無個性オリ主が共にヒーロー目指す!   作:チェリオ

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第04話 実技試験 前編

 国立雄英高等学校―――通称“雄英”。

 オールマイトを筆頭に数多くのプロヒーローを輩出してきた最難関のヒーロー育成を掲げた学術機関で、施設の移動にバスを使用するなど広大過ぎる敷地を所有し、ヒーロー科以外にもヒーローを補助するアイテムの開発や製造、開発など技術面でサポートするサポート課、ヒーローを下支えを目的とした会社経営やプロデュースなどを目的とする経営課などの学科を持つ名門校。

 ヒーローを目指す学生たちの憧れの高校であるも、ヒーロー科の入り口は非情なほど狭く高い。

 倍率300という高い壁を乗り越えなければまず足を踏み込むことすら許されない。

 

 試験当日。

 ヒーローへの夢を思い描いた少年少女が未来への期待と不安から来る緊張を胸に雄英の門を潜る。

 前世も合わせると二度目の高校受験ながらも緊張するものなのだなと扇動 無一はしみじみ思う。

 懐かしいも経験をしていた事で薄れた緊張感が程よく身体を引き締める。

 幼少期から肉体を鍛えれるだけ鍛えた。

 技術を爺ちゃんを含めた周りから得てきた。

 戦略・戦術や咄嗟の判断能力を高めるべく思考能力の向上にも努めた。

 出来る事、やれる事は思いつくものも含めてやって来たつもりだ。

 後はそれらを出し切るべく全力を尽くすのみ。

 

 短く肺に溜まった空気を吐き出して自らも門を潜って他の受験生と共に会場へと向かう。

 その中で見知った顔を見つけて驚きつつもそりゃあそうかと納得して「よぉ」と短く声をかける。

 声を掛けられた学生は怪訝な顔で振り向くも、こちらを視認するや否や驚きの表情へと変化した。

 

「去年のパーティ以来かな?」

「おお!久しぶりだな扇動くん!」

 

 彼―――飯田 天哉(イイダ テンヤ)とはヒーロー達が多く招待されたパーティで何度か顔を合わせている。

 俺はヒーローではないがいつもながら爺ちゃんに付いて行き、飯田 天哉はターボヒーロー“インゲニウム”こと兄の飯田 天晴(イイダ テンセイ)に連れられて参加しており、同年代という事で紹介されたのが最初だ。

 中学生にして身嗜みに乱れはなく、言葉遣いもかなり礼儀正しい。

 良くも悪くも規則正しい人間なんだとその堅苦しい性格は“真面目”というに相応しいものだろう。

 何度か接していてもその硬さは今も健在だが、いつも以上に硬い事に苦笑いを浮かべる。

 

「緊張しているのは解かるけど肩の力抜いたほうが良いぞ」

「いや、()…俺は普段通りだが?」

「言葉遣いが堅いだけでなく表情まで硬くなってんぞ。さっきの振り向いた時の顔なんて威圧されたかと思ったよ」

「そんなつもりは!?」

 

 否定しようとするも振り返った際の表情は結構な顔をしていた。

 最難関の学校に挑む事でガチガチに緊張しているのが見ていてわかるが、余裕が無さ過ぎてそれが焦りや苛立ちとなって精神を苛んでいる。

 緊張は精神の引き締めにもなるが、身体を引き締めすぎては実力の発揮も難しくなる。

 イズクや爆豪ほどではないが、少なくとも彼も合格して欲しいと願っている。

 彼は真面目過ぎて“正しい事”に重きを置く。

 他は恥ずかしいや面倒だと思う行為も率先して行う事の出来る貴重な存在であるが、その正しさは時として周囲に大きな波風を立ててしまう事もある。

 本当に良くも悪くも真面目なんだ。

 そしてそんな行いは誰もが出来る事ではない。

 

 「俺は分かってるって。けどまぁ強過ぎる口調に苛立ちを込めた睨みまで利かしたら相手が委縮しちまうだろ。ただでさえ皆緊張しているんだから。天哉も、他の受験生も」

 

 真面目であるが話を聞かぬ頑固者という訳ではなく、自身に非があれば潔く認める理想的で有難い(・・・・・・・)思考回路を持ち合わせている彼は、少し考え込むと後悔を顔色に出した。

 

「確かに緊張していたようだ。すまなかった」

 

 潔く認めた天哉は深く頭を下げた。

 そこまでしなくともと思いながらも、苦笑しながら謝罪を受ける。

 

「だから硬いって。俺は気にしてねぇから気楽にな」

「まるで緊張していないようだな。何か秘訣があるのか?」

「まぁ、人生経験の差(前世の経験)…かな」

「ふむ…経験の差か」

 

 ふむと少し悩む様な仕草をして俺の言った意味を考えているようだが、こればかりは説明したところで詮無き事だろう。

 

「退けデク!!俺の前に立つな。殺すぞ!」

 

 突如聞き覚えのある怒鳴り声に俺は反応し、天哉としては何事かと振り返ると爆豪がイズクに突っかかっている所であった。

 本日の試験はヒーロー科の試験ゆえに受験性は自ずとヒーロー志望という事になる。

 

「あれでヒーロー科志望なのか!?…言っていたように緊張しているのか」

 

 …いや、アレは素なんだが。

 怒声に威圧、殺すという単語を自然と放つ様に眉を潜めるも、ひと呼吸入れて頷き納得している天哉に対して心の中だけで突っ込むも口には出さない。

 

「…お互い最善を尽くそう」

「あぁ、共に雄英で学べるようにな」

 

 俺の言葉に熱を持ちながらも爽やかな笑みを浮かべて天哉は会場へと先に向かう。

 その堂々とした背を見送り、ちらりとイズクへ振り返ると躓いて“魚雷跳び”のように転びそうになるも、近くに居た女の子の個性に助けられ、何やらにこやかに声を掛けられ頬を朱に染めていた。

 微笑ましい様子に笑みを浮かべ自身も試験会場へと急ぐ。

 試験は筆記に実技の二種類あり、自分を含めてヒーローを目指す中学生がわんさかと席に付き、筆記試験を終えた彼ら・彼女らは今や今やと実技試験の説明を待っていた。

 目をギラギラ輝かせ、忙しなくちょこちょこ動いて興奮し切っている者。

 ドキマギと今にも倒れそうなほど身体を振るわせて緊張している者。

 どちらか知らぬが荒ぶっている精神を落ち着けようと何かしらしている者。

 様々な学生を眺めつつ、無一は小さくため息を吐き出して離れた席に座っている友人を心配する始末。

 

 ちらりと視線を向けると緑谷 出久はきょろきょろと辺りを見渡したりぶつぶつと何か呟いては、隣の爆豪 勝己の苛立ちを募らせて怒られている。

 それに否応なく当てられる周囲の学生達の不運を憐れみ、心の中だけで合掌しておく。

 まだかなとぼんやりと待っているとプロヒーローで雄英で教師としても働いているボイスヒーロー“プレゼント・マイク”が壇上に上がって来た。

 名門中の名門だからもっと堅苦しい説明会かと思ったが、そうでもないんだなと関心を寄せた。

 なにせプレゼント・マイクは教師を務めながらも毎週ラジオ出演したり、喋りは勿論メディア慣れした人物。

 こういった話の場には慣れ親しんでいるだろう。

 

「今日は俺のライヴにようこそー!!エヴィバディセイヘイ!!!」

「……よーこそー」

 

 …プレゼント・マイクの性格もあったのだろうけど緊張し切った学生達を和らげる目的もあったのだろうと思う。

 けどガチガチに緊張したり、真面目に受けに来た学生はそれに答えられる応用力は無かったようだ。

 なのであえて晒し者になる理解した上でほどほどに声を出して返す。

 するとまさか返す奴が居るとは思っていなかったのと、静まり返った空気が変に揺らいだせいか周囲の何人かが噴き出し、くすくすと笑ったり嗤ったりするものが出てきた。

 

「そこの受験生リスナー!返答サンキュー!!」

 

 周囲から浴びせられる“恥ずかしい奴”という視線を微塵も気にせず、お礼を言われてぺこりと頭を下げる。

 何か別方向(爆豪方面)から殺気だった視線も感じるがそれは無視だ。

 というかそっちはそっちでここまでぶつぶつと呟く声が未だに聞こえるのでそちらに向けて欲しい。

 多分ヒーローオタクのイズクがプレゼント・マイクに興奮して呟いているんだろうなぁ…。

 

 出だしから勢いのあるプレゼント・マイクの説明は続き、実技試験の内容と規則が表記される絵を伴って伝えられる。

 実技試験は【模擬市街地演習】。

 説明後は各々に割り振られた別の試験会場に移り、配られたプリントに表記された各種ごとにポイントが割り振られた仮想(ヴィラン)であるロボットを倒し、集計された合計ポイントで競うというものだった。

 無論他所への妨害行為はNGという事で。

 

「質問宜しいでしょうか!」

 

 プリントを見ながら説明を聞いているとイズクたちとは別方向に座っている天哉がピンと真っ直ぐ手を伸ばして挙手し、質問の許可をプレゼント・マイクに求めた。

 質問内容はプレゼント・マイクの説明では三種類(・・・)と言っていたのにも関わらず、プリントに記載された四種類目(・・・・)の仮想敵疑問に思っていただけに耳を傾けるも、天哉はプレゼント・マイクへの質問だけで終わらずにイズクに視線を向ける

 

「それとそこの君!気持ちは解る(・・・・・・)がぼそぼそと呟かれては周りの迷惑になるので止めるように!」

「は、はい!」

 

 緊張が本当に和らいだようでいつもの天哉に戻っていた事には良かったと思うも、急に注意されたことでイズクはガチガチになっているのは、自業自得として受けて貰う他ない。 

 ちなみに質問の四種類目はポイント無しの0P仮想敵でお邪魔虫(・・・・)、またはステージギミックと誰もが判断し、俺も同様に判断を下してしまった(・・・・)

 最後は校訓である決して折れる事の無い心と弛まぬ努力の末に己の限界という殻を破って“更に向こうへ!”と意味を込めた“Plus Ultra(プルス ウルトラ)!!”で締め括られ、模擬市街地演習の説明を終えた。

 

 説明が終わればそれぞれ宛がわれた試験会場に向かい、模擬市街地演習に挑むのだがその前に学生服から動きやすいジャージに着替えるべく更衣室に寄らなければ。

 ちゃっちゃと着替えを済ませ、試験会場に入って周囲を見渡す。

 市街地を想定した演習というだけあって広い範囲にビル群が聳え立っている。

 さすが雄英と驚くべきか呆れるべきか。

 苦笑を浮かべながら柔軟を行い、スタートラインに立つ。

 

「ハイ、スタートー」

 

 唐突に会場に響いた間の抜けた言葉に反応して跳び出した。

 周囲の受験生は戸惑った反応を見せて動いていない状況に、一瞬フライングしたと不安が襲ってきたが、足は止めずにそのまま動かす。

 もしもフライングであったなら注意か警告がされる筈だし、本当に開始の合図であれば立ち止まる事は真っ先に跳び出したという優位性を殺す事になる。

 

 

「どうした!?実戦じゃあカウントなんざねぇんだよ!走れ走れ!賽は投げられてんぞ!!」

 

 

 続いて響く言葉に安堵を覚えつつ、足に込める力を強める。

 同時にビルの脇より1P仮想敵が襲い掛かって来た。

 

 ―――咄嗟だった。

 振り被られた一撃を身体を半歩ずらしただけで躱し、勢いがついてだけに前のめりになった1Pの仮想敵を脚部を足で払いながら肩を掴んで向きに合わせて(・・・・・・・)押す。

 頭から大地に突っ込んで無防備な姿をさらしたところで、胴体と頭部を繋げる首部分を思いっきり踏みつけてゴキリとへし折った。

 開幕に見せつけられた受験生は焦りを覚えて、自分達もポイントを稼がねばと駆けだし始める。

 焦りとやる気が溢れる中、初撃破を成した無一だけはあまりの脆さ(・・・・・・)に困惑していた。

 

 この世界(ヒロアカ)と無一が生きていた前世(こちら側)では大きな違いが存在する。

 個々人が持っている超常の力“個性”は言わずもがなだが、人間の身体能力も異常に優れているのだ。

 見た相手の未来を“予知”する個性を持つヒーローは、予知した相手の動きに対応出来るほどの高い判断能力と身体能力を持っていた。

 相手の血を嘗めると体の自由を奪う“凝血”の個性を持つヴィランは分厚い氷柱を刀で叩き切ったり、壁を垂直に駆け上がるほどの人間離れした走行を行った。

 触れた対象を球状に“圧縮”出来る個性を持つヴィランは、聳え立つ木から木へと飛び移る高い跳躍力とバランス感覚、それと細く曲がり易い木の先端部に着地して跳ぶという技術を軽々と見せつけた。

 中でも目視している相手の個性を“抹消”する個性を持つヒーローは両手で捕縛した男女問わず成人三人を振り回し、大柄のヴィランを殴ればメートル単位で高く遠くへ吹っ飛ばした腕力と、16メートル(四階建てのビル)以上の高さがある階段を助走も付けずにひとっ跳びで降りる跳躍力と怪我する事も無く着地した頑丈さはもはや人間離れし過ぎている。

 他にも例を挙げてばもっと多くの人物達がここに連なるだろう。

 

 “個性”ばかりか人間の身体能力も計り知れないこの世界。

 祖父の繋がりを利用して引退・現役問わず実力のあるプロヒーローに教えを乞い、幼少期から炎と氷の二つの個性を持った少年とは違って自らが意欲的(・・・)に鍛えていた扇動 無一の身体能力も異様な向上を見せた。

 さらに仮想ヴィランのロボット達は戦闘に不慣れな中学生でも対処出来るように、単純でほどほどに脆く作られている。

 現在別の会場で試験に挑んでいる飯田は、個性により脹脛にエンジンのような器官が備わっていて驚異的な加速を得る事が出来、足先より跳び蹴りを喰らわせて装甲ごと砕くシーンが描かれている。

 そう脹脛のエンジンによって速度は得ているけど、足先は別段何かが備わっている様子はない。

 驚異的加速を得た事で運動靴で包んだ人間の足がロボットの装甲を貫通する脆さ(・・)

 

 ロボットは印象的に人間では壊せない硬さを有していると思い込んでいた(・・・・・・・)だけに、この想定外の二点は無一を驚かせるに十分たるものだった。

 それも良い意味で。

 正直対人戦ならまだしも対ロボット戦は自信が無かった為、どうしようかと策を練っていただけに無駄になるも、これならば何とでも出来る。

 無論四種類全部がという訳ではないだろうけど、合格への突破口が見えた。

 

「こういう時って――“勝利の法則は決まった”って言うべきかな?」

 

 前世の記憶を漁ってぽつりと漏らした言葉に頬を緩ませ、ヒーローへの道に踏み込むべくひたすらに駆けるのであった。

  

 

 

 

 

 

 実技試験の為に用意した四種類の仮想敵。

 当然ながら戦闘経験が無く、自身の個性を使い熟せていない中学生を振るいにかけるだけに、武装も装甲もそれほど強くない。

 システムを受験者をロックオンすれば追尾して行き、襲い掛かるという単純なもの。

 プロヒーローからすれば案山子同然の的だろう。

 だが、まだまだ未熟でヒーローの素質があるものを選別するには丁度良い。

 

 プレゼント・マイクによる試験開始の宣言により、各試験会場にてさすが高い倍率に挑んで来るだけあって派手で強い個性を持った者が多く、自身の個性を使って合格を掴もうと必死に暴れ回っている。

 一般的に個性の使用というのはヒーロー免許でも持ってない限りは禁止である為、思いっきり使う機会というのはほとんどの者が無く、使い慣れない者も居れば強弱の加減が出来ていない者も多くみられる。

 彼ら・彼女らは人としてもヒーローとしても幼く未熟過ぎる原石なのだ。

 その原石の中から一握りの生徒を厳選し、共に荒くも精密にも研磨してプロヒーローへと道に導いてやるのが雄英教師陣の役目…。

 荒れ狂う各試験場に仕掛けてあるカメラの映像を見る事が出来るモニタールームにて、採点を行う雄英教師陣が模擬市街地演習をしっかりと見つめていた。

 中にはポイントを得るために強引な行為に及ぶ者や周囲を全く見ておらずに巻き込んでしまう者、怪我した者に対して競争相手が減ったと言わんばかりにほくそ笑む者などヒーローを目指すにしても不適切な者らも見受けられため息を漏らす。

 この試験で見ているのは状況を素早く把握する“情報力”、即座に現場に駆け付けれる“機動力”、如何なる状況でも対応できる“判断力”、ヴィランとの戦闘なども加味した純然たる“戦闘能力”、そしてあえて(・・・)説明から省いた誰かを助ける“救助活動”の五点。

 限定された時間で広大な敷地で炙り出された五点を吟味するポイントで今年の合格者が決定する。

 それぞれの教師達はモニター越しに全体を見ながら、途中途中にあの子が良いとか、凄いとか感想を混ぜる。

 

「お!さっきのリスナーじゃん」

 

 これもそんな一コマだった。

 プレゼント・マイクの一言に数人が耳を傾ける。

 見ている先には扇動 無一が移り込んでいた。

 かなり速いペースで駆け巡り、出合い頭に襲ってきた1P仮想敵を軽く投げ飛ばす(・・・・・・・)

 投げられた1P仮想敵は頭から地面に落ち、自重も加わって首部分のパーツがへし折れて行動不能に陥った。

 撃破された事から自動的に点数が加算され、その合計数値は30を超えていた。

 

「この子が気になったの?」

 

 ほぼ独り言に近かったが元々声が大きい事もあって、皆の耳に入った一言を18禁ヒーロー“ミッドナイト”が拾う。

 高校の教師の筈なのだが出るところは出て引っ込むところは引っ込んだ魅力的な身体を、際立たせるようなボディスーツと極薄タイツで構成されたコスチュームを身にまとっている。

 思春期真っ盛りの彼らには刺激が強いと思われるも、雄英生徒時代のコスチュームを間近に見たことのある後輩のプレゼント・マイクと抹消ヒーロー“イレイザー・ヘッド”にしてみれば以前に比べてかなり落ち着いて見えている。

 

「言ったろ?一人だけ答えてくれた学生リスナーの話」

 

 そう返されて説明を終えたマイクが話していた内容を思い出すも大半が聞き流していた為に思い出すのに少し間を要した。

 

「あの子がそうなのね」

「いやはやクレイジーだぜ!ああもポンポン投げれるか普通!!」

「動キニモホトンド(・・・・)無駄ガナイ。状況把握モ早イヨウダ」

「強化系かしら」

 

 会話にダブルボタンマントで身を隠し、耳元まで裂けた口に口許以外を覆う禍々しいフェイスマスクが特徴的な“エクトプラズム”も少しばかり参加した。

 誰もが個性を疑うのは仕方がない。

 30名強の定員に対して300もの倍率に膨れ上がった学生を見るのだからひとりひとりを観察する訳にもいかないのだから。

 だが一人だけその動きを目で追っている者が居た。

 

 無一が目標にしているヒーロー―――“イレイザー・ヘッド”こと相澤 消太(アイザワ ショウタ)だ。

 

 確かにパッと見れば強化系の個性のように見えるがそうではない。

 用意された仮想敵は目標を定めたらただただ向かっていく仕掛けになっていて、1P仮想敵は四種類の中では一番脆く高い機動力を持ち、勢い任せに襲い掛かって来る。

 無一は振り上げられた腕部を掴むと受け止めるのではなくそのまま受け流しながらそちらへと引っ張り、バランスを崩したところで足元を無理せぬ程度に力を込めて払う。

 元々一輪走行しているためにバランスは悪く、そこを攻められてはひとたまりもない。

 無理に真っ向から力勝負はせずに、相手の力すら利用して攻撃に転じる。

 それをプロヒーローが一見しただけでは気付かせない程自然に行うのだから、ただの中坊にしては恐ろしいほどの技術だ。

 さらに注視すれば1Pだけではなく四種類の中では二番目(・・・)に重装甲で巨躯の3P仮想敵も狩っている。

 やり口は簡単で転がっていた仮想敵のパーツをモニター部分に突き刺すか、鈍器のように扱って叩き壊すなど徹底的に頭を狙ってやがる。

 

「おいおいちょっと待てよ!?こいつ無個性(・・・)だぜ!!」

「それ本当?」

 

 どうも気になったマイクがデータを閲覧したようで、個性無しに驚愕しているのが声と雰囲気から分かるが、相澤はちゃんとモニターを見ろよとイラっとしながら思った。

 にしても無個性でヒーローを目指すなんて非現実的だ。

 どれほどの努力を重ねてきたのやら…。

 駆け回りながら時たま声を張り上げても乱れていない呼吸からもかなりの持久力を有しているのが解る。

 それによく用意された仮想敵の事を把握している。

 

 確かに目標に定めたらずっと追っていく簡単なシステムが組まれているが、目標を発見するまでは目と耳で判断する。

 つまり姿が見えない位置に居る仮想敵は音に反応して寄って来るのだ。

 それを効率よく行っているのが“爆破”の個性を使用する爆豪だろう。

 なにせ仮想敵を攻撃すれば否応が無しに爆音が響き渡り、近場の仮想敵が反応して寄って来るのだから。

 

 見ている限り加味する四点に加え、怪我人には簡単な応急手当を手短に行ったり、仮想敵との戦闘で危ない場面が有ったら横取りではなく、破壊されて転がっているパーツを投げるなり他の者を援護して助ける場面も見られるので救助活動も行い評価は高いだろう。

 だからこそあの0P仮想敵を前にどう動くのか…。

 相澤は目を細めながらモニターを見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 扇動 無一は試験が開始してからずっと走り回っていた。

 ポイントはかなり稼いだ筈だけど正直数えていない…否、数える余裕など端から捨てている。

 そんな事に思考を割くぐらいなら情報収集に努めるのが有意義だろう。

 何ポイントで合格など受験者は解からないし、他の受験者の様子を伺おうにも会場は複数ある上に眺めている余裕なぞない。なら考えるよりも稼げるだけ稼ぐ他ない。

 などと思いながらもさすがに怪我人は放置できなかったし、戦い方が危なげで少しばかり手を出してはポイントにならない時間を費やしてしまったのは合否を考えたら少し不味いか。

 ペースを上げて仮想敵を探す中、会場全体が大きく揺れる。

 地震にしては妙だと思うより前にビルが崩しながら、ビルに負けない程巨大なロボットが姿を現した。

 外見より四種類目の0P仮想敵と判断すると苦虫を嚙み潰した表情を晒す。

 同時に圧倒的な仮想敵に慄いて悲鳴が挙がり、ポイントにならない事も相まって受験者は脱兎の如く逃げ出して行く。

 勝てない相手に挑むのも無謀だし、ポイントにならないギミックに挑んでも意味がない。

 だから戦闘を回避すべく移動するのは間違っていないが、我先にと周囲を鑑みずに走り出すのは頂けない。

 

「慌てて駆けんな!他の受験者を巻き込みかねない!あの仮想敵はそれほど動きは早くない。慌てず急がず落ち着いて!!」

 

 どれだけ効果があるかは解らない。

 だけど声を張らずにはいられないかった。

 集団の中で慌てて駆けだせば躓く者もぶつかってしまう者も出るだろう。

 踏まれればギャグマンガのように済まず、捻挫や骨折などの怪我は勿論の事ながら最悪圧死の可能性すらある。

 周囲を見渡せば転んだりした受験生がちらほらと見受けられる。

 中には腰を抜かしたかのようにその場にへたり込んでいる者…。

 

「無事か?怪我をしたのか?―――オイ」

 

 声をかけてもへたり込んだ女学生は反応が無く、大きな音が出るように開手を打つ。

 ハッと我に還った桃色の肌の女学生はびくりと身体を震わす。

 

「怪我は?動けるか?」

「あ…うん、大丈夫!」

 

 戸惑いサッと確認した彼女は大きく頷き、差し出した手を取って立ち上がる。

 立ち上がる様子から本当に怪我はなさそうで、仮想敵から離れる事は出来るだろう。

 だけど逃げ遅れた者もいる。

 

 0P仮想敵は巨大な体躯に見合った鈍足な移動速度で迫っているとは言え、万が一にもその巨体を支えるキャタピラに踏まれればひとたまりもない。

 いや、作られた大通りを進むだけでビルを崩しているので、落ちて来る瓦礫に潰される事も考えられる。

 

 どうするべきか…。

 挑むべきかと悩むもアレには勝てないと判断を下し、その足を止める。

 自分に出来るのは精々囮になることぐらいだ。

 

 なんで合否に関係ない(・・・・・・・)相手に挑もうとしてんのか俺は…。

 若干呆れ交じりにため息を漏らすも身体は0P仮想敵を向いたままだ。

 

 周囲に逃げ遅れが居るのに見捨てるのも性に合わないし、ここで逃げたらアイツらに合わせる顔が無い。

 出来る事を出来得る限りやる。

 

「アレに挑む気(・・・)なのか!?熱ぃなオイ!!」

 

 逃げるどころか勘違いして近づいてきた奴が居るらしい。

 後ろから掛けられた大声に反応して振り返ると、他にも何名かが集まって来ていた。

 避難を勧めに来たのか、真っ先に近づいてきた奴みたいに勘違いして来たのかは解らないが…。

 

 もう試験時間も残り少ない。

 あの台詞を口にするには早すぎたなと肩を落とし、「さて、どうしたものか…」と呟いた。




 勝利の法則は決まった
 【仮面ライダービルド】桐生 戦兎より


 
 
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