騎馬戦第四位にて最終種目への通過を果たした緑谷 出久は、その成果から考えられないほどに暗く重い雰囲気を纏っていた。
別段結果に対して思い悩んでいるとかではない。
騎馬戦の結果発表を終えて休憩時間に入ると、緑谷は轟に話があると呼び出された。
簡潔に内容を述べると意志表明…。
その内容が非常に重く、軽い言葉を挟む事の出来ない話であった…。
轟の父親がナンバー2ヒーロー“エンデヴァー”である事。
上昇志向の高いエンデヴァーは自分ではオールマイトを超えれないと判断すると、自身の個性を強化して子に継がせる為に配偶者を選んで、実績と金で相手の親族を丸め込んで
結果、両親の個性を受け継いだ轟とその母親の日常は想像を絶するものだったのだろう…。
彼の記憶の中の母親はいつも泣き、「お前の左側が憎い」と熱湯を浴びせたという…。
…あまりにも世界が違い過ぎる…。
思う以上に凄惨な日々を送って来ただろう…。
ヴィラン連合襲撃事件で脳無とオールマイトの本気の戦いを肌身で感じた轟は、それに近しい感覚を騎馬戦の時にも感じ、オールマイトに目を掛けられている事もあって、何かしら繋がりのある者と緑谷を判断した。
ゆえにかエンデヴァーを完全否定する為に炎を使わず氷結だけで一位を獲る。
その為には僕がオールマイトの何であれ勝つという宣言。
僕は無個性だった。
いや、オールマイトから個性を授けられても多くの誰かに助けて貰ってここに居る。
正直話を聞いただけで知った気になっているだけで、全然彼が体験した事の一つも理解出来てはいないだろう。
それでも僕は目指す。
轟君に比べたら小さいかも知れないけど、助けてくれた人たちに応える為にも僕は負けられない。
僕は轟君に個性云々の下りは内に秘め、想いと改めて君に勝つと言い返した。
そんな事もあって少し気持ちが沈んでいる。
会場から昼食を取ろうと食堂の方へ歩き始めながら大きめのため息を吐き出していると、トットットッとこちらへ誰かが掛けてくる足音が聞こえて顔を向ける。
「デク君!どこ行ってたの?」
「早くしないと食堂が埋まってしまうぞ」
「ちょっとね…ってどうしたの?」
「いや、僕達もよく解らないんだが…」
笑みを浮かべて駆けてくる麗日とゆっくりと近づいてくる飯田に何処か不機嫌そうな扇動の三人。
騎馬戦が終わってからすぐに呼ばれた為に声を掛けずに行ってしまった為、どうやら探してくれていたらしい。
けれど扇動が不機嫌な理由が解らない。
もしかして勝手に姿を消した事でナニカあったかな?と緑谷は少し怯えながら声を掛ける。
「えっと、どうしたのかなむーくん?」
「イズク、
「あ、発目さんのサポートアイテムだね」
「アレ頼んだの俺なんだ…」
言われて思い出した。
発目が披露してくれたサポートアイテムの中で捕縛用に作られたガントレット。
なんでも頼まれたサポートアイテムの試作品で、要望に程遠い為に“バインド”としか名を付けれなかったアイテム。
放課後の訓練でもアイテムの試作品を持って来ていた事から扇動と関りがあるのを思い出し、あのバインドもそうだったんだと思うと同時に微笑ましい思いが溢れてきた。
なんて言うかお気に入りの玩具で勝手に遊ばれて不貞腐れた子供のような反応だ。
「………ふふっ」
「笑うんじゃあねぇよイズク」
「だってそんな子供っぽいむーくん初めて見たよ」
「うるせぇ…俺だってこの歳でこんな感情抱くとは思わんかったよ」
プイっとそっぽを向いている様子に笑みが零れ、珍しい様子に二人はキョトンと呆ける。
居心地が悪かったのもあってデコピンを一撃入れられ、額を押さえていると扇動は食堂とは別方向に向かい始める。
「むーくん、どこ行くの?」
「飯食いに行くんだけど」
「でも食堂はあっちだよ」
「いや、俺は別で……あー、イズクも一緒に来るか?」
「いいけど…何処に?」
「顔出しも兼ねてな」
名言されなかったが今から食堂に行っても込み入っている。
それなら扇動に付いて行った方が良いだろう。
まさか学校外にまで食べに行くと言う訳でもないだろうし…。
緑谷に続いてその場にいた麗日や飯田も誘った扇動は校門の方へと歩いて行く。
本気で外に出る気かと思いきや、雄英体育祭という事で大勢の観客が訪れる為、校門付近には多くの屋台が立ち並んでいた。
扇動はそれらに並ぶのではなく、朝間の内に注文していたので屋台裏で受け取り、早速場所を移動するのだが…。
「この量、おかしくないか?」
「…た、食べ盛りなんやね」
「お前ら俺をフードファイターかなにかと勘違いしてねぇか?俺の胃袋は宇宙じゃあねぇぞ」
「なんの話?」
受け取った料理は焼きそばにタコ焼き、唐揚げに焼きとうもろこし、イカ焼きに牛串と種類もさることながら量が凄いのだ。
大きめの袋にいっぱいに詰められたそれらを腕に複数引っ提げている。
何十人分買い込むつもりだと誰もが思うだろう。
「量も量だが大丈夫かい麗日君?」
「これくらい平気平気」
大荷物ゆえに仕方がないとはいえ、持っている荷物は他の面々と変わらない量を引っ提げている。
心配するのも当然だが、まったくもって無理そうな感じはしない。
「めっちゃ鍛えられてるから」
「アハハ…本当に鍛えられたよね…」
「なんだイズク。不服か?なら訓練内容増やすか」
「「いえ、今ので十分です!!」」
「…君達、本当に大丈夫かい?」
一人だけ放課後の特訓を知らない飯田は首を傾げるが、内容を骨身に染み込んでいる二人は必死に首を横に振るう。
そうこうしていると外れにある
どう見ても雄英の施設じゃなさそうだし、関係者以外立ち入り禁止との看板が立てかけられ、近くにはプロヒーローらしきしとが立っていた。
警備が増員されて、プロヒーローも担当すると聞いていた事から、ここが警備しているヒーローの詰所、または休憩所かと思っている合間に扇動はズカズカと看板を通り過ぎる。
声を掛けて制止を促す前に、そこに居たヒーローに止められる。
「お!ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ」
「うるせぇよ。こちとら差し入れ持って来てやったんだぞ?」
「相変わらず口の悪ぃガキだな。
「一本と言わず焼きそばも持ってけ。って事で通るぞ……お前ら、なに立ち止まってんだ?」
「「「いやいや、普通止まるでしょ!?」」」
揃った突っ込みを受けながらも停まる事を知らず、ついに仮設建物に入って行ってしまった。
おろおろと戸惑いながら後を追うと、中ではヒーロー達が和気藹々と騒いでいた。
「差し入れ持って来たぞ」
「おう、扇動じゃねぇか。悪いな」
「あ、ちょうど小腹空いていたのよね」
警備で呼ばれたヒーロー達は多い。
その誰も彼もから親し気な様子で接せられている事から知り合いなのだろう。
久しぶりと声を掛ける者も居れば、活躍してたなと褒める物、選手宣誓での事で相変わらずだったな呆れながらも笑みを向ける者などなど好意的な対応をされている。
「…いや、関係者以外立ち入り禁止なのだが…誰も突っ込まないのか?」
唯一ヘドロ事件で知り合ったばかりのシンリンカムイの呟きは、喧騒で掻き消されたが飯田と麗日はその小さな一言に大きく同意する。
緑谷はテレビや情報で知っている多くのヒーローが目の前に居ると言う事で興奮状態で周囲を見渡していてそれどころではない。
「ヘドロ事件以来ね。活躍見たわよ」
「そ、その件はご迷惑お掛けしました!」
Mt.レディの一言に緑谷は頭を下げる。
ヘドロ事件で居合わせたヒーロー達も居て、あの時の事が脳裏に強く過る。
焦りながらペコペコ頭を下げる様子にMt.レディはクスリと笑む。
「ねぇ、職場体験うち来ない?」
「え!?」
「オイ、パシリにする気満々だろ」
「そんな事ないわよ」
「どうだか…。そもそもイズクの為になると思えん」
「ちょ!ちょっと
失礼極まりない発現に焦る緑谷を他所に、顔見知りであるヒーローは慣れた様子で笑むばかり。
ただ扇動が“むーくん”と親しそうに呼ばれた事の方が興味津々と言ったようであった。
「むーくん…ねぇ。アンタ、友達居たんだ」
「居たよ。大事な友達なんだ」
穏やかに、そして嬉しそうにそう答えた扇動。
嬉しくも照れ恥ずかしくて頬を染める。
二人の様子…特に扇動に対してヒーロー達は驚きを禁じ得ない。
「クソガキにこれだけ言わせるって相当だな」
「話聞かせてくれよ」
「え?あ、はい。えと…」
ヒーローに興味を抱く事はあっても抱かれることに慣れていない緑谷は、高揚しながらも不安交じりで皆に視線を向けるもそれぞれ話しかけられて飯田は丁寧に、麗日はわたわたと慌てながらも返していた。
唯一助けてくれそうなのは扇動だけだが、助け舟を出すのではなく苦笑して背を押す。
「人間社会っての一人では成り立たねぇ。見える見えないに関わらず人との繋がり必要不可欠だ。そしてそれは俺達の目指している
「なるほど…」
「それにコネというのは万が一という時に利用出来るからな」
「「「良い話ぽかったのが台無しだよ!?」」」
「アンタ、それ本人達を前に言う?」
「いや、今更だろ」
ドッと笑いが起こり、呆れた視線を向けられる。
けど大切なのは確か。
緑谷は誘われるがままに話をしようとすると、先に扇動より焼きそばやら食べ物を渡される。
「腹ごしらえ忘れんな」
「食堂埋まってるからここに来やがったな。どうせそんな事だろうと思ったよ」
「顔出しも込みでだけどな」
「せめてそっちがメインって言いなさいよ」
もう少しばかり慣れ始めた軽口の応酬に苦笑いを浮かべる。
何はともあれプロヒーローとの交流は将来を考えても有難い。
時々暴走気味に喰いつきを見せて周りを困惑させながらも会話を弾ませていると、音楽が鳴り響いて発信源に視線を向けると扇動が携帯電話を取り出していた所だった。
「悪ぃ、ちょっと席外す」
画面に表記された名前に眉を潜め、不思議そうだった扇動は建物を出る。
その後、八百万からの電話を受けた麗日に用事が出来た事で解散するまで緑谷達はヒーローとの交流を楽しむのであった。
人気のない通路までわざわざ移動した扇動 無一は、保留にしていた携帯電話を耳に当てる。
プロヒーローに仕事関係、雄英入学前までは二人しかなかった友人関係などなど、結構な数の連絡先を持っている為に相手の名前如何では人前では話せないものもある。
今回もその部類に入るかと思って緑谷達から距離をおいた。
電話してきたのは轟 冬美。
轟 焦凍のお姉さんで轟家で俺の家に焦凍が同居している事を知っている人物だ。
正直彼女と連絡を取るのは初めてではない。
焦凍の様子を
だから状況が異なれば離れる事も無かったのだが、時間帯を考えれば怪しまざるを得ない。
教員として働いているのに、このような昼に電話を掛けてくると言うのは今までなかった。
時刻からして給食の時刻。
電話をする事は出来るが緊急性のない用件なら後でも十分なはずだ。
面倒な予感を感じ取りながら保留を解除する。
『大変なの!!』
「いや、声量…」
いきなりの大声で携帯を放す。
イズクもそうだがどうして鼓膜を破る勢いで携帯電話に話すのだろうか…。
キーンと耳鳴りがする中で向こうからの「ごめんなさいね」という謝罪を聞きながら、第一声から予感が的中していた事を半ば諦めながら理解する。
「エンデヴァー絡み?」
『そうなのよ!どうやってかお父さんが知っちゃったみたいで…今、雄英体育祭の観客席に映ってたらしいの!』
「息子の活躍を見に来た…なんてほのぼの出来る状況じゃあなさそうだな」
『まだ会ってないのね!急いでそっちに向かうから―――』
「いや―――会うには会ったな」
電話していると遠目に通路を歩いていたエンデヴァーを目撃した。
そしてそれは向こうも同じようで、こちらに向かってズンズンと威圧感出しながら向かってくる。
見るからに怒っているようだがこっちとしては
近くまで寄って来たエンデヴァーに対して唇に人差し指を当てて静かにとジェスチャーを行う。
あからさまに電話中であると見て、口を閉ざして待つようだ。
腕を組んで睨みを利かした状態で…。
『え!?もしかしてそこに居るの?』
「がっつり目が合ってる」
『代わって貰える?私が何とか…』
「今から長電話されると後の予定に響くんだけど。昼休憩もそこまで長くないから」
『そうだよね。本当にごめんなさい…』
「とりあえず学校側に話して放課後に一席設けて貰うから、来られるんだったら授業終わってからで」
とりあえず今はそれで電話を切る。
話を聞いていたであろう筈だが切ると同時に口を開いて来た。
「お前が扇動 無一だな。単刀直入に言おう―――焦凍から手を引け」
「断る」
間髪入れずに返し、余計に苛立つエンデヴァーに次の言葉を吐かせる前にこちらが続ける。
「そっちに事情があるようにこちらにも事情・言い分がある。語るには時間もない。先も言ったように一席設けるからそこで」
威圧してくるも今はやり合うつもりはない。
暖簾に腕押し。
向けられる圧を流しているとフンッと鼻を鳴らして踵を返して行った。
問題を先延ばしにしたせいかなと思っていると、再び携帯電話が鳴り始める。
携帯の着メロが“マーメイドメロディー ぴちぴちピッチ ピュア”のオープニングテーマ曲である事から芦戸かと判断し、雄英
に入学してから一気に増えた友人“用”の携帯電話を取り出す。
「あー、もしもし?」
『ちょっち聞きたいことあるんだけど今大丈夫?』
「大丈夫だけど…」
電話に出た扇動であるが紛れ込む雑音に眉を潜める。
妙に後ろの方がざわついているような気がする。
それに微かながらも何か擦れるような音も割り込む。
「先に聞くけど今何処だ?」
『更衣室だよ』
「だからか…女子更衣室から電話かけるか普通…」
『見えないから気にしない気にしない』
「…頼むから
何やってんだかと頭を抱えながら話を聞いて見ると、上鳴と峰田が
詳細を聞く前から怪しい…。
相澤先生だって人間なんだから連絡忘れもあり得るだろう。
それ以上に怪しいのが峰田と上鳴が伝えてきた事。
しかも詳細を聞けば聞くほど余計に怪しくなってくる…。
通達忘れにチアガール衣装がないから八百万に作って貰えとかあり得んだろ普通…。
体育祭で行うのなら授業でやっても良いものだろうに。
「そもそもスケジュールに応援合戦なんて表記されてないぞ」
運動会や体育祭などでは競技内容などが書かれたスケジュール表が存在する。
それは雄英高校も同じで、開始直前まで秘密にされていた障害物競走と騎馬戦は明記されてはいないが、第一種目第二種目として書かれている。
午後の予定は第三種目以外は明記されているが、それらしいものは無かった。
『だよねぇ…扇動も聞いてないんでしょ?』
「初耳だ。まぁ、相澤先生なら
ヒーローに成る為の授業時間を割くなんてただの浪費だ…とか言いそうだし。
怪しさもあることながら完全に否定できない事から歯痒い。
ため息交じりに芦戸に待って貰い、仕事“用”の携帯電話で
本音を言うなら相澤先生にかけるべきなのだが教員で電話番号を知っているのはオールマイトだけ。
ちなみに仕事用の携帯に入れているのはヒーロー“用”の携帯を万が一にも落とした際に、
無論暗証番号でロックはしているが念の為である。
数コールしようも出る気配がなく、仕方なく“予備”の携帯で記憶にある柳に電話をかける。
タイミングが悪いとしか言いようがなかった。
なにせ扇動と別れたエンデヴァーはトイレに向かう途中、久しぶりとオールマイトが話しかけていた時であったのだ。
柳はすぐに出てくれたので、訳と事情を話すもB組は知らないと言う。
「状況から見て黒だけど確証がない。すまんな、力になれず」
『ううん、こっちこそごめんね』
「構わねぇよ。じゃあ切るぞ」
電話を切った扇動は一息つきながら時刻を見る。
緑谷達と離れて二件の電話もあって昼休憩も終わりに近づいている。
ため息一つ漏らす。
「あー…飯食いそびれた…」
本選である第三種目までのレクリエーション中に何か食うかと頭に入れ、時間もない事から慌てる事無く体育祭会場近辺で待機するのであった…。
午前の種目は終了し、昼休憩を挟んだ午後の部。
会場を盛り上げるべく本場アメリカより招いたチアリーダー達のチアダンスが行われ、第一・第二種目を突破した選手たちは本選の種目発表の為に会場に集まり始める。
…一部、例外を除いて…。
『…アイツら…何してんだ?』
『どーしたA組!?サービス精神旺盛だな!!』
スピーカーを通して呆れている相澤の視線の先にはチアリーダーと同じ衣装を着たヒーロー科一年A組女子生徒が暗い表情で立っていた。
周囲を見渡しても生徒でチアの格好をしているのは自分達だけ…。
騙されたと一年A組女子全員が悟った瞬間であった。
謀った張本人二人に一瞥くれると非常に嬉しそうにしているのが腹立たしい。
中でも八百万は簡単に騙されてしまった事に自己嫌悪すら感じている。
「何故こうも峰田さんの策略に嵌ってしまったの私…」
「いや、仕方ないって」
「相澤先生からって聞いたら誰でも…ねぇ?―――えっ」
落ち込む八百万を慰めながら同意を求めた耳郎と芦戸は振り返った先にいた扇動を見てギョッとする。
片目を吊り上げて上鳴と観客席に居る峰田を隠し切れない怒気を露わにして睨みつけていたのだ
睨みつけられた当人は勿論の事ながら、周囲に居た面々も何事かと驚きながらもその怒気に当てられて肩を震わせる。
「そう怒んなって扇動。お前だって見たいだろ!?」
「見たい見たくねぇの問題じゃあねぇんだ」
「ちょいちょい!落ち着いてって!!」
「扇動ちゃん、怖いわ…」
「私達もそこまで気にしてませんから…」
怒っていても別の人が怒っていたら逆に冷静になる場合がある。
と言っても皆に比べて扇動の怒りの熱量が高過ぎるのもあったが…。
当人達が良いと言っている事もあって、扇動は少し落ち着きを見せるも雰囲気は重いままだ。
上鳴達から視線を八百万達に向け、小さく吐息を零して話し出した。
「
扇動はそこで口を閉ざすも、瞳が「この意味、解るな?」と訴えかけている。
意図を察した面々は口を閉ざした。
上鳴へと振り返った扇動の瞳に怒りの色は存在せず、ただただ真剣な眼差しで見つめていた。
「上鳴、誰かに見たいからってこんな大衆のど真ん中で赤っ恥欠かされてお前は平気か?」
「それは…」
「加えて言うとお前らの嘘で八百万は個性を使って衣装を作る羽目になった。これから最高のパフォーマンスをしなきゃならんというのにだ」
「ごめん」
「俺にじゃあねぇ。謝るならあっちだ」
指し示す先は当然ながらヒーロー科一年A組女子達の方であった。
自分の非を理解した上鳴は素直に謝罪して、皆はそれを受け入れた。
「扇動も悪かったな」
「それは筋違いだ。なにせ俺は被害は被ってない。それより俺の方こそ悪かったな。歳を取るとどうも説教臭くなっちまって」
「いやいや、扇動は間違ってねぇよ。寧ろありがとな」
「歳を取るとって扇動
扇動の謝罪に爽やかな笑顔で返す上鳴。
そして会話内容に突っ込みを入れた芦戸は首を傾げる。
言いたい事も終え、謝罪も済ませた扇動は一切の怒気が消えて
「後で消費させた分、お嬢に脂質のあるもん奢ってやれ」
「了解。たい焼きで良いかな?」
「糖質ならな。脂質だからクリーム系だ。それと峰田にも言っといてくれ。アイツは個性もさることながら使い方が上手い。だけどあの欲に忠実な所は治さないといつか捕まるぞ」
「それは確かに…」
八百万に対してだけでもあからさまに
ゆえに扇動は危惧している。
サプライズ訓練とは言え個性でオールマイトを捕縛し、個性の応用で
そこまで馬鹿ではないと願うばかりである。
「ま、何はともあれ、こうなったら楽しんじゃおうよ」
「やる気ね、透ちゃん」
にこやかな葉隠の言葉に場が一気に明るくなる。
話も終わった辺りでチアリーダーによるチアダンスも中盤。
会場内も盛り上がって来た事から主審であるミッドナイトが大型モニターを示して説明に入った。
『レクリエーションが終われば最終種目!騎馬戦を勝ち残った総勢16名に寄るトーナメント形式の一対一のガチバトル!!』
形式こそ異なるが毎年行われている一対一のバトル。
去年までは見る側だったのがあのステージに立てるんだと思うとなんとも感慨深い。
トーナメントはくじ引きで決まる為、対戦相手に恵まれますようにと皆が思い思いにくじを引く。
大型モニターに映し出されるトーナメント表が、一人引いて行くごとに名前で埋まっていく。
誰もが優勝を願う中、どうしても当たりたくない相手というのは居る。
A組トップクラスの強個性と戦闘能力を持つ轟と爆豪。
それと個性抜きにしても戦闘能力が高く、何をしてくるか予想が出来ない扇動…。
出来れば反対のブロックであって欲しい、当たるなら決勝でと誰もが祈る。
「―――あ?麗日?」
そんな祈りを知ってか知らずか爆豪は対戦相手の名を疑問符を浮かべながら口にし、名前を出された麗日は声にならない悲鳴を上げる。
「ドンマイ」と慰めるように芦戸がポンと肩を叩く。
「えっと、あたしの相手は…―――え!?」
災難と諦めるしかない麗日に同情した芦戸であったが、自身の対戦相手が表示された事であまりの事に膠着してしまう。
対戦相手は“扇動 無一”であった…。
相手の名前を理解した瞬間、瞳から力が抜けてがっくりと肩を落とした…。
――――
「今日は俺の厄日か?」
「なんで扇動がそんな反応するのさ!?」
「あ!そうか!!」
思いも寄らぬ反応に思わず突っ込む。
すると理解した緑谷が納得したように声を漏らし、爆豪は鼻で嗤った。
「ンな事も解んねぇのか黒目…」
「だから黒目じゃなくて芦戸 三奈!……ってどうゆう事?」
「えーと、芦戸さんの個性って“酸”だよね」
「そだよ。だから―――」
「オメェが酸纏ったりしたらどうやって戦うんだ?」
「………あ!」
理解出来た。
扇動 無一は個性を持たぬゆえに戦闘方法は肉弾戦。
それも今回はサポートアイテムの使用や武器の持ち込みが出来ないので素手に限定される。
となれば酸を纏いでもすれば扇動は
「…ほ、ほら!レクリエーション始まるよ!」
「そ、そうだよ。楽しまないと損だよ!」
「今から気を揉んでいても疲れるだけだって」
「うじうじ悩むより全力で戦うだけだろ?な」
「んー、それもそうだな」
麗日に緑谷の励ましを始めとし、上鳴や切島の言葉を受けて扇動は立ち上がる。
その際に見えた横顔は落胆とは違って、何か企んでいるような表情をしていた事に芦戸は嫌な予感を覚え、今度は逆に麗日から「ドンマイ」と肩を叩かれるのであった…。
●トーナメント表
〇Aブロック
・緑谷 出久
・心操 人使
・轟 焦凍
・瀬呂 範太
・切島 鋭児郎
・鉄哲徹鐵
・麗日 お茶子
・爆豪 勝己
〇Bブロック
・扇動無一
・芦戸 三奈
・上鳴 電気
・塩崎 茨
・常闇 踏陰
・八百万 百
・飯田 天哉
・発目 明