無個性オリ主が共にヒーロー目指す!   作:チェリオ

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第16話 ヴィラン襲来 後編

 ―――平和の象徴であるオールマイトの殺害…。

 

 “ヴィラン連合”を名乗る集団はその目標を達するが為に、綿密な計画と兵力を搔き集めて事を起こした。

 ただ彼らも雄英高校に真正面から戦うような馬鹿な作戦は立てなかった。

 そもそも頭数を揃えた程度で攻略できるほど簡単ではないのだ。

 相手は高いセキュリティ装置で固め、教員がプロヒーローで戦闘能力も高い。

 まともに相手したところで一部を除いて(・・・・・・)勝機は無い。

 

 だからこそ自分達に有利な状況を敵地のど真ん中に作り上げた。

 目標であるオールマイトの予定を入手し、物理的に校舎から離れた場所に移る時を狙い、防犯センサーや通信類を妨害する個性持ちによる通信網の遮断。

 座標さえ分かれば転移するゲートを開けれる個性持ち“黒霧”による、大規模な兵隊の投入を行うべくマスコミを陽動として勝手に(・・・)利用した下見。

 オールマイト対策が施された者を用意(・・・・・・・・)し、さらには戦闘経験のない生徒を散らして集めた兵隊(ヴィラン)に襲わせる事で、正義の味方(ヒーロー)のオールマイトが逃げられない状況も出来る。

 

 全てがヴィラン連合にとって都合の良い方向に進む―――筈であった…。

 

 どれだけ念入りな計画を立てようとも異常事態(イレギュラー)は意図も容易く発生し得る。

 まず最初の綻びはオールマイトの不在だっただろう。

 通勤時にヴィラン事件を耳にしたオールマイトは性格的に見逃せずに、結果として授業に遅れるばかりか本日の活動時間を大幅に削って校長から有難いお話(教員としての心得)を貰っている。

 

 次に挙げるは生徒の実力だろうか。

 数日前までただの中学生だった彼ら・彼女らであるも、難関である雄英高校の狭き門を突破したヒーローの卵。

 (ウソの)(災害や)(事故ルーム)の各災害エリアに戦闘を強いられるも、どこもかしこもヒーロー側優位に事を進めている。

 暴風・大雨ゾーンでは常闇に口田が、火災ゾーンでは尾白が多勢を相手にして個性と戦い方で優勢。

 土砂ゾーンの轟と、倒壊ゾーンの爆豪と切島に至っては配置されていた連中を呆気なく全滅させる始末。

 兵隊移送に退路の役割を担う個性“ワープゲート”を持ち、ヴィラン連合の中核を担う“黒霧”が入り口付近にて、プロヒーローで教員の13号の個性“ブラックホール”を“ワープゲート”で繋げて大怪我を負わせるという戦果を挙げるも、飛ばし(転移)きれなかった生徒達の一致団結した反撃に合い、ヒーロー科一年A組で最も速力を持つ飯田 天哉を逃がしてしまうという失態を演じてしまう。

 この時点でヴィラン連合の有利は、時間が立てば経つほど覆る事が確定した。

 …とは言ってもこれは黒霧の認識上の話であって、事実は大きく異なる。

 

 山岳ゾーンにて扇動・八百万・耳郎・上鳴の活躍で、配置していた者が全滅したどころか通信類を妨害していた個性持ちまで倒されたのだ。

 すでにセンサーによって侵入者が入り込んでいる事は学校側に伝わっており、今頃は校舎にいる生徒の安全を図るための護りを残して、教員による救出部隊が編成されているところである。

 ヴィラン連合にとって思っている以上に時間はなく、襲撃を受けた一年A組にすれば時間さえ経てば助かるのである。

 

 

 

 そんな最中、自ら危機を脱して中央広場に向かっている者達が居た。

 水難ゾーンに飛ばされた緑谷・蛙吹・峰田の三名だ。

 水難ゾーンはその名の通り、水難事故などの訓練を積むべく、広く深い人工湖が誂えられた災害ゾーン。

 当然ながら緑谷達を待ち構えていたのは、水中で真価を発揮する個性持ちで固められたヴィラン達。

 如何なる超人であろうとも人である以上は水中では行動を制限される。

 オールマイトより“ワンフォーオール”を受け継いだ緑谷も例外に漏れず、峰田と共にヴィランに襲われるところであったのだが、舌を伸ばしたり高い跳躍能力、壁に貼り付いたりちょっとした毒(ピり付く程度)を含んだ体液を分泌など、蛙が行えることはだいたい出来る個性を持った蛙吹が居たのは救いであった。

 彼女もまた水中での真価を発揮し、緑谷と峰田をヴィランより素早く救出して、人工湖に浮かべられたプレジャーボートへと引き上げた。

 その後、親指と中指がグニャグニャに骨折するという使い切れない個性の反動を受けながらも、ワンフォーオールから発生させた風圧で水面を割る緑谷。

 割られて元に戻ろうとする水の流れに峰田は恐怖から泣き叫びつつも頭皮より生えた球体を投げまくる。

 その球体は体調次第で一日以上粘着したものから離れない峰田の個性“もぎもぎ”で、流れに呑まれたヴィラン同士がくっついて文字通り一網打尽にする事が出来た。

 最後に二人を高い跳躍能力を持つ蛙吹が飲み込まれないように遠くへ抱えて跳んで脱出。

 ヴィランとの戦闘経験()皆無だった三人は、緑谷が負傷するも初戦闘にて初勝利を飾ったのだ。

 

 この時、緑谷は錯覚していた。

 水難ゾーンのヴィラン達に勝てたのだから、自らの力は十分ヴィラン達に通用するんだと…。

 大勢のヴィランが居た中央広場を避けて出口に向かうのが最善なのだけど、相澤先生に助力して少しでも負担を減らせればと考え、逆に中央広場に向かう選択肢を取った。

 

 淡い期待を抱いて進み―――そして絶望を見た…。

 

 相澤先生の個性は見ている対象の個性を使えなくする“抹消”。

 単純な戦闘で力を発揮する個性ではないものの、鍛えられた戦闘技術と身体能力で一体多数にも関わらず圧倒していた。

 そんな先生は“手”を身体のあちこちに嵌めたヴィランに、“瞬きするタイミング”と“個性を使用するごとに間隔が短くなる”という弱点を見破られ、触れられた右肘の皮膚がぽろぽろと崩された(・・・・)

 さらに追い打ちをかけるようにオールマイトのような大柄のヴィラン“脳無”が迫り、一撃で地面に叩き伏せられた上に右腕をバキバキに折り曲げられた。

 

 あの相澤先生が…プロヒーロー(・・・・・・)があっさりとやられた…。

 目の前で起こった痛々しい光景に声も出なかった。

 小枝でも折るように左腕も折られ、上げさせた顔面に地面に罅が入るほどの力で叩き付ける…。

 

 「死柄木 弔」

 「黒霧。13号は殺ったのか?」

 「行動不能にはしましたが、散らし(転移)損ねた生徒が居りまして………一名逃げられました」

 「……はぁ?」

 

 死柄木と呼ばれたヴィランは不機嫌そうにため息を吐き出し、首を両手でガリガリと搔きむしる。

 苛立ちを言葉に乗せて「お前がワープゲートじゃなかったら殺してるよ」と黒霧という黒い靄で包まれたヴィランに言い放ち、今度は冷静にプロヒーローの応援が来ては不利だと呟く。

 

 「あーぁ、今回は(・・・)ゲームオーバーだ。帰ろっか…」

 

 ヴィランが帰ると言った事で助かるんだと喜び、蛙吹に抱き着いたどさくさに胸に触れ、沈められる(水中)峰田に一切気にすることなく思考は働かす。

 彼らはオールマイトを殺すと公言した。

 だけどこのまま帰ったら雄英の危機意識が上がって、入り込むのは今以上に困難になる。

 それに今回は(・・・)と次を示唆する言葉に、ゲームオーバーなんてゲーム(遊び)でもしているかのような台詞。

 いったい何を考えているんだ?

 恐怖と混乱混じりで思考に雑音(ノイズ)が走る…。

 

 「けどもその前に平和の象徴としての矜持を少しでも――――――へし折って帰ろう!」

 

 一気に距離を詰められ、手が蛙吹さんへと伸ばされる。

 観た筈だ…。

 相澤先生の肘が崩れる瞬間を…。

 最悪の光景を脳が理解しても動きが追い付かず、視線だけで追っていた死柄木の手は蛙吹に触れようとして―――停止した。

 

 「本当にかっこいいぜ。イレイザーヘッド」

 

 手を止めたのは重症で身動きもとれない相澤先生の個性で封じられたから。

 ニタリと笑いながら呟くと、個性を発動していた相澤は再び地面に叩き付けられた。

 

 身体が震える。

 恐怖心で感情が乱される。

 自身が傷つくより他の誰かが(・・・・・・・)傷つくのが怖い。

 焦りながら跳び出した緑谷は「SMASH!!」と叫びながら殴りかかった。

 発揮された威力の拳が風圧を伴って直撃して煙を巻き上げる。

 相手がどうなったかより、個性を使って右腕が負傷していない事実に驚きを隠せない。

 

 初めて無機物ではなく人に使うという事で、無意識化で個性にセーブが掛かったのだ。

 相澤が課題として言っていた個性の制御が偶然ながらも出来た事に戸惑いながら喜びが交え、煙が晴れると絶望が緑谷を包み込む。

 狙った死柄木を護るように立ちはだかった脳無によって防がれた。

 それも聞いていないように微動だにせず…。

 

 「良い動きをするなぁ…スマッシュってオールマイトのフォロワーかな?……まぁ、いいや」 

  

 視界がゆるりと動く。

 人は危険な目に合うとスローモーションのように遅く感じる事があるらしい。

 相澤先生を倒した巨躯のヴィランが自身に迫る中、助けようと舌を伸ばす蛙吹。

 その蛙吹と峯田を個性で“崩壊”させるべく頭へと手を伸ばす死柄木。

 緑谷は勿論、蛙吹も峰田も危ういこの状況…。

 なんとか打破出来ないかと思い焦るばかりで思考が纏まらない。

 こんな時はどうすれば良い?

 憧れのヒーローであるオールマイトなら…爆豪なら…扇動ならと記憶を辿るも答えは出ない。

 絶望的な状況にて、居ない筈の声が聞こえた。

 

 「―――オレ、参上」

 「あぁ?」

 「むーくん!?」

 

 その場の誰もが声を発するまで気付かなかった(・・・・・・・)

 命令を順守するだけの脳無を除き、誰もが突如現れたかのような扇動に視線を向ける。

 わざと注目を浴びるようにして隙を生み出した(・・・・・・・)

 

 地面が一直線に凍り付き、脳無が首から上を残して氷漬けにされる。

 辿った先にはやはり轟が立っており、安堵さから白くなった吐息を漏らした。

 一瞬で脳無が凍らされたことに驚きつつ、死柄木が立ち上がりながら扇動に手を伸ばす。

 扇動は触られたら崩壊するのを知っているかのように(・・・・・・・・・・)避けて外側に回り込み、手首を右手で掴むと左手は首に絡めるように押し、死柄木の体制を後ろへと傾かせて後ろから足を蹴り飛ばす。

 空中で後転させながら水の中へと叩き落した扇動は、緑谷へと手を差し出した。

 

 「早く上がって来い。それともずっと水ン中居るのか?」

 「死柄木 弔!よくも―――」

 「むーくん、後ろ!!」

 

 手を掴むより先に背後より迫る黒霧。

 しかし扇動は目を向ける事もしなかった。

 否、する必要がないのだ(・・・・・・・・・)

 “爆破”の個性を使っての空中移動してやって来た爆豪により、黒霧は“爆破”をもろに受けてよろめいた所を組み伏せられた。

 

 「後ろがガラ空きじゃあねぇか!ちゃんと見とけや!!」

 「預けてんだよ」

 「――ケッ!良いかクソ靄!怪しい動きをしたと俺が判断したら爆破する!!」

 「ヒーローらしからぬ言動だな…」

 「悪ぃな、他の面子と合流してたら遅れた」

 「ううん!助かったよ」

 

 扇動に爆豪、そして轟と頼りになる仲間が駆け付けてくれた事で、緑谷はホッとして気が抜ける。

 今度こそ手を掴むと引き上げられ、次に蛙吹に峰田も同様に引き上げられた。

 周囲を確認すると離れた位置にはこちらに掛けてくる八百万たちの姿もあった。

 

 「扇動さん!」

 「お嬢は相澤先生連れて出入り口へ向かえ」

 「私も戦いますわ!」

 「馬鹿、救助優先だ!梅雨ちゃんに耳郎、上鳴、峰田、それと葉隠(・・)も先に行け」

 「葉隠、居たのか?」

 「居たよ!?ずっと一緒に居たよ!」

 「…分かってたんじゃねぇのか?合流した時からずっと後ろにいたが」

 「気付かなかった」

 「やってくれたな……脳無!!」

 

 突き落とされてびしょ濡れになりながらも上がって来た死柄木の一声で、脳無は無理に動いて自らの肉体ごと氷を割った。

 飛び散る氷と肉片に戸惑うも、それ以上に瞬時に再生した肉体に目が行く。

 

 「遠目ながら見てたが尋常ならざる力に緑谷の攻撃を掻き消した(・・・・・)個性に高い再生能力など個性の複数持ちか…勝ち目が全く持って見当たらねぇな」

 「あぁ!?何弱気な事言ってんだ!!」

 「事実だ。真っ向からじゃあ俺は勝てねぇ………けどよ、対処出来ない訳じゃあねぇぞ―――轟、もう一度凍らせてくれ!!」

 「さっき“超再生(個性)”を自分で示唆したばっかじゃんか」

 

 無駄な事を…と嘲笑う死柄木を他所に、扇動の指示通り轟は脳無を再び凍り付かせ、脳無も先ほどと同じく身体を砕いて再生しようとする脳無。

 扇動はベルトのフック付きワイヤーを抜き取ってフックを躊躇う事無く脳無に突き刺すと、そのままワイヤーを乱雑に絡ませる。

 雑過ぎて緩々であったが再生した部位で無くなり、寧ろ無理な体制で縛り上げたのだ。

 頑丈なワイヤーが食い込んで、体勢も悪い事から力が入り辛い。

 

 「“再生力があり過ぎるのが仇となったな。内側から盛り上がる自分の肉で自ら締め付けられる”ってな」

 「おぉ、凄ェ!あの脳無ってやつ身動き取れてねぇぞ!!」

 「ったりめぇだ。そう言う風にしたんだからな!」

 「身動きが取れないなら―――」

 「逸るな!撤退だよ!!」

 「え!?このまま捕まえるんじゃぁ…」

 「一時的に動きを止めただけだ!殺し切れるだけの…」

 「こ、殺し…?」

 「間違えた。押し切れるだけの力量はねぇんだよ!」

 「いや、このまま行けるって!」

 

 そう…殺し切れない(・・・・・・)

 捕縛や気絶させると言った手間を一切無視した戦闘行為をもってしても倒しきれないと扇動は判断した。

 そもそも時間さえ稼げば勝利(・・)なのだ。

 直にプロヒーローである教員達が駆け付ける。

 無理に戦う必要も無茶して捕まえる必要性は無い。

 だからこそ撤退を想定して先に八百万たちを先に退避させ、戦闘能力や移動が速い者で足止めを敢行したのだ。

 …けど黒霧と脳無の動きを封じ、今動けるのは死柄木だけという状況は血気盛んな若者には好機に映ってしまった。

 切島は発した一言に同意する様に轟もまた死柄木をやる気満々で睨みつける。

 爆豪は扇動の言葉の意図を察して理解はしているらしいが、性格から絶対に“ヴィランに背を向ける”事は自らする訳はないがな…。

 

 案の定、頑丈なワイヤーも圧倒的過ぎるパワーの前にはぶちぶちと引き千切られ始め、自由の身となった脳無は咆哮を上げて突っ込んで来る。

 それも周りの誰もが反応(・・・・・・・・)出来ない程の速度で…。

 唯一目で追えたのは扇動のみだった。 

 これも爺さんに頼んで多くのプロヒーローと模擬戦をして目が慣れていたおかげだ。

 受け流しや回避ならまだしも、真正面から受け止める事は不可能。

 しかしながらすぐ側に緑谷と轟が居る為に、受け流す事も自分だけ避ける事も出来やしない。

 迫る脳無の動きを視界に捉えながら思考する。

 現状どうするのが一番合理的(・・・)なのか。

 コンマ代での思考の末、扇動は緑谷と轟を突き飛ばした(・・・・・・)

 轟の個性は現状一番の有効打。

 凍らせる事で数秒と言えど足止めが出来るし、使うか否かは置いといて炎は火力次第では再生部分を焼いて再生自体を食い止める事が出来るやもしれぬ。

 現状負傷した上に個性が通じない緑谷だが、理屈云々関係なくやらせる訳にはいかない。

 その二人に比べてパワー負けしており、有効であろうサポートアイテムを戦闘訓練含めて使い切ってしまっている己では、切り捨てるべきは誰かなどハッキリしている。

 

 「――扇動!?」

 「――むーくん!?」

 

 片腕ぐらいで済めば良い方か(・・・・)と二人の心配そうな叫びを聞きつつ、左腕を盾にするように体と右腕で支えて犠牲覚悟で受ける事を選択した。

 目にも止まらぬほどの速度で迫る体躯と拳。

 眼前まで迫った一撃により風圧が身体を撫で、衝撃と痛みだけは何時まで経っても届く事は無かった。

 背中に感じる力強く支えてくれる大きく温かな手に、背後より突き出して脳無の拳を拳で誰かが受け止めた(・・・・・)。 

 

 「もう大丈夫だ―――――私が来た!!」

 

 振り返れば口元は笑みを浮かべつつ、八木 俊典ことオールマイトは不甲斐無い己自身にキレながら、不条理なヴィランに対して確かな怒りを瞳に宿して睨みつけていた。

 生徒達が恐ろしい目にあった事や後輩ら(13号や相澤)が頑張りなどを想いを抱いてオールマイトは胸を張って言い放つ。

 ニカリと笑みを浮かべてヴィランを威圧し、扇動に視線を向けるとぱちくりと目を見開いて瞬きすると疲れたような笑みを向けた。

 

 「助かったぁ。俺ではどうも力不足で…」

 「………扇動少年」

 

 いつになくしおらしい反応に戸惑う。

 面として数回しか会っていないが何処か大人びた様子が印象づいて忘れていたが、まだ15の幼い少年なのだとオールマイトは再認識した。

 堂々としていても怖かっただろうに…と。

 

 「すまない。遅くなっ―――」

 「サポート会社にアヴェンジャー(30ミリガトリング砲)パンツァーファウスト(携帯式対戦車擲弾発射器)とか注文出来ねぇもんかな?」

 「アヴェ……意外と平気そうだね君…」

 

 何を言っているのか分からず苦笑してしまうが、大丈夫そうで良かった。

 視線をヴィランに向けると本当に忌々しそうにこちらを睨んでいる。

 忌々しく思っているのはこちらも同様だが…。

 

 「オールマイト。奴さんは個性の複数持ちだ。腕を斬り落とそうと速攻で生える超再生に圧倒的な程の超パワー、あとは防御…それも特殊系の個性を有していると思う」

 「情報ありがとう。ここは任せて下がりなさい」

 

 大丈夫と笑顔で答えて離れる扇動を見送り、オールマイトは襲撃者であるヴィランを真っ向からねじ伏せようと突っ込んだ。

 

 「CAROLINA―――SMASH!!!」

 

 ヴィランへと突っ込んで勢いよく放たれたクロスチョップは、相手に直撃すると同時に周囲に風を舞い起す。

 ――が、受けた脳無はびくともせずに立ちはだかる。

 

 「マジで全然効いてないな!?」

 「効かないのは“ショック吸収”だからさ。脳無にダメージを与えるなら肉を抉ったり、そこの子供がしたみたいにしないとねぇ」

 

 ケタケタケタと嘲笑う死柄木は、楽し気に眺めながら語り掛ける。

 他の為に振るう暴力は美談として語られるが、自身の為に振るえばそれは悪しき行いとして非難される…。

 同じ暴力であるにも関わらず、良し(ヒーロー)悪し(ヴィラン)と振り分けられる。

 世の中は不条理極まりない。

 平和の象徴と呼ばれるもそれは所詮抑圧する為の暴力装置。

 

 「暴力は暴力しか生まないのだと、お前を殺す事で世の中に知らしめるのさ!」

 

 高らかと宣言するもその言動には実が無い。

 それらしい文字を並べたような違和感を感じずにいられない。

 感じ取ったオールマイト同様扇動は呆れながらも納得したような視線を向ける。

 

 「“暴力は暴力を生むだけなんです”…か。同じセリフなのに仁先生(・・・)と比べてこうも説得力欠けんのか…」

 「そういう思想犯の眼は静かに燃ゆるものだ。自分が楽しみたいだけだろ?」

 「バレるの早…」

 

 クツクツと嗤ってすんなりと肯定されたが、オールマイトの視線は脳無に向けられたまま。

 個性の相性は悪い…けれど、だからと言って引き下がる訳にはいかない。

 自身は平和の象徴なのだからと瞳で語り、大きく息を吸い込む。

 

 脳無の脅威を知った面々であるが、オールマイトが相手をするならば自分達は他の死柄木や黒霧を抑えて援護すべきだと、考えた末に動こうとするも扇動が制止を掛けた。

 

 「止まれ」

 「なんでだ?あの脳無はオールマイトが抑えるなら他は―――」

 「―――巻き込まれんぞ」

 

 オールマイトは昔に比べてかなり弱体化している。

 能力は低下して時間制限まで課されている。

 身体機能的にも弱り、原因である古傷は今でも疼く。

 そんな状態でも平和の象徴たるオールマイトは信念を貫こうと身体に鞭打って突き進む。

 

 砲弾のように脳無とオールマイトが直線的に突っ込んで拳一つ振るった。

 愚直な突進からの一振りは風を纏い、ぶつかり合う事で強烈な風圧を生み出して、中心地に近かった死柄木は吹き飛ばされる程に。

 脳無の個性はショック吸収と判明しているのに正面からの殴り合いなど愚行にように思えるが、受けた脳無の腕は衝撃からグニグニと膨らみ収縮した。

 明らかに強すぎる衝撃を吸収するのに手間取ったのが見て取れる。

 

 そこからは猛攻そのものだった。

 互いに拳を振るっての乱打戦に移るも一撃一撃の重さは数ばかりで軽く成るどころか一撃が重すぎる。

 放たれる一撃が全て全力の殴りであり、ショック吸収が機能していないかのように脳無が殴られる度に押されてゆく。 

 誰もが発生した風圧で動けずに、オールマイト(平和の象徴)に釘付けにされる。

 

  「君の個性がショック“無効”ではなく“吸収”ならば限度があるんじゃぁあないか?君が私の100%を耐えるならッ!さらに上からねじ伏せよう!!」

 

 殴られる度に個性の超えるダメージで怯む脳無に対し、同じ数だけ殴られるオールマイトは個性ではなく気合と精神で耐え抜き、血反吐を履いても後退せずただ前進するのみ。

 

  「ヒーローは常にピンチをぶち壊していく者!」

 

 等々限界を超えた…。

 振り被った拳を受けた脳無は衝撃を吸収しきれずに吹っ飛ばされ、木をへし折り地面に激突して大きく抉った。

 あり得ないとしがらきや黒霧の表情が歪む。

 

 「ヴィランよ!こんな言葉を知っているか!!」

 

 今までの比ではない程に力が籠められる。

 転げ回ってようやく立ち上がった脳無の懐まで入り込み、踏ん張った両足が地面に亀裂を生む。

 足首、膝、腰、肩、肘、手首など力が籠められ、一撃の為に捻り込まれる。

 

 「更に向こうへ――――Plus(プルス) Ultra(ウルトラ)!!!!」

 

 振り抜かれた一振りはショック吸収の個性を超え、受けきれなかった脳無は空高くかち上げられ、天井に激突しては大穴を空けて吹き飛んだ。

 敵も味方も無く呆気に取られる中、オールマイトは笑みを浮かべ続ける。

 

 「やはり衰えた。全盛期なら五発打てば十分だったろうに…300発以上も打ってしまった」

 

 超人社会では個性の強弱が大きく左右する。

 けれどそれは絶対ではない。

 知恵や使い方によっては打破できる場合がある。

 だからと言って個性をなかったように(・・・・・・・)するなど反則(チート)も良いところだ。

 それを衰えたと言いながらもやり遂げて見せた。

 これがプロヒーローの…平和の象徴との壁を感じながら魅入る。

 これこそがプロの世界なのだと理解し、自分達が目指すべき場所なのだと。




 オレ、参上
 【仮面ライダー電王】モモタロスより

 暴力は暴力を生むだけなんです
 【JIN−仁】南方 仁より

 再生力があり過ぎるのが仇となったな。内側から盛り上がる自分の肉で自ら締め付けられる
 【鋼の錬金術師】リン・ヤオより
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