怪我やハプニングはあれど、雄英体育祭は何とか終了した。
表彰式の際、爆豪が「二位だろうが一位以外に意味がねぇ」と表彰式の参加すら拒否しようとしたので、教師陣の説得により問答無用で鎖で縛りつけての強制参加させるという事に…。
あれが一番のハプニングだっただろう。
振り返りながら職員室に戻って来た
職員室に戻っていた
「何をしているんだい?」
注意というか問いかけると集まっていた教員達は静かにとジェスチャーした後に、こっちへと手招きする始末…。
何をしているんだかと思いつつも、何故そうなっているのかと興味もあるにはあった。
少しばかり悩むも誘惑に流され、皆と同じように聞き耳を立てる。
校長室内では話し合いが行われようとしているところであった。
内容は一年A組の轟 焦凍の事である。
轟家での教育事情に問題があり、扇動 無一により轟 焦凍が扇動家で預かっていたのだが、それは本人である轟 焦凍と預かる側の扇動、そして焦凍の姉である轟 冬美の三者の話であって、父親であるエンデヴァーこと
そのまま返す訳にはいかずに扇動もエンデヴァーも焦凍を巡って対立している為、雄英生徒である事から雄英高校の校長である根津校長に話を通して一席設けて貰ったのだ。
雄英高校の校長を務める
異形型の個性ではなく見たままの白いネズミで。個性“ハイスペック”は動物が人間以上の頭脳という世界的にも稀有な個性の持ち主である。
ゆえにこの件の解決案を複数通り頭にあるが、扇動の意思もあって今回は中立・仲裁役に徹するつもりだ。
室内には校長席から見守る根津校長に、そのすぐ側で待機している担任の相澤 消太。
テーブルを挟んだ片側のソファにエンデヴァー、向かいのソファに扇動 無一と轟 焦凍、そして父親を止めようと急いで駆け付けた轟 冬美の全員で六名が会話の始まりを待っていた。
相澤や轟 冬美などの
沈黙している室内にて、視線を集める扇動が口を開こうとした矢先、エンデヴァーは鼻を鳴らして立ち上がる。
「これは家族の問題だ。他人が口を出す事ではない!」
…一刀両断であった。
これに対して扇動は「そう言われたら仕方がない」と肩を竦ませて呟いた。
続けて「帰るぞ焦凍!」と命令口調で告げるエンデヴァーに反抗しようとする焦凍、ちゃんと話をしようと間に入ろうとする冬美であったが、その前に扇動が遮った…。
「18歳未満の子供への身体的虐待に精神的虐待に家庭内DV…話し合いが出来ないとなると児童相談所?いや警察に話を持って行くべきか……待てよ、ナンバー2ヒーローの不祥事になるからにはヒーロー公安委員会にも一応話を通しておくべきなのだろうか。そう言えば俺の知人の記者がネタが無いって言ってたっけなぁ。いやはや困ったもんだ。俺の知り合いに爺ちゃんの繋がりも考えると話す相手が多すぎて」
「貴様、脅す気か?」
「正式な手段を用いるだけですよ。俺も
扇動の言葉にエンデヴァーは足を止めて睨みつけるも当の本人は涼し気な顔で受け流すばかり。
さすがに
この流れに「…やっぱり」と相澤と聞き耳を立てていた教師陣は呆れるが、電話で
エンデヴァーはナンバー2ヒーローという地位とそれに伴う
相手が相手ならば金で黙らせる事も握り潰す事も出来たであろう。
だけど扇動家が相手となると分が悪過ぎる。
六年ほど前からヒーロービルボードチャートの順位は急激に落ちるも経営している会社は大きく、プロヒーロー達以外にも大企業経営者や富豪、政府関係者など様々な
それを理解して交渉しようとしている子供…。
それが余計に苛立たせる。
大分恨みは買っているだろうなと理解しつつ、座った事で扇動は真顔で話しを続ける。
「エンデヴァー、貴方は轟を………あー、まどろっこしい。焦凍をどうしたいんだ?」
轟と口にしたところ、
これにエンデヴァーは淡々と答えた。
「…アレにはオールマイトを超える義務がある」
誰もがオールマイトを別格として見ている。
そう、あの人は自分達とは違うんだとほとんどの人々は理解している。
憧れも尊敬もするが彼のようになることは不可能だと…。
ただそんな背をエンデヴァーだけは追い続けた。
個性を極め、身体を鍛え上げ、実績を積み上げてきた。
だからこそ越えられない壁に深く絶望した…
エンデヴァーの個性は炎系統最強クラス“ヘルフレイム”。
しかしデメリットとして高い火力を行使し続けると熱が身体に籠り、身体機能が低下してしまう。
自分ではオールマイトを超える事は叶わない。
ならデメリットを打ち消す個性の持ち主と結婚し、自分の個性とその女性の個性の両方を引き付く子供に託す
そうして出来たのが炎と氷結の二つの個性を受け継いだ
焦凍には自分が成し得なかった夢を実現させる。
さも当然のように語るエンデヴァーに口を挟まずに眉一つ動かさないで聞いていた扇動。
この内容に聞いていた者はそれぞれの反応を示し、特に焦凍はキレて襲い掛かりそうな勢いであったが扇動を手を引いて制した。
まさに一触即発の空気が漂う中、扇動は大きなため息を吐いて眉を顰めた。
「アンタ…馬鹿だろ」
放たれた一言に誰もが呆けた様に固まった。
もう一度ため息を吐き出して続ける。
「“子供ってのは大人を食いものにして成長するものだ”。だが、力のない子供を力のある大人が食いものにするのは駄目だろ。子供に夢見るのも夢を託すのも良いさ。だけど自分の
「なんだと?」
「個性を高め、肉体を鍛え、技を磨いてやるべき事は全てやった。しかし熱のデメリットは克服できなかったんで焦凍に丸投げして超えさせようって?
肉体や個性で補えない部分を補助するのがサポートアイテムだろ。なんで頼らない?
コスチュームだってオールマイトのようなぴっちりした奴で、通気性と耐熱性ばかりで冷却機能とか付けてないだろ。
オールマイトを超えたいのであってオールマイトに
人に押し付ける前に改善すべきところだろうに」
怒り心頭ではあったがさすがはナンバー2ヒーロー。
一考すべき意見は受け入れながら、開けかけた口を閉ざして耳を傾けていた。
その姿勢に感心した扇動はそれならばと勧める。
「もしもその気があるのなら今度サポート科一年の発目っていう生徒を訪ねてみると良い。俺が頼んだ試作品…というか開発停止した未完成品が役に立つかも知れない。克服は出来ないが役には立つ筈だ。無論、貴方にその気があるのなら」
そう付け加えた扇動であったが話をずらしてしまったようで、コホンと小さく咳払いして話を戻す。
「…で、戻すがオールマイトを超える
「そんなもの、ヒーローに決まっている」
「ならどうして心を育てない?」
「心だと?」
「オールマイトを超えるんだったら力だけでは駄目だ。誰かをナニカを救える護れる心を育てないと。家族、学校、友人……これらコミュニティによって自分以外の
ただ守るのと誰かを…大事な何かを護るのでは天と地ほどの開きがある。
対して貴方は子を護ろうとした母親を殴り、反抗する子には力と罵倒で黙らせ、社会との接触を最低限に避けさせ、向かい合う事もせず一方的に押し付ける…それで
エンデヴァーはくだらんと思いながらも言い返せなかった。
いや、言い返せたとしても扇動は言い返せなくなるまで徹底的にやり合うつもりでいた。
何処か納得していない様子であったが沈黙が回答として言葉を続ける。
「力だけではただの暴力。想いだけでは抱くだけの夢。“力だけでも想いだけでも駄目なんだ”。その両方があってこそ…そもそも焦凍がぐれなかったのが不思議なぐらいだ。受けた仕打ちからヴィランに成っていても可笑しくはない。貴方は焦凍に甘え過ぎだ」
途中、口を出そうとしたものの、聞いた上で考え込むエンデヴァー。
それを見て扇動は
「最後に一つだけ聞かせて欲しい―――最後に焦凍が笑ったのはいつだ?」
この一言にエンデヴァーは戸惑った。
何を言っているんだと訝しげにするも、その表情はみるみる曇っていった…。
いつだった?
焦凍が俺に笑顔を見せたのは…。
辿る記憶にあるのは不平不満を抱き、怨嗟の瞳を向ける顔ばかり。
数日、数か月、数年、十数年遡ろうとも笑みは見えない。
それ以外の表情はあっても怯えや不安なものばかり。
焦凍が俺に笑みを向けたのなんて赤子の頃しかないのではないか?
ゾッとした。
背筋が凍り付く寒気に身体が震え、搔き乱された感情が騒めき出す。
今まで自身の野心と下らん反抗として蓋をして、見て見ぬふりをしてきた事実…。
脳裏に浮かぶのは焦凍だけでなく、冬美を含めた悲痛な顔を向ける家族…。
そして何より焼き付く様に浮かぶのは焚きつけるだけ焚きつけて、もう二度と会う事の出来ない
「お…俺は……焦凍…」
気付いた。
気付いてしまった。
せがむ様に我が子に手を伸ばそうとするも扇動がそれを制した。
「自分の都合で押し付けて酷い仕打ちを長年しておいて、気付いたから一緒にやり直そうってのは都合が良過ぎるだろう」
伸ばした手が止まった。
まさにその通りだ。
自分が仕出かした事柄を鑑みたのなら尚更…。
「比喩でも物理的にでも構わんから頭を冷やせ」
「あぁ…そうだな…」
「落ち着かせるにしても向かい合うにしてもまずは時間が必要だ。焦凍はうちで預かるが宜しいな?」
「……頼む…」
ガクリと肩を落として項垂れる様に扇動は申し訳なくも後は根津校長に任せる形で焦凍と共に退席しようとする。
焦凍も冬美も今まで見たことのない父親の様子に戸惑う。
「…俺は…間違っていたのか…」
誰も声をかけれない沈黙の中、ポツリと漏らされた言葉に今度は扇動が足を止め、大きなため息を零しながら振り返る。
「
返したことろで頷くばかりで動きはほとんどない。
少し唸りながら頭を掻いて扇動は携帯を取り出して向ける。
なんだとぼんやり見つめるエンデヴァー。
「直接は難しいだろ。だから定期的に報告するからアドレス交換」
「…良いのか?」
「ならやっぱ止めたとでも返そうか?俺はあくまでも焦凍よりの第三者だ。小さな一歩ではあるがようやく踏み出せた足を蹴飛ばすような無粋はしたかねぇ。それがどう転ぶかは別問題だがな」
エンデヴァーはそっと「すまない」と呟き、携帯電話を取り出してアドレスを交換する。
これで話し合いは一応の終了を得た。
…となると校長室から退出する訳で、扉前で聞き耳を立てていた教師陣と遭遇するのは当然。
最後のやり取りまで聞いていた為に動くのが遅れ、扉を開けた扇動と目が合う教師一同…。
「Hey!リスナー!少し落ち着こうぜ」
「そ、そうよ。決して盗み聞ぎしてた訳では…ねぇ?」
「ここで私に振るのかい!?」
わたわたと慌てふためきながら考えつつ様子を窺う。
きょとんと見ていた扇動はクスリと笑った。
「盗み聞きとは良い趣味をお持ちで」
「お、怒ってないのかい?」
「別に。…寧ろオー…八木さんは副担任として知っておいた方が良いでしょ………っと、そうだ。この後
「勿論行くぜ。なんならイレイザー引き摺ってでも」
「おい、俺は参加するとは…」
「なら連絡取れた方が良いですね。アドレス伺っても?」
「…無視か」
思い出したように告げて教師達からアドレスを入手した扇動は轟 冬美も誘ったのだが、それ以上に焦凍と話す機会だと焦りを見せるエンデヴァーが視線を向けるも「頭を冷やせと言った」の一言で突っぱねるのだった。
飯田 天哉は急いでいた。
まだ三位決定戦が控えている中、突如と母から連絡を受けた。
兄――“インゲニウム”がヴィランとの戦闘で大怪我を負ったというのだ。
医者から命に別状はないと伝えられて大丈夫と母から言われても、心配過ぎて心ここに在らずの状態で挑む事と成り結果は四位…。
雄英体育祭が終われば教室でHRがあり、それが終わると心配をかけないように用事があるからと打ち上げの不参加を伝え、兄が入院している病院へと急いだ。
受付で病室を伺うと普段はあり得ないが投下を走り、慌てて病室の扉を開けた。
「兄さん!!」
開け放った扉の音に驚きながら兄の
足や腕など包帯が巻かれて固定するようにされている事から酷い怪我をしているのが解かる。
にも拘らず天晴は慌てて訪れた天哉に困ったようで優しい笑みを浮かべる。
「聞いたぞ天哉。四位なんて凄いじゃないか」
「そうじゃなくて大丈夫なのかい兄さん!」
「静かにね。病院なのよ」
心配から声を荒げてしまい、ベッド横の椅子に腰かけている母に注意を受ける。
自分らしくないとは思いながらも、それでも心配で急いてしまう。
「大丈夫さ。大きな怪我は負ったが命に別状はない。ただ入院が長引くらしくてリハビリは必要らしいが」
平気だとアピールするように包帯が巻かれた足を上下に動かす。
その様子にほっと胸を撫でおろすと気が抜けて、へたり込んでしまった。
同時に兄にこんな事をしたヴィランに対し怒りも込み上げる。
安堵と怒りに苛まれる天哉を他所に両手を荷物を抱えた扇動 流拳が入って来た。
「差し入れじゃ。しっかり食ってゆっくり休めよ」
「ありがとうございます。あぁ、天哉。覚えているか?パーティで何度か会っていると思うが」
「勿論です。扇動 無一君のお爺様の扇動 流拳さんですよね」
何度かパーティで拝見している。
初めて会った際はその厳つさから少しばかり怖がったものの、無一に向ける優しく孫に甘い様子から見た目通りの人ではないと
とは言っても中々近づく事もなかったのも事実。
今もだが言葉は優しくもあるが表情は古傷もあって非常に険しい。
…いや、本人は会社の経営者やプロヒーローではなく無一の祖父と覚えられている事を嬉しく思い、我慢できずに微笑んでいただけなのだが…。
「流拳さんのおかげで助かったんだ」
「そういう事でしたか。兄を助けて頂きありがとうございます」
「助けきれなんだがな。もう暫し早く到着しとれば共闘して捕らえる事も出来ただろうが…」
後悔を伴う回答で確かにそうであったならば一番良い結果を得れていただろう。
けど天哉も天晴もそれは確かにと思うも決して口にする事は無い。
感謝こそすれど恨み辛みを口にするのは筋違いである。
だから流拳の後悔交じりの解答に同調する事は出来はしない。
…出来はしないのだが失礼ながらも沈黙してしまった。
これは我想う所有り…と言う訳ではなく、別の事に意識が向いてしまってそちらへの対処が遅れてしまった他ならない。
天哉はお礼を口にして深々と頭を下げた際、天晴は天哉は頭を下げた事で視線が釣られて下に向いたことにより、流拳の脚に二本のナイフが突き刺さったままになっている事に気付いたのだ。
微塵もそんな素振りを見せない流拳の様子から見間違いかとも判断しかけるが、何度見ても深々とナイフは足に突き刺さっている。
「つかぬ事をお伺いしますが―――その足は…」
「おう、これか。これは…なんだぁ…気にするな」
「気にしてください!!」
笑いながらそう口にするも息を切らして現れた医者が遮る。
不味いと思ったのか深刻そうな表情で顔を医者から逸らす。
「…何ともない」
「ナイフが突き刺さったままでなんともない筈がないでしょう!貴方もインゲニウム程ではないですが、
医者の言葉と周りの視線を集める流拳はおもむろにナイフを引き抜いた。
突然の行動に驚くも溢れ出る筈の血は一滴も流れる事は無かった。
誰もが驚きを露わにしていると得意げに胸を張る。
「孫曰く、“ケンシロウ”なる拳士は大怪我を負った際、こうやって血を止めて傷を塞いだという。まさか儂が実践するとは思わんかったが、これで治ったであろう」
「治る訳ないでしょう。一時的に止めているだけで…どんな体しているんだか。兎も角治療しますんでこちらに」
「嫌じゃ。儂は孫の祝いに行くんじゃ!」
「駄目に決まっているでしょう!それにそんな面で甘えるような声出さないで下さい」
「誰がヴィラン面か!」
孫の下に向かおうとする流拳であるも医者に看護師に本気で抵抗する訳にもいかず、周囲を騒がせながら治療の為に連行されて行き、その様子に苦笑いを浮かべながら飯田家は見送るのであった…。
●子供ってのは大人を食いものにして成長するものだ
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●想いだけでも…力だけでも駄目なのです。だから…キラの願いに、行きたいと望む場所に、これは不要ですか?
【機動戦士ガンダムSEED】ラクス・クラインより