無個性オリ主が共にヒーロー目指す!   作:チェリオ

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第23話 視察と鑑賞

●B組による扇動の訓練見学

 

 雄英体育祭が近づくにつれて雄英高校ヒーロー科一年B組内には、焦る生徒が幾人か見られるようになった。

 原因は世間を騒がしているヴィラン連合による雄英襲撃事件である。

 B組の面々は被害に合う事は無かったが、同じヒーロー科のA組は襲われながらも奮戦して見事撃退。

 図らずも実戦を体験した彼らはヒーローを目指す者としては得難い経験を早々に得たことになる。

 

 ただそれだけなら焦る事もない。

 向こうはニュースで事件が挙げられる度に話題に出てるなぐらいに思う程度。

 しかし襲撃事件を受けて彼らは臆することなく、何人かは放課後に訓練を行ってより強く成ろうと切磋琢磨しているとの事。

 担任の“ブラドキング”もその事を耳にしており、別段向こうも秘密にしている訳でもなく、学校の体育館で行っているので様子見も兼ねて見学を提案してきた。

 体育祭前に向こうの実力を知る(敵情視察)のも良いだろうという考えだったのだろう。

 B組のクラス委員長である拳藤 一佳(ケンドウ イツカ)もその案には賛成であり、参加自由の形で興味のある生徒を纏めて軽い気持ち(・・・・・)で見学に向かったのだ。

 

 ―――が、そんな気持ちは到着して三分も経たない間に消え去った。

 

 「スマッ(SMAs…)―――」

 「踏み込みが甘い!」

 「―――ッ!?」

 

 殴りかかって来る緑谷が拳を振るおうとした瞬間にタイミングを合わせて扇動は距離を詰めた。

 自身が突っ込んでいたのもあってたった一歩踏み込まれただけで懐に潜られ、振り被った拳は振るうに振るえない位置に。

 予想外の行動に対して急に止まる事など出来る筈も無く、殺し切れなかった勢いを利用されて緑谷は扇動に一本背負いの要領で投げ飛ばされる。

 振るわれなかった力は周囲に霧散して風圧を撒き散らす。

 

 「これ本当に組手?」

 

 ポツリと誰かが零した言葉に皆が同意した。

 訓練や組手といったレベルではない。

 意図も簡単に扇動は投げ飛ばしたが、離れている自分達にまで僅かに届く風圧から決して人に向けて良い威力でないのは明白。

 当たれば大怪我間違いなし…。

 それを躊躇う事無く放つ方(緑谷)も放つ方だし、平然と対処する方(扇動)もする方だ。

 同時に異常とも呼べる光景に周りも気に止めない様子から、訓練では“いつもの事(通常運転)”となっているのだろう。

 

 緑谷を投げ飛ばした扇動は麗日の不意打ちを躱し、後方より支援していた八百万に突っ込む。

 対して八百万は創造したトリモチを放るも躱され続け、接近戦を覚悟して薙刀(木製)を創造して構える。

 素手と長物である薙刀ではリーチの差が大きい。

 しかし扇動は振られた一撃をいなして(・・・・)接近する。

 振るうに振れないと判断してすぐに薙刀を棄てるも、すでに扇動の間合いに捕えられてしまっている。

 扇動は打ち込もうとするも肌より生えた物にいち早く気付いてバックステップで距離を取った。 

 

 「危ねぇな。だが良いタイミングだったお嬢。初見だったら喰らってたな」

 「お褒めに与り光栄ですわ。ですが扇動さんなら初見でも躱せてたのでは?」

 「買い被りが過ぎる」

 

 一撃を受けそうになった直前に八百万の腕から刃が生えたのだ。

 いや、肌より何本もの刃を創造したのだ。

 右腕から肩、頬辺りからも刃が生えた光景は異質…。

 扇動の判断が遅かったならどうなっていたかと考えるとぞっとするような瞬間である。

 

 「隙あり!」

 「奇襲をするなら―――いや、“不意を打つなら静かに行うべきだな!”」

 「…俺、実際に鉄山靠見るの初めてなんだけど…」

 「いやいや、そこじゃないでしょ…」

 

 不意打ちを完全に見切られた上に反撃で貼山靠を喰らった麗日は床を転がった。

 加減はしているのか立ち上がった麗日の表情は悔しそうではあるが、痛そうと言った感じは見受けられなかった。

 それにしても転がってからの立ち上がりが早い。

 

 同じく見学に訪れていた骨抜 柔造(ホネヌキ ジュウゾウ)の呟きに返しつつ、目は(扇動)(緑谷・麗日・八百万)の組手を必死に追っていた。

 骨抜以外に見学していた庄田 二連撃(ショウダ ニレンゲキ)取蔭 切奈(トカゲ セツナ)柳 レイ子(ヤナギ レイコ)も同様に見入ってしまい、時たま感想を口から零すばかり。

 ここに鉄哲 徹鐵(テツテツ テツテツ)鎌切 尖(カマキリ トガル)を連れて来なくて良かったと切実に思う。

 熱く好戦的な性格から参加しかねない。

 鉄哲に至っては特訓している事を聞いて「負けらんねぇ!!」と自ら特訓しているらしく、見学する余裕がなかったというのが正解だが…。

 

 「イレイザー、やり過ぎだろこれは!怪我人が出るぞ!」

 「だから俺は何もしてねぇよ。アイツに言ってくれ…」

 

 引率として共に来ていたブラドキングが予想外過ぎる訓練内容に抗議を入れるも、相澤はため息交じりに扇動に視線を向けながら返す。

 確かに危険すぎる内容であるが、三者の猛攻を容易く流しては攻めに転じる扇動を見ていたら、当然の危険性(・・・・・・)というものが薄らいでしまう。

 それほどの実力の差に見ていて安心感が発生してしまっている。

 

 「さすが入試一位。動きが段違いですね」

 「あれだけやっておいて掠り傷一つ受けてない」

 「それで個性使わず(・・・)手を抜いてるとかあり得ねぇだろ」

 

 見ていても解るほど扇動には余裕が見て取れる。

 決して油断している訳ではなく、相手の戦闘レベルに合わせて幾らかセーブして闘って自分自身も鍛えている。

 だからこそ三人は驚きよりも恐れを抱いていた。

 単なる身体能力による戦闘だけであれだけやれるという事は、個性を使用したらどれほどの力を発揮するのか見当が付かなかったからだ。

 雄英体育祭の種目は毎年変わるが、決勝で行われる一対一のトーナメント戦だけは恒例となっている。

 もしも自分が対峙したとして、個性を解禁した扇動に勝てるか否か…。

 答えは決まり切っていた。

 

 「扇動…無個性だけど?」

 「―――は?」

 「柳の言う通りよ。私も聞いた時は驚いたもの」

 

 扇動が無個性と知って拳藤は驚きを隠せなかった。

 それは他の二人もであったが推薦入学者の骨抜とは温度差があり、拳藤と庄田は実技試験を受けた身ゆえ衝撃はより一層強いものとなった。

 

 「身体能力だけで仮装ヴィラン相手にしたって事!?」

 「しかも合格ならいざ知らず、入試一位になるなんて一体どうやって…」

 「本当にウラメシ(・・・・)いよ扇動…」

 

 柳の言う“ウラメシ”は“怖い”という意味がある。

 組手の様子と無個性という事実から確かにと思う反面、雄英体育祭を考えると安堵してしまった(・・・・・・・・)

 酷い話だと過ってしまった事に対して苛立ちを覚える。

 組手は三名が疲労具合を見極めた扇動が休憩を言い渡した事で一時中断された。

 この体育館では轟と切島も特訓しているのだが、二人の訓練は秘匿されるように氷の壁で塞がれてしまった。

 本人達は別に見せても構わないと言った風であったが、扇動が断固として(・・・・・)それを拒んだ(・・・)のだ。

 

 「有益な視察になったか?」

 「アンタが化け物って事は分かったよ」

 「誰が化物だよ…ったく。まだ人間は辞めてねぇぞ」

 「辞める予定あったの?」

 「目的を達成出来るなら良いが“ネビュラガス(スマッシュ)”も“ヘルヘイムの実(インベス)”も勘弁だがな」

 「…なんの話?」

 「こっちの話だ。気にすンな」

 

 疲労困憊といった様子で休んでいる三名に比べて疲労の“ひ”の字も見えない扇動。

 本当に化け物ではと思うのも無理ないだろう。

 

 「あんまサービスしてやれねぇけど、アイツら休ます間ぐらいなら質問とかあれば答えるけど?」

 「なら一つ、なんで二人の様子は非公開で四人は公開したんだ?」

 

 柳と取蔭は以前に接点を持っていたが、拳藤を入れて三名は初顔合わせ。

 普通は初対面の相手には多少躊躇するものだろうけど、骨抜は言葉と本人の雰囲気から早速質問を口にする。

 

 「あー…強いて言えば轟と切島が目標に達していないからかな」

 「それは実戦レベルに達してないって事?」

 「違ぇよ。俺の想定したレベルに達してねぇってだけ。そもそも轟に至っては下手なプロより戦闘能力あるからな」

 「なら他は見せても問題ないって事か」

 「情報の流出なんて問題しかないだろ―――けどプロと成れば情報はメディアを通して駄々洩れ。対策を取られた相手とも戦わねぇといけなくなるわけだ」

 「プルスウルトラって訳か」

 「そんなとこだな。つってもこの情報を他に教えるか否かは任せるよ。体育祭はプロの目が集まる将来にも繋がる活躍の場。仲良しこよしで通れるほどプロの世界は甘くないだろうからな」

 「…仲間を蹴落としてでもプロに成れって言うの?」

 「違う違う。お前さんたちは自らの時間を削って“情報収集”を行い、来なかった連中はそれを怠った。これはその差の話さ。ま、君らがクラスの代表として来ていたり、事情によって異なるだろうけどな」

 

 言いたい事は理解出来た。

 それは確かにと納得すらしてしまう。

 少しばかり轟と切島に課したレベルというのが気になるが、それ以上に気になるのが何故扇動が自身の能力を明かしたか(・・・・・・・・・・・・・・・・)だ。

 

 「けど扇動は良かったの?」

 「良かったとは?」

 「無個性のアンタの武器は身体能力による戦闘のみ。それを見られたら―――」

 「体育祭では不利だって言いたいんだろ」

 

 無個性というならば扇動の戦闘能力は身体能力と技術によるところが大きい。

 それを見せてしまっては…無個性だと教えてしまっては個性によっては簡単に対策を取れてしまう。

 他の誰よりも不利にしか思えない行為に疑問を覚えていると、そんな事かと言わんばかりに扇動は小さく笑った。

 

 「わざわざ見に来てんのに土産の一つも持たせない訳にいくかよ。それにアイツらの訓練内容だけ見せて俺は秘匿するなんて道理が通らねぇだろうが」

 

 カラカラと笑いながら当然だろと爽快に応えられ、逆にキョトンと呆けてしまう。

 道理を通すと言ったがそれはどう考えても不合理極まりない道。

 なのにまるで何でもないように言い切った様子は味方によっては挑発にも取れるが、雰囲気からそうではないのだと伺える。

 ゆえにと言えば良いのか拳藤は真っ直ぐに捉えながら笑い返した。

 

 「悪いけどもし戦う事に成ったら手加減しないから」

 「ったりめぇだ。手加減なんかしやがったら思いっきり付け込んで勝ちを頂くぞ」

 

 獰猛な笑みでバチバチに滾らせている扇動に、少しでも過った罪悪感は消え去っていた。

 寧ろそれでも食い破り兼ねない雰囲気にそれを感じていられないくなったと言うべきか。

 なんにしても拳藤を含めた見学した五名は特訓の様子から脅威であると認識し、より一層気を引き締めて体育祭では競い合おうと決めたのだった。

 

 ちなみに特訓の様子は待機して貰った鎌切を除いて自ら喋らず、扇動が無個性であるという情報は体育祭当日まで見学の五名と鉄哲のみの情報として扱われる事になったのである。

 

 

 

 

 

 

●心が燻ぶられる二名。

 

 開発工房。

 サポート科の生徒が切磋琢磨して己の作品を制作する場であり、ヒーロー科の生徒がコスチューム変更やサポートアイテムの依頼などで訪れる事がある。

 とは言っても一年生、それも半年も経たずに訪れる者など稀だ。

 なにせコスチュームは降ろしたてで不備や改良案を模索するにも早いし、サポートアイテム云々の前に公に振える個性に目が行ってそちらに意識が向かう事がないからである。

 唯一の例外としては扇動 無一が発目 明に制作依頼や改良案、はたまた新たなサポートアイテムの実験体(モルモット)として良く訪れる(たまに引き摺られて)ぐらいだ。

 

 その開発工房前にて二人の学生が立ち並んでいた。

 一人はヒーロー科一年A組の常闇 踏陰(トコヤミ フミカゲ)

 もう一人はヒーロー科一年B組の黒色 支配(クロイロ シハイ)

 思想的類似点(・・・・・・)こそあれど、互いにクラスを超えての接触がなく、この度の会合は偶然が重なったものであって示し合わせた訳ではない。

 

 出くわして視線を合わせて会釈こそすれど、言葉は交わす事無くただただ入り口付近を眺めるばかり。

 視線の先に金剛力士像のように開発工房の入り口左右の鎧、またはコスチュームの二つ(・・)が並び立っていた。

 彼らの目的は最近話題になっていた開発工房前に佇む目印(・・)にあった。

 何故入り口前に置かれているのかが解らなかったが、遠巻きであるが話を聞くうちに興味を抱いて見に来たという訳だ。

 

 常闇の先には白銀(シルバーメタル)漆黒(黒色)が織り成す銀甲冑が立っている。

 メカメカしいほどにシンプルながら無骨なデザイン。

 だけどシャープな印象を受け、力強くも美しいと見ていて感じ入ってしまう。

 さらに柄は金色で護拳部は丸みを帯びながらも刺々しく、透き通るような真紅の刀身は禍々しくも見えるサーベル(サタンサーベル)が常闇の感性に突き刺さる(・・・・・・・・)

 台座には銀甲冑の名称だろうか“シャドームーン”と書かれている。

 自室にも()西洋甲冑(・・・・)置いてある(・・・・・)常闇であるが、無性に心が擽られる様に欲しい(・・・)迂闊にも(・・・・)思ってしまった。

 

 黒色 支配はもう一体、シャドームーンと対となるコスチュームに目が奪われていた。

 滑らかなボディスーツというよりは外骨格のように伺える。

 頭部の触覚や関節部から虫…それも黒を主体とした色合いから蟻を連想してしまうコスチューム。

 だからといって虫に対する嫌悪感のようなものは無く、寧ろ力強さと丸みを帯びた外観に見惚れる程。

 彼の個性“(ブラック)”は影などの黒色の中に入り込み操る事が出来る。

 他にも同様に入り込んで移動する事も可能なので、この黒のベースとしたコスチュームには着る事も潜る(・・)事も外から操る事も可能。

 シャドームーンと同じく台座には“ブラックサン”と名前が書かれ、黒色は和訳しながら口の中で転がしてはニヤリと嗤う。

 

 (ブラックサン……(ブラック)太陽(サン)……黒()太陽か!) 

 

 こちらも同じく感性(・・)を擽られ、食い入るように眺めている。

 言葉も無く静かにただただ眺めるのみ。

 傍から見れば変にも映る光景に声を掛けたのは開発工房に用があったパワーローダーであった。

 

 「何してるんだ?」

 「―――ッ!?」

 「いえ、ただ物珍しかったもので」

 「まぁ、そうだろうな。置き場がないからって入り口に飾りやがって…」

 

 二人の反応よりも何をしていたかにパワーローダーは苦笑いを浮かべる。

 無論彼らが入り口で眺めていた事ではなく、その眺めている物が飾られた経緯の方に。

 以前扇動が発目にコスチューム依頼を出した際に、雛型としてなんの機能もなく作られた銀甲冑(シャドームーン)

 折り畳む事もばらして保管するにも置き場に困って入り口に飾る事になった。

 しかしそれを知った扇動は「だったらブラックサンも飾ってくれないか」と飾る目的で制作を依頼。

 パワーローダーが気付かぬうちに制作されたそれは(ブラックサン)入り口に飾られ、何も知らないままに飾られているのを目撃して頭を痛めたのは日に浅い。

 

 「全くあの問題児どもには困ったもんだよ」

 「はぁ…苦労されてるんですね」

 「それはそうとそんなに興味あるなら持って帰るか?」

 「――ッ、宜しいので?」

 

 正直に言えば処理に困っている類の物。

 なんの機能もないただの銀甲冑にコスチュームでは飾るか着るぐらいしか使い道がない。

 かさばるアイテムゆえに邪魔で仕方ないと思っているパワーローダーにしてみれば、処理する為の費用を考えれば引き取って貰えたならどれだけ有難いか。

 

 いきなりの申し出に常闇も黒色も期待から目を輝かせるも、現実という非情な壁に首を横に振るう。

 等身大の荷物を家に持って帰るとなれば、抱えたり背負って行く訳にもいかず、ともなれば業者によって運んでもらう必要性が発生する訳で、同時にそれに対する対価を支払わねばならない。

 払えない事は無いが学生の小遣いでは少し厳しい。

 さらに言えばそんな大荷物を部屋の何処に置けるのかという問題もある。

 そのような理由から二人は申し出を断るほかなかった。

 

 「申し出は有難いですが、置き場に困りますので。しかし、またの機会があればその時は」

 「…俺も」

 

 それもそうかとパワーローダーは開発工房へと入室していった。

 断るほかなく眺めるばかりの二人だったが、ある事がきっかけで手にする機会が来るとはこの時は思いもしなかったのである。

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