後に“USJ襲撃事件”と呼ばれるヴィラン連合による雄英高校襲撃は、オールマイトの参戦から程なくして駆け付けたプロヒーローである教師陣によって鎮圧されたことで幕を下ろした。
主犯格であろう“死柄木 弔”と“黒霧”の二名には逃げられるも、脳無を含めた襲撃に参加したヴィランをほぼ全員捕縛。
そして雄英側は生徒はほぼ無傷だが、教員はイレイザーヘッドと13号が重症でオールマイトが負傷という決して軽くない被害を被った。
何より天下の名門である雄英高校がヴィランの襲撃を
危機的状況を乗り越え、臨時休校を挟んでの登校日。
襲撃を受けたヒーロー科一年A組のクラスは熱気に包まれていた。
重症患者で
雄英体育祭というのは日本に於いて熱狂的な人気を誇るビッグイベントである。
それと同時に生徒にとっては己の能力を発揮する場であり、プロヒーローからすれば優秀なヒーローの卵をスカウト目的に見定めに訪れる。
認められれば
先生が
それは
周りの皆はヒーローになる立派な動機を持っているけど、私は究極的に言うとお金が欲しくてヒーローを目指している。
家は建設会社を経営しているのだけど、仕事がなくてあまり経営は良くはない。
“無重力”の個性を使えば大幅にコスト削減が出来ると思って言ってみたら、「気持ちは嬉しいけど親としてはお茶子が夢を叶えてくれる方が何倍も嬉しい」と返されてしまった。
だから私は絶対にヒーローになって、お金を稼いで両親に楽をさせたげる。
その
やる気も気合も十分に
昼食と言う事で皆が皆、がっつりとした物を注文していたのだけど、扇動君だけは高菜の漬物に大きめの器に入った白米、梅干しとお茶のみ。
どう見ても少なすぎる昼食に体調が悪いのかと危惧した。
「ごはん少な目やね。体調悪いん?」
「いや、ちょっと開発工房に顔出してって言われてっからゆっくり食えねぇんだ」
「駄目だぞ扇動君!しっかり食べなければ」
「一応調理パンかおにぎり持って行くから大丈夫だ」
「それなら良いのだが」
さっと食べれるように白米に高菜と梅干を乗せて、お茶を注いでお茶漬けにして食べだした。
ズズズッっと啜りながら、ポリポリと心地よい音を立てている扇動君。
「扇動君がヒーロー目指す理由ってなんなん?」
意図もせずにふと口にしてしまっていた。
食堂に来る間にデク君にヒーローを目指す理由を聞かれ、頭に残っていたのもあって口から出てしまったのだろう。
聞かれた扇動君は口の中のものを呑み込んで口を開く。
「イズクが
「それが扇動君の理由なん?」
何でもないようにお茶漬けを啜る扇動君はこくんと頷いて肯定する。
予想外の理由に八百万さんも飯田君も驚き、色々と聞こうとするもその前に言葉を続けられて逆に私がヒーローを目指す理由を問われてしまった。
私は少し頭を掻きながら答えた。
皆みたいに立派な動機でなくお金欲しさという理由に恥ずかしくなり頭を掻く。
話を終えるまで真っ直ぐ瞳を見つめる扇動君は空になったお椀と箸を置いた。
「お金か。夢だけでなく現実的。立派な動機じゃないか。もしかして朝気張っていたのはそれが理由か?」
「そうなんよ。ここでアピールせんと」
「ふぅん…」
想う所があったのか少し悩む仕草を見せ、お茶を口にして一息ついた。
「割りの良いバイトやってみねぇ?」
「バイト?」
「
「それ私でも大丈夫?」
「専門知識が必要な職業だから本来なら駄目。けど人手不足ってのもあって、俺が指導するならという話で許可は貰ってる。ちなみにイズクやお嬢も参加するから」
「八百万君も?」
「後学の為にと思いまして」
「なら俺も良いかな?」
「勿論良いぞ」
「それと放課後イズク達の鍛錬を見る事になってるけど来るか?」
「うーん、バイトの方は少し考えさせて。鍛錬の方は行こうかな」
扇動君は襲撃事件も含めて凄い人ってのは解っている。
そんな人に
バイトの方は詳細や都合があるので即答は出来なかったけど。
「ん、了解。飯田はどうする?」
「HUCというのには興味はあるが、鍛錬の方は遠慮するよ…。僕はまだまだ未熟だ。体育祭では君もライバルの
一緒に居た飯田君に話を振ると、真顔で強い瞳で否定した。
ピリッとした雰囲気が漂い周囲が騒めく。
きょとんとした扇動君は嬉しそうに、楽しそうに獰猛な笑みを浮かべた。
「宣戦布告か。良いねぇそういうの。受けて立つよ天哉」
「見つけました!!」
食堂に響き渡った大声に誰もが振り返る。
そこには桃色の
誰に向けて言っているのか解らず辺りを見渡すと扇動君が軽く手を挙げた事で、彼の知り合いなんだと理解した。
多くの教員と生徒が利用しているだけに密集率は高いというのに、それを物ともせずに結構な速さで迫って来る。
「扇動さん!いくら待っても来られないので迎えに来ました!!」
「おう、発目。少し話が込ん―――」
「さぁ!さぁさぁさぁ!!行きますよぉ!!」
近づいた発目と呼ばれた女子生徒はむんずと扇動君の手を取ると、有無を言わせぬ勢いで連れて行ってしまう。
引っ張ると言うより引き摺られていく扇動君という光景にぽかんと呆けながら眺めていると、「すまんが片付け頼む!」とテーブルに残された食器類を示しながら遠退いて行く様を見送るのだった。
昼休みを過ぎてから扇動 無一は僅かに頬を緩めて、午後の授業は緑谷を含めた複数人の特訓メニューを考えながら受けて過ごした。
イズクの課題は襲撃事件から考えていただけに特訓メニューはすんなりと決まったが、他の面々は若干悩み中な上に麗日に至ってはどうしたものかと悩みに悩んだのだ。
一応形にはしてみたものの、あとは様子を見ながら軌道修正するしかないな。
自ら鍛えた経験こそあれど誰かに教える経験というのは圧倒的に不足している。
今後、こういう事態を想定して誰かに習うのも良いかも知れない。
怪我が完治した頃に相澤先生に聞いてみよう。
とりあえず今は特訓の事もあるので頭の片隅に置いて、帰りのチャイムが鳴った事で特訓する場として申請しておいた体育館
「何ごとだぁ!?」
教室入り口に殺到する人だかりに、麗日が戸惑い交じりの大声を発した。
それらが何をしに来たか
「出れねぇじゃん。何しに来たんだよ!」
「敵情視察だろ
さも当然のように告げた爆豪に対し、雑魚呼ばわりされた峰田がフルフル震えながら緑谷に視線でナニカを訴えかけている。
そんな様子よりも爆豪の言葉を聞いて余計に扇動は意味が解らなかった。
敵情視察?
帰り際の教室に来たところで何の情報が得られるというのか。
得れても名前に容姿と言った最低限のものばかり。
意味がない…とは言い切れないが、そんな
そもそもパッと見た感じからして身体から出来上がっていない者が多い。
ヴィランと戦った話題もあって遊び半分、興味本位で来た連中も見受けられる。
「意味ねぇから退けモブ共」
「知らない人の事をとりあえずモブって言うの止めなよ!!」
呆れ過ぎてため息を漏らしながら爆豪の言葉に強く同意する。
ムッと怒りを灯す連中の中から一人の男子生徒が前に出た。
不満顔というより期待外れと言わんばかりの呆れ顔…。
それが妙に興味が惹かれた。
前に出た彼はあまりに偉そうな爆豪の態度にヒーロー科まとめて
遊び半分や興味本位ではなさそうだ。
「ヒーロー科を落ちた奴が普通科とか他の科に結構いるの知ってるか?体育祭の結果によってはヒーロー科への編入を検討してくれるんだって。そしてその逆も然り」
冷めた瞳を向ける彼は希望を費やしてないんだ。
受からなかったと絶望交じりに羨望だけ向けるのではなく、俺らを引き摺り降ろしてでもヒーロー科の席を
興味が惹かれた理由はそれかと頬を緩める。
「敵情視察?少なくとも
「君、名前は?」
今まで傍観者だった
突如として前に出た事で視線がこちらに向き、ぽつりと口を開かれた。
「…
「全力を持って受けて立つよ
一瞬目が見開き、冷やかな目に熱が籠った。
真正面からその瞳を受け、扇動は自らの言葉の責任の重みを自覚する。
こうして口に出して言ったからには負ける事なんざ許されねぇ。
吐いた唾は呑めぬのなら、有言実行するのみ。
…強制的に皆まで巻き込んだのはやりすぎたかなとは思う………吹いたら飛びそうなぐらい若干にだが。
「じゃあ俺は体育祭に向けて特訓があるから通させてもらうぞ」
「いや、待てよ!?どうしてくれんだ。おめー
爆豪に続き扇動の発言で対抗心や不満を露わにしている様子に切島が叫ぶ。
巻き込まれた側としては当然の権利であるのだが…。
「プロを目指してんだろ?こんぐらいで騒ぐなよ」
「
俺と爆豪がそう答えると教室内外が黙り込む。
その隙に俺は集まっている連中の隙間をすり抜けて、特訓の用意もあるのでさっさと体育館γに向かうのであった。
“USJ襲撃事件”ではヴィランの脅威にプロヒーローの実力、同年代であるむーくんとの力量の差を身をもって
ヴィランを無傷で鎮圧し、人質にされた上鳴君を助け、自ら戦いながらも仲間の様子を見ながら指示や支援を行い、死柄木や脳無の個性を見破って対応して見せたり、状況の判断だって段違いだった。
何より自分は二度も助けられた…。
一度目は轟や爆豪と共に助け、二度目はその身を挺してまで…。
対して僕は蛙吹さんが死柄木に掴まれそうになった際には身動き一つとる事が出来なかった…。
不甲斐無い自分が嫌になりそうだ。
「…ごめん」
口から零れ落ちた言葉に、先生たちの応急処置を終えて僕の骨折した指に包帯を巻いていたむーくんは首を傾げる。
これにもまた
むーくんは安全が確保されるとすぐさま相澤先生と13号先生の応急処置を行った。
八百万さんの個性による補助を受けながらも見事な処置が施され、二人は一足先に病院へと運ばれていった。
僕には出来ないなぁと感心してしまう。
「なにいきなり謝ってんだ?」
「…僕、弱いよね―――痛い!?」
「喧嘩売ってんのか?売ってんだな。言い値で買ってやろう」
応急処置が終わった矢先、返しとして額にデコピンを喰らわされた。
それも結構力を込められた為にかなり痛い。
額を抑えつつ視線を向けるとジト目で睨まれる。
どうしてそんなに怒ってるのか解らず怯えると大きなため息を吐かれ、優しい目付きでしっかりと瞳を見据えてきた。
「お前は強いよ。梅雨ちゃんから聞いたぞ。水難ゾーンでは凄い活躍だったってな」
「けどむーくんみたいには…」
「無い物強請りか?人と比較して悲観するぐらいなら、それを自らの物にするぐらい足掻け」
再びデコピンを食らうも先ほどに比べて威力は落ちてパチンと音が程度。
一瞬痛いのかなとびくりと震えた事で、可笑しそうに頬を緩めてむーくんは片頬を緩める。
「そもそもだ。長年遊ぶ時間も削って爺ちゃんのコネや自ら必死に経験を蓄積しまくったのに、昨日今日で追い越されて溜まるか」
「努力…してきたんだもんね」
「追い付き追い越したいんだったら必死に喰らい付けよ」
ぽふっと頭に手を乗せられ、優しく撫でられた。
まるで父親とのやり取りのように感じて少し照れ臭く感じるも、言っている事が最もで正しい事は解かる。
オールマイトのようなヒーローを目指すのなら、ただ悲観するだけじゃあ駄目だ。
小さい頃はむーくんの背中ばかり見て来た。
けれどこれからはそれじゃあいけないんだ。
肩を並べる――――いや!追い越さなきゃいけないんだ!!
「やっぱり強ぇよお前は。普通ならそんな目しねぇよ」
想いと覚悟を宿すと
その笑みはあの幼き日と何ら変わりないものだった。
「むーくん!僕に色々教えてくれないかな?その、都合が良い事言っているかも知れないけど…僕は!」
「構わねぇよ」
「即答!?」
「ったりめぇだろうが。俺はお前が英雄になるのを見たくってヒーロー目指してんだ。手を貸さない道理があってたまるか」
当たり前だとニカリと笑った。
約束通り扇動が鍛錬してくれると言う事で緑谷は体育館γに集まった。
雄英体育祭の事も合って気合が入りまくっていた。
要因はそれだけではないが…。
昼休みにオールマイトに呼び出された。
襲撃事件で脳無戦も含めて無茶が祟って、活動時間が50分前後にまで短縮されてしまったという事実を知らされた。
それは“平和の象徴”として存在し続けられるのがそう長くはない事と、いずれは
この事実を伝えた後にオールマイトは僕に言った。
全国が注目するビッグイベントである雄英体育祭にて“次世代のオールマイト”または“象徴の卵”として、世の中に知らしめて欲しいと期待を込めて頼まれたのだ。
責任重大である。
不安から震え、高揚感から酷く高鳴る。
憧れのヒーローからの期待に応えるべく始める前から熱が籠る。
体育館γに鍛錬に訪れたのは緑谷だけでなく、麗日に八百万、轟に切島も集まっていた。
そして向かいには黒のレザースーツで身を包み、顔や胸部に脚などに蛍光色の黄色のプロテクターで覆われたコスチュームを着た人物が立っている…。
「では体育祭に向けての
「その声…扇動か!?」
「どうしたその恰好?」
「新しいコスチューム?サポート会社に頼んだん?」
「いきなり質問攻めか。コスチュームというより測定器だな。なんでもスーツ内に電極やらなんやら仕込んであって、俺の身体能力をデータ化して送信するんだと。
「まさか一度見せた絵を形にするとはなぁ…」と呟きながら声色は随分と嬉しそうだ。
こほんと咳払いして空気を整えると言うより、浮ついた自身の気持ちを切り替えて見渡す。
「本格的な訓練は授業でやるだろうから、これは補助とでも思っていてくれ。まずはお嬢からやるか」
「はい!よろしくお願いします」
「前に言ったよな。お嬢には弱点があるって。口で言うより体験した方が良いから一対一の模擬戦入れんぞ。相手の身体に一撃入れたら終了って感じで」
それだけ言うと首や手首を軽く捻りながら距離をあける。
いきなりの模擬戦に戸惑いながらも八百万は構えるも、
無個性だからという訳ではないけど、サポートアイテムを所持していない扇動には格闘戦しか手段がない。
対して八百万の個性“創造”は条件さえクリアすればあらゆるものを創り出せる。
個性把握テストで出した大砲なんてまさにその例だ。
だからこそ近接戦闘が主な緑谷や切島はどう攻略するのかと注視する。
「イズク。スタートの合図くれ」
「は、始め!」
急に言われて驚いたのもあり、緊張して開始の合図が裏返ってしまった。
恥ずかしいながらも視線は二人をしっかりと捉え見守る。
八百万は護りを重視して盾を創造し、防御を固めつつ創造を行うようだ。
それは正しい判断だった。
50メートル以上離れた距離があって、相手は格闘戦しか出来なければ創造の時間は十分にある―――筈だった。
腕より想像された盾が形付いた瞬間、走り出していた扇動は速度は落とさず異様に低い体勢になって迫る。
爆豪や飯田のように異常に速さはないが、鍛えた脚力に身に着けた走法(技術)によって非常に足が速く、開けていた距離があっと言う間に詰められる。
しかも八百万は盾を創造
「―――ッ、早い!?」
「逆だ。遅いんだよ」
一瞬で詰められたような錯覚さえ感じた八百万は両手で盾を支えて守りの体制を取るも、たった一発の掌底打ちでぐらりと崩された。
そこからはもう一方的過ぎた。
相手の反撃を許さない掌底打ちの乱打に盾が大きく揺さぶられて、反撃どころか抵抗することなく八百万はよろめいて尻もちをついてしまう。
何も出来ずに倒れ込んだことに呆然としつつ、見下ろす扇動を見上げる。
「感想は?」
「なにも…出来ませんでしたわ…」
「そう、お嬢の弱点はそれだ。個性は万能そうで創り出すまでのタイムラグがあり、思考出来る時間が無ければ作る事さえ出来ない。体力テストで解ってたが身体能力は平凡。何より知識だけで技術が伴ってない」
「…ッ」
淡々と言われた事実を面と言われて悲痛そうに項垂れる。
言う事を言ったら中腰になって視線を合わせ、片目を吊り上げながら不敵に笑う。
「要は時間を稼げばいいわけだ。盾を出すにしてもこんな真っ直ぐな盾は出すな。お嬢がオールマイト並みに鍛えてどんな攻撃でも真正面から受け止めて見せるってんなら別だがな」
アドバイスを受けて次に創り出された盾は、亀の甲羅のように丸みを帯びたものだった。
ただイメージが出来上がっていなかったために不格好な見た目だ。
「盾ってのは攻撃を受けるもんだけどな、馬鹿正直に受ける必要はない。戦車の装甲は丸みや傾斜を付けて避弾経始(ひだんけいし)を行って砲弾を逸らして弾く」
「つまり受け流せば良いと?」
「ご名答。さっきの盾でも出来ない事は無いけど、真っ直ぐな分だけ傾斜が大きいからな。身体能力の向上は全員必要としてお嬢への課題は個性の時短に時間稼ぎに盾での受け流し方などの技術面、あとは即座に創り出す武器のリストアップか」
「後、この盾も改良しないといけませんわね!」
「意欲高めで助かるよ」
一変してやる気になった八百万から視線を轟と切島に向けて立ち上がる。
轟は兎も角切島はピンと背筋を伸ばした様子に緑谷は苦笑いを浮かべる。
実は切島のみ襲撃事件後に扇動に叱られたのだ。
扇動からしたら制止を振り切った事に対しては、命令を下せる立場も権利もないので、聞くか聞かないかは相手の自由なので想う所は無い。
しかし独自の判断の結果、周囲に危険を二度も及ぼした事は別であった。
なので制止を振り切って迷惑をかけたと自ら謝りに来た切島に、デコピン一発とリボルバーに装填したゴム弾三発を喰らわせていた…。
「がむしゃらなまでの勢いってのもまた若者の特権だ。だけど
緑谷から見て扇動は物事を引き摺るタイプではない。
注意や叱りはするも、相手が理解納得すれば根に持つことなく変わらず接していた。
三発目だけは硬化で防いだ切島に言いたい事を言い、真摯に受け入れた切島に話し終えた扇動は怒りは一切抱いていなかった。
だが最後の言葉もあって緑谷が大丈夫だよと言っても相当に怒っていると未だに思い込んでいるらしい。
そんな様子に扇動は苦笑する。
「轟は氷結のコントロールの強化。本来なら最大威力を上げたいところだが、テメェの個性は
「
「あんな小手先の遊びじゃ意味ねぇだろ。それに関しては後で詳しく言うよ。…で、切島は硬化の強度アップと並行して持続時間の増強。つまり
「ウッス!」
気合の入った返事に満足そうに頷き、今度は緑谷に視線を向ける。
「とりあえずイズク。
「うん――――え?」
軽い感じで言われて釣られるように返事をしてしまったが、それがトンデモない事であると理解すると同時に顔が青ざめる。
戸惑いを露わにしていると逆に首を傾げられる。
「どした?」
「いやいやいや、だってむーくん怪我しちゃうよ!?」
ワン・フォー・オールは長大過ぎて使い切れていない。
手加減どころか0か100しか使えない身としては、対人訓練で使う訳にはいかないのだ。
なのに扇動は使えという。
当然ながら断るも逆にキョトンとされ、次には大声で笑い出した。
「“それはそれは!!心配して頂き有難い事だ。イズクは俺に怪我をさせると思っている訳だな。心の底から安心しろ。俺はお前より強い”」
煽るように放たれた言葉にムッとする。
確かに扇動は強かった。
襲撃事件ではそれを目の当たりにした訳だけど、そうハッキリ面と向かって言われると少々腹も立つ。
けれど今の緑谷は自主練に加えてオールマイトに鍛えられ、受け継いだ個性がだってある。
そこで自分を抑えた。
挑発して使えと言ってきているが、それで使って怪我なんてさせたら事だ。
グッと堪えた緑谷を見て、扇動は何処か冷めた視線を向けて乾いた笑みを浮かべた…。
「そっか。そうか…なら仕方ねぇ。別のプラン組むから少し待ってな」
「―――ッ!…本当に良いんだね」
嫌だった。
怪我させるかも知れない事もだけど、それ以上に
けどやっぱり怪我はさせたくないと思って、煮え滾らない感情でフルフルと震える。
「あぁ、構わない」
それだけ言うと拳の届く距離で構えた。
大きく深呼吸して打つと覚悟を決め、振り被った拳を突き出す。
突き出す刹那…。
一歩斜めに踏み込みながら、腕を横合いから突かれて軌道をズラされた。
振るった拳は扇動の横に突き出すと、ワンフォーオールから発生した威力で風が吹き荒れる。
個性を振るったにも関わらず怪我をしていない事より、技術を持って簡単そうにあしらわれたことに驚きが隠せない。
「やはり対人となると力をセーブするようだな」
「え?あ!」
「躊躇っているのか怯えてるのか知らんが様子から無意識っぽいな」
何気なく考察され、ようやく自損していない事に気付く。
一人で納得した扇動は深々と頭を下げた。
「悪いな。殴らせる為とは言え
「「「「「…慣れない?」」」」」
「おう、今聞き返した奴ら前に出ろ」
男女問わず
「イズク。お前の課題は個性を
「………え?」
「個性に限らず技術やコツなんてものは反復して覚えるしかねぇんだ。物ではなく人を殴る際に無意識にセーブするってんなら人を殴り続けて感覚を掴むしかねぇだろ」
「ちょっと待って!もしもだよ。当たったらむーくんは…」
「骨折で済めば良い方なんじゃないか?」
「他人事!?」
「受け流そうとはするけど怪我する時はするからな。数日はサンドバッグになってやっから頑張ってコツ掴め」
「頼んだの僕だけど本当に良いの?」
「構わん構わん。イズクが個性を使い熟すのが先か、俺が壊れるのが先ぐらいだし」
「それが一番の問題だよ!?」
大声で叫ぶも自身の怪我などはどうでも良いと言わんばかりに呆気からんと笑う。
そして最後に麗日に向き直るも、その表情は何処か曇っている。
「麗日は基礎または身体の動かし方。要は技術を身に着ける事…かな。個性の方も見てやりてぇけどさすがに時間がねぇしなぁ…」
「うー…なんかごめんね」
「いんや、悪いのは合った訓練メニューを決めれなかった俺だ。それでも身体の使い方を覚えただけでも麗日の個性なら爆豪とも良い感じに戦えるぐらいになると思うんだよなぁ」
「私が爆豪君と!?」
「ま、良い感じであって勝つのは非常に難しいがな…と、長話で時間を潰すのもアレだし、とりあえず最初はストレッチに基礎トレ入れてから、個々人の鍛錬または模擬戦と行こうか」
それぞれ気合を入れ頷いたり返事を返したりすると、扇動はリュックよりマスクが詰まった箱をを取り出した。
首を傾げる中、八百万だけは意図を察して若干表情がひくついた。
「マスクトレーニングつって詳細は省くが精神的にも肉体機能的にも鍛え上げる方法があるんだがこれはしたい人だけで。正直息はし辛いし、汗が染みたら息が出来ないし、熱中症になり易くなったりと危険な面もある。一応目は光らせるが自己判断に任せるよ」
真っ先に切島と轟が一枚受け取るも、八百万はさすがにキツイと判断したのか受け取らず、その様子から最初は試しでつけるか悩む麗日と緑谷。
そんな中、扇動は緑谷に手招きをして呼び寄せる。
「出来ればレイリー式*1でやりたいところだけど、あれは時間の余裕と自由が利かないと出来ねぇから…ほい」
「なにこれ…ゴーグル?」
「白川流武術*2式に習って用意してみた」
「これもなにかあるの?」
「簡単に言うと
「どういう事?」
「まぁ、こればっかりは体験した方が解んだろ。…ただこれも自己判断に任せる」
「これも危険なの!?」
「…いや、毎日ずっと付けてないと意味がなくて、四六時中となると周りからの眼が…な?」
「あぁ、うん…」
理由に納得しつつも受け取った側面が完全に塞がれて
こうして緑谷達は体育祭までの二週間、放課後は体育館γで汗を流すのだった。た。
●ジェバンニが一晩でやってくれました
【DEATHNOTE】ニアより
●二発殴って、五発撃つ
【文豪ストレイドッグス】太宰 治より
●それはそれは!!心配していただいてありがたいことだ。お前は俺に怪我をさせると思っているわけだ。心の底から安心しろ。俺はお前より強い!!岩を斬っているからな!!
【鬼滅の刃】錆兎より