無個性オリ主が共にヒーロー目指す!   作:チェリオ

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第40話 いざ、扇動家へ

 休校日初日。

 前日の体育祭の疲労もあって多くの生徒が休んでいる中、ヒーロー科の生徒幾人かは扇動の家へと訪れていた。

 

 「デカッ!?」

 「ここに二人で住んでいるのかよ!?」

 

 テレビや漫画に出て来るような豪邸ではないものの二世帯または三世帯で済んでも十分そうな程大きく、そこに二人で住んでいるという事実を代表して峰田と上鳴が口にした。

 多くは同意見であるのだけど唯一例外となる八百万は首を傾げている。

 

 「本当に大きいね!」

 「これなら扇動の言うように大勢で来ても大丈夫だったね」

 「さすがに多いんじゃない?」

 

 扇動の家に訪れたのは十四名。

 A組からは緑谷 出久、切島 鋭児郎、峰田 実、上鳴 電気、常闇 踏陰、八百万 百、耳郎 響香、芦戸 三奈、葉隠 透で、B組からは鉄哲 徹鐵、黒色 支配、拳藤 一佳、取蔭 切奈、柳 レイ子。

 他にも興味本位から来たがっていたのだけど、あまり大勢で行ったら迷惑だろうと断念したのだ。

 すでに十四名と多い気もしていたのだが、扇動が大勢でも問題ねぇと言った事から不安ながらも、広さ的には本当に問題なかったらしい。

 いつもであれば飯田 天哉や麗日 お茶子も加わっていたかも知れないが二人共来れなかった。

 飯田は昨日からの用事で、麗日は買い出しから帰ると実家から両親が訪れていたので急遽取り止めとなったのだ。

 

 「大丈夫か?顔色というか色々と凄い事になってるぞ?」

 「ダ、ダイジョウブダヨ…」

 

 訪れる面子が揃った事からチャイムを鳴らそうとするも、明らかに緊張でガチガチに強張った緑谷の様子に手が止まる。

 友達とは言え初めて家に遊びに行くとなると緊張もするが大概の人は楽しみなどの感情の方が勝るだろうけど、あまりに久方ぶり過ぎて緑谷は緊張が勝ってしまっているのだ。

 おかげで身体はガチガチに強張り、手に持っていた菓子折りごと携帯電話のバイブ機能並みに震えていた。

 

 「ただ遊びに来ただけなんだから気楽に行こうぜ」

 「ウ、ウン」

 「駄目だなこりゃあ」

 

 片言で返す様子にクスリと笑いが零れる中、八百万がチャイムを鳴らす。

 奥から足音が聞こえ、それはゆっくりと近づいてくるのが解る。

 同時に緑谷の緊張も上がって鼓動が早まる。

 ついに足音はすぐ側まで迫り、玄関がガチャリと開いた。

 

 「こ、これ!つまらないものですが!」

 「いや、早ぇよ!」

 「落ち着けって…」

 

 開いた瞬間に頭を下げて菓子折りを差し出した事に突っ込まれ、緑谷は恥ずかしそうにしながら顔を上げた。

 そこで玄関を開けたのが扇動ではなく、同居している轟だった事で余計に恥ずかしく俯く。

 

 「あら?今日は轟さんなのですね」

 「扇動は手が離せないらしくてな。とりあえず上がってくれ」

 「お邪魔しますわ」

 「「「お邪魔します」」」

 

 何度も訪れている八百万を先頭にして言われるがままに上がって行く。

 入ってから廊下を進んでまず案内されたのはダイニングルーム。

 お茶を用意するという事で椅子やソファを勧められて腰を降ろす。

 男二人暮らしというからにはもっと散らかっているのをイメージしていた者が多く、実際には片付いている様子に驚いていた。

 待っている間は暇潰しがてら周りを眺めてしていると、誰もが食器棚前で戸惑っている轟に目が留まった。

 どうしたのかなと誰もが疑問符を浮かべながら見ていると八百万が問いかける。

 

 「どうしたのですか?」

 「カップの場所は何処だったか」

 「お客様用のでしたら一番左の棚奥ですわ」

 「ポットは…」

 「ポットでしたら茶葉と一緒にこちらに」

 「お茶菓子は…」

 「取り置きしている物でしたら戸棚に。作られたものでしたら冷蔵庫では?」

 「珈琲豆…」

 「珈琲やココアでしたら茶葉の下の棚にですね」

 

 登校日には毎朝訪れてお茶を淹れて貰ったり、以前に淹れ方を扇動に教えたりと扇動家の台所の勝手知ったる八百万は、場所を教えながら用意を始め、終いには轟は持て成す側が持て成される側と入れ替わっていた。

 

 「いやいやいや!ホストとゲスト逆じゃね!?」

 「住んでる轟よりヤオモモの方が詳しいってどうなのよ…」

 「いつもは扇動にして貰ってたからな」

 

 轟の口から扇動の名が出た事と、紅茶を淹れるにも時間が掛かる為に疑問を口にする。

 八百万や耳郎は別としてどうして扇動の家に同居しているのか?とか、男二人で家事とかどうしているのか?などなど質問を口にする。 

 扇動に世話になっている理由である轟家の事情は伏せ、通学の利便性とトレーニングに適して居る等、以前扇動が八百万や耳郎に説明したように伝える。

 その説明に対して誰もが“羨ましい”と思った。

 

 家事全般は扇動が行うので気にせずに鍛錬に集中でき、トレーニング器具が揃っている上にトレーナー(扇動)付き。

 ヒーローを目指す学生にとって最高とまでは言えなくても、十二分に整えられた環境。

 特に切島や鉄哲は羨ましいと思うと同時にトレーニングルームに興味津々である。

 それとは別に扇動が要らない・しなくて良いと言ったとしても食費や家事など面倒を見て貰っている実情に別の事を思う者もちらほらと…。

 

 「んー、なんかヒモ(・・)みたいだね」

 「正確には違うけどね…」

 

 何気なく放たれた葉隠の言葉に何人かが固まったり、戸惑ったりで静寂が訪れる。

 逆にヒモの意味が解らない八百万と轟は首を傾げてしまう。

 丁度そのタイミングで作務衣姿の扇動が姿を現し、「いらっしゃい」と口にして眠たげに欠伸を零す。

 八百万に珈琲or紅茶かを問われ、紅茶と答えてソファに腰かけたところで轟が先の疑問を問いかけた。

 

 「なぁ、ヒモってなんだ?」

 「あー…初期のレイ君(こどものおもちゃ 相模 玲)…」

 「「「誰だよっ!?」」」

 「人の名前出されても…もしかして扇動寝ぼけてる?」

 

 眠気もあったのか妙にズレた解答で、他の面子が轟と八百万に説明をする羽目に。

 それにしても扇動がだらけ(・・・)、無防備というのは珍しい光景だ。

 眼の下にはクマが薄っすらと出来ており、かなり睡魔で弱っているらしい。

 

 「むーくん、大丈夫?」

 「大丈夫だ。問題ない」

 「クマ出来てんじゃん」

 「まぁ、昨日は中々寝付けなくてな」

 

 半分は嘘である。

 体育祭トーナメントでの爆豪戦でのダメージ(怪我や痛み)で多少寝辛くはあったが寝れないほどではなかった。

 打ち上げより帰宅した扇動は録画していた体育祭の中継映像を視ながらA組に関わらず新たに得たデータを追加しようと打ち込み、さらには台本と楽譜と締め切りに追われているので、作業に勤しんだりと寝る間を惜しんだに過ぎない。

 結果、仮眠程度しか寝れずにいつも通りの早朝に起きる事に…。

 

 そんな状態の扇動に簡単にヒモの説明を受けて、このままではいけないと轟が迫る。

 

 「扇動、俺に(※家事とかで)出来る事はないか?」

 「…朝食で海苔を炙ってるだろ。アレを自分の個性()でやってみるか?火が強くても炙る時間が長くてもすぐ焦げる」

 「分かった。他には?」

 「他?他かぁ…そうだな。風呂とか。氷を出して炎で溶かして温度調整をするんだ。目標温度にするまで温めたり冷やしたりを繰り返して、徐々に調整回数を減らすようにするんだ」

 

 やる気十分に頷く轟であったが皆は「家事というより個性の特訓では?」と思うのであった。

 

 「お茶とお菓子の用意出来ましたわ」

 「おぅ、すまない。ゲストなのに任せっきりで」

 「お気になさらず」

 

 そう言って八百万は紅茶に珈琲、それとお茶菓子にと用意されていた一口タルトを配膳して行く。

 一口タルトの上に小さく刻まれた桃が花のように添えられ、パクリと頬張ればサクリと香ばしいタルト生地に、甘味もあるがどちらかと言えばさっぱりとしたヨーグルトとレモンの風味が広がり、それが桃の甘みを際立たせる。

 誰もが美味しい、美味しいと口にしながら紅茶や珈琲に口を付ける。

 

 「悪いけどアレ(・・)取って貰えるかお嬢」

 「コレ(・・)ですね」

 

 そんな中、一口タルトを作って用意していた本人である扇動は、八百万から紙袋に入ったシュガードーナツを受け取ってガブリと頬張る。

 

 「扇動、タルト食べないの?」

 「脳を酷使していたから今は糖分が欲しくてな」

 「ならアタシが貰って良い?」

 「構わねぇよ。…っと、ならアレ(・・)も出そうか」

 「お饅頭と煎餅がありますけど?」

 「小袋だから両方出しても問題ねぇだろ」

 

 一人五個ずつ配られたタルトに加えて、戸棚にあった饅頭などがテーブルの真ん中に置かれ、各々に手に取って話しながら口にする中、どうしてアレ(・・)の一言で通じるんだろうと緑谷は扇動と八百万を不思議そうに眺めるのであった。

 

 

 

 扇動の家は広い割りに当初の予定では一人暮らしだった為、多くの部屋が余っていたのでトレーニングルームや書斎、音楽部屋など専用の部屋になっている。

 後に轟が同居する事になって轟の自室が増えたり、物置部屋やシアタールームなど追加で増えたりして、家の中を案内されるだけでも結構楽しいものである。

 各部屋の説明を受けながら一回りするとそれぞれ興味を抱いた部屋が異なったのもあり、各自ばらけて楽しむ事に成った。

 

 特に人が多かったのはトレーニングルームである。

 スポーツジムのように多種多様なトレーニング器具が並び、中にはベンチプレスのように事故起きた際に一人で対処出来ない物もあるので、轟が使い方を教えながら面倒を見ていた。

 

 「スポーツジムほど広くはないけど充実してるね」

 「そうですわね。これらを扇動さんと轟さんは毎日していらっしゃいますの?」

 

 軽く触れながら周っていた拳藤と八百万はベンチプレスをしている緑谷のサポートをしている轟に問いかける。

 緑谷が持ち上げたバーを引っ掛けに乗せたのを確認して頷いた。

 

 「平日は多少だけど休日とか時間があれば。扇動は毎日全部使っているらしいが」

 「毎日!?これら全部!?」

 「アイツ朝早ぇから」

 

 無個性というハンデ(・・・)を補う為にはそれぐらい必要なのかと並ぶ器具の数々を見渡しながら感心する。

 見渡していると切島と鉄哲であーだこーだと言いながら首を傾げているのが映った。

 先ほどまでサンドバッグやパンチングボールなどボクシング系の器具を使用していたのだが、今度はランニングマシーンを使ってみようと思ったのだろう。

 しかしそのランニングマシーンの後方にはマットが敷かれ、二台の間には腰より高めのテーブルが置かれていたりと不思議な点が見受けられる。

 

 「なぁ、轟!これってなんであるんだ?」

 「あぁ、ゲーム用だな。マットは怪我防止でテーブルはリモコンを乗せる台」

 「ゲーム?」

 「ランニングマシーンの速度を徐々に上げて、時速25キロになった時点でどちらが先にリモコンを手にして止めれるかっていう遊び」

 「面白そうだなそれ!良し、やってみようぜ切島!」

 「おうよ!」

 

 面白そうと早速やってみる切島と鉄哲。

 その後、八百万・拳藤・緑谷・轟の四人が見守る中で二人はリモコンを掴み損ね、転ぶとそのままマットへと飛ばされるのであった…。 

 

 

 

 トレーニングルームで切島と鉄哲がマットに沈んでいた頃、常闇・黒色・上鳴は共に物置部屋に足を踏み入れていた。

 案内時にちらりと見た時から興味がそそられて仕方がない。

 なにせその物置部屋に置かれている物は扇動が発目に制作依頼した物やその過程で生まれた型などなど。

 サポートアイテムと呼べる品物でもなく、危険性もないとパワーローダーに判断され、置きっぱなしにされても邪魔だから何とかしろと言われた数々…。

 開発工房前に飾ってあったシャドームーンやブラックサンで感性を惹き付けられた常闇と黒色が興味を抱かぬはずがなく、二人ほどではないが男心を擽られた上鳴も訪れたという訳だ。

 ただ好き勝手に触って良いのかは解らず、判断する為にも呼ばれた扇動も同行している。

 

 物置には型らしいグローブや籠手、シューズなどが所狭しと置かれているが、中には充分なスペースを確保して大事そうに飾られている物もある。

 それは何種類ものベルトであった。

 壁に取り付けられた棚に鎮座するベルトは軽く見ても二十以上はあり、デザインや取り付けられた機器が一つ一つ異なっている。

 

 「スッゲェ!色んなモンがあるな」

 「ベルトがたくさん…」

 「これもサポート科の作品なのか?」

 「いや、それらは昔趣味で作ったもんだ」

 「趣味か。ならこれらもか?」

 「そっちは趣味半分鍛錬半分…ってところか?」

 「何故お前が疑問形なんだ」

 

 それは奥の方に置かれていたモデルガン。

 自動拳銃に回転拳銃、短機関銃に突撃銃など少なくない数が置かれ、気になった上鳴が手に取って構える。

 続いて常闇もそそられて手に取る中、黒色だけは側に置かれていた物を興味深く見つめる。

 

 「これは…なんだ?」

 

 形や大きさから腕に装着するものだとは解かったものの、それが一体何をする為の物なのかはジッと眺めても判断がつかない。

 レールやスプリングが付いている事からナニカを滑らせるのだろうけど…。

 首を傾げながら問いかけると実演も兼ねて扇動が腕に装着し、コルト.25(ポケットピストル)のモデルガンをレールの肘近くの引っ掛けに取り付けて、腕を振るように伸ばすとレールをコルト.25が滑るように移動して掌にすっぽりと収まった。

 目の当たりにした三人…特に黒色と常闇を眼を輝かせていた。

 

 「使ってみても良いか?」

 「勿論良いぞ」

 

 受け取ると早速と言わんばかりに試しては嬉しそうに笑う。

 俺も使ってみたいと逸る気持ちを抑え、常闇は平静を装いうように努める。

 

 「確かサポートアイテムで銃を使っていた筈だが、これは使わないのか?」

 「使わないってか使えない。仕込むには服を緩めにしなきゃあならんし、そもそも大き過ぎて仕込むには向かん。何より合わねぇんだ(・・・・・・)

 

 合わないの意味は常闇には解らない。

 だが知っている(・・・・・)扇動としてはウィザードの衣装で仕込み銃を使う所が想像出来ないのだ。

 気になっているようなので逸らそうと常闇に籠手を装着させる。

 されるがままに腕に付けられた上に下部の装置から繋がる紐を指に引っ掛けられ、疑問が残りつつも籠手を注視していた。

 最後に紐を引っ掛けた指を動かせば、下部の装置よりナイフが飛び出す。

 本物の刃だと危険なので木製のナイフではあるが、そんなの関係なく機構と隠し武器の前に先の疑問など消し飛んでしまう程関心を向ける。

 

 「こ、これは!?」

 「アサシンブレードっていう再現武器だな」 

 「アサシンブレード…」

 

 アサシンブレードを夢中になって見つめていた常闇。

 その様子を眺めていた黒色に気付いて自然と対峙する。

 言葉を合わせる事無く二人共同タイミングでブレードと銃を構えて止まった。

 中々様になっている構図に上鳴は声を漏らしながらカシャリと携帯で写真を撮り、楽しそうな三人(特に二人)に「壊さなければ好きにしてくれていい」と言い残して扇動は仕事もあるので物置部屋を後にするも、スイッチ(・・・・)が入ってしまった二名はそれにも気付かずに物置部屋の数々のアイテムを前に遊び倒すのであった。

 

 

 

 

 

 皆、楽しんでいた。

 シアタールームでは柳がホラー映画鑑賞を、小さいながらもカラオケ機材を完備した一室には取蔭に芦戸に葉隠がわいわいと盛り上がっていた。

 唯一例外として耳郎 響香だけは少し辛そうに音楽室にてギターに触れていた。

 

 世間では雄英体育祭で無個性であるも優勝した扇動に脚光が向けられ、ニュースなどで凄いと好評する声が挙がっている。 

 けどウチらからしたら扇動が凄いなんて今更…と言う感じだ。

 戦闘訓練では策を巡らし、ヴィラン襲撃時では戦闘技術を目の前で披露されているだけに、優勝した事に驚きこそしたがそこまでというものではない。

 扇動なら…と思っていた部分も確かにあったからだ。

 個性の有無を問わずに扇動は知略と技術を持ってA組の実力者上位に食い込んでいる。

 寧ろ凄いと思うのは放課後はクラスメイトの特訓で自分の時間を潰し、“猿渡 一海”の名で音楽関係を続けながら今日の結果を叩き出したという事実の方だ。

 

 “猿渡 一海”は扇動が使っているペンネームで、出す曲出す曲ヒットを連発させた有名人である。

 …メディアに顔出しする事が無く個人なのかグループ名なのか、そもそも性別すら公表されていない正体不明というのもあって余計に有名なのもあるが…。

 ちなみに正体を知っているのは本人曰く両手の指の数で事足りるという。

 好きな作曲・作詞家の秘密を知っている数少ない一人だと思うとちょっぴり優越感に浸れる。

 

 だけど…いや、だからこそ(・・・・・)扇動 無一は頼りになるクラスメイトで憧れの人物でもあり、恨み妬みの対象(・・・・・・・)でもあった。 

 

 両親が音楽関係(ミュージシャン)の仕事をしている影響もあって幼い頃からウチも音楽は大好きだ。

 …いつかは両親と同じく音楽への道をと考えていたのに、ヒーローに憧れを覚えては日に日に強くなっていった。

 けど易々と音楽とヒーローの両立は難しい。

 ウチは音楽の道ではなくヒーローへの道を選んだ。

 なのに扇動は名こそ出していないものの音楽を広げながら、ヒーローへの道をズカズカと進んでいく。

 

 羨ましい…。

 時たま考えてしまう。

 どちらも出来たのなら良かったのにと憎しみに近い嫉妬を抱く…。

 そしてそんな自分が嫌で嫌で仕方がなかった。

 

 「ん…あぁ、すまん。邪魔したか?」

 

 ガチャリと音がして扉が開いたので振り向くと、扇動がキョトンとした顔でこちらを見つめていた。

 考え込んでいた内容が内容なだけに酷い顔をしていたのだろう。

 何でもないよと誤魔化すように笑みを作る。

 

 「そんな事ないよ。って、それ楽譜?」

 「夏向けに曲を頼まれててさ」

 「ふぅん…、聞いてても良い?」

 「構わんよ」

 

 新曲という事はお披露目前に聞かせては不味いだろうに…。

 まだ眠たくて思考がちゃんと働いてないのか、それともそれだけ信頼されているという事なのか。

 なんにせよ小さく歌いながら奏でる曲をぼんやりと耳を傾ける。

 歌詞は良い。

 曲も良い。

 しかしながらテンポが悪い。

 これは意図している訳ではなく、扇動の腕に寄るものだろう。

 以前買い物に行った際に“一応”弾けると答えていた事からあまり得意ではないのだろうとは思ってはいたが、まさかここまで下手だとは思いも寄らなかった。

 扇動にも苦手なものってあるんだなと思うと小さく笑ってしまい、察した扇動は僅かにだが恥ずかしそうに苦笑する。

 

 「ごめん。でもちょっと意外だったかも」

 「俺も人だ。得手不得手はある」

 「本当に意外だわ。扇動って何でも出来そうなイメージあったから」

 「出来ねぇことの方が多いんだが」

 「そう…なんだ…」

 「そうだよ」

 

 ポツリと呟くと扇動はギターを置いてこちらを見据えてきた。

 その眼が自分の感情を見抜いている様で怖く、そっと目を逸らす。

 

 「何でもいい。あやふやでも文章として不完全でもその溜め込んでるもん吐き出してみろ」

 「…笑わない?」

 「事による」

 「こういう時って普通笑わないって確約するんじゃないの?」

 

 と言うも扇動は前のめりな姿勢でこちらを見つめるばかり。

 何処か優し気な瞳に若干の後ろめたさを感じながら自分の想いをぽつりぽつりと口にする。

 話としては文面は乱れ、前後したりするので不格好。

 それに茶々を淹れる事もなく真剣に相槌を打ちながら聞き続ける。

 想いや感情をそのまま吐き出している為に時折口どもったり、声が震えるたりと徐々に昂って止め処なく言葉が漏れ出してしまった…。

 

 「扇動は凄いよ。音楽もヒーローも熟して。ウチはどっちもなんて……あぁ、本当に扇動が羨ましいよ。色々と恵まれて(・・・・)、同い年で大成功を収めて………ズルイよ…――――ッ!?」

 

 俯き加減にポツリと漏らした言葉にハッと我に返った。

 そこまで(・・・・)…いや、そんな事を言うつもりは毛頭なかったというのに。

 自分でも思ってもみない言葉に戸惑う。

 

 ヒーローと音楽の二足の草鞋を易々と履き熟せる筈もない。

 相当な努力をしてきたなんて少し考えればわかる事だ。

 昨日のダメージと怪我も完全に癒えていない状態で、目の下にクマを作ってでも締め切りを護らんと務めている。

 自分が放ってしまった“らしく”ない言葉に戸惑い後悔が沸き起こり、不安の入り混じった視線で扇動の様子を窺うと表情に変化はなかったが手をゆっくりと上げた事にギュッと眼を閉じて身構えた。

 叩かれるというよりは怒られると思って咄嗟に目を瞑ったのだけど、思っていた反応が向けられることはなかった。

 代わりに頭をゆったりとした動作で撫でられ、その手から優しく温かな感触が伝わってくる。

 

 「良く吐き出せたな。偉いぞ」

 

 たったそれだけだった。

 追及も怒りもない一言。

 それはそれで戸惑ってしまう。

 

 「怒ってないの?」

 「別に、その通りだしな。両親に爺ちゃん、家にも恵まれただけでなくコネまで使えるんだ。ズリィだろう?」

 

 呆気カランと言い放つ扇動は何処か嬉しそうに、何処か悲しそうに仰いだ。

 どうしたのだろうと眺めていると少しばかり真面目な表情で振り向いた。

 

 「それに音楽に関しては確かにズルしてるからな」

 「ズル?」

 「…ある男の話なんだがそいつはある事がきっかけでパラレルワールドに渡ってしまったんだ。けど街並みも人間関係も全く同じ。唯一の違いは世界的有名なミュージシャンが存在しないという事。彼はその事を知らずにある筈でない曲を身近な人の前で弾き、たちまち大きく絶賛されて周囲に伝わっていった………何が言いたいか解るか?」

 「いや、ごめん…解んない」

 「俺はその男性に近い存在なんだ」

 

 現実的ではない話に扇動の発言…。

 どう反応して良いのか解らずに押し黙り、妙な沈黙が僅かな時間だけ流れ、耐え切れずに噴き出してしまった。

 

 「プッ、アハハハハ。扇動でも冗談言うんだ」

 「受けたなら何よりだ」

 「ハハハ、でもあんまりセンスはないんだね」

 「言ってくれるな」

 

 笑い過ぎてお腹を抱える耳郎に、扇動は席を立って奥からもう一つギターと楽譜を持ってくる。

 

 「二兎を追う者は一兎をも得ず。どちら()を選ぶかどちら()を選ぶか…以前イズクにも似たような事を言ったな。夢を目指して険しい道を進むも片方に絞って堅実に進んでも良し―――どちらを進んでも俺は応援してやんよ」

 

 にっかりと笑った扇動より差し出されたギターを見つめる。

 「音楽は好きなんだろ?」と言われて頷いて受け取り、渡された楽譜(ハイキュー!!第四期OP)に目を通しながら弾いてみた。

 楽器の扱いと違って歌うのは上手い扇動に合わせて歌詞を口ずさむ。

 まったく扇動は()である。

 どちらでもと言いながら歌詞が色々と今の自分に沁み込んで考えさせられる。

 歌詞の噛み締めながら扇動も耳郎も音楽を堪能した。

 

 

 

 夕刻。

 扇動家をそれぞれ楽しんだ面々はリビングルームに戻って来ていた。

 ほとんどが満喫していたのだが、峰田だけは悔しそうに地団駄を踏んでいた。

 

 「クッソォ!なんでエロ本の一冊も見つからねぇんだよ!!」

 「それが目的だったの!?」

 「あの余裕綽々な扇動がどんな臆面を持っているか暴けると思ったのに!!」

 「本人居るのに大々的に言うなよ…」

 

 何故打ち上げで扇動の家に行きたがっていたのかの理由が解けて納得するも呆れ顔を向ける者が大半。

 要は妬みから扇動の化けの皮を剥がそうと試みたのだ。

 扇動の同級・プロ問わずの交友関係に嫉妬心を抱いての犯行であるが、同じく羨ましいと思った上鳴は、決して同じことをやろうとは思わないし、峰田の行動に冷や汗をタラリと流す。

 体育祭で女子達を謀った一件で扇動の怒りを向けられた一人…。

 あの時を思い出して怒られるのではと思って見つめるも、扇動は呆れた表情をするばかり。

 逆に怒るどころかイラついている様子すらない事が不気味でもある。

 

 「健全な男子なら絶対どっかに隠している筈だ!」

 「紙媒体でなく電子の可能性を見落としてないかお前…」

 「――ッ、しまった!?そっちか!!」

 「いや、アンタさぁ…扇動も怒って良いんだよ」

 「“男友達が男友達の部屋に遊びに来たときに発生するイベント”だろ。阿良々木君(化物語)も言ってたし」

 「だから誰だよ」

 「それよりフュギュア部屋はどうだった?」

 

 扇動はバイトの一つに原型師もしていた。

 前世の趣味も兼ねたそれもまたプロヒーロー関係とのコネにもなるし、データ収集にもなっている。

 企業やプロ事務所より製作を依頼された際に、本人の同意が取れればサイズや機能の情報を貰っていて、コスチュームにどんな機能を付けてどんな素材を使っているのかなどを知る事が出来るのである。

 無論の事ながら情報の中には個人情報も含まれるしっかりとした契約書にサインせねばならないが。

 

 今まで制作したフュギュアに参考資料用に購入したフュギュアを並べている“フュギュア部屋”と呼んでいる一室。

 家中を探索しようとしていた峰田は長い時間その部屋で足止めを喰らう事になってしまう。

 峰田だけでなくトレーニングルームを出た緑谷も同じく足を止めた一人である。

 

 「圧巻だったね!」※人気から多かったオールマイトフィギュア達

 「圧巻だったな!」※女性プロヒーローのフュギュアに対して 

 「…楽しんでくれたようなら良いか」

 

 言っている事は同じでも明らかに意図が異なる二人。

 その事を口にしようかと悩んだ扇動はそのまま流してテーブルの上に鍋を置く。

 昨日より今日はおでんと決めていたので合間合間具を煮て味を浸み込ませていたのだ。

 

 「どうせなら食っていくか?多めに作ってるからよ」

 

 大いに楽しんだ全員は扇動の言葉に甘えて夕食もご馳走になる事になった。

 …ただ視界に入るように部屋の隅にスキンヘッドで白衣姿の人形を置いたことに誰もが困惑する事になる。

 誰が何と聞こうとも名前以外は答えようとしない事から、扇動の謎としてA組B組に広がるのに時間は掛からなかった…。

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