無個性オリ主が共にヒーロー目指す!   作:チェリオ

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第41話 休校明けの授業とパーティ

 休校日明けの雄英高校は二つの話題で持ちきりであった。

 一つは体育祭の活躍からプロヒーローよりスカウト込みの指名票の開票。

 もう一つはプロヒーロー“インゲニウム”の負傷。

 有名なインゲニウムがヒーロー殺しに襲われたとニュースは衝撃的であったが、同時に数週間の入院で済むとの続きに多くの者が安堵した事だろう。

 多くの者にとっては他人事、または流れるニュースの一つと捉えてるものがほとんど。

 しかしながらヒーロー科一年A組の面々にとっては他人事とは思えない。

 なにせインゲニウムこと飯田 天晴は飯田 天哉の兄である。

 当の本人は気丈に振舞って声を掛けても「大丈夫だ」というばかり。

 実際インゲニウムの怪我も命にもヒーロー活動に支障が出るものでもなかったと飯田が言っていた。

 本心がどうなのかは兎も角、本人がそう振舞っているのなら深くは踏み込む事は出来ない。

 だから気に掛けながらも指名票や体育祭が中継された事から通行人に声を掛けられたなどの話題を口にしている。

 

 そして待ちに待った開票が行われる“ヒーロー情報学”。

 今までヴィラン連合による襲撃事件の負傷にて包帯でぐるぐる巻きだった相澤は、ようやく包帯が取れて久方ぶりに素顔を拝見する事が出来た。

 本人としては“そんな事どうでも良い”程度で授業を進行していく。

 

 早速開票…に入る前に本日はヒーロー名である“コードネーム”の考案を行う。

 …というのも指名票は今現在の様子から将来性を見据えての興味(・・)を数値化する為だけでなく、プロヒーローが職場体験(・・・・)での受け入れたい者に対して受け入れる準備があると示すものでもあり、プロの下でヒーロー活動をするとなるとヒーロー名が必要となるのである。

 ちなみに自身のヒーロー名にも興味がなかった相澤は、同級生の山田 ひざし(プレゼント・マイク)に付けてもらった過去もあって、ヒーロー名考案のアドバイスや判定をミッドナイトにして貰う事になっている。

 

 説明後に相澤は黒板に名前と指名票の数値を書き、見やすいように端に寄ると開示された結果に驚きで目を丸くした。

 

 「やっぱ轟と爆豪は多いなぁ」

 「でも順位とは逆なんだ」

 「表彰式で縛られた奴なんてビビるって」

 「プロがビビってんじゃあねぇ!!」

 「あれ?でも順位って言うんなら扇動少なくない?」

 

 誰もが指名票の多い轟と爆豪に視線が行ったところで、扇動への指名票がかなり少ない事に気が付いた。

 上位二名は三千を超える票に対して五百程(・・・)

 票の多さ的には三位であるがトーナメント一位であるにも関わらず少ないのではないかと不思議そうに結果を見やる。

 逆に扇動としては多いと思っているぐらいであるが…。

 

 「当たり前だろ。体育祭でトーナメント一位になったとしても学生にしては(・・・・・・)腕っぷしが強いだけ(・・・・・・・・・)で無個性で将来性も低い。話題性を加味しなければ同じ立場ならば別の奴に入れるだろうよ」

 「いや、でもよ…」

 「それだけプロの世界は危険なんだよ」

 

 扇動はプロより鮮明にされた評価を淡々と受け入れ、寧ろクラスメイトの方が結果に戸惑っているのが見て取れる。

 “プロはいつだって命がけ”………そう言ったオールマイトの言葉を緑谷は噛み締める。

 不条理な自然災害にヴィラン事件。

 ヒーローとはそれらに対応する者であり、絶え間ない努力を詰んだとしても身体一つではやれることは限られる。

 誰もが全てを熟せるという訳ではないが、ただ腕っぷしが強いだけではプロから見て到底務まらないと…。

 決してプロの現場というものを舐めていた訳ではない。

 認識の甘さを誰もが思い知らされた。

 

 自分達…それもあの轟や爆豪に勝利を収めた扇動でさえこの扱いなのだと…。

 厳しい現実を叩き付けられて平気な顔をしているのは予想していた扇動と相澤ぐらいなものだろう。

 

 加えて扇動は入った指名票は大半が話題性で選んだと見ている。

 指名票が入っていた生徒にはリストが配られ、中には繋がりのあるヒーローの名は少ない。

 だろうなと納得する中でMt.レディの名があったのにもさすがに笑ってしまったが。

 話題性とこき使う為に選んだのが透けて見える。

 それでも入れてくれた事実は普通に嬉しいものだ。

 

 他の面々もそれぞれ反応を示す。

 入っていない事に嘆く者や指名されている事に嬉しさを隠しきれない麗日、そして超パワーであるも自損する事が祟ってか一票(・・)しか入っていない緑谷の傷口に塩を塗り込んでいく峰田などなど…。

 

 「…では、次にヒーロー名考案に移る」

 「将来自分がどんなヒーローに成りたいか。よく考えて決める事ね。ここで付けた名が認知され、そのままプロ名になっている人が多いからね!適当に付けたら地獄を見るよ!」

 

 そう言って入れ替わるように教壇に立つミッドナイト。

 同時に「後は任せた」と言わんばかりに寝袋に入る相澤に誰も突っ込む事もしない。

 

 ヒーロー名はそれぞれ決めた者から順次発表形式と成り、まず初めにと青山 優雅が発表するも長文過ぎて短文に、ボートに書かれたヒーロー名である英文へのアドバイスが行われて席に戻って書き直す。

 同じように何人かはアドバイスを受けて書き直しをする羽目になったが、小学生の事から温めていた蛙吹の“梅雨入りヒーロー”《フロッピー(FROPPY)》や憧れだった“漢気ヒーロー”《(クリムゾン)頼雄斗(ライオット)》をリスペクトした切島の“剛健ヒーロー”《烈怒頼雄斗(レッドライオット)》など一発で通過する者も多い。

 中には芦戸が《エイリアンクイーン》や爆豪の《爆殺王》はアドバイス以前に却下されたが…。

 

 意外にもテンポよく決まって行くヒーロー名。

 しかし緑谷に飯田、扇動の三人は一度も発表せずに考え込む

 

 飯田 天哉は一瞬ボードに書きそうになったヒーロー名を寸前の所で止めた。

 兄の飯田 天晴は軽傷とは言えヒーロー活動は当面行えない。

 入院は兎も角としてリハビリにどれほど掛かるか解らない上に、調子を取り戻すとなるとさらに時間は必要となる。

 それに“ヒーロー殺し”に負けた事実に目を反らせるほど天晴は柔ではない(・・・・・)

 二度と負けないようにと思えばより強くならねばならず、ヒーロー活動の両立は難しくなる。

 だから天晴は天哉に“インゲニウム”の名を使って欲しい(・・・・・・)と口にした。

 

 “インゲニウム”を名乗る…。

 それは未熟な我が身で名乗るにはあまりに大きく重過ぎる…。

 ましてや今自分の中で渦巻いている感情はヒーローと呼ぶには程遠い考え。

 ゆえに天哉は“インゲニウム”を名乗る訳にはいかず、自分の名前である“天哉”とだけ書いて発表した。

 これに対して前に轟が名前である焦凍をカタカナ表記にした“ショート”で発表していたので、貴方も名前なんだ程度で他に言われる事はなく通った。

 

 続いて発表したのは扇動であった。

 前に出て披露されたヒーロー名はマスクドヒーロー“仮面ライダー”と書かれており、それを見た全員が半分納得して半分疑問符を浮かべた。

 なにせ“ウィザード”や“ゼロワン”など扇動のコスチュームは顔を隠す仮面を被っていたのでマスクドヒーローと“仮面”の部分は理解出来たが、乗り手の意味がある“ライダー”が意図が解らない。

 

 「ライダーって何か乗り物使うの?」

 「いくら足が速くても無個性では限度があるし、バイクは必須(・・)ですから」

 「確かに欲しいだろうけど免許持ってないでしょ。それに放課後にクラスメイトの面倒見てたらしいから教習所とか行けてないんじゃない?」

 「んー…普通二輪(16歳で取得できる免許)なら二度目(・・・)だからなぁ。一応本読んで復習もしてっから免許センターで取るつもりだが」

 「「「二度目?復習?」」」

 

 ミッドナイトも教習所に通わずに免許センターでの一発合格狙いは厳しいわよと普通ならアドバイスする所だが、気になるワードが二つ続いた事に生徒達同様に首を傾げながら喰い付いてしまった…。

 

 扇動としてはお気に入りの“仮面ライダー”の名を名乗る事も視野に入れていたものの、その場合は他の“ライダー”コスチュームでも呼ばれる事に成るので、すべてのライダー表すべく“仮面ライダー”と名乗る事にしたのだ。

 好きなヒーローの名前だからこそ下手な事は出来ないなと名の重みを噛み締める。

 

 発表も終えたので扇動はさっさと自分の席へと戻って行く。

 元々ヒーロー名というのは当人が決めるもので、先輩としてアドバイスをするだけで強制ではない。

 戻っていった扇動の背からアドバイスがあろうとも変える気はないという意思を感じ取ったし、ヒーロー名に問題のあるワードを使っていたならまだしもそんな事も無かったのでミッドナイトとしてはこれ以上口を出す事はなかった。

 

 そして最後に緑谷が発表したのだが、その名に一同は戸惑う。

 ヒーロー名として発表された名前は“デク”…。

 名前の“出久”と“木偶の棒”を合わせた爆豪に付けられた蔑称。

 当人もこの蔑称は嫌いだったけれども、それに――“デクって頑張れ!!って感じでなんか好きだ”と新しい意味を与えられ、緑谷 出久は堂々と胸を張って口にすた。

 爆豪は怪訝に、麗日はにこやかに、扇動は緑谷と麗日を羨ましそう(・・・・・)に見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 情報学を終えた休み時間。

 書き直して“爆殺卿”とも発表するも却下されて、唯一授業内に決める事の出来なかった爆豪は、苛立ちながらも多少は切り替えて他に比べて多い指名票を入れてきたプロヒーローのリストに目を通していた。

 職場体験に行くのであれば雑魚(・・)では駄目だ。

 自分が向上出来るぐれぇ強いヒーローでねぇと意味がないと考え、リスト全員の名前を確認してやっぱりこいつだなと線を引く。

 ヒーロー名“ベストジーニスト”。

 ヒーロービルドチャート四位のトップヒーローが一人。

 性格までは知らないが仮にもトップヒーローである事から雑魚なんてこたぁねぇだろ。

 目星をつけて早速職場体験先として記入しようとした時、書き込もうとしていたのに気付いて扇動が近づいてくる。

 

 「もう決めたのか?早ぇな」

 「テメェが遅ぇだけだろうが!ってか覗いてんじゃあねぇ!!」

 「で、誰にしたんだ?」

 「誰が教えるかッ!!」

 

 吐き捨てるように言うも、開いたままのリストから察した扇動は怪訝な顔をする。

 それもリストの名前と爆豪の顔を何度も見返しながら…。

 

 「テメェ……言いたい事があるならハッキリ言えや!!」

 

 威圧するように怒鳴ると扇動は困ったように話し始めた。

 祖父のコネもあって何度も会い、実際に手合わせをした事のある人物でそれなりには接点を持っているとの事。

 合理的で判断も早く、実戦経験豊富なヒーロー。

 性格は堅実で驕る事などまず無い。

 確固たるヒーロー像を確立されており、独自の規律と思想を持っている尊敬できるヒーローの一人。

 ここまで高評価が続くも表情からそれだけではないないと伝わって来る。

 

 「天哉と違った意味で真面目でな。ルールに忠実でなくて…何というか“健全な肉体に健全な魂が宿る”みたいな感じで健全なヒーローに成るには健全な精神と格好を要求してくる…」

 「アァ?」

 「ジーンズの着用と髪型は七三分けを強要される」

 「「「爆豪が七三………ブフォッ!!」」」

 

 話が聞こえていた切島と上鳴、瀬呂などが想像して大いに噴き出した。

 腹を抱えて大爆笑する面々に「笑うなや!!」と怒鳴るも笑い転げる彼らに効果はなかった…。

 笑い声が響く室内で、気にすることなく扇動は続ける。

 

 「学べるところは大いにある事は違いない。ただ彼の担当地区ではヴィラン事件すら少ないし速攻で片は付く。多分だが望んでいるような展開はねぇと思うぞ」

 

 苦虫を噛み潰したような面をする。

 得るものは多い。

 扇動がそう言うのなら間違いはねぇだろうが、笑い転げている連中同様に自身の七三分けなんて似合わねぇと思う。

 選べない訳ではないが順位から決めただけにもう一度リストを見直さなければならなくなった。

 そんな爆豪に扇動は一つの提案を口にする。

 

 「変えるんなら俺の爺ちゃん所とかどうだ?」

 「ケッ、誰がテメェのジジイに世話になるかよ」

 

 真っ向からの否定して扇動の提案を払い除ける。

 言ってみたものの予想の反応であったので驚く事はなく肩を竦ませる程度。

 

 「他のヒーローならいざ知らず、爺ちゃんなら職場体験の合間に鍛錬を付けてやって欲しいと頼めばある程度話を通せる事も出来たんだが…。まぁ、無理にとは言えんよ。なにせ俺が一度も勝てない相手(・・・・・・・・・・・・・・)だしなぁ」

 

 ぴたりと爆豪が固まった。

 ヒーローの職場体験のみならず鍛錬を付けてくれるというのは自身の向上を考えたのなら有難いが、扇動に貸しを作るようで御免被りたいという気持ちの方が大きい。

 だが、最後の一言と苦笑を浮かべなられた事で一変する。

 これで違う選択肢を選んだのなら、まるで“俺が逃げ出した(・・・・・・・)”みたいじゃあねぇか!!

 

 今日の扇動は“らしくない(・・・・・)”事をしているという自覚はある。

 けれど祖父の想いを叶えれる良い機会だと逃す事もしたくなかった。

 

 以前より緑谷や爆豪などの友人の話はしており、どんな奴なのか会いたがっていた流拳は他にも指名したい者がいたが、一人二票まで入れれる指名票を緑谷と爆豪に将来性込みで入れたのだ。

 祖父の想いを叶えて上げたいという反面、爆豪本人の意思を無視して頼む気はなかったのだけど、それならと煽り勧めた(・・・・・)

 流拳と爆豪であれば有益であれど不利益ではない筈。

 

 乗ってしまった爆豪は青筋を立てながら獰猛な笑みを向けた。

 

 「オイ……テメェのジジイを完膚なきまでぶっ飛ばしても文句言うんじゃねぇぞ!!」

 

 やる気…もとい、殺意十分な爆豪に対して扇動はニヤリとほくそ笑む。

 

 「了解。早速爺ちゃんに話を付けておくよ」

 

 そう言って携帯を片手に廊下へと向かっていく。

 扉を開けたところで振り返り、意味深な笑みを浮かべながら人差し指を立てる。

 

 「一つ、貸しだからな」

 「――ッ、ちょっと待てや!……クソがッ…!」

 

 制止を聞く間もなく廊下へと出て行った。

 爆豪は嵌められた!と忌々しく去っていった扇動を睨み、厄介な奴に借りを作ったなと舌打ちひとつ零す。

 

 

 

 

 

 

 葉隠 透は戸惑っていた。

 きっかけは昼休みに扇動に急な話であるがバイトを頼まれた事である。

 バイトと言っても扇動の隣に居て美味しい料理を食べるだけ。

 楽な内容の代わりに放課後は潰れるとの事。

 扇動は急ぎだった事と出来れば程度だったので断って貰っても構わないと言ったけど、付いて行って美味しい食事を食べるだけの二重の意味で美味しいバイトは逃せない。

 礼と共にバイト代を弾むと言われたがそこは金銭ではなく、人気ケーキ店の期間限定セットで手を打った。

 そこまでは気楽に考えていた自分に「もっとしっかり考えなよ!」と物申したい。

 

 周りに気付かれないようにと付け加えられ、下校前のHRを終えると見つからないように扇動と一緒にタクシーに乗って移動。

 そこからは目まぐるしかった。

 途中でタクシーから迎えの車に乗り換え、服屋に靴屋に化粧品店などなどを巡りに巡った。

 

 「うぅ~、騙された…」

 

 不貞腐れながら文句を言うと隣の扇動は困ったように笑う。

 

 「別に嘘はついてないだろ?」

 「でもしっかりとした説明もしてくれなかった!」

 「それは確かに悪かったがあんまり激しく動くな………乱れちまうぞ」

 「―――ッ!?」

 

 眼を背けながら言われた一言に服装を確認する。

 さすが高級店で合わせて貰っただけあって、そう簡単にズレる事はなかった。

 安堵しつつ振り返れば自然と目が合い、恥ずかしくって今度は葉隠が目を逸らす。

 

 いつもなら見えていない事が普通なのだが、今は逆に見られている(・・・・・・)からこそ恥ずかしい。

 高級なドレスに靴、手袋にアクセサリーなどを身に着け、肌が露出している所にはメイクで肌を再現し、目はカラーコンタクト、髪はウィッグを使用して物理的に見せているのだ。

 

 連れられて行ったどの店も普段利用している店より高級感が凄かったけど、一番印象に残っているのは服屋の女店主だろうか。

 透明なお客で限られた時間でドレスを合わせる(・・・・)という条件に俄然燃えて、採寸した寸法と輪郭や目の位置などを触った感覚で理解して、寸法を合わしただけ(・・・・・・)でなく葉隠に合った(・・・)ドレスを用意したのだから。

 

 「これどれぐらいするんだろう?」

 

 素人目でも高価だと分かるぐらいなのだから、実際はいくらなのかという単純な興味。

 

 「――知りたい?」

 「……ううん、いいや」

 

 対して返ってきた言葉に葉隠は首を横に振るう。

 どれも高級店だったのに特級でやったとなると値段は跳ね上がるだろう。

 そう考えると恐ろしくて値段なんて聞けやしない。

 いや、思ってしまっただけに服に傷一つでも付けたらヤバいのではと緊張と不安からカチコチに身体が硬くなる。

 実際にはそれに加えて葉隠の情報を伏せるように料金を上乗せしたのでより高くなっている。

 緊張しています!と言わんばかりの葉隠に扇動は苦笑する。

 

 「別に破れたって文句は言わねぇよ。気楽に行こうぜ」

 「そうはいっても扇動君。私としては難しいの!」

 「縮こまっていると折角の可愛い顔が曇ってしまうぞ」

 「もぉ!!」

 

 今まで自身の見た目を可愛いなどと言われた事はない。

 なにせ透明で生まれてこのかた見えないのであるから…。

 言われるなら着ている服やアクセサリーなど目に見える物であった。

 だからこうもハッキリと自身が可愛いと言われると恥ずかしくて堪らない。

 

 「そうやって揶揄って!」

 「揶揄ったつもりはないんだが…そもそも声や仕草だって可愛らしかったし…」

 「だぁ~かぁ~らぁ~!!」

 

 冗談でも揶揄うでもなく真顔で普通に言われて余計に恥ずかしいったらありゃあしない。

 恥ずかしさ半分嬉しさ半分でポカポカと軽く叩いていると移動用にと扇動家より駆り出されたリムジンが停車した。

 到着したのだと分かると別の緊張が押し寄せてる葉隠を他所に、扇動は穏やかな微笑を作り上げて(・・・・・)先に降りると手を差し出す。

 

 「では、参りましょうか」

 

 いつもとは別人のような扇動に促されるままに手を取って降り立つ。

 扇動に付いて美味しい料理を食べるバイトがまさか著名人が集まるパーティだったなんて…。

 

 扇動家は大きな力を持つ家である。 

 会社として大成功を収めているだけでなく、政界やヒーロー界などなど色んなパイプを有している。

 当然他からすれば妬まれる対象でもあり、手に入れたい力であった。

 ゆえに扇動 無一が扇動家次期当主という話もあって見合い話がわんさか来るようになったのだけど、無一本人はまだする気はなく流拳も別に急いで結婚させるという気は毛頭ない。

 それ以上に政略や家の都合で道具として孫を利用するつもりもないので無一の意見を尊重して断られている。

 見合い話を本家に持って行っても断られると分かってかパーティでのアプローチが強くなった。

 

 そこでいつもなら事情を知った上で同年代で色々と話を聞いてくる八百万と行動する事で、そういった人達は近づかなかったのだが今日は毎度のようにはいかなかった。

 本来なら扇動 流拳が出席する予定になっていたけど急な用事が入ったとか(怪我の事は伝えていない)で代わりに出席して欲しいと頼まれたのだ。

 八百万は登校日である事からパーティに出席する予定はなく、寄って来る連中の相手を覚悟するか誰にか代役を頼むしかない。

 元より爆豪の一件を頼んだ手前もあるが、流拳からの頼みを断わる気がない扇動は自ずと行くのを前提にどうするかと考え込んだ。

 頼み易いのは同級生の女子達であるが、雄英高校体育祭の中継で面が割れている為、最悪面倒事に巻き込みかねない。

 そこで素性は知られていても顔は知られる事のない葉隠に頼む事に。

 

 頼まれた葉隠は扇動に付いて会場内を歩き回り、色んな方々に挨拶して周るのを笑みを浮かべて見続けた。

 挨拶している最中、扇動が“人見知りが激しい”と誤魔化してくれるので話す事はなかったものの、どこぞの社長や著名人が集まっているパーティゆえに緊張して中々に疲れる。

 

 「ケーキセットだけじゃあ足りないよぉ…」

 

 挨拶回りも終え、皿に料理を乗せて会場端へと寄った葉隠はぼやく。

 並べられていた料理はなるほど確かに豪勢で非常に美味しかった。

 けれどそれとこれとでは別である。

 不平不満を向けられてごもっともと扇動は頷く。

 

 「何がご所望でしょうか?」

 「んー…今度服買うから付いて来て」

 「仰せのままにお嬢様」

 

 外向けの顔をしている扇動に笑ってしまう。

 顔は元々整っていて、スーツはしっかりと着こなし、口調や態度は柔らかく紳士的。

 でも素を知っているだけに違和感は半端ない。

 笑っていると誰かが近づいて来たのが視界に入ったので扇動の少し後ろに立ち、近づいてくる相手へと向く。

 

 その相手は後退しつつある額と童話に登場する魔女のような長く大きい鷲鼻が特徴的な老紳士だった。

 何処かで見覚えのある老紳士に首を傾げていると扇動がデトネラット社代表取締役の“四ツ橋 力也(ヨツバシ リキヤ)”だと小声で耳打ちされた事で思い出した。

 デトネラット社と言えば主に一般向けのサポート会社で、トップシェアを誇る国内有数の大企業。

 社長自ら自社のCMに出演しているので、道理で見た覚えがある筈だと納得する。

 

 「久しぶりだね扇動君。流拳さんはご壮健かな?」

 「えぇ、元気にやってますよ。四ツ橋さんはお変わりなく」

 「ははは、ここ最近でまた後退してしまって…困ったものだよ」

 「今後はウィッグや育毛剤に手を出してみますか?社長自らCMに出演されるなら注目の的でしょうに」

 「私が気にしているので構わないが、部下が言うにはそれも私の魅力というのだからね」

 

 正直扇動の失礼な発言にギョッと驚く葉隠だったが、本人は気にしていると言う割には軽く笑いながらにこやかに話している。

 付き合いが長いのかこれぐらいで怒らないというのが解っているのだろう。

 普通怒らないにしても多少は雰囲気に漏れそうなのに、一切そんな様子がない事からとても心が広い人なのだろう。

 驚きながらも見つめていた葉隠の視線を受けた四ツ橋は逆に葉隠に対して首を傾げた。

 

 「おや?今日は違う女性となんだね」

 「その言い方だと語弊を招きかねないのですが」

 「おっと、それは失礼した」

 

 冗談交じりに話していたところで、思い出したように手を叩く。

 

 「そうだそうだ、見たよ体育祭。パーティとは雰囲気が違ったね」

 「演技力というのはいつ必要になるか分かりませんから」

 「あっちが素だったのかい?」

 「どちらかが仮面かはご想像にお任せします」

 

 挨拶回りの際にも同じような事を聞かれてたけど、扇動は焦ったり取り乱す事無く微笑みながら答えて行った。

 当然のように四ツ橋にもそうであったが、返事に想う所があったのか少しばかり悩む仕草を見せる。

 

 「仮面…仮面か…。そういえば前に勧めた本――“異能解放戦線”は読んでくれたかい?」

 「四ツ橋さんから勧められましたからね。勿論読みましたとも―――っと言っても無個性の自分には縁遠いものでしたが」

 「そう言わず君の意見を聞いてみたいものだね」

 

 本のタイトルを聞いても葉隠は解らず、ぼんやりと二人のやり取りを眺める。

 今度は扇動の方が悩む仕草を見せ、僅かながら四ツ橋の顔を伺いながら話し始めた。

 

 「個性を…自身がありのままで居られる世界。それはとても素晴らしく強く共感しました」

 「ほぅ!」

 

 扇動の返答に嬉しそうで声を漏らす四ツ橋。

 しかし扇動は遮るように続けた。

 

 「思想としては(・・・)素晴らしいでしょう。ですが現実には個性の解放となると非常に難しい。個性は個々に寄る強弱があり、誰も彼もが好き勝手にしていてはその格差が広がって、やはり解放出来る者と解放出来ない者が出来てしまう。それも今以上により多く、理不尽な程に」

 「…では君は彼の思想は間違っていると?」

 

 表情は以前にこやかであるが若干怒気が含まれている。

 悪寒がする…。

 それはヴィラン連合襲撃時に味わった以上の嫌な感じ…。

 葉隠は無意識に扇動の裾をぎゅっと掴む。

 そんな中、扇動は態度を変える事無く返す。

 

 「いえ、思想自体は素晴らしいと申し上げました。問題はそれを叶えられない人間、またはルールサイドの方でしょう」

 

 扇動の答えに興味深そうに眼を丸くし、納得したように四ツ橋が頷くと漂っていた薄っすらとした怒気は完全に消え去り、葉隠はホッと安堵する。

 

 「いやはや、君と話してみると色々考えさせられるよ――っと、人を待たせているんだった。今日はこれで失礼させて貰うよ」

 

 そう言うと四ツ橋はにこやかに離れて行った。

 離れて行く背を見送った扇動は葉隠に申し訳なさそうに眼を伏せる。

 

 「すまん。怖い思いをさせたな。あの人は急にスイッチが入るんだ。今日は俺一人じゃないんだ。配慮が足りなかった…ごめんな」

 「…ううん、大丈夫だよ。けど…」

 

 …ここには居たくない…。

 悪寒は薄れたがまだ寒気がする事もあって、すぐさまここを離れたい気持ちでいっぱいだった。

 察した扇動は出入り口へと葉隠と共に向かい始める。

 

 「まだお腹が空いているなら何処か寄るが」

 「こう堅苦しい場所じゃなくて気楽に入れるファミレスが良い」

 「この格好でか?」

 「着替えてだよ!」

 

 こうしてパーティ会場を後にした扇動と葉隠は道中扇動馴染の店で部屋を借り、着替えを済ませてファミレスで談笑や料理を楽しむのだが、偶然にも雄英の生徒に目撃されてしまい、翌日扇動はクラス中に質問攻めにされて問い質される事に。

 それも制服から雄英高校の生徒らしいがどこの誰かも判らず、謎の美少女という事で余計にこの話は注目を集め、峰田や上鳴以外からも追及を受ける羽目となってしまった…。

 噂の当人は謎の美少女と言われる事に口を閉ざすか誤魔化す扇動には悪いが見えない顔で嬉しそうに笑うのであった。

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