無個性オリ主が共にヒーロー目指す!   作:チェリオ

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第36話 トーナメント決勝

 いよいよトーナメント決勝戦。

 ステージに立つのは扇動 無一と爆豪 勝己。

 爆豪にとってこれ試合は長年待ち侘びたものである。

 幼い頃、喧嘩を吹っ掛けられて初めて敗北を知り、何度喧嘩を仕掛けては負けた事か。

 次こそはと挑み続け、絶対負かしてやると息巻いていたが、小4の時に転校と言う名の勝ち逃げをされ、それから六年近くお預けを喰らわされ続けてきたのだ。

 ようやく設けられた場に爆豪は闘争心をぐつぐつと煮え滾らせ、獰猛な笑みを浮かべる。

 待ち望んでいた舞台であるも、一つだけ不満があった。

 

 「てめぇボロボロじゃねぇか」

 「心配してくれんのか?」

 「違ぇわボケ!万全の状態のテメェに勝たねぇと意味ねぇだろうが!!」

 

 扇動は見るからにしてボロボロであった。

 決勝戦が行われる直前にリカバリーガールの治療を受けた扇動であるが、治療を願ったのは飯田に喰らわされた肩だけであり、塩崎戦で受けたツルによる掠り傷やひっかき傷は放置している。

 その上、体操服の上に来ている上着は芦戸戦で弱酸性の溶解液でびちょびちょにされ、学校側よりあまりの上着を貰ったのだけど同じく塩崎戦でツルで所々破け、飯田戦ではエンジンの熱に当てられ焦げたりもして扇動以上にボロボロな状態に。

 さすがに貰った日にもう一着下さいとは流石に言う訳にもいかず、そのズタボロの上着を着ているのだから余計に目立つ。

 しかし扇動は指摘されたところで気にも留めない。

 

 「この傷を治すのにどれだけ体力を消費しなければならない?肉体は万全でもスタミナ(戦闘継続時間)が少なくてはお前に勝てはせんだろう。それにお前の方がヤバイ(・・・)んじゃあねぇか?」

 「…チッ、こんなの屁でもねぇわ!」

 

 気付かれていた事に舌打ちひとつ零す。

 爆破の個性にもデメリットは存在する。

 それは限度を超えたり、火力によっては自身がダメージを負ったり汗腺を痛める事である。

 麗日に切島、轟など手強い相手との連戦で酷使した為、どちらのダメージもかなり蓄積されているのは確かだ。

 ただ扇動は完全には把握してはいない。

 切島戦での僅かな表情の変化に、轟戦の最後に大技を放った後に腕を庇う様な仕草が見受けられた事から、なんらかのデメリットがあるなと察したぐらいだ。

 

 『さぁ、いよいよトーナメント最終決戦だ!今期雄英一年の頂点がここで決まる!!決勝戦扇動対爆豪―――スタァアアアアアト!!!』

 

 戦闘態勢を取っていた扇動と爆豪にプレゼント・マイクによる開始の宣言が告げられる。

 宣言と同時に仕掛けたのは爆豪ではなく扇動。

 真正面から全速疾走で突っ込み、爆豪は近づいてきたところを手を開いて広範囲の爆破を行う。

 その直前に扇動は身を護るようにして自ら後ろへと跳んだ。

 爆破によって生じた煙から転がるようにしながらも、その勢いを利用して立ち上がった様子にイラつく。

 

 「テメェか!丸顔(麗日)に入れ知恵しやがったのは!!」

 

 完全ではないが突撃からの爆風の流し方はまさに麗日が見せたそれであった。

 立ち上がった扇動は首を横に振る。

 

 「違う違う。俺が麗日のをパクってんだよ」

 

 悪びれずに呆気からんという。

 さすがに無重力の個性はないので麗日ほど受け流せてないが、それでもかなり受け流されてはいる。

 手の状態を考えるとかなり不味い。

 警戒しつつ思考を回していると扇動はおもむろに首を傾げた。

 

 「それにしても近づくなと言わんばかりの爆破だったな……あー、うん……“もしかして…もしかしてだけどぉ……」

 「…あ?」

 「―――びびってるんですかぁ?”」

 

 対戦している爆豪は勿論、ステージ近くに設置されたマイク(収音機)を通して扇動の声は会場に伝わる。

 A組の面々は…中でも特訓を受けた四名は扇動の発言の途中で嫌な予感がしており、予感が的中すると静まり返った会場の中で爆豪に視線を向ける。

 それはここまで様子で表面的に爆豪がどんな人物なのかを知った観客も同じであった。

 会場全体の視線が爆豪へ集まる。

 そこにはヒーローを目指す若者と言うより、ヴィランでさえ裸足で逃げ出すような面を晒した悪鬼の類(・・・・)が立っていた。

 

 「―――ぶっ殺す!!!」

 

 決して扇動は馬鹿にした訳でも、爆豪も単純に挑発に乗った訳ではない。

 それ以上に中距離・長距離での戦いを仕掛けられては扇動に分が悪く、爆豪も手の状態から範囲攻撃を仕掛けるよりも直に叩き込むしかないと思っていた。

 先の挑発は爆豪の考えも理解した上で背中を押したのだ。

 打算的にキレて冷静さを欠いてくれればと言う期待もあったのは否めないが、そちらは望み薄だと思いながらも言うのはただである。

 …全国に流れているので自分の評判は落ちるかも知れないが…。

 

 怒号と共に爆破で加速して突っ込む爆豪。

 対して扇動は拳を構えてステップを踏む。

 

 「知ってっか?“ボクサーのジャブはあらゆる格闘技中最速のパンチ”らしいぞ」

 

 接近して爆破を喰らわせようと手を伸ばそうとした爆豪より出遅れた扇動の左拳(ジャブ)の方が先に打ち込まれた。

 

 「ぶっ!?…クソが!!」

 「それとなボクシングには蹴り技が存在してな―――」

 

 顔を二連続でジャブを打たれて怯んだ爆豪は扇動が右ストレートを打ち込もうとしたので距離を取ろうとする。

 少し離れれて扇動の間合いの外に出る。

 しかし扇動はステップに合わせて地面を蹴り(・・)、急に迫られ間合いから抜ける直前に右ストレートを顔面を捉えた。

 

 「―――“大地を蹴る格闘技”なんだ」

 「舐めやがって!!」

 

 怒鳴りからの反撃。

 しかし精確さを欠いた攻撃は容易に躱される。

 だからこそ扇動は警戒を強めた。

 爆豪が出鱈目な動きをする筈がない。

 顔を伺うと爆豪の眼は鋭く、ナニカを狙っているのは明白。

 下手を打って手痛い反撃を被るのを避けようと下がろうとした時、地面を蹴って(・・・)爆破の加速も用いずに急接近した爆豪の手は扇動の腹部に押し当てられた。

 

 「こういう事だろうが!」

 「―――ッ、さすが…」

 

 もろに爆破を至近で受けて扇動は吹っ飛んだ。

 爆豪は扇動が見せた動きを見事一見するだけで物にして見せたのだ。

 まさに天賦の才と言う他ない。

 

 「試合中に対戦相手にご教授とは良いご身分だなぁ…オイ!」

 

 吹っ飛んだ扇動に追撃を行うべく爆破で加速する。

 転がりながら立ち上がった扇動にもう一度爆破を浴びせようと手を伸ばす。

 …が、届く前に軽く伸ばしていた右肘辺りを左手で小突かれ、肘辺りが痺れると同時にピンと意志に関係なく伸びた。

 僅かながら作った隙に扇動は無防備を晒す腹部に右フックを打ち込む。

 痛みに顔を歪める爆豪であるが扇動は右フックを打つと同時に下げていた左がアッパーを打ち込む体制に入った事で咄嗟に顎を護ろうとガードする。

 しかし左のアッパーは顎の守りを固めた瞬間、狙いを変えて再び腹部へと打ち込まれた。

 痛みに耐えながらお返しにと浴びせるように両手の爆破を放つ。

 吹き飛ばしたが今度は追撃せずに足を止める。

 

 「あんだけ打ち込まれて二発とか割りが合わねぇ!!」

 「……その一発一発がきついんだろうが…」

 

 息を整えつつ言葉を交わし、扇動は飯田戦で見せた構えを取る。

 それは試合中眠らされていた爆豪にとっては初見である。

 ナニカあると分かっていても食い破る気満々で爆豪はバチバチと小さな爆破をチラつかせる。

 

 再び突っ込んだ爆豪は先のを警戒して、何かされる前に小さな爆破を浴びせて牽制し、もう一発叩き込もうと更に前に出る。

 だがそれは扇動も同じで、浴びながらも前で出て伸ばされていた手を左手で払うと同時に絡めるように掴み、背負い投げの要領で投げ飛ばそうとする。

 叩きつけられそうになるも、地面に対してもう片手の爆破を放って宙に飛ぶ。

 その際に放そうとした扇動の手を掴んで宙へと連れて行った。

 

 「テメェが喰らいやがれ!!」

 

 掴んだまま爆破で方向を変え、逆に扇動を地面に投げ飛ばそうとするが、そうはさせるかと扇動は掴み返して身体を捻って軌道を変えさせて叩きつけた。

 背中を打ち付けた衝撃で声と空気が口から漏れ出るも、すかさず着地しようとした扇動に爆破を喰らわせて吹き飛ばす。

 …ここまで十分前後の事である。

 学生のものとは思えないほどの試合に誰もが息を呑む。

 

 両者共息を多少整え、爆豪が両手を後ろに回して突撃の構えを取る。

 待ち構える扇動であったが、爆破で加速して突っ込んで来る爆豪は触れもしない距離で手を伸ばし、なんだと警戒するも次の瞬間には眩いばかりの閃光が視界に広がる。

 

 スタングレネード(閃光弾)!!」

 「くっ、目が!?」

 

 直接攻撃ではなく目潰し。

 咄嗟に顔を逸らして右目は無事だが、左目は完全に眩んでしまっている。

 苦し紛れに前蹴りを喰らわせて蹴り飛ばすも、この好機を逃すまいと爆豪は迫る。

 真正面から突っ込んだと思ったら、急に方向転換して目が眩んでいる左側の死角に回り込んだ。

 慌てて振り向くも遅い。

 

 「終いだ!―――あ?」

 

 決着を付けようと伸ばした手は空を切った。

 扇動が突如として視界より消え去った。

 無個性である扇動が消えるというのはあり得ない。

 爆豪の瞳が下へと向く。

 

 ―――上体逸らし。

 ボクシングのスウェー(上体反らし)よりも大きく上体を反らし、近距離まで迫っていた爆豪の視界から外れたのだ。

 予期せぬ事態に反応は遅れ、生まれた隙を扇動は逃さない。

 上体を起こしながらの右ストレートが爆豪の顎に直撃した。

 衝撃が顎から脳へと達し、意識が遠のきかけて視点が定まっていない。

 ここで決めようと思うも爆豪の眼がまだ生きている(・・・・・)事に気付き、起き上がると同時に掌底を叩き込んで吹っ飛ばして距離を取る。

 

 意地でも立ち上がる爆豪を見つめていた扇動は嬉しそうに笑う。

 プロにも引けを取らない戦闘能力。

 高い分析能力に判断能力。

 雄英高校に入学して二か月足らずで個性の使い方も応用も出来てきている(・・・・・・・)

 なによりあれだけのダメージが入っているというのに起き上がった強い意思。

 ―――素晴らしい。

 学生で…まだ十五の少年がよくぞここまで…と感動にも似た感情を抱くも、だからと言って負けてやる気はさらさらない。

 爆豪に失礼…というのもあるだろうけどそれ以上に、学校内で公に個性の使用許可が降りて間もない程度で勝たせてやるもんか(・・・・・・・・・)、そう簡単に乗り越えさせてやるもんかというただの意地。

 

 立ち上がった爆豪は揺れる視界で扇動を捉えたまま、今持てる全てを出し切ろうと奮い立たせる。

 もう限界が近い。

 相当なダメージを受けたのもあるが、手の方もかなりきて(・・)しまっている。

 今、決着を付ける他ない。

 歯を食いしばりながら跳び、身体を軸に回転させるように爆破を連発し、風を纏いながら突っ込んでいく。

 

 ハウザー(榴弾砲)――――むぐっ!?」

 

 突っ込んで行った爆豪は突如として視界を塞がれた。

 これが初見であったなら扇動とて対処や対策を練る時間は無かったかも知れない。

 しかし飯田戦で観戦しており、一度とは言えデータは掴んでいる。

 火力は兎も角回転させるだけで勢いが増す事は無い。

 あれは回転させる事で自身にプロペラの役割を担わせている。

 前方の空気を後ろへと送り出す事で速度を増し、爆破によって生じく爆風や衝撃を含めて勢いを加算していく。

 つまり前方では後方に送る為に吸い込みが発生しているという事だ。

 

 動きからあの技が来ると判断した扇動は、ある程度接近したところで上着を投げつけた。

 吸い込まれれば顔か腕に絡まり、最低でもバランスは崩すであろう。

 

 運悪く顔に纏わりつき、何とか振るい払うもすでに扇動の間合い。

 扇動は構えるでもなく自然体のままで小さく「(one)(two)(three)」と呟いてタイミングを計り、間合いに爆豪が入った瞬間回し蹴り(・・・・)を放つ。

 制止した状態からの居合のような最速の一撃。

 視界が塞がれ、体制も崩れていた爆豪は避ける事叶わず、回し蹴りは見事に顎を打ち抜いた。

 二度目の顎からの衝撃にもはや爆豪の意識は風前の灯…。

 

 勝ったと僅かながら生まれた油断。

 意識を失いかけてもまだ爆豪の瞳は死んではいない(・・・・・・・)

 左手で肩を掴むとそこを軸に背に回って右手を押し当てる。

 

 「――ッ!?しまっ――」

 「―――インパクト(着弾)!!!」

 

 零距離での大爆発。

 耐え切れず意識を失った爆豪は反動に耐える事出来ず、勢いと耐性が崩れていた事も相まってステージ上を転がり倒れる。

 ステージの大部分は大爆発によって煙が発生し、扇動がどうなっているのかは全く見えない。

 もし扇動が気絶か場外へ出ていたならば延長戦となり、場内で戦闘可能な状態であれば優勝が決定する。

 誰も彼もが凝視する中、ゆっくりと風に流される煙。

 

 

 扇動は立っていた。

 

 煙りが晴れると右手をポケットに突っ込み(・・・・・・・・・・・・)、左拳を高らかに掲げた。

 会場が割れんばかりの歓声で満たされる。

 

 『爆豪君、戦闘不能!よって扇動君の勝利!!』

 『以上で全ての競技が終わり、今年度の雄英体育祭一年優勝は―――A組、扇動 無一!!!』

 

 割れんばかりの歓声を一身に受け、扇動は観客席―――緑谷 出久に挑発的な笑みを浮かべる。

 向けられた緑谷は決勝の様子からこの結果に生唾を呑んだ。

 火が灯る。

 まだ足りない(・・・・)

 僕もオールマイトのようなヒーローになるのならもっと強くならなくちゃ。

 

 強く想うと同時に扇動に対して違和感のようなものを感じ取り、担架(ハンソーロボ)で運ばれる爆豪とステージより降りる扇動を見つめるのであった。

 

 

 

 

 

 

 決勝戦が終わると同時に芦戸 三奈は優勝したお祝いの言葉をかけるのと、打ち上げの変更の話を早めに持って行こうと入場口へ駆けていた。

 どうぜなら飯にしようぜなど皆の意見を聞いていたらバイキング(食べ放題)の方が良いかなと思い、試合終了後に予約すると言っていたので急いでいるのだ。

 入場口に辿り着くと、そこで観戦していた八百万を発見した。

 観客席で姿を見ないと思ったらここに居たんだと声をかける。

 

 「ここで見てたんだ」

 「えぇ、上からではないので把握し辛い所もありましたが、凄い迫力でしたわ。芦戸さんはどうしてこちらに?」

 「優勝した扇動にお祝いの言葉と打ち上げの変更を伝えにね」

 「確かケーキ屋でしたでしょうか?」

 「だったんだけど皆の意見聞いてたらバイキング(食べ放題)の方が良いかなって」

 「バイキング(ヴァイキング)ですか…」

 「多分だが違うぞお嬢」

 

 “バイキング”に対して疑問符を浮かべながら困惑している八百万に、ちょうど戻って来た扇動が突っ込みを入れる。

 二人して振り返って優勝者を迎える。

 

 「優勝おめでとうございます扇動さん」

 「おめでとう。試合凄かったよ!」

 「おぉ…ありがと…」

 

 駆け寄ってハイタッチしようとする芦戸であったが、扇動がこの場において返す事は出来なかった。

 通り過ぎるようにして扇動が倒れかけたのだ。

 慌てて支えると顔色は悪く、呼吸もどこか荒い。

 明らかに普通ではない。

 

 「ちょっと、どうしたの?」

 「すまん…さっきのがかなり利いててな…」

 「すぐに担架(ハンソーロボ)を呼んできますわ」

 「いらねぇ…優勝者が担架で搬送なんて…アイツらに対して格好がつかん…」

 

 そう言って再び一人で歩き出そうとする様子にムッと眉間を寄せる。

 問答無用で肩を貸すように左右から支える。

 

 「本当に扇動さんは頑固者なんですから!」

 「なんで男の子ってのはそう…保健室に連れて行くよ!」

 「…すまん、助かる。―――で、バイキングだっけ?」

 「その話は後で!」

 

 保健室へ連行された扇動はリカバリーガールに診察を受け、右手に両足の突き指に爪が幾らか割れ、右指の腹は血が出る程擦れており、他にも背中の火傷にハウザーインパクトで吹っ飛んだ際に強打した左肩を含めた複数の打撲などなど多くの怪我を負っていていた。

 扇動が言うには場外まで吹っ飛びそうなり、何とか留まろうと右手を両足を踏ん張らせて留まったのだとか。

 右手をポケットに突っ込んだのは血が流れている右指を隠す為。

 利き手の右ではなく左手を掲げたのは肩を強打していても無事そうなのが左だったから。

 爆豪から受けたダメージもありながらそんな状態でステージ上でアピールしていたのかと思うと意地の強さに感心すると同時に呆れてしまう。

 リカバリーガールに至っては何してるんだい!?と叱られてしまう。

 そんな中で扇動は「表彰式があるので歩ける程度に治療して欲しい」と願い出て、一応その要望に応えるように治療はしたが、表彰式が行われる直前までリカバリーガールに心配と呆れを超えた怒りで芦戸と八百万両名も加わった説教を受ける羽目になるのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回の雄英体育祭は日本各地に―――否、世界へと広がっていった。

 世界的に有名なヒーロー“オールマイト”の母校である程度の注目を集めている上に、無個性が一年とは言え頂点に立ったのだから話題性にしても十分過ぎるだろう。

 この事にある者は希望を抱き、ある者は絶望に打ちひしがれた…。

 彼のような道もあるんだと、彼のような道もあったのかと…。

 世界的にも有名な技術者を父に持つ娘は同じ無個性と言う事で興味を持ったり、異能(個性)自由行使(解放)を願う知人(・・)は鼻で嗤ったりと反応は人ぞれぞれ。

 しかしながら中には感想だけで済ますものばかりではなかった…。

 

 隠れ家であるバーより中継を見ていた死柄木 弔はクツクツと笑っていた。

 正直襲撃時に手痛くやられた事もあり、情報収集も兼ねて観戦していたが最初は不快でしかなかった。

 オールマイトのフォロワーらしき緑髪のガキ(緑谷 出久)

 自分を水中へと叩き込んだクソガキ(扇動 無一)

 二人が映る度に苛立つ様子に黒霧は周りの物に当たり散らさないかとハラハラしていた。

 だが、それは徐々に変わったいくことになる。

 姑息と言われるような策を用いてどんな手段を講じても勝とうとする姿勢は、王道のヒーロー像とはかけ離れて過ぎている。

 寧ろこちら側(ヴィラン)の方があっているのではと思う程に。

 もしも襲撃時にあんなのが居たならば、容易にゲームクリアしていたかも知れない。

 表彰式にて手を振るう一位(扇動)に何故か鎖で縛られて暴れている二位(爆豪)

 死柄木はその二人の様子と一位二位という注目度に目を付けほくそ笑む。

 それはとても楽し気で、とても物欲しげ(・・・・)で…。

 

 眼を付けたのはヴィラン連合―――死柄木 弔だけではなかった。

 

 

 

 代を重ねるごとに強まり、交じり合う個性。

 それはいつか世界を終焉へと誘うであろうと予見する個性終末論。

 ゆえに個性持ちを排除して、世界と純粋なる人類(無個性)の救済を掲げる組織“ヒューマライズ”。

 彼らが無個性ながらも個性持ちを打ち破った者を見逃すはずがなかった。

 

 「興味深いな」

 

 ヒューマライズの指導者であるフレクト・ターンはそう呟いた。

 個性を持たぬ彼のような純粋な人類は救済しなければならない。

 しかしながら彼の注目度と祖父が権力を持っているプロヒーローである事から手は出し辛い。

 そもそも今は動く時ではない。

 組織には個性終末論を憂う者や個性持ちから無個性だからといわれのない仕打ちを受けた者、個性持ちに恨み妬みを抱く者などなど様々な理由を持ち、多くの純粋な人類が所属している。

 そんな彼ら・彼女らからすれば胸がすく様な出来事だっただろう。

 今すぐ彼を迎えるべきだと提案する者が出て来ることも当然であった。

 執務室で嘆願書を受け取ったフレクトは、彼らが望む答えと反する回答を口にする。

 

 「今は彼を迎える事、接触する事を硬く禁ずる」

 

 返された言葉に団員たちは驚き、指導者がそういうのであればと納得しようとしつつ肩を落とす。

 そこへフレクトは言葉を続ける。

 

 「あくまで今は(・・)です。もうじき時は来たる。その時こそ彼を迎える、または保護しましょう」

 

 肩を落としていた団員たちは続けられた言葉に喜んだ。

 ただ懸念は残る。

 彼がヒーローを志しているという事。

 今後はヒーローとは相反する事を行おうとしている。

 フレクトはそれが懸念でしかない。

 賛同してくれれば有り難いが、敵対するなら対処せざるを得なくなる。

 出来れば避けたい所ではあるが…。

 兎も角フレクトは情報収集を命じるに止めた。

 …今は(・・)…だが。




●ボクシングとは大地を蹴る格闘技なのだ!
 【バキ】ナレーションより

●ボクサーのジャブはあらゆる格闘技中“最速のパンチ”だ。それこそ…かわしきれるものではない!!
 【タカヤ‐閃武学園激闘伝‐】透間 ヴォイドより

●戦わずして人間を滅ぼしたい?同じリングに立ちたくない?それってもしかして、もしかしてですが―――ビビってるんですかァ?
 【終末のワルキューレ】ブリュンヒルデより
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