は、次の言葉であからさまに慌てる様子を見せる。

 つくづく隠し事(・・・・・・・)に向かない性格しているよな。

 相も変わらずな様子に苦笑する。

 否定しようとするも動揺から言葉がガチガチに硬く、声は若干裏返ってしまっている。

 

 「待てよ梅雨ちゃん。オールマイトは個性使っても怪我しねぇぞ。似て非なるもんだぜ。にしても増強型のシンプルな個性は良いな!派手で出来る事が多い!俺の“硬化”は対人じゃあ強ぇけど地味なんだよなぁ…」

 「僕は凄くかっこいいと思うよ。プロでも十分通用する個性だよ。――ね?」

 

 途中で割って入った切島は否定すると同時に緑谷の個性を褒めては羨む言葉を並べるも、話題が逸れた事で調子が戻った緑谷はそれこそ否定して俺に同意を求めて来やがった。

 小さく苦笑しながら銃が納められていたアタッシュケースに説明書を仕舞い、頭の引き出しより返しの言葉を探し出す。

 

 「ある獣人が“攻撃は最大の防御”ということわざを用いて言ってたな。“防御する盾で攻撃まで出来るようにしちまえば、最大の攻撃と最大の防御が一緒になって、最大二つで最強なんじゃねえか”って」

 「いやいや無茶苦茶だろうソイツ…」

 「だがどちらも最大なら道理だろ?」

 「確かに…良いなソレ!」

 

 上鳴のツッコミを他所に気分の上がった切島は硬化した拳と拳をぶつけて、瞳はやる気で満ち溢れていた。

 個性…それもヒーローの話題となればヒーロー科としては盛り上がるのも道理。

 それぞれが“自分の個性が”という中、切島が参加していなかった爆豪や轟に振る。

 

 「派手で強ぇつったら轟と爆豪だな」

 「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気でなさそう」

 「ンだとコラ!!出すわ!!!」

 「ホラ」

 「この付き合いの浅さで既に“クソを下水で煮込んだような性格”と認識されるってスゲェよ!」

 「テメェのボキャブラリーは何だコラ!殺すぞ!!」

 「いや、誰もそこまでは思ってねぇよ…」

 「そこまではってなんだ!少しは思ってるってことか!?アァ!?」

 「あんまり騒ぐんじゃあねぇよ。隣に迷惑掛かってんだろうが。耳郎、何だったら席変わるか?」

 「いや、大丈夫。あと少しだろうし」

 

 蛙吹は通常運転だから良いとして、上鳴は怖い者知らずって言うより爆豪になんか恨みでもあんのか?

 あの(・・)爆豪が弄られている現状に驚き交じりで震える緑谷の隣で、扇動は上鳴に不思議そうな視線を向ける。

 話で盛り上がっている中で、芦戸はふと気になる事を思い出して扇動に話しかけた。

 

 「ところで扇動の個性ってなんなん?使ったところ見た事ないんだけど」

 「…あ?俺、無個性だが」

 「「「え!?」」」

 

 沈黙で車内が一気に静かになった。

 緑谷と爆豪、そして相澤先生を除く皆が目を見開き、口をポカーンと開けて驚愕しているような(・・・・・・・・・)表情を浮かべている。

 その様子に対して肩眉を吊り上げ、首を傾げていると理由を理解して納得した。

 

 「そういやぁ言ってなかったな」

 「ちょ、マジか!?」

 「それで入試一位ってどんなチートだよ!」

 「あー…確かに個性把握テストで飛びぬけた成績は出してなかったな」

 「お前らいい加減にしとけよ。もう着くぞ…」

  

 バス内で繰り広げられた喧騒も相澤の一言で静まり、目的地に到着したバスから降りた一同は巨大なドーム状の施設―――(ウソの)(災害や)(事故ルーム)に入って行く。

 内部は非常に広く、外見以上に深い(・・)

 施設内に入った矢先には数えるのも馬鹿らしいほどの階段が下へと続いており、火災に水域に土砂に山岳などなど多彩な災害現場が人工的に再現されている。

 さすが災害救助で活躍するスペースヒーロー“13号”先生(・・)が監修するだけはある。

 …というか雄英高校はどれだけの予算を使ってるんだか。

 ヒーロー育成への力の入れ方に感心するも、半分呆れが表情から零れ出る。

 

 そんな扇動を始めとした一年A組の面々を出迎えたのは、宇宙服のようなコスチュームで身体だけでなく素顔も隠している13号その人だった。

 13号の登場にヒーローオタクの緑谷は勿論ながら、好きなヒーローだったらしく麗日も高揚しているようだ。

 

 授業を始める前に13号から“お小言”称された説明と心持の話をされる。

 超人社会では当たり前になっている個性。

 誰もがアクセサリーのように気軽な扱いをする中で、実際に個性の危険性を肌身で感じている者は少ない。

 使い方一つで多くを救える可能性を秘めながらも、人を傷つけるだけでなく容易に殺す事も出来る力…。

 なんでも吸い込んで消滅させる“ブラックホール”という危険な個性を持つ13号ゆえに、話される内容に強い説得力と重みがある。

 

 「この授業では人命の為には個性をどう活用するかを学んでいきましょう。君達の力は人を傷つけるのではなく、誰かを助ける為にあるものだと心得て下さい。以上!ご清聴ありがとうございました」

 

 そう締め括ると為になる話に聴き入っていた皆は、自然と拍手喝采が沸き起こった。

 柔らかな口調に紳士的な態度も相まって、初見であるが好印象を持った扇動も拍手し、ピリッとひり付く様な感覚にバッと勢いよく振り返る。

 階段下の広場に黒い靄が沸き起こり、靄の中から人が現れた。

 それも一人や二人ではなく団体でだ…。

 

 「なんだありゃあ?入試の時みたくもう始まっているパターン?」

 「動くな!あれはヴィランだ!!」

 

 相澤の言葉に驚愕する皆。

 それよりも黒い靄を発生させているであろう、靄を纏っているヴィランは先日の事件(マスコミ侵入)で映像に映っていた奴だと理解して苦虫を潰したような顔をする。

 

 「先生。あの靄は…」

 「あぁ、そうだろうな。先日の件はクソ共(ヴィラン)の仕業だったか」

 

 扇動はホルスターから抜いた銃剣--ウィザーソードガンを構え、相澤は本当に忌々しそうに睨みながら首に掛けてある捕縛布に手を掛ける。

 ヴィランが続々と現れている中で、ひときわ目立つのは三名。

 脳みそが剥き出しで嘴のような口に、オールマイトのような大きく逞しい肉体のヴィランに、黒い靄を纏い転移系個性を持っているであろう靄のヴィラン。

 そしてその二人の間に立ち、顔や首や腕などに“手”を付けている“手だらけ”…。

 顔を隠すように付けている手で覆われているも、指の隙間から目が合った気がした。

 ニタリと実に楽しそうに笑みを浮かべた奴は言った。

 

 「子供を殺せば来るのかな?」

 

 こうも真っ向から悪意を…それも無邪気(・・・)な悪意を向けられたのは初めてだ。

 妙な違和感を感じて正体を探るよりも内ポケットにしまっている携帯へと手を伸ばす。

 

 「(ヴィラン)!?ヒーローの学校に入り込んで来るなんて馬鹿だろ!」

 「逆だ逆。ヒーローが多数いる学校に乗り込めるほど周到な準備してんだよ…」

 

 切島の発言を否定しながら即座に携帯を確認するもやはり圏外(・・・・・)と表示され、電波は一本も立っちゃあいない。

 通信網の遮断に作動していない侵入者用のセンサー、校舎から離れた空間にヴィラン多数。

 付け加えてヴィラン側は靄より現れた事から“転移”系の個性持ちが居り、退路を確保しているだけでなく援軍を呼ぶ事だって可能だ。

 

 「13号は生徒の避難を!センサー対策をしているなら電波系の個性が妨害している可能性がある。上鳴、お前の個性で連絡出来ないか試せ」

 「了解っス!」

 「先生は!?まさか一人で戦うんじゃあ…」

 「ヒーローは一芸では務まらん」

 

 そう言うと捕縛布を多少緩めながら、何百とあろう階段をひとっ跳びで降りていく。

 身を隠すことも自由に動けぬ空中ゆえにヴィランは射撃可能な個性持ちが前に出るも、相澤―――イレイザーヘッドの個性を消す個性によって乱され(・・・)、呆気ない程に接近を許してしまう。

 もうそこからは無双だ。

 捕縛布を絡めて振り回し、蹴り飛ばしたり殴り倒したり…。

 戦闘経験豊富なプロヒーローという事もあるのだが、動きの悪さや判断の遅さが程度の低さも大きく関係している。

 厄介そうなのは居るが今は一刻も早く援軍を呼ぶべく、校舎に向かうのが正しいだろう。

 13号もそう判断して早くここから出るように指示を出す。

 相も変わらず分析して遅れているのが一人(緑谷)いるが…。

 

 「―――させませんよ」

 

 出入口に向かおうとして背後より聞こえた声に振り返ると、いつの間にか靄のヴィランがすぐそこまで来ていた。 

 簡単には逃がして貰えないか…。

 

 「初めまして。我々はヴィラン連ご―――ッ!?」

 「チッ、左に流れやがる(弾丸が)

 

 突如と眼前に現れた黒い靄のヴィランに一同が驚く中、扇動はウィザーソードガンを向けて発砲。

 調整が上手くいっておらず弾は左に逸れ、咄嗟に避けられた事で当たる事は無かった。

 

 「避けたな。靄で解り辛ぇが本体があるらしいな」

 「…生徒と言えど優秀な金の卵。さすがに侮れませんね……!」

 「13号先生。靄を頼みます」

 

 余裕を見せてべらべら喋る靄から視線と銃口を外さず、小声で13号に伝える。

 ズレはだいたい今ので理解出来たので端っからずらす事で修正可能。

 靄が邪魔で本体が狙い辛いがそこは13号の個性で吸い取って貰えれば何とでもなる。

 最悪そのまま吸い込むという手もあるがヒーローである以上取りたくない選択肢だ。

 察した13号は個性を使おうと指先のカバーを開く。

 

 予想外(イレギュラー)というのは突如と起こり得る。

 いきなり射撃されるとは思わなかった靄のヴィランもそうだが、扇動と13号もまさか射線上に爆豪と切島が飛び出して行くとは思わなかった。

 これでは13号は個性が使えないし、俺も撃つことも出来ない。

 切島の“硬化”による打撃は実体を捉えられず不発。

 範囲で攻撃できる爆豪の“爆破”は効果はあっただろうが、爆発で発生した爆煙で視界が遮られる。

 

 「我々ヴィラン連合の目的は平和の象徴オールマイトに息絶えて頂きに参りましたが、どうも予定が変更されたようで。まぁ、それとは関係なく…」

 「退け爆豪!切島!!」

 「私の役目は―――散らして嬲り殺す」

 

 煙りの向こうで声がした事から即座に距離を取れと叫ぶも、先に黒い靄が周囲を取り囲み。

 扇動達は成す術なく靄に包まれた…。

 

 

 

 

 

 

 名門中の名門である雄英高校ヒーロー科を受かっただけに、一年生と言えども能力や個性はずば抜けている。

 とは言えまだヒーローへ至るスタートラインに立ったばかりの雛であり、戦闘経験など皆無に近い彼ら・彼女らに突然のヴィラン襲撃は酷…。

 多くの者が焦りや不安を抱きながら、何とかしようと足掻き行動する中、耳郎 響香(ジロウ キョウカ)は自身の幸運(・・)に感謝していた。

 

 黒い靄に包まれた耳郎は次の瞬間には山岳ゾーンへと転移(・・)させられていた。

 名前の通り山岳地帯を再現して、救助訓練などを行う訓練場。

 その為に岩場で囲まれて足場は悪く、周囲は崖で囲まれて逃げ場がない。

 橋を使えば別の場所へと移動する事が可能であるが、山岳地帯を表現する為か吊り橋は縄と木材で組まれたもので、もしも渡ろうとすれば間違いなくロープを切られて谷底に真っ逆さまだろう。

 

 「うおっ!今マジで三途の川見えた!!何なんだよこいつら!!」

 

 この山岳地帯に転移させられたのは四名。

 一人は戦闘訓練で同じ組になった上鳴 電気。

 個性は“帯電”で電気を纏ったり周囲に放電出来たりと協力だけども、敵も味方も密集しているこの状況では無差別に感電させるしかなく、個性が状況に合わずに使えずにいる。

 大柄のヴィランの攻撃を何とか避けて逃げ惑う様子にイラっとする。

 

 勿論こんな状況で学生がいきなりヴィランとの戦闘という事で気持ちは理解出来る。

 だけどそれはこちらも同じこと。

 寧ろ自分を含めて女の子二人が必死に戦っているのに、騒いで逃げ惑う姿に苛立たない方が少ないだろう。

 

 「男の癖にうだうだと…」

 「だって仕方ねぇじゃん!俺の個性だとお前ら巻き込んじゃうんだから!」

 「お二人共真剣に!」

 

 八百万 百の叱咤を受けて、上鳴から目の前のヴィランへと意識を移す。

 一緒に八百万が居てくれた事は幸運の一つだ。

 推薦入学者はヒーロー科の中でも個性も実力も群を抜いている。

 冷静な判断からなる指示やサポートに付け加え、“創造”の個性により武器を難なく入手できるのは大きい。

 本人も創り出した長い鉄製の棒で応戦しており、耳郎も刃が潰れた鉈モドキで戦っている。

 彼女が中核を担ってくれるおかげで思いっきり戦闘に専念できる。

 

 「お嬢!鉄製の棍棒で良いから上鳴に渡してやれ!」

 「いやいや、俺近接なんて…」

 「電気流しゃあ簡易スタンガンになんだろ!」

 「解りましたわ。上鳴さん!」

 

 同じく転移させられた扇動 無一の言葉に従って八百万が“創造”した棍棒を上鳴に投げ渡す。

 受け取った上鳴は恐る恐る電気を纏うと、棍棒にも電気が流れた。

 そこへ襲ってくるヴィランに咄嗟に振るうと当たった棍棒で痛みを与えると同時に、流れた電気によって相手が痺れて倒れた。

 倒したヴィランと棍棒を何度か眺め、自信に満ちた笑みを浮かべて振り返って来た。

 

 「通用するわコレ、俺強ぇ!みんな俺を頼れ!!」

 「軽いなオイ…」

 「ならそのまま前衛を頼むぞ!耳郎は中距離も兼ねた支援してやれ!お嬢、そっちの指揮は―――」

 「解っていますわ。皆さん、引き締めて参りましょう!」

 

 上鳴が前衛として機能した事で三人の(・・・)連携が生まれ始めた。

 拙いながらも上鳴が前衛を務め、八百万が後方支援しつつ指揮を執る。そしてウチが前衛兼個性による援護を行う。

 個性“イヤホンジャック”は耳たぶがプラグになっており、そのまま挿せばで自身の心音を爆音として対象に響かせ、ブーツに取りつけてあるスピーカーと繋ぐことで爆音を衝撃波として放つことが可能。

 こちらに向かって来たヴィランを片付けて一息つき、もう一方へ(・・・・・)視線を向けると向こうもどうやら終えたようだ。

 

 「っーかあいつやべぇだろ…あれで無個性って」

 「けどおかげでウチらは助かるよ」

 

 視線の先には一人離れて大勢を相手に大立ち回りを披露し、見事無傷で勝利を収めた扇動 無一が息を切らす事もなく立っていた。

 正直ウチらは有難いのだけど、襲ってきたヴィラン達にしたら災難だっただろう。

 

 

 転移させられた直後の扇動の動きは速かった。

 広がる地形に相手の人数を認識した瞬間には走り出していた。

 地形の利もなく数は劣勢。

 相手の詳しい情報が枯渇している状況下で、ただ待ち構えるのは悪手過ぎる(・・・・・)。 

 そもそも無個性で近接戦闘メインの扇動の場合は、遠距離攻撃可能な個性持ちで囲まれたら詰みなのだ。

 ヴィランが大勢を整える前に強烈な一撃で乱す事で相手の連携を崩すのみでなく、戦闘慣れしていないであろうクラスメイトの支援にも繋がる。

 走り出すと同時に離れた位置に躊躇なく催涙手榴弾を放って場を乱し、いきなりの攻撃に慌てた先頭のヴィランに回し蹴りを喰らわせた。

 個性を活かすコスチュームではなくほとんど私服のような服装や、相澤先生に対して連携も対応も取れていない様子から訓練を受けた戦闘集団ではなく寄せ集めである事は解りきっている。

 乱戦に持ち込めば同士討ちを仕出かすだろうし、気付いてしまえば攻撃の手が疎かになる。

 扇動の思惑通りに多勢で囲んでいる割に攻撃が出来ず、一人一人と蹴りをメインにした攻撃を受けては倒れ込んでいく。

 ロングコートを大きく揺らしながら動き回っては蹴りを喰らわせていたかと思うと、ウィザーソードガンを手にすると余裕を持って歩きながら相手の動きに注意して攻撃モーションに入ったらしい奴から撃っては気絶(スタンガン)させ、終いにはスモークグレネードで視界を遮ってからウィザーソードガンを銃から剣に切り替えてまたも突っ込んでいく。

 

 

 ちらりと視界に映っていたがハッキリ言って実力が違い過ぎる。

 そのおかげで四分の三が引き付けられて、ウチらは残り四分の一を相手するだけで済んで、誰も欠ける事無く無事に助かった(・・・・・・・)のだが…。

 

 油断…。

 数日前まで普通の学生で戦闘経験などある筈も無く、ヴィラン襲撃という危機的状況を打破したと思い込んだ矢先だっただけに、気が緩むというのはしょうがない。

 しかしそれをしょうがないと片付ける程、ヴィランは待ってはくれやしない。

 

 「―――ヒッ!?」

 「動くな。手だけ上げてろ…勿論“個性”は禁止だ。使用せずとも妙な動きを見えたらこいつを殺すぞ」

 「上鳴さん!」

 「やられた…完全に油断してた…」

 

 地中に潜って潜んでいたヴィランは出て来ると背後より上鳴の首根っこを掴んで人質にし、もう片腕には電気を走らせて不敵な笑みを浮かばせる。

 悔しがってももう遅すぎた。

 言われるがまま両手を上げて隙を伺うしかない。

 そう思っていた矢先、少し距離を置いていた扇動が堂々と白い銃(ウィザーソードガン)を仕舞って、リボルバー(コルトパイソン)を懐から取り出したのだ。

 さらにポケットより弾を一発だけ取り出し装填までする始末…。

 「なにしてんだよ!?」と言う前にヴィランが口を開いた。

 

 「良いもん()持ってんじゃァねぇか。そいつを渡せ」

 

 気分良さ気に要求するヴィラン。

 対して扇動は「なに言ってんだこいつは?」と言わん限りに怪訝な表情を浮かべ、銃口をヴィランへと向けた。

 この行動にウチら以上に驚いたのはヴィランだ。

 人質の上鳴を盾にしながら、首筋に電気を纏わした手を近づけて脅しをかける。

 

 「お前、状況が解ってんのか!?こっちには人質が居るんだぞ!!」

 「だから…それがどうしたって言ってんだろ」

 「状況が解ってねぇのかよ!?」

 「違ぇよ。テメェが状況を理解出来てねぇんだろうが…。そっちは殺害を公言したヴィランじゃあねぇか。殺されると解って渡すなんざ“武器を渡すだけ損じゃねぇか”」

 「扇動さん!今はそんな事を言っている時では…」

 「それにだ。俺や上鳴は別として美少女二人(八百万と耳郎)は捕まった場合、ナニ(・・)されるか解かったもんじゃない―――考えただけで反吐が出る!」

 

 怒気がこちらにまで伝わって来る。

 真正面から受ける事になったヴィランは、怒りを通り越して殺気すら籠った青い瞳に背筋が凍り付く様な錯覚に襲われていた。

 ふぅ…と小さく息を吐き出し、真っ直ぐ上鳴を見つめる。

 

 「上鳴―――お前が選べ」

 

 ただそれだけ…。

 短く主語の無い言葉であったが、何を指しているのかは明白だった。

 ゴクリと生唾を呑み込んだ上鳴は今にも吐きそうなぐらい青い顔をし、不安や怯えなどで震えを払うように虚勢交じりで叫ぶ。

 

 「…お、俺に構わずに撃ってくれ!」

 

 …銃声が響き渡る。

 上鳴の身体が揺れて、白いシャツが赤く染まる。

 呆けた表情を晒した後、腹部を押さえて藻掻き出す。

 撃たれた痛みから暴れ出す上鳴は完全にヴィランの行動の疎外にしかならず、人質を取ったがゆえに咄嗟に動けなかったヴィランに扇動が迫る。

 上鳴を突き放して電気の纏った腕を振るうも避けられ、電気はロングコートを撫でるだけで扇動にまで伝わる事は無かった。

 “火災などを想定して”制作されたロングコートは、電気による火災も想定して対策を施されている。

 完全に攻撃を無効化した扇動は接近して、鉄板が仕込まれているシューズが顎を打ち抜くように思いっきり回し蹴りをかました。

 顎を打ち抜かれた衝撃で脳を揺らされたヴィランは白目をむいてその場に伏した。

 完全に敵を無力化したのを確認した扇動は仮面を外して一息つく。

 耳郎は沸き起こる怒りのまま駆け出し、振り被った平手で扇動の頬を叩いた。

 

 「アンタ何してんの!!」

 

 避ける事もせずに受けた扇動の態度を気にすることなく胸倉を掴んで叫ぶ。 

 出会って数日の関係だ。

 だからと言って見捨てる事など出来る筈がない。

 あの状況で他にどんな手段が取れたかなんて分からないが、ヒーローを目指す者が仲間を斬り捨てる事を…いや、ヒーロー云々関係なくそれ自体がウチは許せることではなかった。

 怒りと悲しみで言葉が出ず、瞳に涙を浮かべて睨みつける。

 

 「失望しましたわ扇動さん!」

 

 同じく八百万も吐き捨て、痛い痛いと呻きながら転がり回る上鳴に駆け寄る。

 状況が状況だけに即座に病院に連れていくことは叶わない。

 せめて血だけでも止めなくてはと八百万は傷口を押さえて一時的にでも止血しようと服を捲る。

 最初は小さかったのに短時間で大きく広がった赤いシャツを見て、耳郎は目を逸らしながら上鳴が助かる事を祈る事しか出来ない。

 

 

 

 

 「上鳴さん………何処を撃たれた(・・・・・・・)のですか?」

 「うぇ?」

 

 捲ったものの撃たれた個所が見当たらず、何度も探すが怪我一つない身体に八百万は首を傾げる。

 服を降ろせばやはり真っ赤に染まっている。

 どういう事だと全員が扇動に視線を向ける。

 

 「言っただろう。“これは非殺傷の(・・・・・・・)サポートアイテム(・・・・・・・・)”だってな」

 「え?じゃあ撃ったのは…」

 「ペイント弾。こいつは見かけはリボルバーだけど見た目だけで中身はガスガン」

 

 トリガーを引けば撃鉄が降りるも銃口からは勢いよく何かが抜ける音がした。

 ポケットより数種類の弾丸を取り出し、ペイント弾以外に発信機やゴム弾などの非殺傷の弾だと説明する。

 

 「人質が足手まといになれば戦うにしても逃げるにしてもヴィランにとっては邪魔なだけだ。かと言って見せしめに殺すなんて手間が増える上に相手に攻撃させる隙を生むだけで悪手にしかならない」

 「咄嗟にそこまで考え付いたのですか?」

 「いんや、探偵やってる元刑事(名探偵コナンの毛利 小五郎)を参考にさせて貰った。悪かったな上鳴、一張羅汚しちまって」

 「構わねぇって。寧ろ助かった!ありがとう」

 

 状況と扇動が行った事を理解して手が緩む。

 叩いた事も胸倉をつかんだ事にも文句を言う事無く、リボルバーを仕舞って座ったままの上鳴に手を差し伸べて立ち上がらせる。

 ウチと八百万は知らなかった、知らされなかったとはいえ発言と行動から罪悪感が募る。

 

 「う、ウチッ………!」

 「反省も後悔も後回しだ。今は最善を尽く為に行くぞ」

 

 気にしてないと言わんばかりにニカリと笑う扇動。

 そう…まだ危機的状況は終わってないのだ。

 頬を軽く叩いて気持ちを切り替え、とりあえず今は扇動のいう通り皆で助かるべく進むのであった。

 




 “攻撃は最大の防御”って言葉があるらしい。じゃあよ、防御する盾で攻撃まで出来るようにしちまえば、最大の攻撃と最大の防御が一緒になって、最大二つで最強なんじゃねえか
 【Re:ゼロから始める異世界生活】ガーフィール・ティンゼルより
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