無個性オリ主が共にヒーロー目指す!   作:チェリオ

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第32話 Bブロック一回戦

 Aブロック一回戦目が一通り終わり、注目集まるBブロック第一回戦目が行われようとしていた。

 試合参加者は芦戸 三奈と扇動 無一。

 特に扇動はこの体育祭にて障害物競走や騎馬戦で二位という好成績と突破した事と、個性を使った様子がない(・・・・・・・・・・・)事から多くの観客から注目を集めるのも無理ないだろう。

 扇動を知っているヒーローは勿論B組の生徒、クラスメイトであるA組の面々も注視している。

 しかし前の試合でステージが荒れに荒れており、コンクリを操る個性を持つセメントスが修復する為に比較的短時間で治せるが時間は必要で待たされてはいるが…。。

 おかげで選手控室で休んでいた麗日は試合開始前に観客席に戻る事が出来た。

 …ただ敗けた事によって発生した感情の整理と、中継を見ていた父親からの温かい励ましの電話で涙が溢れ、目一杯泣いた目の腫れを引かすだけの時間はさすがになかった。

 

 「どちらが勝つのだろうか……」

 

 ぼそりと常闇は呟いた。

 A組の誰もが扇動が強い事は知っている。

 個性と無個性の差を埋めるように鍛えた身体に磨いた技術。

 向上心が高く、サポートアイテムを使う事を厭わない。

 情報収集を怠らず、分析して知識から有効な策を模索する。

 だが、今回は相手と状況が悪いとしか言いようがない。

 ルール上、サポートアイテムを使えない上にステージは遮蔽物もない開けた真っ平。

 さらに芦戸の個性は“酸”であり、格闘戦で挑まなければならない扇動としては纏われれば文字通り手の出しようがない。

 扇動の敗北は濃厚と思われるも、根拠はないがただやられるとは思えない。

 だから常闇の呟きを共感するものは多い。

 

 「えー、芦戸じゃね?さすがに素手で酸はどうしようもなくね?」

 「それはそうなんだが…相手が扇動なだけにちょっとな」

 「けれど今回は条件が絞られておりますから…」

 

 上鳴のいう通りなのだが、怪しくて(・・・・)常闇と八百万の言葉もはっきりしない。

 唯一扇動が勝つことに疑いを持っていないのは爆豪だけだ。

 最もこれは“アイツは俺がぶっ飛ばす”という自身の中で確立した前提がある為、なんら根拠がある訳ではない。

 腫れた瞼を擦りながら麗日は緑谷に問いかける。

 

 「デク君はどう思う?」

 「むーくんの方が分が悪いとは思う。芦戸さんは個性の使い方もそうだけど運動神経も良い。個性の相性も考えて勝つのは芦戸さんだとは思うけど、むーくんもそう簡単に負けるとは思えない。勝つために何かしら手段を講じようとする筈。けど…ブツブツブツブツブツ……」

 「緑谷ちゃん、それ怖いわ…」

 

 問いかけに答えただけだったが、途中から呟きが止まらない様子に若干周りも引いている。

 麗日自身困った様な笑みを浮かべて眺めていると、修復が完了して選手である二人がステージへと上がって来た。

 

 『あの角からなんか出んの?ねぇ、出んの?ヒーロー科一年A組、芦戸 三奈!!ヴァーサス(VS)、無個性でヒーロー科入試一位を勝ち取った同じくヒーロー科一年A組、扇動 無一!!』

 

 プレゼント・マイクの紹介に会場全体が騒めいたのが解る。

 個性が当たり前のこの時代で無個性というのは冷遇されやすい。

 いじめなどの人間関係もだが、社会システムに対してもまた同様。

 特にヴィランとの戦いが想定されるヒーローには強力な個性が必要だと考えられ、無個性がヒーローを目指すなど誰も考えもしないだろう。

 ゆえにこの騒めきは当然のことである。

 

 「扇動君はどう対処するつもりなのだろうか」

 

 飯田は心配交じりに試合の行く末を見守るように視線を向け、緑谷はノートを広げてペンを握り締める。

 確かに芦戸の個性に対して素手で挑む扇動は相性が悪過ぎる。

 けれど勝つ方法がない訳ではない。

 ルールには相手を戦闘不能にするか場外に出すか、降伏させるかの三つ。

 昔から鍛えて来ただけに扇動のスタミナもA組内で一番高いだろう。

 格闘戦だけでなく扇動の接近そのものに警戒するであろうから、それを利用してスタミナを使い切るように動けば先に潰れるのは芦戸のほうである。

 しかしそこまでにもって行くのが難しい上に、芦戸自体ダンスをしていた事もあってスタミナも高いので、時間内に潰せるかどうかが怪しい。

 色々と頭の中でシミュレートしながら緑谷は、ミッドナイトの合図により始まった試合を見逃すまいと目を見開く。

 

 試合は序盤から一方的な展開となった。

 予想通り接近すら警戒する芦戸は溶解液を放って射撃での攻撃を行い、対する扇動は掻い潜りつつも接近を試みる。

 しかし避けながらでは速度はそれほど出せず、逆に弱酸性の溶解液を撒いてアイススケートのように素早く動き回れる芦戸に追い付けない。

 走り続けるよりも滑っては流れに任せる芦戸の方がスタミナ消費は少ない。

 この追いかけっこは試合開始から五分ほど行われ、決着がつきそうにない様子に誰もが時間切れに寄る引き分け、または延長戦に持ち込まれるだろうと思い始めた矢先、扇動が足を止めた…。

 会場の多くが一方的な展開から諦めたかと生暖かい目を向ける。

 中には「無個性でよく健闘した」とか「無個性で勝てる訳ねぇよ」など口にする者も居る中、A組の面々は決してそうではないと警戒する(・・・・)

 

 あの扇動が(・・・・・)こんなにあっさりと敗北する訳がない。

 絶対に何か仕掛けるに決まっていると解り切っているからだ。

 ゆえに芦戸も足を止めた事に非常に警戒していた。

 

 『扇動の脚が止まったぞ。これで決着か!……ってアイツ何してんだ?』

 

 大きく吐息を吐き出した扇動は上のジャージを脱ぎだした。

 それにプレゼントマイクを含んだ多くが動揺する中で、扇動は気にする様子もなくジャージを右腕に撒き始めた。

 最後に袖でぎゅっと締め付けて、即席のアームカバーを作り上げた。

 その場で小刻みなジャンプを行うと今度は突然突っ走り始めた。

 しかもフェイントを一切行わない正面からの突撃。

 近づけまいと芦戸は溶解液を放つ。

 

 『―――…え?』

 

 芦戸の戸惑った声をマイクが拾った。

 放たれた溶解液を今まで通り避けると思っていただけに、まさか顔を防ぐように出した右腕で防ぐとは思わなかったのだ。

 右腕を降ろすと苦悶に歪む表情を浮かべていた。

 

 酸を浴びた様子が痛ましく、観客の中には小さい悲鳴を零す者も居る程…。

 特に浴びせた芦戸の動揺は大きい。

 戸惑いを隠せない所へ追い打ちをかけるように扇動が全速力で走り出した。

 酸を放とうか逃げようか判断が遅れた芦戸は、慌てて逃げようとするも動揺し過ぎて足が空回る。

 転びそうになりつつも離れようと移動を行うも、扇動はもう避けようとせずに(・・・・・・・・)走り抜けて来るので速度が出ていた。

 追い詰めていた筈の芦戸は反撃する事もせず逃げることで精いっぱいとなり、とうとう芦戸を場外ギリギリにまで追い込んだ扇動。

 芦戸は息を切らせながら扇動を睨むも思いつめたような表情へと変わる。

 

 『うー…降参!降参します…』

 

 悩んだ素振りの後に悔しそうに降参を宣言して試合は扇動の勝利で幕を閉じた…。

 

 おかしな結末(・・・・・・)にほとんどの者が首を傾げる。

 何故芦戸は途中から攻撃する事が無かったのか?

 攻撃せずとも酸を纏えば扇動は手も足も出せなかっただろうに何故しなかったのか?

 疑問の答えを理解しているのはプロヒーローの幾人かと、A組では鼻を鳴らして呆れる爆豪と理解して納得するように頷いた轟ぐらいだった。

 

 疑問に頭を悩ますよりも溶解液をまともに浴びた事の方が心配した面々は、保健室まで様子を見に行こうかと悩み、行動に移すよりも早くに扇動は戻って来た。

 

 「むーくん!?」

 「ケロッ!?扇動ちゃん腕大丈夫なの?」

 「あぁ?俺の腕がどうかしたか?」

 「いやいやいや!お前芦戸の溶解液喰らってたじゃあねぇか!」

 

 逆に首を傾げる扇動は心配している面々の言葉で何を示しているのか理解して腕を見せる。

 そこには怪我どころか火傷一つ負ってはいなかった。

 

 「お前ら…芦戸が人を溶かすほどの酸(・・・・・・・・・)を撃ってくると思うか?」

 

 その一言に謎が解けると同時に誰もが呆れ、心配を一切排した冷めた視線を向けた。

 強酸性の溶解液ならば扇動は一切手出しは出来ない。

 纏われれば触れた瞬間に焼けるか解けるかしてしまう。

 …ただそれを人、それも友人(・・)に出来るかと聞かれれば誰もが躊躇うであろう。

 扇動は芦戸の人間性にそれまで放たれた溶解液が付着した部位の様子などから害のない弱酸性と見抜いて追い込んだのだ。

 

 避ける様子もなく敗北する気もなさそうな扇動に、強酸性に切り替えた溶解液を放って万が一にも当ててしまった時を考えて芦戸は攻撃が出来なくなってしまったのだ。

 つまり扇動は芦戸の良心を頼りに責め立て、勝利を勝ち取ったのだ…。

 

 「ズリィ!ってかそれで良いのかよ!?」

 「ヒーローっぽくない戦い方だね!」

 「うるせぇよ。俺だって使いたくはなかったさ。負けたくもなかったが…」

 「それで芦戸さんが不機嫌そうなのですね…」

 

 扇動の後ろには芦戸も居て、恨めしそうに扇動を見つめていた。

 けど本気で怒っているというよりはむくれているという感じだ。

 解っているのだ。

 自身の夢の為に多少の違いはあれど同じ夢を抱く友人を負かし、プロにアピールしようとしていたのだから…。

 解っていても負けたのは悔しいし、論理だけで感情は納得し得ないのも当たり前。

 

 「芦戸のリクエストでケーキバイキングで手を打ってくれる事にはしてくれたが…」

 「皆も行こうよー。扇動のおごりで!」

 「了解。動いた後は甘いもんほしいからな。体育祭の打ち上げってのも違う感じもするがそれで気を直してくれるのなら何なりと」

 

 悪戯っぽく笑う芦戸に扇動は肩を竦ませながら微笑む。

 そんな最中、次の試合の参加者である上鳴が立ち上がる。 

 

 「まぁまぁ、俺が芦戸の仇はとってやるって」

 

 上鳴は自信満々に口にした。

 範囲攻撃で近づけさせずに麻痺させて行動不能に出来る“放電”の個性は芦戸の酸以上にルール込みで扇動には相性が良い。

 だからこその自信。

 余裕すら感じさせる上鳴はニカリと笑う。

 

 「一瞬で終わっからよ」

 

 自信に満ち溢れた上鳴。

 事実、Bブロック第二回戦は速攻で決着した。

 対戦相手である塩崎 茨の圧勝で…。

 速攻放電した上鳴であったが壁のように編まれた茨によって防がれると同時に、アース(接地)の役割も担って電流を地面に流され、次の瞬間には縛られて行動不能に陥って敗北した。

 思っていた内容は逆であったがまさに瞬殺である…。

 寧ろプレゼントマイクの紹介で「B組の刺客」と称された事に真面目な茨が抗議した時間の方が長かったほどだ。

 

 ちなみに先の発言にこの結果を見て、壁を隔てた隣で眺めていた物間が煽りに煽って来たが、こちらも拳藤の当身で瞬殺されるのであった…。

 

 

 

 

 

 

 続いてのBブロック第三試合は苛烈を極めた。

 常闇 踏陰は対戦相手である八百万 百の弱点を見抜いていた。

 個性“創造”は思った物を出せるような魔法の類ではない。

 創造するにはソレを構成する知識と創るにあたって消費される脂肪量が居るという事。

 使いこなせるならあらゆる場面でも対処できる強個性だ。

 逆に言えば創り出す余裕、創造の為の構造を考える思考の時間を与えなければ良い、

 

 ゆえに常闇の取った手段は速攻であった。

 開始と同時に現れた“ダークシャドウ”による猛攻が襲い掛かるも、八百万は想定内の攻撃を盾一つで凌ぎきったのだ。

 丸みを帯びた円形状の小さな盾ではあったが、ダークシャドウの攻撃に合わせて受け流し、隙あらば防御である盾で攻撃(シールドバッシュ)を行う場面も多々見られた。

 速攻を決めきれなかっただけに時間が出来てしまい、八百万は次にハンマーを創造した。

 片手で持てる頭が大きなハンマー。

 持ち手には紐が付けられ、それを掴んで回す事で遠心力込みの打撃を相手に喰らわせる。 

 盾で攻撃は受け流され、ハンマーによる重い攻撃がダークシャドウと襲う。

 

 この状況下では常闇は動けずにいた。

 別にダークシャドウを使用する事で制限があるという訳ではない。

 常闇自体の戦闘能力はそれほど高くない。

 下手に接近でもして攻撃を喰らった場合、戦闘不能にでもなればそこで敗北してしまう。

 

 自身が弱点になってしまうからこそ近づけない。

 だが逆に八百万は放課後の特訓でその弱点を毎日のように突かれ、対処しようと自主的に試行錯誤を繰り返し、時にはアドバイスを受けてきたのだ。

 弱点を突かれた際もやっぱりかと思う事はあっても、焦る事がない程に落ち着いていた。

 

 しかしながらこの状況は常闇にとって悪いものではなかった。

 ダークシャドウにスタミナの概念はなく、八百万は受け流すにしても攻撃するにしてもスタミナを消費している。

 このまま持久戦を続けれれば勝つのは常闇なのである。

 それを八百万もそれを正しく認識しており、打開策を講じて実行に移す。

 

 武器であるハンマーをダークシャドウではなく常闇に投げる。

 ダークシャドウも常闇も避けるにしても防ぐにしても意識はハンマーに向けられる。

 その隙に掌からフレアガン(信号拳銃)を創造する。

 創造すると同時に掴み、ハンマーから常闇を守ったダークシャドウに向けた。

 トリガーを引いて放たれた信号弾はダークシャドウにくっ付き、赤い輝きを周囲に撒き散らす。

 

 “フレアガンはジェイソンですら足止め出来るんだ(フライデー・ザ・13th)

 

 盾やハンマーなど何を創造すべきかのリストアップしていた時に扇動が言った言葉だ。 

 これが何を意味しているのかはよく解らなかったが、足止めにも目潰しにも使えるのでリストに加えていたのだ。

 

 足止めと目潰し目的で放った信号弾であったが、光に弱いダークシャドウにとっては最悪である。

 光に目が眩むどころか悶え苦しみ、常闇の指示すら聞こえていない。

 図らずも出来上がった大きなチャンスをものにしようと八百万はダークシャドウを無視して、常闇に接近して創造で作り出したネットを放って身動きを封じる。

 こんな状態で拾ったハンマーを向けられれば常闇は負けを認めるほかなかった。

 

 Bブロック第一第二試合以上に大きな歓声が挙がる中、八百万の勝利が高らかに告げられる。

 激しい戦いであったがステージに被害は無く、第三試合の熱が籠る中で飯田と発目の第四試合が始まろうとしていた。

 

 『お次はザ・中堅って感じ!?ヒーロー科、飯田 天哉!対、サポートアイテムフル装備…ってか装備し過ぎじゃね!?サポート科、発目 明!』

 

 サポート科はサポートアイテムの使用可能。

 だが限度というものはあるだろう。

 

 肩より上に飛び出た可変式のスラスターが取り付けられたバックパック。

 腰のベルトにはモーターと連動したワイヤー付きのアンカー。

 膝から下を覆う様なレッグアーマー。

 腕には左右異なる籠手。

 安全も兼ねたバイザー付きのヘルメット。

 パワードスーツのようなフル装備の発目 明に対して思わずプレゼントマイクは突っ込み、飯田とイレイザーベッドは驚くか呆れるかの視線を向ける。

 ちなみに教員用の席の一角で胃の当たりを抑えて苦悶の表情を浮かべる教員が居たとかいないとか…。

 

 「凄い装備だな」

 「はい!これも全てサポート会社にアピールするチャンスですから!!」

 

 あまりに堂々と、そして純粋に言い切った発目に呆気に取られるも自分もそう変わらないのだと思い出す。

 元よりそうだったが負けられないという気持ちを新たに気合を入れ直す。

 

 『ではBブロック四回戦目、スタァアアアアアアト!!』

 

 開始直後の速攻。

 飯田は個性を用いた加速にて一気に発目に迫る。

 対して発目は少し操作し難そうに右腕に装備した籠手の操作パネルを弄る。

 

 「良い加速ですね!ですけど速度なら負けませんよ!」

 

 レッグアーマー踵に繋がった可動式のローラーが回転し、底部の補助ホイールが連なって力の向きに回り出す。

 迫る飯田に対して下がる発目。

 かなり速い速度ではあるが、飯田と比べると若干遅い。

 それは移動時間が長くなるにつれて距離が狭まる事で明らかだ。

 さすがに速度勝負は不味いと理解した発目は飛んで空へと逃げる。

 無理のある動きを仕込んであるオートバランサーが機能して補助してくれる。

 だけどどうも連動が甘かったようでラグが目立つ。

 

 「改善の余地ありですね!」

 

 そう判断しながら発目の視線は観客席に設けられた企業関係者席に向く。

 発目の個性は“ズーム”。

 文字通り拡大する事が可能な個性で、遠く離れた企業関係者の表情をハッキリと見る。

 喰いついた様子でこちらを見ている事を確かめ、ご満悦といったように笑みを浮かべる。

 

 着地を狙おうと飯田は追い縋るも、騎馬戦時のバックパックとは異なってスラスターが可動式。

 方向転換はお手の物で逆に右に左へと飯田を翻弄する。

 これでは埒が明かないと判断して温存も兼ねて足を止める。

 すると発目は少し距離をおいて着地した。

 さすがにずっと飛び回れる事は無いようで安堵する―――が、発目が右手の小手に取り付けられた操作パネルに触れた矢先、バックパック辺りからナニカが出て来たことで嫌な予感が襲ってくる。

 

 「なら、これはどうですか!」

 「それはありなのか!?」

 

 バックパックには簡易的なサブアームが取り付けられており、それが銃のようなものを向けて来る。

 勿論実弾などではなく、発目が用意した専用のトリモチ弾。

 あくまで捕縛用なのだが乱射が激しく弾雨のようになってはいる。

 その弾雨を浴びないように飯田は必死に走り抜ける。

 当たらない実状よりも発目は精度や使ってみた感想から改善案をすでに思案していた。

 

 「ふむふむ、反省すべきところは多々ありましたね!大きな収穫です!!…あれ?」

 「―――ッ、今だ!!」

 

 目線を認識したバイザーで狙いを付けて、操作パネルでサブアームのオンオフを切り替える。

 その為に起動させてから連射し続ける事となり、あっという間に弾切れが起きてしまう。

 この機会を逃すものかと逃げ回っていたのから一変、発目を掴んで場外に押し出さんと迫る。

 しかし発目は使えなくなったサブアームを切り離すと同時に飛翔して退避する。

 

 「さぁて、まだまだ行きますよ!」

 

 そこからは追いかけっこであった。

 発目は装備の機動性に小回りを見せる為にも低く飛び、飯田はそれに追い付こうと追い掛ける。そして追い付かれそうになっては飛翔して難を逃れるを繰り返す。

 十分近い鬼ごっこは決着がつきそうになかったが、データ収集とお披露目もかなり出来た発目によって唐突に終わりを告げる。

 

 「そろそろ締めにしましょう!―――“ファーカレス”」

 

 飯田の頭上へと飛翔して左手のガントレットより蜘蛛の巣状に編まれた帯のようなものが行く手を遮るように囲む。

 しかし一つとして飯田本人を捉えておらず、鳥籠に封じ込められた状態。

 隙間は狭いが抜けられない事は無い。

 焦りながらも抜け出す場所を探そうと視線を動かすも、次の瞬間にはそれも叶わなくなった。

 

 「“閉じろ”」

 「なぁにぃ!?」

 

 抜け出そうと走り出した途端、音声に反応した帯が急に迫る。

 形状記憶合金を用いられたこのサポートアイテムは、音声または操作によって籠手より熱を走らせ、半円状に広がった網を閉じる事が出来るのである。

 さすがに脱出するには時間があまりにも足りなく、飯田は迫った帯に地面に押し付けられるようにして動きを完全に封じられてしまった。

 

 「どうです?どうです!?形状記憶合金を用いた捕縛装置は!!」

 「っく、動けない!」

 

 何とか脱出しようと藻掻くががっしりと捉えられて抜け出せない。

 眼前に着地した発目を身動きの取れない飯田は見上げる。

 敗北したという事実を悔しく思うも、彼女の努力が自分を勝ったのだと勝者を称えるべきと心を律する。

 

 「さすがだ発目君。僕は―――」

 「はい、私の負けです(・・・・・・)!」

 「――降さn……は!?」

 『はぁああああ!?ここで発目が降参!?何考えてんだぁおい!』

 

 当然の突っ込みに会場全体が同意する。

 対戦相手の飯田としても同様であり、疑問の目を発目に向ける。

 

 「今回私が創ったベイビー達のお披露目は出来ましたし、なによりエネルギーが切れましたので!!」

 

 もうやり切ったという清々しい表情を浮かべ、汗を袖で拭う発目に飯田はガクリと肩を落とした。

 確かに目的を達成した彼女は良いのだろう。

 けど勝負結果は負けでありながら勝ちを譲られた現状になんとも言えない感情が胸中に渦巻く。

 しかし考えようである。

 一回戦目は不甲斐無かったかも知れないが、二回戦目で払拭するような務めれれば良い。

 自分には機会が与えられたのだと…。

 そう思う事にした飯田だが、捕らえられたままで動く事も叶わない。

 

 「ところで発目君。これを外して貰えないか?」

 「………あ!戻す機能をつけ忘れました!ごめんなさい」

 「…え?」

 

 …トーナメントBブロック第一回戦目は、教員に寄る飯田救出作業によって幕を閉じるのであった…。




 ●発目の装備品の元ネタ
 バックパック :【機動戦士ガンダム0083】よりGP-01Fbのバックパック
 レッグアーマー:【コードギアス】よりナイトメアのランドスピナー
 ガントレット左:【メイドインアビス】よりボルドンドの“月に触れる”
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