ここ数週間花粉症に悩まされ、ダウンしておりました。
投稿再開致します。
それと以前より書き忘れたシーンがあり、それを含めて加えようと思って少しずつ書いていた回も一緒に投稿したので今日は二話投稿となっております。
一緒に投稿した第24話は次に投稿した際に順番通りに並べます。
緑谷 出久は騒めく心境を抑えながらステージに立つ。
トーナメント一回戦は各自終了し、試合の熱に当てられて観客は盛り上がりを見せる。
勝ち残った八名による二回戦最初の試合が開始されようとしていた。
ここに至って初戦前のような緊張はない。
対戦相手は轟 焦凍…。
身体能力に氷と炎の二つの個性を持ち、ヒーロー科一年A組トップクラスの実力者。
実力差もあることながら彼から聞かされた境遇や想い。
それにステージに来る途中に偶然にも出会ったエンデヴァーに会ってしまった事が大きい。
“焦凍にはオールマイトを超える義務がある”
エンデヴァーは超パワーはオールマイトにも匹敵する個性と言って、轟を計るためのテストベッドとして有益と口にした。
我が子への応援ではなくそうあらねばならないという冷たくも圧が込められた一言。
自身をテストベッドと称した事などどうでも良かった。
まるで轟を道具として見ていないような感じに怒りを抱く。
轟から聞かされた境遇と決意も加わり、緑谷は何か
『では第二回戦目緑谷
開始の合図と同時に氷がステージ上を走る。
それは瀬呂の時のような大出力なものとは違い、線を引くように真っ直ぐ伸ばされた氷結。
緑谷は避ける素振りを見せずに氷結と轟の位置が重なっているのを確認して
「―――
突き出した拳は個性“ワン・フォー・オール”の力を纏い、パワーによって押し出された風圧が氷を砕いて轟を襲う。
個性を使用しても腕は壊れてはいない。
限定的な個性の使用。
扇動の訓練にてようやく掴みかけた個性の調整だが、放課後という限られた時間では足りなさ過ぎて、どうしても人に対する無意識下でのコントロールに頼るしかない。
最終テストとして扇動は使わせたいという考えはあったものの、体育祭が迫った状態で使用して大怪我させる選択肢が取れなくて曖昧な状態で迎えさせるしかなかったのだ。
なんにせよ腕を振るっても壊れないギリギリの使い方が出来るというのは有難い。
放たれた風圧は向かって来た氷結を砕き飛ばすばかりか轟にまで直撃して吹っ飛ばす。
あまりの勢いに浮かされて場外まで飛ばされそうになるが、背後に氷塊を出現させて無理にでも減速させる。
一枚で止まらないのなら二枚三枚と数を増やして踏みとどまった。
「…やっぱそう来るか」
氷結を打ち破られた事に動揺は見られない。
完全ではないものの放課後の特訓はお互いに僅かながら情報は覗ける。
その際にこちらが自損せずに個性を振るう所を何度か見ていただろう。
止める為とは言え背を氷塊にぶつける羽目になって表情が歪んでいるが、目は決してこちらを捉えて離す気がない。
再び氷結が放たれてそれを同じように砕く。
しかし砕いた先に轟は居らず、風圧はそのまま抜けていく。
放ったら砕かれるのを承知でその場から移動された。
迫る氷結に注意が向いた上に出現する氷で姿が隠れるのを利用された。
おかげでこちらは無意識に個性がセーブされたので自損はしなかったが、一瞬とは言え位置の把握が出来ていない。
ただこの氷結には驚かされた。
授業や訓練時はだいたい一直線にしか氷結を走らせていなかったというのに、細くとも五本の氷結をこちらに向けて走らせている。
手ではなく指先での個性使用。
しかも同時に五本という出力調整を施した個性のコントロール。
放課後の特訓で自身が以前に比べて成長しているように、轟とて成長していてもおかしくは無い。
これでは一本を回避しても他のを受けてしまう。
なんにせよ吹き飛ばさなければと個性を使おうと拳を構える。
「スマ―――ッ!?」
…してやられた。
目の前の氷結ばかりに注目して、別方向から迫る氷結に気付くのが遅れた。
指先から放たれた氷結だけでなく、足元よりもう一つ氷結が走って来ていたのだ。
それも円を描くように湾曲して死角を突くように。
氷が織り成す音と
しかしすでに回避が間に合う距離ではない。
正面を対処すれば側面から凍らされ、逆に側面を対処しても正面で凍る。
悩む間も惜しく、氷結は緑谷に間近まで迫る。
「
背に腹は返れない。
歯を食いしばりながら左人差し指を親指の腹で抑えて、正面と側面から迫る氷結の丁度中間に向けて
瞬間放たれた風圧によって氷結は吹き飛んだが、代わりに左人差し指が耐えきれずに痛みを発した。
赤黒く変色した指がじくじくと痛むも堪えながら視線を向けるとそこに轟の姿は無かった…。
代わりにあるのは上へと段々に伸びていく氷…。
「何処に…上!?」
視線を上に向けると氷を踏んで駆け上がり、頭上を取った轟の姿があった。
咄嗟に横っ飛びに回避するも、着地した瞬間に氷結が追って来た。
射線上に轟が居ると右腕を振るおうとするも、こちらの意図を察してか射線上から飛び退かれた。
これでは振るえない。
今度は左薬指を弾いて吹き飛ばす。
無意識での個性コントロールは諸刃の剣。
条件として人を意識しなければ壊れる危険性がある…。
ゆえに状況を考慮して自損覚悟で使用せねばならないときは左手…それも指の一本ずつと決めていた。
覚悟もしていたとは言え激痛が走り顔が歪む。
その様子を冷静に眺めていた轟はふぅ…と吐息を漏らす。
「お前個性のコントロール出来てねぇだろ」
「――ッ…」
「図星みたいだな」
見破られた事に動揺を隠しきれなかった緑谷に轟の猛攻が襲う。
放たれる氷結は射線上に重ならないように走られて、対処するには何とか躱すか自損覚悟で個性を使うしかない。
残った中指、薬指、親指を使わされた。
右手を使う前に一度壊れた指を頬に引っ掛けて弾く事でもう一巡使い切る。
一度だって激痛を伴うのに、壊れた指で再び壊す行為に溜まらず悲鳴のような声が漏れ出てしまう。
それでも負ける訳にはいかないと活路を見出そうと必死に耐え続ける。
…右腕は問題ないが左指は全滅。
焼けるような痛みが脈打つように駆け抜ける。
解っていた。
個性だけではなく判断能力から応用力、身体能力まで全てが自分より上だって事は…。
ギリっと強く歯を噛み締める。
「もうその左手は使えないだろ。悪かったな」
自身の状況を踏まえた上で轟を見つめる。
風圧に耐えるべく出現した氷結で背を打ち付けて、ダメージは蓄積されているだろうけど今のところ戦闘に支障がある用には見えない。
まだまだ戦える相手に対してどうすると頭を悩ます緑谷は轟が若干
「おかげで奴の顔が曇った。」
緑谷は歯を食いしばる。
それは痛みによるものでも絶望に呑まれた証明でもなく、視線を自分からエンデヴァーに向けた事でもない。
彼が今している事に対して怒りが胸中を駆け抜ける。
轟から家庭の事情は聴いた。
エンデヴァーがどう思っているかの一端を目撃した。
それは自分でも計り知れない苦悩があった事だろう。
だけども許せなかった…。
「轟君…震えてるよ」
睨みながら放った一言に轟は足を止め、震えている腕に視線を落とした。
その震えはダメージから来るものではない。
「個性だって身体能力一つだ。君の個性にだって限度があるんじゃないのか?」
氷結による冷気は周囲だけでなく使用者にだって影響を及ぼしている。
無条件で耐えられる訳ではなく、すでに限度を越して身体が震えるほどに影響が見て取れる。
だけどそれは左の炎を使えば解消される筈だ。
「皆…本気でやってるんだ。真剣に戦ってるんだ!目標に近づくために必死になって!それを半分の力で勝つ!?まだ僕は君に傷一つ付けられてないぞ!!」
このトーナメントに上がれなかった人は勿論の事ながら、トーナメントで敗れた麗日達や不利であるも頭を使って勝利した扇動が脳裏に浮かぶ。
彼ら・彼女らだって成りたいものを目指して努力し、全てを出し切るように上を目指している。
だから僕は皆の想いを踏み躙るようで許せなかった。
「―――全力で掛かって来い!!」
緑谷は怒りと共に胸中を渦巻く
轟の読みは間違っていなかった。
現在の緑谷は個性のコントロールを己の意志で行う事はままならなかった。
だがこの瞬間において―――
「なんのつもりだ緑谷…クソ親父に金でも握らされたか?」
片手は壊れきっており、痛みだって尋常ではない筈だ。
状況的に見ても緑谷は不利だというのに何故という疑問と浮かんだ予想で勝手に苛立って感情が荒れる。
死角から迫るように湾曲させて走らした氷結は拳の一振りで払われた。
振るった右腕には自損は見られない。
「イラつくな!」
出力全開で放ったところで砕かれかねない為、近づいて凍らせるしかないと判断した轟は駆け出す。
何度も氷結を使用した事で霜が降りて能力低下した身体で。
緑谷も駆け出しており、互いに攻撃しようと拳を構える。
だが轟の手は触れる事は無かった。
踏み込もうと一歩出た瞬間、タイミングを狙ったかのように緑谷が懐へと踏み込み、先に拳を腹部に叩き込んで来たのだ。
「―――カハッ!?」
腹部に緑谷の拳が食い込む。
あまりの
痛みからすぐさま体勢を立て直せれず。よろよろと起き上がって緑谷を睨む。
当の緑谷もこちらを睨んでおり、追撃ではなく口を開く。
「動きが悪いよ轟君。氷の勢いも弱まってる」
見抜かれている。
けど炎を使うつもりもない。
炎を使わず勝たなきゃ意味がない。
出力を上げて氷結を走らせるも駆け出した緑谷は咄嗟に払うように右手を振るって吹き飛ばし、近づいたところで
再び腹部を駆け抜ける重い一撃…。
勢いで地面を跳ね、転がった轟は起き上がりながら見た。
殴りかかった痛々しい左手より血が垂れ、激痛で歪む緑谷の顔を…。
「なんでそこまで…」
「期待に応えたいんだ!!笑って応えれる格好良いヒーローに
ヒーローに成りたい…。
その言葉が脳裏に引っ掛かる。
緑谷は止まる事なく思いの丈を口にしながら拳を振るってくる。
「皆、ヒーローに成りたくて全力を出しているんだ!」
クソ親父を全否定する為に氷…母さんの個性だけで勝たなくちゃならない…。
それが俺がヒーローを目指す理由……本当にそうだったか?
重い一撃を受けながら何かが引っ掛かる。
「君の境遇も決心も僕には計り知れない………けど!」
クソ親父にしごかれた日常。
友人も作れずに兄姉とも遊ぶ事さえ許されない日々。
必死に守ろうとしても暴力を振るわれる母の顔。
苛立ちが募る記憶にギリッと歯を強く噛み締めながら立ち上がる。
「全力を出さずに一番になって全否定なんて―――ふざけるなッ!!」
クソ親父の都合の良いようになってやるもんか。
俺はアイツの全てを否定する為にヒーローを………。
―――焦凍…。
優し気な声が自分の名を呼ぶ。
それは今や聞く事も少なくなってしまった母さんの声…。
「君の力じゃないか!!」
―――“成りたい自分になって良いんだよ”。
あぁ、思い出した。
母さんと一緒にオールマイトが出演していたテレビを眺めながら、クソ親父に縛られてではなく憧れを抱き、自分自身であんな格好良いヒーローに成りたいと想い、母さんに優し気にかけられた言葉を…。
いつの間にか忘れてしまっていたあの日の事を…。
ぶわりと溢れる思い出と感情は熱を持ち、炎となって轟より勢いよく吹き荒れた。
放たれた熱気は緑谷を撫でるに留まらず、観客席にまで至った。
ようやく炎を使った事に対して感情を高ぶらせるエンデヴァーを他所に、扇動とオールマイトは緑谷の行為に魅せられた。
これはただ勝つための行為ではない。
意識してなのか無意識でなのかは分からないが、緑谷はこの戦いの中で轟を
「成りてぇよ…俺だって、ヒーローに!!」
なんかクソ親父の事なんてどうでもよくなっちまった。
今は靄が晴れた様にスッキリして、妙な気持になって笑みが零れてしまう。
「…ったく勝ちてぇくせに敵に塩送るなんて…どっちがふざけてるって話だよ…」
炎の個性により霜は消し飛ぶ。
これで氷結の個性で起こった身体への影響は完全に消え去った。
対して緑谷の状況は改善どころか悪化したに過ぎない。
だというのにアイツは笑っている。
「なに笑ってんだよ。その怪我でこの状況…お前イカれてるよ―――どうなっても知らねぇぞ」
―――“全力で掛かって来い”。
今の轟の頭にはそれに応えるべく全力を振るう事しかない。
右側から氷結、左側からは炎が荒々しく放たれる。
緑谷も全力を払おうと脚と右腕にワン・フォー・オールをかけ巡らせる。
この異様な光景と二人の熱量に主審のミッドナイトと待機していたセメントスが動いた。
すでに緑谷の怪我は酷いものだ。
試合を止めようかとも考えた二人であったが、まだ大丈夫だと判断して止める事は無かった。
しかしこれ以上は身が持たない。
そう判断したセメントスは急遽二人の間にコンクリートの壁を形成しようとして、ミッドナイトは個性の“眠り香”で眠らせようと個性を使用する。
今までの氷結と比べ物にならないほどの大出力の氷結がステージを駆け抜けるが、ワン・フォー・オールの力が加わった脚力は易々と飛び越えて、緑谷は弾丸のように轟へと跳んでいく。
勝つためには個性同士をぶつけるだけでは駄目だ。
出来得る限り至近距離で全力を振るうしかない。
高温を持った左手が自身の周囲を漂う冷気を消し飛ばす。
「………緑谷、ありがとな」
それは決して緑谷に聞こえる事はなかっただろう。
けれど轟は穏やかに、優し気に口にする。
炎を纏った左手を緑谷に向けながら。
中央で巨大なコンクリートの壁が幾層にも聳え立ち、ミッドナイトの眠り香が漂う。
そんな中を冷え切った冷気を熱しながら大出力の炎と思いっきり個性を振う緑谷が突っ込んだ。
余りある力を防ぐことは叶わず、受けたコンクリートの壁はものの見事に砕け散って四散し、ぶつかり合った二人の強大な力に散々冷やされた空気が熱せられた事で発生した熱膨張も加わり、衝撃は強風となってドーム内を轟音と共に荒々しく吹き抜けた。
ステージ上は煙で覆われて状況が掴めない。
誰も彼もがどうなったんだと目を見張る。
荒れ果てたステージに立っていたのは轟 焦凍だけであった。
緑谷はぶつかり合った衝撃に眠り香もあって、壁に激突して意識を失っていた。
『み、緑谷君場外…轟君、三回戦進出!!』
大きく息を吐き出す。
観客達が各々感想を口々にする中、轟は不思議そうに左手を眺めていた。
クソ親父を連想して憎かった炎だったのに、先の一瞬だけは
色々と想いながらハンソーロボによって保健室に連れていかれる緑谷を見送り、轟 焦凍はステージを後にする。
緑谷と轟の試合が終わるとステージ修復の為に一時中断が入るも、 コンクリートを操れる個性を持つセメントスによって被害の割には比較的短時間で終わり、先の激しい試合の興奮が冷めぬうちに次の試合―――爆豪と切島の試合が開始されていた。
「―――ッ、硬ぇ」
「効かねぇっての爆発さん太郎が!!」
修復されたばかりのステージで爆発音が響き、直撃を受けた切島はよろめく事すら無く真正面から受け切り、硬化の個性で固めた拳を振るう。
反射的に避けた爆豪であるも僅かに掠め、擦れた皮膚が切れて血がじわりと頬を濡らす。
爆破が効かなかったばかりかよろめきすらしなかったことに険しい表情を向けられる。
対して切島は好戦的な笑みを浮かべて叫ぶが、内心は少々焦っていた。
切島の“硬化”は肉体を硬質化させる個性。
防御は勿論の事ながら硬度を増した肉体は武器と成り、攻撃においても有効な個性である。
だけどデメリットがない訳ではない。
個性使用時は力まないといけないので、持久力が切れれば硬化を維持する事が難しくなるというもの。
それを理解していたからこそ扇動は持久力や使用時間を延ばせるように訓練を付けようとしてくれた。
――「硬化に頼り過ぎるな。受け切れると理解しているからこそ受けても大丈夫という油断が生まれる」
受け続ければずっと力み続けなければならなくなり、早々に個性の限界が訪れてしまう。
一応捌き方は教えてもらったが、持久力や高度を上げる事がメインだったゆえに付け焼刃程度。
戦闘センスの塊のような爆豪に対して通じるようなレベルではない。
だからと言って馬鹿正直に受けていれば全身力みっぱなしですぐに切れてしまう。
ピンポイントで腕だけ硬質化させて受け、恐れる事無く踏み込んでいく。
ガードした左で爆炎を払って、右の拳を爆豪に叩き込む。
先は早々に蹴りを付けようと顔――顎を狙ったが今度は腹部へ叩き込んだ。
扇動曰く、頭は小さい部位なので狙われても避けるのは容易かったりするらしい。
なんでも霞 拳志郎や毛利 蘭という人物は弾丸すら避けたのだとか。
にわかに信じられない話しながらも先ほど掠りはしたが、直撃を避けられた事から思い出して的として大きいボディを狙う。
「ガハッ……テメェ!」
「はっはぁ!効かねぇっての!」
硬化した拳の一撃が効いて声を漏らしたが、即座に反撃の爆破を放って来た。
さすがの反応速度からピンポイントでは間に合わず、咄嗟に全身力ましてガードする。
焦りを顔に出さないように威勢を張る。
しかし爆豪は怪訝そうな顔を向ける。
「今…
「―――ッ!」
いつも血の気の多そうな風でありながら力任せの無鉄砲ではない。
爆豪は冷静な判断力と高い分析能力を持つ。
出来れば気付かれない方がやり易かったが、そう易々と勝たせてくれそうにない。
それはそれで
ここで退きさがるという選択肢は存在しない。
戦闘方法が近接戦闘…肉弾戦であるというのもあるが、それ以上に気持ち的にも下がりたくなかった。
麗日戦で反射神経が優れているのは理解しており、一端でも見抜かれたからにはピンポイントのガードでは防ぎきれないだろう。
攻撃時は腕だけとしても防御時は全身を固めるしかない。
ずっと力む事になって持久戦的には辛いが、ガード無しで受けるよりはマシだ。
一気に猛攻が激しくなる。
硬化した拳を脅威に見ていた爆豪は
それが超攻撃的に攻めだしたのだ。
一か所に集中するのではなく右と左で連打で爆破を叩き込み、こちらが攻撃しようとするとその腕を爆破で逸らす。
この戦い方は完全に気付いてやがる。
ヤバイと思いながらも解いて休む事叶わず、今は耐え忍ぶしか手がない。
「切島!顎狙え顎!!」
観客席より鉄哲の声援が届く。
一回戦目では対戦相手であったが、真正面からの殴り合いを終えた後はバトル漫画のようであるが、何処か妙な友情めいたものを感じていた。
今の自分は一回戦で負かした鉄哲の分まで背負ってんだ。
特訓に付き合ってくれた扇動にも、抱く己の夢を叶える為にも―――。
「―――負けらんねぇんだよ!」
連打で爆破を浴びせられて視界も悪くなっていた切島は、気合と意地で前へと突っ込む。
例え爆煙で視界が防がせようと爆豪の位置は攻撃してくる方向で解る。
そこへと硬化したまま突っ込んで体当たりを喰らわす。
予想外に突っ込んで来た切島を避け切れず受けた爆豪は、押されるがままに吹っ飛ばされた。
そのまま背を地面にぶつけそうになったのを咄嗟に爆破で浮かして、転がるようにして着地する。
これはチャンスである。
体勢を崩した爆豪に一気に詰め寄って拳を振るう。
「クソッ、やってくれたな
「早く倒れろ爆豪!!」
畳み掛けるように攻められ、体勢が崩れている以上は攻勢に出れず、爆豪は受け流すのが精いっぱい。
なんとしてもここで蹴りを付けようと拳を振るい続ける切島は違和感を覚える。
爆破の威力が弱まった様な気がした。
眼で見てわかるほどに弱くなったとかではなく、本当に僅か過ぎて気のせいかと思う程度。
だけどそれを裏付けるように一瞬だけ表情が曇った。
それが何を意味しているのかは切島は理解し得なかった。
放課後の特訓の成果や意思による支えによって耐え凌いでいた硬化が緩んだのだ。
身体に響き渡る爆破の痛みと衝撃に苦悶の表情を浮かべる。
もう限界が来たのかと噛み締めながらなんとか硬化を維持しようと残った体力を絞り切るように力を籠める。
「ガチガチに気張り続けてんだろ。そりゃあ綻ぶわな」
「くっ…」
爆豪も爆豪で先ほど感じたモノが偽りとでも示すが如くに爆破の威力を上げて猛攻を続け、耐え切れなくなった硬化は綻んでもろにダメージが入る。
痛み意識が持っていかれ、無意識に綻びが全身に広がっていく。
「―――死ねぇえええ!!」
二度三度と無防備になったところに畳み掛けられ、止めの一撃が強要限界を超えて切島の意識が刈り取る。
大の字でステージに倒れ込む切島の様子から、戦闘不能と判断したミッドナイトが爆豪が三回戦進出を告げるが、当の爆豪は掌を睨んでから観客席で眺めていた扇動に目を向ける。
爆豪と切島の試合を見届けた扇動 無一は観客席からステージへと向かう。
次の試合に参加する都合上、控室で待っていた方が良かったのかも知れないが、イズク同様に爆豪の試合を見逃す事はしたくなかったので、終わりまでは観客席に居座ったのだ。
とは言っても爆豪の爆破の影響で大なり小なりステージが荒れたので修復の時間が入るのでそこまで急ぐ必要もないが。
ステージに向かいながら携帯を弄って緑谷に撮影しておいた爆豪と切島の試合を送信する。
轟との試合を終えた緑谷は保健室に運ばれてから戻れていない。
これは試合で負った怪我が酷過ぎた為である。
左指の自損に次ぐ自損に最後の衝撃で場外の壁に受け身も取れずに激突した事、そして
一時個性のコントロールを成した緑谷だったが、最後の一撃を放つときは自ら全力を振るおうとした結果、跳ねた両足と振るった右腕が限界を超えたのだ。
おかげで心配した麗日に蛙吹、飯田に峰田が見舞いに行こうと駆けて行くほど。
それにしてもと扇動は試合前だというのに浮ついた心のまま緑谷の試合を思い出す。
単に勝敗の話とかではなくて、緑谷が轟を救おうとした事…。
一般的に
無論ヴィラン事件が多発する現代では戦闘能力が重視される現場は多い。
しかし必須ではあるが
だからというべきか緑谷に心の奥底から魅せられた。
父親に対する怨嗟で覆われていた轟の心を…感情を揺れ動かした様は震えたよ
これだからイズクは凄いと心の底から憧れ、尊敬し………
するとそこに居たのは浮かない表情の轟であった。
緑谷との試合で
「どうした轟?」
「さっきクソ親父と会った…」
そう口にすると轟は頭を下げた。
察した扇動は小さく「あぁ…」とだけ声を漏らした。
エンデヴァーと会ったという事は俺に言った内容を聞いたのだろう。
轟に話して変に気を使われるのも、試合前に雑念を与えるのもどうかなと言わないで置いたというのに…。
エンデヴァーに対しため息をついた扇動に轟は言葉を続ける。
「悪い。面倒をかけた」
「構わねぇよ。それ込みで手ぇ貸したんだから」
そうだ。
緑谷がこじ開けたんだ。
俺では救えなくともせめて助けに成ろう。
是が非でもエンデヴァーの件をクリアしなければ。
エンデヴァーで思い出したのだが、先の試合で轟が使用した炎の個性は今後どうするつもりなのだろうか?
「炎は使っていくつもりなのか?」
「……使う。ヒーローに成る為に形振り構わっていられねぇ」
問いかけに少しばかり沈黙を挟んだ轟は、眼には複雑な感情を浮かべつつもしっかりと左手を―――炎の個性を捉えながら答えた。
「そっか」とだけ続け、扇動はステージに向かって歩き始める。
轟の瞳に宿った焔に今後が楽しみだなと微笑み、自らの試合に挑むべく頬を軽く叩いて気合を入れ直す。