無個性オリ主が共にヒーロー目指す!   作:チェリオ

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 毎度毎度申し訳ないです…。
 書き直しに次いで書き直ししてたら遅れました…。


第31話 Aブロック一回戦

 様々なレクリエーション種目が行われた一年の体育祭会場では、セメントスによってトーナメント戦用の特設ステージが組まれていた。

 雄英体育祭の締めを飾る大注目の種目ゆえに会場の熱気は上りに上がっている。

 

  『ヘイ、ガイズ!!色々やって来たが結局はコレだぜ!心技体に知恵知識を総動員したガチンコ勝負!!』

 

 初戦を飾る緑谷 出久は入場通路で高鳴る心臓を抑えようとするも、会場を沸かせようと煽りに煽るプレゼント・マイクの言葉でより跳ね上がる。

 やれる事はやって来た筈だけどまだやれたのではないか?

 本当に僕はオールマイトの後継者として活躍できるのだろうか?

 不安で鼓動が早まり、背後から近づくオールマイトに気付けなかった。

 

 「ヘイ、緑谷少年!」

 「お、オールマイト…」

 「ガチガチに緊張しているじゃないか」

 

 HAHAHAと笑うオールマイトに対して緑谷は決して笑顔を浮かべる事は出来なかった。

 寧ろ期待している憧れのヒーローが現れた事でより一層緊張している。

 それを見抜いているオールマイトはニカリと笑みを浮かべる。

 

 「障害物競走も騎馬戦も君は見事に勝ち残った。何を臆する事があるんだ?」

 「不安…ですよ…。皆の協力と運もあって勝ち上がれましたけど、ワン・フォー・オールは使えるだけで使い熟せていませんし…まだまだオールマイトみたいには……ブツブツブツブツ」

 「君、ほんッとうにそういうとこネガティブだね!そこは“こなくそ頑張るぞ!”で良いんだよ!」

 

 突っ込んだ勢いで多少血を拭いたオールマイトは背中を思いっきり叩く。

 バシンと良い音がして、若干ながら咽る。

 そして落ち着いてから視線を戻すと、トゥルーフォームではなくマッスルフォームでニカリと笑っていた。

 

 「良いかい?怖い時、不安な時こそ虚勢でも見栄でもいいから胸を張って笑うんだ。君は私が見込んだ未来のヒーローなんだから!」

 「―――ッ、はい!」

 「ほら、もう出番だよ!」

 

 背中を押される形で会場へ出た緑谷は、観客席より声援を受けながらもステージへと上がる。

 対戦相手は心操という普通科の生徒。

 正直どんな個性を持っているのかすら分からない。

 …ただむーくんと騎馬を組んでいた事から油断できない事は確かだ。

 気怠そうに首を摩る心操に対して緑谷は警戒と不安が表情に現れる。 

 

 『成績の割にどうしたその顔?ヒーロー科緑谷 出久!バァアアサス()唯一の普通科よりの参戦、普通科心操 人使!』

 「アンタ、扇動と仲良さそうだったな?」

 

 相手の個性が解らない以上長期戦は不味い。

 速攻を仕掛ける気でいた緑谷に、プレゼントマイクが紹介する中で心操が声を掛ける。

 まだ始まってはいないが警戒したまま耳を傾ける。

 

 『第一回戦、レディィィィイ……』

 「俺も強く想う“将来”があるから形振り構ってちゃ駄目だとは思う。けどアイツは厚顔無恥過ぎん(・・・・・・・)だろ」

 

 嘲笑いながらの一言にピクリと反応をした。

 誰が何だって?(・・・・・・・)

 怒り交じりの感情が脳裏を占める。

 

 「仲間の情報を売ってまでB組に取り入って、それに対して恥じる様子すらなかったし…冷たい人間なんだな」

 「むーくんはそんなんじゃあな―――」

 『スタァアアアアト…って、オイオイどうした?開始早々緑谷完全停止したぞ!?』

 

 激昂した緑谷の怒声は最期まで言い終える事無く口だけではなく動きすらも停止する。

 様子を見ていた誰よりも動けなくなった緑谷本人が一番困惑していた。

 心操の個性が“洗脳”であり、その個性の発動条件が“問いかけに返答するだけ”というヒントも得れなかった(・・・・・・)緑谷としては防ぎようがない。

 

 「振り向いてそのまま場外まで歩け」

 

 頭に靄が掛かったようになり、言われるがままに身体が動く。

 どれだけ意思が拒もうとも身体が言う事を聞かない。

 なんで?どうして?と疑問の言葉と何も出来ない自身に自責の念が募る。

 正面には入場口より心配そうに見つめるオールマイトの姿が…。

 

 ザザザッ…と砂嵐のようなノイズが走る。

 視界の先に映っていた通路(出入り口)は暗がりに変わり、そこには八人の誰かが(・・・)こちらを見つめていた。

 幻覚だろうか?

 なんにしてもナニカ(・・・)が流れ込み、僅かに指が跳ねた(・・・)

 

 ―――激痛と共に風が吹き荒れた。

 

 同時に身体の自由が戻って、場外に進んでいた足が止まった。

 これに一番驚いているのは心操自身だ。

 

 「なんで!?どうして動けるんだよ!?」

 

 そんなのこっちが知りたい。

 何故身体が動いたのか。

 個性が発動したのか。

 ただハッキリしているのは彼ら(・・)によって靄が晴れ、個性が勝手に跳ねたという事だけだ。

 振り返った緑谷は心操に向かって突き進む。

 それに心操は焦り、後ずさりしながら口を開く。

 

 「指動かすだけでその威力。本当に羨ましい限りだよ!」

 

 …痛い程解るよ。

 個性を持っている人を羨んだよ。

 昔の僕だってあんな個性有ったらなんて羨んだから…。

 

 「俺はこの個性(“洗脳”)で夢を追うのにスタート地点から遅れちまった…。恵まれた人間には解んないだろうな―――ヒーロー向きの個性を得て、望む場所に行ける奴らにはよ!!」

 

 確かに僕は恵まれたさ。

 ヒーローになる夢を笑う事無く応援し、手助けしてくれるむーくん。

 こんな僕でもヒーローに成れると認め、後継と選んでくれたオールマイト。

 他にも多くの()に恵まれた。

 だからこそ応える為にも、僕の為にも(・・・・・)ここで負ける訳にはいかない。

 

 何が発動条件か明確ではないにしろ、自身が操られた時の事を考えれば質疑応答が疑わしい。

 範囲制限などの可能性も否めないが、それなら後ろに下がる意味が解らない。

 

 口をきつく閉ざした緑谷はそのまま心操に正面からぶつかり、純粋なパワー勝負にて場外へと押し出そうと試みる。

 オールマイトと扇動によって鍛えられただけあって心操を圧倒し、抵抗するも押し切られる形で境界線である白線に近づく。

 しかし心操もそれを良しとする筈もない。

 

 「ふざけんなよ!お前が出ろよ!!」

 

 身体を捻る事で押し出そうとする力を流し、体勢を崩した緑谷を逆に押し出そうと手を突き出す。

 体勢を崩した状態で受ければ押し出される可能性が高い。

 ならばとその手を躱して掴み、一本背負いの要領で投げ飛ばした。

 

 「心操君、場外!よって緑谷君の勝利!!」

 

 ステージに叩きつけられた心操はそのまま白線より外に出た為、審判であるミッドナイトより緑谷の勝利が告げられる。

 叩きつけられた痛みと負けたことに対する悔しさを見せた心操は、顔を伏せたまま立ち上がって開始位置まで戻る。

 何とも言い難い気まずい雰囲気が漂う中、緑谷は問いかける。

  

 「心操君はなんでヒーローを?」

 「…憧れちまったもんは仕方ねぇだろ」

 

 その言葉に自身と彼が重なる。

 オールマイトの後継として個性を授かった今の自分では彼にかける言葉は思い浮かばない。

 項垂れそうになる緑谷は観客席より投げかけられる言葉の数々に気付く。

 それは心操を賞賛する声ばかり。

 くすぐったそうに、嬉しそうに僅かに頬を緩めた心操は背を向けて出入り口へと向かいかけるも足を止めて振り返る。

 

 「今回は駄目だった。けど次はこうはいかない。俺は夢を諦めない」

 「うん……あっ」

 「普通、警戒するもんだけどな…見っとも無い負けをしないでくれよ。それと扇動に謝っといてくれ。洗脳を掛ける出汁にして悪かったって」

 

 そう言って心操は最後に不敵な笑みを浮かべて去って行った。

 一回戦目が終わったので緑谷もステージ上から退場する。

 今更ながらじくじくと跳ねた指が痛み、急ぎ保健室に向かおうとする。

 オールマイトにも洗脳が解けた幻影の事も聞かなきゃいけない。

 少しばかり駆け足の緑谷は通路先より現れた麗日 お茶子を見て足を止めた。

 

 麗日は同じAブロック出場ではあるが第四試合の筈。

 選手用の控室で待機するにしてもかなり速いような気がする。

 それ以上にいつもの麗かさはなく、重い雰囲気を纏っている事が妙に気に掛かり、放っとけないと負傷した指を隠しながら歩み寄る。

 

 「麗日さん!」

 「で、デク君!?試合見んくて良いの?」

 「ちょっと気になって……って眉間が凄い事になってるよ!?」

 「あー…ちょっと緊張しちゃって…」

 

 突然名前を呼ばれ驚きつつ振り返った麗日の表情は険しく眉間の辺りの皺は酷かった。

 指摘された事で表情を繕うも不安や緊張しているのは明らかだった。

 対戦相手があのかっちゃん(・・・・・)だと思うと余計に…。

 

 「その、大丈夫?」

 「大丈夫!……と言いたいところやけど超怖い…」

 

 眼で見て手が震えている。

 武者震い…ではないんだろう。

 こういう時に何か気の利いた言葉を掛けれれば良いのだが…。

 悩む緑谷に麗日は若干俯きながら呟いた。

 

 「デク君はさ。どんどん凄いところ見えてくる」

 「そ、そんな事…」

 「一生懸命で果敢で…どんな時も諦めない。それだけじゃない。分析とか考える力もある。私には出来ないよ…」

 

 困り顔で力なく笑う様子にかなり不安に押し潰されているのが見て取れる。

 当然だと思う。

 雄英体育祭は大きなチャンスである事からプレッシャーもまた大きく、夢を叶える為に結果を出さなきゃという使命感と強迫観念。相手がかっちゃんという事も圧し掛かっている事だろう。

 こういう時は周りは輝いて見え、自身を比べて卑下して余計に押し潰されるという負の連鎖を起こしてしまう。

 何かしら言わなくちゃと焦りながらも口を開けるも、言葉が出て来なくて閉じてしまう。

 こういう時むーくんならと考え、昔言われた言葉をふと思い出した。

 

 「―――“思考停止に安住するな”」

 「…え?」

 「昔、むーくんに言われたんだ。思考停止は楽だけど安住は脳の機能を阻害する。自分をどう評価しようと構わないが使い続けろ。使えば使うだけ発達する器官なんだから…ってね」

 

 むーくんは技術もそうだけど頭も良かった。

 その事で自身を卑下した際に言われた事を思い出し、懐かしさに酔うあまり無意識に真似をしながら言ってしまい、あまり似ていないのもあって麗日は小さく笑った。

 急に恥ずかしくなり言葉を続けようと思うも、卑下していた事で思い出した言葉をそのままいった為にオチを考えていなかったことに今更ながら気付いてしまった。

 

 「えっと、その…つまり何が言いたいかというと…自分を卑下して立ち止まったら駄目だよ。考え続けてれば何か良い案だって生まれるかも知れないし…かっちゃんは怖い程強いけど、この二週間頑張って来たじゃないか」

 「そう…だよね。勝てない相手に挑むなんてここ最近毎日やってたもんね(扇動との組手)。それにしても扇動君らしいね。それも誰かの言葉なん?」

 「あ、うん。“文芸部の魔王”としか答えてくれなかったんだよね」

 

 多少は不安が解けたのか笑みを浮かべた麗日に緑谷は少しばかり安堵する。

 

 「ありがとうデク君。決勝で会おうぜ!」

 

 その麗日は頬を叩いて気合を入れると、ニカリと笑いながらそう言って控室へと向かって行った。

 頷く事で返事を返した緑谷は指の事を忘れて居たことに気付き、急ぎ保健室に向かうと「もっと早く来な!」とリハビリーガールに叱られるのであった…。

 

 

 

 

 

 

 二回戦目はあっと言う間の出来事であった。

 轟 焦凍と瀬呂 範太のA組同士の対戦。

 瀬呂は勝てる気はしなかったものの、負ける気もさらさらなかった。

 彼の取った戦法は開始と同時に個性“テープ”で轟を捕縛して、一気に場外へと放り出す速攻。

 この速攻は上手く決まって即座に捕縛した轟を場外近くまで持って行くことは出来た。

 

 しかし、瀬呂は間が悪かった(・・・・・・)

 通常の轟であったなら多少驚きもあって対処が遅れたかも知れない。

 だが今は速攻に驚く感情が怒りで塗り潰されてしまっていた…。

 

 開始前に通路で待ち構えていたエンデヴァーは、姉と兄を失敗作と称して比較し、自身に勝手な義務と道具である事(オールマイトを超える最高傑作)を押し付けてきた。

 苛立ちも頂点に達していた轟は八つ当たり気味に個性を放ち、ステージの半分と体育祭会場であるドームを超える高さのちょっとした氷山を発生させたのだ。

 これには誰もが驚愕せざるを得ない。

 開始から数秒で行動不能となった瀬呂はあまりの出来事に“どんまい”コールされ、勝者となった轟は八つ当たりしてしまった事を後悔しながら自らじんわりとだが氷を溶かした…。

 

 逆に三回戦目の切島 鋭児郎と鉄哲徹鐵の戦いは二回戦目とは異なって持久戦へと縺れ込んだ。

 何しろ互いに身体の強度を増す個性で、戦闘スタイルは肉弾戦。

 殴っては殴り返され、硬化してその一撃一撃を受け止める。

 ある意味会場を沸かせる試合であった。

 個性もだが熱血漢で負けず嫌い。

 本当に良く似た二人である。

 どちらかが勝利する為にはアイツの防御を貫くほどの攻撃を与えるか、硬化で幾らか防いでいると言ってもダメージは蓄積しているので相手の限界点を超えさせる事。

 現状貫けるほどの攻撃を持ち合わせていないので、決着を付けるには個性と肉体と精神による我慢比べと相成る訳だ。

 そして扇動の放課後特訓を受けた切島と負けずと自主練に励んだ鉄哲による殴り合いという壮絶な我慢比べは、設けられた試合時間いっぱいまで行われ、先に金属疲労で限界に達した鉄哲が膝をついたことで敗北した。

 そんな鉄哲に切島は手を差し出し、互いに称え合い第三試合は幕を閉じた。

 熱い試合によって湧きに湧き、続いて第四試合へと移る。

 

 『中学からちょっとした有名人!堅気の顔じゃあねぇ、ヒーロー科爆豪 勝己!対、俺こっちを応援したい。ヒーロー科麗日 お茶子!』

 

 プレゼントマイクのコールに合わせて爆豪 勝己と麗日 お茶子はステージに上がる。

 睨みを利かせる爆豪に対して麗日は麗かさはなく真っ向から真剣な表情で返す。

 

 「ウチなんか見たくないなぁ…」

 

 観客席で見ていた耳郎がぽつりと漏らし、ヒーロー科一年A組の生徒は誰もが近しい思いを抱いていた。

 個性“爆破”による高い攻撃力に応用に寄る空中移動での機動力。

 持て余す事無く難なく使い熟すだけのセンス(才能)に非常に優れた身体能力。

 キレ気味な性格でありながらも冷静かつ状況や相手を分析・判断出来る頭の回転の速さ。

 どれをとっても対戦相手の麗日に劣るところはない。

 加えて爆豪は緑谷が関わる事を除けば、戦闘において油断する事などない。

 相手を自分の中で(・・・・・)正しく認識して評価を下し、余程の事がない限りは警戒を緩めない。

 

 それらを知っているからこそ耳郎は見たくないと口にした。

 爆豪が女子だからと手加減するとは到底思えないから…。

 

 開始の合図と共に麗日が低い体勢で駆けだした。

 速攻をかける気だと誰もが注視する中、爆豪は警戒を強めながら片手を構える。

 名前は憶えて居なくとも顔と個性は把握している。

 触れたモノを浮かせる“無重力”の個性。

 厄介であるのは確かで、下手に逃げ回って万が一に触れられるよりは迎撃で対処する。

 

 触れようと近づいた所を思いっきり爆破を喰らわせた。

 直撃を受けた様子…というよりは女の子相手によくやれるなと非難の交じりの声が観客席であがるも、爆豪の警戒の色は一向に消える事は無かった。

 

 (なんだ今のは…)

 

 爆破に寄る煙で視界が遮られる中、あまりの手応えの無さ(・・・・・・)に眉を潜める。

 回避出来っこない近距離での爆破を喰らわせた。

 それは間違いなかった。

 だからこそ自身が感じ取った感覚が違和感として強く残る。

 

 「まだまだぁ!!」

 「――ッ、テメェ!」

 

 煙で包まれている真正面から麗日が抜けてきた。

 一瞬驚きで動きが鈍った爆豪であるも、触れられることなくまたも爆破で吹っ飛ばした。

 

 再びの違和感が襲う。

 そもそも麗日の動きがおかし過ぎる(・・・・・・)。 

 一発目の爆破は本気という訳でもなかったが、手加減したつもりもない。

 下手すればその一発でダウンしていてもおかしくないだけの威力は放った。

 けれど麗日は想定以上の速さで復帰し、再び突っ込んで来たのだ。

 違和感と疑念に頭を働かせている間も何度も何度も低姿勢で気迫と勢い任せに突っ込んで来る。

 多くの観客はその違和感に気付けず、麗日が突っ込んでは爆破で迎撃される光景に目を背けるか、苦々しい顔で眺めるばかり。

 晴れない疑念に悩まされ、無駄な突撃を繰り返すだけの攻撃に苛立ちも募る中、真正面の煙の中でナニカがふわりと動いた。

 

 「何度も何度も馬鹿の一つ覚えみてぇに、なめ――ッ!?」

 

 煙りに紛れての真正面からの突撃という同じ行動に、嘗められていると感じて怒鳴りながら爆破するも、それを受けたのは浮かされた(・・・・・)体操服の上着。

 僅かな間で囮を用いた麗日は煙から出て爆豪の側面より襲い掛かる。

 

 『咄嗟に上着を浮かせて囮にしたのかぁ!よく咄嗟に出来たなオイ!』

 

 解説が混じる中で麗日はチャンスを掴もうと足掻く。

 煙から跳び出てから爆豪を眼で補足し、触れようと手を伸ばしながら突っ込む。

 距離も近かった事から普通なら対処は難しい攻撃であった(・・・)

 

 視界の隅に映った麗日に爆豪の反応速度は見事に追いついた。

 努力や研鑽で何とかなる産物ではなく、生まれ持っての才能。

 眼で見てからでも動けるほどの異常な(・・・)反射速度。

 地面を抉るように爆破を横向きに放つ。

 

 無論もろに受けた麗日は吹っ飛ぶが、その飛びようはどこか柔らかく(・・・・)見えた。

 

 「――ハッ、そう言う事かよ!テメェ、利用しやがったな(・・・・・・・・)

 

 違和感の正体を看破された麗日は焦りを隠すように笑みを浮かべる。

 爆豪の個性“爆破”はニトロのような汗を爆発させ、発生した熱量と爆発によって押し出した衝撃波――つまり爆風による攻撃である。

 対して麗日の個性は触れた者でも物でも“無重力”状態にするというもの。

 浮かせるのも無重力化で上へと力を加えた結果(・・)上昇しているに過ぎない。

 

 爆豪が“爆破”の個性を使用した際に自身を(・・・)無重力(・・・)”にすれば、当然ながら最初に到達した爆風に押される形で受け止める事無く流される。

 ゆえに麗日のダメージは幾分も軽減化され、ある程度離れた所で個性を解除する為に立ち直りは早かったのだ。

 

 「そういやぁアイツら(扇動・緑谷)とつるんでたな…」

 

 爆豪は酷く苛立った。

 想像以上に麗日がやれた(・・・)事に対してではなく、扇動の助言を受けて緑谷のような臆しながらも笑みを浮かべる様子にである。

 ただ麗日自身は扇動からは「麗日の個性なら爆豪とも良い感じに戦える(第18話 強化訓練より)」とヒントは貰ったが、それを活かしたのは麗日が控室で悶々と考えてようやく気付けたのが要因である。

 

 苛立ちながら冷静さを残す爆豪はすでに対策を脳裏に描く。

 爆破の衝撃を利用して流すというのなら、逃れられないように挟んでやればいい。

 ただ問題として左右から爆破を喰らわすと言う事は、麗日に出来る限り接近しなければならない。

 そうすれば向こうも手が届く射程内となり、触られれば無重力を受ける事に。

 当然麗日が触って無重力状態にしようとしている事など解り切っているので警戒をより強める。

 

 

 

 だからこそか爆豪は引っ掛かってしまった(・・・・・・・・・・)

 麗日は爆豪の構えが変わった事からナニカ仕掛けてくるのは見えていたが、警戒し過ぎて立ち止まる事は出来なかった。

 

 ひたすらに爆豪に向かって突っ込んでいきながら麗日は放課後の特訓での組手を思い出す。

 

 走りながらも左手をゆっくりを肩と垂直になる辺りまで上げ、そのまま後ろへとゆるりと下げる。

 “無重力”を警戒する爆豪の目はその左手を追うように注視する。

 意図してやった訳では決してない(・・・・・・・・・・・・・・・)

 組手にて扇動が注意を逸らすべく緑谷や自身にしたのを思い出して真似しただけ。

 

 しかし“触れられる”事に警戒をしてしていた爆豪に、その動作はミスディレクションと機能して、本命である攻撃(・・・・・・・)から見事注意を逸らす事が出来たのだ。

 偶然ながらも気を取られた僅かな間に、麗日は止まることなく一歩深く懐に突っ込む。

 眼で見てから対応できるほどの反射神経を有している爆豪でも、一瞬でも気を取られた事で対応が遅れて最早間に合わす事は叶わなかった。

 

 

 「―――カハッ!?」

 「ウチだってただただ過ごして居た訳じゃない!」

 

 突っ込んだ勢いに一歩深く踏み出し、膝で軽くしゃがんでからの背中を用いた体当たり―――貼山靠(鉄山靠)

 思いも寄らぬ一撃に体勢が崩れる。

 麗日の攻撃に対して驚いたのは爆豪だけではなく、会場全体が騒然としていた。

 中でも扇動の驚きは人一倍であった。

 

 「むーくん!今の!!」

 「俺は教えてねぇぞ…」

 

 何度か見せたり喰らわせたりはした。

 だけど教えてはいない。

 扇動が麗日に行ったのは基礎の向上と経験を積ませる事。

 そもそも体育祭までの期間が短く、無茶をさせて壊す(・・)訳にもいかなかった。

 運動能力・体力向上と組手、助言はしてきたが基本それだけだ(・・・・・・・)

 

 まだまだ技として甘いが体験と見ただけで模倣出来たのは麗日の才能ゆえんだろう。

 なにせ彼女は原作にてたかが一週間の職場体験でプロヒーローの格闘術を実戦で使用可能なレベルで習得し、下手をすれば神経や脳に深刻なダメージを与えかねない首への当身を見事に決める事が出来るほどの格闘分野にて高いセンスを発揮したのだから。

 

 貼山靠を受けた爆豪に対してすかさず麗日は腕を振るって何とか指先を掠らせた(・・・・)

 ようやく触れれたという喜び交じりの気の緩み。

 それを見逃す程、爆豪は甘くない。

 

 「ぶわっ!?」

 

 カウンターの爆破。

 今度は個性で受け流す余裕もなく、もろに受けてしまった。

 吹っ飛ばされて地面を転がる事になるも、麗日は即座に立ち上がって睨みつけ、 個性“無重力”で爆豪を浮かす。

 

 「浮かされたぐれぇで…」

 

 無重力にされて自由に動ける人というのは少ないが、居ないと言う訳ではない。

 スペースシャトルと同じで推進力を出せるのであれば、無重力化でも自由な移動は可能となる。

 その点、爆破という推進力を発生させれる爆豪にとっては無重力での姿勢制御にさえ慣れてしまえばなんら問題はない。

 すでに爆破を数度行っては動きを身体で感じて慣れ始めている。

 

 「俺が止められるか!!」

 「――ッ解除!!」

 「なっ!?クソが!!」

 

 爆破によって起動が安定し始めて、慣れた瞬間に個性を解除した。

 無重力化からいきなりの重力下へと法則(・・)が変わった為、あらぬ方向に爆豪は自らの推進力で吹っ飛んだ。

 

 こんな好機を逃す手はない。

 体勢を立て直す前にステージ上の瓦礫に触れて回る。

 低い体勢で突っ込んだのは爆破の個性を利用して、ステージを削らせて利用しようと画策していたからだ。

 幾つもの瓦礫が日の光を遮るようにステージ上に大量に浮かぶ。

 

 「解除!」

 

 荒れに荒れた体勢を何とか立て直し着地した爆豪に豪雨のように瓦礫の山が降り注ぐ。

 同時に麗日も突っ込む。

 瓦礫を防がれたとしても自身が近接戦闘を仕掛ける二段構え。

 

 「絶対に勝ぁあつ!!」

 「…あぶねぇな、オイ!!」

 

 巨大な爆発が起きた。

 動いただけ身体は温まり、発汗量は十分な程。

 瓦礫に向けて放たれた爆破は一撃で迎撃するべく高出力で放たれ、あまりの爆風に麗日の突撃が止められるどころか吹っ飛ばされるほどに…。

 一撃にて二段構えを崩した。

 策だけでなく圧倒的な程の実力差に心まで挫けそうになる。

 顔が絶望に染まる麗日だったが、それでも決して諦める事無く瞳はまだ死んでいない(・・・・・・)

 

 「―――いいぜ!本番はこっからだ麗日(・・)

 

 爆豪の目が変わった。

 先ほどまでは冷静かつ警戒していた事と、下していた評価(・・・・・・・)から何処か冷めていた。

 だけどここまでされたからには評価は見直され、戦うべき相手(・・・・・・)と判断して獰猛な笑みを浮かべる。

 

 両者は駆け出し、互いの攻撃が交差しようとする。

 

 ──だが、それは叶わなかった。

 電源が落ちたようにぱたりと麗日が倒れ込んだのだ。

 肉体の酷使に個性の限界を超えて使用、大体は流したとはいえ少なからず蓄積されたダメージ。

 全てが合わさり許容範囲越え(キャパオーバー)を起こしたのだ。

 意思はあっても身体が追い付いていない。

 倒れ込んだ麗日に審判であるミッドナイトが近づき、意志は兎も角戦闘継続不能と判断したのだろう。

 

 『麗日さん行動不能。爆豪君二回戦進出!』

 

 第四試合の結果が告げられるが爆豪は釈然としていない面で、悔しそうに涙を浮かべながら移送用のロボット(ハンソーロボ)に保健室へと運ばれていく麗日を見つめるのであった。




 思考停止に安住するな
 【Missing 神隠しの物語】空目 恭一より
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