雄英高校が襲撃を受けて四日後。
世間では未だに話題に挙げて騒いでいようとも、学業を疎かにする訳にはいかない。
そういう訳でヴィランに寄る襲撃で行えなかった救助訓練を、今回のヒーロー基礎学で行う事と相成った。
脳無とオールマイトの戦闘で一部が激しく損壊した“ウソの災害や事故ルーム”も、セメントスとパワーローダーの修復作業のおかげで跡は残っておらず、あの日の出来事がまるで嘘のようである。
しかし包帯でぐるぐる巻きのミイラ男状態の相澤を見るに、あれが現実だったことを実感する。
特に教える先生が相澤と13号の二人というのが強く思い起こさせる要因にもなっていよう。
想う所あれど授業は授業。
各々ヒーローに成りたくて雄英に集った子供達は、先に進むべく真剣にヒーロー基礎学を学ぶので―――――…。
「あぁ!?なんで俺がデクなんか助けなきゃならねぇんだ!!」
訂正しよう。
すんなりとは
救助訓練は山岳ゾーンで行われ、設定としては登山客三名が誤って谷底に滑落。
一人は頭を強く打って意識不明の重傷で、二人は足を骨折して動けない。
救助要請を受けたヒーロー四名が到着して、これより三名を用意してあった道具も使用して救助すると言うもの。
駆け付けたヒーローを演じるのは爆豪に轟、八百万に
側は違うものの爆豪と緑谷を組み合わせるのは、相澤先生も意地が悪いと言うかなんというか…。
もしくは狙って例として扱うつもりなのか…。
何にせよ爆豪は始まるや否や怒声を上げた。
その様子に周りはまたかと呆れた様子で眺め、同じ班になった呑気に構えていれない。
「始めるぞ。誰が降りる?」
「仕切ってんじゃあねぇぞ半分野郎!!降りるまでもねぇ…爆破で谷を無くす」
「正気ですか!?」
口出しをせずに傍観に徹していた扇動は眉を潜めた。
緑谷が関わった事で爆豪が正気でバグって輪を乱す発端となっているのは確かなのだが、それに対して班の対応も悪すぎる。
轟は半分無視を混ぜながら話し合うのも無駄と決めつけて無理に進めようとし、常闇は呆れて面倒臭そうと言わんばかりに爆豪から距離を取っている。
これは訓練だ。
死人も怪我人も出ない訓練…。
そう思っているから三人とも
谷底では役とは言え要救助者が待っているというのに、連携どころか話し合いすらしない状況。
救助というのは一刻一秒を争うのだ。
成す為にはどんなに気に喰わない相手であろうとも協力せねば、スムーズに救出する事は出来ないだろう。
下から一番真面目に取り組んでいる飯田の助けを求める声がするも、
「八百万はプーリーを出せ。倍力システムを作って意識不明の奴から一人ずつ上げる、介添えは常闇を―――」
「待てテメェえええ!!全部勝手に決めてんじゃあねぇぞ!!」
「これがベストだろう」
「あぁ!?」
「遊び半分なら何もしなくて良い………俺はこんな訓練してるほど暇じゃねぇ」
ため息交じりな轟の対応が
胸倉を掴むほどに怒りに満ちた爆豪と一歩も引く事無く対峙する轟。
相澤先生が止めるだろうけど、最悪跳び出せるように身構えていると怒気を纏った八百万の一喝が響き渡った。
「おやめなさい!二人共見っとも無い!!」
いがみ合っていた二人も同じ班でも関わらないようにしていた常闇も肩を震わして驚く。
皆からの視線を集めた八百万はつかつかつかと谷に近づき、膝をついて谷底を覗き込んで緑谷達を目視で捉えた。
谷底で救助を心待ちにして不安であろう救助者に優しくも力強い声掛けを行い、振り返っていがみ合っていた爆豪と轟をキッと睨みつける。
「要救助者への接触が第一です。絶望的な状況でパニックを起こす方もいると聞きます。そんな方々を安心させる事が迅速な救助に繋がるのです。こんな訓練?真剣に取り組まずして何が訓練ですか!!」
その言葉は二人だけでなく見守っていた者も含めた全員に響いた。
さすがにこの一喝は効いたらしく互いに不満はあるも、黙々と救助作業をようやく開始する事が出来た。
…にしても八百万の芯の強さには驚かされた。
いざこざを治める事は俺にも出来ただろうが、一喝で言い聞かせる事は出来なかっただろう。
「凄ぇ、立派だなぁ八百万」
「まったくだ」
「あぁ―――ご立派ぁ」
「クズかよ!」
「クズだな…」
切島の言葉に強く同意していると、屈んだ八百万のお尻をガン見している峰田の
八百万によって一応の纏まりを見せ、後は個性を活かしてスムーズに一組目の救助訓練は程なくして終える事が出来た。
この結果に13号は“一組目にしてはとても効率的で模範的な仕事”と称した。
災害救助などで活躍しているヒーローらしく、やはりこういった救助訓練などで力が籠り易く、非常に嬉しそうにその様子を眺めていた。
話では最近プロヒーローは適材適所を理解せずに、自分が自分がと状況を悪化させる者も居るらしい。
ゆえに自分の個性で何が出来るかをよく理解し、時にはサポートに回ると言った事を学ばせたいとの事だ。
それを聞かされた後、俺が救助側に選ばれた訳なのだが…。
電気を帯電させれる上鳴 電気。
生き物に言う事を聞かせれる
個性が透明化と
この三名と班を組まされたのだが、誰一人山岳救助に適した個性持ちが居ないのですが…。
俺に至っては個性すら持っていない。
「相澤先生。レクチャーの時間を頂きたい」
「任せる」
多分これを狙ってやりやがったな。
確かにHUCのバイトや
けど、なんかこう…
まずは道具の使い方に
だがその前に
「実演も兼ねて説明するから個性が適してない奴、それと無個性での救助方法に興味がある奴は集まれ。それと葉隠、見辛ぇからこれ羽織ってもらえっか?間違えてぶつかって谷底へなんてシャレになんねぇしな」
「あ、うん!温かいねコレ!」
「コートが温かいんじゃなくて、ブーツと手袋だけだから身体が冷えてんだろ」
「それもそっか」
「…前から思ってたけど扇動って
「なんで?」
「なんでって言うかなんとなく見えてるっぽかったから」
「戦闘訓練の時、ブーツと手袋無しでも何処にいるか分かってる感じだったな」
「そういえばいつも話すとき目が合うんだけど…もしかして見えてるの?」
「………見えてる」
「「「嘘ぉ!?」」」
「勿論嘘だ」
「むぅー!!」
思い当たる節があったために本気で恥ずかしがって、コートで身体を隠す素振りを見せた葉隠だったが、扇動に揶揄われたと解ってポカポカと軽く叩いて“私、怒ってます”と物理で抗議する。
「位置は気配と音。目線はだいたいの予想だな」
「気配って…そんな事出来んのか?」
「鍛錬を積めばな。俺の話は置いといて説明すんぞ」
ちらりと言われた通りにマスク付きのゴーグルを着用している緑谷を見て、扇動は内容が内容だけに冗談抜きで真剣にしっかりとレクチャーをする。
その様子を窺う相澤と13号はただ眺めている訳でなく、説明に不備がなくちゃんと正しい情報を教えているかを確認しており、様子と内容から満足そうに頷いた。
レクチャーを加えての救助訓練で時間は掛かったものの、概ね問題なくそれぞれが上手く動いたのでスムーズに救出する事が出来て、扇動は登山客役が回って来るまで他の班を観察していようと思っていたのだが、背後より峰田にちょんちょんと腰辺りを突かれたことで振り返る。
「なぁなぁ、扇動って襲撃事件の後に、先生たちの治療してたよな?」
「応急処置程度だがな」
「それは13号先生も…だよな」
「13号先生はコスチューム着膨れしてて、中身が細いから見た目ほどひどい怪我してなかったとは言え、見て見ぬ振りなんて出来ないだろう。背中は皮膚はかなり捲れてて、こう…人体模型の境目みたく綺麗に分かれ目が―――」
「詳しく言うなよ!想像しちゃうだろうが!!じゃなくて顔だよ顔!」
「顔?」
期待を浮かべた瞳を向けて来る峰田。
最初こそ小声だったのだが、突っ込みの際に大きくなって聞こえてしまった13号。
他にも周囲の何人からの視線を向けられ、そう言う事かと理解した上に多少なりとも呆れてしまった。
後頭部のコスチュームが壊れていたのと、怪我の具合を確認する事もあって顔は確かに見ている。
「可愛らしい感じだよ。中性的で整った顔立ちだったな」
「ちょっ!?なに言ってるんですか!?」
「マジかッ!?詳しく教えろよ扇動!!」
「無駄話してっと相澤先生に怒鳴られんぞ」
さすがにジト目を向けている相澤に反してまで聞く気はなく峰田は黙って顔を背け、他の面々も目の前の授業に集中する。
その後の授業は最後の班である緑谷が、麗日が骨折している設定の蛙吹を浮かせて谷底より上げ、足が折れているというのに担架ではなくお姫様抱っこで受け止めたという事以外は順調に進んだ。
…隣で緑谷を羨ましそうに血涙を流す峰田が居たが触れないでおいた。
どうでも良い事なのだが、装着している仮面には戦闘分析や訓練での復習を考えてカメラ機能があり、受け止めて置いて赤面する緑谷とお姫様抱っこされて照れた蛙吹の様子はばっちり録画している。
最後の組が終わった事で整列して13号が評価を下す。
「一回目にしては大変素晴らしい成果でした。救助とは時間との闘い。まだまだ改善の余地が皆さんにはありました。つまり伸びしろがあると言う事。今後は改善点を積めてより効率の良い救助が出来るように努めましょう」
「なんか呆気ないや」
「気を抜くなよ。まだ授業は続いてるんだ。次の救助訓練を行う為に倒壊ゾーンに移動する。ついて来い」
終わったと気を抜いた上鳴の発言に相澤はじろりと睨み、移動すると伝えて先導しようと倒壊ゾーンへと歩き始めた。
皆が移動する中、当然ながら俺もそれに付いて行く。
「あ、扇動君!ちょっと来て貰えるかな」
13号先生直々の指名に首を傾げる。
顔の事は別段比喩や誇張無しで言ったつもりだし、いつもコスチュームを着ているだけで顔出しNGのヒーローではなかった筈だよなと思いつつ、扇動は呼ばれるままに一人列から離れる…。
廃墟のような瓦礫や
ここで行われるのは端的に言えば“かくれんぼ”。
都市部を震災が襲った直後で、被災者の数も規模も解っていない状況。
そんな状況で到着した四名のヒーローは
クラスメイト残り17名は各々好きな場所に隠れ、内八名は声が出せないという設定。
ヒーロー側は緑谷、麗日、峰田、爆豪の四名…。
二分の隠れる時間を経て、ヒーロー達は捜索を開始する。
荒れ果てたビルの一室。
窓ガラスもはめ込まれていない窓枠より光が入り込み、瓦礫の上に座る轟の背を照らす。
ただ待つだけの時間というのは暇なものだ。
それも授業中という事もあって読書や携帯ゲームなんて以ての外。
ぼんやりと待つしかない轟は、室内に転がるランニングマシーンを忌々しく睨みつける。
ランニングマシーンに対してナニカあると言う訳ではなく、何もする事の無い状況もあって無駄に思考が働いて連想してしまったのだ。
あの忌々しい家での日々を…。
幼い頃から親父からは親子として扱われた記憶がほとんどない。
もしかしたらそんな親子らしい事もあったかも知れないが、地獄のような日々が完全に塗り潰している。
両親から氷と炎の個性を受け継ぎ、発言したその日から俺の日常は苛烈を極めた。
基礎鍛錬に戦闘訓練。
戦闘や学業で必要な知識を無理にでも叩き込まれる。
例え身体が耐えれず嘔吐して内容物を吐き散らそうとも、手足を地面に付いて這いつくばろうとも一切“心配”される事は無い。
あるのは威圧的な視線と声色で「立て」の一言。
嫌がろうとも抗議しようとも聴き入られる事は無い。
返って来るのは鍛錬を続けろと言う命令か、力尽くで無理やりに言う事を聞かせるかの二択。
そして事あるごとに告げられる「お前は俺の最高傑作なのだから」という者ではなく物として見ている言葉…
「思い通りになんてさせねぇ」
そう…思い通りになんかなってやるもんか。
ヒーローには成りたい。
けれどアイツが求める物に成り下がったりはしない。
転がるランニングマシーンで嫌な事を思い出してしまったが、これからはそうではないだろうと思ってはいる。
まだ引っ越してから二日しか過ごして居ないが扇動の家は快適なものだ。
実家同様にトレーニング器具は揃っているし、
扇動は頼めば色々と世話を焼き、アドバイスしてくれるがそれを強制しないのは本当に有難い。
家でのトレーニングの際には声を掛けたら一緒にしてくれて、誰かと一緒に鍛錬をするのもだが楽しいと感じたのも初めてだった。
怪我をしないように周囲にマットをひき、ランニングマシーンを同時に徐々に加速させて時速25キロに到達したところで、互いの間に設置した台に置いてあるリモコンを取って、どちらが先に止めれるかという*1遊びは中々に面白かった。
ああいった遊びを含んだトレーニングは今までなかっただけにとても新鮮だった。
…不満があるとすれば食事は姉さんの方が美味しかったぐらいか。
「ヒーローらしからぬ顔をしたと思ったら今度はにこやかに笑う。中々に感情が忙しそうだな」
「―――ッ!?誰だ!!」
嫌な思い出を塗り潰すように期待が膨らむ今後に思考を向けていると、何処となく声が響いて警戒しながら周囲を見渡す。
この一室への入り口は扉の無い出入口のみで、誰かが入り込んだ様子はなかった。
無論誰かと一緒に隠れたという訳でもない。
警戒していると壁の一部が轟音と共に砕け散り、埃も含んだ砂煙が舞って人影が映し出される。
ゆっくりと晴れた砂煙から現れたのは大柄の男であった。
顔は左目の周りが橙色で彩られたガスマスクを付けて隠れており、肩当やマスクの後ろ部分は刺々しいデザインを施されたコスチュームを着ていた。
コスチュームから個性を伺わせるような特徴的な特徴は無く、代わりに服の上からでもハッキリかなり鍛えている事だけは解かる。
(…マジで誰だ?)
クラスメイトでも無ければ今日のヒーロー基礎学を担当している先生方でもない。
一瞬他の教員の参加を疑うも、こんなコスチュームの教員に心当たりはない…。
警戒を解くどころか強めて、いつでも攻撃できるように構える轟に大男は肩を回しながら多少身体を解し始めた。
「四日ぶりに暴れるかぁ」
大男の一言に驚きを隠せない。
四日前と言えばヴィランが襲撃してきた日。
言葉をそのまま信じるのであれば目の前の大男は襲撃してきたヴィランの残党。
それもただのチンピラヴィランとは異なる。
なにせ事件後は取り残しがないか
それなのにこいつは四日もここに潜んでいたという…。
予想以上に不味い状況に焦りが混ざり始める。
先手必勝と言わんばかりに足元より氷結を伸ばして大男をヴィランと断定して捕縛しようとする。
――が、次の瞬間にはヴィランは目の前から掻き消えていた。
「遅ぉい!――――なにぃ!?」
「…チッ、外した」
目で
まるで読んでいたかのように足元の氷結が背後の床を凍らせ、そこから突如として氷柱が飛び出して来たのだ。
迫った事で自ら直撃しそうになったヴィランは咄嗟に飛び退いて事なきを得たが、轟にしてみれば一筋縄でいくような相手ではない事が解かり、それが先の対応で油断から警戒すべき相手と自身を見定めた事で状況が悪くなってしまった。
何処か楽しそうなヴィランはクツクツと笑いながら問いかける。
「よく対応出来たものだ。見えていたのか?」
「見えてねぇよ。だけどある奴が教えてくれたんだよ。速度に自信がある奴は必ず死角から襲ってくる…ってな」
まさか放課後の扇動との特訓と食事の際にしてきた他愛ない話がこうも発揮されるとは思わなかった。
扇動曰く速度に絶対的自信がある奴は必ずと言っていい程、初見は背後を取って来るらしい。
二度目三度目は頭上や斜め後ろとか手を加えて来るけどなと、何処か懐かしくも悔しそうに話していたっけ。
役には立ったけど活かせず相手を警戒させたのは不味った。
どうするかと考えながら平静を襲おう轟に、ヴィランは嬉しそうである。
「ははははは、
「――――ッ!?」
そう言って未だ砂煙が残る一室でヴィランが持ち上げたモノを見て、轟は信じられないと言わんばかりに目を見開いて驚愕を露わにした。
ヴィランが持ち上げたのは人…。
首根っこを掴まれてぶらんと垂れ下がり、力なく手足がだらんとしている扇動であった…。
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