無個性オリ主が共にヒーロー目指す!   作:チェリオ

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第25話 雄英体育祭開幕!!

 緑谷 出久はガチガチに緊張していた。

 これから行われる雄英体育祭は日本中の人々を熱狂させる一大イベント。

 一般客に勧誘目的のプロヒーローを含めた大勢の観客が自分達の活躍に目を光らせると思うだけで胃が痛くなるような緊張に襲われる。さらに付け加えればオールマイトより次代を担う者(ワンフォーオール)として活躍を期待しているとなれば圧し掛かる重圧は相当なものだ。

 期待に答えるべくこの二週間は扇動指導の特訓に励み、個性のコントロールも強制的(・・・)にだが向上する事は出来た。

 自信もあるにはあるがそれで緊張が掻き消えるかと聞かれれば否と即座に答えよう。

 

 一年A組の控室では公平を期すためにコスチュームの着用は禁止され、体操着姿で入場の時間が来るまで各々好きに待機している。

 談笑をする者に期待や不安を募らせる者、ただただ普段通りに時間を潰す者などなど。

 不安を募らせる緑谷に轟が近づいてくる。

 ほとんど感情を表情に乗せない為、無表情やポーカーフェイスほどではないが読みにくい轟ではあるが、纏っている雰囲気が少しばかりピり付いている事に気付いて切島辺りがどうしたと注視する。

 

 「緑谷。少し良いか…」

 「何かな轟君?」

 

 緊張していた事もあって声かけられて少し戸惑いながら返事をしながら振り返る。

 視線が合った瞬間緑谷は別の意味で肩を震わして戸惑う。

 なにせ轟の瞳には敵意に似たナニカが宿って、それを自身に向けて居たのだから。

 

 「お前…扇動だけじゃなくてオールマイトにも目を掛けられているよな。別に詮索するつもりはないが―――俺はお前に勝つぞ」 

 

 オールマイトの関係の指摘に突然の宣戦布告に内心焦りまくる。

 周囲もそれに対して騒めき、争いごとかと切島が仲裁に入った。

 

 「おいおい、急に喧嘩腰でどうした?直前に揉め事は止めろって」

 「止めるな切島」

 「けどよ扇動…」

 「良いから言わせろ(・・・・)

 

 携帯を弄ったり談笑していた扇動は興味深そうに見つめ、その視線に押されるように僕は言葉を口にする。 

 

 「轟君がどうして僕に勝つって言って来たのかは解らない。実力は轟君の方が上だし…どうして僕にとも思うよ」

 

 身体能力や状況判断もそうだ。

 個性の使い方なんて僕はようやくで、轟君は帰宅後もむーくんの指導を受けて強めているとの事。

 何を置いても格上である相手なのは確かだ。

 ―――けど!

 

 「けど…だからこそ僕も言うよ!クラスの皆も他の科の人も本気でトップを狙ってる。遅れをとる訳にはいかないんだ。むざむざ負ける訳にはいかないんだ。僕も本気で獲りに行く!勿論君にも負ける気はないよ」

 「―――ッ、おお」

 

 真正面から想いを込めて言い返した事で、内心は昂って震えている。

 その高ぶりを落ち着かせる間もなく入場時間となり、控室より一年ステージの入場口へと委員長の飯田を先頭に進む。

 会場として使用されるは12万人を収容出来るドーム状の施設“体育祭会場”。

 詰め寄せた観客と報道陣によって客席は埋まり、騒めきは入り口に近づくたびに地響きのように伝わって来る。

 一年A組が入場するのに合わせて司会を担当しているプレゼント・マイクの声がスピーカーより放たれる。

 

 『雄英体育祭!ヒーローの卵たちが凌ぎを削る年に一度の大バトル!!どうせテメェらアイツらが目当てだろ!!高校に上がったばかりにも関わらず、姑息なヴィランの襲撃を乗り越えた奇跡の新星!!ヒーロー科、一年A組!!!』

 

 会場に響き渡るプレゼント・マイクの言葉に歓声が挙がる。

 観客の声援にテレビ局のカメラが向けられ、緊張も最高潮に達して心音が嫌に大きく聞こえる。

 同じように余計に緊張する者も居れば、自分達が注目されているという事実に心躍らせる者も居た。

 けど一人だけ…扇動だけは全く別であった…。

 

 「気付いてっかイズク?」

 「えっと、何のこと?」

 「プレゼント・マイクの言いようもだけど会場の反応だよ。まるでヒーロー科以外の生徒は引き立て役……いんや、モブのような扱いしてんのによぉ…」

 「そんな事はないと…思うけど…」

 

 返事をしながら緑谷は扇動の横顔を見た。

 苛立ちを募らせて険しい表情を浮かべている。

 確かに観客やテレビ局の反応に、プレゼント・マイクの発言は意図していないとしても示してしまっている。

 同時に入場してきた普通科の生徒に視線を向けるとやはり不機嫌そうで納得出来ないと言った感情を露わにしていた。

 

 「どこぞの神父じゃあねぇけど…“気に入らねぇな。気に入らねぇよ”」

 

 小さく呟いた扇動を視線で追いながら所定の位置で並び。

 一年生の主審の登場を待つ。 

 

 雄英高校の生徒数は多い。

 一般的な体育祭のように学年ごとに分けて一つの会場を使う事は出来ない。

 ただでさえ強力な個性持ちが多く、使用が解禁される事もあって同じ会場を使う事は難しいのだ。

 そもそも雄英高校は敷地が広大で施設も多いので、学年ごとに会場を分けている。

 校長は三年生を担当するとして、一年生の主審を務めるはミッドナイト。

 過激な衣装で“18禁ヒーロー”と謳われるミッドナイトの登場に主に男性の観客が騒めき、生徒の中からは18禁なのに高校に居ても良いのか?と疑問の声が挙がる。

 

 「選手宣誓!選手代表一年A組扇動 無一!!及び爆豪 勝己!!」

 「かっちゃんも!?」

 

 入試一位であった扇動は分かったが、何故爆豪まで呼ばれたのか誰も理解出来なかった。

 しかし当人はその予定を知っていたらしく、両手をぽっけに突っ込んだまま怠そうに扇動に並んで(・・・)壇上へ向かう。

 その最中に緑谷は扇動の横顔が見えたのだが、口角を吊り上げて嗤っていた(・・・・・)

 信頼と信用をしているけれども不安が拭いきれない。

  

 壇上に上がった扇動はマイクを手に取ると、ミッドナイトに向けて選手宣誓を行うと思いきや(・・・・)、振り返って選手である生徒に見渡した。

 

 「俺はある生徒より聞いた。普通科の生徒はヒーロー科落ちた者が大半だと」

 

 壇上に立っている事もあって物理的に見下ろしている扇動の発言に全生徒がざわついた。

 サポート科や経営科は視線を扇動か普通科に向ける程度だが、発言に該当するほとんどの普通科の生徒は反応を示して睨み、ヒーロー科の生徒一同は何を言う気なんだと冷や冷やしながら見守る。

 一部罵倒や苛立ちを口にする者も居る中、見渡して向けられる反応に笑みを浮かべて真剣な眼差しを向ける。

 

 「現在王道とされるのはヒーロー科で学んで、用意されている予定に従って歩む道だがヒーローへと至る道は一つではない。プロヒーローに見込まれて事務員やアシスタントとして身近で修業を積んでヒーローに至った者も居れば、自主的に鍛錬を積みながらもに勉学に励んでヒーロー免許を手にした者だっている。

  険しくも道は存在するのだ―――さて、君達はいつまでも恨み、妬み、指を加えて観ているのだ?」

 

 声色は優しくも力強く語り掛ける扇動の言葉は、ざわついた発言があったからこそ余計に耳に残る。

 

 「ヒーロー科に受からなかったけれどヒーローという夢を抱き、望み、憧れ、諦めきれない者達よ。これは千載一遇の好機である!自身が持てる全てを出し切り夢を勝ち取れ!教師陣に優れていると判断されればヒーロー科への椅子が!プロの目に止まればヒーローへの僅かながらも大きな一歩が踏み出せるのだ!今こそ困難を糧に壁を乗り越える時ぞ!!」

 

 感情が籠る言の葉に吸い込まれるように誰もが聴き入る。

 それは生徒だけでなく観客たちも同様で、誰一人として会話をしている者はいなかった。

 言葉の強弱や声色だけではない。

 扇動は表情や手振り身振りも使って語り掛ける。

 

 「これはヒーロー科、普通科だけではない。観客の中には大企業のお歴々も集まっている。サポート科にとって今ここ(・・)こそが未来への見本市。まだまだ未熟ながらも見せ付けよう。自分という原石はここにあると高らかに!

  経営科にとってここは多くの情報が垂れ流されるカオス(混沌)だ。どのような個性があり、どのような者がいるか知るには良い場所だろう。自分なら彼を彼女をどういう方針で支えるか。どのように事務所を運営していくか。良いところと悪いところの重箱の隅を突く様な粗探しをして改善点を見出そう。見つけれなければ仲間と相談して深めよう。知識は力と成りて自らを成長させるだろう」

 

 焚きつけられ鎮火しそうなほど弱々しくも、いつまでも諦めきれなかった残り()に薪をくべられ、徐々に熱を上げながら大きく強く灯る。

 そしてそれは普通科のみならずサポート科に経営科にも広がって行く。

 誰も彼もが意思の籠った瞳で見つめ、最初にあった嘲りなどの感情は消え去っていた。

 

 「サポート科は持てる技術を見せ付けろ!経営科は情報を糧に思想を伸ばせ!ヒーローを諦めきれぬ普通科の生徒は奮起せよ!!そうでない者は日ノ本を上げての一大イベント。我関せずと怠け傍観するよか馬鹿になって全身全霊で楽しもうや」

 

 最後に楽しそうに笑った事で生徒や観客から返事の代わりに割れんばかりの歓声や拍手が上がる。

 会場そのものが熱に包まれた。

 やっぱりこういう事は上手いなと昔自分にしてくれた事を思い返して緑谷は笑顔を浮かべていた。

 

 ………一緒に壇上に上がっている爆豪の存在を忘れて…。

 

 「そして最後にヒーロー科…いや、A組を代表してどうぞ」

 「―――俺が一位になる」

 

 火が灯るどころではなくなった。

 当然が如くに無気力に放たれた一言に怒りが生まれ、生徒一同は怒気を含んだ業火に包まれた。

 それは壇上に爆豪に向けられる。

 観客は唖然とし、中には面白がっている者も見受けられるが同クラスのA組の面々はそうはいかない。

 なにせ爆豪のせいで一年全員のヘイトが自分達にも向けられる事となったのだから。

 

 「せめて跳ねの良い踏み台になってくれ」

 

 ブーイングの嵐を物ともせず、首を掻っ切るようなジェスチャーでさらに挑発する様に緑谷は内心「それ以上は止めて!!」と願うも叶う事はなかった…。

 物ともしていないのは扇動も同じで、涼しい笑顔を浮かべてミッドナイトへと向き直る。

 

 「宣誓!我々は己が夢を叶えるべく、全身全霊を持って挑む事をここに誓います!!選手代表扇動 無一」

 

 …してやられた。

 そして巻き込まれたとA組は理解した。

 扇動の清々しい程のしてやったりという表情に、一風どころか挑発するような宣言に対して口を挟まず満足そうに選手宣誓を受けたミッドナイト。

 予期せぬ出来事(アクシデント)ではなく先に許可を取っていた予定通りの行動。

 にこやかに戻って来た扇動に皆が口々に何かを言う前に口を開かれた。

 

 「さて、これで後には退けないな。ヒーロー科は終点ではなく単なる通過点。胡坐を掻く事無く日々困難を糧に壁を乗り越えて行こうか。プルスウルトラ…ってやつだな、うん」

 「「「オマエらが煽動(扇動)したんじゃねぇか!!」」」

 

 一斉に突っ込みを浴びて楽し気にくつくつ笑う様に「全く…」A組の面々は呆れつつ、二人には酷く感心(・・・・)してしまう。

 負の感情渦巻く普通科にやる気のあまりなかった生徒も焚きつけてやる気にさせた扇動に、生徒全員にあえて言い切る事で自らを追い込んだ爆豪。

 凄いと思いながらもどちらもクラスを巻き込むんだよなぁと苦笑いを浮かべてしまう。

 

 「さぁて、それじゃあ早速第一種目に行きましょう!毎年多くの者が涙を飲む運命の第一種目はこちら!!」

 

 ミッドナイトの台詞に合わせて会場の大型モニターに映し出されたのは“障害物競走”の文字。

 内容は一年生計十一クラスに寄る総当たりレースで、コースはスタジアム外周約四キロ。そしてコースさえ順守すれば何しても(・・・・)良いのだ。

 個性を使おうと妨害しようと何をしても…。

 

 スタート位置となる会場から外に出る門に生徒が集まり、上に三つの点灯しているランプがスタート合図である全部消灯するのを待つ。

 扇動に爆豪によってボルテージを上げられた生徒の熱量を肌で感じて身震いするも、オールマイトのような(・・・)ヒーローを目指すのであれば負ける訳にはいかない。

 周囲に飲まれそうになるもオールマイトの期待と自らの夢を背負い、集中力によって雑念が掻き消えまだかまだかとランプを見つめ、スタートの合図と共にヒーローを目指す者は駆け出した。

 

 

 

 雄英高校は異形型などの大柄な人でも不自由なく動けるように大きめに作られている。

 体育祭会場もまた大きく広く設計されているものの、それにも限度というものは存在する。

 重機が入れるほど広い入り口ではあるが、A組だけでも21人いるクラスが十一クラス。

 単純計算でも二百二十人以上の生徒が門に殺到して、たかが重機が通れるだけの門を一斉に潜れるだろうか?

 答えは不可能。

 譲り合いの精神という言葉が存在はするがここには無い。

 誰も彼もが我先にと突っ込み、首都圏の渋滞をあざ笑うかのような大渋滞を引き起こす。

 押し合い、掻き分け、ぶつかり合いが門内で発生する。

 

 『これより実況はこの俺、プレゼント・マイク!そして解説はイレイザー・ヘッドでお送りするぜ!早速だがミイラマン(イレイザー・ヘッド)!序盤の見どころは?』

 『…今だよ』

 

 スピーカーを通して発せられる相澤の言う通り、大渋滞をしていた門内で大きな動きが起こる。

 いち早くその場を制したのは空を飛べる爆豪でも、速度で秀でた飯田でも無かった。

 周囲の足元を凍らせるのと連続して足裏で氷を発生させることで速度を得た轟である。

 妨害に渋滞からの脱出を難なく図った轟は、個性の使用をやめて走って先頭を行く。

 範囲攻撃も行える氷結の個性は強いが個性を使用すればするほど身体に霜が降りて動きが鈍くなる弱点が存在する以上、使い続けるなんて事は不可能なんだ。

 解決策はあるも使いたくない私情もある。

 

 だから入り口の連中全員を氷漬けにするほどの高威力は出していないので、人によっては力づくで氷を割れるし、凍り付いた地面を滑って進める。

 それに氷結の瞬間さえ何とかすれば容易に難を逃れる事は可能なのだ。

 現に八百万は掌より棒を創造して飛び越え、爆豪は爆破で飛び、個性でなくともジャンプ一つで氷結から突破した者もいる。

 初見である他の科の生徒らは足止めを受けているも、A組の面々は誰も足止めされる事無く突破している。

 中には個性を見せていないB組の生徒も難なく躱していたのは意外だったが。

 

 「思いのほか対応したな。いやはややる気になったのは良いが、熱意に浮かれるばかりでは足元を掬われるな」

 「対応に関しては同意だが、後半はお前の策だろ?」

 「人聞きがワリィな。俺は不貞腐れているだけの奴らに発破を掛けただけだ」

 

 氷結を難なく回避して背後をアイススケートでもするようにして付いてくる扇動の言葉に返しながら、決して警戒は解く事は無い。

 個性把握テストでの結果からして容易に抜く事は出来る筈なのに、ぴったりと背後を付いてくると言う事は何かしらを狙っている筈…。

 疑いの眼差しを向けると肩を竦ませられた。

 

 「そんな目ぇすんな。俺はただお前さんの前に出ても良い事がないから後ろにいるだけだ。仕掛けるなら後半だ」

 「………」

 「あからさまに疑うんじゃあねぇよ。ここで争ったって足の引っ張り合いだ。時間が立てば経つほど本調子になる爆豪が来る前に距離を稼いでおきたいのは俺もお前も一緒だろうに」

 

 確かにその通りだ。

 爆発する成分を含んだ汗を起爆させて高い破壊力と速度を生み出す爆豪は、身体が温まれば温まるほど発汗が多くなって威力も速度も上がって来る。

 ここで扇動と争っていては本調子、または本調子以上の爆豪に追い付かれた時に非常に厄介なことになる。

 会場にはクソ親父が居る事もあって負ける訳にはいかない。

 それは勿論頑張っている姿を見せる為なんて理由ではなく、奴の炎の個性を用いなくともヒーローになれると証明する為…。

 争っても無駄だし、扇動も追い抜いた所で背後からの氷結に警戒しなければならない愚策は犯さないだろう。

 合理的に考えて今は扇動の言葉を信じても大丈夫と言い聞かせて、多少警戒したまま手を出さないでおく。

 

 「轟の裏の裏をかいてやったぜ!!」

 

 背後より扇動以外に声を掛けられて振り返ると、そこには“もぎもぎ”の個性で乱されたボールを使ってぴょんぴょんと跳びながら迫る峰田の姿があった。

 これには扇動も意外そうで感心したように視線を向けていた。

 

 「轟と扇動の背後を取ってやったぞ!喰らえ、オイラの必殺“グレープラぁああああああああああああああ!?」

 

 勝ち誇った表情を浮かべ、跳んだ高所から粘着力は非常に厄介なボールを投げてこようとしていた峰田は、固執し過ぎたせいで視野が狭まって近くに居た入試試験時に使用された1P仮想(ヴィラン)のロボットにぶん殴られ、勢いよく地面を転がっていった…。

 

 「なんだったんだアイツ…」

 「……“気にするな。コースの妖精だ”…なんて冗談は置いといて、性格はアレだが個性の使い方が上手いんだよな」

 

 吹っ飛ばされた峰田から視線を外し、自分達を覆う影の発生源に向け直す。

 太陽を背に巨大なシルエットが数台聳え立つ。

 

 『さぁ、いきなりの障害物だ!!まずは手始めの第一関門―――ロボ・インフェルノだああああ!!』

 「あぁ、入試ん時の0Pヴィランか」

 「これがか」

 

 聳え立つ複数の巨大なロボットが、話に聞く実技試験で使用されたものと知るも轟にとってどうでも良かった。

 寧ろ彼にとっては障害にすらなりはしない。

 のろいしデカイだけの的…。

 

 「なんならもっと凄ぇの用意して欲しいもんだ―――クソ親父が見てんだからな」

 

 瞬殺だった。

 片手を振ると同時に広がった氷結は地面を伝って巨大な氷が覆いつつ、表面を冷気が撫でると共に霜が降りた。

 それが数台居た0Pヴィランを襲い、それらすべてが行動不能となってただの置物と化したのだ。

 誇る様子も無く足元を駆け抜ける轟は背後から足音に小さく舌打ちをする。

 

 「舌打ちすんじゃあねぇよ――ってかテメェ、背後の俺も凍り付かそうとしやがっただろう」

 「妨害はありだろ?」

 「涼しい顔して…だがまぁ、ありがとよ。良いもん見れたわ(・・・・・・・・)

 

 なにか意味ありげな言葉に眉を潜めるが、そちらに意識を割くよりはレースに集中した方が良い。

 轟と轟任せの扇動は難なく第一関門を走り抜け、倒れて道を塞ぐロボ・インフェルノに背を向けて先へと進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●ちょっとした一コマ:サポート科、脅威のメカニズム…。

 

 雄英体育祭前日。

 個性の使用が全面的に解禁される雄英体育祭において、サポート科は科目ゆえにサポートアイテムの使用が許可されており、個性よりも自身が作り出した作品を使う事に重きを置いている。

 自らの作品を多くに披露したいという欲に加え、観客の中にはサポート会社の人々も訪れるので、目に付けば卒業後の就職にも繋がるというもの。

 だからこそ開発工房にて生徒達はこれまでに制作した作品を眺めてうんうん項垂れていた。

 

 毎年恒例の光景にパワーローダーもほっこりと眺め――――て居られる訳ないんだよなぁ…。

 

 今年は特に問題児が他のサポート科の生徒に伝播していった為に、非常に精神的に圧が掛かって胃が痛い。

 大きくため息を吐き出して胃薬を口に含み、慣れてしまった苦々しい味を水で流し込む。

 

 「なんで俺がこんな目に…」

 「体調が悪そうですね!」

 「誰のせいだと思ってるんだ!!」

 

 気に掛けられるのはいいのだが、それが元凶の一人となれば話は別である。

 当の本人は何のことですかと言わんばかりに笑みを浮かべて首を傾げているが…。

 兎にも角にも今日はサポート科の生徒…それも初参加の一年が危なっかしいものを選ばないか監視しなければならない。

 胸中を渦巻く負の感情をため息と共に吐き出し、深く新たな空気を取り入れると共に気持ちを切り替えて生徒一人一人に近づいて行く。

 

 「お前さんは何使うんだ?」

 

 一人の生徒に問う。

 するとその生徒はよくぞ聞いてくれましたと制作したサポートアイテムを見せて来る。

 下半身だけ装着するパワードスーツのようだが、腰部分に取り付けられたブースターユニットが不安を煽る。

 

 「これは扇動が教えてくれたアイデアを組んだ“セイバーZX(ポーダーブレイク)”です」

 「移動用らしいが…」

 「その通りです!腰部分のブースターは焼け付かないように制限を設け、一定のブースターを吹かす事機動力に細かに使う事で小回りも利くんです。足裏にはローラーを付けているので」

 「却下だ!下半身だけ覆って上半身がGに耐えれる訳ないだろ!?」

 

 設計図や説明書にも目を通して怒りを通り越して呆れ果てる。

 良く出来てはいるんだが甘い。

 扇動だけでなくて発目の発明意欲まで伝染してないかコレ?

 そして似たように足裏にローラーがついている下半身のパワードスーツを作っている生徒が目に止まる。

 

 「それもセイバーなんちゃらとか言う奴か?」

 「違いますよ。これはあんな急発進急制動するもんじゃなくて、安定した走りをするので無茶なGも掛からないんです」

 「ふぅん、これどうやって曲がるんだ?」

 「それはここから“ターンピック(ボトムズ)”というアンカーが地面に突き刺さって…」

 「その急旋回時のGは?」

 「………あ!」

 

 同じように設計図を出させて目を通し、最高速度を簡単に計算してその旋回方法を使用した場合、冗談抜きで死ぬか骨折するだろう。

 危険性に気付いた生徒はがっくりと肩を落として項垂れる。

 他には製作者が乗りこなせない太陽光発電可能でターボ付きのスケートボード(名探偵コナン)や、他の生徒を跳ねるか踏みそうな水色にカラーリングされた蜘蛛を連想させる見た目の多脚ロボット(1/2スケールのタチコマ)などなど。

 中には製作途中のバイクをギリギリまで作業しようとしていた生徒もいたが、前方に装着された巨大な可動式のブレードに連射可能な射撃機構(無論実弾ではない)、巨大なタイヤに大型の排気口もといブースター装備で最高速度360を予定した大型三輪バイク(BRS THE GAME)なんて完成しても体育祭で使用許可が降りる訳がない。

 …いや、降りたとしても乗りこなせるもんなんて居るのか?

 

 とんでもない作品の数々に悩まされるも誰も扇動が注文している“ライダー”とかいう関係作品に手を出さない点は嬉しい誤算である。

 あれらは扇動専用に作られているために他の者が装着しても扱い切れない危険物が多かったりするので、そこらへんは弁えていると見える。

 

 扇動の知識に感化されて開発意欲が上がったのは良いのだが、危険な制作も増えて面倒を見るこっちの身にもなって欲しいもんだ。

 最悪もう一人ぐらい面倒を見れる常識人が必要だな。

 今度校長に進言してみるかと考えつつ、あまり聞きたくなかった問題児に視線を向ける。

 

 「はぁ…発目、お前は何使う気だ?」

 

 もうすでに胃が痛くて仕方がないのに、最後が一番の最難関。

 気が重くなる中、見せて貰うとそうでもない。

 脚部に付けるホバー発生装置にアンカー付きのワイヤー発射装置、背中に背負う跳ぶ(ジャンプ)だけのブースターユニットなど他に比べては危険の少ない…寧ろ安定しているサポートアイテムにとんでもない安堵感を抱いてしまう。

 まさか発目に対してこんな感情を抱くとは思いも寄らず、安堵感から薄っすらと目元は涙で潤む。

 

 …ただ単に期限内に作ったアイテムに問題が見つかった為に代わりのアイテムを差し出され、場合によってはそれを使う魂胆であると言うのは内緒であるが…。




 気に入らねぇな。(他のキャラの台詞を挟んで)気に入らねぇよ!!
 【ヘルシング】アレクサンド・アンデルセンより


 気にするな。コースの妖精だ
 【カーニバル・ファンタズム】アーチャー:エミヤより
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