第二種目である騎馬戦はチーム戦。
チームの合計点もだが仲間内の個性によって戦い方も有利になる。
だからこそチーム決めは騎馬戦での行く末を大きく左右する事になるだろう。
逆に
そんな中で二位の筈の扇動には人が集まってない事に気が付いた。
確かに一位に次ぐ高ポイント保持者であるが、それでも狙われる可能性は圧倒的に一位が高く、二位に上り詰めたのなら
不思議に思いつつも思考を巡らせつつ近づく。
個性“洗脳”…。
その名の通り相手を洗脳して操る個性。
洗脳する為に必要なのは
しかしながら解除に関しては
そして何よりこの個性は初見以外では必ず警戒されて
相手は初見。
問い掛けの話題は選手宣誓で煽っていた事にして、あえて挑発して返事し易くさせるか。
そう決めて表情を作って洗脳しようと忍び寄る。
「なぁ、アンタ…選手宣誓してたよな。あんだけ煽っておいて二位か。ヒーロー科入試一位も大したことないんだな」
嘲笑うようにして掛けた言葉。
対して振り返った扇動には怒りや苛立ちと言った反応は無く、こちらの顔をじっと見つめると大型モニターに視線を戻した。
警戒された?と脳裏に過るが実技入試の会場では扇動を見ていないし、ヒーロー科と違って普通科では個性を使用する事がないので知られていない。
考えすぎかと過った考えを棄て、次に掛ける言葉を選定する。
…が、その前に扇動が口を開く。
「確かシンソウ ヒトシ…だったな。あぁ、あったあった。“心”を“操”り“人”を“使”うか。個性は
「―――ッ!?」
息を呑んだ。
確かに宣戦布告しに一年A組に訪れた際に名前は聞かれて答えはした。
だけどそれだけで個性を
「その表情…当たりってとこか。順位は
条件などの詳細を語っている訳ではないが、こうも言い当てられると気持ちも
一言返事させるだけだがこうも見抜かれてしまっては警戒されてしまっているだろう。
他に情報が広まる前にチームを組まなければと早々に扇動を諦めて去ろうとする。
「対人用ならあの実技試験では相性が悪過ぎたな。まったく雄英の試験は勿体ねぇ事すんな。こんな
無意識にぴたりと足が止まった。
今までの奴らは個性を知るや否や「洗脳して悪さし放題じゃん」などと言い、
なのに目の前の奴は真逆の言葉を言い放った…。
「…なんでだ?」
それは洗脳しようと意識した言葉ではなかった。
誰とも違う言葉に自然と問いかけてしまったのだ。
洗脳だと個性を断定しているにも関わらず扇動は首を捻る。
「別に変な事は言ってねぇだろ?」
「…いや、アンタみたいな事言う奴が珍しくてな…」
「可笑しな奴だな。ヒーロー科が大半を占める中に個性一つで食い込めるとなれば条件は知らんが相当な個性だ。個性の度合いや条件によっては暴れるヴィランの隙を突くのにも大人しくさせるのにも有効。人質を取られた際など無傷で救出する事だって考えられる。ヒーローならびに警察だって欲しがる逸材だろうが」
「…そう…か」
本当に不思議そうに言い返した扇動に対して心操は若干俯く。
初めてそんな風に評価され、困惑と喜びから頬がニヤケてしまう。
「お前―――俺と騎馬組む気ねぇか?」
「相手が洗脳持ちって解って接してくるか?」
「敵なら脅威だが味方なら頼もしい。何より正面切って宣戦布告してくる奴だ。期待してンぜ」
「ははっ、変な奴だな…アンタ」
「で、どうする?」
「こっちは最初っからそのつもりだよ。ただ洗脳する気満々だったけどな」
「そりゃあ結構。主審のミッドナイト先生からも個性の使用は下りてんだ。使えるなら使わねぇとな………ただ俺が騎馬戦に置いて使えるかどうかは怪しいが…」
獰猛な笑みを浮かべる扇動に肩を竦める心操はちょっぴり嬉しそうに笑う。
変わった奴に声を掛けてしまったなと思いつつも、その後を追いかけるように付いて行く。
なんにせよこの騎馬戦を戦い抜いて、夢の為にも本選への切符を手に入れなければ…。
心操に声を掛けられた扇動は表面的には強がっているが、どうやったら勝ち残れるかを思案していた。
障害物競走に続く種目が個人種目か団体競技ならどれほど楽だったか。
しかしながら選ばれたのは複数人で一個となる
これが一般の個性禁止の騎馬戦であるなら何ら問題なかったが、雄英の騎馬戦は個性有りき。
騎馬になっても自分勝手な身動きは取れ辛いので鍛えた身体能力も貯えた技術も使えないし、騎手を務めても不自由な体勢でどれほどやれるだろうか。
それに俺は二位で205ポイントを保有しているために鴨にされる可能性が高い。
鴨と言っても一千万という馬鹿げたポイントを与えられたイズクほどではないだろうけどな。
ちらりと視線を向けると
「デク君!組もう!!」
「麗日さん!!嬉しいけど良いの?多分凄く狙われるけど…」
「ガン逃げしたらデク君勝つじゃん。それに仲の良い人とやった方が良い!―――ってどうしたの!?急に不細工だよ!」
誰も組む気配のなかったところに一本の蜘蛛の糸が垂らされて喚起するのは解るが、感極まって涙が溢れるどころか目から
意識を向けていたからこそ聞こえた会話に大き過ぎるリスクを避けるなかりではなく、それを呑み込んだ上で勝算有りと手を取った麗日に対して「ほう…」と感嘆した。
単なる友誼って訳でもないだろう。
仲が良い間柄ゆえに能力欲しさで組むよりは連携が取り易く、戦闘訓練や放課後の訓練などで組んでいるからこそ相手の個性や身体
イズクのチームはこれで二人。
騎馬戦は二人から四人なので最低限の数は揃ったが、優勝を目指すのであれば四人組にする必要がある。
麗日と組んだイズクは飯田を誘いに行ったようであるも、離れて轟の下に向かった様子からどうやら断られたらしい。
「やはり良いですね目立ちますもん―――私と組みましょ一位の人!!」
「わぁあああ近ッ!?―――あれ?確かサポート科の発目さん…だったよね?」
「あれ?何処かでお会いしましたっけ?」
「放課後に何度か顔合わせてるよ!?」
「んー、すみません。貴方の事は覚えてませんが立場を利用させて下さい!!一位の貴方と組むと当然注目を浴びるじゃないですか!そうすれば自然と私のドッ可愛いベイビーが大企業の眼に留まるんですよ!それは私にとって大きなメリットで、貴方にとっても悪い話ではないと思うんです!サポート科はヒーローの個性をより扱い易くする装備を開発します。私のベイビー達の中にもきっと貴方に合う子がいると思うんですよ!!」
聞き覚えのある声に苦笑いを浮かべ、全くもって彼女らしい考え方と
何処から取り出したのか疑問を覚える程のサポートアイテムの数々を並べ、アピールする最中でイズクと盛り上がって話し込む様子を見て安堵して背を向ける。
「鉄哲、俺と組まねぇか?」
「はぁ!?」
思いがけない
驚きと元々声が大きさにより周囲に響き、振り返ったB組の面々が注視する。
一斉に視線を向けられた事態に一緒に居た心操はたじろぐも、扇動は動じることなく鉄哲の続く
を待つ。
「オイオイ!俺はお前が良い奴って解ってるつもりだ。けどあんだけ煽っといてそれはねぇだろ!」
当然と言えば当然の反応か。
意味合いは異なるも煽ったのは確かな事実であり、鉄哲は良くも悪くも熱く真っ直ぐな男だ。
煽ると言う挑発的行為をそのまんまに受け取っても致し方なし。
「だから俺は全力で戦うぞ!」
「吐いた唾は吞めぬ…か。まさにその通りだな。当ては外れたがそれで良い」
「何言ってんだ?」
「簡単な話だ。お前さんはやる気に満ち溢れてるんだろ?」
「あぁ、それが?」
「煽ったかいがあったというもんだ」
挑発しといて手を組もうなどと都合が良過ぎる。
我ながら現在の状況に焦り、勝ちに逸って理解が及んでいなかったと見える。
存外にイズクに
早速考えを切り替えてこちらと組んでくれそうな可能性のある人物を、脳内でリストアップしつつ踵を返そうとするが、わなわなと震える鉄哲を見て留まった。
「お前…その為に煽ったのか?」
「全力で競い合った方が面白いだろう」
「―――ッ、クッソ熱いじゃねぇかソレ!!」
本当に良くも悪くも真っ直ぐで
意図を理解した鉄哲は興奮気味に叫び、表面だけを汲み取ってしまった事に憤っているらしい。
「俺はそんな事も解らず煽られた事だけを…」
「それは置いといて、考え方が変わったんならもう一度誘おう。俺と組まねぇか?」
「おう!そう言う事だったなら受けるぞ。けど
「構わねぇよ。
注目を浴びていただけに扇動の言葉は周囲にも届いた。
それに表立って同意する者も見受けられるほどに。
これで三人だが正直これで勝てる気はしない。
轟は兎も角爆豪は障害物競走での事で真っ先に襲ってくる可能性が高い。
上鳴や耳郎のように中距離攻撃、または防御に徹せれる個性持ちが欲しいところだ。
「そう言う事なら私と組む?」
「どう考えてもお前さんは騎手向きだろ。うちの騎手は悪いけど決まってんだ」
「…なら私と組もう」
「いやいや、個性活かすんなら創造系か破壊可能な攻撃力持った奴が良いだろ」
有難い事に取蔭 切奈と柳 レイ子が申し出てくれたが、彼女らの個性を考えるとどうしても活かせない。
柳 レイ子はホラー系の話が大好きらしく、大食堂で知り合って以来
おかげで彼女を含めたB組の様子や情報を知り得る事が出来た。
彼女の個性は“ポルターガイスト”。
重量に制限はあるけれども、制限内であれば人でも物でも自由自在に操る事が出来る。
すでに轟と組んでいるが創造の個性を持つ八百万などと組ませたら面白そうだ。
二人の申し出を断りながら周囲を見渡すと“最善を尽くすべき”という言葉に共感と感銘を受けたらしい少女が祈るような仕草で懺悔を口にしていた。
「鉄哲。彼女は?」
「塩崎 茨だな」
「塩に茨か…なんか
名前にヒントはあるが個性の断定がし辛い。
髪質が茨のようなので髪が個性なのは解るが、それがどうなるかまでは名前では計れない。
伸びるのか操るのか。それとも名の塩も関連するのかなどなど。
問いかけると鉄哲は勿論だが、取蔭や柳も話してくれて情報を得た扇動はニヤリと笑う。
「初めまして。唐突で申し訳ねぇが俺達と組まないか?君の力を貸して貰いたい。代わりに俺の知恵と知識を提供しよう。最善を尽くす為に、ヒーローという夢を叶える為に」
初対面ではあったが差し出された扇動の手を塩崎 茨は拒むことなく、口にした目的に同意して申し出を快く受け入れるのであった。
日本でのビッグイベントである“雄英体育祭”。
一際注目を浴びているのは間違いなくヒーロー科一年A組だろう。
なにせ前代未聞の雄英高校襲撃事件を耐え忍んだ生徒達が在籍するクラスというのが大きいだろう。
他にも
一般の観客もヒーロー関係者もマスメディアも誰も彼もが注視する。
それを良く思わない者も当然ながらいる。
一年B組の
B組とて同じく雄英高校ヒーロー科の狭き門を突破した金の卵達。
誰も彼も優秀なのは確かでA組に引けをとる事は無い。
だというのにA組ばかり
別に自分達を持て囃して欲しいと言っている訳ではなく、自分を含めてB組の
………高い
そして同じように“ヒーローを目指す向上心”から少なからず物間に同調する
「ここに集まった観客の多くがA組ばかり注目している。なんでだ?彼らと僕らB組の違いはヴィランと
ニヤリとほくそ笑む物間。
対してB組の面々の反応は様々で頷く者も居れば、また物間がなんかやってるよと眺めている者もいる。
ただ真っ向から否定する者だけは居なかった。
中には拳を掲げて声を出す者も居た―――B組の生徒ではなかったが…。
「…おー」
「って君はA組の生徒だよね!?なに当然って顔で混じってるのさ!!」
何気ない様子で混じっていた扇動は声を出すところかと一応声を挙げて応え、物間のツッコミとB組の面々からの視線を受ける事になった。
隣には組んでいる心操が居たが、扇動の行動に対しては呆れたような眼差しを向けるばかり。
「あんだけ選手宣誓で煽っておいて良くもまぁ混じれたもんだね!顔の皮膚厚すぎるんじゃないの?」
「別にA組だけで組めとは言われてねぇんだから良いだろ」
「良くないね!良い訳ないよね!?何さも当然に言っちゃってんの?っていうかなんで皆何も言わないのさ!?憎きA組の…それも宣誓で煽り散らした張本人だよ!!」
「別に憎くはないって…」
先ほどまでやる気なさげながらニヒルに笑っていた物間は、見るからに感情が
拳藤もそうだが誰も
しかしすでに受け入れているらしき者がちらほら
「単に煽ったんじゃなくて他の生徒のやる気を上げて競い合おうなんて熱い展開じゃあねぇか!」
「向上心も大事ですが如何なる状況でもヒーローは最善を尽くすものと言われてしまえば、手を取り合い共に歩むのもまたヒーローへの道なのでしょう」
「意外に皆話の解かる奴らばっかだった」
「ちょっと皆チョロくない!?」
少なからず好感情を持っていなかった筈なのに、実技試験で仲が良くなった鉄哲は例外としても、B組に溶け込むほどに親しく談笑している。
注目を浴びているA組ってだけで気に入らないっていうのに、
それに彼の事は幾らか知っている。
家は金持ちでヒーロー一族。
入試一位の実力者で中学時代には人命救助で表彰。
最近ではヘドロ事件にも関わっており、メディアにも取り上げられていた…。
―――
「―――で?A組の、それも入試主席様が何の用で来たのさ?」
「騎馬の勧誘」
「同じクラスメイトでなくてB組に?随分と薄情―――いや、人望が薄いんだねぇ」
余計に皮肉に力が籠る。
対して扇動は気に止める様子もなく返した。
「俺は無個性だ。個性禁止の騎馬戦なら問題じゃなかったが、個性有りきとなると別だ。どれだけ身体を鍛えて居ようと技術を持っていようと身動きが取れないんじゃあ価値がない。現にA組で俺と真っ先に組もうと思う奴はいなかったし、俺も同じ立場なら勝つことを考えて同じ事をしただろうしな」
「はぁ!?無個性!?入試一位の君が!?」
「あれ?物間知らなかったんだ」
「知らないし聞いてないよ!!」
物間とて一般入試組なので実技試験の内容は実体験で理解している。
だからこそ信じられず、驚愕から声を荒げる。
個性も無くその身一つであの実技試験を突破したなど信じれるものではない。
A組もだがB組にも一般入試組で強個性の持ち主は何人もいる。
それ中で合格したというだけでなく一位通過。
にわかには信じ難い。
だけど一緒の会場で共闘したという鉄哲は勿論の事ながら、拳藤も誰かから聞いていたらしく首を傾げながら聞かれた事もあり、疑いようのない事実なのだろう。
取り乱したが荒げた呼吸を落ち着かせ、先程の扇動の言葉に戻る。
「それにしてもB組なら組んでくれる人が居ると?楽観的なんじゃないの?」
「違ぇな。
「…へぇ、勝つために仲間を売るなんて厚顔無恥なんだ」
思わず鼻で嗤ってしまった。
A組に無価値でB組では価値のあるもの。
そんなの授業を共に出来ないゆえに知り得ない詳しい情報だろう。
「仲間を売るとは率直な物言いだ。―――言ったろ。俺は無個性だ。手段を選びつつ使える物は何でも使う。そうでもしねぇとヒーローになんて成れやしねぇだろう。この至れぬ我が身ではな。それに全力で戦わねぇと勝てねぇから」
皮肉というよりは侮蔑混じりな言葉に返された一言が
―――至れぬ身。
無個性の扇動が自分自身を現す為の言葉であるも、それはこちらにも当て嵌まる。
扇動とは違って個性を持つ物間だが、その個性“コピー”は人の個性をコピーして使用するというもの。
時間制限だったり、コピー出来る条件があったりするが、一番の問題は己の個性だけで戦う事は出来ないと言う事。
決して一人では強くなる事は出来ない…。
トップヒーローと呼ばれる第一線で活躍するヒーロー達のようには成れはしない…。
自身に主役を張れる性質は持ち合わせず、真っ直ぐな道のりを歩む事叶わず…。
だけど物間は断じて自身の性質を恨むことは無い。
主役は張れない。
ならば脇役を務めれば良い。
脇役に収まるのでもなければ脇役に満足する訳でもない。
目指すは主役をも喰らうような名脇役。
…だから…という訳ではないが、何と無しに気持ちを理解してニヤリとほくそ笑む。
「へぇ、君も僕と同じ脇役しか演じられないって言う訳か。なら喰らってみるかい?彼ら主役を張れるクラスメイトを」
ポツリと零して物間は正面から見つめると、扇動は不思議そうに眉を吊り上げ、そして
「あぁ、
扇動と物間が向かい合ってニヤリと笑みを浮かべる様は、不穏そのものであった。
よく解らないが意気投合したようで良かったと思う鉄哲や、なんか面白そうとほくそ笑む取蔭など変わった趣で眺める者も居るが、大半は不安と呆れ交じりの視線を向ける。
かくして幾つかの騎馬が組まれ、第二種目の火蓋が切って降ろされるのであった…。