無個性オリ主が共にヒーロー目指す!   作:チェリオ

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第35話 トーナメント準決勝

 トーナメントも各二回戦が終わってベスト4は出揃った。

 準決勝となると試合開始前から会場は熱が籠り始める。

 そんな中で轟 焦凍は悩んでいた…。

 

 悩む内容は“炎”の個性についてである。

 緑谷戦では緑谷の熱に感化されて、アイツ(エンデヴァー)や過去を一時とは言え忘れ、自分が夢を追う為にだけに振舞った。

 躊躇いは無かった。

 成りてぇもんを見据えたのなら使うべきなのだろう。

 しかしながら熱から冷めてしまった今、全力で使えるのかと問われれば沈黙するしかない。

 使おうと思うだけで脳裏に過るアイツと過去…。

 ギュッと左手を握り、ため息交じりに睨みつける。

 

 『ヒーロー科一年A組実力者同士の対決だ!轟 焦凍対爆豪 勝己!―――START!!』

 

 心境が定まり決まらないまま、プレゼント・マイクによって開始される。

 決まらずとしても始まったのならやるべき事は一つ。

 相手――爆豪の次の手を警戒しつつ、開幕速攻で氷結を走らせる。

 規模も最大ではないもののかなりの大きさで避けるのは難しい。

 

 …なら、砕きゃあ良い(・・・・・・)

 

 爆豪は生み出した氷結…いや、氷塊で完全に姿が見えない。

 警戒を解かずに見つめていると爆音が連続で響き渡り、真ん中を爆破のラッシュで砕き進んで姿を現して来た。

 

 『いきなりかましたぁ!速攻で決着かぁ…って、モグラかよ!爆豪、掘り進んで突破ぁ!!』

 

 ヴィラン襲撃時や授業など爆豪の高い実力を発揮。

 性格は荒々しくも冷静に相手を分析して弱点を把握して攻める思考能力。

 そしてあの扇動が気にかけ背中を預けた相手…。

 

 氷塊を突破した事に対して驚く事は少なく、逆にやはりかと納得してしまう。

 出て来た爆豪に速攻で氷結を放つも爆破で飛翔して容易に避けられ、炎を放とうとするのを躊躇ってしまった。

 そこを一気に怒気を纏った爆豪が突っ込んで来た。

 

 「―――ッ、嘗めてんのか!!」

 

 躊躇ったのを見抜かれて左側を掴まれ、勢いを付けて投げ飛ばされてしまう。

 着地と同時に足より連続で氷結を生み出し、後ろに跡を残しながらステージをぐるりと周るように移動して距離を取る。

 

 「俺が獲るのは完膚なきまでの一位なんだよ!デクん時以上でねぇと意味がねぇんだよ!全力で戦う気がねぇなら―――俺の前に立つんじゃあねぇ!!」

 

 キレている。

 性格を考えるとそうなるであろうし、アイツが言っている事は正しいのだろう。

 全力を出さずに俺は…。

 飛んで来る爆豪の猛攻を氷結を用いた防御と移動で凌ぐ。

 

 今の俺を見てアイツらはどう思うだろうか…。

 緑谷はまたふざけるなって怒るだろうか?

 扇動は勿体ない(・・・・)と呆れるだろうか?

 思考により動きが鈍る。

 このままで爆豪に勝つどころか凌ぎきる事は難しい。

 そんな中、入場口から眺めている扇動と目があった。

 

 ―――違う。

 

 「―――ッ、なんだぁ!?」

 

 自身を中心にらせん状の氷結を脆く(・・)荒々しく(・・・・)不均等に(・・・・)、隙間を空けて渦を巻くように上へ上へと駆け上がらせる。

 近づこうとしていた爆豪も眼前に張られた障害物に僅かながら距離を取る。 

 

 解ってる。

 扇動は決して炎を使えとは言わない。

 寧ろ躊躇っているのを見抜いて使えないなら使うなと言うだろう。

 炎を使わないのなら()の全力でぶつかる。

 

 螺旋の外に足を出して氷結を走らす。

 ただし、狙いは爆豪ではない。

 外へ走らせた氷結はUターンして勢いよく大きく伸びていく氷を螺旋状の氷にぶつける。

 砕き易い螺旋状の氷は小さい破片となって吹き飛ばされ、爆豪へと散弾のように飛翔した。

 上から降り注ぎ、正面から飛んで来る氷片を爆破で吹き飛ばされる。

 

 「テメェ、俺相手に舐めプしてんじゃあねぇぞ!」

 「俺は…俺で今出来る全力で」

 「炎を使わず勝とうってか!コケにすんのも大概にしやがれ!!」

 

 爆破で跳び出した爆豪に右手を振るって指先より細い氷結を走らせた。

 合計五つの細い氷結を陽動として、左足よりカーブを描かせて側面より氷結を向かわせる。

 …が爆豪は正面から迫る五つの氷結を回避し、側面は爆破の一発で防ぐ。

 

 護るべく氷壁を発生されるもやはり一撃のもと粉砕される。

 それを見越して氷壁で隠れた際にもう一枚自身の前に作り上げた。

 ただそれは防御の為ではない。

 斜めに作り出した氷壁は一枚目を粉砕した爆豪に、太陽光の反射を浴びせる。

 

 「――ッ、目暗ましか!?」

 

 脚が止まったところに氷結を伸ばすも咄嗟に飛び退いて難を逃れる。

 さすがに楽には勝たせてくれないかと次の手として氷結を走らせようとするが、身体に霜が降りてかなり動き辛くなっている事に気付いた。

 使い過ぎたと苦虫を潰したような顔をすると、すかさずそこを狙って終いにしようと爆豪が動き出す。

 爆破で飛んだと思ったら空中で回転しながら連続で繰り返し、周囲の風を巻き込みながら勢いを増しながら突っ込んで来る。

 

 霜が降りて動けない状態。

 爆豪が迫る中で轟は心情は戸惑ったまま。

 今までアイツを見返すべくやって来た。

 それが緑谷のおかげで乱れ、自分がどうするべきなのか…どうすれば正しいのか分からない…。

 

 「負けるな!頑張れ!!」

 

 観客席から緑谷の声が届いた。

 大怪我をしてリカバリーガールの治療を受け、腕を包帯を巻いてギプスを付けた状態にも関わらず、急いで駆け付けたのか息を荒らしている様子。

 その言の葉(・・・)は耳で留まらずに心中へと入り込む。

 同時に無意識にも炎が熱を持って噴き出す。

 凍り付いていた身体が温まり、霜が消え去った。

 

 すでにかなり近づかれているとは言え、今までの発生させた氷で周囲は溢れている。

 高温の炎を払えば緑谷戦のように冷え切った冷気が急激に熱され、膨張した事で爆風が起きるだろう。

 そして放とうとする直前、脳裏に過去の数々にアイツの顔、そして緑谷戦に炎を使う前までの自分が過り、纏っていた炎が消え去った…。

 

 「―――ハウザー(榴弾砲)インパクト(着弾)!!」

 

 爆豪の最大火力に回転と速度によって生まれた勢いが加算された強烈な一撃が放たれた。

 衝撃は観客席まで届き、ステージは舞い上がった煙で隠れる。

 煙が晴れたステージは大いに荒れており、直撃を受けて気を失っている轟と呆けている爆豪が見受けられる。

 

 「………ざっけんなぁあああああ!!」

 

 炎を噴き出した瞬間、全力を出しやがったと喜んだ爆豪だったが、先程寸前のところで消した事にブチ切れていた。

 自身にもかなり反動もあってズキズキと腕が痛むも、無視して気を失った轟に近づいて胸倉を掴んだ。

 納得できないのは解かるが、意識不明な選手に手を出しかねない状況を主審であるミッドナイトは看過できない。

 個性“眠り香”を撒き散らし、吸い込んだ爆豪は眠気に誘われるままその場に倒れ込む。

 

 結果として轟が戦闘不能になった事で爆豪の決勝進出が言い渡されるが、敗者も勝者も意識なく保健室に運ばれる様になんとも言えない空気が流れる。

 

 

 

 

 

 

 飯田は緊張しながらも今この時を楽しみにしていた。

 同じくヒーロー一家出身で同年代。

 しかしながら如何ともし難い技術と経験の差が存在している。

 チーム戦とはいえ戦闘訓練であの轟君に勝利し、襲撃事件では多くのヴィランを倒し、この体育祭では好成績を残して突破してきた。

 彼は“個性”を持ち合わせていない無個性だ。

 ヒーローを目指すにあたり相当なハンデを背負いながら、物ともせずにここまで至った。

 無個性だからと諦めるのではなく、無個性だからこそ何十倍もの努力を重ね、例え個性が無くともここまで来れるのだと全国に雄姿を見せ付けた君を僕は心より尊敬する。

 尊敬するがゆえに僕は友人として、ライバルとして、同じくヒーローを志す者として君に挑もう。

 

 『お互いヒーロー一家出身!飯田 天哉VS扇動 無一!スタァアアアアト!!』

 

 試合開始が宣言されると両者共向かって走り出した。

 どちらも近接戦闘(ファイター)なので近づかなければ意味がない。

 だが、レシプロはまだ(・・)使わない。

 レシプロバーストは驚異的な速度を発揮するが長時間の使用が出来ず、限界を超えると個性“エンジン”がエンストを起こしてしまう。

 

 まずはエンジンの加速がついた蹴りを放つ。

 …が、やはりと言うべきか扇動は避け、すぐさま反撃しようと蹴りの体勢を取る。

 胴体を狙う動作からガードしようとするもそれはフェイントで、全くノーガードだった膝側面に即座に直撃。

 ガクンと体勢が崩れた所に強烈なミドルキックが打ち込まれるが、胴体ではなくガードしようと出していた腕目掛けて放たれ、さらに体勢が崩される。

 そこに腹部、腕、顔を狙った三段蹴りまで喰らわされる。

 体勢が後ろに崩れていたおかげもあって、顔の直撃はなかったものの喰らっていたらヤバかったかも知れない。

 蹴りの猛攻激しく、体勢を立て直す為にもエンジンの加速で距離を取る。

 

 『蹴り技のラッシュ!!迂闊に近づけねぇぞコレ!!』

 

 確かに迂闊には近づけない。

 そもそも先ほどの行動自体が迂闊すぎた。

 八百万君や耳郎君、上鳴君との話でヴィラン襲撃時に蹴り技で多くのヴィランを倒したと聞く。

 それだけでも彼の蹴りを警戒しておくべきだっただろう。

 付け加えれば先の蹴り技はそれぞれ方向性が違うように感じ取れた。

 彼は蹴りだけでどれだけの技術を持っているのか?

 

 「…驚いたな。何処かで習ったのかい?」

 

 物は試しと聞くだけ聞いてみる。

 答えてくれるかは分からなかったが、扇動は少し困ったように笑う。

 

 「蹴りというかキックに憧れ(・・・・・・)があってな。ジークンドーやムエタイ、テコンドーなどにカポエラを少々…つっても爺ちゃんとの修練とか忙しくて中学の三年間(・・・・・・)だけでは時間がなかったから、ネットや本で調べて自主練ばかりだったからちゃんとした奴ではないが」

 

 時間が足りずに本格的指導を受けていない。

 これには疑問が残る。

 爺ちゃんと言った事からプロヒーローである祖父から鍛錬を三年間受けていたのは分かった。

 ならば三年間も何を習っていたのか?

 今までの実績からしてただ基礎訓練を積んできたわけではないのは明白。

 となればまだ彼は何かを隠している?

 

 これは出し惜しみしている場合ではない。

 少し息を整えると駆け出す。

 ある程度近づいたところで二秒(・・)ほどレシプロを使う。

 急な加速を付けてそのまま跳び蹴りを放つが、これはさすがに躱されたが速度の急速な変化に虚は突く事は出来た。

 着地と同時に再びレシプロで急加速して背後より迫る。

 

 「―――えっ!?」

 

 背後から迫った瞬間、扇動が視界から消えた。

 違う。

 視界から外れたんだ(・・・・・)

 咄嗟にレシプロを切って(・・・)急停止を掛ける。

 その途端、鼻先を踵が掠って通り過ぎて行った。

 視線を下へと下げると頭を地面近くまで下げて両手をついて後ろ回し蹴りを繰り出す扇動がそこに居た。

 読まれていた上にタイミングを合わされた事実に驚く飯田であるが驚いてばかりはいられない。

 扇動はその低い体勢から再び回って蹴りを放って来たのだ。

 まだレシプロの加速は残っている。

 避けるより通り抜けようとエンジンの加速へと繋いで横をすり抜ける。 

 前の蹴り技に比べて明らかにリズムの異なる回し蹴りに戸惑いながら、距離をおいて振り返ると扇動は悪戯っぽく笑っていた。

 

 「“カポエラも使うと言った筈だ”…にしてもライダーキック(・・・・・・・)みたいなのしやがって。羨ましいじゃあねぇか」

 

 ライダーキックが何なのか分からないが、どれほど隠し持っているのやら。

 レシプロは十秒が限度。

 小出しではあるが四秒ほど使用。

 このような使い方は初めてなので、時間通り持つのかさえ不明。

 だけどここは信じて行くしかない。

 普通にエンジンの加速を付けて接近し、顔を狙っての回し蹴りを放つ。

 しかし扇動はすっと避ける為に身を逸らした。

 

 「………君なら避けれると信じていた」

 

 まともにやっても勝ち目はない。

 なら虚を突くしかない。

 小刻みながらの四度目のレシプロバースト。

 脚を無理にでも捻って足先が肩に向くようにして、加速が入った蹴りは右肩を捉えた。

 避けようと逸れた体勢に加速のついた蹴り。

 いくら扇動と言ってもそんな状態で蹴りを受けてはひとたまりもなかった。

 力負けした扇動は力が掛かるままに地面に叩き付けら、あまりの衝撃に撥ねさせられた。

 

 『モロ入ったぁああああ!今まで掠り傷だけだった扇動に大きい一撃が決まったぁああ!!』

 

 会場全体が歓声を上げるもここで油断は出来ない。

 素早く首根っこを掴んで場外に放り出さねば。

 そう思い手を伸ばす。

 

 ―――目が合った…。

 大きなダメージを受けて、不利な体勢であるにも関わらず、扇動君は何処か嬉しそうに青い瞳をこちらに向けていた。

 

 伸ばした腕を扇動は両手で掴むと、素早く身体を捻らせて首を両足で挟む。

 後は力の向きと体重を掛けて飯田を放り投げた。

 第三者として見ていたのならまだしも、受けた当事者としては何が起こったのか分からず、混乱しつつも立ち上がる。

 

 「良い一撃だ。天哉がそこまでしてくるのにこちらが全力を尽くさぬのは非礼か…」

 

 静かに息を吐いた扇動は左肩を前に出すように身体を傾け、肩幅に足を開いて左手をだらんと下げる。

 構え…にしては無防備のようで妙である。

 だが反して観客席…それも三十代後半以上のプロヒーロー達の顔色が悪くなった。

 

 『なんだぁ…あの構え?』

 『資料に目を通してないのか…』

 『目は通したさ!けど流拳(・・)と面識ないんだって俺』

 

 ざわつく雰囲気を感じ取りながら警戒は怠らない。

 それを知りながらも扇動は飯田に構えたまま近寄って行く。

 嫌な予感を感じ取ってじりじりと下がるも、遠慮なくこちらの間合いに入り込んで来る。

 少しばかり躊躇うもこのまま下がり続けてはいられない。

 停止している状態からレシプロの急加速を付けた蹴りを顎狙いで放つ。 

 

 対して扇動は目で追いながら左手を動かす。

 腕で防ぐのではなくタイミングを見計らって軽く上へとポンと押した。

 軌道をずらされた右足は狙いを外すと同時に、上がり過ぎた為にバランスが崩れる。

 そこに一歩踏み込んだ扇動が迫り、鳩尾に右肘が食い込む。

 痛みに悶える暇もなく裏拳が鼻を襲い、人体で弱い部分である鼻から生じた痛みが駆け抜ける。

 次に左手の掌底が右横腹に打ち込まれ、後ろへと体勢が崩れたところを左腕を掴まれて一本背負いの要領で地面に叩きつけられる。

 

 実況席より眺めていた相澤は眉を潜める。

 扇動の事を調べ上げた際に彼の祖父やその戦闘スタイルも調べている。

 今では知名度は下がってはいるがひと昔はある意味(・・・・)有名なヒーローで、ヒーロービルドチャートで上位をキープしていた。

 その祖父流拳(本名兼ヒーロー名)は扇動家に代々発言している“個性”とその“個性”を活かした近接戦闘術―――扇動流を使用した近接戦闘を得意としていた。

 

 扇動流で受け流しの技術は最初に叩き込まれる程重要視されている。

 ただ扇動流とは受け流しを主とした防御術などではなく寧ろ()攻撃主体の戦闘術。

 受け流しの技術は身を護るのではなくて、流す事で相手を無防備にしたところに攻撃を持って叩きのめすもの。

 

 古い映像資料を拝見したが、それは酷い(・・)ものであった。

 とても生徒達に見せられる類のものでは決してない。

 

 その点、扇動に躊躇いがあるようにも見える。

 もし今のを映像で見た流拳が行ったのなら、投げて無防備のところに追撃は必ず入れていただろう。

 そもそも裏拳を喰らわした際に鼻が折れるどころか鼻血すら噴き出していないところを見るに明らかに力を抜いている。

 芦戸戦の時に扇動は相手の良心を攻めたが、扇動自身も良心が働いているのか…。

 または実戦なら兎も角体育祭の種目で相手を怪我させる事は無いと判断したのか…。

 

 そんな事を考えながら相澤が見ている中、飯田は戸惑いを隠しきれなかった。

 何をされたのか理解が追い付かない。

 けれどもこのまま負けれない。

 出来る事なら全力で。

 

 「行くよ扇動君!」

 「来いよ天哉」

 

 計算だけで行ったら残り四秒ほど…。

 限界を超え―――さらに向こうへ。

 

 「レシプロ―――バァアアアスト!!」

 

 全力のレシプロでの後の事は一切考えていない猛攻。

 受け流されはしているが早々反撃が行えず扇動は防戦一方。

 計算上の上限を超え、飯田は扇動に挑み続ける。

 捌き続けているが僅かながらでもダメージは蓄積している筈。

 このまま押し切れれば僕の勝ちだ!

 

 ……ぼふんとガスが抜けるような音が脹脛より鳴り速度が急激に低下した。

 エンストを起こしたと意識がそちらに向いた瞬間、扇動の周り蹴り(ケイシャーダ)にて踵を顎に打ち込まれた。

 顎への強烈な一撃で飛びそうになる意識を何とか保つも、身体の方は全くと言っていい程言う事を聞いてはくれない。

 そのままステージに向かって倒れ込みそうになったところを扇動が肩を貸す形で支えた。

 

 「…僕は…君に届かなかった…」

 

 この状況を良く理解し、意識を刈り取られなかったとはいえ朦朧として上手く喋れているかも分からない。

 けど扇動は一瞬眉を潜め、苦笑しながら呟いた。

 

 「届いたよ。良いのを喰らった」

 

 軽く右肩を揺らす。

 そう言われ微笑を浮かべた飯田は保っていた意識を手放した。

 これにて戦闘継続不可能と判断され、扇動の決勝戦進出が決定した。

 

 

 

 

 

 

 準決勝の二試合を見てA組は他の観客以上に騒然としていた。

 爆豪と轟の試合は凄い事になるのは解り切っていたが、まさか扇動と飯田の試合もあれほど激しいものになるとは思っていなかったのである。

 友人(クラスメイト)が見せた壮絶な試合に目を見張り、興奮と共に胸躍っていた。

 試合直前まで折角打ち上げ行くなら飯にしようとか肉が良い、寿司が良いとワイワイと口にしていたが、試合が始まった瞬間には消し飛んでいた。

 

 「…なんて試合だよ!」

 「ほんと、爆豪も轟もだけど扇動達も凄かったな」

 「打ち上げの話している場合じゃなかったね!」

 

 それぞれが口々に感想を言う中、緑谷は違う意味で目を輝かせていた。

 今まで扇動の祖父がヒーローであるとは知ったが、ヒーロー名は教えて貰っていなかった。

 先の試合でその名を知って、色々聞きたくて仕方がない。

 その上、話で聞いても間近で本気の戦い方を見たこと無かったので、興奮気味にノートに情報を綴っていく。

 最早名物と言った光景に麗日や蛙吹などは苦笑いを浮かべる。

 

 「俺も特訓受けてみようかな」

 「いきなりどうしたのさ」

 「いや、な。扇動があれほど強かったろ。それに特訓して貰った奴らは良い成績か良い試合したじゃん。俺も強く成れっかなって」

 

 上鳴の言葉に何人かがそうだなと口にするが、それを耳にした麗日は渋い顔をする。

 ここに八百万が居たならばどうようの反応を示した事だろう。

 なにせ今回の放課後鍛錬は体育祭までの短期間と言う事もあって、扇動曰く鍛えながらも壊れないようにメニューを考えてのものだったらしい。

 怪我をしてしまったら治す期間が短くて本番に響くと言う事で無茶が出来ない軽いメニュー(・・・・・・)…。

 

 確かに扇動以外大怪我を負う様なメニューは無かった。

 されどアレが軽いとなれば長期間で手加減が無くなったとなればどうなる事やら…。

 そもそも体育祭に向けての特訓であったから、これから先も続けるかどうかは不明なのだ。

 

 とは思っても盛り上がっている皆に水を差すのもどうかなと思って紡ぐ。

 なんにせよ次は決勝戦。

 今から気になってステージに目を向けてしまう。

 

 緑谷もそれは同様であり、幼い頃喧嘩を良くしていた爆豪と扇動の試合。

 見逃すわけには絶対に行かない。

 ノートを手にしたまま、目を輝かせて開始を待つのであった。




●柔道三段、空手三段、剣道二段、ほかにムエタイ、少林寺、サンボ、骨法、ブラジリアン柔術などカポエラも少々―――カポエラも使うと言った。
 【クレヨンしんちゃん】アクション仮面より
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