無個性オリ主が共にヒーロー目指す!   作:チェリオ

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第34話 Bブロック二回戦

 切島と爆豪の試合を終えて多少なりともステージを修復すべく一時中断を挟む。

 毎年雄英体育祭をテレビ観戦してきたが、当事者や関係者として間近で観戦するのでは訳が違う。

 目の前で行われた大規模で白熱する試合の数々。

 さらにそれを行うのが自身のクラスメイトであるというのが余計に感情を大きく揺らしてくれる。

 

 「惜しかったね切島君!」

 「行けると思ったんだけどな」

 

 先ほど爆豪との試合を終えた切島は軽い手当てだけで観客席に戻って来ていた。

 負けた事は悔しいが、それでも全力を出して負けたのだから寧ろ清々しさすらある。

 それより彼らは目前に迫る次の試合に注視していた。

 

 「―――ッ、扇動君の試合は!?」

 

 緑谷を見舞いに行っていた飯田が観客席に戻ってくるとそう問いかけた。

 様子を見るに相当に急いで来たらしい。

 

 「まだだよ。今ステージの修復中」

 「そうか。それは良かった」

 「…って、飯田はその前にヤオモモとだろ」

 「いや、そうなんだが…」

 

 上鳴に指摘されて申し訳なさそうに八百万へと視線を向ける。

 決して飯田が侮っている訳でもないのだが、一回戦目でもそうだがどんな手段を講じて来るか分からない相手…。

 これから戦う可能性があるというのなら警戒せずにいられない。

 特に飯田の戦闘スタイルは速度を活かした“近接戦闘”。

 芦戸と違って同じ土俵で戦う事になるのだから尚更である。

 だがそれは自身の相手である八百万は勿論、これから扇動の対戦相手である塩崎 茨に対しても失礼ではあった。

 

 「あれ?あれれ?もう勝った気でいるのかい?余裕綽々だね。けど相手はあの塩崎だよ!そこの(上鳴)を瞬殺した彼女だよ!もう忘れちゃったのかなぁ?AHAHAHAHAHA――ブウェ!?」

 

 …A組と仕切りを挟んだ隣はB組に用意された席となっている。

 その仕切りにへばりついて顔を覗かせて、ここぞとばかりに煽る物間 寧人は背後より衝撃を受けて落ちて行った。

 ひょっこりと次に顔を出したのは拳藤 一佳で「度々ごめんね」とだけ言って引っ込む。

 上鳴の試合後にも同様の光景を視ただけにデジャブを感じる。

 

 「飯田さん、私は気にしてませんわ。まずは自身の試合が第一ですが、同時に扇動さんに注視せぬ訳にもいきませんもの」

 

 二度目ゆえにそれほど気にせず、八百万が先ほど向けられた視線に対して口にする。

 飯田とまた異なるが、八百万は放課後の特訓で組手を行って全戦全敗。

 自身が負ける気はないとなると想定せざる得ない相手を無視は出来ず、勝つために策を巡らすにも情報が多く欲しい所である。

 

 「おー、二人共バチバチだね!」

 「勿論ですわ!狙うは優勝です」

 「それは俺だって同じさ。ここまで来たらNo.1で報告しないと」

 

 そう口にして飯田は兄である“インゲニウム”を思い浮かべる。

 自身の憧れのヒーロー。

 報告しようと電話を掛けたのだが丁度仕事中だったらしい。

 寧ろそれで良かったと思う。

 優勝を飾って堂々と報告しよう。

 

 「お、扇動が出て来たぞ!」

 

 切島の一言にステージに注目すると、肩を軽く回しながら扇動 無一が入場しているところであった。

 誰もがステージに視線を向けている中、上鳴は急に立ち上がって大声を上げる。

 

 「扇動!俺の仇を取ってくれ!!」

 「…上鳴、アンタさぁ…」

 

 トーナメント一回戦目にて扇動に敗北した芦戸に“仇は取ってやる”と口にした上鳴の発言に、耳郎を始めとした面々は呆れた視線を向けるのであった…。

 

 

 

 

 

 

 オールマイトこと八木 俊典は震えていた。

 

 緑谷少年が試合を終えた後、彼が運ばれた保健室へと向かった。

 あの大怪我を心配しての事もあって急ぎ駆け付けると、想像以上に酷い怪我に言葉を失った。

 リカバリーガールより彼を焚きつけ、このような事態になった事にやり過ぎだとお叱りを受けて、責任を実感するも大怪我するまで無茶をした彼自身を怒る事は出来なかった。

 無論注意は行ったが、それ以上にヒーローの本質として間違った事はしていなかったと思っているからである。

 ただし、注意はしたが…。

 

 今、震えているのはその事ではない。

 確かに轟少年を救おうとするあの試合は振るえたが、現在感じているのは興奮ではなく畏怖…。

 

 保健室から観客席に戻って来た時、見覚えのある人物を見つけたのだ。

 雄英高校在学中は大変お世話になった(・・・・・・・・・)お方で、見たからには挨拶しないという選択肢は存在しなかった。

 …ただ当時の教え(・・)を思い返すと震えが止まらないのだ。

 ガタガタと携帯電話のバイブ機能以上に震えながら、その恩師である“グラントリノ”に近づく。

 

 「お、お久しぶりですグラントリノ」

 「おう、俊典か」

 

 空いていた最後尾の席にて高価そうなビデオカメラを三脚に乗せて撮影し、眺めていたグラントリノは声をかけたオールマイトに視線を向け、返しながらも空いていた隣の席を叩いて座れと示す。

 失礼しますと口にしながら隣に腰かける。

 挨拶しに来たのは良いのだが、何を話そうか戸惑うオールマイトより先にグラントリノが口を開く。

 

 「あの緑谷…だったか?後継者(・・・)

 「――ッ!?何故それを」

 「分からいでか。個性もだがあの無茶の仕方はお前さんにそっくりだ」

 

 この一言には恥ずかしさもありながらも申し訳なさで頭が下がる。

 グラントリノはオールマイトの正体及びに個性“ワン・フォー・オール”を知る数少ない人物。

 会ってはいなかったが手紙で知らせてはいたとは言え、今日の今日までちゃんとした話をせずに来たのは自分の落ち度だろう。

 頭を下げたところでふと思った。

 今日訪れたのは自分が後継に選んだ緑谷少年がどのような人物なのかを見に来たのではないか…と。

 

 「まさか見極めに来られたのですか?」

 「流拳にクソガキの撮影を頼まれてな」

 

 違う用件だと知って胸を撫でおろす。

 もし緑谷少年の様子を見て想う所があったのならば、自身の育成方針を問い質される事だろう。

 嫌でもあの血反吐を吐きそうな指導の数々が脳裏を過る。

 安堵すると今度はグラントリノが口にした“クソガキ”と言うのが気になるところ。

 視線を追って行くとステージに上がった扇動 無一に辿り着く。

 

 「扇動少年の事ですか…」

 

 グラントリノと扇動 流拳が自分を通して接点を持っている事は知ってはいる。

 なら流拳の孫である無一とも接点があり、見に来る事だってあるあろう。

 

 一回戦を突破した扇動 無一の対戦相手は塩崎 茨…。

 上鳴 電気の“放電”を意図も簡単に防ぎ、即座にツル()で捕縛して勝利した。

 勿論ながらその試合も観戦していたオールマイトは、無一が不利である事に表情を歪ます。

 どれだけ鍛えようと無個性では強化系のようなパワーを持つことは無く、あのツルによる拘束を破る方法はない…。

 サポートアイテム込みであるなら何かしら考えただろうが、ルールに縛られる関係上不利過ぎる。

 不安そうな表情をしていたのを目撃したグラントリノは鼻で笑った。

 

 「クソガキの心配か。いらんだろう」

 「しかし彼は…」

 「無個性でヒーローを成るってのは端からハンデを背負ってやがる」

 

 その一言に大きく頷く。

 緑谷 出久と初めて出会った際に自身も諫めようとした。

 言わんとしている事は理解している。

 自身もワン・フォー・オールを受け継ぐ前は無個性(・・・)だったのだから…。

 

 「だがな俊典。あのクソガキはそのハンデを理解して、それを補うべく行動し続けて来たんだ」

 「努力は報われる…という事ですか」

 「違うな。絶対に(・・・)努力すれば報われるなんて事はない。ただアイツが立っている土俵は他と異なっている」

 

 ステージ上で塩崎と対峙する無一は簡単に身体を解ながらスタート合図をただ待つ。

 彼が以前より身体を鍛えているのは(・・・・・・・・・・)知っている。

 けれども鍛えていたのは扇動だけではない。

 

 身体を鍛える点で言えばその通りである。

 緑谷や切島を含んだ何人かは入学前から身体が鍛えており、その点だけ(・・・)言えば同じ土俵ではある。

 しかしグラントリノが言う土俵はそこではない。

 

 「儂が知っているだけでもプッシーキャッツの“虎”、“ガンヘッド”、“クラスト”、“デステゴロ”、“エッジショット”などと模擬戦を行った上で教えを乞うたと聞くぞ」

 「名立たるヒーロー達に!?」

 「無論儂も模擬戦を幾度もしてやったし鍛えてもやった」

 「あの指導をなさったんですか…」

 

 青褪めるオールマイトに険しい顔を向けるグラントリノは何か言おうとして止め、再びステージに目をやりながら続けた。

 

 「儂の速度に対応し、最速の“ホークス”の動きを目で追い、対多数戦闘は“ピクシーボブ”に鍛えられ、捕縛系の個性において随一と言える“ベストジーニスト”に模擬戦で幾度も苦汁をなめ続けさせられ、それでも勝利を掴もうと研鑽を続けたクソガキが負けると思うか?」

 「――ッ!?それは…」 

 『ではではお待ちかね。Bブロック第二回戦扇動バァアアサス塩崎、スタァアアアアアアト!!』

 

 …違い過ぎる。

 ただ身体を鍛えるのとは訳が違う。

 扇動はオールマイトが先代やグラントリノから受けた指導クラスの事柄を、中学生前より自発的に受けているのだから…。

 

 開始の合図と同時に走り出した扇動は、伸びて来るツルを躱しながら一か所に留まってツルに包囲されないように動き続ける。

 動く様は身体の機能を徒然に駆使したパルクール。

 さらに周囲の状況に相手の状況を把握してフェイントを入れたり、伸ばされたツルを利用して死角として使ったりして、捕縛どころか掴まれる事無く走り抜ける。

 

 言われてみれば確かにそうだ。

 塩崎 茨の複数のツルは脅威である。

 しかしホークスやグラントリノに比べて動きは遅く、ピクシーボブの個性“土流”で生み出される土くれの魔獣の数より少なく、ベストジーニストの個性“ファイバーマスター”で操る繊維より太くて扱いは未熟。

 彼はハンデを背負っていても同学年の誰よりも早くにスタートしており、プロヒーローの実力と土俵を肌身で体験している。

 

 『アクロバティック!ヘイヘイ、イレイザー!お前んとこのクラスはあんなの(パルクール)も教えてんのか?』

 『知らん。アイツに限っては自主的にだろう』

 

 一向に捉えられない扇動が距離を詰めてくる様を真正面より体感している塩崎の焦りは相当であっただろう。

 ゆえにツルで編んだ壁を創り出して精神的にも身を護ろうとしながら、突き進む扇動の脚を僅かでも止めようとした。

 ここで足を止めればそこを包囲するように捕縛すれば良い。

 

 しかし壁を作るという事は自ら死角を生み出すという事。

 扇動 無一がそれを利用しない筈はなかった。

 壁が出現すると相手の視野が遮られている事を把握し、跳び出すように右側に靴を蹴り飛ばした。

 突如として壁から跳び出したモノに反応を示すも、サイズが小さかった事に即座に気付いて囮と理解する。

 

 その考えは的を射ていた。

 靴が跳び出した反対側よりナニカが跳び出したのだ。

 そちらが本命かとツルを伸ばして呆気なく捕縛した。

 

 …的は射ていたのだ。

 ただ扇動の囮は右側に蹴った靴だけではなく、左側に放ったジャージも含まれている。

 そして本命たる無一は最初に靴を蹴飛ばした右側より塩崎に突っ込む。

 

 視界の端に映る無一に気付いて慌ててツルを伸ばすも、距離的にも慌てて精確性を欠いたツルでは捉えきれない。

 もう躱す動作すらせずに愚直にも突き進み、向けられたツルの棘が頬や腕を掠めて血を滲ませる。

 傷つく事に表情の一つも変える事無く近づいた扇動は、速度を緩めることなく身体を逸らすようにして構える。

 

 『塩崎の縦横無尽のツルを突破ああああぁ!!――――って、容赦ねぇええなオイ!?』

 

 プレゼント・マイクが驚くのも無理はないだろう。

 観客席の誰もが扇動があのツルを突破する様に息を呑み、興奮のあまりに声を挙げる者すらいた。

 だが、次の瞬間には唖然として沈黙する。

 

 速度を一切緩めることなく突っ込み、至近距離で捻った身体をバネのようにしならせ、突き出された右の掌底(スピアタックル)は塩崎の腹部に食い込んだ。

 くの字に身体が曲がった塩崎はその場に倒れるも何とかよろよろと立ち上がったが、主審であるミッドナイトにお腹を押さえたまま青ざめた顔を左右に振って戦闘不能をアピールする。

 その間も相手の様子を窺いながら即座に追撃しようかと見定めている様子には油断…いや、容赦がない…。

 

 「えぐいな扇動少年…」

 「あの対戦相手(塩崎)には悪いが相手が悪過ぎる」

 「…えぇ、二重の意味で…」

 『せ、扇動君、準決勝進出!』

 

 ミッドナイトからの勝利宣言を受けて、扇動は二言三事塩崎に声をかけてから肩を貸し、二人してステージを降りて行った。

 その様子を眺めて乾いた笑みを浮かべるオールマイトに、グラントリノは少しばかり真面目な様子で口を開く。

 

 「俊典。後継の事もあるが無一(・・)の事もよく見てやってくれ」

 「勿論ですとも。けど扇動少年は大丈夫ですよ。あの年でしっかりしてますし、何より私より指導している事があって大変助かるぐらいですし」

 

 自身の不甲斐なさではあるが実際その通りであるから誤魔化しようもない。

 緑谷の個性コントロールの訓練にヒーロー基礎学では相澤より手本や手伝いとして声をかけられる事の多い生徒。

 助けが居る時には全力で助けるも、今のところはそう言ったところが全くもって見受けられない。

 無論プロとして教える事は多いが、彼だけ特別に前倒しで教えるのは贔屓に当たってしまう。

 などと思っていたオールマイトにグラントリノの表情は一向に変えずに続ける。

 

 「アイツは歳に似合わず賢し過ぎる。子供のくせして中身は大人と変わらん。だから…なのか。奴は同年代に比べて周りを見る事にかけては優れているが、自身を過少に評価し過ぎるところがある。自分を犠牲にする事も厭わない程にな…」

 「自己犠牲の精神…という事でしょうか?」

 「いや、違うな。アイツは秤にかけて躊躇いなく切り捨てるんだ」

 

 それを聞いて思い当たる節があった。

 ヴィラン襲撃時、自身は脳無に殴られそうになった扇動を助けた。

 あの時は彼が(・・)襲われていると思っていたが実際はそうではなかった。

 殴りかかられた緑谷と轟を助けるべく自分を犠牲にしようとした…。

 

 後の報告を受けてそう判断していた。

 だが、グラントリノの一言で自分が考え違いをしていたのかと疑問を浮かべる。

 何があったのかは計り知れないが緑谷少年に強い想いを抱き、あの状況で有効な個性を持っている轟少年。

 誰かを護る為に身を挺したのではなく、それらを鑑みて自身を切り捨てた…。

 そうも考えられる。

 これが他の生徒だったら否定してかも知れないが、あの扇動少年だからこそ即座にそう判断して行動に移したとしてもおかしくはない。

 

 扇動の危なげな一面を認識したオールマイトは深く頷いた…。

 

 

 

 

 

 

 八百万 百は意気揚々と自身の二回戦目に挑み、三分も経たぬ間に意気消沈してステージを降りた…。

 試合内容を思い返して悔しくて噛み締める。

 放課後の特訓で色々と成長出来て、それを活かして一回戦目を勝利した事により自信を持って挑んだ二回戦目。

 まずは防御を固めるべく盾を創造した瞬間こそ悪手だったのだろう…。

 対戦相手である飯田は騎馬戦で見せた“レシプロバースト”で通常時以上の加速で接近し、加速のついた蹴り技での攻撃ではなく盾を掴んだのだ。

 受け流す術こそ学んだものの、掴まれた際の対処法は学んでいなかった…。

 後は速度にものを言わせた押し出しによって場外へと運ばれてしまい、成す術もなく呆気ない幕切れとなってしまった。

 

 自分でも解っている。

 この結果を招いたのは自分の怠慢だと。

 最初は防御に徹して創造までの時間を稼ぐ事をなんら疑う事無く、まるでそれが当然の如くに実行してしまった。

 自身の不甲斐なさに呆れ果ててしまう。

 

 俯きながら通路からステージを繋ぐ出入り口へと向かい、膨らんだ紙袋を手にしながら試合を眺めていたであろう扇動 無一と目が合った。

 ゆっくりとした動作で観客席から見えない程度に入ると力なく顔を向ける。

 

 「扇動さん…観ていらっしゃったんですのね…」

 「当然だろ。出来れば観客席から全体的に観たかったが、準決勝まで然程時間がなかったからな」

 「…申し訳ありませんでした。指導して下さったというのに…」

 

 個々人のメニュー作りから指導、組手の相手など色々と尽くしてくれたというのに、こんな怠惰な結果に終わって本当に申し訳なくて仕方がない。

 頭を下げて謝罪を口にしたところ、扇動は眉を潜めてポカーンと口を開けていた。

 

 「んー…それは違うな。同じ学生ながら偉そうに指導しといて役に立たなかったんだ。お前の指導のせいで(・・・・・・・・・)…と言っても責めても良いんだぞ」

 「なっ!?そんな事はしませんわ!」

 「指導役ってのはそういうもんだろ?指導したからには指導した責任が伴う。お嬢が失敗したのならそれは俺の責任だろう」

 「違います!活かせなかったのは私の方で…」

 「一回戦目は見事に活かしてたろに…。こういう場合の対処を授けなかった俺の落ち度だ―――って、存外に頑固だなお嬢は」

 「扇動さんこそ頑固者です!」

 

 先ほどの沈んでいた様子は何処に行ったのやら、お互いに責任の取り合い(・・・・)をしていた八百万と扇動は少しの間を置き、二人して堪え切れずに笑い出した。

 

 「分かった分かった。どっちも悪かったって事で謝罪は無しだ」

 「そういう事にしますわ…」

 「今回の件を糧にさらなる成長に期待するぞ?」

 「勿論です……ちなみになのですけど扇動さんでしたらどうしました?」

 「それはお嬢としてか?」

 「はい」

 

 答えを知りたい…という訳でもない。

 これはちょっとした興味であった。

 彼ならばどのような手段を講じたのか。

 そこにこそ自分との差異があるのではないかと。

 少しばかり悩む素振りを見せて扇動は早々に答える。

 

 「創造を警戒して速攻を仕掛けてくるのは明白だからな。俺なら開幕水素を創造して周囲の濃度を上げるかな」

 「まさか水素爆発起こす気ですの!?」

 「飯田のエンジンは火を噴いていたし、良い火種になるだろう」

 「自身も巻き込まれますけど…」

 「だけど心理的に軽々に突っ込めなくなるだろ?」

 「それは…そうでしょうけど…」

 

 少し考え込んでしまう。

 有用性は認めてもそんな危険な手段に自分が出れるかどうか。

 悩む八百万に扇動は持っていたシュガードーナツ入りの紙袋を放り、突然の事に慌てながらなんとか受けとる。

 

 「検討は後にしよう。とりあえずそれ食って脂質と糖分摂っとけ。消費した分を回復するにも思案するにも必要だろ」

 「………遠慮なく頂きますわ…」

 

 紙袋より一つ手に取ってカプリと齧る。

 ドーナツと一緒に広がる甘味がスッと身体に沁みて行く。

 

 「二人して何してんだ?」

 「轟さん!?」

 

 声をかけられ振り返ると轟 焦凍が不思議そうに首を傾げていた。

 何故ここにと疑問が過るも、次は轟と爆豪の試合なのだからここを通る事に何一つ可笑しなことはない。

 寧ろステージ前の通路で話し込んでいる自分達の方がおかしいのだ。

 

 「ちょっとした反省会だ。気にするな」

 「そうか」

 

 短く言葉を交わすだけで轟はステージへと向かって歩き出し、扇動は応援する事無くただ見送る。

 準決勝に出場する扇動はスムーズに進めば時間的余裕はあまりない為、観客席に戻る様子は一切ない。

 八百万は戻る事も出来たが、壁に凭れながら観戦しようとする扇動に習って、シュガードーナツを齧りながらここで準決勝の行く末を眺めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ターボヒーロー“インゲニウム”。

 東京の事務所に65人ものサイドキックを雇い、現場に少しでも早く駆け付け多くの人々を安心させれるように“速さ”に重きを置いているプロヒーロー。

 これまで多く事件や災害にて多くの人々を救い、弟である雄英高校一年A組の飯田 天哉が尊敬し目指している人物。

 

 そのインゲニウムはあるヴィランを捜索していた。

 ヒーローばかりを狙って30名以上が被害を受け、半数以上は再起不能な大怪我を負わされ、残りは無惨にも殺害するというヒーロー殺し“ステイン”。

 堂々と目立った犯行ではなく大概が一対一の状況にて襲われるケースが多く、一か所に留まらない事から発見する事がまず困難な相手だ。

 しかしながら一度事件を起こすとその地域で犯行を繰り返す為、見つけるだけなら意外と容易くはある。

 相手の狙いがヒーローであるからして有名なヒーロー、もしくはコスチュームからしてヒーローらしき者が事件が発覚した地域を巡回すれば自ずと向こうから出向いて来るだろう。

 

 保須市にて地元の警察と連絡を取りつつステイン捜索に当たっていたインゲニウムは、日の光が届きにくい裏路地にて地に伏していた。

 純白のコスチュームは所々切り裂かれ、鮮血が周囲に飛び散っていた…。

 身動きが取れず、うめき声しか漏らせないインゲニウムを見下ろす者が居た。

 

 首と目元を覆うように赤と白の布が巻かれ、結び目より垂れた余りが背後でバサバサと揺らぎ、ナイフや日本刀と言った刃物を複数本装備し、刺々しいブーツで音も立てずに歩く。

 異様な程の雰囲気を纏う彼は巻いた布より覗く鋭い眼光を向け、忌々しそうにステインはため息を漏らした。

 

 「………贋物(・・)か…」

 

 それだけ呟くとガタガタに刃こぼれした日本刀が振り上げられる。

 彼は強い憎しみと悲しみを抱く。

 またしても本物ではなかった(・・・・・・・・)………と。

 

 「―――ッ!?」

 

 止めを刺そうと振り下ろそうとする最中、背後より殺気(・・)を感じてその場から飛び退く。

 跳びながら自身が居た位置へと視線を向けると、鋭すぎる回し蹴りが通過する所だった。

 もう一秒でも反応が遅れていたらアレをまともに喰らっていた…。

 一瞬ひやりとしながらも新手の登場に素早く体制を整える。

 

 「ようやく会えた訳じゃが………全く血気盛んじゃな。ヒーロー殺し」

 「はぁ…邪魔が入った…」

 

 相手は高齢の男性。

 顔には見覚えがある様な気はするも、ヒーローかどうかは解らない。

 寧ろ厳つ過ぎる顔からヴィランではと疑いも出る。

 例えヴィランであっても粛清対象(・・・・)である事には変わりはないが…。

 

 「ヒーロー……いや、ヴィラン…か?」

 「誰がヴィランか!!打ちのめすぞ小僧(・・)!!」

 「そうかヒーローか…」

 

 贋者(粛清対象)本物(・・)か見極める。

 得物やサポートアイテムの類は見受けられない事、また服の上からでも解るほど鍛え上げられている身体から、格闘戦メインの個性持ちであると断定する。

 刀を構えたステインは老人へと突っ込んだ。

 ステインの恐ろしいところは個性よりもその高い身体能力にある。

 戦闘では個性も使用するが使用する為の条件を揃えるまでは身体能力だけでプロヒーロー達を圧倒してきたのだから。

 フェイントを入れながら急接近して、老人へと躊躇なく刀を振るう。

 

 ステインの瞳に世界がスローモーションで動いているかのようにゆっくりと映る。

 下がる事も出来なかった老人は慌てる様子もなく、刀から身体を守るかのように右手を向けた。

 例え初撃で致命傷にならずとも、血が僅かに出る程度の掠り傷さえ与えれればいい。

 刀の刃が老人の右手に触れた…。

 その瞬間不可解な事が起きた。

 

 斬ったと思った矢先、世界がグルンと回ったのだ(・・・・・・・・・・・・)

 

 先ほどまで薄っすらと見えていた空は下となり、薄汚れた地面は天井に変わっている。

 一瞬理解が遅れるも即座に判断を下す。

 当たり前だが天井と地面が急に入れ替わる事など無い。

 上下が入れ替わるように自身が回されたのだ(・・・・・・)

 

 咄嗟に地面に手を付き、跳ねるようにして距離を取る。

 今度は油断せずに睨みながら相手を観察する。

 焦りどころか冷や汗一つ見えず涼しい顔でこちらを眺めている。

 そこには怒りに憎しみと言った感情は一切なく、寧ろ感心しているような印象すら受ける。

 

 「やはり老いには勝てんの。たまにはしっかりと動かさんと身体が訛って仕方が―――いや、相手の動きが良かったと賞賛すべきか」

 

 素直に褒めている老人は頷きながら笑みを零すも、ステインは微塵も予断を許さぬ状況に冷や汗を垂らす。

 どんな個性を使用して、何をされたのかは皆目見当が付かないが、確実に言える事は一つだけある。

 ヒーローを名乗ったこの老人は、確実に俺を潰そうとした(・・・・・・)

 もしも手を付けなければ勢いと速度から頭が割れていた可能性が高い。

 相手を無力化する為には手段は択ばない種類の人間…。

 

 「お前…本当にヒーローか?」

 「何度も失礼な。これでも孫と地元に愛される現役のヒーローじゃぞ」

 

 ちらりと刀身を見ても血は付着しておらず、老人の手も怪我をした様子はない。

 手で触れながら斬れない相手…。

 かなり強い相手…いや、自分以上の強者と判断したステインは忌々しそうに睨む。

 

 こいつは贋者(粛清対象)だ。

 薄っすらとだが言動や雰囲気から本物(・・)ではないと嗅ぎとった。

 贋物(・・)相手にやられるなど絶対に在ってはならない。

 倒して良いのは本物(・・)だけだ。

 

 「お前は粛清対象だ!」 

 「今となっては全国区的には認知度は低いが、扇動 流拳と言う名がある。お前なぞと呼ぶな小僧」

 

 ステインはより素早く駆け、流拳に切り付ける。

 狙うは致命傷ではない。

 掠るだけで良いのだ。

 

 個性“凝固”。

 相手の血を摂取する事で相手の自由を奪う。

 それこそがヒーロー殺しステインの個性。

 如何に強靭なヒーローと言えども動けなければ何しようものか。

 ただ問題としては血を摂取しないといけないという発動条件がシビアである事。

 

 斬りかかったステインの攻撃を流し、流拳の拳が顔面を捉えた。

 重く鋭い一撃によって吹っ飛ばされる。

 が、痛みはあってもその程度の攻撃でステインの意思は止められない。

 倒れた瞬間には転がってでも立ち上がって突っ込む。

 ステインの行動の速さにも驚いたが、それ以上に流拳は手応えの無さに疑問符を浮かべていた。

 

 人間には急所以外にも弱い部分はある。

 元々細い骨は折れやすく、鍛えにくい部位は護りは弱く、繊細な器官は壊し易い。

 そういった点で顔面を殴り飛ばした。

 顔の中で最も突き出した部位である鼻は骨が細くて折り易く、鍛え辛いので守りは弱く痛みも大きい。

 さらに血管自体が繊細なのでちょっとした衝撃で血が噴き出る。

 しかしながら鼻血を噴き出すどころか感触すら感じなかった。

 文字通り出鼻を挫こうとした訳だが、まさかの事態に動揺が隠せない。

 

 襲い掛かるステインの猛攻は激しさを増す。

 右手で刀を振るって、隙あれば左手のナイフで突いてくる。

 流拳はそれらを全て流すか捌いており、隙あらば打撃を見舞っていく。

 何発も叩き込むが立ち向かってくる様に思わず笑みが零れる(・・・・・・)

 

 一応急所は避けている。

 年齢を重ねた分だけ老いた事でパワーダウンしているし、ここ近年は現状意地ばかりで向上心を置き去りにしていたのもあってより衰えてはいた。

 それでも普通なら気を失ってもおかしくない程度にはダメージを与えている。

 

 確かに動きから見てかなり鍛え上げられているが、これは肉体面より精神面によるブースト(・・・・)

 意思の強さによって動いている。

 

 こやつがヴィランでなくこちら側であったなら…。

 そう思わずにはいられなかった。

 

 ほんの僅かながら流拳の動きが鈍った。

 すかさずステインは刀を振るい、ナイフを二本ほど指と指とで挟んで投擲する。

 狙うは流拳ではなく転がったままの粛清対象であるインゲニウム。

 刀を避けたばかりの流拳では防ぎようはない。

 

 「―――…ほぅ」

 

 ステインは小さく声を漏らしてしまった。

 眼前に(ステイン)がいるというのに己を鑑みる事無く、仰け反った状態ながら無理に足を動かして、インゲニウムに向かって行ったナイフを見事に防いだのだ。

 ナイフ二本は流拳が出した左脹脛に深々と突き刺さる。

 痛みで苦悶の表情に歪んだ一瞬、振り切っていた刀の刃を返して続けて振るう。

 後ろに倒れ込んで避けようとするが、刃は頬を掠めて刃先には僅かながら血が付着する。

 

 それをステインはぺろりと嘗めた。

 

 「―――ッ、これは…」

 

 ガクンと流拳は膝をついた。

 身体が急にいう事を聞かずに動く事を否定する。

 個性によって動きを封じた事で、ステインは粛清しようと高らかに刀を振り上げる。

 

 「はぁ…終わりだ贋者…」

 「舐ぁめるなよ小僧!!」

 「―――カハッ!?」

 

 あり得ない。

 凝固の個性には弱点も存在する。

 自身と同じB型なら効果時間は長いが逆にO型は短い。

 だとしてもまだ三十秒も経っておらず、動けるなどまずあり得ない。

 しかしながら流拳は一歩踏み込み、次の瞬間には肉薄されていた。

 

 一体何が起こったのか解らない。

 否、考える間も与えられなかった。

 ワープしたかのように眼前に迫ったかと思えば、突き出された掌底が腹部に食い込んでいる。

 体内の空気が圧によって口から吐き出され、勢いに耐えれず後方へ吹っ飛ばされる。

 転がりながらなんとか立ち上がるもダメージが大き過ぎて立つ事すらままならない。

 刀を杖代わりにして無理にでも立ち続け対峙するステイン。

 だが流拳の眼には最早ステインは映ってなぞおらなんだ。

 

 倒れたままのインゲニウムを抱えて表通りへと歩き始めたのだ。

 

 「…何処へ行く」

 「本来なら後顧の憂いを断つのが一番なんじゃが、歩くのがやっとではどうにもならん。そもそもヒーローが人命を優先せんでどうするか!」

 

 ステインは不用意に背中を晒す流拳を見つめる。

 凝固の個性を受けた中で動けたのは個性が関係しているとは予測する。

 だがそれがどんな個性なのかは解らず仕舞い。

 特定出来ない個性に自身の状況を鑑みればここは引くしかないと判断し、路地裏の暗がりにステインは溶け込むように消えて行った。

 

 気配で察した流拳は全身を力ませながら個性をコントロールし続けて何とか歩みを進める。

 …ただ胸中は孫との約束を果たせなかった上にこの為体に半ば自身に失望していた。

 帰ったらこの訛った身体の錆び落としから始めなければ。

 

 「その前に病院じゃな」

 

 四分ほどかけて表通りに出た流拳は、O型であったこともあって動けるようになり、救急車を呼ぶより走った方が早いと判断して街中を個性を使用して跳んで病院へと急ぐのであった。

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