無個性オリ主が共にヒーロー目指す!   作:チェリオ

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 この回は第34話を投稿したら移動します。


第24話 体育祭を前に

 網の上で炙られた鮭の切り身が余分な脂をぽたりぽたりと落として、熱源に触れてはじゅわりと音を立てて香りを周囲に放つ。

 炊飯器を開ければふっくらと焚き上がった白米が顔を出し、大根を辛くならないように下ろして、沸騰せぬように気を配る鍋からは味噌汁の匂いが漂う。

 それぞれを装うと海苔をサッと火で炙る。

 朝食の用意を済ませた扇動 無一は珈琲カップ片手にソファに腰かけて、近くに置いてあるCDプレイヤーをランダム再生で起動させて一息つく。

 

 早朝四時に起きてから町内をぐるっと走り、トレーニングルームで六時半ほどまで汗を流し、シャワーを浴びて身支度を済まし、朝食の支度を済ませて今に至る。

 いつも通りの日常。

 雄英体育祭が目前に迫っても特に変化はない。

 寧ろ今更焦るぐらいなら遅いだろう。

 

 のんびりと珈琲を口にしながら流れる曲に耳を傾ける。

 するとトコトコと廊下より足音が聞こえてきた。

 起きたなと思い、入り口へと視線を向ける。

 

 「おはようさん」

 「あぁ、おはよう」

 

 扉を開けて姿を現したのは寝間着から雄英高校指定の体操着(ジャージ)に着替えた轟 焦凍。

 居候するようになって最初こそ戸惑っていた彼も今や慣れて、軽い挨拶を交わすとテーブルへと向かって椅子に腰かける。

 ダイニングルームより「いただきます」と言われ、轟は用意しておいた朝食を食べ始めた。

 先ほど作った朝食は自分用ではなく轟用。

 夕食なら兎も角、自分の朝食でそれほど手間をかけようとは思わん。

 すでに自身の朝食は済ませており、その内容はバナナに無糖ヨーグルトにホットミルク。

 

 それこそ轟が同じもので構わないと言ったが、うちで預かると言っておいて食事に不自由させる訳にはいかんだろうに…。

 お姉さんが料理上手だったなら尚更だ。

 どうせならお姉さんの舌で慣れた轟を、唸らせるような美味しい料理を作ってみたいものだ。

 目指せ天道(仮面ライダーカブト)ってな。

 

 朝食を終えた轟は食器類を流しに運び、さっと洗っては乾燥機に入れていく。

 現時刻は六時四十分。

 そろそろかなと大きな古時計に視線を向けたその時、インターフォンが鳴り響いた。

 洗い物をしていた轟が動こうとするのを制止して、ソファから腰を上げて玄関へ向かって鍵を開ける。

 

 「おはようございます扇動さん」

 「おはようさん。今日もまた目立つので来たな」

 

 インターフォンを鳴らしたのは八百万 百であった。

 登校時にランニングしていると知られてから一緒に走る事になり、朝とは言え娘が一人で走るのは不安が残る両親からの意向でここまでわざわざ送迎されている。

 …ただ一緒に走るクラスメイトが男の子と知った父親は別の意味でひと悶着あったようだがな。

 

 それにしても毎回毎回送迎がリムジンとは…。

 いつも通りに駐車場に止められたリムジンを見て苦笑いを浮かべる。

 

 「あれでも控えめな方なのですけど…」

 「………いや、考え方次第か。確かにリムジンだろうがシャトルだろうが金ぴかなドロシー嬢より控えめだった」

 「何方ですの?」

 「平和を愛するお嬢さんだよ。お嬢は紅茶で良いか?お茶請けにカップケーキがあったな」

 「では、お言葉に甘えて頂きますわ」

 

 招かれた八百万は洗い物をしていた轟と挨拶を交わし、来るようになって折角なので紅茶の淹れ方を教えて貰い、今では紅茶を常備するようになった。

 ただし、一番良い茶葉はお嬢が持ち込んだものであるが…。

 

 作り置きのカップケーキを淹れた紅茶と共に差し出してから再びソファに座る。

 もう暫しゆったりしたいところであるが時刻は午前七時前。

 ショートホームルームが八時二十五分からなのでまだ一時間以上あるとはいえ、自転車で(・・・・)三十分の距離をランニングするので最低でも四十五分は掛かるだろう。

 到着後の着替えも考えてそろそろ出発する頃合い。

 部屋着で使っている灰色の作務衣から学生服に着替えようと自室に戻り、手早く済ませて荷物を手にして戸締りを確認して回る。

 そして確認が終えれば轟と八百万に声をかけて登校するのだ。

 三人揃って出たのを確認して送迎してきたリムジンが帰って行く。

 さて、マスクを装着して雄英高校までランニングする訳なのだが、轟だけは加えて個性のコントロール訓練も行っている。

 幼い頃よりエンデヴァーに鍛えられた為に身体機能は高いので、ランニングだけなら何ら問題はなくついて来れるだろう。

 運動すれば体温が上がるのは必定。

 それを氷結の個性でもって体温を保ち、汗をかかない程度に維持し続ける

 同時に二つの事をやり続けるというのは難しいものだ。

 案の定、轟は出力を上げれば凍って動きが鈍り、弱過ぎれば楽ではあるが訓練の意味がなく、精密な個性コントロールを走りながら三十分以上持続という難題を四苦八苦しながら行っている。

 だからか到着後はお嬢同様に汗だくになってしまっている。

 

 一応訓練については提案はするが強制ではない。

 これは採用したならば自己責任という訳ではなく、するか否かは任せるというだけの事。

 採用したならば提案した責任はとるつもりだしアドバイスもする。

 だから無理したがる轟には手を焼く訳だが…。

 

 気配で大体の距離は掴んでいるが、ちらりと振り返ると表情が曇っている。

 これから学校だというのにスタミナ配分無視も甚だしい。

 自分が行っている特訓は補助であり、メインはヒーロー基礎学で学ぶべきだ。

 そもそも轟がうちに来るかと声をかけたのは父親との事が理由である。

 ゆえに焦って訓練に励む事もないだろうに、徐々に慣らして行けばいいものをハイペースに突き進もうとする。

 

 「焦るな轟。短距離走の速度で長距離を駆け抜ける事は出来ねぇんだから」

 

 一応忠告を口にしておくが聞いてはくれないだろうな。

 …今は二つの事に意識が回っている上に余裕がないのもあるだろうがな…。

 

 ちなみにだが轟には個性のコントロール訓練とだけ伝えたが、これは単に氷結の個性コントロールの訓練ではない。

 個性のコントロール訓練に偽りはないが、同時に二つの事を並行して行うというのは何も今の状況だけに限られる訳もない。

 例えば氷結と炎の個性を同時に使用する事があれば、異なる二つの事柄を並行して行わなければならない。

 そう、“これは例えば”の話だがな。

 

 そうこうして雄英に着けば二人と別れる。

 お嬢は最初こそペース配分をミスって疲労困憊していたが、ちゃんと見極めて自身のペースを把握していた。

 けれど疲労から汗だくになるのは変わらない。

 これはマスクトレーニングで息苦しいのもあってだろうが…。

 兎も角汗だくなお嬢と轟は急ぎ職員室に行って男女それぞれの更衣室の鍵を借りて、備え付きのシャワールームを借りて汗を流して、ジャージ姿から学生服に着替えなければならないのだ。

 ゆえに(・・・)俺だけそのまま教室に向かい、自身の席でショートホームルームが始まるのを待つ。

 午前中は通常授業で前世の高校と然程変わらない。

 真面目に授業を受けては休み時間には宿題で出されたプリントを済ませたり、雑談に華を咲かせたりして過ごす。

 そして昼休みには食堂でランチラッシュの料理に舌鼓を打つ。

 

 これが流れだったのだが今日はイズクに深刻そうな顔で声をかけられ、密談室…もとい、仮眠室で少し話がしたいという。

 何事か心当たりはなかったが、あの表情から無視できる話題ではないだろう。

 最も笑っていようと無条件で自分の流れ(予定)など放置して優先しただろうけどな。

 

 

 

 

 

 

 緑谷 出久は思い詰めていた。

 憧れのヒーローであるオールマイトより個性を受け継いだ。

 それはとても光栄な事であり、非常に嬉しい事である。

 オールマイトのようなヒーローになる為に。

 オールマイトの期待に応えれるように。

 日々期待に背を押され、夢に向かって我武者羅に進んでいく…。

 それだけの筈なんだがずっと思い悩んでいる事がある。

 

 オールマイトより個性を受け継いだことをかっちゃんにもだが、むーくんにも伝えれていないという事。

 同じ無個性で今もだけど小さい頃から支えてくれた大事な友人。

 彼はどういった心境だったのだろう…。

 羨んだのだろうか?

 憎しみを抱いたのだろうか?

 裏切者(・・・)に映ったのだろうか?

 騙していたと思われるだろうか?

 事が事だけに軽々に話せないし、オールマイトより口止めされていた………というのは言い訳にしかならないだろう。

 怖かったんだ…。

 むーくんの口からそう言った感情を言葉にされるのが…。

 怖くて怖くて仕方がなかった…。

 

 すでにオールマイトから個性の件については話は済んであると聞いた時、僅かに安堵すると同時に大きな後悔に襲われた。

 何故自分の口で言えなかったのか…と。

 

 ずっと思い続け、体育祭前日になってようやく重い腰を上げれた。

 人には聞かせれない内容なのでいつものように仮眠室に訪れる。

 向かいに座るのはむーくん。

 それと隣には同席を頼んだオールマイトが居る。

 どう話し出そうかと迷い、三者の間に沈黙が流れる。

 

 「…で?いつまでだんまりするんだ?」

 

 内容を知らないだけに黙々と紙袋から取り出したシュガードーナツを食べていたむーくんが首を傾げながら問いかける。

 オールマイトからも戸惑い交じりの視線を受けられ、ようやく意を決して重い口を開く。

 

 「オールマイトから聞いたよね?」

 「あぁ、個性の話なら聞いたな」

 「ごめん。言えなくて」

 

 重かった口がひとたび開くとダムが決壊したかのようにつらつらと溢れ出る。

 今まで抱いて来た想いが止め処なく…。

 むーくんは手を止めてジッと目を見ながら話をただ聞いていた。

 相槌は打つものの遮る事はしない。

 そして終わると頭をふわりと左手で撫でられた。

 

 「気ぃ使わせちまったようで悪かったな。俺は気にしてねぇから思い悩むなや。明日のパフォーマンスに響くぞ」

 「だって同じ無個性だったのに僕はオールマイトから個性を貰って…むーくんだってオールマイトの個性は欲しいでしょ?」 

 「いや、別にいらんけど」

 「そうだよね。オールマイトのあの絶大な個性を――っていらない!?」

 

 眉一つ動かす事無く返された返事に声が大きくなり、慌てて口を塞ぐがここが防音が施されている事を思い出して手を放す。

 これにはオールマイトも驚いていたが、本人はそれを見て鼻で笑う。

 

 「驚く様な事か?」

 「普通は驚くよ。だってオールマイトの個性だよ!」

 「超絶パワーは凄いと思うけどよ。それを俺が手に入れてどうすると思う?」

 「どうするって…」

 「俺は俺の目的の為に使うと思うぞ。ハッキリ言って私利私欲でだ」

 

 思いも寄らぬ言葉に目が点になる。

 あのむーくんが私利私欲で使うと言われて想像がつかなかったのだ。

 

 「力というのは使い方一つで良くも悪くも捉えれる。力さえあれば気に入らない奴を叩きのめす事も出来るし、オールマイトのように誰かを救う事も出来る。あの人(・・・)を探して捕まえるにも仇を討つにしてもな…だから誘惑してくれるな。その力はお前が持つべきものだ」

 「扇動少年…」

 

 何か言いたげなオールマイトの表情から二人の間で僕の知らない事柄の話をされているのは解かる。

 一体何があったのかと気にはなるも、軽々に聞けないだろう内容のように感じて、ただ話が進むのを待つしか出来ない。

 

 「お前なら大丈夫だと信じてオールマイトは託したんだ。人の顔伺う前に信頼に応えるべくモノにして見せろよ。俺が壊れる前にな」

 「本当にご迷惑お掛けします…」

 

 個性の調整が完全に出来ていない為に、今だむーくんに個性を使用してはコツを掴もうと実情から、冗談でもそう言われると肩身が狭い。

 その様子にオールマイトもむーくんもクスリと微笑み、つられて微笑んでしまう。

 つっかえていた想いを話せた安堵から胸を撫でおろし、飯を食いに行くぞと誘う扇動について行く。

 明日こそその背中に追い付きたい(・・・・・・)と思いながら…。

 

 

 

 

 

 

 昼休みが終れば午後の授業が待っている。

 普通科や経営科、サポート科は六限までだがヒーロー科は七限まで。

 そして授業が終われば扇動 無一指導の特訓が待っている。

 自由参加で誰もが手応えを感じているので脱落者は無い。

 前日である今日も今日とて厳しい訓練が行われる―――などと思っていた一同に扇動は明日の事を考えて軽めの内容かつ早めに切り上げると言ったのだ。

 しかもその上で都合が良かったら飯食いに行かねぇか?と誘って来たのだ。

 

 食事は誰もが即答で応えたが、本番前なのに追い込まないのと訓練に対しては疑問を浮かべていた。

 対する回答は本番前だからこそ休めるんだろうがの一言。

 ここで無茶をして身体を痛めたりしたら元も子もない。

 確かにその通りだと軽めのトレーニングを受け、俺達は扇動君に誘われるまま食事をしようと店に向かう。

 扇動が予約を取ったのは値段も良心的で美味しいと評判の焼き肉屋であった。

 店内に入ると予約していただけに早速席へと案内される。

 

 「英気を養う為にも遠慮なく食えよ」

 「ごちに成ります!」

 「おう」

 

 今回の焼肉は扇動の驕りである。

 最初は自分の分だけでも払うと言ったのだけど、誘ったのは俺だしこれも放課後の特訓の一部だと聞かなかったのだ。

 なんにしても

 

 「すみません。これ(カルビ)これ(ハラミ)これ(タン塩)…それとこれ(ホルモン)を十人前ずつお願いします。皆さんはどうしますか?」

 「多っ!?」

 「一人分(八百万)の注文やったんやね」

 「ああいう風に注文すれば良いのか?」

 「違うよ!?」

 「ライスと飲み物は注文せんのか?」

 

 注文時点でかなりカオスな感じになっているが、それを纏めつつ白米や飲み物の注文や追加を行う扇動。

 それを横目で見ながら肉を焼きながら、がっつくように喰らい付く

 

 「うめぇな!箸が止まらん!」

 「いつもより軽めだけど結構動いたからね」

 「本当にね」

 

 扇動の軽めというのは量ではなく質の話である。

 身体を痛めるようなメニューを除いても、それなりの量は熟したのだ。

 動けば動くだけエネルギーを消費し、身体が欲して箸と口が忙しなく動く。

 それを眺めながら扇動は次々肉を焼き、時々摘まむように食べている。

 

 「けど身体を休めるというのであれば、訓練自体を無くす方が良かったのでは?」

 「お嬢…そうしたら空いた時間で明日の為にと訓練する奴がいるだろう」

 

 決して名前は出さなかったが、視線が緑谷と切島に向けられて二人は肩を竦ませる。

 全くもってその通りだと苦笑いを浮かべる。

 

 「そういや轟は初めてか?」

 

 轟に向けられた問いかけに自然と耳が傾き、食べながらもこくんと轟は頷く。

 

 「友達と(・・・)食べに行くなんていうのは初めてだな」

 「いや、そっちじゃなくて焼き肉屋がって事なんだが?」

 「あぁ、それも初めてだな」

 

 なんか聞いちゃいけない内容だったかと箸が止まる。

 けどそんな事気にする様子もなく八百万は山のように盛った肉を平らげ、当の本人も気にする素振りさえなく箸を動かしている。

 

 「ん?お前ら遠慮せず食えよ」

 「お、おう!」

 

 重たく感じた空気を蹴散らすように肉を喰らい、扇動は追加を十人前単位で注文していく。

 

 「イズクもどんどん食えよ。つっても食い過ぎて明日の試合に響かぬ程度にな」

 「うん、ありがと」

 

 皿に乗せていた肉が減っているのを見て、扇動は緑谷の皿に焼けた肉を追加する。

 前から思っていたけど扇動は緑谷に対して面倒見が特別良く、友人というよりは兄弟のように見える。

 しかも年の離れた感じの…。

 

 「いっぱい食べて明日は優勝目指して頑張るよ」

 「そりゃあ無理だな」

 

 仲良さげな様子だったにも関わらず、扇動は即答でバッサリと切り捨てた。

 その事に誰もが驚いて手を止めて振り向く。

 

 「―――俺が一位獲るから」

 

 ニタリと挑発的な笑みを浮かべた扇動。

 対して誰もが反応を示す。

 

 「いや、俺がトップは貰うぜ」

 「私だって負けませんわ」 」

 「俺も負けるつもりないぞ」

 「私もだよ」

 

 それぞれ想いを口にして肉を食らう。

 挑発した扇動はその様子に満足そうに笑い、焦げるまで焼いたホルモンを口にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰宅してから日課となっている帰宅後のトレーニング(人にはああ言っておいて…)に風呂を済ませた扇動 無一はパソコンの前で黙々とキーボードで文字を撃ち込んでいる。

 これは決して迫る体育祭の為に何かしている訳ではない。 

 どちらかと言えば今行っているのは趣味の範疇―――いや、急ぎの仕事という事になるか。

 

 この世界には前世に無かった個性の存在により差異が生じている。

 個性により自身もそうだが周囲の環境が異なった事で、人によっては全然違う道を歩んだものは少なくない。

 中でも映画やドラマ、アニメなどの影響は小さくない。

 前世での記憶がある分、差異が大なり小なり存在している。

 

 今回に限ってきっかけはB組の柳 レイ子と接点が出来た事だ。

 彼女はホラーが大好物で、出会った一件でホラーを知っている俺と幾らかやり取りをするようになった。

 内容は今生で見た映画の感想会や俺が前世で見たホラー話を電話越しに話したりだ。

 ただここで問題が起こる。

 前世で有名な和製ホラーの話をしていた際に、ふと名前とか何等か違いがあるだけで存在しているのではないかという疑念を抱く。

 柳に聞いて見てもそんな話は初耳という事で聞かせてと強請られたのだが、彼女とてすべてのホラーを熟知している訳でもあるまい。

 そこで仕事とは離れてしまうが俺の担当(・・)に尋ねたのだ。

 否、尋ねてしまったのだ…。

 

 彼の本職は音楽関係で映画関係ではないものの、色々と伝手があるので公私混同ではあるが調べて貰おうと頼んだのだ。

 軽いストーリーを話すと数日お待ちくださいと言われ、三日経ったから回答として“企画通りましたよ”だと告げられた。

 

 誰がそんな話をしたかと突っ込んだが、知り合いの映画監督に問い合わせたところ面白そうと乗り気になり、そちらで勝手に話が進んだそう。

 何より名を広まっている(無一が使ってるペンネーム)猿渡 一海(仮面ライダーグリス)”がホラー映画を作るとなれば話題にもなると喰いついたものも出たそうで、こうなっては自分の浅慮を悔いるしかない。

 しかしホラーとして八月頃もしくは遅くても九月の上映に持って行きたいとの要望はどうにかして欲しかった。

 八月だとすれば今月入れても三か月しかない。

 確か撮影だけでも一か月から三か月の期間が必要だったと記憶しているので、どう考えても日数が合わないだろう。

 

 対して担当は「最低でも中旬頃には箇条書きでも良いので台本が欲しいですねぇ」なんて言い出す始末。

 色々とお世話になっている手前、無理と口にする気が退けて、こうして夜遅くまでパソコンに映し出される文章と睨めっこしているのである。

 

 すでに話題として噂を流しており、聞きつけた柳が楽しみに(彼女は正体を知らない)楽しみに待っており、その事実を知っているからこそ余計に断れないのもあるが…。

 体育祭前夜に砂糖にミルク一切なしの珈琲の苦々しさを流し込みながら、夜遅くまで後悔と共にキーボードを打ち続けるのであった…。




 焦るな轟。短距離走の速度で長距離を駆け抜ける事は出来ねぇんだから
●ラインハルト様、どうか焦らないでください。短距離走の速度で長距離を駆けぬけることはできません
 【銀河英雄伝説】ジークフリート・キルヒアイスより

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