無個性オリ主が共にヒーロー目指す!   作:チェリオ

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 遅れて申し訳ありません。 
 微妙に体調が悪い…。
 細胞を活性化させる個性が真面目に欲しい…。


第42話 職場体験先での扇動の話

 フレイムヒーロー“エンデヴァー”。

 個性による高い火力に鍛え抜かれた身体に技術をもって、事件解決数史上最多を誇る日本のナンバー2ヒーロー。

 大勢のサイドキックを抱えているエンデヴァー事務所があるビルの前に二人の学生が立っていた。

 エンデヴァーの息子で火と氷の相反する個性を使える轟 焦凍。

 無個性でありながらも雄英体育祭一年の部で一位を勝ち取った扇動 無一。

 現在雄英高校ヒーロー科はプロヒーロー事務所への職場体験を行って本日はその初日。

 焦凍にも扇動にもエンデヴァーより指名票が入っていた事で、ナンバー2の事務所でお世話になろうとやって来たのだ。

 

 「本当にやるのか?」

 「他に代案が無い以上そうなるな……」

 

 不満混じりの焦凍の問いに、いつになく歯切れが悪い扇動。

 同じように思う所があるんだなとビルを見上げる。

 ここにエンデヴァー(クソ親父)が居ると思うと自然と焦凍の表情が険しくなる。

 アイツを赦せないし赦す気もない。

 だけどここへ来たのはナンバー2としての事実を受け入れる(・・・・・)為、そして母に会いに行った際にあの事を泣いて謝って“何にも捉われずに突き進む事が幸せであり救いになる”と言ってくれたから…。

 

 見上げていた二人だがずっとビルの前に居てもしょうがなく、初日から遅刻する訳にもいかない。

 覚悟を決めるというかため息を零してビルへと踏み込んだ。

 さすがというべきかフロア丸々一つ借り切っている事務所は広く、経理担当や事務方の人達にサイドキックなどなど多くの者が詰めていた。

 

 「良く来たな焦凍………それと扇動」

 

 フロアの奥より現れたエンデヴァーに焦凍は怪訝な顔を隠す気もなく向ける。

 それは赦せない相手だからというだけではなく、明らかに扇動に対して怪訝な顔を受けた事に対してである。

 エンデヴァーとしては自分の下へ来るならば焦凍を鍛える、または自身の背(プロの背)を見せ付けてやろうとは考えていたが、扇動にはそこまでの想いは持ってはいない。

 職場体験で生徒を受け入れるという事はいつもに比べて仕事が増えるという事。

 プロヒーローの仕事を体験させるべく現場に連れて行くという事は誰か一人が面倒を見なければならず、少なくとも一人は人員を割かねばならず効率は多少でも落ちる。

 雄英体育祭での実力と戦い方、その後の話し合い(・・・・)などでサイドキック(・・・・・・)としては即戦力として使えない事もないだろうと選んだのだ。

 それに焦凍との一件の事もあって一応入れたに過ぎず、その件で嫌われていると思っていただけにまさか選んで来るとは思わなかった。

 焦凍は別として一人足手纏い(・・・・)が出来た事で、一分一秒を争うプロヒーローとしては怪訝な顔を浮かべるのも仕方ない事だろう。

 

 寧ろ断られたり、わざわざ口にしない辺り配慮されているとも言え、その辺を察している扇動に不満はない。

 

 「本日より一週間お世話になります」

 「…なります」

 

 深々と頭を下げた扇動に見習って焦凍も軽く頭を下げつつ口にする。

 返事のつもりなのかエンデヴァーはフンッと小さく鼻を鳴らす。

 続けてエンデヴァーに背を向けぬように、フロアに居る面々へと振り返る。

 

 「職場体験で参りましたヒーロー科一年A組の扇動 無一と申します。経験も実力も至らぬ身でご迷惑をおかけする事も多々あるかと思います。ここで学んだ事を糧に良きヒーローに成れるよう頑張りますので、どうかご指導ご鞭撻のほど宜しくお願い致します」

 

 扇動が挨拶をすると同じく焦凍もクラスに名前、それと「お願いします」と口にすると、拍手を持って二人共受け入れられた。

 普通ならここで挨拶は終わる筈なのだが、若干困った様な視線を扇動と焦凍は合わせる。

 多くのサイドキックはその意図を察せれず疑問符を浮かべる中、何やら嫌な予感を感じ取ったエンデヴァー。

 さすがナンバー2ヒーロー。

 その予感はある意味正しく当たっていた。

 

 「ちなみに扇動と同棲(・・)しています」

 

 スッと焦凍が扇動に寄り添うように腕を組みながらそう言った。

 突然の発言にフロア内が凍り付く。

 発言にどうとかではなく、エンデヴァーがどのような反応を見せるか分からなかった為、自ずと皆の視線は覗き見るように動く。

 次の瞬間、凍り付いた空気は物理的に発生した熱で温められ、熱の発生源であるエンデヴァーは声を荒げていた。

 

 「確かに貴様にショートを預けたが、そこまで許した覚えはないぞ!!」

 「落ち着け…」

 「ショートの言う通りですよおとうさん(・・・・・)

 「だれがお義父さんか!?」

 

 今にもフロアごと焼き兼ねないエンデヴァーをサイドキックが数人掛かりで落ち着かせ、「やっぱりこうなるか…」と頬を掻きながら扇動が弁明に入る。

 

 「申し訳ない。職場体験の事を知り合い…というか仕事で付き合いのあるプロヒーローに助言を求めたら〝元気とユーモアのない社会に未来はない”と言われたので(サー・ナイトアイより)…」

 「全く何処のどいつだ!それで貴様はそのアドバイスでこんなジョークを仕掛けたのか!?」

 「いえ、俺も焦凍もそういうセンスがないので、別のヒーローから仕入れました」

 「誰だ!………アイツか!!!」

 

 誰かは口にしなかったが取ってつけたようなニヘラと笑みを浮かべた事から、当たりを付けて怒りを込めて叫ぶ。

 今頃九州で件のヒーローはくしゃみか悪寒に襲われている事だろう。

 

 怒りを向けるべき元凶が判ったところでため息を吐き出し、落ち着きを見せたエンデヴァーはスッと雰囲気を変え、プロヒーローとしてのスイッチを入れた。

 空気が変わったのを感じ取って姿勢を正す。

 

 「ショートは俺が面倒を見る。バーニン(・・・・)、扇動…いやライダー(・・・・)は任せる」

 「了解です。エンデヴァー!」

 

 エンデヴァーより扇動を任されたのはバーニンは好戦的な笑みを浮かべて応えた。

 黄緑色の炎の長髪を揺らす彼女はエンデヴァー事務所で頭角を現している有名なサイドキックである。

 初めて会ったヒーローではあるが、その好戦的な笑みは何処かミルコ(・・・)を連想させ、思い出しては苦笑いを浮かべそうになったのを堪える。

 

 「なんで扇動と俺が別なんだ」

 

 やけに苛立っている声色で突っかかる焦凍。

 学びに来ている事から組む事は嫌でも勉強になるとは理解しているのだが、別々にされたのは“親子”だから特別扱いしてやがると判断しての事だろう。

 嬉しいのだがここは焦凍を落ち着かせるべく制止する。

 

 「落ち着け焦凍。多分勘違いしてんぞ」

 「何をだ?」

 「これ私情ではなくリスクの分散だ。なにせヒーロー経験もない足手纏いを連れて行く訳だからな。何が起こるか解らない現場で万全を尽くすのであれば足枷は無いに越したことはない。それも一人なら兎も角二人となると尚更だ」

 「だったら俺は…」

 「そこは個性の相性だな。炎系個性を持つお前なら炎系最強のエンデヴァーの活躍を間近で見る事も良い勉強になるだろ?そもそも単なる学生である俺に名実ともに有名なバーニンを担当させるというのも破格の待遇だと判断している。実力確かな彼女を遊ばせるような事はしないだろう事からそれだけ現場に出る機会が増えるって訳だ」

 「…そう…いう事なのか?」

 「そうなんだよ。俺の事で怒ってくれたんだろ?気持ちは嬉しいよ」

 

 沸き立った感情を抑えながら言われた言葉をゆっくりと噛み砕き、納得し始めた焦凍は小さく頷くとエンデヴァーに向かってしっかりと頭を下げた。

 

 「すみませんでした。これからお世話になります」

 「…い、いや、こちらも説明を怠っていた。すまん…」

 

 迷いが無いと言えば嘘になるが、それでも焦凍は憎らしい父親でなくプロヒーロー“エンデヴァー”として見ようとしていた。

 素直で優しい焦凍の性格とその事に当てられ、私情込みで接していたエンデヴァーは恥じて頬を掻きながら返す。

 近くで「照れてるな」、「照れてらぁ!」と囀る扇動とバーニンに「喧しい!!」と一喝するのを忘れない。

 

 さて、これでプロの現場に向かえる。

 そう思っていた扇動に焦凍が若干独り言のように問いかけてきた。

 

 「それにしても意外だった」

 「ん、何の事だ?」

 「扇動も嫌っていたと思っていたから」

 「それは焦凍の父親である轟 炎司の話だろ。フレイムヒーロー“エンデヴァー”の実績と実力は本物だ。好き嫌いに関わらず尊敬出来るヒーローだと俺は思っている」

 

 意外そうな焦凍に説明する扇動の言葉はそこまで大きくはないが、皆が注目していただけに耳に入ってしまう。

 それはそうだろうがとエンデヴァーに視線を向けると、腕を組んで若干どや顔を浮かべていたのがむかつく。

 

 「ヒーローとしては(・・・・)…か」

 「そう、ヒーローとしては(・・・・)、だ!」

 「焼き殺すぞ貴様!!」

 

 上げといて落とされたエンデヴァーは怒鳴りつける。

 このコントみたいなやり取りにエンデヴァー事務所の何人かが噴き出した事で、フロア全体が笑いに包まれた。

 すぐにエンデヴァーより「俺の事務所であのアドバイスは不要だ!!」とのお達しを受けて。扇動は先のような発言はせずにバーニンと、焦凍はエンデヴァーと共にプロの現場へと足を踏み入れるのであった。

 

 

 

 

 

 

 バトルヒーロー“ガンヘッド”の下へ職場体験に行った麗日 お茶子は木製のナイフを手に対峙していた。

 “ガンヘッド”の個性は“ガトリング”であるも主な戦闘は近接格闘術という遠距離から近距離まで熟せるヒーロー。

 それも独自の格闘術“ガンヘッド()()マーシャル()()アーツ()”を駆使する程に武術に長けている。

 初日の挨拶を終えたところで口で説明するよりも体験してもらった方が解り易いだろうといきなり木製のナイフを渡されて対峙している訳である。

 

 向かい合っているガンヘッドは構えもせずほぼ無防備状態。

 けれど隙だらけのようで隙は無く、易々と攻める事は出来ない。

 漂っている空気が組手をした際の扇動に近しいものを感じる…。

 警戒しながらもこのままでは埒が明かず、少しばかりフェイントを交えつつ襲い掛かるがさすが武闘派ヒーロー、完全に見切ってナイフを手にしている手首を掴まれたと思ったら、次の瞬間には流れるように組み伏せられていた。

 手加減されたので痛みはなく、解かれた麗日は「さすがや…」と呟きながら立ち上がってガンヘッドを見つめる。

 ガンヘッド自身は余裕を見せながらふうと小さく息を吐く。

 

 「凄かったです。気が付いたら身動き取れんくて…これがガンヘッド・マーシャル・アーツなんですね!」

 「これから色々教えて行く訳だけど、軽くは掴んでもらえたようだね」

 

 武闘派という事もあって身体は筋肉粒々でガタイも良い。

 けれど話し方や仕草は柔和で可愛らしくも見えて、話し易そうな人で少し気分が楽になる。

 ニンマリと笑顔を浮かべて頭を下げる。

 

 「はい!これから宜しくお願いします!!」

 「元気があって大変宜しい………ところでさっきのフェイントは何処で習ったの?」

 

 元気いっぱいに返事した麗日だが、ガンヘッドの質問に戸惑ってしまった。

 あのフェイントは正確には習ったものではない。

 放課後の特訓で何度か行われた組手にて扇動にされたものを見様見真似でやったに過ぎず、だからタイミングも動きも悪く不格好で不完全。

 そもそも体育祭までの時間が少なく、それ以前に教える事が多過ぎてフェイントなどの技術を見せる事はあっても、教え込む事はしなかったし余裕もなかった。

 

 「えっと、同じクラスメイトの扇動君がしていたのを見様見真似で…」

 「やっぱり!道理で見覚えがあると思った」

 「え?扇動君と知り合いなんですか?」

 

 驚いて口にするも、すぐに「それもそうか」と一人納得してしまった。

 無個性でヒーローを目指す扇動は戦闘方法が近接格闘に限られる。

 多くのプロヒーローと関りを持ち、努力と研鑽を怠らなかった事から武闘派のガンヘッドと接点が無い方がおかしいだろう。

 案の定、その考えは当たっていた。

 

 「確か彼が中学一年生だった頃に短期間だったけど習いに来たのよ」

 「中一の頃の扇動君かぁ。どんな子だったんですか?」

 「……末恐ろしい子だった………」

 

 ガンヘッドは部厚そうな仮面を付けている為に表情を見る事は出来ないが、声色と様子から遠い目をしているのは明らか。

 「何をしたん扇動君!?」と心の中で叫んでいるとガンヘッドが語り始めてくれた。

 

 「始めは同じように軽く体験して貰おうとしたのだけど、三本ぐらいだったかナイフ(木製)をジャグリングしながら襲い掛かって来たの…」

 「…ジャグリング?」

 「そうジャグリング。馬鹿げているようだけど動くモノには自然と意識が割かれちゃって、そこを用途に応じてセイバーとリバーグリップ(逆手持ち)を使い分けて、フェイント交じりに軽くても手数で攻めて来て本当に中一なのって驚いたよ」

 「どうなったんですか?」

 「まぁ、向こうも意図を理解していたから、思いっきり(・・・・・)組み伏せて終わり。でも怖かったなアレは……。襲い掛かって来る時も異様に低く迫って来てねぇ……」

 

 言葉の割に雰囲気から凄く慕っているのが伝わって来る。

 ちなみにナイフの扱い方はミズーリのコック(沈黙の戦艦)FRDF機械化猟兵隊の少佐(ヨルムンガンド)、とある特等捜査官(東京喰種)などから得て、後は自主鍛錬で幾分かものにしたという。

 

 「いつか五本でジャグリングするんだって言ってたけど出来るようになっているのかな?」

 「ナイフ戦はした事ないので…」

 

 話を聞いただけでもしたくないというのが本音であり、表情から察したガンヘッドは小さく笑みを零す。

 

 「麗日ちゃんもトーナメントでの試合で格闘センス良いようだし、これからビシバシ鍛えて行くからね」

 「押忍!」

 

 体育会系のノリで返してやる気を露わにする。

 これは教え甲斐が有りそうだとガンヘッドはガンヘッド・マーシャル・アーツを教えながら、プロヒーローの仕事などを体験させていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 八百万 百は職場体験先でB組の拳藤 一佳と合流して、早速スネークヒーロー“ウワバミ”の下で活動を開始していた。

 一つのヒーロー事務所に二人の学生が迎えられるというのは珍しくない。

 指名票は二票まで入れれるのでエンデヴァー事務所だと扇動と轟、任侠ヒーロー“フォースカインド”の事務所には切島と鉄哲を指名して受け入れている。

 中には四人面倒見るから四票にしてくれと雄英高校に頼み込んだプロヒーロー(扇動 流拳)も居たが当然ながら却下された…。

 だから拳藤と一緒にウワバミに世話になると知った時、それほど驚く事はなかった。

 寧ろ活動内容の方が驚いたものだ。

 ウワバミはヒーロー活動は勿論だが、持ち前の美貌を買われて企業の広告塔としてCM出演依頼などを副業を受けている。

 出演している事はテレビなどで見かけていたので知ってはいたが、自分達は見る側(・・・)であり関係はないと思い込んでいた。

 パトロールや警備の手伝い、プロとしての心得や基本を教わるものとばかり思っており、まさか自分達がCM出演させられるなど露ほども思わなかった…。

 

 実はウワバミは最初からそのつもりで票を入れていたのである。

 無論彼女らの実力を見て将来有望であると判断した上で、可愛いからという理由込みで指名したのだ。

 

 「……まさかCM出演するなんて思いもしなかった…」

 「私もです。ですがこれもまた貴重な体験ですわ」

 

 苦笑いを浮かべる拳藤にポジティブに捉えようとする八百万。

 そんな二人を眺めてウワバミは微笑む。

 

 「人々を護る為に戦うだけがヒーローではないわ。それに貴女たちは容姿も良いんだから活かさないと」

 

 そう言われれも二人としては生返事を返すしかなかった。

 さすがにヴィラン事件を望むなどと不謹慎な事は思わないが、正直に言うともっとヒーローらしい活動がしたい。

 伝わって来る若者の逸る気持ちに頬が緩む。

 あの子(・・・)もこの子たちくらい素直になれればいいのに。

 

 「安心なさい。ちゃんとしたヒーロー活動にも参加してもらうから」

 「――ッ、すみません……」

 「良いのよ。顔に書いてあるぐらい解り易くて助かるわ」

 

 自分達の至らなさを指摘されている様で恥ずかしくもあり、大きく俯くもウワバミからしたら揶揄い甲斐もあって楽しいと余裕を持って受け止めている。

 現場で学生らしい甘さを出されては困るが、移動中や休憩時間は大目に見よう。

 

 「そういえば期間中にあのCM撮影もあるから、そっちの出演は頼むわね」

 「なんのCMですの?」

 「流拳さんのところの豪華客船でクルーズ企画があってその宣伝CM」

 「確かそれって扇動のお爺さん……だよね?」

 「二人からしたらあの子の方が接点があるのよね」

 

 「私は副業の都合上、流拳さんの方が多いけど」とウワバミは続ける。

 扇動家は船舶業界ではトップシェアを誇る大企業で設計から造船に販売、海上輸送やクルージングなどなど手広く熟している。

 同時にヒーロー一族である事からプロヒーローとの接点も多く、よく副業として仕事を持ってきてくれることが多いのだ。

 クルージングや旅行のCMとかならウワバミやドラグーンヒーロー“リューキュウ”にファイバーヒーロー“ベストジーニスト”、海運や造船所ではデステゴロやMt.レディ、以前にはパワーローダーも仕事を受けた事がある。

 加えてMCとしてプレゼント・マイクも仕事を受けた事があるが、それは企画立案者が指名して担当が手配したので流拳とプレゼント・マイクの接点はほぼほぼ薄かった。

 どちらもパーティで見かけるなぐらいの印象しかないのである。

 

 「ヒーローとの繋がりが強いから引退して雇って貰った人も居るのよ」

 「へぇ、そうなんですね」

 「そこの次期当主と言うのもあって、あの子を狙っているヒーローも居るのよねぇ」

 

 芦戸や葉隠ほどではないが、多少なりとも興味はある。

 それもあの扇動のとなると余計に…。

 しかし二人が知っている扇動の知り合いのヒーローと言えばMt.レディなのだが、仲が良いのは確かなのだがそういう感じはしなかった。

 というのもウワバミが言っているのは、とある山岳救助を得意とする女性ヒーローの事だ。

 本人は将来が楽しみと言う事で唾を付けておいたと言っていたが、無一から聞いた話ではどうも唾を吐きかけられたらしいが…。

 本当に困った様な顔をして話していた様子を思い出して小さく笑みを零した。

 

 「フフッ……まぁ、そういう感情抜きにしてもあの子、口は悪いけど面倒見が良いから気に入られてるのよね」

 

 口が悪いという共通認識を前に八百万も拳藤も苦笑いを浮かべるのがせいぜい。

 否定する言葉より肯定する方が先に頭に浮かぶ。

 表情から学校でもそうなのねと余計に笑ってしまった。

 釣られて二人も笑っているとそういえばと思い出す。

 

 「あの子、たまにお酒贈ってくれるのだけど趣味が良いのよねぇ」

 「「……え!?」」

 

 思い出したように呟かれた一言に二人は戸惑い困惑してしまった。

 同い年というよりは年上のようなところが見え隠れするとは言え同年代。

 まだまだ未成年で酒を嗜める歳には達していない。 

 大事にするのも気が退けるが、せめて注意しておかないといけないと強く想う真面目な八百万と拳藤にウワバミは続ける。

 

 「とは言ってもレビューか流拳さんから聞いたんだと思うのだけどね」

 

 それもそうかと失念していた事に心の中で謝る。

 ……が、実際は扇動が選んだものであり、試飲こそしていないが香りに味、舌触りは確かめている。

 前世を加えたら軽く成人年齢は超えているものの、身体は未成年と自覚しているので、口に含むまでで吐き出している。

 それは料理酒として使う酒を確かめているだけで選別の過程で良いのがあったら、もう一本を購入して酒が好きそうな知人(ウワバミ)に贈っているのだ。

 事情は知らずに三人は少しばかり談笑を楽しみ、ようやくヒーロー活動に赴くのであった。

 

 

 

 

 

 

 夕刻となって一日目の職場体験を終えた蛙吹 梅雨は一息ついた。

 始めてヒーロー活動に参加する学生にしては落ち着きがあり、物怖じしない蛙吹はアクシデントらしいアクシデントもなく、順調そのものに仕事を熟していったが緊張はしており、終わったという事で張っていた気が緩んで疲れがドッとやって来たのだ。

 そこへお世話になっている海難ヒーロー“セルキー”の事務所でサイドキックをしている“シリウス”がやって来てジュースを差し出す。

 

 「お疲れ様。初日から疲れたでしょ?」

 「ケロッ、確かに慣れない仕事で緊張もしたけれど、とても遣り甲斐はあったわ」

 「えー…あれで緊張してたの?」

 

 受け取りながら冗談めいたシリウスと一緒に笑い合う。

 彼女は同性で事務所内で一番年の近く、元々面倒見が良いので職場体験で訪れた蛙吹の面倒を見ている。

 まだ初日で会ったばかりではあるが、話し易さや彼女の性格とも合って仲良くさせてもらっていた。

 

 「楽しそうじゃねぇか」

 

 二人の笑い声に釣られてかセルキーが声を掛ける。

 海難ヒーロー“セルキー”。

 個性は見た目と同じ“ゴマフアザラシ”で、ゴマフアザラシが出来る事なら何でも熟せる。

 巡視船“沖マリナー”の船長で海難ヒーローを行うセルキーは密輸船の取り締まりなども行う為、結構危ない任務も多々受ける事と戦闘は肉弾戦メインなので身体を鍛え上げているので、ガタイも良くてかなり厳つい。

 だけど多少言葉は荒くとも面倒見の良く、仕事中も結構気に掛けてくれていたのを知っている。

 

 「どうだ?初めてのプロの現場は?」

 「えぇ、大変ではあったけれど皆優しく教えてくれて凄く助かったの。良い人ばかりで良かったわ」

 

 笑顔でセルキーを含めての蛙吹の言葉にニカリと笑い「おう!」と返事する………のではなく、身体を丸めるようにポーズを取りながら「セルキー、嬉しい」とかわい子ぶるが正直仲間内からの受けは悪い。

 セルキーはガタイの良いマッチョで厳つい成人男性。

 男女問わず可愛い子がやるならまだしもセルキーがやったところで可愛らしく見えないというのが大多数であり、蛙吹のように〝可愛い”と思うのは少数派なのである。

 可愛くないですよとシリウスに毎度のツッコミを受け、コホンと咳払いしてセルキーは真面目そうに蛙吹に向く。

 

 「今日は何もなかったが期間中に何が起こるか解かったもんじゃない。気を抜くなよフロッピー(・・・・・)

 

 今日大丈夫だったからと言って明日大丈夫な保証はない。

 当たり前と言えば当たり前の事なのだが、そりゃあそうだと思っているだけ(・・)の者と、肌身で実感して噛み締めてきた者とでは言葉の重みに雲泥の差があった。

 「はい!」と返事をした蛙吹にならば良しとセルキーはニカっと笑う。

 

 「良し、なら飯に行くか。フロッピーの職場体験初日って事で俺が奢ってやる!」

 

 嬉しい話に純粋に喜ぶ。

 これも蛙吹の性格や熱心な姿勢が気に入られたからである。

 勿論驕りには他の仲間も含まれる為に、シリアスは少しばかり心配そうに見つめる。

 

 「良いんですか?この面子で驕りとナルトかなりしますよ」

 「男に二言はねぇ!フロッピーも気にせず楽しめよ」

 

 そういうと早速店に向かう為に車へと乗り込んでいく。

 移動中の車内では当たり前のように蛙吹の話題で盛り上がり、話題の中心となっている蛙吹も楽しそうに答えて行く。

 そんな中でセルキー達と蛙吹の共有の知人である扇動の名が出るのは当然の流れだったろう。

 

 「そういやぁ最近あえてねぇが扇動の坊主は元気にしてるか?」

 「扇動ちゃんと知り合いなのね」

 「「「扇動……ちゃん?」」」

 

 多くのプロと繋がりがある事は知っていたので、セルキーとも知り合いだったなんて軽く返したが、急に静まり返る車内に蛙吹は戸惑う。

 どうしたのだろうかと首を傾げていると車内は突然の爆笑に包まれた。

 セルキーどころか全員素の(・・)扇動を知っており、アレを“ちゃん”付けで呼んだことがツボに嵌ったらしい。

 腹を抱えて笑う者から笑い過ぎて涙を流す者まで反応は様々。

 

 「あ~、ごめんねフロッピー。けど可笑しくって」

 「全員知り合いなのね」

 「おう!丘は兎も角としても海や川など水関係でヒーローやっている奴で扇動家を知らねぇ奴はまず居ねぇよ。特に俺の所の海の男達はな!」

 「船長……ここに女子が居るんですけど?」

 「おっと、いけね。忘れてた」

 「船長!!」

 

 二人のやり取りに再びドッと笑いが起こる。

 もう!っと膨れっ面だったシリウスはため息を一つ漏らすと表情を変え、笑顔で蛙吹へと振り向いた。

 

 「でもヒーロー問わずに海関係だと知らない人はいないと思う。うちで使っている船舶だって扇動家の所に注文した船だし」

 「扇動家ってのは多くの水難(・・)ヒーローを輩出してきた家系だからな」

 「ケロッ!?それは初耳ね」

 

 驚く蛙吹に対して「あ…またか」と呆れながら口にする。

 

 「アイツ……秘密主義って訳ではないんだろうが、自分語りが下手糞なんだよなぁ。そこんとこは相変わらずか。口にしたついでに教えといてやるよ」

 「えぇ、お願いするわ」

 「扇動家ってのは昔は船頭をしていたらしくな。海や川で働いていた知識と個性(・・)も合って水難ヒーローとして活躍してたんだよ。寧ろアイツの爺さんのように丘で戦っている奴の方が少ないんじゃなかったか…」

 「私、聞いたことあるよ。確か個性発現し始めた頃に個性を使って自警団のような事を始めた人に父親入れても、扇動家の直系では五人も居ないんだって」

 「ほらな、付き合いは俺の方が長いってのに知らねぇことがあるんだ。もう少し自分語りをすべきだと思うんだよ」

 

 確かにアドバイスなどは多いけど自分自身の事を語る事は少ない。

 知らない話に目を丸くして聞いている蛙吹に、シリウスは若干声のトーンを落とす。

 

 「でも話したくないのも解るなぁ。ほら去年の……」

 「――ッ、シリウス!」

 「あ…ごめんなさい」

 

 にこやかだったというのに突然セルキーが怒鳴り声を上げた。

 声色から余計な事を言うなというのははっきりと伝わる、シリウスもしまったとばつが悪そうな顔をして俯いてしまった。

 不味い話題なのだろうと察しはしたが、逆に途中で止められたがゆえに気にはなってしまう。

 多分そうなのだろうと思ったセルキーは頭を掻く。

 

 「本人に聞かれた方が厄介か。途中まで口にされたら気になって仕方ねぇだろ。教えてやるが俺達が喋ったってのは内緒にしてくれな」

 「わ、分かったわ…」

 

 重々しい空気にゴクリと生唾を呑み、間を空けるセルキーの言葉を待つ。

 

 「一年ちょい前だったか。あの坊主が中二の時に事件があってな。当時の中三の女子生徒が卒業式に男子生徒を負傷させたってニュースを覚えてないか?」

 「…あるわ。確か犯人は捕まらなかったのよね」

 「その事件でアイツは負傷した男子生徒を助けようと応急処置や周囲へ的確な指示を飛ばしたんだ。おかげでその生徒は命にも別状はなかった」

 「それで表彰されたのだけど、私達がその事件の話をしたら“俺は救えなかった(・・・・・・)”って辛そうな顔をしたのよ」

 「救えなかった?」

 「どういう意味なのかは解らねぇ。というかあの顔を見た後では聞くに聞けねぇ。他にもアイツは平気そうな顔はしているが、色々な過去(・・・・・)を背負ってやがる。誰にでも振られたくねぇもんがある。気になるとは思うが触れないでやってくれるか?」

 「えぇ、もちろんよ」

 「…良し、重たい話はここまでだ。気分変えて飲んで食って楽しむぞ!」

 

 ちょっとばかりしんみりした空気を入れ替えるようにセルキーがテンションを変え、店に到着した車から降りたって店内へと入って行く。

 セルキーの言われた通りに学校では触れないように気を付けようと思い、今はセルキーやシリウス達と楽しい一時を過ごすのであった。

 

 

 

 

 

 ●ちょっとした一幕:峰田の不幸…

 

 職場体験を始めて数日。

 峰田 実は夜中だというのに悔し涙を流しながら携帯電話を手にしていた。

 

 彼が職場体験先に選んだのはMt.レディ。

 選んだ理由としてはヒーローとして…なんて事はなく、容姿の良い女性ヒーローで一週間も一緒に居れば予期せぬ出来事(ラッキースケベ)も期待できるかも知れないという不純な動機に他ならなかった…。

 しかしそこはある意味でMt.レディの方が上手であり、彼女は若手の育成の為に受け入れたのではなくちょっとした小間使い(・・・・)が居たら楽だな程度で受け入れたのである。

 ゆえにMt.レディがヴィラン事件に駆け付ける意外はソファに寝っ転がってお菓子を食べたり雑誌を読むばかり。

 よって峰田の仕事はMt.レディが食べ零した食べかすなどを掃除するか、「アレ、買って来て」と言われて買いに行かされたり…。

 こんなのただのパシリじゃあねぇか!!

 プロヒーロー事務所への職場体験の意味がない。

 勿論峰田としては本心を隠し、ヒーロー活動としてどうなんだと建前で抗議したさ。

 けれども「ヒーロー活動とは暇な時間を如何にやり過ごすかが重要」と寝転がったまま雑誌片手にポテチを食べながら告げられて話は終わってしまった…。

 

 諦めきれずに事務所の経理も熟すMt.レディのサイドキック(相棒)に抗議するも「ヒーローが活動しなくて済むというのは平和であるという証拠なんだよ」と諭すように言われてしまい、Mt.レディとは違った説得力で納得してしまいそれ以上は言えなかった。

 …ただそれだけで終わらず遠い目をしたサイドキックは「私、父親になるんだ」と家族写真を見せて来た。

 同時にデスク上の桁がおかしい被害報告書と赤字が目立つ事務所の経理書類、引き出しの隙間から覗く“遺書”と書かれた封筒と保険関係の資料。

 あの事務所、闇が深ぇ…。

 

 講義は諦めたが期待を裏切られた(邪で勝手な期待)感は大きく、電話で尾白などに愚痴を零そうとした。

 それがいけなかったのだろう。

 忙しくて携帯電話を充電する暇もなく、悔しさで泣きながら公衆電話から掛けたると途中で小銭が切れて、愚痴を零す事すら出来なかった。

 コンビニで充電器を買ってようやく充電を終えた時、上鳴からメールが届いていたのだ。

 なんでそうなったかは解らないがオイラがプロヒーローに襲い掛かった(・・・・・・)という内容だった。

 

 経緯としては泣くだけ泣いて電話が切れた峰田を心配した尾白が瀬呂や上鳴に相談したところ、話があちらこちらと流れて誤解と想像が合わさりそういう誤情報が出来上がってしまったという訳だ。

 

 しかも上鳴のメールはA組男子に一斉送信されたようで、不名誉な誤解を解くために峰田は必死になっている訳である…。

 何故こんなことになってしまったのかと涙を流しながら番号を入力する。

 一番に誤解を解くべき相手は真面目な連中。

 緑谷とか飯田とかは洒落にならん事態に発展する可能性が高い。

 特に飯田なんかは信じて自首を進めて来るかも知れない。

 

 後、扇動にも早めに連絡入れておかないと。

 万が一にもMt.レディに確認を取られた際にはなんて言われる事か…。

 頼む早く出てくれと祈りながら扇動の番号にかけるとすぐに出たのでまずは安心し、向こうが喋るよりも早く訂正を口にする。

 

 「扇動!!伝わっていると思うが真っ赤な出鱈目だからな!!信じるんじゃあねぇぞ!!」

 「……あ?いきなりなんの話だ」

 

 どうやら扇動には話が届いていなかったらしく大きく安堵する。

 事のきっかけを話し、上鳴からのメールを確認した扇動は「そうか…」と呟きため息を零した。

 

 「とりあえず了解した。俺から誤解を訂正するメールを一斉送信しといてやる。A組男子だけで良いんだな?」

 「助かる!」

 

 自分がどれだけ訂正しようと事が事だけに信じてもらえるか解らない。

 …いや、多分口では「分かった」と言ってくれても信じてない、または疑いを抱いたままの奴が多いだろう。

 その点、第三者で信頼・信用のある扇動なら安心だ。

 ただ「日頃の行いを検めろ」とは言われてしまったが…。

 

 「何があったか知らんが話ぐらいなら聞いてやるぞ」

 「良いのか?結構遅い時間だけど」

 「構わん。すでにA組どころかB組、顔見知りの受け入れ先から毎日のように電話を受けているからな」

 「マジか!?」

 「多い日は一晩で20人超えたからな」

 「結構エグイなそれ……」

 

 A組だけでも20人に加えてB組の何人かと受け入れた顔見知りのプロヒーローとなればざっと四十を超え、扇動もまさかそんなに電話が来るとは思っておらず、一人ずつ話を済ませては着信順にかけ直し、途中途中「これ担任が受ける事では?」と疑問を抱かない事もなかったが、それだけ頼りにされているという証として受け続けて今に至る。

 ちなみに峰田は気付いていないがクラス丸々という事なので爆豪も含まれており、クレームのような怒声の電話も聞いていたのである。

 

 兎に角、峰田としては愚痴を聞いて貰えるだけで気分は晴れる。

 なんだかんだと話を聞いてもらって落ち着く事は出来た。

 

 「すまねぇ、愚痴を聞いてもらって…」

 「構わねぇよ。そうだ。職場体験終わったら皆で遊びに行こう。それを糧に頑張れや」

 「扇動ぉ~、お前良い奴だな。オイラ、お前の家であんな事してたのに…」

 「………気にしてねぇよ。じゃあ、またな」

 

 そう言って扇動は電話を切った。

 いくらかスッキリしたところで明日も早いんだから寝ようとした峰田に一件のメールが届く。

 送り主は扇動 無一。

 【これを見て元気出せ】という一文と共に一枚の画像が添付されていた。

 

 もしかしてと期待を込めて画像を開く。

 だがそれは峰田が思っているような画像の類ではなく、あとで緑谷に自慢してやろう(送ってやろう)と日中に「友達に貴女と組んだと伝えたいので写真撮っても良いですか?」と許可を訪ね、二つ返事と共に肩を抱き寄せられて横並びに写っている扇動とバーニンの写真。

 それも抱き寄せられた勢いで当たっているような(・・・・・・・・・)…。

 

 「扇動の奴~~~~!!!」

 

 扇動が言っていたように峰田は元気を得た。

 それも“怒りのスーパーモード(機動武闘伝Gガンダム)”で全身が金色に輝き、髪が逆立って(ドラゴンボール)戦闘力53万の敵キャラを倒せそうなほどに…。

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